Abelの連続性定理

同義語:Abel の連続性定理アーベルの連続性定理Abelの極限定理Abel's continuity theoremAbel's limit theorem

概要

Abelの連続性定理(Abel's continuity theorem)とは、級数 $\sum a_n$ が収束するとき、冪級数 $f(x)=\sum a_nx^n$ が $x\to1-0$ で $\sum a_n$ に近づくことを述べる定理である。より強く、級数は閉区間 $[0,1]$ 上で一様収束し、$f$ は $[0,1]$ 上で連続である。これにより、$\log(1+x)$ や $\arctan x$ の冪級数展開から $1-\frac12+\frac13-\cdots=\log2$ や $1-\frac13+\frac15-\cdots=\frac{\pi}{4}$ が得られ、条件収束する級数の Cauchy 積の和も求められる。逆は一般に成り立たず($\sum(-1)^nx^n\to\frac12$)、$na_n\to0$ を仮定すると逆が成り立つ(Tauber の定理)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 冪級数, 収束半径, 一様収束, Abelの級数変形法とその応用

収束半径が $1$ の冪級数 $f(x)=\sum_{n=0}^{\infty}a_nx^n$ は、$-1< x<1$ では収束して連続な関数を定める。では、端の点 $x=1$ でも級数 $\sum a_n$ が収束しているとき、$x$ を左から $1$ に近づけた極限 $\lim_{x\to1-0}f(x)$ は $\sum a_n$ に一致するだろうか。冪級数の項別の極限をとってよいかという問題であり、収束する範囲の内側の議論(冪級数 の記事の定理「収束区間の内側での一様収束と和の連続性」)だけでは答えが出ない。
Abel の連続性定理は、答えが常に「一致する」であることを述べる。さらに強く、級数は閉区間 $[0,1]$ の全体で一様収束する。この定理を使うと、$-1< x<1$ で成り立つ冪級数の等式から端の点での値を読み取ることができ、$1-\frac12+\frac13-\cdots=\log2$ や $1-\frac13+\frac15-\cdots=\frac{\pi}{4}$ が得られる。逆向きの主張「$\lim_{x\to1-0}f(x)$ が存在すれば $\sum a_n$ は収束する」は一般には偽であり、項に条件を付けて逆を取り戻す定理を Tauber 型の定理という。この記事では、定理の一様収束の形を証明し、Cesàro 平均・Abel 和との関係、Tauber の定理とその条件の必要性を調べる。

定理

以下、係数 $a_n$ は実数または複素数とし、$s_n:=a_0+a_1+\cdots+a_n$ を部分和とする。

Abelの連続性定理

級数 $\sum_{n=0}^{\infty}a_n$ が収束するとする。このとき冪級数 $\sum_{n=0}^{\infty}a_nx^n$ は閉区間 $[0,1]$ 上で一様収束する。したがって、その和 $f(x):=\sum_{n=0}^{\infty}a_nx^n$ は $[0,1]$ 上で連続であり、
$$ \lim_{x\to1-0}f(x)=\sum_{n=0}^{\infty}a_n $$
が成り立つ。

