超楕円曲線

同義語:hyperelliptic curve

概要

超楕円曲線(hyperelliptic curve)とは、体の上の滑らかで固有で幾何学的に連結な種数 $g\ge2$ の曲線で、射影直線への次数 $2$ の分離的な有限射をもつものである。標数が $2$ でなければ、重根のない次数 $2g+1$ か $2g+2$ の多項式 $f$ により $y^2=f(x)$ の 2 枚のアフィン曲線を貼り合わせた形に書ける。種数は Čech コホモロジーの直接計算で $g$ と分かり、正則微分形式は $x^i\,dx/y$($0\le i\le g-1$)を基底にもつので、標準写像は $x$ を経由して 2 対 1 になる。分岐点は $2g+2$ 個で超楕円対合の固定点に一致し、有限体上の点の個数は平方剰余の指標の和で書ける。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 代数曲線, 種数, 射影直線, Kähler微分, Čechコホモロジー

方程式 $y^2=f(x)$ で与えられる曲線は、$x$ を決めると $y$ が $\pm\sqrt{f(x)}$ の 2 通りに決まるので、射影直線の「2 重の被覆」になっている。$f$ が重根をもたない次数 $3$ か $4$ の多項式なら種数 $1$ の曲線(次数 $3$ なら無限遠の有理点を基点とする楕円曲線)になり、次数 $2g+1$ か $2g+2$ なら種数 $g$ の曲線になる。種数が $2$ 以上でこの形に書ける曲線を 超楕円曲線 という。種数 $2$ の曲線はすべて超楕円曲線であり、超楕円曲線は高い種数の曲線のうちでもっとも具体的に計算できる族として、Jacobi多様体、Hasse不変量、Monsky–Washnitzerコホモロジーによる点の数え上げなどの例に使われる。
この記事では、$y^2=f(x)$ のアフィン曲線 2 枚を貼り合わせて滑らかな固有曲線を作り、その種数が $g$ であることを、Čechコホモロジーと微分形式の両方で直接計算して示す。正則な微分形式の基底は $x^i\,dx/y$($0\le i\le g-1$)であり、とくに「標準写像」が $x$ を経由して 2 対 1 になることが分かる。また標数が $2$ でなければ、すべての超楕円曲線がこの形に書けることを示す。

定義

以下、$k$ は体で、その標数は $2$ でないとする(標数 $2$ の場合はrem-hc-char2)。$k$ 上の曲線とは 代数曲線 の記事の意味の曲線($k$ 上有限型で分離的な 1 次元の整スキーム)をいう。多項式 $f\in k[x]$ が 分離的 であるとは、$f$ と導関数 $f'$ が $k[x]$ で互いに素であること、すなわち $f$ が $k$ の代数閉包 $\bar k$ の中に重根をもたないことをいう。

$y^2=f(x)$ の滑らかなモデル

$f\in k[x]$ を次数 $d\ge1$ の分離的な多項式とし、$g:=\lceil d/2\rceil-1$(すなわち $d=2g+1$ または $d=2g+2$)、$F(u):=u^{2g+2}f(1/u)\in k[u]$ とおく。アフィン曲線
$$ U:=\operatorname{Spec}k[x,y]/(y^2-f(x)),\qquad V:=\operatorname{Spec}k[u,w]/(w^2-F(u)) $$
を、開集合 $\{x\ne0\}\subset U$ と $\{u\ne0\}\subset V$ の上で
$$ u=\frac1x,\qquad w=\frac{y}{x^{g+1}} $$
により貼り合わせた $k$ スキームを $X_f$ と書く。$x$ と $u$ は貼り合って射 $x\colon X_f\to\mathbb{P}^1_k$ を定める。

貼り合わせが矛盾しないことは $F(1/x)=x^{-(2g+2)}f(x)$ から $w^2=y^2/x^{2g+2}=F(u)$ となることによる。$f(x)=c\prod_{i=1}^{d}(x-a_i)$($a_i\in\bar k$ は相異なる)と書くと、$d=2g+2$ なら $F(u)=c\prod_i(1-a_iu)$、$d=2g+1$ なら $F(u)=c\,u\prod_i(1-a_iu)$ であり、どちらの場合も $F$ は分離的である。$d$ が偶数なら無限遠($u=0$)の上に $w=\pm\sqrt{F(0)}$ の 2 点があり、$d$ が奇数なら $w=0$ の 1 点だけがある。

