位相ベクトル空間

同義語:位相線形空間topological vector space

概要

位相ベクトル空間(topological vector space)とは、和とスカラー倍が連続になるよう Hausdorff な位相を入れた実または複素ベクトル空間である。平行移動が同相なため原点近傍で連続線形写像を判定でき、有限次元では位相が通常の位相に限られる。積と閉部分空間による商も同種の空間をなし、局所凸な位相は半ノルムの族で記述できる。ノルム化できない無限直積や、局所凸でない $0< p<1$ の $L^p$ 空間も含む。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相空間, ベクトル空間, 連続写像

ベクトル空間では和とスカラー倍ができ、位相空間では極限と連続性を考えられる。位相ベクトル空間はこの二つを両立させた空間である。ノルム空間は典型例だが、ノルムから作れない位相をもつ関数空間や無限個の座標の空間も含む。関数解析では、線形写像の連続性、弱収束、超関数の空間を一つの言葉で扱うために使う。
この記事では、まず演算の連続性から原点近傍の基本性質を導き、線形写像の連続性を一点で判定する。次に積空間と商空間を作り、無限直積と $0< p<1$ の $L^p$ を使って、ノルム化や局所凸性が追加条件であることを示す。

定義

$\mathbb K$ を $\mathbb R$ または $\mathbb C$ とする。$\mathbb K$ には通常の位相を入れる。以下では位相ベクトル空間は Hausdorff とする。Hausdorff を定義に含めない流儀では、「Hausdorff 位相ベクトル空間」と読み替えればよい。

位相ベクトル空間

$\mathbb K$ 上のベクトル空間 $V$ に Hausdorff な位相が入り、次の二つの写像が連続であるとき、$V$ を 位相ベクトル空間(topological vector space)という。
$$ +\colon V\times V\to V,\quad (x,y)\mapsto x+y, \qquad \cdot\colon\mathbb K\times V\to V,\quad(\lambda,x)\mapsto\lambda x. $$
積には積位相を入れる。特定のノルムや距離は定義に含まれない。

ベクトル空間の公理から $-x=(-1)x$ であり、$x\mapsto-x$ も連続である。したがって差 $(x,y)\mapsto x-y$ も連続となる。位相と線形構造がこのように両立することが要点である。

最初の例

  1. 任意の ノルム空間 $V$ は $d(x,y)=\|x-y\|$ によって位相ベクトル空間になる。$\|x+y-x'-y'\|\leq\|x-x'\|+\|y-y'\|$ と $\|\lambda x-\mu y\|\leq|\lambda|\|x-y\|+|\lambda-\mu|\|y\|$ から演算の連続性が分かる。完備なら Banach空間 である。
  2. $\mathbb K^n$ の通常の位相もこの定義を満たす。有限次元では Hausdorff な位相ベクトル空間の位相は通常の座標位相に一致する(thm-tvs-finite-dim)。無限次元では異なる位相が生じる。
  3. $\mathbb K^{\mathbb N}$ に各座標からの積位相を入れると、和とスカラー倍は各座標で連続だから位相ベクトル空間となる。これがノルムの位相にならないことは後で証明する。

原点の近傍から分かること

位相ベクトル空間では平行移動 $T_a(x)=x+a$ と、$c\ne0$ に対するスカラー倍 $M_c(x)=cx$ は同相写像である。逆写像はそれぞれ $T_{-a}$ と $M_{1/c}$ だからである。よって一点の近傍構造は原点 $0$ の近傍構造を移したものになる。

原点近傍の小さい和

$U$ が $0$ の近傍なら、$0$ の近傍 $W$ を選んで
$$ W+W\subset U $$
とできる。また $x\in V$ と $U$ に対し、十分小さいスカラー $\lambda$ では $\lambda x\in U$ となる。

加法は $(0,0)$ で連続なので、$0$ の近傍 $W_1,W_2$ が存在し、$W_1+W_2\subset U$ となる。$W=W_1\cap W_2$ とすればよい。固定した $x$ に対する写像 $\lambda\mapsto\lambda x$ は $0$ で連続で、$0x=0$ だから後半が従う。

