射影空間への射

同義語:morphism to projective spacemorphisms to projective space

概要

射影空間への射(morphisms to projective space)とは、スキーム $X$ から射影空間 $\mathbb{P}^n_A$ への $A$ 上の射のことで、可逆層 $\mathcal{L}$ とそれを生成する $n+1$ 個の大域切断の組の同型類に 1 対 1 に対応する。射はひねり層 $\mathcal{O}(1)$ と座標 $x_i$ の引き戻しで切断の組を与え、逆に切断の比 $s_j/s_i$ を座標として射が作られる。射が閉埋め込みであることは、各座標近傍の逆像がアフィンで座標環の写像が全射であることと同値であり、代数閉体上の射影スキームでは、切断が点と接ベクトルを分離することと同値である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 射影空間, Serreのひねり層, 可逆層, 大域切断, 閉埋め込み

射影空間 $\mathbb{P}^n$ の点は斉次座標 $[a_0:\dots:a_n]$ で表されるが、斉次座標は関数ではないので、スキーム $X$ から $\mathbb{P}^n$ への射を「$n+1$ 個の関数の組」で与えることはできない。代わりに使うのが可逆層 $\mathcal{L}$ の大域切断である。切断 $s_0,\dots,s_n$ は各点で値をもたないが、その比 $s_j/s_i$ は $s_i$ が消えない所で関数になる。この記事の主定理は、$X$ から $\mathbb{P}^n_A$ への射が、可逆層とそれを生成する $n+1$ 個の切断の組の同型類と 1 対 1 に対応することである。
この対応のもとで、射が閉埋め込みかどうかを切断の言葉で判定できる。座標近傍ごとに環の全射を確かめる判定法と、代数閉体上の射影スキームで「点を分離し接ベクトルを分離する」ことによる判定法を述べ、どちらも証明する。後者は、射影空間への埋め込みを幾何学的に作るときの基本的な道具である。

定義

以下 $A$ を可換環、$\mathbb{P}^n_A=\operatorname{Proj}A[x_0,\dots,x_n]$ とし、$U_i:=D_+(x_i)=\operatorname{Spec}A[x_0/x_i,\dots,x_n/x_i]$ とおく。Serreのひねり層の定理「ひねり層の可逆性と積」により、$\mathcal{O}(1)=\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n_A}(1)$ は可逆層で、$U_i$ の上では大域切断 $x_i$ を基底とする自由加群層であり、$U_i\cap U_j$ の上で $x_j=(x_j/x_i)\,x_i$ が成り立つ。とくに $x_0,\dots,x_n$ は $\mathcal{O}(1)$ を生成する。
$X$ をスキーム、$\mathcal{L}$ を $X$ 上の可逆層、$s\in\Gamma(X,\mathcal{L})$ とする。点 $x\in X$ の局所環を $\mathcal{O}_{X,x}$、その極大イデアルを $\mathfrak{m}_x$ と書き、
$$ X_s:=\{x\in X\mid s_x\notin\mathfrak{m}_x\mathcal{L}_x\} $$
($s$ が消えない点の集合)とおく。$\mathcal{L}_x$ は $\mathcal{O}_{X,x}$ 上の階数 $1$ の自由加群なので、中山の補題により $s_x\notin\mathfrak{m}_x\mathcal{L}_x$ は $s_x$ が $\mathcal{L}_x$ の基底であることと同値である。$x$ の近傍で $\mathcal{L}$ を自明化して $s$ を関数 $f$ とみれば $X_s$ は $f$ が単元である点の集合なので、$X_s$ は開集合であり、$X_s$ の上で $s$ は $\mathcal{L}|_{X_s}$ の基底である。したがって $X_s$ の上の $\mathcal{L}$ の切断 $t$ は、関数 $g\in\Gamma(X_s,\mathcal{O}_X)$ によってただ一通りに $t=g\,s$ と書ける。この $g$ を $t/s$ と書く。

切断の組とその同型

$X$ を $A$ スキームとする。$X$ 上の可逆層 $\mathcal{L}$ と大域切断 $s_0,\dots,s_n\in\Gamma(X,\mathcal{L})$ の組 $(\mathcal{L};s_0,\dots,s_n)$ で、$s_0,\dots,s_n$ が $\mathcal{L}$ を生成する(各点 $x$ で芽 $(s_i)_x$ が $\mathcal{L}_x$ を $\mathcal{O}_{X,x}$ 加群として生成する)ものを考える。2 つの組 $(\mathcal{L};s_i)$ と $(\mathcal{L}';s'_i)$ が同型であるとは、可逆層の同型 $\theta\colon\mathcal{L}\to\mathcal{L}'$ で、すべての $i$ について $\theta(s_i)=s'_i$ となるものがあることをいう。