超楕円曲線

$k$ 上の滑らかで固有で幾何学的に連結な曲線 $X$ で、種数 $g:=\dim_kH^1(X,\mathcal{O}_X)$ が $2$ 以上であり、次数 $2$ の分離的な有限射 $X\to\mathbb{P}^1_k$ をもつものを 超楕円曲線(hyperelliptic curve)という。$X$ の関数体の自己同型のうち、$k(x)$ を固定する位数 $2$ のものが定める $X$ の自己同型を 超楕円対合 という。

文献によっては種数 $1$ の場合(楕円曲線)を含め、また射影直線の代わりに滑らかな 2 次曲線への 2 次の射を許す(Liu06 Definition 7.4.7、p. 287。同書は $g\ge1$ を含める)。この記事は種数 $2$ 以上に限る。

直感

複素数体の上では、$X_f$ の複素点は 2 枚の Riemann 球面を、$f$ の根(と $d$ が奇数なら $\infty$)を結ぶ $g+1$ 本の切れ目に沿って貼り合わせた曲面になる。分岐点は $2g+2$ 個で、Riemann–Hurwitzの公式 の $2g_X-2=2(2\cdot0-2)+(2g+2)$ から種数 $g$ が読み取れる(同記事の例「超楕円二重被覆」)。代数的には、$y^2=f(x)$ の座標環が $k[x]$ 上 $1,y$ を基底とする自由加群であることが計算のすべての出発点である。関数はどれも $a(x)+b(x)y$ と書け、無限遠での振る舞いは $w=y/x^{g+1}$ で測る。$H^1(X,\mathcal{O}_X)$ は「$U$ の上でも $V$ の上でも正則にならない $y$ の倍数」の個数 $g$ を数え、正則な微分形式は「$x$ の $g-1$ 次以下の多項式」$\times\,dx/y$ だけになる。

滑らかなモデルとその種数

def-hc-model の記号で、$\omega_0:=dx/y$ とおく。$\{y\ne0\}$ の上では $\omega_0=dx/y$、$\{f'(x)\ne0\}$ の上では $\omega_0=2\,dy/f'(x)$ と定める($y^2=f$ を微分した $2y\,dy=f'(x)\,dx$ により両者は重なりで一致する)。

$y^2=f(x)$ の滑らかなモデル

$f\in k[x]$ を次数 $d\ge1$ の分離的な多項式、$g=\lceil d/2\rceil-1$ とする。

  1. $X_f$ は $k$ 上の滑らかで固有な曲線で、幾何学的に整である。$x\colon X_f\to\mathbb{P}^1_k$ は次数 $2$ の有限射であり、$U$、$V$ の座標環はそれぞれ $k[x]$、$k[u]$ 上 $1,y$ と $1,w$ を基底とする自由加群である。
  2. $H^0(X_f,\mathcal{O})=k$ であり、$H^1(X_f,\mathcal{O})$ は $x^{-1}y,\dots,x^{-g}y$ の類を基底とする $g$ 次元の空間である。
  3. $\Omega^1_{X_f/k}$ は $U$ 上で $\omega_0$、$V$ 上で $\eta_0:=du/w$ を基底とする自由加群で、$\eta_0=-x^{g-1}\omega_0$ である。大域的な正則微分形式の空間 $H^0(X_f,\Omega^1)$ は
    $$ \omega_0,\ x\,\omega_0,\ \dots,\ x^{g-1}\omega_0 $$
    を基底とする $g$ 次元の空間である。
    とくに $g\ge2$ なら $X_f$ は種数 $g$ の超楕円曲線である。

要点:$U$ は $\{y\ne0\}$ と $\{f'\ne0\}$ で覆われ($f$ と $f'$ が互いに素なので)、それぞれの上で標準滑らかである。$x$ は自由な有限射なので $X_f$ は固有である。2 は被覆 $\{U,V\}$ の Čech 複体を、3 は $\omega_0$ と $\eta_0$ の関係を、$k[x^{\pm1}]$ の単項式で比べる計算である。