部分和の一様な Cauchy 条件

$\varepsilon>0$ をとる。$\sum a_n$ は収束するので、部分和の列 $(s_n)$ は Cauchy列であり、ある $N$ があって、$P>M\ge N$ ならば
$$ |a_{M+1}+a_{M+2}+\cdots+a_P|=|s_P-s_M|\le\varepsilon $$
が成り立つ。$P>M\ge N$ と $x\in[0,1]$ を固定する。$k=1,\dots,P-M$ について、Abelの級数変形法とその応用 の記事の補題「Abel の不等式」を、その補題の $a_k$ の役を $x^{M+k}$、$b_k$ の役を $a_{M+k}$ として使う。$x^{M+1}\ge x^{M+2}\ge\cdots\ge x^{P}\ge0$ であり、$b_k$ の役の数の部分和は $a_{M+1}+\cdots+a_{M+k}$ で、絶対値は $\varepsilon$ 以下である。よって
$$ \Bigl|\sum_{n=M+1}^{P}a_nx^n\Bigr|\le\varepsilon\,x^{M+1}\le\varepsilon $$
である。右辺は $x$ によらない。
$x\in[0,1]$ ごとに $\bigl(\sum_{n=0}^{P}a_nx^n\bigr)_P$ は Cauchy 列なので収束し、極限を $f(x)$ とおく。上の不等式で $P\to\infty$ とすると、$M\ge N$ とすべての $x\in[0,1]$ について
$$ \Bigl|f(x)-\sum_{n=0}^{M}a_nx^n\Bigr|\le\varepsilon $$
であり、部分和は $f$ に $[0,1]$ 上で一様収束する。部分和は多項式なので連続である。係数が複素数のときは実部と虚部に分けて考えると、一様収束 の記事の定理「連続関数の一様極限の連続性」により、$f$ は $[0,1]$ 上で連続である。特に $x=1$ で左連続であり、$f(1)=\sum a_n$ なので、$\lim_{x\to1-0}f(x)=\sum a_n$ である。$\square$

証明の要点は、$x^n$ が $n$ について減少する $0$ 以上の数であることだけである。級数の「残り」の部分和が小さいことが、減少する重み $x^n$ を掛けても保たれる。$x\in[0,1)$ のとき $\sum a_nx^n$ が収束すること自体は、$a_n\to0$ から $(a_n)$ が有界であり、等比級数と比べて絶対収束することからも分かる(収束半径 の記事の注意「Abelの連続性定理の出典と例」)。上の証明はそれを使わずに、収束と一様性を同時に示している。
定理は Rud76 Theorem 8.2(p. 174、証明は pp. 174–175)にある。そこでは部分和で $f(x)=(1-x)\sum s_nx^n$ と書き直して $\lim_{x\to1}f(x)$ を評価しており、一様収束の形は述べていない。

一般の中心と半径

冪級数 $\sum_{n=0}^{\infty}a_n(z-c)^n$(係数・中心は複素数でもよい)が点 $z_0\ne c$ で収束するとする。このとき級数は線分 $\{c+t(z_0-c)\mid0\le t\le1\}$ 上で一様収束し、和 $f$ について
$$ \lim_{t\to1-0}f\bigl(c+t(z_0-c)\bigr)=\sum_{n=0}^{\infty}a_n(z_0-c)^n $$
が成り立つ。

$\alpha_n:=a_n(z_0-c)^n$ とおくと、$\sum\alpha_n$ は収束し、$z=c+t(z_0-c)$ のとき $a_n(z-c)^n=\alpha_nt^n$ である。thm-abct-main を $(\alpha_n)$ に使えばよい。$\square$

収束半径を $R$ とすると、$|z_0-c|=R$ のときがこの系の本題である($|z_0-c|< R$ なら、和は収束円板の内部で連続なので、結論は初めから分かっている)。したがって、収束円板の境界の点で級数が収束すれば、和はその点へ半径に沿って近づくときに連続である。
複素数の変数 $z$ が単位円板の内部から $1$ に近づく場合、半径に沿う必要はなく、$|1-z|\le M(1-|z|)$($M>0$ は定数)を満たす角状の領域(Stolz 領域)の中を動くなら同じ結論が成り立つ。これは Abelの級数変形法とその応用 の記事の定理「Abel の連続性定理(べき級数の極限)」で証明されている。

直感

$f(x)=\sum a_nx^n$ の $x<1$ での値は、$a_n$ に重み $x^n$ を掛けて足したものであり、$x$ が $1$ に近いほど重みは $1$ に近い。$n$ が大きい項ほど重みは小さく、遠くの項は割り引かれる。級数 $\sum a_n$ が収束していれば、遠くの項はもともと「まとめて足しても小さい」ので、減少する重みで割り引いても小さいままであり、割り引き方を $x\to1$ で弱めた極限が割り引かない和に一致する。逆に $\sum a_n$ が発散していても、割り引いた和は収束しうる。$1-1+1-1+\cdots$ は発散するが、$\sum(-1)^nx^n=\frac{1}{1+x}$ は $x\to1-0$ で $\frac12$ に近づく。これが Abel 和の考え方である。

