ノルム(norm)とは、実または複素ベクトル空間の元に非負の大きさを与える関数で、零ベクトルの識別、絶対斉次性、三角不等式を満たす。ノルムから距離が定まり、収束と連続性を論じられる。有限次元では異なるノルムが同値である一方、無限次元では同値でない例がある。数ベクトルと連続関数の具体例を通じて、内積との違いや線形写像の評価を説明する。
平面上の点 $(3,4)$ は原点から距離 $5$ にある。しかしベクトルの大きさの測り方は、このユークリッド的な長さだけではない。二つの座標の絶対値を足せば $7$、大きい方だけを採れば $4$ になる。いずれも「大きさ」の候補として、零ベクトルだけが長さ $0$、スカラー倍による拡大率が絶対値、二つのベクトルを足しても長さがそれぞれの長さの和を超えない、という三つの性質を持つ。この共通部分を抜き出したものがノルムである。
関数をベクトルとみなす空間では、ノルムはさらに重要になる。連続関数の最大値で測る方法と、絶対値の積分で測る方法は、同じ関数に異なる大きさを与える。関数列がある関数へ「近づく」という言葉さえ、どのノルムで測るかに依存する。ノルムの選択は単なる数値表示の違いではなく、解析で扱う収束や連続性を決めることがある。刊行教科書 Cla20 のノルム空間と線形作用素の章が、ここで述べる基本事項の参照先である。
以下 $K$ は $\mathbb R$ または $\mathbb C$、$V$ は $K$ 上のベクトル空間とする。複素数 $a$ の $|a|$ は複素絶対値であり、実数の場合は通常の絶対値である。
写像 $N:V\to\mathbb R$ が次を満たすとき、$N$ を $V$ 上のノルム(norm)という。$N(x)$ は通常 $\|x\|$ と書く。
公理の役割は異なる。正定値性は「大きさ $0$」がただ一つのベクトルを指すことを保証する。絶対斉次性は線形構造と大きさを結び、三角不等式は和の評価を可能にする。とくに斉次性へ $a=0$ を代入すると $\|0\|=0$、$a=-1$ を代入すると $\|-x\|=\|x\|$ が得られる。ノルムはすでに実数値としたので、非負性は他の二公理からも導ける。実際 $0=\|0\|=\|x+(-x)\|\leq2\|x\|$ である。ただし定義では大きさの性質を明瞭にするため非負性も書いた。
三角不等式を繰り返せば、有限個の和について $\|\sum_{j=1}^m x_j\|\leq\sum_{j=1}^m\|x_j\|$ となる。これは帰納法による。$m=2$ が公理であり、$m$ 個で成り立てば、最初の $m$ 個を一つのベクトルとして最後の $x_{m+1}$ と合わせればよい。この評価があるため、誤差を小さな項の和へ分解しても、全体の誤差を制御できる。
すべての $x,y\in V$ について
$$
\bigl|\|x\|-\|y\|\bigr|\leq\|x-y\|
$$
が成り立つ。従って、$x$ を少し動かしたときノルムの値もそれ以上には変わらない。
$x=(x-y)+y$ に三角不等式を適用すると $\|x\|\leq\|x-y\|+\|y\|$、すなわち $\|x\|-\|y\|\leq\|x-y\|$。$x,y$ を交換すると $\|y\|-\|x\|\leq\|y-x\|$ となる。斉次性より $\|y-x\|=\|-(x-y)\|=\|x-y\|$ である。二つを合わせると、実数 $\|x\|-\|y\|$ の正負どちらにも同じ上界が付く。従って絶対値を取った形の不等式を得る。
この不等式は、絶対値の逆三角不等式を一般のベクトルに移したものである。ここで $\|x-y\|$ が小さくなる列 $x$ を考えると、ノルムの値も対応して近づく。この事実には有限次元性も完備性も不要で、三公理だけで十分である。
$x=(x_1,\ldots,x_n)\in K^n$、$n\geq1$ に対して
$$
\|x\|_1=\sum_{j=1}^{n}|x_j|,\qquad
\|x\|_2=\left(\sum_{j=1}^{n}|x_j|^2\right)^{1/2},\qquad
