向き付け二重被覆

同義語:向きの二重被覆向きの2重被覆orientation double coverorientation double covering

概要

向き付け二重被覆(orientation double cover)とは、$n$ 次元位相多様体 $M$ の各点の局所ホモロジー $H_n(M\mid x)\cong\mathbb{Z}$ の生成元(局所的な向き)を全部集め、自然な位相を入れた空間 $\widetilde M$ であり、$\widetilde M\to M$ は 2 重の被覆写像になる。$\widetilde M$ はつねに向き付け可能で、$M$ の向きはこの被覆の連続な切断にほかならず、連結な $M$ が向き付け可能であることと $\widetilde M$ が連結でないことは同値である。シートを入れ替える被覆変換は向きを反転し、この性質で $\widetilde M$ は特徴づけられる。$\mathbb{RP}^{2m}$ では $S^{2m}$、Klein の壺ではトーラスになる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相多様体, 局所ホモロジー, 被覆空間, 向き付け可能多様体

$n$ 次元の位相多様体 $M$ の各点 $x$ には、局所ホモロジー $H_n(M\mid x)\cong\mathbb{Z}$ の生成元として「局所的な向き」がちょうど 2 つある。それらを全部集めた集合 $\widetilde M$ に自然な位相を入れると、$\widetilde M\to M$ は 2 重の被覆写像になり、$\widetilde M$ はいつも向き付け可能な多様体になる。これが向き付け二重被覆(orientation double cover)である。$M$ の向きはこの被覆の連続な切断と同じものであり、連結な $M$ が向き付け可能であることと $\widetilde M$ が連結でないことは同値である。向き付け不可能な多様体は、向き付け可能な $\widetilde M$ を 2 対 1 に折りたたんだものとして理解できる。たとえば偶数次元の実射影空間 $\mathbb{RP}^{2m}$ の向き付け二重被覆は球面 $S^{2m}$、Kleinの壺のそれはトーラスである。この記事では係数環 $R$ の版 $M_R$ を含めて構成を述べ、それが被覆写像であることを証明し、$R$ 向き付け可能性の判定、被覆変換による特徴づけ、開集合・被覆空間・商空間の向きとの関係を扱う。

記法と定義

以下 $n\ge0$ とし、$M$ を $n$ 次元位相多様体(Hausdorff空間で第2可算公理を満たし、各点が $\mathbb{R}^n$ と同相な開近傍をもつ空間)、$R$ を単位元をもつ可換環とする。部分集合 $A\subset M$ に対し $H_n(M\mid A;R):=H_n(M,M\setminus A;R)$ と書き、$R=\mathbb{Z}$ のときは係数を省く。座標近傍 $\varphi\colon V\xrightarrow{\cong}\mathbb{R}^n$ と $\mathbb{R}^n$ の有限半径の開球 $D$ について $\varphi^{-1}(D)$ の形の集合を $M$ の球体という。球体の全体は $M$ の開基をなす。
Poincaré双対 の補題「局所ホモロジーの計算」とその後の段落により、球体 $B$ と点 $y\in B$ について $H_n(M\mid B;R)\cong R$ であり、包含が誘導する写像
$$ \rho^B_y\colon H_n(M\mid B;R)\to H_n(M\mid y;R) $$
は同型である。球体 $B'\subset B$ についても、$y\in B'$ をとると $\rho^{B'}_y\circ\rho^B_{B'}=\rho^B_y$ なので、包含が誘導する $\rho^B_{B'}\colon H_n(M\mid B;R)\to H_n(M\mid B';R)$ は同型である。$\mathbb{Z}$ から $R$ への係数の写像は同型 $H_n(M\mid x)\otimes_{\mathbb{Z}}R\cong H_n(M\mid x;R)$ を与え($H_{n-1}(M\mid x)$ が自由なので普遍係数定理の Tor の項が消える)、$H_n(M\mid x)$ の生成元 $\mu$ について $H_n(M\mid x;R)$ は $\mu\otimes1$ を基底とする階数 $1$ の自由 $R$ 加群である。その生成元は $\mu\otimes u$($u$ は $R$ の単元)の形の元である。