集合 $B\subset V$ が 均衡(balanced)であるとは、$\lvert\lambda\rvert\leq1$ のすべての $\lambda\in\mathbb K$ について $\lambda B\subset B$ となることをいう。ノルム空間の原点中心の球は均衡である。スカラー倍の連続性から、原点の近傍はいつでも均衡なものに縮められる。

均衡な近傍

$V$ の任意の $0$ 近傍 $U$ は、均衡な開 $0$ 近傍を含む。

スカラー倍は $(0,0)$ で連続で $0\cdot0=0$ なので、$\delta>0$ と開 $0$ 近傍 $W$ があって、$\lvert\lambda\rvert<\delta$ かつ $w\in W$ なら $\lambda w\in U$ となる。
$$ B:=\bigcup_{0<\lvert\lambda\rvert<\delta}\lambda W $$
とおく。各 $\lambda W$ は $M_\lambda$ による開集合の像なので開であり、$0\in W$ から $0\in B$ である。$B\subset U$ は $\delta,W$ の選び方による。$\lvert\mu\rvert\leq1$ と $x=\lambda w\in B$ をとる。$\mu\ne0$ なら $\mu x=(\mu\lambda)w$ で $0<\lvert\mu\lambda\rvert<\delta$ なので $\mu x\in B$ である。$\mu=0$ なら $\mu x=0\in B$ である。よって $B$ は均衡な開 $0$ 近傍である。$\blacksquare$

集合 $B\subset V$ が 有界とは、任意の $0$ 近傍 $U$ に対し、ある $t>0$ が存在して $B\subset tU$ となることをいう。ここで $tU=\{tu:u\in U\}$ である。ノルム空間ではこれは $\sup_{x\in B}\|x\|<\infty$ と同値である。実際、$\|x\|<1$ という $0$ 近傍を使うと一方向が従い、逆方向は任意の $U$ が十分小さいノルム球を含むことから従う。一般の位相ベクトル空間では「有界」を距離で定義する必要がない。

列よりも近傍が基本になる理由

ノルム空間では連続性を収束列で判定できる。しかし一般の位相ベクトル空間は距離化できるとは限らず、列だけでは閉包や連続性を判定できない場合がある。以下の命題は列を使わず、近傍だけで証明する。収束の定義は、$x_i\to x$ であることを「$x$ の任意の近傍にいずれ入る」と読む点では同じである。

線形写像の連続性

線形写像の原点での判定

$V,W$ を位相ベクトル空間、$T\colon V\to W$ を線形写像とする。次は同値である。

  1. $T$ は全点で連続である。
  2. $T$ は $0$ で連続である。
  3. $W$ の任意の $0$ 近傍 $U$ に対し、$V$ の $0$ 近傍 $N$ が存在して $T(N)\subset U$ となる。

1 から 2、2 と 3 の同値は連続性の定義である。3 を仮定し、任意の $a\in V$ と $T(a)$ の近傍 $O$ を取る。平行移動が同相なので $U:=O-T(a)$ は $W$ の $0$ 近傍である。$T(N)\subset U$ となる $N$ を選ぶと、$a+N$ は $a$ の近傍であり、線形性から
$$ T(a+N)=T(a)+T(N)\subset T(a)+U=O. $$
よって $T$ は $a$ で連続である。$a$ は任意だから 1 が従う。$\blacksquare$

この定理は「線形なら自動的に連続」という主張ではない。無限次元のベクトル空間では不連続な線形写像が存在し得る(後の反例の表の最後の行)。ノルム空間間では $\|Tx\|\leq C\|x\|$ という評価が原点での連続性と同値になるが、ノルムをもたない空間には原点近傍による条件 3 を使う。

連続線形写像の核と有界集合

連続線形写像 $T\colon V\to W$ の核 $\ker T$ は $V$ の閉線形部分空間である。また $V$ の有界集合 $B$ の像 $T(B)$ は $W$ で有界である。