詳しい証明を開く

1(座標環と整性):$y^2-f$ は $y$ についてモニックなので、$k[x,y]/(y^2-f)=k[x]\oplus k[x]\,y$ は自由 $k[x]$ 加群である。$f$ は単根をもつので $\bar k(x)$ の平方でなく、$y^2-f$ は $\bar k(x)[y]$ で既約であり、$\bar k[x]\oplus\bar k[x]y$ は 2 次拡大体 $\bar k(x)(\sqrt f)$ の部分環として整域である。よって $U$ は幾何学的に整である。$F$ も分離的なので $V$ についても同じである。$U\cap V$ は $U$ と $V$ の空でない開集合で、$X_f$ は既約な $U$ と $V$ を稠密な共通部分で貼ったものなので幾何学的に整である。

1(滑らかさ):$af+bf'=1$ となる $a,b\in k[x]$ をとると $a\,y^2+b\,f'=1$ なので、$U$ は $\{y\ne0\}$ と $\{f'(x)\ne0\}$ で覆われる。前者は $k[x,y,t]/(y^2-f,\ ty-1)$ で、$(y,t)$ についての Jacobi 行列式 $2y^2$ は単元、後者は $k[x,y,t]/(y^2-f,\ tf'(x)-1)$ で、$(x,t)$ についての Jacobi 行列式 $-f'(x)^2$ は単元である。よってどちらも相対次元 $1$ の標準滑らかな $k$ 代数であり(滑らかな射 の記事の定義「Jacobi判定法による定義」)、$U$ は滑らかである。$V$ も同様である。

1(有限性と固有性):$x$ による $\mathbb{P}^1_k=\operatorname{Spec}k[x]\cup\operatorname{Spec}k[u]$ の各開集合の逆像は $U$、$V$ で、座標環は階数 $2$ の自由加群である。$\{x\ne0\}$ の逆像も $U\cap V$ に一致する($V$ の側で $u\ne0$)。よって $x$ は次数 $2$ の有限射であり、固有射 の記事の命題「有限射の固有性」と定理「射影射の固有性」、合成で閉じること(同記事の定理「合成・底変換・積で閉じること」)により、$X_f$ は $k$ 上固有(とくに分離的)である。

2:$X_f$ は分離的で $U,V$ はアフィンなので、$U\cap V$ もアフィンであり、その座標環は $k[x^{\pm1}]\oplus k[x^{\pm1}]\,y$ である。準連接層のアフィン開被覆による Čech コホモロジーは層のコホモロジーに一致する(Har77 Chapter III, Theorem 4.5、p. 222)。$y=x^{g+1}w$ なので、$U\cap V$ の座標環の中で$$\mathcal{O}(U)=k[x]\oplus k[x]\,y,\qquad \mathcal{O}(V)=k[x^{-1}]\oplus x^{-(g+1)}k[x^{-1}]\,y$$である。$H^0=\mathcal{O}(U)\cap\mathcal{O}(V)$ の $1$ の成分は $k[x]\cap k[x^{-1}]=k$、$y$ の成分は $k[x]\cap x^{-(g+1)}k[x^{-1}]=0$ なので、$H^0=k$ である。$H^1=\mathcal{O}(U\cap V)/(\mathcal{O}(U)+\mathcal{O}(V))$ の $1$ の成分は $k[x^{\pm1}]/(k[x]+k[x^{-1}])=0$、$y$ の成分は $k[x^{\pm1}]$ を $x^{j}$($j\ge0$)と $x^{j}$($j\le-(g+1)$)で割ったもので、$x^{-1},\dots,x^{-g}$ の類が基底である。

3:$\Omega^1_{U/k}$ は $dx,dy$ で生成され、$dx=y\,\omega_0$、$dy=\tfrac12f'(x)\,\omega_0$ である。逆に $\omega_0=a\,y\,dx+2b\,dy$($ay^2+bf'=1$ を使う)なので、$\Omega^1_{U/k}$ は $\omega_0$ で生成される。$\{y\ne0\}$ の上では標準滑らかな表示から $dx$ が基底であり(滑らかな射 の記事の命題「相対微分の層の局所自由性」)、$\omega_0=dx/y$ も基底である。$\{f'\ne0\}$ の上でも同様に $dy$ と $\omega_0$ が基底になるので、$\omega_0$ は $U$ 上の基底である。$V$ 上の $\eta_0$ も同じである。$du=-x^{-2}dx$、$w=yx^{-(g+1)}$ から $\eta_0=-x^{g-1}\omega_0$ である。