$\mathcal{L}_x$ は局所環上の階数 $1$ の自由加群なので、$s_0,\dots,s_n$ が $\mathcal{L}$ を生成することは、開集合 $X_i:=X_{s_i}$($i=0,\dots,n$)が $X$ を覆うことと同値である(中山の補題)。
$A$ 上の射 $\varphi\colon X\to\mathbb{P}^n_A$ があれば、引き戻し $\varphi^*\mathcal{O}(1)$ は $X$ 上の可逆層であり、切断 $\varphi^*x_0,\dots,\varphi^*x_n$ はこれを生成する。生成する切断の引き戻しは引き戻しの層を生成するからである($(\varphi^*\mathcal{O}(1))_x=\mathcal{O}(1)_{\varphi(x)}\otimes\mathcal{O}_{X,x}$)。主定理はこの逆が成り立つことを述べる。

主定理:射と切断の組の対応

射影空間への射と切断の組

$A$ を環、$X$ を $A$ スキームとする。$X$ 上の可逆層 $\mathcal{L}$ と $\mathcal{L}$ を生成する大域切断 $s_0,\dots,s_n$ に対し、$A$ 上の射 $\varphi\colon X\to\mathbb{P}^n_A$ と同型 $\theta\colon\varphi^*\mathcal{O}(1)\to\mathcal{L}$ で、すべての $i$ について $\theta(\varphi^*x_i)=s_i$ となるものが存在し、$\varphi$ はただ 1 つに定まる。このとき $\varphi^{-1}(U_i)=X_{s_i}$ であり、$\varphi|_{X_{s_i}}\colon X_{s_i}\to U_i$ は環準同型 $x_j/x_i\mapsto s_j/s_i$ に対応する。
したがって、$\varphi\mapsto(\varphi^*\mathcal{O}(1);\varphi^*x_0,\dots,\varphi^*x_n)$ は、$A$ 上の射 $X\to\mathbb{P}^n_A$ の全体と、$\mathcal{L}$ を生成する $n+1$ 個の切断の組の同型類の全体との間の全単射を与える。