$W$ は Hausdorff なので $\{0\}$ は閉集合であり、$\ker T=T^{-1}(\{0\})$ は閉じている。線形部分空間であることは線形性から従う。$U$ を $W$ の $0$ 近傍とする。原点での連続性により $T(N)\subset U$ となる $V$ の $0$ 近傍 $N$ を取る。有界性から $B\subset tN$ となる $t>0$ があり、線形性を使うと $T(B)\subset tT(N)\subset tU$ である。

有限次元の位相ベクトル空間

有限次元では、Hausdorff という条件だけで位相が決まってしまう。無限次元の位相の多様さは、有限次元にはない現象である。

有限次元の位相の一意性

$V$ を $n$ 次元の Hausdorff 位相ベクトル空間とし、$v_1,\dots,v_n$ をその基底とする。このとき
$$ f\colon\mathbb K^n\to V,\qquad f(a_1,\dots,a_n)=\sum_{j=1}^na_jv_j $$
は同相写像である。とくに $V$ の位相は、座標を通した通常の位相に一致し、$V$ から任意の位相ベクトル空間への線形写像はすべて連続である。

$f$ は線形な全単射である。各写像 $a\mapsto a_jv_j$ は座標射影と連続写像 $\lambda\mapsto\lambda v_j$ の合成なので連続であり、加法の連続性から $f$ も連続である。
逆写像 $f^{-1}$ の連続性を示す。$f^{-1}$ は線形なので、thm-tvs-linear-continuity により $0$ での連続性を示せばよい。$\mathbb K^n$ に通常のノルム $\lvert a\rvert$ を入れ、単位球面 $S=\{a:\lvert a\rvert=1\}$ と開単位球 $D=\{a:\lvert a\rvert<1\}$ をとる。$S$ はコンパクトなので $f(S)$ はコンパクトであり、$V$ が Hausdorff なので $f(S)$ は閉集合である。$f$ は単射で $0\notin S$ だから $0\notin f(S)$ である。よって $V\setminus f(S)$ は $0$ 近傍で、lem-tvs-balanced によりその中に均衡な $0$ 近傍 $B$ がとれる。
$f^{-1}(B)\subset D$ を示す。$a\in f^{-1}(B)$ で $\lvert a\rvert\geq1$ とすると、$a/\lvert a\rvert\in S$ であり、$B$ の均衡性から $f(a/\lvert a\rvert)=\lvert a\rvert^{-1}f(a)\in B$ となって、$B\cap f(S)=\emptyset$ に反する。したがって $f^{-1}(B)\subset D$ であり、$r>0$ について $rB$ は $0$ 近傍で $f^{-1}(rB)\subset rD$ となる。これは $f^{-1}$ が $0$ で連続であることを意味する。
最後に、線形写像 $T\colon V\to W$ について $T\circ f\colon\mathbb K^n\to W$ は $a\mapsto\sum a_jT(v_j)$ で、上と同じ理由で連続である。$f^{-1}$ が連続なので $T=(T\circ f)\circ f^{-1}$ も連続である。$\blacksquare$

Hausdorff の仮定は外せない。$\mathbb K$ に密着位相(開集合が $\emptyset$ と $\mathbb K$ だけ)を入れると、密着空間への写像はすべて連続なので和とスカラー倍は連続だが、位相は通常の位相と異なる。これは Hausdorff を定義に含めない流儀での例であり、定理の仮定から Hausdorff を外すと結論が崩れることを示す(後の反例の表)。

積と商

位相ベクトル空間の族 $(V_i)_{i\in I}$ の直積 $\prod_iV_i$ に積位相を入れると、各座標の演算が連続なので再び位相ベクトル空間になる。各射影 $\pi_i\colon\prod V_i\to V_i$ は連続線形で、写像 $T\colon W\to\prod_iV_i$ が連続であることは各 $\pi_iT$ が連続であることと同値である。積位相の普遍性を線形写像に適用した形である。
商では Hausdorff 性に条件が付く。

