Ehresmannの補題

同義語:Ehresmannのファイブレーション定理Ehresmannの束化補題Ehresmann's fibration theorem

概要

Ehresmann の補題(Ehresmann's fibration theorem)とは、多様体の間の滑らかな写像 $f\colon M\to N$ が固有な沈め込み(各点で微分が全射、コンパクト集合の逆像がコンパクト)ならば局所自明なファイバー束である、すなわち各 $q\in N$ の開近傍 $V$ 上に微分同相写像 $\Phi\colon V\times f^{-1}(q)\to f^{-1}(V)$ で $f\circ\Phi=\mathrm{pr}_1$ を満たすものがある、という微分トポロジーの定理である。座標ベクトル場を $M$ に持ち上げ、固有性から完備になるフローでファイバーを移し合って証明し、正則値集合の各連結成分でファイバーの微分同相型が一定であることを導く。Hopf 写像 $S^3\to S^2$ が典型例で、固有性も沈め込み性も外せない。

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前提知識: 多様体, 沈め込み, 固有写像, ベクトル場, フロー, 1の分割

動機

可微分写像 $f\colon M\to N$ のファイバー $f^{-1}(q)$ は、$q$ が正則値であれば $M$ の部分多様体である。では、$q$ を動かしたときファイバーはどう変わるだろうか。沈め込み(各点で微分が全射である写像)に固有写像であること(コンパクト集合の逆像がコンパクト)を課すと、ファイバーは局所的に「まったく変わらない」、すなわち $f$ は局所自明なファイバー束になる。これが Ehresmann の補題(Ehresmann のファイブレーション定理、束化補題ともいう)であり、C. Ehresmann が 1950 年の講演で示した(刊行は 1951 年、Ehr50)。証明は、底空間の座標ベクトル場を $M$ 上のベクトル場に持ち上げ、そのフローでファイバーどうしを移し合うという、微分トポロジーで繰り返し現れる手法による。この定理は、固有写像の正則値集合の各連結成分(連結空間)の上でファイバーの微分同相型(微分同相写像)が一定であることを保証し、Morse理論、Lefschetzファイブレーション、Milnorファイブレーションなど、写像のファイバーの変化を追う理論の出発点になる。

仮定と定理

本記事で多様体・写像・ベクトル場はすべて $C^\infty$ 級(滑らか)とし、多様体はHausdorff空間で第 2 可算(第2可算公理)、境界を持たないものとする。

固有な沈め込みと局所自明なファイバー束

$M$、$N$ を多様体、$f\colon M\to N$ を滑らかな写像とする。

  1. $f$ が沈め込み(submersion)であるとは、すべての $p\in M$ で微分 $df_p\colon T_pM\to T_{f(p)}N$(接空間の間の線形写像)が全射であることをいう。
  2. $f$ が固有(proper)であるとは、$N$ の任意のコンパクト部分集合(コンパクト空間) $K$ に対して $f^{-1}(K)$ が $M$ のコンパクト部分集合であることをいう。
  3. $f$ が局所自明なファイバー束(locally trivial fiber bundle、局所自明なファイブレーション)であるとは、任意の $q\in N$ に対し、$q$ の開近傍 $V$ と微分同相写像
    $$ \Phi\colon V\times f^{-1}(q)\longrightarrow f^{-1}(V) $$
    であって $f\circ\Phi=\mathrm{pr}_1$(第 1 成分への射影)を満たすものが存在することをいう。$\Phi$ を $V$ 上の局所自明化という。$V=N$ にとれるとき $f$ は自明であるという。
Ehresmann の補題

$M$、$N$ を多様体、$f\colon M\to N$ を全射な滑らかな写像とする。$f$ が固有な沈め込みならば、$f$ は局所自明なファイバー束である。すなわち、任意の $q\in N$ に対し、$q$ の開近傍 $V$ と微分同相写像 $\Phi\colon V\times f^{-1}(q)\to f^{-1}(V)$ で $f\circ\Phi=\mathrm{pr}_1$ を満たすものが存在する。さらに $V$ は、$q$ を含む $\mathbb{R}^n$($n=\dim N$)と微分同相な任意の座標近傍にとれる。