座標近傍ごとに作って貼り合わせる

$X_i:=X_{s_i}$ とおく。$X_i$ たちは $X$ を覆う。
構成。 $X_i$ の上で $s_j=(s_j/s_i)\,s_i$ と書き、環準同型
$$ \alpha_i\colon A[x_0/x_i,\dots,x_n/x_i]\to\Gamma(X_i,\mathcal{O}_X),\qquad x_j/x_i\mapsto s_j/s_i $$
を定める(左辺は $A$ 上の多項式環で、$x_i/x_i=1$ は $s_i/s_i=1$ に写る)。アフィンスキームへの射は大域切断の環準同型で決まる(スキームの命題「アフィンスキームへの射と大域切断」)ので、$\alpha_i$ に対応する $A$ 上の射 $\varphi_i\colon X_i\to U_i$ がただ 1 つある。
$X_i\cap X_j$ の上で $\varphi_i$ と $\varphi_j$ が一致することを示す。$X_i\cap X_j$ の上では $s_j/s_i$ は単元で、逆元は $s_i/s_j$ である。$U_i\cap U_j$ は $U_i$ の中で $x_j/x_i$ が単元になる開集合 $\operatorname{Spec}A[x_0/x_i,\dots,x_n/x_i][x_i/x_j]$ なので、$\varphi_i$ は $X_i\cap X_j$ を $U_i\cap U_j$ に写し、その上で $x_i/x_j\mapsto s_i/s_j$ となる。$U_i\cap U_j$ の座標環は $x_k/x_i$($k=0,\dots,n$)と $x_i/x_j$ で生成される。$\varphi_j$ による $x_k/x_i=(x_k/x_j)(x_i/x_j)^{-1}$ の引き戻しは $(s_k/s_j)(s_i/s_j)^{-1}=s_k/s_i$ であり、$x_i/x_j$ の引き戻しは $s_i/s_j$ である。どちらも $\varphi_i$ による引き戻しと一致するので、$X_i\cap X_j$ からアフィンスキーム $U_i\cap U_j$ への 2 つの射は一致する。よって $\varphi_i$ は貼り合わさって $A$ 上の射 $\varphi\colon X\to\mathbb{P}^n_A$ を定める。
逆像。 $\varphi(X_i)\subset U_i$ である。逆に $x\in X_j$ で $\varphi(x)\in U_i$ とすると、$x_i/x_j$ は $\varphi(x)$ の近傍で単元なので、その引き戻し $s_i/s_j$ は $x$ で単元であり、$(s_i)_x=(s_i/s_j)_x(s_j)_x$ は $\mathcal{L}_x$ の基底である。よって $x\in X_i$ であり、$\varphi^{-1}(U_i)=X_i$ である。
層の同型。 $\varphi^*\mathcal{O}(1)$ は $X_i$ の上で $\varphi^*x_i$ を基底とし、$\varphi^*x_j=\varphi^*(x_j/x_i)\,\varphi^*x_i=(s_j/s_i)\,\varphi^*x_i$ をみたす。$X_i$ の上の同型 $\theta_i\colon\varphi^*\mathcal{O}(1)|_{X_i}\to\mathcal{L}|_{X_i}$ を $\varphi^*x_i\mapsto s_i$ で定めると、$\theta_i(\varphi^*x_j)=(s_j/s_i)\,s_i=s_j$ である。$X_i\cap X_j$ の上で $\theta_i$ と $\theta_j$ はどちらも基底 $\varphi^*x_j$ を $s_j$ に写すので一致し、貼り合わさって $\theta(\varphi^*x_j)=s_j$ をみたす同型 $\theta$ を与える。
一意性。 射 $\psi\colon X\to\mathbb{P}^n_A$ と同型 $\eta\colon\psi^*\mathcal{O}(1)\to\mathcal{L}$ が $\eta(\psi^*x_i)=s_i$ をみたすとする。$\psi(x)\in U_i$ であることは $x_i$ が $\psi(x)$ で $\mathcal{O}(1)$ の基底であること、すなわち $(\psi^*x_i)_x$ が $(\psi^*\mathcal{O}(1))_x$ の基底であることと同値である(局所準同型 $\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n_A,\psi(x)}\to\mathcal{O}_{X,x}$ で単元と非単元は保たれる)。$\eta$ で移せば、これは $x\in X_i$ と同値なので $\psi^{-1}(U_i)=X_i$ である。$X_i$ の上で $\psi^*(x_j/x_i)$ は $\psi^*x_j=\psi^*(x_j/x_i)\,\psi^*x_i$ をみたす関数で、$\eta$ を施すと $s_j=\psi^*(x_j/x_i)\,s_i$、すなわち $\psi^*(x_j/x_i)=s_j/s_i$ である。よって $\psi|_{X_i}\colon X_i\to U_i$ は $\alpha_i$ に対応する射 $\varphi_i$ に等しく、$\psi=\varphi$ である。
全単射。 射 $\varphi$ に組 $(\varphi^*\mathcal{O}(1);\varphi^*x_i)$ を対応させる写像を考える。上の存在と一意性により、任意の組 $(\mathcal{L};s_i)$ はある $\varphi$ の組と同型であり、同型な組は同じ射を定める(同型 $\mathcal{L}\to\mathcal{L}'$ を $\theta$ に合成すればよい)。$\varphi$ の組から構成した射は、一意性により $\varphi$ 自身である。$\square$

$s_0,\dots,s_n$ が $\mathcal{L}$ を生成するという仮定は外せない。生成しない場合も、切断が $\mathcal{L}$ を生成する開集合 $U=\bigcup_iX_{s_i}$ の上では射 $U\to\mathbb{P}^n_A$ が定まるが、$X$ 全体には延びないことがある(ex-mtps-projection)。切断が同時に消える点の集合 $X\setminus U$ を、切断の組の基点の集合という(Har77 II §7 の線型系の基点)。

関手としての言い換えと相対版

主定理は、関手「$X\mapsto$($\mathcal{L}$ を生成する $n+1$ 個の切断の組の同型類)」が $\mathbb{P}^n_A$ で表現され、普遍的な組が $(\mathcal{O}(1);x_0,\dots,x_n)$ であることを述べている。相対版として、Noether スキーム $Y$ 上の連接な局所自由層 $\mathcal{E}$ の射影束 $\mathbb{P}(\mathcal{E})$ について、$Y$ 上の射 $g\colon Z\to Y$ の $\mathbb{P}(\mathcal{E})$ への持ち上げは、$Z$ 上の可逆層 $\mathcal{L}$ と全射 $g^*\mathcal{E}\to\mathcal{L}$ の組に対応する(Har77 II 命題 7.12、p. 162。この記事では証明しない)。

