Mitchellの埋め込み定理(Mitchell's embedding theorem)とは、任意の小さいアーベル圏 $\mathcal{A}$ に対し、ある環 $R$ と、$\mathcal{A}$ から左 $R$ 加群の圏 $R\text{-}\mathbf{Mod}$ への充満忠実かつ完全な加法関手 $F$ が存在するという定理であり、Freyd–Mitchellの定理ともいう。$F$ が充満忠実かつ完全なので、$\mathcal{A}$ の射のモノ・エピ・同型性や列の完全性は加群側の対応する性質と同値になり、五項補題や蛇の補題を加群の元を追って証明し一般のアーベル圏へ持ち帰ることが正当化される。証明は米田埋め込み・Ind 対象・十分大きな入射的余生成子 $I$ の関手 $\mathrm{Hom}(-,I)$ を組み合わせる。
前提知識: アーベル圏, 加法圏, 完全列, 完全関手, 充満忠実関手
小さいアーベル圏 $\mathcal{A}$ の対象は、一般には集合ではなく、その「元」を語ることができない。にもかかわらず、五項補題・蛇の補題・3×3補題をはじめ、ホモロジー代数の基本的な補題の多くは、教科書では「元を取って」図式を追いかける形で証明される。これを正当化する方法は2通りある。1つは、それらの補題を元を用いずに射の合成・核・余核の普遍性だけで証明し直す方法だが、これは往々にして技術的に煩雑で見通しが悪い。もう1つが、Mitchell の埋め込み定理が与える方法である。すなわち、小さいアーベル圏 $\mathcal{A}$ をある環 $R$ 上の加群の圏 $R\text{-}\mathbf{Mod}$ の中に、充満忠実かつ完全な関手によって埋め込んでしまえば、$R\text{-}\mathbf{Mod}$ の対象は文字通り集合(台となる加群の元の集合)を持つから、そこで通常の「元を取る」議論によって補題を証明し、その結果を埋め込みを通じて元の $\mathcal{A}$ へ持ち帰ることができる。
この「持ち帰り」が正当である理由は、埋め込み関手 $F$ が完全であるだけでなく充満忠実でもある点にある。完全性だけでは、$F$ が $\mathcal{A}$ の完全列を $R\text{-}\mathbf{Mod}$ の完全列に写すという一方向の保存しか保証しない。忠実性と完全性を組み合わせることで初めて、逆に $R\text{-}\mathbf{Mod}$ 側で確かめた完全性・単射性・全射性が $\mathcal{A}$ 側の対応する性質と論理的に同値であることが従う(充満性は、$R\text{-}\mathbf{Mod}$ 側で構成した射を $\mathcal{A}$ に持ち帰るときに要る。cor-mitchell-reflects-exactness が精密な主張と証明を与える)。したがって「可換図式が与えられ、行が完全で、いくつかの射が同型(あるいは単射・全射)であるとき、残りの射も同型(あるいは単射・全射)である」という形の主張は、$R\text{-}\mathbf{Mod}$ における通常の元を用いた証明がそのまま $\mathcal{A}$ における証明として通用する。
この事実は、ホモロジー代数の教科書が「一般のアーベル圏でも、あたかも加群の圏であるかのように元を取って議論してよい」と断って先へ進む箇所の、厳密な裏付けを与えている。
圏 $\mathcal{A}$ が小さい(small)とは、$\mathcal{A}$ の対象全体が集合をなし、任意の対象 $A,B$ について $\mathrm{Hom}_{\mathcal{A}}(A,B)$ が集合であることをいう。
$\mathcal{A},\mathcal{B}$ をアーベル圏とする。加法関手 $F\colon\mathcal{A}\to\mathcal{B}$ について、
$\mathcal{A}$ を小さいアーベル圏とする。このとき、環 $R$ と加法関手
$$
F\colon\mathcal{A}\to R\text{-}\mathbf{Mod}
$$
($R\text{-}\mathbf{Mod}$ は左 $R$ 加群の圏を表す)であって、次の2条件を満たすものが存在する。