\|x\|_\infty=\max_{1\leq j\leq n}|x_j|
$$
と置く。これらを順に $1$-ノルム、$2$-ノルム、上限ノルムと呼ぶ。$n=2$ で $(3,4)$ を入れると値は $7,5,4$ になる。同じ非零ベクトルでも三つの値が一致するとは限らない。
上の $\|\cdot\|_1$ と $\|\cdot\|_\infty$ は、実・複素いずれの $K^n$ 上でもノルムである。
$1$-ノルムでは、各 $|x_j|$ が非負なので和も非負である。和が $0$ なら非負のすべての項が $0$ であり、$x=0$ となる。$\|ax\|_1=\sum_j|ax_j|=|a|\sum_j|x_j|=|a|\|x\|_1$ で斉次性も成立する。各成分の絶対値の三角不等式を足せば
$$
\|x+y\|_1=\sum_j|x_j+y_j|
\leq\sum_j(|x_j|+|y_j|)
=\|x\|_1+\|y\|_1
$$
となる。
上限ノルムでは、最大値が $0$ になるのは全成分が $0$ になるときに限る。$\max_j|ax_j|=|a|\max_j|x_j|$ は $a=0$ の場合も含めて成立する。各 $j$ について $|x_j+y_j|\leq|x_j|+|y_j|\leq\|x\|_\infty+\|y\|_\infty$ なので、左辺の最大値を取っても同じ上界が残る。これが三角不等式である。
$2$-ノルムは標準内積から作られる。複素数の場合は $\langle x,y\rangle=\sum_jx_j\overline{y_j}$ とする。三角不等式の肝はCauchy-Schwarzの不等式であり、$\|x+y\|_2^2=\|x\|_2^2+2\operatorname{Re}\langle x,y\rangle+\|y\|_2^2\leq(\|x\|_2+\|y\|_2)^2$ で確かめられる。ここでは $2$-ノルムを内積が作る一例として使い、任意のノルムが内積から来るとは考えない。
一般に $1\leq p<\infty$ なら $\|x\|_p=(\sum_j|x_j|^p)^{1/p}$ もノルムである。その三角不等式は $p=1,2$ 以外ではMinkowskiの不等式に依存する。この式を $0< p<1$ へ機械的に広げると公理は壊れる。$e_1=(1,0)$ と $e_2=(0,1)$ はそれぞれ値 $1$ を持つが、$\|e_1+e_2\|_p=2^{1/p}>2$ となり、三角不等式に反する。式が非負で斉次的であるだけでは、ノルムとはいえない。
$V$ 上のノルムから $d(x,y)=\|x-y\|$ と定めると、$d$ は距離である。さらに $d(x+z,y+z)=d(x,y)$、$d(ax,ay)=|a|d(x,y)$ を満たす。
$d(x,y)\geq0$ は正定値性による。$d(x,y)=0$ なら $x-y=0$、従って $x=y$ であり、逆も成立する。対称性は $d(y,x)=\|-(x-y)\|=\|x-y\|$。三角不等式は $x-z=(x-y)+(y-z)$ を使って $d(x,z)\leq d(x,y)+d(y,z)$ となる。さらに $(x+z)-(y+z)=x-y$ で平行移動不変性が従い、$ax-ay=a(x-y)$ で拡大縮小則が従う。以上はそれぞれノルムの三公理の直接の帰結である。
距離を先に任意に与えればノルムを復元できるわけではない。たとえば非零実ベクトル空間に離散距離、すなわち異なる二点の距離をすべて $1$ とする距離を載せても、原点からの距離はノルムにならない。$x\ne0$ で $d(0,x)=1$ だが $d(0,2x)=1$ のままであり、ノルムなら斉次性から $2$ でなければならない。平行移動で変わらない距離という条件だけでも足りず、スカラー倍との整合性が必要である。
この距離を使うと、$x_m\to x$ は $\|x_m-x\|\to0$ と書ける。逆三角不等式から、$x_m\to x$ なら $\|x_m\|\to\|x\|$ が直ちに分かる。特に極限のノルムはノルムの極限に等しい。しかし $\|x_m\|$ の収束だけでは $x_m$ 自身の収束は出ない。実数上で $x_m=(-1)^m$ とすれば、すべてのノルム値は $1$ だが点列は収束しない。「大きさ」の情報だけでは方向や符号は復元できないのである。