例

交代調和級数と $\log 2$

$-1< x<1$ で $\log(1+x)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n-1}}{n}x^n$ が成り立つ(冪級数 の記事の例「対数の冪級数」)。$x=1$ での級数 $1-\frac12+\frac13-\cdots$ は 級数 の記事の定理「Leibnizの判定法」により収束する。thm-abct-main により右辺は $x\to1-0$ でこの級数の和に近づき、左辺は $\log$ の連続性により $\log2$ に近づく。よって
$$ 1-\frac12+\frac13-\frac14+\cdots=\log2 $$
である。

Leibniz の級数と $\pi/4$

$-1< x<1$ で $\frac{1}{1+t^2}=\sum_{m=0}^{\infty}(-1)^mt^{2m}$($|t|\le|x|$)を $0$ から $x$ まで項別積分すると(冪級数 の記事の定理「項別積分」)、
$$ \arctan x=\sum_{m=0}^{\infty}\frac{(-1)^m}{2m+1}x^{2m+1}\qquad(-1< x<1) $$
である(逆正接関数)。右辺は $x$ の冪級数で、偶数次の係数は $0$、$2m+1$ 次の係数は $\frac{(-1)^m}{2m+1}$ である。$x=1$ での級数 $1-\frac13+\frac15-\cdots$ は Leibniz の判定法により収束するので、thm-abct-main と $\arctan$ の連続性により
$$ 1-\frac13+\frac15-\frac17+\cdots=\arctan1=\frac{\pi}{4} $$
である。

項別積分で端点の値を求める

$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n-1}}{n(n+1)}$ を求める。$-1< x<1$ で $\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n-1}}{n}x^n=\log(1+x)$ を $0$ から $x$ まで項別積分すると
$$ \sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n-1}}{n(n+1)}x^{n+1}=\int_0^x\log(1+t)\,dt=(1+x)\log(1+x)-x $$
である。左辺の級数は $x=1$ で絶対収束するので($\frac{1}{n(n+1)}\le\frac1{n^2}$)、cor-abct-general を $c=0$、$z_0=1$ として使い、$x\to1-0$ とすると $\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n-1}}{n(n+1)}=2\log2-1$ を得る。

Abel の連続性定理の代表的な応用に、条件収束する 2 つの級数の積がある。2 つの級数の Cauchy 積が収束すれば、その和は 2 つの和の積に等しい。これは Cauchy積 の記事で扱う。

逆向きの問題:Abel 和と Tauber の定理

Abel 和と Cesàro 平均

Abel 和と Cesàro 和

級数 $\sum_{n=0}^{\infty}a_n$ と部分和 $s_n=a_0+\cdots+a_n$ について、次のように定める。

  1. $0\le x<1$ のすべての $x$ で $f(x):=\sum_{n=0}^{\infty}a_nx^n$ が収束し、極限 $s:=\lim_{x\to1-0}f(x)$ が存在するとき、$\sum a_n$ は Abel 総和可能であるといい、$s$ をその Abel 和という。
  2. 部分和の平均 $\sigma_N:=\dfrac{s_0+s_1+\cdots+s_N}{N+1}$ を Cesàro 平均という。$\sigma_N$ が $N\to\infty$ で $s$ に収束するとき、$\sum a_n$ は Cesàro 総和可能であるといい、$s$ をその Cesàro 和という。

この言葉では、thm-abct-main は「収束する級数は Abel 総和可能で、Abel 和は通常の和に等しい」と言い換えられる。

収束する列の平均

複素数列 $(t_n)$ が $t$ に収束するならば、$\dfrac{t_0+t_1+\cdots+t_N}{N+1}\to t$ である。とくに、収束する級数は Cesàro 総和可能で、Cesàro 和は通常の和に等しい。