閉埋め込みの判定

座標近傍による判定

座標近傍による閉埋め込みの判定

$\varphi\colon X\to\mathbb{P}^n_A$ を、可逆層 $\mathcal{L}$ とそれを生成する切断 $s_0,\dots,s_n$ に対応する $A$ 上の射とし、$X_i:=X_{s_i}$ とおく。$\varphi$ が閉埋め込みであるための必要十分条件は、各 $i$ について次の 2 つが成り立つことである。

  1. $X_i$ はアフィンスキームである。
  2. 環準同型 $A[x_0/x_i,\dots,x_n/x_i]\to\Gamma(X_i,\mathcal{O}_X)$、$x_j/x_i\mapsto s_j/s_i$ は全射である。
閉埋め込みの局所性に帰着する

thm-mtps-correspondence により $\varphi^{-1}(U_i)=X_i$ であり、$\varphi|_{X_i}\colon X_i\to U_i$ は 2 の環準同型に対応する。$\varphi$ が閉埋め込みなら、閉埋め込みの命題「閉埋め込みは終域の上で局所的に判定できる」の (R2) をアフィン開集合 $U_i$ に当てて、$X_i=\varphi^{-1}(U_i)$ はアフィンで 2 の写像は全射である。逆に 1・2 が成り立てば、$X_i\cong\operatorname{Spec}\Gamma(X_i,\mathcal{O}_X)$ であり、全射な環準同型が定めるアフィンスキームの射は閉埋め込みである(閉埋め込みの命題「環の全射が定める閉埋め込み」)。よって $\varphi|_{X_i}\colon X_i\to U_i$ は閉埋め込みである。$U_i$ たちは $\mathbb{P}^n_A$ を覆うので、同じ命題の (R4) により $\varphi$ は閉埋め込みである。$\square$

点と接ベクトルの分離

代数閉体上では、条件を点ごとの言葉に言い換えられる。そのために局所環についての補題を用意する。

2 回の中山の補題

$f\colon(A,\mathfrak{m}_A)\to(B,\mathfrak{m}_B)$ を Noether 局所環の局所準同型とし、次の 3 条件を仮定する。

  1. $f$ が誘導する剰余体の写像 $A/\mathfrak{m}_A\to B/\mathfrak{m}_B$ は同型である。
  2. 合成 $\mathfrak{m}_A\to\mathfrak{m}_B\to\mathfrak{m}_B/\mathfrak{m}_B^2$ は全射である。
  3. $B$ は $f$ によって有限生成 $A$ 加群である。
    このとき $f$ は全射である。

$\mathfrak{a}:=\mathfrak{m}_AB$ とおくと $\mathfrak{a}\subset\mathfrak{m}_B$ であり、2 により $\mathfrak{m}_B=\mathfrak{a}+\mathfrak{m}_B^2=\mathfrak{a}+\mathfrak{m}_B\cdot\mathfrak{m}_B$ である。$B$ は Noether なので $\mathfrak{m}_B$ は有限生成 $B$ 加群であり、加群 $\mathfrak{m}_B/\mathfrak{a}$ に中山の補題を当てると $\mathfrak{m}_B=\mathfrak{a}=\mathfrak{m}_AB$ を得る。次に 3 により $B$ は有限生成 $A$ 加群であり、$1\in B$ が生成する部分加群を $f(A)$ とすると、1 により $B=f(A)+\mathfrak{m}_B=f(A)+\mathfrak{m}_AB$ である。$A$ 加群 $B/f(A)$ に中山の補題を当てると $B=f(A)$、すなわち $f$ は全射である。$\square$

点と接ベクトルの分離による判定

$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の射影スキーム(ある $\mathbb{P}^m_k$ の閉部分スキーム)、$\varphi\colon X\to\mathbb{P}^n_k$ を可逆層 $\mathcal{L}$ と生成する切断 $s_0,\dots,s_n$ に対応する $k$ 上の射とし、$V\subset\Gamma(X,\mathcal{L})$ を $s_0,\dots,s_n$ が張る $k$ 線型部分空間とする。$\varphi$ が閉埋め込みであるための必要十分条件は、次の 2 つが成り立つことである。