ノルム球 $B_r(a)=\{x:\|x-a\|< r\}$ を考えると、これは上の距離の開球に等しい。点列の収束だけでなく、開集合、閉集合、連続写像の意味もこうして定まる。足し算とスカラー倍はこの距離について連続である。実際 $x_m\to x$、$y_m\to y$ なら $\|(x_m+y_m)-(x+y)\|\leq\|x_m-x\|+\|y_m-y\|\to0$ である。また $a_m\to a$ なら
$$
\|a_mx_m-ax\|\leq |a_m|\|x_m-x\|+|a_m-a|\|x\|
$$
で、$a_m$ は有界だから右辺は $0$ へ向かう。これらの連続性は、ノルムがベクトル空間の線形演算と距離を結び付けることを示す。
区間 $[0,1]$ 上の連続関数全体 $C([0,1],K)$ は、関数どうしの和とスカラー倍でベクトル空間になる。有限次元の座標の代わりに、すべての $t\in[0,1]$ における値を比べる。
$f\in C([0,1],K)$ に対し
$$
\|f\|_{\sup}=\max_{0\leq t\leq1}|f(t)|,\qquad
\|f\|_{\mathrm{int}}=\int_0^1|f(t)|\,dt
$$
と置く。両方ともノルムである。前者は一点でも大きい値があればそれを捉え、後者は区間全体にわたる大きさを足し合わせる。$\|f\|_{\mathrm{int}}\leq\|f\|_{\sup}$ だが、無限次元のこの空間では逆向きの一律の定数倍評価はない。
上限ノルムの最大値は連続性と閉区間のコンパクト性によって存在する。関数が零関数でなければどこかで $|f(t)|>0$ なので正定値性を満たす。点ごとの三角不等式から $|f(t)+g(t)|\leq\|f\|_{\sup}+\|g\|_{\sup}$、最大値を取っても同じ上界が成立する。積分ノルムでも、絶対値の点ごとの三角不等式を積分すればよい。連続な非負関数の積分が $0$ なら、その関数はすべての点で $0$ である。もしある点で正なら、その近くの長さが正の小区間でも正の下界を持ち、積分が正になって矛盾する。従って積分ノルムも正定値的である。斉次性は $|af(t)|=|a||f(t)|$ からどちらにも従う。
二つの差を目で見るため、$f_n(t)=\max(1-nt,0)$ と置く。どの $n$ でも $f_n(0)=1$ なので $\|f_n\|_{\sup}=1$ である。一方、グラフは幅 $1/n$、高さ $1$ の三角形であり、$\|f_n\|_{\mathrm{int}}=1/(2n)\to0$。よって $f_n$ は積分ノルムでは零関数へ収束するが、上限ノルムでは収束しない。先の $\|f\|_{\mathrm{int}}\leq\|f\|_{\sup}$ は「上限ノルムで収束すれば積分ノルムでも収束する」という一方向だけを保証する。この反例は、二種類のノルムが同じ関数の空間に本当に異なる収束を与えることを示す。
連続関数に限らない可測関数へ積分の式を拡張すると、積分が $0$ でも零でない関数があり得る。一点だけ値 $1$ を取り他では $0$ の関数がその例である。Lp空間ではほとんど至る所で一致する関数を同じ元とみなすことで、正定値性を回復する。定義域と元の同一視を指定しないまま「積分はノルム」と言うと誤解を生む理由がここにある。
内積がある場合は $\|x\|=\sqrt{\langle x,x\rangle}$ としてノルムを作れる。特に標準内積は上の $2$-ノルムを生む。ところが逆は成り立たない。内積が生むノルムなら、内積を展開するだけで平行四辺形等式
$$
\|x+y\|^2+\|x-y\|^2=2\|x\|^2+2\|y\|^2
$$