大域的な微分形式は $U$ 上で $h\,\omega_0$($h=a(x)+b(x)y\in\mathcal{O}(U)$)と書け、$V$ 上では $\omega_0=-u^{g-1}\eta_0$、$y=u^{-(g+1)}w$ により$$h\,\omega_0=-\bigl(a(1/u)\,u^{g-1}+b(1/u)\,u^{-2}\,w\bigr)\eta_0$$である。これが $V$ 上で正則であるのは括弧の中が $\mathcal{O}(V)=k[u]\oplus k[u]w$ に入るとき、すなわち $\deg a\le g-1$ かつ $b=0$ のときに限る。よって $H^0(X_f,\Omega^1)$ は $x^i\omega_0$($0\le i\le g-1$)を基底とする。

$H^0(X_f\otimes_k\bar k,\mathcal{O})=\bar k$ も同じ計算で得られるので $X_f$ は幾何学的に連結であり、$g\ge2$ なら def-hc-main の条件をすべて満たす($x$ は $k(x)$ の 2 次分離拡大 $k(x)(y)$ に対応するので分離的である)。$\square$

2 と 3 はどちらも $g$ 次元であり、Serre 双対性(Serre双対性)が予言する $\dim H^1(X,\mathcal{O})=\dim H^0(X,\Omega^1)$ を、この場合には両辺を別々に計算して確かめたことになる。

超楕円曲線の標準形

超楕円曲線の標準形

$X$ を $k$ 上の種数 $g\ge2$ の超楕円曲線、$\pi\colon X\to\mathbb{P}^1_k$ を次数 $2$ の分離的な有限射とし、$x$ を $\mathbb{P}^1_k$ の座標とする。このとき次数 $2g+1$ または $2g+2$ の分離的な多項式 $f\in k[x]$ があり、$\mathbb{P}^1_k$ 上の同型 $X\cong X_f$ が存在する。

要点:関数体は $k(x)$ の 2 次拡大なので $k(x)(\sqrt f)$($f$ は平方因子のない多項式)と書ける。有限射 $\pi$ の上で $X$ は $k[x]$ と $k[u]$ の整閉包の Spec を貼ったものであり、$y^2=f$ の座標環は既に整閉である。種数は thm-hc-model から $d$ で決まる。

詳しい証明を開く

$K:=K(X)$ は $k(x)$ の 2 次拡大で、標数が $2$ でないので平方完成により $K=k(x)(y_0)$、$y_0^2=r\in k(x)$ と書ける。$r=h_1/h_2$($h_i\in k[x]$)とし、$y_0h_2$ に取り替えて $r\in k[x]$ とし、さらに $r=s^2f$($f$ は平方因子をもたない多項式)と分けて $y:=y_0/s$ とおけば $y^2=f$ である。$f=c$ が定数なら、$c$ は $k$ の平方でなく(平方なら $y\in k(x)$ となり 2 次拡大に反する)、$y$ は $k[x]$ 上と $k[1/x]$ 上の両方で整なので、下の段落と同じ理由で $X$ 全体の上の正則関数になる。$\bar k$ に上げると $y^2=c$ から $X_{\bar k}$ は $y=\sqrt c$ と $y=-\sqrt c$ の 2 つの開かつ閉な部分に分かれ、幾何学的連結性に反する。よって $d:=\deg f\ge1$ である。

$\pi$ は有限なので $\pi^{-1}(\operatorname{Spec}k[x])=\operatorname{Spec}C$ で、$C$ は $k[x]$ 上有限な整域で、$X$ が滑らかなので局所環が正則、とくに整閉であり、商体は $K$ である。$C$ は $k[x]$ 上整でかつ整閉なので、$C$ は $K$ における $k[x]$ の整閉包に等しい。一方 $R:=k[x]\oplus k[x]y$ も整閉である:$z=a+by$($a,b\in k(x)$)が整なら、トレース $2a$ とノルム $a^2-b^2f$ が $k[x]$ に入り(整閉な $k[x]$ 上の整な元の最小多項式の係数)、標数が $2$ でないので $a\in k[x]$、$b^2f\in k[x]$ となる。$b=c/e$(互いに素)なら $e^2\mid f$ で、$f$ に平方因子がないので $e$ は定数、$b\in k[x]$ である。よって $C=R$ であり、$\pi^{-1}(\mathbb{A}^1)\cong U$ である。$U$ は滑らかなので $f$ は分離的である($\bar k$ で $f(a)=f'(a)=0$ なら、点 $(a,0)$ で $y^2-f$ の 2 つの偏微分がともに消え、代数曲線 の記事の定理「Jacobi の判定法(平面曲線)」により $\bar k$ に上げた曲線がそこで特異になる)。