$n=\dim N$ とし、$q\in N$ を固定する。$q$ の座標近傍 $(V,\psi)$ で $\psi\colon V\to\mathbb{R}^n$ が微分同相写像かつ $\psi(q)=0$ となるものをとる($q$ のまわりの任意の座標近傍は、$q$ を中心とする開球に縮めれば $\mathbb{R}^n$ と微分同相である)。$M':=f^{-1}(V)$ は $M$ の開部分多様体であり、$f':=\psi\circ f|_{M'}\colon M'\to\mathbb{R}^n$ は沈め込みである($\psi$ の微分は同型)。また $f'$ は固有である:$K\subset\mathbb{R}^n$ がコンパクトなら $\psi^{-1}(K)$ は $V$ のコンパクト部分集合、したがって $N$ のコンパクト部分集合であり、$f'^{-1}(K)=f^{-1}(\psi^{-1}(K))$ は $f$ の固有性によりコンパクトである。$V$ 上の局所自明化を作るには $f'$ の $\mathbb{R}^n$ 上の(大域的な)自明化を作ればよいので、以下 $N=\mathbb{R}^n$、$q=0$、$f=f'$ と仮定し、$F:=f^{-1}(0)$ とおく。$F$ は rem-ehresmann-standard-facts の 1 により $M$ の閉部分多様体であり、$f$ の固有性によりコンパクトである。
$\mathbb{R}^n$ の座標を $y=(y_1,\dots,y_n)$、標準基底を $e_1,\dots,e_n$ と書く。lem-ehresmann-lift により、各 $j=1,\dots,n$ に対して $M$ 上のベクトル場 $X_j$ で $df(X_j)=\partial/\partial y_j$ を満たすものが存在し、lem-ehresmann-complete により $X_j$ は完備で、そのフロー $\theta^j\colon\mathbb{R}\times M\to M$ は滑らかで
$$ f(\theta^j_t(x))=f(x)+t\,e_j\qquad(t\in\mathbb{R},\ x\in M) $$
を満たす。ここで $\theta^j_t:=\theta^j(t,\cdot)$ と書く。フローの群性質 $\theta^j_s\circ\theta^j_t=\theta^j_{s+t}$ により各 $\theta^j_t$ は微分同相写像で、逆写像は $\theta^j_{-t}$ である。
写像 $\Phi\colon\mathbb{R}^n\times F\to M$ を
$$ \Phi(y,x):=\theta^1_{y_1}\bigl(\theta^2_{y_2}\bigl(\cdots\theta^n_{y_n}(x)\cdots\bigr)\bigr) $$
で定める。$\Phi$ は滑らかな写像 $\mathbb{R}^n\times M\to M$, $(y,z)\mapsto\theta^1_{y_1}\circ\cdots\circ\theta^n_{y_n}(z)$ の部分多様体 $\mathbb{R}^n\times F$ への制限なので滑らかである。$x\in F$ に対して $f(x)=0$ なので、上の等式を $j=n,n-1,\dots,1$ の順に適用して
$$ f(\Phi(y,x))=0+y_ne_n+y_{n-1}e_{n-1}+\cdots+y_1e_1=y, $$
すなわち $f\circ\Phi=\mathrm{pr}_1$ を得る。
次に写像 $\Psi\colon M\to\mathbb{R}^n\times M$ を、$z\in M$ に対し $y:=f(z)$ とおいて
$$ \Psi(z):=\bigl(y,\ \theta^n_{-y_n}\bigl(\theta^{n-1}_{-y_{n-1}}\bigl(\cdots\theta^1_{-y_1}(z)\cdots\bigr)\bigr)\bigr) $$
で定める。$\Psi$ は滑らかな写像の合成なので滑らかである。第 2 成分の $f$ による像は、上の等式を順に適用すると $y-y_1e_1-\cdots-y_ne_n=0$ なので、$\Psi$ の像は閉部分多様体 $\mathbb{R}^n\times F$ に含まれ、rem-ehresmann-standard-facts の 1 により $\Psi$ は $\mathbb{R}^n\times F$ への滑らかな写像とみなせる。
$\Phi$ と $\Psi$ が互いに逆であることを確かめる。$(y,x)\in\mathbb{R}^n\times F$ に対し $f(\Phi(y,x))=y$ なので
$$ \Psi(\Phi(y,x))=\bigl(y,\ \theta^n_{-y_n}\circ\cdots\circ\theta^1_{-y_1}\circ\theta^1_{y_1}\circ\cdots\circ\theta^n_{y_n}(x)\bigr)=(y,x) $$
であり(内側から順に $\theta^j_{-y_j}\circ\theta^j_{y_j}=\mathrm{id}$ を使う)、$z\in M$、$y=f(z)$ に対し
$$ \Phi(\Psi(z))=\theta^1_{y_1}\circ\cdots\circ\theta^n_{y_n}\circ\theta^n_{-y_n}\circ\cdots\circ\theta^1_{-y_1}(z)=z $$
である。よって $\Phi\colon\mathbb{R}^n\times F\to M$ は滑らかな全単射で滑らかな逆写像を持つ微分同相写像であり、$f\circ\Phi=\mathrm{pr}_1$ を満たす。これが求める自明化である。$\square$