を満たす。$\mathbb R^2$ の上限ノルムに $x=(1,0)$、$y=(0,1)$ を入れると、左辺は $1+1=2$、右辺は $2+2=4$ となる。従ってこのノルムはどんな内積からも作れない。同じ二次元空間でも、ノルムという構造は内積より広い。
単位球 $\{x:\|x\|\leq1\}$ は三角不等式によって凸である。$x,y$ が単位球にあり $0\leq t\leq1$ なら、$\|(1-t)x+ty\|\leq(1-t)\|x\|+t\|y\|\leq1$。また $\|-x\|=\|x\|$ なので原点に関して対称である。平面で $1$-ノルムの単位球は菱形、$2$-ノルムでは円板、上限ノルムでは正方形になる。形が違っていても、どれも凸で原点対称という二点を共有する。
同じ $V$ 上のノルム $N$ と $M$ が同値であるとは、正定数 $c,C$ が存在し、すべての $x\in V$ に対して $cN(x)\leq M(x)\leq CN(x)$ となることである。定数は $x$ ごとに取り直してはならない。
同値な二つのノルムは、同じ収束列、同じ Cauchy 列、同じ開集合を定める。一方が完備であることと他方が完備であることも同値である。
$N(x_m-x)\to0$ なら $0\leq M(x_m-x)\leq C N(x_m-x)\to0$ なので $M$ に関しても $x_m\to x$。逆は $N(x_m-x)\leq c^{-1}M(x_m-x)$ を使う。Cauchy 列についても、$x_m-x_k$ を同じ二つの評価へ代入すれば両方向が従う。距離空間では開集合を各点における小さな開球の存在で定義する。$M(x-a)< cr$ は $N(x-a)< r$ を含意し、$N(x-a)< r/C$ は $M(x-a)< r$ を含意するので、開集合も一致する。完備性はすべての Cauchy 列が収束することであり、今示した二つの同値性から従う。
この定義は反射的・対称的・推移的でもある。対称性は元の不等式を $C^{-1}M(x)\leq N(x)\leq c^{-1}M(x)$ と書き換える。二組の比較を続けて使えば定数を掛け合わせられるので推移性も出る。収束が同じという結論より、具体的な評価に使う二つの定数が得られる点が強い。
有限次元の実または複素ベクトル空間上では、どの二つのノルムも同値である。
$\dim_K V=0$ なら $V=\{0\}$ であり、任意の二つのノルムはともに零ベクトル上で値 $0$ を取るから同値である。以下 $n=\dim_K V\geq1$ とする。基底を一つ固定して $V$ を $K^n$ と同一視し、標準の $2$-ノルムを $E$ と書く。任意のノルム $N$ が $E$ と同値であることを示せばよい。標準基底 $e_j$ に対して、三角不等式と斉次性から
$$
N(x)=N\left(\sum_{j=1}^n x_je_j\right)
\leq\sum_{j=1}^n|x_j|N(e_j)
\leq\left(\sum_{j=1}^nN(e_j)\right)E(x)
$$
となる。従って $N$ は $E$ の距離について連続である。$E$ の単位球面 $S=\{x:E(x)=1\}$ は有限次元の実空間で閉かつ有界であり、コンパクトである。複素の場合も $K^n$ を実 $2n$ 次元空間と見れば同じである。連続な $N$ は $S$ 上で最小値 $c$ を取る。$S$ の点はすべて非零なので正定値性から $c>0$。$x\ne0$ なら $x/E(x)\in S$ で、斉次性より $N(x)=E(x)N(x/E(x))\geq cE(x)$。$x=0$ でもこの評価は成り立つ。先の上界と合わせて $cE(x)\leq N(x)\leq CE(x)$ が得られた。二つの任意のノルムをそれぞれ $E$ と比較すれば、互いの同値性が従う。