thm-mitchell-embedding の完全な証明は Freyd Fre64 Ch. 7、Mitchell Mit64、Weibel Wei94 Theorem 1.6.1 に譲る。本記事では、標準的な証明の方針を4段階に分けて述べ、そのうち第1段(加法的米田埋め込みの充満忠実性、lem-mitchell-yoneda-full-faithful)と、定理の使い方に関わる系(cor-mitchell-reflects-exactness)に完全な証明を与える。なお Fre64 の定理番号と KS06 の節番号は未確認のため、本記事では章単位で引く。
非形式的に言えば、小さいアーベル圏はある環上の加群の圏の中に、対象間の射の全体も完全列という構造も過不足なく「そっくりそのまま」写し込むことができる、というのがこの定理の主張である。
Freyd–Mitchell の定理の完全な証明は、Grothendieck圏・Ind 対象(Ind対象)・生成対象・入射的余生成子といった相当な準備を要する長い議論であり、ここでは証明の全体を一から与えることはしない。以下ではまず標準的な証明の方針を4段階に分けて概観し(第2〜4段は要となる事実を文献から引用し、第4段の充満性の議論だけはその事実から完全に導く)、続いて方針の中心的補題である加法的米田埋め込みの充満忠実性を証明する(全単射性の議論は 米田の補題 の記事の命題と同じである)。
第1段(米田埋め込み)。$\mathcal{A}$ を対象とする加法的な反変関手のなす関手圏 $\mathrm{Add}(\mathcal{A}^{\mathrm{op}},\mathbf{Ab})$(対象は加法関手 $\mathcal{A}^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Ab}$、射は自然変換)を考える。核・余核を各対象ごとにアーベル群の圏 $\mathbf{Ab}$ の中で計算できるので、これはアーベル圏である(Wei94 §1.6)。各対象 $A\in\mathcal{A}$ に表現可能関手 $h_A:=\mathrm{Hom}_{\mathcal{A}}(-,A)$ を対応させる(加法的)米田埋め込み
$$
y\colon\mathcal{A}\to\mathrm{Add}(\mathcal{A}^{\mathrm{op}},\mathbf{Ab}),\qquad A\mapsto h_A
$$
は充満忠実である。これは lem-mitchell-yoneda-full-faithful として本記事が証明する(集合値関手についての対応する主張は米田の補題の系である。ML98 第III章 §2)。
第2段(左完全性と右完全性の失敗)。$h_A=\mathrm{Hom}_{\mathcal{A}}(-,A)$ は左完全関手である($0\to A'\to A''\to A'''\to0$ が完全なら $0\to\mathrm{Hom}(A''',A)\to\mathrm{Hom}(A'',A)\to\mathrm{Hom}(A',A)$ は完全)が、一般には右完全関手ではない。$\mathrm{Hom}(A'',A)\to\mathrm{Hom}(A',A)$ の全射性、すなわち $A'\to A$ が常に $A''\to A$ へ延長できることは、$A$ が入射的(入射対象・射影対象)とは限らない一般のアーベル圏では成り立たない(完全関手 の記事の反例の双対。例:$\mathbb{Z}\xrightarrow{2}\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/2\to0$ に $\mathrm{Hom}(-,\mathbb{Z})$ を当てると $0\to\mathrm{Hom}(\mathbb{Z}/2,\mathbb{Z})=0\to\mathbb{Z}\xrightarrow{2}\mathbb{Z}$ で右端が全射でない)。したがって $y$ は充満忠実だが完全とは限らず、このままでは定理の条件 2 を満たさない。