証明に用いる補題

証明では次の多様体論の標準的事実を用いる。いずれも Lee12 にある。

用いる標準的事実
  1. 沈め込みの局所形と正則レベル集合。$f\colon M\to N$ が点 $p$ で沈め込みなら、$p$ のまわりの座標 $(x_1,\dots,x_m)$ と $f(p)$ のまわりの座標 $(y_1,\dots,y_n)$ で、$f$ が $(x_1,\dots,x_m)\mapsto(x_1,\dots,x_n)$ と表されるものがある(Lee12 Chapter 4、階数定理)。したがって沈め込み $f$ の各ファイバー $f^{-1}(q)$ は $M$ の余次元 $n$ の閉部分多様体(埋め込まれた部分多様体)であり(Lee12 Chapter 5、正則レベル集合定理)、滑らかな写像 $g\colon P\to M$ の像が閉部分多様体 $S$ に含まれるなら、$g$ は $S$ への写像としても滑らかである(Lee12 Chapter 5)。
  2. 1 の分割。多様体 $M$ の任意の開被覆 $\{U_\alpha\}$ に対し、それに従属する滑らかな1の分割 $\{\rho_\alpha\}$($\rho_\alpha\ge0$、$\operatorname{supp}\rho_\alpha\subset U_\alpha$、台の族は局所有限、$\sum_\alpha\rho_\alpha=1$)が存在する(Lee12 Chapter 2)。
  3. フローの基本定理。$M$ 上の滑らかなベクトル場 $X$ に対し、開集合 $\mathcal{D}\subset\mathbb{R}\times M$($\{0\}\times M$ を含む)上の滑らかな写像 $\theta\colon\mathcal{D}\to M$ で、各 $x$ について $t\mapsto\theta(t,x)$ が $x$ を始点とする $X$ の極大積分曲線であるものが一意に存在する(フロー)。すべての極大積分曲線が $\mathbb{R}$ 全体で定義されるとき $X$ は完備であるといい、このとき $\mathcal{D}=\mathbb{R}\times M$ で、$\theta_s\circ\theta_t=\theta_{s+t}$ が成り立つ(Lee12 Chapter 9)。
  4. 脱出補題。$X$ の極大積分曲線 $\gamma\colon(a,b)\to M$ について、$b<\infty$ ならば、任意の $t_0\in(a,b)$ に対して $\gamma([t_0,b))$ は $M$ のどのコンパクト部分集合にも含まれない。$a>-\infty$ のときも同様である(Lee12 Chapter 9、Escape Lemma)。
  5. 積分曲線の対応。$f\colon M\to N$ を滑らかな写像、$X$、$Y$ をそれぞれ $M$、$N$ 上のベクトル場とし、$df_p(X_p)=Y_{f(p)}$ がすべての $p$ で成り立つ($X$ と $Y$ は $f$-関係にある)とする。このとき $X$ の積分曲線 $\gamma$ に対し $f\circ\gamma$ は $Y$ の積分曲線である(Lee12 Chapter 9)。これは合成関数の微分 $(f\circ\gamma)'(t)=df(\gamma'(t))=df(X_{\gamma(t)})=Y_{f(\gamma(t))}$ から直ちに従う。
ベクトル場の持ち上げ

$f\colon M\to\mathbb{R}^n$ を沈め込みとする。各 $j=1,\dots,n$ に対し、$M$ 上の滑らかなベクトル場 $X_j$ で、すべての $p\in M$ について $df_p\bigl((X_j)_p\bigr)=\partial/\partial y_j|_{f(p)}$ を満たすものが存在する。