ここでは単位球面のコンパクト性が決定的である。上界は基底の各ベクトルのノルムだけから作れるが、すべての方向で共通の正の下界はコンパクト性で得る。無限次元ではこの論法をそのまま移せない。具体的には、有限個以外の成分が $0$ である数列の空間 $c_{00}$ に、和による $\|\cdot\|_1$ と最大値による $\|\cdot\|_\infty$ を定める。どちらも有限の値でノルムとなるが、最初の $n$ 成分を $1$ とした数列 $u_n$ は $\|u_n\|_1=n$、$\|u_n\|_\infty=1$ である。従って $\|x\|_1\leq C\|x\|_\infty$ をすべての $x$ に共通の定数 $C$ で満たすことはできない。有限次元の定理を無限次元へ拡張できないことが、数列一つで分かる。
ノルム空間 $V,W$ の間の線形写像 $T:V\to W$ を考える。各点で $T(x)$ が有限の値を持つというだけでは、入力の小ささが出力の小ささへ伝わるとは限らない。そこで、ある $M\geq0$ が存在して $\|T(x)\|_W\leq M\|x\|_V$ がすべての $x$ に成り立つことを有界性と呼ぶ。この $M$ は一つの $x$ ごとではなく、空間全体に共通である。たとえば行列が定める写像では、行列と二つのノルムを固定すればそのような定数が見つかる。
線形写像 $T:V\to W$ は、$0$ で連続であること、全ての点で連続であること、および $\|T(x)\|_W\leq M\|x\|_V$ を満たす定数 $M$ が存在することが同値である。
定数 $M$ があれば $\|T(x)-T(y)\|_W=\|T(x-y)\|_W\leq M\|x-y\|_V$ なので、全ての点で連続である。全ての点で連続なら特に $0$ で連続である。逆に $0$ で連続なら、出力ノルムが $1$ 未満となるような入力半径 $\delta>0$ がある。$x\ne0$ に対し $z=\delta x/(2\|x\|_V)$ と置けば $\|z\|_V=\delta/2<\delta$ なので $\|T(z)\|_W<1$。線形性と斉次性から $\|T(x)\|_W<2\|x\|_V/\delta$ を得る。$x=0$ でも同じ不等式が成立するので、$M=2/\delta$ が求める一律の定数である。
この判定の上で、最小の可能な上界は作用素ノルムと呼ばれる。$\|T\|=\sup_{\|x\|_V\leq1}\|T(x)\|_W$ であり、有限になるのは線形写像が連続な場合である。どの入力ノルムと出力ノルムを選ぶかによって数値は変わる。たとえば $T$ が恒等写像であっても、$C([0,1])$ の上限ノルムから積分ノルムへの写像なら $\|f\|_{\mathrm{int}}\leq\|f\|_{\sup}$ により有界だが、逆向きの恒等写像は先の $f_n$ によって有界でない。線形写像の連続性は、関数の式だけでなく両側のノルムにも依存する。
Banach空間とは、ノルムの誘導距離で Cauchy 列が必ず収束するノルム空間である。完備性はノルムの三公理とは別の条件である。$C([0,1])$ は上限ノルムで完備だが、上で見た積分ノルムでは一般に完備でない。前者では一様 Cauchy な連続関数列の極限は連続である一方、後者では積分的に近づいた関数列の極限が不連続になり得る。同じベクトル空間でのこの違いは、ノルムの選択が解析的な対象そのものを左右することを示す。
正定値性から「値が $0$ なら $x=0$」だけを外し、非負性、斉次性、三角不等式を保つものを半ノルムという。たとえば $C([0,1])$ で $p(f)=|f(0)|$ は半ノルムであり、$f(0)=0$ でも零関数でない関数が多くあるためノルムではない。逆に、この区別がなければ誘導距離 $p(f-g)$ は異なる関数の間で $0$ となってしまう。正定値性は数学的な飾りではなく、距離として点を識別するために不可欠である。
「ノルム」という語は別の分野で異なる演算にも使われる。体の拡大における体のノルムは、ベクトルの大きさを与えるこの定義と同一ではない。たとえば体のノルムは値が係数体の元であり、非負実数値とは限らない。したがって文脈の $V$ と $K$ を確認してから公理を適用する必要がある。
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