$g':=\lceil d/2\rceil-1$、$w:=y/x^{g'+1}$ とおくと $w^2=F(u)$ で、$F$ も分離的なので同じ議論から $\pi^{-1}(\operatorname{Spec}k[u])\cong V$ である。両者の貼り合わせは関数体の中の等式 $u=1/x$、$w=y/x^{g'+1}$ そのものなので $X\cong X_f$ である。thm-hc-model の 2 により $X_f$ の種数は $g'$ なので $g'=g$、すなわち $d\in\{2g+1,2g+2\}$ である。$\square$

$f$ は一意ではなく、$\mathrm{GL}_2(k)$ の 1 次分数変換 $x\mapsto(\alpha x+\beta)/(\gamma x+\delta)$ と $y$ のスカラー倍で取り替えられる。その取り替えの正確な規則は Liu06 Corollary 7.4.33(p. 296)にある。$k$ が代数閉体なら、$f$ の根と($d$ が奇数なら)$\infty$ の $2g+2$ 点の配置が $X$ を決める。

超楕円対合と正則微分形式

超楕円対合とその固定点

$X=X_f$ とし、$\iota$ を $U$ 上で $(x,y)\mapsto(x,-y)$、$V$ 上で $(u,w)\mapsto(u,-w)$ で定まる自己同型とする。

  1. $\iota$ は $\mathbb{P}^1_k$ 上の位数 $2$ の自己同型で、$\bar k$ 上の点のうち $\iota$ の固定点は、$f$ の $d$ 個の根の上の点 $(a,0)$ と、$d$ が奇数のときの無限遠の 1 点であり、ちょうど $2g+2$ 個ある。これは $x$ の分岐点の全体と一致する。
  2. $\iota$ は $H^0(X,\Omega^1)$ に $-1$ 倍で作用する。
  3. 任意の 2 つの正則微分形式 $\omega_1,\omega_2\ne0$ の比 $\omega_1/\omega_2$ は $k(x)$ に属する。

1:$U$ 上の $\bar k$ 点 $(a,b)$ が固定されるのは $b=-b$、すなわち $b=0$、$f(a)=0$ のときである。無限遠($u=0$)の上の点は $w^2=F(0)$ を満たし、$d=2g+2$ なら $F(0)\ne0$ で 2 点 $w=\pm\sqrt{F(0)}$ が入れ替わり、$d=2g+1$ なら $F(0)=0$ で 1 点 $w=0$ が固定される。固定点の数は $d=2g+2$ なら $2g+2$、$d=2g+1$ なら $2g+1+1$ である。$x$ のファイバーは $\iota$ の軌道 $\{P,\iota P\}$ なので、1 点になるのは固定点の上に限る。2:$\iota^*\omega_0=dx/(-y)=-\omega_0$ であり、$x$ は $\iota$ で不変なので thm-hc-model の基底 $x^i\omega_0$ はすべて $-1$ 倍される。3:基底の形から $\omega_j=a_j(x)\,\omega_0$($a_j\in k[x]$)なので、比は $a_1/a_2\in k(x)$ である。$\square$

3 は、正則微分形式の比で定まる写像 $X\to\mathbb{P}^{g-1}$(標準写像)が $x\colon X\to\mathbb{P}^1$ を経由することを意味する。実際 $[\omega_0:x\omega_0:\cdots:x^{g-1}\omega_0]=[1:x:\cdots:x^{g-1}]$ であり、$P$ と $\iota(P)$ は同じ点に写る。したがって $g\ge2$ の超楕円曲線では標準写像は閉埋め込みにならない。逆に種数 $2$ 以上の曲線の標準写像が閉埋め込みでないのは、($\bar k$ に上げて)超楕円曲線であるときに限る(Liu06 Proposition 7.4.12、p. 288。この記事では証明しない)。また種数 $2$ の滑らかで射影的で幾何学的に連結な曲線はすべて超楕円曲線である(同 Proposition 7.4.9、p. 288。この記事では証明しない)。