各 $p\in M$ に対し、$p$ の座標近傍 $U_p$ と座標 $(x_1,\dots,x_m)$ で、$U_p$ 上 $x_j=y_j\circ f$($j=1,\dots,n$)となるものが存在する。実際、$p$ のまわりの任意の座標 $(u_1,\dots,u_m)$ をとると、$f$ が沈め込みなので余接ベクトル $d(y_1\circ f)_p,\dots,d(y_n\circ f)_p$ は1次独立であり、$du_{k_1}|_p,\dots,du_{k_{m-n}}|_p$ を付け加えて $T_p^*M$ の基底にできる。写像 $(y_1\circ f,\dots,y_n\circ f,u_{k_1},\dots,u_{k_{m-n}})$ は $p$ で微分が同型なので、逆関数定理(Lee12 Chapter 4)により $p$ の近傍 $U_p$ で座標系をなす。これを $(x_1,\dots,x_m)$ とすれば、$f|_{U_p}$ はこの座標で $(x_1,\dots,x_m)\mapsto(x_1,\dots,x_n)$ と表される。$U_p$ 上のベクトル場 $X^{(p)}_j:=\partial/\partial x_j$ は、$U_p$ の各点で $df(\partial/\partial x_j)=\sum_k\frac{\partial(y_k\circ f)}{\partial x_j}\frac{\partial}{\partial y_k}=\frac{\partial}{\partial y_j}$ を満たす。
開被覆 $\{U_p\}_{p\in M}$ に従属する 1 の分割 $\{\rho_p\}_{p\in M}$ をとり(rem-ehresmann-standard-facts の 2)、
$$ X_j:=\sum_{p\in M}\rho_p\,X^{(p)}_j $$
とおく。$\rho_pX^{(p)}_j$ は $U_p$ の外で $0$ として $M$ 全体の滑らかなベクトル場に延び、台の族が局所有限なので和は各点の近傍で有限和であり、$X_j$ は $M$ 上の滑らかなベクトル場である。各点 $z\in M$ で、$df_z$ の線形性と $\sum_p\rho_p(z)=1$ により
$$ df_z\bigl((X_j)_z\bigr)=\sum_{p:\ z\in U_p}\rho_p(z)\,df_z\bigl((X^{(p)}_j)_z\bigr)=\sum_{p:\ z\in U_p}\rho_p(z)\,\frac{\partial}{\partial y_j}\Big|_{f(z)}=\frac{\partial}{\partial y_j}\Big|_{f(z)} $$
である。$\square$

固有性による完備性

$f\colon M\to\mathbb{R}^n$ を固有な滑らかな写像、$X$ を $M$ 上の滑らかなベクトル場で $df(X)=\partial/\partial y_j$ を満たすものとする。このとき $X$ は完備であり、そのフロー $\theta\colon\mathbb{R}\times M\to M$ は $f(\theta_t(x))=f(x)+t\,e_j$ を満たす。

$x\in M$ とし、$x$ を始点とする $X$ の極大積分曲線を $\gamma\colon(a,b)\to M$ とする。rem-ehresmann-standard-facts の 5 により $f\circ\gamma$ は $\mathbb{R}^n$ 上の定ベクトル場 $\partial/\partial y_j$ の積分曲線で、$f(\gamma(0))=f(x)$ なので、常微分方程式の解の一意性から $f(\gamma(t))=f(x)+t\,e_j$($t\in(a,b)$)である。
$b<\infty$ と仮定する。$K:=\{f(x)+t\,e_j\mid t\in[0,b]\}$ は $\mathbb{R}^n$ の線分でコンパクトであり、$f$ の固有性から $f^{-1}(K)$ はコンパクトである。上の等式より $\gamma([0,b))\subset f^{-1}(K)$ であり、これは脱出補題(rem-ehresmann-standard-facts の 4)に反する。よって $b=\infty$ であり、同様に $a=-\infty$ である。したがって $X$ は完備で、フローは $\mathbb{R}\times M$ 全体で定義され、$f(\theta_t(x))=f(\gamma(t))=f(x)+t\,e_j$ が成り立つ。$\square$

帰結・補足

ファイバーの微分同相型の一定性

$f\colon M\to N$ を固有な沈め込みとする。$q,q'\in N$ が $N$ の同じ連結成分に属するならば、$f^{-1}(q)$ と $f^{-1}(q')$ は微分同相である。特に $N$ が連結ならば、$f$ のすべてのファイバーは互いに微分同相である。