商位相ベクトル空間

$V$ を位相ベクトル空間、$M\subset V$ を線形部分空間とする。商ベクトル空間 $V/M$ に商写像 $q\colon V\to V/M$ による商位相を入れる。すると和とスカラー倍は連続で、$q$ は連続な開写像である。さらに
$$ V/M\text{ が Hausdorff}\quad\Longleftrightarrow\quad M\text{ が }V\text{ で閉} $$
である。したがって、ここで採用した定義で $V/M$ が位相ベクトル空間になるのは $M$ が閉じているときである。

$O\subset V$ が開なら $q^{-1}(q(O))=O+M=\bigcup_{m\in M}(O+m)$ は開である。商位相の定義により $q(O)$ は開、つまり $q$ は開写像である。$q\times q$ および $\mathrm{id}_{\mathbb K}\times q$ も連続な開全射なので商写像である。$q(x+y)=q(x)+q(y)$、$q(\lambda x)=\lambda q(x)$ と元の演算の連続性から、商の演算は連続である。
$V/M$ が Hausdorff なら $\{M\}$ は閉で、その逆像 $q^{-1}(\{M\})=M$ も閉である。逆に $M$ が閉なら、異なる剰余類 $q(x)\ne q(y)$ について $x-y\notin M$ である。差の連続性により $(x,y)$ の近傍 $O_x\times O_y$ を選び、すべての $u\in O_x,v\in O_y$ で $u-v\notin M$ とできる。$q(O_x),q(O_y)$ は開で、共通点があれば $u-v\in M$ となって矛盾する。よって商は Hausdorff である。

たとえば $\mathbb R^2$ の部分空間 $M=\mathbb R\times\{0\}$ で割ると、$[(x,y)]\mapsto y$ により商は通常の $\mathbb R$ と同相になる。一方、$V=\mathbb R$ を有理数全体の $\mathbb Q$ で割った加法群は $\mathbb Q$ が $\mathbb R$ 上の線形部分空間ではないので、この定理の例にならない。線形部分空間という仮定も重要である。

局所凸性と半ノルム

集合 $C\subset V$ が 凸とは、$x,y\in C$ と $0\leq t\leq1$ から $(1-t)x+ty\in C$ が従うことをいう。$0$ の凸な近傍を基底として選べる位相ベクトル空間を 局所凸という。ノルム球は凸だから、ノルム空間は局所凸である。

半ノルム

$V$ 上の関数 $p\colon V\to[0,\infty)$ が 半ノルムであるとは
$$ p(x+y)\leq p(x)+p(y),\qquad p(\lambda x)=|\lambda|p(x) $$
を満たすことをいう。ノルムと違い、$x\ne0$ でも $p(x)=0$ を許す。

半ノルムの族は、有限個の条件で近傍を定めることで位相を与える(Tay18b §3、pp. 13–15 は、この形で Fréchet 空間と局所凸空間を導入している)。逆に、局所凸な位相はいつでもこの形で得られる。

局所凸性と半ノルム族
  1. $\mathcal P$ を $V$ 上の半ノルムの族とし、$x\ne0$ ならある $p\in\mathcal P$ で $p(x)>0$ となるとする。$x\in V$、$p_1,\dots,p_m\in\mathcal P$、$\varepsilon>0$ に対し
    $$ U(x;p_1,\dots,p_m;\varepsilon):=\{y\in V:p_k(y-x)<\varepsilon\ (k=1,\dots,m)\} $$
    とおく。$O\subset V$ を、各 $x\in O$ についてある $U(x;\dots)$ が $O$ に含まれるとき開と定めると、$V$ は局所凸な位相ベクトル空間になる。
  2. 逆に $V$ が局所凸な位相ベクトル空間なら、その位相は、$V$ 上の連続な半ノルム全体の族から 1 の方法で作った位相に一致する。