有限体上の点の個数

有理点の個数

$k=\mathbb{F}_q$($q$ は奇数)とし、$\chi\colon\mathbb{F}_q\to\{0,\pm1\}$ を $\chi(0)=0$、$0$ でない平方で $1$、平方でない元で $-1$ をとる関数(Legendre記号 の有限体版)とする。$f$ の最高次の係数を $c$ とすると、
$$ \#X_f(\mathbb{F}_q)=q+\sum_{a\in\mathbb{F}_q}\chi\bigl(f(a)\bigr)+\begin{cases}1&(d\text{ が奇数}),\\1+\chi(c)&(d\text{ が偶数})\end{cases} $$
である。

$\mathbb{F}_q$ 有理点は $U$ の有理点と、$V$ のうち $u=0$ の有理点に分かれる。$a\in\mathbb{F}_q$ を固定すると、$b^2=f(a)$ を満たす $b\in\mathbb{F}_q$ の個数は $1+\chi(f(a))$ である($\mathbb{F}_q^\times$ の平方の元はちょうど 2 つの平方根をもつ。$q$ が奇数なので $b\ne-b$)。これを $a$ について足すと第 1 項と第 2 項になる。$u=0$ の上では $w^2=F(0)$ であり、$d$ が奇数なら $F(0)=0$ で $w=0$ の 1 点、偶数なら $F(0)=c$ で $1+\chi(c)$ 点である。$\square$

$\chi(f(a))$ の和は $f(a)$ が平方になる頻度の偏りを測る。種数 $g$ の滑らかで射影的で幾何学的に連結な曲線 $X$ については $\lvert\#X(\mathbb{F}_q)-(q+1)\rvert\le2g\sqrt q$ が成り立ち(Weil予想 の記事の定理「有理性・関数等式・Riemann 予想の類似・Betti 数」の 3 と命題「Riemann 予想の部分と点の数の評価」。この記事では証明しない)、上の公式と合わせると $\bigl\lvert\sum_a\chi(f(a))\bigr\rvert\le2g\sqrt q+1$ を得る。$q$ を大きくしたときの点の個数の分布は合同ゼータ関数が記述し、超楕円曲線はその計算の標準的な例である。

例

$y^2=x^5-x$

$k$ の標数が $2$ でないとし、$f=x^5-x=x(x^4-1)$ とする。$f'=5x^4-1$ で、$f(a)=f'(a)=0$ なら $a=0$($f'(0)=-1\ne0$ に反する)か $a^4=1$($f'(a)=4\ne0$ に反する。標数 $2$ でないので)なので、$f$ は分離的である。$d=5$ より $g=2$ で、thm-hc-model により $X_f$ は種数 $2$ の超楕円曲線であり、$H^0(X,\Omega^1)$ の基底は $dx/y$、$x\,dx/y$ である。分岐点は $x=0,\pm1,\pm\sqrt{-1}$ と $\infty$ の 6 点である。
$k=\mathbb{F}_3$ では $\mathbb{F}_3$ のどの元も $a^3=a$ なので $a^5=a$ であり、$f$ は $\mathbb{F}_3$ 上で恒等的に $0$ の値をとる。よって $\mathbb{F}_3$ 有理点は $(0,0)$、$(1,0)$、$(2,0)$ と無限遠の 1 点の計 4 点で、どれも超楕円対合の固定点である。残りの 2 つの分岐点 $x=\pm\sqrt{-1}$ は $\mathbb{F}_9$ 上の点である。

$d\le4$ の場合

$d=3$ または $4$ なら $g=1$ である。$d=3$ なら無限遠の有理点を基点として $X_f$ は楕円曲線であり、$d=4$ でも $X_f$ が有理点をもてば楕円曲線である。たとえば Legendre 形 $y^2=x(x-1)(x-\lambda)$($\lambda\ne0,1$)では、$H^0(X,\Omega^1)$ は $dx/y$ で張られる 1 次元の空間である。$d=1$ または $2$ なら $g=0$ で $H^0(X,\Omega^1)=0$ である。$d=1$、$f=x$ のときは $x=y^2$ により $U\cong\mathbb{A}^1$ で、$X_f\cong\mathbb{P}^1_k$ である。これらは種数が $2$ 未満なので、この記事の定義では超楕円曲線に含めない。