$q\in N$ を固定し、$A:=\{q'\in N\mid f^{-1}(q')\text{ は }f^{-1}(q)\text{ と微分同相}\}$ とおく。$A$ は開集合である:$q'\in A$ に対し thm-ehresmann-main(全射性は不要。rem-ehresmann-assumptions の 1 を参照)の局所自明化 $\Phi\colon V\times f^{-1}(q')\to f^{-1}(V)$ をとると、$V$ の各点 $q''$ について $\Phi$ は $\{q''\}\times f^{-1}(q')$ を $f^{-1}(q'')$ の上に微分同相に写す($f\circ\Phi=\mathrm{pr}_1$ により $\Phi^{-1}(f^{-1}(q''))=\{q''\}\times f^{-1}(q')$ であり、$\Phi$ は微分同相写像だからこの閉部分多様体の間の制限も微分同相写像である)ので、$V\subset A$ である。同じ議論で $N\setminus A$ も開集合である($q'\notin A$ なら、$V$ の各点のファイバーは $f^{-1}(q')$ と微分同相なので $f^{-1}(q)$ と微分同相でない)。$A$ は $q$ を含む開かつ閉な集合なので、$q$ を含む連結成分を含む。$\square$

仮定についての注意
  1. 全射性。prf-ehresmann-main は $f$ の全射性を使っていない。全射でない固有な沈め込みに対しても同じ結論が成り立ち、$f(M)$ に属さない $q$ の上ではファイバーは空である。このとき $f(M)$ は $N$ の開集合(沈め込みは開写像である)かつ閉集合(固有写像は閉写像である。Lee12 Appendix A)なので、$N$ が連結で $M\neq\emptyset$ なら $f$ は自動的に全射である。
  2. 微分可能性の階数。文献によっては $C^r$ 級($1\le r\le\infty$)で述べられ、本記事は $C^\infty$ 級で述べた。$f$ が $C^r$ 級($r\ge2$)のとき、lem-ehresmann-lift のベクトル場は $C^{r-1}$ 級、そのフローも $C^{r-1}$ 級になるので、上の証明からは $C^{r-1}$ 級の局所自明化が得られる。
Hopf ファイブレーション

$S^3:=\{(z_1,z_2)\in\mathbb{C}^2\mid |z_1|^2+|z_2|^2=1\}$、$S^2$ を複素射影直線 $\mathbb{CP}^1$(複素射影空間)と同一視し、$h\colon S^3\to\mathbb{CP}^1$, $(z_1,z_2)\mapsto[z_1:z_2]$ を Hopf 写像という。$h$ は固有な沈め込みであり、したがって thm-ehresmann-main により局所自明なファイバー束である。ファイバーは $h^{-1}([z_1:z_2])=\{(\lambda z_1,\lambda z_2)\mid\lambda\in\mathbb{C},\ |\lambda|=1\}\cong S^1$ である。
固有性:$S^3$ はコンパクトなので、コンパクト集合の逆像は $S^3$ の閉集合であり、コンパクトである(コンパクト空間)。
沈め込みであること:商写像 $\pi\colon\mathbb{C}^2\setminus\{0\}\to\mathbb{CP}^1$ は沈め込みである。実際、$z_1\neq0$ の範囲では座標 $[z_1:z_2]\mapsto z_2/z_1\in\mathbb{C}$ について $\pi(z_1,z_2)=z_2/z_1$ であり、$z_2$ についての偏微分 $1/z_1$ が $0$ でないので $d\pi$ は全射である($z_2\neq0$ の範囲も同様)。$\pi$ の点 $z$ を通るファイバーは $\{\lambda z\mid\lambda\in\mathbb{C}\setminus\{0\}\}$ で、その接空間 $\mathbb{C}z$ は $\ker d\pi_z$ に含まれ、$\dim_{\mathbb{R}}\ker d\pi_z=4-2=2=\dim_{\mathbb{R}}\mathbb{C}z$ なので $\ker d\pi_z=\mathbb{C}z$ である。一方 $z\in S^3$ での $S^3$ の接空間は $T_zS^3=\{w\in\mathbb{C}^2\mid\operatorname{Re}\langle w,z\rangle=0\}$ であり、$z\notin T_zS^3$($\operatorname{Re}\langle z,z\rangle=1$)なので $T_zS^3+\mathbb{C}z=\mathbb{C}^2$ である。したがって $dh_z=d\pi_z|_{T_zS^3}$ は $d\pi_z(\mathbb{C}^2)=T_{h(z)}\mathbb{CP}^1$ 全体を覆い、全射である。
この束は自明でない。もし $S^3\cong S^2\times S^1$ なら基本群が一致するはずだが、$S^3$ は単連結空間であるのに対し $S^2\times S^1$ の基本群は $\pi_1(S^2)\times\pi_1(S^1)\cong\mathbb{Z}$ である(Hat02 §1.1)。