局所ホモロジーの被覆と向き付け二重被覆

集合
$$ M_R:=\bigsqcup_{x\in M}H_n(M\mid x;R) $$
と、$H_n(M\mid x;R)$ の元を $x$ に送る写像 $\pi\colon M_R\to M$ を考える。球体 $B$ と $\alpha\in H_n(M\mid B;R)$ に対し
$$ U(\alpha):=\{\rho^B_y(\alpha)\mid y\in B\}\subset M_R $$
とおき、これらを開基とする位相を $M_R$ に入れる(開基になることは thm-odc-covering で示す)。$R=\mathbb{Z}$ のとき、各 $H_n(M\mid x)\cong\mathbb{Z}$ の生成元($x$ における局所的な向き)の全体
$$ \widetilde M:=\{\mu_x\mid x\in M,\ \mu_x\text{ は }H_n(M\mid x)\text{ の生成元}\}\subset M_{\mathbb{Z}} $$
に部分空間の位相を入れたものを、$M$ の向き付け二重被覆(orientation double cover)という。

$M$ の $R$ 向き付けとは、各点 $x$ に $H_n(M\mid x;R)$ の生成元 $\mu_x$ を対応させる関数で、各 $x$ について球体 $B\ni x$ と $\mu_B\in H_n(M\mid B;R)$ があって $\rho^B_y(\mu_B)=\mu_y$($y\in B$)となるものをいう(Poincaré双対 の定義「局所的な向きと向き付け」、Hat02 pp. 234–235)。$R=\mathbb{Z}$ のときは単に向きといい、向き付け可能多様体 の定義「位相多様体の向き」と同じである。

被覆写像であること

向き付け二重被覆の基本定理
  1. 集合 $U(\alpha)$ の全体は $M_R$ の位相の開基であり、$\pi\colon M_R\to M$ は被覆写像である。各球体 $B$ について $\pi^{-1}(B)=\bigsqcup_{\alpha\in H_n(M\mid B;R)}U(\alpha)$(交わらない和)であり、$\pi$ は各 $U(\alpha)$ を $B$ の上へ同相に写す。
  2. $\widetilde M$ は $M_{\mathbb{Z}}$ の開かつ閉な部分集合であり、$\pi\colon\widetilde M\to M$ は 2 重の被覆写像である。
  3. $\widetilde M$ は $n$ 次元位相多様体である。各点 $\xi=\mu_x\in\widetilde M$ に、次の証明で定める同型 $\theta_\xi\colon H_n(\widetilde M\mid\xi)\to H_n(M\mid x)$ で $\mu_x$ に対応する生成元 $\tilde\mu_\xi:=\theta_\xi^{-1}(\mu_x)$ を与えると、$\xi\mapsto\tilde\mu_\xi$ は $\widetilde M$ の向きである。これを $\widetilde M$ の標準の向きという。
  4. $M$ の $R$ 向き付けとは、$\pi\colon M_R\to M$ の連続な切断 $s$($\pi\circ s=\mathrm{id}_M$ をみたす連続写像)であって、各 $s(x)$ が $H_n(M\mid x;R)$ の生成元であるもののことにほかならない。とくに $M$ の向きとは、$\widetilde M\to M$ の連続な切断のことである。