第3段(Ind 化)。この右完全性の失敗を解消するのが、$\mathcal{A}$ の Ind 対象の圏 $\mathrm{Ind}(\mathcal{A})$($\mathcal{A}$ の対象を頂点とするフィルター余極限で自由に閉じて得られる圏、Ind対象)を経由する構成である。$\mathrm{Ind}(\mathcal{A})$ は、左完全な反変加法関手のなす充満部分圏 $\mathrm{Lex}(\mathcal{A}^{\mathrm{op}},\mathbf{Ab})\subset\mathrm{Add}(\mathcal{A}^{\mathrm{op}},\mathbf{Ab})$ と同値であり、$\mathcal{A}$ が小さいことから矛盾なく定義される圏になる。次の2つの事実が成り立つ(証明は本記事の範囲を超える。Freyd Fre64 は同値な構成を関手圏の中で直接行い、Kashiwara–Schapira KS06 第8章は Ind 対象の言葉で整理している)。
$\mathcal{A}$ を(アーベル圏をはじめとする)前加法圏($\mathbf{Ab}$ 豊穣圏、すなわち各 $\mathrm{Hom}$ 集合がアーベル群の構造をもち合成がその上双線型写像であるような圏。加法圏を参照)とする。対象 $A\in\mathcal{A}$ に対し $h_A:=\mathrm{Hom}_{\mathcal{A}}(-,A)\colon\mathcal{A}^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Ab}$ とおき、射 $f\colon A\to B$ に対し $y(f):=f_*\colon h_A\to h_B$(各対象 $X$ での成分が $f_*\colon\mathrm{Hom}(X,A)\to\mathrm{Hom}(X,B)$、$u\mapsto f\circ u$ で与えられる自然変換)とおく。このとき、対応 $f\mapsto f_*$ が定める写像
$$
y_{A,B}\colon\mathrm{Hom}_{\mathcal{A}}(A,B)\to\mathrm{Nat}(h_A,h_B)
$$
はアーベル群の同型である。特に、$A\mapsto h_A$ で定まる関手 $y$ は充満忠実である。
まず、$y$ が実際に関手として矛盾なく定まること(恒等射の保存 $y(\mathrm{id}_A)=\mathrm{id}_{h_A}$ と合成の保存 $y(g\circ f)=y(g)\circ y(f)$)は、$(g\circ f)_*=g_*\circ f_*$ が合成の結合法則から直ちに従うことから明らかであり、以下では所与として用いる。
$y_{A,B}$ が全単射であること。全単射性の議論は、集合値関手についての 米田の補題 の記事の命題(米田埋め込みの充満忠実性)と同じである。まず、各 $f\colon A\to B$ について $f_*$ は確かに $\mathbf{Ab}$ 値関手の自然変換 $h_A\to h_B$ である。実際、各成分 $u\mapsto f\circ u$ は合成の双線型性 $f\circ(u+v)=f\circ u+f\circ v$ により群準同型であり、任意の $v\colon X'\to X$ と $u\in\mathrm{Hom}(X,A)$ に対し $(f_*)_{X'}(u\circ v)=f\circ u\circ v=(f_*)_X(u)\circ v$ が成り立つので自然性を満たす。
単射性。$f,g\in\mathrm{Hom}_{\mathcal{A}}(A,B)$ が $f_*=g_*$ を満たすなら、成分 $X=A$ を $\mathrm{id}_A$ で評価して $f=f\circ\mathrm{id}_A=(f_*)_A(\mathrm{id}_A)=(g_*)_A(\mathrm{id}_A)=g\circ\mathrm{id}_A=g$ を得る。