自明な束と被覆写像
  1. $F$ をコンパクト多様体、$N$ を多様体とすると、射影 $\mathrm{pr}_1\colon N\times F\to N$ は固有な沈め込みであり、それ自身が大域的な自明化を与える。
  2. $k\ge1$ に対し $p_k\colon S^1\to S^1$, $z\mapsto z^k$($S^1\subset\mathbb{C}$)は固有な沈め込みであり($S^1$ はコンパクト、$p_k$ の微分は $kz^{k-1}\neq0$ 倍)、ファイバーは $k$ 点からなる。thm-ehresmann-main が与える局所自明化は $p_k$ が $k$ 重の被覆写像(被覆空間)であることを意味する。一般に、$\dim M=\dim N$ のとき固有な沈め込みは有限重の被覆写像である(ファイバーはコンパクトな $0$ 次元多様体、すなわち有限集合である)。
反例:固有性と沈め込み性は落とせない
  1. 固有性を落とせない。$f\colon\mathbb{R}^2\setminus\{0\}\to\mathbb{R}$, $(x,y)\mapsto y$ は全射な沈め込み($\partial f/\partial y=1$)であるが、固有でない($f^{-1}(0)=(\mathbb{R}\setminus\{0\})\times\{0\}$ はコンパクトでない)。$f$ は $0\in\mathbb{R}$ のまわりで局所自明でない:$f^{-1}(0)\cong\mathbb{R}\setminus\{0\}$ は 2 つの連結成分を持ち、$y\neq0$ に対する $f^{-1}(y)=\mathbb{R}\times\{y\}$ は連結なので、$0$ の近傍の上でファイバーが互いに微分同相になることはなく、cor-ehresmann-fibers-diffeomorphic の結論が破れる。満たす性質は「全射な沈め込みである」こと、満たさない性質は「固有である」こと、破る含意は「沈め込みならば局所自明なファイバー束である」である。同様の例として、$p\in S^1$ を固定した $(S^1\times\mathbb{R})\setminus\{(p,0)\}\to\mathbb{R}$, $(x,y)\mapsto y$ がある($0$ 上のファイバー $S^1\setminus\{p\}$ はコンパクトでなく、他のファイバー $S^1$ はコンパクトである)。
  2. 沈め込み性を落とせない。$g\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$, $x\mapsto x^3-3x$ は固有($|x|\to\infty$ で $|g(x)|\to\infty$ なので、有界集合の逆像は有界であり、閉集合の逆像は閉である)かつ全射(奇数次多項式)であるが、$g'(x)=3x^2-3$ は $x=\pm1$ で $0$ になるので沈め込みでない。臨界値 $g(-1)=2$ のまわりで $g$ は局所自明でない:$g^{-1}(2)=\{2,-1\}$($x^3-3x-2=(x-2)(x+1)^2$)は 2 点、$-2< y<2$ に対する $g^{-1}(y)$ は 3 点からなる。満たす性質は「固有かつ全射」、満たさない性質は「沈め込みである」、破る含意は「固有な滑らかな写像ならば局所自明なファイバー束である」である。より簡単な $x\mapsto x^2$(固有だが全射でなく、$0$ のまわりでファイバーの点の個数が $1,2,0$ と変わる)も同じことを示す。
臨界値の外での局所自明性

$f\colon M\to N$ を固有な滑らかな写像とし(沈め込みとは仮定しない)、$C\subset M$ を $f$ の臨界点($df_p$ が全射でない点 $p$)全体、$\Delta:=f(C)$ を臨界値の集合とする。このとき $\Delta$ は $N$ の閉集合であり、制限
$$ \tilde f:=f|_{M\setminus f^{-1}(\Delta)}\colon M\setminus f^{-1}(\Delta)\longrightarrow N\setminus\Delta $$
は固有な沈め込みである。したがって $\tilde f$ は局所自明なファイバー束であり、$f$ のファイバーの微分同相型は正則値集合 $N\setminus\Delta$ の各連結成分の上で一定である。