  1. (点の分離)$X$ の相異なる任意の閉点 $P,Q$ について、$s\in V$ で $s_P\in\mathfrak{m}_P\mathcal{L}_P$ かつ $s_Q\notin\mathfrak{m}_Q\mathcal{L}_Q$ となるものがある。
  2. (接ベクトルの分離)$X$ の任意の閉点 $P$ について、$\{s\in V\mid s_P\in\mathfrak{m}_P\mathcal{L}_P\}$ の像は $k$ ベクトル空間 $\mathfrak{m}_P\mathcal{L}_P/\mathfrak{m}_P^2\mathcal{L}_P$ を張る。

条件 1・2 の意味を確かめておく。$V$ の元は $\varphi^*\ell$($\ell$ は $x_0,\dots,x_n$ の $k$ 係数の 1 次形式)の形の切断である。$P$ が閉点なら剰余体は $k$ であり(閉点の定理「有限型スキームにおける閉点の稠密性」)、$\varphi(P)$ も閉点で、その斉次座標を $a=(a_0,\dots,a_n)\in k^{n+1}\setminus\{0\}$ とする。$a_i\neq0$ なら $P\in X_i$ であり、$s_P\in\mathfrak{m}_P\mathcal{L}_P$ は関数 $s/s_i=\varphi^*(\ell/x_i)$ の $P$ での値 $\ell(a)/a_i$ が $0$ であること、すなわち $\ell(a)=0$ と同値である。2 点 $a,b$ の斉次座標が比例しなければ $\ell(a)=0\neq\ell(b)$ となる 1 次形式 $\ell$ があるので、条件 1 は「$\varphi$ が閉点の上で単射であること」と同値である。また $\mathfrak{m}_P\mathcal{L}_P/\mathfrak{m}_P^2\mathcal{L}_P\cong\mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2$ は $P$ での余接空間であり、条件 2 は「$\varphi$ の $P$ での余接写像が全射であること」、すなわち接空間の写像が単射であることを表す。

有限射に帰着する

必要性。 $\varphi$ を閉埋め込みとし、$X$ を $\mathbb{P}^n_k$ の閉部分スキームとみる。上の注意により条件 1 は閉点の単射性なので成り立つ。条件 2 を示す。$P$ を閉点とし、座標を 1 次変換で取り替えて $\varphi(P)=[1:0:\dots:0]$ としてよい。$U_0=\operatorname{Spec}k[y_1,\dots,y_n]$($y_j=x_j/x_0$)で $\varphi(P)$ は原点であり、その極大イデアルは $y_1,\dots,y_n$ で生成される。$s\in V$ が $P$ で消えることは $s=\varphi^*\ell$、$\ell\in kx_1+\dots+kx_n$ と同値で、$\mathcal{L}$ を $s_0$ で自明化すると $s/s_0=\varphi^*(\ell/x_0)$ は $y_1,\dots,y_n$ の像の 1 次結合である。閉埋め込みなので局所環の写像 $\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n,\varphi(P)}\to\mathcal{O}_{X,P}$ は全射であり、$y_1,\dots,y_n$ の像は $\mathfrak{m}_P$ を生成し、その類は $\mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2$ を張る。
十分性。 条件 1・2 を仮定する。
要点:(1) $\varphi$ は固有である。(2) 条件 1 と閉点の稠密性から $\varphi$ は単射である。(3) 固有かつ準有限なので $\varphi$ は有限射である。(4) 条件 2 と lem-mtps-two-nakayama により、閉点での局所環の写像 $\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n,q}\to(\varphi_*\mathcal{O}_X)_q$ は全射である。(5) 余核の連接層が消えるので $\varphi$ は閉埋め込みである。

詳しい証明を開く

第 1 段($\varphi$ は固有)。$X$ は $k$ 上固有(固有射の定理「射影射の固有性」)で $\mathbb{P}^n_k$ は $k$ 上分離的なので、固有射の定理「合成・底変換・積で閉じること」の 4 により $\varphi$ は固有射であり、とくに閉写像である。