条件を外した反例

thm-hc-model の仮定を 1 つずつ外すと、結論が成り立たなくなる。

外す条件反例成り立たなくなること
$f$ が分離的$y^2=x^2(x^3-1)$(標数 $2,3$ 以外)原点で特異になり、滑らかなモデルの種数は $d=5$ から決まる $2$ でなく $1$
標数が $2$ でない標数 $2$ の $y^2=x^5+1$$x$ が分離的でなく、点 $(0,1)$ で特異
$d\ge1$$k=\mathbb{R}$、$y^2=-1$$H^0(X,\mathcal{O})=\mathbb{C}$ で、幾何学的に連結でない
反例:表の各行の確かめ

各行はほかの仮定を満たしている。

確かめを開く

1 行目:$f(0)=f'(0)=0$ なので、原点で $y^2-f$ の偏微分 $2y$、$-f'(x)$ がともに消え、代数曲線 の記事の定理「Jacobi の判定法(平面曲線)」により特異点である。$y_1:=y/x$ は $y_1^2=x^3-1$ を満たし、関数体は $k(x)(y_1)$ に等しい。$x^3-1$ は標数 $2,3$ 以外で分離的なので、関数体が同じ滑らかな固有曲線は $X_{x^3-1}$ であり(thm-hc-normal-form の証明の正規化の議論)、その種数は thm-hc-model により $1$ である。

2 行目:標数 $2$ では $y^2=f(x)$ から $K=k(x)(y)$ は $k(x)$ 上純非分離的であり、$x$ は分離的な射でない。また $\partial/\partial y=2y=0$、$\partial/\partial x=-5x^4=x^4$ で、$f(0)=1$ なので点 $(0,1)$ は曲線上の特異点である。$f'=x^4$ と $f$ は互いに素なので、$f$ は分離的である。

3 行目:$d=0$ の構成は $X_f=\mathbb{P}^1_{\mathbb{R}}\times_{\mathbb{R}}\operatorname{Spec}\mathbb{R}[y]/(y^2+1)\cong\mathbb{P}^1_{\mathbb{C}}$($\mathbb{R}$ 上のスキームとみる)になり、$H^0(X,\mathcal{O})=\mathbb{C}$ は $\mathbb{R}$ 上 2 次元である。$\mathbb{C}$ に上げると $\mathbb{C}\otimes_{\mathbb{R}}\mathbb{C}\cong\mathbb{C}\times\mathbb{C}$ により 2 つの成分に分かれる。

補足

標数 2 の場合

標数 $2$ では $y^2=f(x)$ の形の 2 次拡大は非分離的なので、超楕円曲線の関数体は Artin–Schreier 型の方程式 $y^2+Q(x)y=P(x)$($2g+1\le\max\{2\deg Q,\deg P\}\le2g+2$)で書かれる(Liu06 Proposition 7.4.24、p. 294)。滑らかさの条件は同 Remark 7.4.25(p. 294)、正則微分形式の基底 $x^i\,dx/(2y+Q(x))$($0\le i\le g-1$)は同 Proposition 7.4.26(p. 294)にある。この記事では標数 $2$ の場合を扱わない。

文献

超楕円曲線の定義は Liu06 Definition 7.4.7(p. 287)、標準形・貼り合わせ・分岐点は同 §7.4.3 の Proposition 7.4.24(pp. 292–294)にある。同書は種数を Hurwitz の公式から求め、正則微分形式の基底は $\dim H^0(X,\Omega^1)=g$ を使って示している。この記事の thm-hc-model の証明は、Čech コホモロジーと微分形式の直接計算で種数を求める別の証明である。Čech コホモロジーと層のコホモロジーの一致は Har77 Chapter III, Theorem 4.5(p. 222)による。この記事のほかの主張は、引用した記事の定理と、証明しないと明記したものを除いて記事の中で証明した。

関連項目

参考文献

[1]
Qing Liu, Algebraic Geometry and Arithmetic Curves, Paperback ed.(Oxford Graduate Texts in Mathematics 6), Oxford University Press, 2006, Definition 7.4.7(p. 287)、Proposition 7.4.9・7.4.12(p. 288)、§7.4.3 Proposition 7.4.24・Remark 7.4.25・Proposition 7.4.26(pp. 292–294)、Corollary 7.4.33(p. 296)

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