全射性。$\alpha\colon h_A\to h_B$ を任意の自然変換とし、$f:=\alpha_A(\mathrm{id}_A)\in\mathrm{Hom}_{\mathcal{A}}(A,B)$ とおく。任意の対象 $X$ と $u\in\mathrm{Hom}_{\mathcal{A}}(X,A)$ に対し、$\alpha$ の自然性(射 $u\colon X\to A$ に対する可換性 $\alpha_X\circ h_A(u)=h_B(u)\circ\alpha_A$。ここで $h_A(u)=u^*\colon\mathrm{Hom}(A,A)\to\mathrm{Hom}(X,A)$、$h_B(u)=u^*\colon\mathrm{Hom}(A,B)\to\mathrm{Hom}(X,B)$ はともに $u$ との前合成)を $\mathrm{id}_A\in\mathrm{Hom}(A,A)$ で評価すると
$$
\alpha_X(u)=\alpha_X(\mathrm{id}_A\circ u)=\alpha_A(\mathrm{id}_A)\circ u=f\circ u=(f_*)_X(u)
$$
を得る。ゆえに $\alpha=f_*=y_{A,B}(f)$ であり、$y_{A,B}$ は全射である。以上より $y_{A,B}$ は全単射で、その逆写像は $\alpha\mapsto\alpha_A(\mathrm{id}_A)$ で与えられる。
$y_{A,B}$ が群準同型であること。$\mathcal{A}$ は $\mathbf{Ab}$ 豊穣圏なので合成は双線型、すなわち $(f+g)\circ u=f\circ u+g\circ u$ が成り立つ。したがって $f,g\in\mathrm{Hom}_{\mathcal{A}}(A,B)$ に対し、各対象 $X$ での成分ごとに $((f+g)_*)_X=(f_*)_X+(g_*)_X$ が成り立ち、$y_{A,B}(f+g)=y_{A,B}(f)+y_{A,B}(g)$ を得る。ゆえに $y_{A,B}$ は群準同型である。
以上より $y_{A,B}$ は全単射な群準同型、すなわちアーベル群の同型である。$A,B\in\mathcal{A}$ は任意であったから、$y$ は充満忠実である。$\square$
この補題により、証明の方針・第1段の主張、すなわち米田埋め込み $y\colon\mathcal{A}\to\mathrm{Add}(\mathcal{A}^{\mathrm{op}},\mathbf{Ab})$ が充満忠実であることが示された。方針の第2〜4段は、この充満忠実性を保ったまま完全性を回復するための技術的な迂回路(Ind 化と、十分大きな入射的余生成子 $I$ に対する $\mathrm{Hom}(-,I)$ の適用)であり、$\mathcal{A}$ が小さいという仮定のもとで最終的に環 $R$ 上の加群圏への充満忠実かつ完全な埋め込み $F$ が得られる、というのが定理の主張の全体像である。
Mitchell の埋め込み定理そのものよりも、実務上重要なのはその「使い方」である。定理が保証する埋め込み関手 $F\colon\mathcal{A}\to R\text{-}\mathbf{Mod}$ が充満忠実かつ完全であることから、次の系が従う。
$F\colon\mathcal{B}\to\mathcal{C}$ を、アーベル圏の間の加法関手で、充満・忠実・完全であるとする。このとき次が成り立つ。
以下、完全関手が核・余核・像を保つこと($F(\ker f)\cong\ker(Ff)$、$F(\operatorname{coker}f)\cong\operatorname{coker}(Ff)$、$F(\operatorname{im}f)\cong\operatorname{im}(Ff)$ で、これらの同型は核・余核・像の標準射と両立する)を、アーベル圏論の標準的な結果として用いる(完全関手、Wei94 §1.6。$0\to\ker f\to A\xrightarrow{f}B$ という左完全列を $F$ で写せば $0\to F(\ker f)\to F(A)\xrightarrow{F(f)}F(B)$ も完全となることから従う)。
(1) モノ射・エピ射の反映。まず $F(f)$ がモノ射ならば $f$ がモノ射であることを示す。$g_1,g_2\colon X\to B'$ が $f\circ g_1=f\circ g_2$ を満たすとする。$F$ を施すと $F(f)\circ F(g_1)=F(f)\circ F(g_2)$ であり、$F(f)$ がモノ射だから $F(g_1)=F(g_2)$、さらに $F$ が忠実だから $g_1=g_2$ を得る。よって $f$ はモノ射である。エピ射についても、$h_1,h_2\colon B\to Y$ が $h_1\circ f=h_2\circ f$ を満たすとして同様に($F(f)$ がエピ射であることと $F$ の忠実性から)$h_1=h_2$ を導けば、$f$ がエピ射であることが従う。