$\varepsilon>0$ をとり、$n\ge K$ で $|t_n-t|\le\varepsilon$ となる $K$ をとる。$N\ge K$ なら
$$ \Bigl|\frac{1}{N+1}\sum_{n=0}^{N}t_n-t\Bigr|\le\frac{1}{N+1}\sum_{n=0}^{K-1}|t_n-t|+\frac{N+1-K}{N+1}\varepsilon\le\frac{C}{N+1}+\varepsilon $$
である($C:=\sum_{n< K}|t_n-t|$ は $N$ によらない)。$N\to\infty$ として上極限は $\varepsilon$ 以下であり、$\varepsilon$ は任意なので結論を得る。後半は $t_n:=s_n$ とすればよい。$\square$

Cesàro 総和可能なら Abel 総和可能

$\sum a_n$ が Cesàro 総和可能で Cesàro 和が $s$ ならば、$\sum a_n$ は Abel 総和可能で Abel 和は $s$ である。

部分和の平均で書き直す

$\sigma_N\to s$ なので $K:=\sup_N|\sigma_N|$ は有限である。$s_N=(N+1)\sigma_N-N\sigma_{N-1}$($N\ge1$)から $|s_N|\le2(N+1)K$、$|a_n|=|s_n-s_{n-1}|\le4(n+1)K$ である。$0\le x<1$ では $\sum(n+1)x^n$ が収束するので(比判定法)、$\sum a_nx^n$、$\sum s_nx^n$、$\sum(N+1)\sigma_Nx^N$ はどれも絶対収束する。
絶対収束する 2 つの級数の Cauchy 積については、絶対収束 の記事の系「Cauchy積の和」により、和の積がそのまま得られる。$\sum a_nx^n$ と $\sum x^m$ の Cauchy 積の第 $N$ 項は $\sum_{n=0}^{N}a_nx^nx^{N-n}=s_Nx^N$ であり、$\sum s_nx^n$ と $\sum x^m$ の Cauchy 積の第 $N$ 項は $(s_0+\cdots+s_N)x^N=(N+1)\sigma_Nx^N$ である。$\sum x^m=\frac{1}{1-x}$ なので
$$ f(x)=(1-x)\sum_{N=0}^{\infty}s_Nx^N=(1-x)^2\sum_{N=0}^{\infty}(N+1)\sigma_Nx^N\qquad(0\le x<1) $$
である。$a_0=1$、$a_n=0$($n\ge1$)の場合($\sigma_N=1$、$f=1$)にこの式を使うと $(1-x)^2\sum(N+1)x^N=1$ なので、
$$ f(x)-s=(1-x)^2\sum_{N=0}^{\infty}(N+1)(\sigma_N-s)x^N $$
である。$\varepsilon>0$ をとり、$N\ge N_0$ で $|\sigma_N-s|\le\varepsilon$ となる $N_0$ をとると
$$ |f(x)-s|\le(1-x)^2\sum_{N< N_0}(N+1)|\sigma_N-s|+\varepsilon(1-x)^2\sum_{N=0}^{\infty}(N+1)x^N\le(1-x)^2C'+\varepsilon $$
であり($C'$ は $x$ によらない)、$x\to1-0$ として上極限は $\varepsilon$ 以下である。よって $f(x)\to s$ である。$\square$

lem-abct-mean と prop-abct-cesaro-abel を合わせると、thm-abct-main の極限の主張(一様収束の部分を除く)の別証明になる。

Abel 和と Cesàro 和の計算
  1. $a_n=(-1)^n$($1-1+1-\cdots$)。部分和は $1,0,1,0,\dots$ で収束しないが、$\sigma_N\to\frac12$ であり、$f(x)=\frac{1}{1+x}\to\frac12$ である。Cesàro 和も Abel 和も $\frac12$ である。
  2. $a_n=(-1)^n(n+1)$($1-2+3-4+\cdots$)。部分和は $1,-1,2,-2,3,\dots$ で、$\sigma_{2m-1}=0$、$\sigma_{2m}=\frac{m+1}{2m+1}\to\frac12$ なので Cesàro 総和可能でない。一方 $\sum(-1)^n(n+1)x^n$ は $\sum(-x)^n$ と自分自身との Cauchy 積なので $\frac{1}{(1+x)^2}$ に等しく、$x\to1-0$ で $\frac14$ に近づく。Abel 和は $\frac14$ である。
    2 により、prop-abct-cesaro-abel の逆は成り立たない。Abel 総和可能な級数の範囲は、Cesàro 総和可能な級数の範囲より真に広い。