1:開集合の合併が開であることは定義から明らかである。$O_1,O_2$ が開で $x\in O_1\cap O_2$ なら、$U(x;p_1,\dots,p_m;\varepsilon)\subset O_1$ と $U(x;q_1,\dots,q_l;\delta)\subset O_2$ をとり、半ノルムを並べた $U(x;p_1,\dots,p_m,q_1,\dots,q_l;\min(\varepsilon,\delta))$ が共通部分に含まれる。よって位相である。$U(x;p_1,\dots,p_m;\varepsilon)$ 自身も開である。実際 $y$ がこの集合に属するとき、$\eta:=\varepsilon-\max_kp_k(y-x)>0$ とおくと、三角不等式から $U(y;p_1,\dots,p_m;\eta)\subset U(x;p_1,\dots,p_m;\varepsilon)$ である。Hausdorff 性:$x\ne y$ なら $p(x-y)=:\delta>0$ となる $p$ があり、$U(x;p;\delta/2)$ と $U(y;p;\delta/2)$ は三角不等式により交わらない。演算の連続性は不等式
$$ p\bigl((x+y)-(x_0+y_0)\bigr)\leq p(x-x_0)+p(y-y_0),\qquad p(\lambda x-\lambda_0x_0)\leq\lvert\lambda\rvert p(x-x_0)+\lvert\lambda-\lambda_0\rvert p(x_0) $$
から従う(2 つ目の右辺は、$\lvert\lambda-\lambda_0\rvert<1$ なら $(\lvert\lambda_0\rvert+1)p(x-x_0)+\lvert\lambda-\lambda_0\rvert p(x_0)$ 以下で、$x\to x_0$、$\lambda\to\lambda_0$ で $0$ に近づく)。最後に $U(0;p_1,\dots,p_m;\varepsilon)$ は凸である。$p_k(y),p_k(z)<\varepsilon$ と $0\leq t\leq1$ から $p_k((1-t)y+tz)\leq(1-t)p_k(y)+tp_k(z)<\varepsilon$ となるからである。
2:元の位相を $\tau$、連続な半ノルム全体から作った位相を $\tau'$ とする。$\tau'$ の基本近傍 $U(x;p_1,\dots,p_m;\varepsilon)$ は、連続写像 $y\mapsto p_k(y-x)$ による開集合の逆像の共通部分なので $\tau$ で開である。よって $\tau'\subset\tau$ である。
逆を示す。$x$ の $\tau$ 近傍 $O$ をとる。$O-x$ は $0$ 近傍なので、局所凸性から凸な $0$ 近傍 $C\subset O-x$ がある。lem-tvs-balanced で均衡な $0$ 近傍 $B\subset C$ をとり、$A:=\bigcap_{\lvert\alpha\rvert=1}\alpha C$ とおく。$\lvert\alpha\rvert=1$ なら $B=\alpha(\alpha^{-1}B)\subset\alpha B\subset\alpha C$ なので $B\subset A$ であり、$A$ は $0$ 近傍である。$A$ は凸集合の共通部分なので凸で、$\lvert\beta\rvert\leq1$ なら $\beta=r\alpha_0$($0\leq r\leq1$、$\lvert\alpha_0\rvert=1$)と書けて $\alpha_0A=A$、$rA\subset A$(凸で $0\in A$)なので $A$ は均衡である。
$A$ の Minkowski 汎関数 $p_A(y):=\inf\{t>0:y\in tA\}$ を考える。prop-tvs-small-sum の後半により、各 $y$ について十分小さい $\lambda\ne0$ で $\lambda y\in A$ なので $p_A(y)<\infty$ である。$A$ は均衡なので $0< s< t$ なら $sA\subset tA$ であり、$\lvert\alpha\rvert=1$ なら $\alpha A=A$ である。これから $p_A(\lambda y)=\lvert\lambda\rvert p_A(y)$ が従う。凸性から $sA+tA=(s+t)A$ なので、$y\in sA$、$z\in tA$ なら $y+z\in(s+t)A$ であり、$p_A(y+z)\leq p_A(y)+p_A(z)$ である。よって $p_A$ は半ノルムである。$A\subset\{p_A\leq1\}$ なので、$y-z\in\varepsilon A$ なら $\lvert p_A(y)-p_A(z)\rvert\leq p_A(y-z)\leq\varepsilon$ であり、$p_A$ は $\tau$ で連続である。さらに $p_A(y)<1$ なら $y\in tA\subset A$(ある $t<1$)なので、
$$ U(x;p_A;1)=x+\{p_A<1\}\subset x+A\subset x+C\subset O $$
である。よって $O$ は $\tau'$ 近傍でもあり、$\tau\subset\tau'$ である。$\blacksquare$