逆に $f$ がモノ射(それぞれエピ射)ならば $F(f)$ もモノ射(エピ射)であることを示す。アーベル圏において、$f$ がモノ射であることと $\ker(f)=0$(零対象)であることは同値である。$F$ は核を保つので $F(\ker f)\cong\ker(Ff)$ である。また $F$ は加法関手なので零対象を零対象に写す(零対象の特徴づけ $\mathrm{id}_0=0$ より、$F(\mathrm{id}_0)=\mathrm{id}_{F(0)}$ かつ $F$ は零射を零射に写すので $\mathrm{id}_{F(0)}=0$、すなわち $F(0)$ は零対象)。よって $\ker(f)=0$ ならば $\ker(Ff)\cong F(\ker f)=F(0)=0$、すなわち $F(f)$ もモノ射である。エピ射については余核についての双対の議論で従う。
同型射であることの反映は、アーベル圏において「モノ射かつエピ射」であることと「同型射」であることが同値であることから、モノ射・エピ射の反映の直接の帰結として従う。
(2) 完全性の反映。$g\circ f=0$ であることから、$f$ の像 $\operatorname{im}(f)$(核・余核を用いた標準分解から得られる部分対象)は $g$ の核 $\ker(g)$ の部分対象として、標準的なモノ射 $\iota\colon\operatorname{im}(f)\to\ker(g)$ を持つ。複体 $B'\to B\to B''$ が $B$ で完全であるとは、定義によりこの $\iota$ が同型射であることに他ならない。
$F$ は像と核を保ち、この同一視 $F(\operatorname{im}f)\cong\operatorname{im}(Ff)$、$F(\ker g)\cong\ker(Fg)$ のもとで $F(\iota)$ は $F(B)$ における標準的なモノ射 $\operatorname{im}(Ff)\to\ker(Fg)$ に一致する($\iota$ は核と像の普遍性だけから定まる射であり、$F$ はその普遍性による構成を保つからである)。したがって、(1) で示した「同型射であることの反映」を $\iota$ に適用すれば、$\iota$ が同型射であることと $F(\iota)$ が同型射であることは同値であり、これはそれぞれ「$B'\to B\to B''$ が $B$ で完全である」ことと「$F(B')\to F(B)\to F(B'')$ が $F(B)$ で完全である」ことそのものである。$\square$
cor-mitchell-reflects-exactness が、動機節で述べた「元を取った議論の正当化」の内実である。$\mathcal{A}$ の対象・射からなる可換図式(行が完全列であるようなもの)について、$F$ で $R\text{-}\mathbf{Mod}$ へ移した図式もまた同じ形に可換で、行は完全列のままであり(定理の条件 2)、しかも図式に現れる各射がモノ射・エピ射・同型射のいずれであるかは $F$ を通しても変化しない(cor-mitchell-reflects-exactness)。ゆえに、$R\text{-}\mathbf{Mod}$ 側で加群の元を具体的に取って、ある射が単射であることや、ある可換図式から別の射が一意に定まることを示せば、その結論を与える射の性質(単射性・全射性・同型性)は $\mathcal{A}$ 側でもそのまま成り立つ。これが、五項補題・蛇の補題・$3\times3$ 補題のような可換図式に関する一般的な補題が、任意の小さいアーベル圏で、たとえそこに元を語る手段がなくても成り立つことの、Mitchell の埋め込み定理による正当化である。