第 2 段($\varphi$ は単射)。まず閉点 $q\in\mathbb{P}^n_k$ のファイバー $F_q:=\varphi^{-1}(q)$ は空か 1 点であることを示す。$F_q$ は $X$ の閉集合で、条件 1 によりその閉点は高々 1 つである。$y\in F_q$ をとると、閉包 $\overline{\{y\}}\subset F_q$ の閉点の全体は $\overline{\{y\}}$ で稠密である(閉点の定理「有限型スキームにおける閉点の稠密性」)から、$\overline{\{y\}}$ は唯一の閉点 $p$ の閉包 $\{p\}$ に等しく、$y=p$ である。次に $x,x'\in X$ が $\varphi(x)=\varphi(x')=q'$ をみたすとする。$Z:=\overline{\{x\}}$、$Z':=\overline{\{x'\}}$ とおくと、$\varphi$ は閉写像なので $\varphi(Z)=\varphi(Z')=\overline{\{q'\}}$ である。$Z$ の閉点 $p$ について、剰余体 $\kappa(\varphi(p))$ は $\kappa(p)$ に含まれ $k$ 上有限次なので $w:=\varphi(p)$ は閉点であり、$w\in\varphi(Z')$ だから、$F_w\cap Z'$ は空でない。$F_w=\{p\}$ なので $p\in Z'$ である。よって $Z\cap Z'$ は $Z$ の閉点をすべて含む閉集合であり、閉点の稠密性から $Z\subset Z'$ である。同様に $Z'\subset Z$ であり、既約閉集合の生成点は一意なので $x=x'$ である。

第 3 段($\varphi$ は有限)。第 2 段によりファイバーはすべて高々 1 点で、$\varphi$ は有限型なので準有限射である。固有かつ準有限なので、準有限射の定理「固有かつ準有限なら有限」により $\varphi$ は有限射である。

第 4 段(局所環の全射)。閉点 $q$ を $\mathbb{P}^n_k$ にとり、$\mathcal{B}:=\varphi_*\mathcal{O}_X$ とおく。$\mathcal{B}$ は連接層である。$F_q=\emptyset$ なら $\mathcal{B}_q=0$ で、$\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n,q}\to\mathcal{B}_q$ は全射である。$F_q=\{p\}$ とする。有限射の茎 $\mathcal{B}_q$ は $\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n,q}$ 上の有限加群で、その極大イデアルは $q$ の上の点、すなわち $p$ だけに対応するので、$\mathcal{B}_q$ は局所環で $\mathcal{B}_q=\mathcal{O}_{X,p}$ である。($q$ のアフィン近傍 $W=\operatorname{Spec}R$ をとると $\varphi^{-1}(W)=\operatorname{Spec}C$、$C$ は有限 $R$ 代数である。$\mathcal{B}_q=C_q:=C\otimes_RR_q$ は $R_q$ 上整なので、その極大イデアルは $R_q$ の極大イデアル $qR_q$ の上にある素イデアル、すなわちファイバー $F_q$ の点に対応する。$F_q=\{p\}$ なので $C_q$ は $p$ に対応する極大イデアルだけをもつ局所環であり、$C_q=(C_q)_p=C_p=\mathcal{O}_{X,p}$ である。)lem-mtps-two-nakayama を $f\colon\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n,q}\to\mathcal{O}_{X,p}$ に当てる。剰余体はどちらも $k$ なので条件 1 が成り立ち、条件 3 は有限性による。条件 2 を確かめる。$s_i$ を $p$ で消えないものにとり $\mathcal{L}$ を $s_i$ で自明化すると、$V$ の元 $s=\varphi^*\ell$ で $p$ で消えるものについて $s/s_i=\varphi^*(\ell/x_i)$ であり、$\ell(q)=0$ なので $\ell/x_i\in\mathfrak{m}_q$ である。仮定 2 によりこれらの類は $\mathfrak{m}_p/\mathfrak{m}_p^2$ を張るので、$\mathfrak{m}_q\to\mathfrak{m}_p/\mathfrak{m}_p^2$ は全射である。よって $\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n,q}\to\mathcal{B}_q$ は全射である。

第 5 段(閉埋め込み)。$\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n}\to\mathcal{B}$ の余核 $\mathcal{C}$ は連接層で、すべての閉点で茎が $0$ である。連接層の台は閉集合であり、空でない閉集合は閉点を含むので $\mathcal{C}=0$ である。$\varphi$ は有限なのでアフィン射であり、アフィン開集合 $W=\operatorname{Spec}R$ について $\varphi^{-1}(W)=\operatorname{Spec}C$ で、$R\to C$ は準連接層の全射 $\widetilde{R}\to\widetilde{C}$ の大域切断として全射である。閉埋め込みの命題「閉埋め込みは終域の上で局所的に判定できる」の (R2) により $\varphi$ は閉埋め込みである。$\square$