たとえば $\mathbb K^{\mathbb N}$ の積位相は
$$ p_m(x)=\max_{1\leq j\leq m}|x_j|\qquad(m=1,2,\dots) $$
で定まる。各 $p_m$ は半ノルムだが、すべての座標を一度に制御する単一のノルムはこの位相を定めない。

無限直積はノルム化できない

$\mathbb K^{\mathbb N}$ の積位相は、どのノルムからも生じない。

積位相の任意の $0$ 近傍 $U$ は、最初の有限個の座標だけに条件を課す基本近傍 $C$ を含む。条件に現れない座標 $j$ を選ぶと、直線 $\{te_j:t\in\mathbb K\}$ 全体が $C\subset U$ に入る。座標 $j$ に $|x_j|<1$ を課す $0$ 近傍 $W$ を取れば、どの $s>0$ についてもこの直線は $sW$ に含まれない。したがって $U$ は有界でない。一方、ノルムの開単位球は有界な $0$ 近傍である。ゆえに積位相はノルムから生じない。

この例は局所凸だがノルム化できない。つまり「局所凸」と「ノルム化可能」は異なる。

無限直積上の連続線形汎関数

積位相を入れた $\mathbb K^{\mathbb N}$ から $\mathbb K$ への線形写像 $T$ が連続であるための必要十分条件は、ある $m$ と係数 $a_1,\dots,a_m\in\mathbb K$ が存在して
$$ T(x)=\sum_{j=1}^m a_jx_j $$
と書けることである。つまり連続線形汎関数は有限個の座標だけを読む。

$T$ が連続なら、$|T(x)|<1$ となる原点近傍の中に、有限個の座標だけに条件を課す基本近傍 $C$ を取れる。条件に現れない座標がすべて自由な部分空間を $E$ とすると、任意の $z\in E$ と $\lambda\in\mathbb K$ に対して $\lambda z\in C$ である。よって $|\lambda T(z)|<1$ がすべての $\lambda$ で成り立ち、$T(z)=0$ である。したがって $T$ は条件に現れた有限個の座標だけで決まる。逆向きは各座標射影の連続性と有限和の連続性から従う。

代数的には無限個の座標をもつベクトル空間に多くの線形汎関数を定義できるが、この位相に対して連続なものは有限個の座標で決まる。空間にどの位相を選ぶかが「使える線形写像」を変える具体例である。

局所凸でない例

$0< p<1$ とし、$[0,1]$ 上の可測関数をほとんど至るところの一致で割った空間で、$\int_0^1|f|^p<\infty$ を満たすものを $L^p(0,1)$ と書く。この範囲では三角不等式を満たすノルムは通常の式から得られないが、
$$ d(f,g):=\int_0^1|f-g|^p\,dx $$
は距離である。実際、$|a+b|^p\leq|a|^p+|b|^p$ が三角不等式を与える。また $d(f+g,f_0+g_0)\leq d(f,f_0)+d(g,g_0)$ と $d(\lambda f,\lambda_0f_0)\leq\lvert\lambda\rvert^pd(f,f_0)+\lvert\lambda-\lambda_0\rvert^pd(f_0,0)$ から加法・スカラー倍はこの距離で連続なので、Hausdorff な位相ベクトル空間となる。