定理の仮定「$\mathcal{A}$ が小さい」は、この証明では本質的に用いられる。証明の方針・第3段と第4段で見た通り、$\mathrm{Ind}(\mathcal{A})$ の生成対象 $U$ は $\mathcal{A}$ の(同型類の代表系を渡る)対象全体の直和として構成され、入射的余生成子 $I$ の存在はこの生成対象の存在に依存し、さらに $I$ は $\mathcal{A}$ の対象を渡る Hom 集合の濃度をすべて上回るように取った集合 $S$ を添字とする直積 $I^S$ に取り替えられ、環 $R$ はその $I^S$ の自己準同型環 $\mathrm{End}(I^S)$ である。$\mathcal{A}$ が真の類ほど大きい場合、$U$ を定める直和は集合で添字づけられた余積として存在せず、すべての対象の Hom 集合の濃度を上回る集合 $S$ も取れるとは限らず、したがって $\mathrm{Ind}(\mathcal{A})$ は局所小であるとは限らず、$R$ も集合を台とする通常の意味での環としては構成できない。$R\text{-}\mathbf{Mod}$ という圏自体が「$R$ が集合であること」を前提にしているため、対象が真の類をなすような大きなアーベル圏に対しては、本定理と同じ形の埋め込みは一般には得られない。ただし、そのような大きな圏がそれ自体すでにある環(例えばアーベル群の圏 $\mathbf{Ab}$ に対する $\mathbb{Z}$)上の加群の圏である場合は、埋め込み先を新たに用意するまでもなく定理の結論に相当する事実が自明に成り立つ。
充満忠実な関手 $F\colon\mathcal{A}\to R\text{-}\mathbf{Mod}$ は、$\mathcal{A}$ を $R\text{-}\mathbf{Mod}$ の充満部分圏と同一視できることを意味するが、$F$ が本質的全射である($R\text{-}\mathbf{Mod}$ のあらゆる対象が $F$ の像に同型である)ことまでは主張しない。実際、$\mathcal{A}\neq0$ なら $I\neq0$ ゆえ $R\neq0$ であり、自由加群 $R^{(S)}$($S$ は任意の集合)は $|R^{(S)}|\ge|S|$ より互いに非同型なものが真の類だけある。したがって $R\text{-}\mathbf{Mod}$ の同型類の全体は集合をなさない。一方 $\mathcal{A}$ は小さいので同型類の全体は集合である。圏同値は同型類の全体を一対一に対応させるから、$F$ は圏同値になり得ない。定理が保証するのは「$\mathcal{A}$ は $R\text{-}\mathbf{Mod}$ のある充満部分圏と(アーベル圏としての構造、すなわち完全性を保って)同一視できる」ことであり、「$\mathcal{A}$ が何らかの $R\text{-}\mathbf{Mod}$ そのものと同じ大きさの圏である」ことではない。
証明の方針・第2〜4段そのものの完全な証明($\mathrm{Ind}(\mathcal{A})$ の構成とその完全性の証明、Grothendieck 圏が入射的余生成子をもつことの証明、取り替え後の入射的余生成子 $I$ に対して各 $B\in\mathcal{A}$ が完全列 $0\to B\to I\to I$ をもつことの証明)は、それぞれ独立した長い理論であり、Ind対象・Grothendieck圏の各記事と Fre64 Ch. 7・Mit64・KS06 に委ねる。Gabriel–Popescu の定理(Gabriel–Popescuの定理、GP64)は生成対象に付随する関手 $\mathrm{Hom}(U,-)$ の充満忠実性のみを与え、完全性は入射的余生成子による別の議論を要するので、本記事の証明の方針では用いない。定理の逆にあたる特徴づけ(ある環上の加群圏の充満部分圏として実現できる小さい加法圏はアーベル圏であるか、といった関連する問い)には触れない。五項補題・蛇の補題そのものを本定理を使って証明する具体的な実演は ex-mitchell-applications の手順の指摘にとどめ、詳細は 五項補題・蛇の補題 に委ねる。
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