Tauber の定理

Abel 和が存在しても級数が収束するとは限らないので、収束を取り戻すには項 $a_n$ に条件が要る。最も単純なものが次の定理である。

Tauberの定理

$\sum a_n$ が Abel 総和可能で Abel 和が $s$ であり、さらに $na_n\to0$($n\to\infty$)ならば、$\sum a_n$ は収束して和は $s$ である。

$x=1-\frac1N$ で比べる

$f(x)=\sum a_nx^n$($0\le x<1$)とし、$\varepsilon_N:=\sup_{n>N}n|a_n|$ とおく。仮定から $\varepsilon_N\to0$ である。$N\ge2$ と $0< x<1$ について
$$ s_N-f(x)=\sum_{n=1}^{N}a_n(1-x^n)-\sum_{n=N+1}^{\infty}a_nx^n $$
である。$1-x^n=(1-x)(1+x+\cdots+x^{n-1})\le n(1-x)$ なので、第 1 項の絶対値は $(1-x)\sum_{n=1}^{N}n|a_n|$ 以下である。第 2 項は、$n>N$ で $|a_n|\le\varepsilon_N/n\le\varepsilon_N/N$ なので、絶対値が $\frac{\varepsilon_N}{N}\sum_{n=0}^{\infty}x^n=\frac{\varepsilon_N}{N(1-x)}$ 以下である。$x_N:=1-\frac1N$ とおくと
$$ |s_N-f(x_N)|\le\frac{1}{N}\sum_{n=1}^{N}n|a_n|+\varepsilon_N $$
である。$n|a_n|\to0$ なので lem-abct-mean により右辺の第 1 項は $0$ に近づき、第 2 項も $0$ に近づく。$N\to\infty$ で $x_N\to1-0$ なので $f(x_N)\to s$ であり、したがって $s_N\to s$ である。$\square$

この定理を Tauber の定理という。項に条件を付けて、Abel 和などの広い意味の和から通常の収束を導く定理を総じて Tauber 型の定理と呼ぶ。

仮定 $a_n\to0$ だけでは足りない

$s_n:=\cos\sqrt n$($n\ge0$)を部分和にもつ級数、すなわち $a_0:=1$、$a_n:=\cos\sqrt n-\cos\sqrt{n-1}$($n\ge1$)を考える。

  1. $a_n\to0$ である。$n\ge2$ なら平均値の定理により、$n-1$ と $n$ の間の $\xi$ で $|a_n|=\frac{|\sin\sqrt\xi|}{2\sqrt\xi}\le\frac{1}{2\sqrt{n-1}}$ となる。
  2. Cesàro 和は $0$ である。$N\ge1$ について $\int_0^N\cos\sqrt t\,dt=\bigl[2\sqrt t\sin\sqrt t+2\cos\sqrt t\bigr]_0^N$ の絶対値は $2\sqrt N+4$ 以下である。$n\ge2$、$n-1\le t\le n$ では $|\cos\sqrt n-\cos\sqrt t|\le\frac{1}{2\sqrt{n-1}}$、$n=1$ では差は $2$ 以下なので
    $$ \Bigl|\sum_{n=1}^{N}\cos\sqrt n-\int_0^N\cos\sqrt t\,dt\Bigr|\le2+\sum_{k=1}^{N-1}\frac{1}{2\sqrt k}\le2+\sqrt N $$
    である($\frac{1}{2\sqrt k}\le\int_{k-1}^{k}\frac{dt}{2\sqrt t}$ を足した)。よって $|s_0+\cdots+s_N|\le3\sqrt N+7$、$|\sigma_N|\le\frac{3\sqrt N+7}{N+1}\to0$ である。prop-abct-cesaro-abel により Abel 和も $0$ である。
  3. 級数は収束しない。整数 $k\ge1$ について $n_k$ を $(2\pi k)^2$ を超えない最大の整数とすると、$|\sqrt{n_k}-2\pi k|=\frac{(2\pi k)^2-n_k}{\sqrt{n_k}+2\pi k}< \frac{1}{2\pi k}$ なので $s_{n_k}\to1$ である。同様に $((2k+1)\pi)^2$ を超えない最大の整数を $m_k$ とすると $s_{m_k}\to-1$ である。
    この級数は「Abel 総和可能」と「$a_n\to0$」を満たすが収束しないので、thm-abct-tauber の仮定 $na_n\to0$ を $a_n\to0$ に弱めると結論は成り立たない。Tauber の定理と合わせると、この級数では $na_n\to0$ が成り立たないことも分かる。