条件 1 は閉点についてだけ述べているので、証明の (2) では閉点の稠密性を使って全点の単射性を導く。(4) では有限性が欠かせない。lem-mtps-two-nakayama の条件 3 を外すと結論は成り立たず、局所環からその完備化への写像 $k[y]_{(y)}\to k[\![y]\!]$ は条件 1・2 をみたす Noether 局所環の局所準同型だが、全射でない。

例

射影空間の自己同型

$k$ を体、$n\ge1$ とする。$\mathbb{P}^n_k$ の $k$ 上の自己同型は、可逆行列 $(a_{ij})\in GL(n+1,k)$ による座標の 1 次変換 $x_i\mapsto\sum_ja_{ij}x_j$ で与えられ、自己同型群は $PGL(n+1,k)=GL(n+1,k)/k^\times$ である。
主定理から次のように分かる。$\varphi$ を自己同型とする。Picard群 $\operatorname{Pic}\mathbb{P}^n_k$ は $\mathcal{O}(1)$ で生成される無限巡回群であり(Har77 II 系 6.17)、$\varphi^*$ はその自己同型を誘導するので、$\varphi^*\mathcal{O}(1)\cong\mathcal{O}(1)$ か $\mathcal{O}(-1)$ である。$\mathcal{O}(-1)$ は零でない大域切断をもたない(Serreのひねり層の定理「大域切断は斉次多項式」)が、$\varphi^*\mathcal{O}(1)$ は自身を生成する切断 $\varphi^*x_i$ をもつので、同型 $\theta\colon\varphi^*\mathcal{O}(1)\to\mathcal{O}(1)$ がある。同型による引き戻しは切断の間の $k$ 線型な全単射を与えるので、$s_i:=\theta(\varphi^*x_i)$ は $\Gamma(\mathbb{P}^n_k,\mathcal{O}(1))=kx_0\oplus\dots\oplus kx_n$ の基底をなし、$s_i=\sum_ja_{ij}x_j$、$(a_{ij})$ は可逆である。組 $(\mathcal{O}(1);s_0,\dots,s_n)$ は $(a_{ij})$ の定める 1 次変換 $g$ の組でもあるから、thm-mtps-correspondence の一意性により $\varphi=g$ である。また $g$ が恒等射なら組 $(\mathcal{O}(1);s_i)$ と $(\mathcal{O}(1);x_i)$ は同型で、$\mathcal{O}(1)$ の自己同型は $\Gamma(\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n_k})^\times=k^\times$ の元倍なので $(a_{ij})$ はスカラー行列である。$n=1$ の場合は射影直線の定理「自己同型群と Picard 群」と一致する。

Veronese 埋め込み

$d\ge1$ とし、$\mathbb{P}^n_A$ 上の $\mathcal{O}(d)$ と、次数 $d$ の単項式 $M$ の全体($N+1=\binom{n+d}{d}$ 個)を切断として考える。単項式 $x_i^d$ が含まれ、$x_i^d$ は $D_+(x_i)$ の上で $\mathcal{O}(d)$ の基底なので、これらは $\mathcal{O}(d)$ を生成し、射 $\nu_d\colon\mathbb{P}^n_A\to\mathbb{P}^N_A$ を定める(Veronese埋め込み)。次数 $d$ の単項式 $M$ に対応する座標近傍の逆像は、$M$ が消えない開集合 $D_+(M)=\operatorname{Spec}A[x_0,\dots,x_n]_{(M)}$ でアフィンであり、環準同型は $y_{M'}/y_M\mapsto M'/M$ である。$A[x_0,\dots,x_n]_{(M)}$ は $N/M^r$($N$ は次数 $rd$ の単項式)で $A$ 加群として張られ、$N$ を次数 $d$ の単項式 $r$ 個の積 $N_1\cdots N_r$ に分ければ $N/M^r=\prod_j(N_j/M)$ なので、この環準同型は全射である。prop-mtps-closed-immersion-charts により $\nu_d$ は閉埋め込みで、$\nu_d^*\mathcal{O}(1)\cong\mathcal{O}(d)$ である。