$0< p<1$ の $L^p$ は局所凸でない

$0< p<1$ の $L^p(0,1)$ の上の距離 $d$ による位相は局所凸ではない。

$B_\varepsilon:=\{f:d(f,0)<\varepsilon\}$ とする。任意の $f\in L^p$ と十分大きい整数 $N$ について、連続関数 $F(t)=\int_0^t|f|^p$ の中間値の定理により、区間 $[0,1]$ を $N$ 個の互いに交わらない小区間 $I_j$ に分け、各区間での積分を $\int|f|^p/N$ とできる。$f_j:=Nf1_{I_j}$ と置けば
$$ f=\frac1N\sum_{j=1}^Nf_j,\qquad d(f_j,0)=N^{p-1}\int_0^1|f|^p\,dx. $$
$p-1<0$ なので、$N$ を大きくすればすべての $f_j$ は $B_\varepsilon$ に入る。よって $B_\varepsilon$ の凸包は $L^p$ 全体である。もし凸な $0$ 近傍 $C$ が存在すれば、ある $\varepsilon>0$ に対し $B_\varepsilon\subset C$ となり、凸性から $C=L^p$ となる。Hausdorff な空間では $L^p$ 全体だけでは $0$ の近傍基底になれない。したがって局所凸でない。

ここで $0< p<1$ の記号 $L^p$ は、通常の Lp空間 で主に扱う $p\geq1$ の Banach 空間とは別の振る舞いを示すために用いた。局所凸性を仮定する定理をこの例へ無条件に適用してはならない。

条件を外したときの反例

この記事の定理や性質の仮定を外すと、次のように結論が崩れる。

外す条件反例成り立たなくなること
Hausdorff$\mathbb K$ に密着位相有限次元の位相の一意性(thm-tvs-finite-dim)
部分空間が閉$V=\mathbb K^{\mathbb N}$(積位相)、$M=$ 有限個の座標以外が $0$ の列全体商 $V/M$ の Hausdorff 性(商は密着位相になる)
局所凸$L^p(0,1)$、$0< p<1$凸な $0$ 近傍の基本系、したがって半ノルムでの記述(thm-tvs-seminorm-topology)
ノルム化可能$\mathbb K^{\mathbb N}$(積位相)有界な $0$ 近傍の存在(局所凸でもノルムから生じない)
有限次元$M$(上の 2 行目)に $\mathbb K^{\mathbb N}$ の相対位相、$T(x)=\sum_jx_j$線形写像の自動的な連続性
表の反例の確かめ

2 行目:$M$ は $\mathbb K^{\mathbb N}$ で稠密である。$x$ の基本近傍は有限個の座標 $j\leq m$ にだけ条件を課すので、$x$ の $m+1$ 番目以降を $0$ にした列 $x'\in M$ を含むからである。$M\neq\mathbb K^{\mathbb N}$ なので $M$ は閉でなく、thm-tvs-quotient により $V/M$ は Hausdorff でない。実際 $O$ が空でない開集合なら、任意の $v$ について開集合 $v-O$ は稠密な $M$ と交わり、$v\in O+M$ となる。したがって $q(O)=V/M$ であり、商の開集合は $\emptyset$ と全体だけである。
5 行目:$M$ は線形部分空間で、相対位相で Hausdorff な位相ベクトル空間である(演算は $V$ の演算の制限)。$T$ が連続なら、$\lvert T(x)\rvert<1$ となる $0$ 近傍の中に、座標 $j\leq m$ だけに条件を課す基本近傍と $M$ の共通部分 $C$ がとれる。$j>m$ の単位ベクトル $e_j$ は $M$ に属し、すべての $\lambda\in\mathbb K$ で $\lambda e_j\in C$ なので $\lvert\lambda\rvert=\lvert T(\lambda e_j)\rvert<1$ となり矛盾する。よって $T$ は連続でない。$M$ は無限次元なので thm-tvs-finite-dim の仮定を満たさない。

使い分け

空間位相の与え方局所凸単一ノルム
$\mathbb K^n$通常の座標位相はいあり
Banach空間完備なノルムはいあり
$\mathbb K^{\mathbb N}$座標ごとの積位相はいなし
$L^p(0,1)$、$0< p<1$$d(f,g)=\int\lvert f-g\rvert^p$いいえなし

位相ベクトル空間の定義は「和とスカラー倍が連続」という最小限の条件である。局所凸性や完備性を加えると使える定理が増えるが、それらは定義から自動的には従わない。線形写像を調べる際には、まずどの位相を入れたか、原点近傍は何かを明示すると混乱を避けられる。

関連項目

参考文献

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