反例:条件を外すと崩れる例

外す条件反例成り立たなくなること
$\sum a_n$ の収束($a_n\to0$ だけにする)$a_n=\frac{1}{n+1}$$\lim_{x\to1-0}f(x)$ が有限の値として存在する
端の点 $x=1$ での収束($[0,1)$ での収束だけにする)$a_n=1$冪級数が $[0,1)$ 上で一様収束する
Tauber の定理の $na_n\to0$$a_n=(-1)^n$Abel 総和可能な級数が収束する
Tauber の定理の $na_n\to0$($a_n\to0$ に弱める)ex-abct-tauber-sharp の級数Abel 総和可能な級数が収束する
表の確かめ

1 行目:$\sum\frac{1}{n+1}$ は発散する(調和級数)。$0\le x<1$ の各 $N$ について $f(x)\ge\sum_{n=0}^{N}\frac{x^n}{n+1}$ であり、右辺は $x\to1-0$ で $1+\frac12+\cdots+\frac{1}{N+1}$ に近づく。$N$ は任意なので $f(x)$ は $x\to1-0$ で有界でなく、有限の極限をもたない。
2 行目:$\sum x^n$ は $0\le x<1$ で $\frac{1}{1-x}$ に収束するが、部分和 $\sum_{n=0}^{N}x^n$ は $N+1$ 以下なので、和との差は $x\to1-0$ で有界でない。各 $N$ について差の上限が $\infty$ なので一様収束しない。thm-abct-main の証明で、一様性は $x=1$ での収束(部分和の Cauchy 条件)から来ている。
3 行目:ex-abct-grandi の 1 により Abel 和は $\frac12$ だが、部分和は $1,0,1,0,\dots$ で収束しない。$n|a_n|=n$ は $0$ に近づかない。
4 行目:ex-abct-tauber-sharp で示した。

補足

総和法としての見方

級数に値を割り当てる規則で、収束する級数には通常の和を割り当てるものを、正則な総和法という。lem-abct-mean と thm-abct-main は、Cesàro 和と Abel 和がどちらも正則な総和法であることを述べている。prop-abct-cesaro-abel と ex-abct-grandi により、Abel 和のほうが適用範囲が広い。Tauber 型の定理は、広い総和法で和が付いた級数が、どんな追加の条件のもとで通常の意味で収束するかを答える。

冪級数の境界での振る舞い

cor-abct-general は、収束円板の境界の点で級数が収束するときだけ連続性を保証する。境界での収束・発散の様子は収束半径だけでは決まらない(収束半径 の記事の例「反例:境界での振る舞いは収束半径で決まらない」)。また $\sum a_n$ が収束しても、$\sum na_n$ のように項別微分した級数は $x=1$ で収束するとは限らず(冪級数 の記事の例「反例:項別微分で端点での収束が失われる」)、Abel の連続性定理は和の微分可能性については何も述べない。

関連項目

参考文献

[1]
Walter Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1976, Theorem 8.2(p. 174、証明は pp. 174–175。Abel の連続性定理)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する