点からの射影

$\mathbb{P}^{n+1}_A$ 上の $\mathcal{O}(1)$ と切断 $x_0,\dots,x_n$($x_{n+1}$ を除く)を考える。これらが $\mathcal{O}(1)$ を生成しない点は、$x_0=\dots=x_n=0$ の定める閉部分スキーム($A=k$ が体なら 1 点 $P_0=[0:\dots:0:1]$)であり、その補集合 $U$ の上で射 $U\to\mathbb{P}^n_A$、$[a_0:\dots:a_{n+1}]\mapsto[a_0:\dots:a_n]$ が定まる。これが点 $P_0$ からの射影である。$A=k$ が代数閉体で $n\ge1$ のとき、この射は $\mathbb{P}^{n+1}_k$ 全体へは延びない。実際、延長 $\bar\pi$ があれば、$P_0$ を通る直線 $L\cong\mathbb{P}^1_k$ の上で $\bar\pi$ は稠密な開集合 $L\setminus\{P_0\}$ 上の定値射と一致するので $L$ 上で定値であり(分離射の系「稠密な開集合で一致する射」)、$\bar\pi(P_0)$ は $L$ の方向を表す点になる。方向の異なる 2 本の直線をとると矛盾する。$P_0$ を含まない閉部分スキーム $X\subset\mathbb{P}^{n+1}_k$ に制限すれば、切断は $X$ 上で $\mathcal{O}_X(1)$ を生成し、射 $X\to\mathbb{P}^n_k$ が得られる。射影正規の記事の 4 次の有理曲線はこの形で作られる。

反例:条件を外すと崩れること

thm-mtps-separation の仮定を 1 つずつ外す。$k$ は代数閉体とする。

外す条件反例成り立たなくなること
点の分離(条件 1)標数 $\neq2$、$\mathbb{P}^1\to\mathbb{P}^2$、$[s:t]\mapsto[(s^2-t^2)t:(s^2-t^2)s:t^3]$閉埋め込みであること($[1:1]$ と $[1:-1]$ が同じ点に写る)
接ベクトルの分離(条件 2)$\mathbb{P}^1\to\mathbb{P}^2$、$[s:t]\mapsto[s^3:st^2:t^3]$閉埋め込みであること(像は尖点をもつ 3 次曲線)
$X$ が射影的$\mathbb{A}^1_k\to\mathbb{P}^1_k$、$t\mapsto[1:t]$閉埋め込みであること(像が閉でない)
各行の確かめ

どの例も、切断に共通の零点がないので射が定まる。1 行目:$\mathcal{L}=\mathcal{O}(3)$、$V$ は $(s^2-t^2)(\beta s+\alpha t)$ と $t^3$ で張られる。点 $P$ で $s^2-t^2\neq0$ なら $P$ で単純に消える 1 次式 $\beta s+\alpha t$ をとり、$P=[1:\pm1]$ なら $(s^2-t^2)s$ をとると(標数 $\neq2$ なので $s\pm t$ の一方だけが消える)、$P$ でちょうど 1 位で消える元が $V$ にあり、$\mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2$ は 1 次元なので条件 2 が成り立つ。$[1:1]$ と $[1:-1]$ はどちらも $[0:0:1]$ に写り、条件 1 は破れる。2 行目:$[a:1]\mapsto[a^3:a:1]$ と $[1:0]\mapsto[1:0:0]$ は閉点の上で単射なので条件 1 が成り立つ。$[1:0]$ で消える $V$ の元は $t^2(\alpha s+\beta t)$ の形で 2 位以上で消えるから、条件 2 が破れる。像は $xz^2=y^3$ で、$[1:0:0]$ は尖点である。非特異な $\mathbb{P}^1$ は尖点をもつ曲線と同型でないので閉埋め込みでない。3 行目:$\mathcal{L}=\mathcal{O}_{\mathbb{A}^1}$、切断 $1,t$。$a\neq b$ について $t-a$ は $a$ で消え $b$ で消えず、$a$ で単純に消えるので条件 1・2 が成り立つ。像 $U_0$ は $\mathbb{P}^1_k$ の閉集合でない。

標数 $p>0$ では、$[s:t]\mapsto[s^p:t^p]$(相対 Frobenius 射)が閉点の上で全単射な同相写像だが、すべての点で条件 2 が破れ、閉埋め込みでない。

関連項目

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, II §7(定理 7.1・例 7.1.1・7.1.2・命題 7.2・7.3・補題 7.4、pp. 150–153)、系 6.17(p. 145)、命題 7.12(p. 162)

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