$C$ は $M$ の閉集合である:局所座標で $df_p$ は $n\times m$ 行列で表され、$p\in C$ であることはその $n$ 次小行列式がすべて $0$ になることと同値であり、小行列式は $p$ の連続関数である。固有写像は閉写像である(Lee12 Appendix A)から $\Delta=f(C)$ は閉集合であり、$N\setminus\Delta$ は開集合、$M\setminus f^{-1}(\Delta)=f^{-1}(N\setminus\Delta)$ は $M$ の開集合である。
$\tilde f$ は沈め込みである:$p\in M\setminus f^{-1}(\Delta)$ なら $f(p)\notin\Delta$ であり、もし $p\in C$ なら $f(p)\in f(C)=\Delta$ となって矛盾するので $p\notin C$、すなわち $df_p$ は全射である。
$\tilde f$ は固有である:$K\subset N\setminus\Delta$ をコンパクトとすると、$K$ は $N$ のコンパクト部分集合でもあり、$\tilde f^{-1}(K)=f^{-1}(K)\cap(M\setminus f^{-1}(\Delta))=f^{-1}(K)$($K\cap\Delta=\emptyset$ による)は $f$ の固有性によりコンパクトである。
残りの主張は thm-ehresmann-main(rem-ehresmann-assumptions の 1 により全射性は不要)と cor-ehresmann-fibers-diffeomorphic から従う。$\square$

同次元の場合と写像度

prop-ehresmann-regular-values で $\dim M=\dim N$ の場合、正則値 $y\in N\setminus\Delta$ のファイバー $f^{-1}(y)$ はコンパクトな $0$ 次元多様体、すなわち有限集合である。したがって点の個数を数える関数 $y\mapsto\#f^{-1}(y)$ が $N\setminus\Delta$ 上で定義され、prop-ehresmann-regular-values によりこの関数は局所定数関数である。ファイバーの微分同相型の変化、この場合は点の個数の変化は、臨界値を跨ぐときにだけ起こる。この関数に向きの符号を込めたものが写像度であり、$M$ がコンパクトのとき(Mil97 の設定)、$N$ が連結なら正則値によらず一定になる。詳細は Mil97 §4–§5 に譲る。

発展への導線

Ehresmann の補題は、写像のファイバーが臨界値の近くでどう退化するかを調べる理論の出発点である。Morse 理論では、コンパクト多様体上の実数値関数 $f\colon M\to\mathbb{R}$ の臨界値を含まない区間 $[a,b]$ の上で $f^{-1}([a,b])\cong f^{-1}(a)\times[a,b]$ となることが、勾配ベクトル場のフローによる同じ議論で示される(Dun18 最終章)。複素幾何では、Lefschetz ファイブレーションは有限個の臨界値を除いて固有な沈め込みであるような写像であり、prop-ehresmann-regular-values により正則値の上では局所自明で、臨界値の近くの退化が消滅サイクルとモノドロミーで記述される。孤立特異点を持つ正則関数 $g\colon(\mathbb{C}^{n+1},0)\to(\mathbb{C},0)$ に対する Milnor ファイブレーション $g/|g|\colon S_\varepsilon\setminus g^{-1}(0)\to S^1$ の局所自明性の証明(Mil68 §4)も、写像に沿ってベクトル場を持ち上げてフローで移すという本記事の証明と同じ考え方に基づく(ただしそこでは固有性の代わりに別の評価でフローの完備性を保証する)。

関連項目

参考文献

[1]
John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, 2012, Chapter 2(1 の分割)、Chapter 4(逆関数定理・階数定理)、Chapter 5(正則レベル集合、部分多様体への写像)、Chapter 9(積分曲線とフロー、脱出補題)、Appendix A(固有写像)
[2]
Bjørn Ian Dundas, A Short Course in Differential Topology, Cambridge Mathematical Textbooks, Cambridge University Press, 2018, 最終章(Morse 理論入門と Ehresmann のファイブレーション定理の証明)
[5]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, §1.1($\pi_1(S^1)$、積の基本群、$\pi_1(S^n)=0$)
[6]
Charles Ehresmann, Les connexions infinitésimales dans un espace fibré différentiable, Colloque de Topologie (Espaces fibrés), Bruxelles 1950, Georges Thone, Liège; Masson, Paris, 1951, 29–55

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