1.$\xi\in H_n(M\mid x;R)$ に対し、$x$ を含む球体 $B$ をとり $\alpha:=(\rho^B_x)^{-1}(\xi)$ とおけば $\xi\in U(\alpha)$ なので、$U(\alpha)$ の全体は $M_R$ を覆う。$\xi\in U(\alpha)\cap U(\alpha')$($\alpha\in H_n(M\mid B;R)$、$\alpha'\in H_n(M\mid B';R)$)で $\pi(\xi)=y$ とする。$B\cap B'$ は $y$ の開近傍なので、球体 $B''$ で $y\in B''\subset B\cap B'$ となるものがある。$\rho^{B''}_y(\rho^B_{B''}\alpha)=\rho^B_y(\alpha)=\xi=\rho^{B''}_y(\rho^{B'}_{B''}\alpha')$ で $\rho^{B''}_y$ は同型なので、$\alpha'':=\rho^B_{B''}\alpha=\rho^{B'}_{B''}\alpha'$ である。$z\in B''$ について $\rho^{B''}_z(\alpha'')=\rho^B_z(\alpha)=\rho^{B'}_z(\alpha')$ なので $\xi\in U(\alpha'')\subset U(\alpha)\cap U(\alpha')$ となり、開基の条件がみたされる。
$\pi$ は連続である。実際、開集合 $W\subset M$ と $\xi\in U(\alpha)\cap\pi^{-1}(W)$、$y=\pi(\xi)$ について、球体 $B''$ を $y\in B''\subset W\cap B$ ととれば、上と同様に $\xi\in U(\rho^B_{B''}\alpha)\subset U(\alpha)\cap\pi^{-1}(W)$ である。球体 $B$ を固定する。$z\in B$ と $\eta\in H_n(M\mid z;R)$ について $\eta\in U((\rho^B_z)^{-1}\eta)$ なので $\pi^{-1}(B)=\bigcup_\alpha U(\alpha)$ であり、$\eta\in U(\alpha)\cap U(\alpha')$ なら $\rho^B_z(\alpha)=\eta=\rho^B_z(\alpha')$ から $\alpha=\alpha'$ なので、この和は交わらない。$\pi|_{U(\alpha)}\colon U(\alpha)\to B$ は、$\rho^B_z$ が同型なので全単射であり、連続である。$U(\alpha)$ に含まれる開基の元は、上の議論で $B$ に含まれる球体 $B''$ について $U(\rho^B_{B''}\alpha)$ の和にとれ、その像 $B''$ は開集合なので、$\pi|_{U(\alpha)}$ は開写像、したがって同相写像である。球体は $M$ を覆うので、$\pi$ は被覆写像である。
2.同型 $\rho^B_y$ は生成元を生成元に写すので、生成元 $\mu\in H_n(M\mid B)$ について $U(\mu)\subset\widetilde M$、生成元でない $\alpha$ について $U(\alpha)\cap\widetilde M=\emptyset$ である。よって $\widetilde M$ もその補集合も開基の元の和であり、$\widetilde M$ は開かつ閉である。$H_n(M\mid B)\cong\mathbb{Z}$ の生成元は $\pm\mu_B$ の 2 つなので、$\pi^{-1}(B)\cap\widetilde M=U(\mu_B)\sqcup U(-\mu_B)$ であり、1 から $\widetilde M\to M$ は 2 重の被覆写像である。
3.Hausdorff 性:$\pi(\xi)\ne\pi(\eta)$ なら $M$ の交わらない開近傍の逆像で分離できる。$\pi(\xi)=\pi(\eta)=x$、$\xi\ne\eta$ なら、$x$ を含む球体 $B$ について $\xi,\eta$ は交わらない $U(\mu_B)$ と $U(-\mu_B)$ に属する。局所 Euclid 性:$U(\mu_B)\cong B\cong\mathbb{R}^n$。第 2 可算性は可算個の球体からなる開基をとればよい(下の折りたたみ)。
標準の向き:$x$ を含む球体 $B$ と $\mu_B:=(\rho^B_x)^{-1}(\mu_x)$ をとり、$\xi=\mu_x$ を含む $W:=U(\mu_B)$ を考える。$\widetilde M$ と $M$ は Hausdorff なので点は閉集合であり、局所ホモロジー の命題「局所ホモロジーの局所性」により包含は同型 $H_n(W\mid\xi)\cong H_n(\widetilde M\mid\xi)$、$H_n(B\mid x)\cong H_n(M\mid x)$ を誘導する。これらと同相写像 $\pi|_W$ が誘導する同型を合成して
$$ \theta_\xi\colon H_n(\widetilde M\mid\xi)\cong H_n(W\mid\xi)\xrightarrow{(\pi|_W)_*}H_n(B\mid x)\cong H_n(M\mid x) $$
とおく。$W$ を小さい $U(\rho^B_{B''}\mu_B)$ に替えても、各写像は包含と可換なので $\theta_\xi$ は変わらない。局所整合性は、$\pi$ が $W$ の上で同相なので、$B$ での局所整合性の類 $\mu_B$ を $\theta$ の逆で運べばよい。

第 2 可算性と局所整合性の詳しい証明を開く

第 2 可算性:$M$ は第 2 可算なので Lindelöf空間 であり、可算個の座標近傍で覆われる。各座標近傍の中で中心と半径が有理数の開球に当たる球体を集めると、可算個の球体からなる $M$ の開基 $\mathfrak B$ が得られる。1 の議論で $B''\in\mathfrak B$ ととれるので、$\{U(\pm\mu_B)\mid B\in\mathfrak B\}$ は $\widetilde M$ の可算な開基である。

局所整合性:$x$ のまわりの座標近傍 $\varphi\colon V\cong\mathbb{R}^n$ の中の、$\varphi(x)$ を中心とする半径 $r$ と $2r$ の開球に当たる球体を $B\subset B^+$ とし、$\mu_B:=(\rho^B_x)^{-1}(\mu_x)$、$\mu_{B^+}:=(\rho^{B^+}_B)^{-1}(\mu_B)$ とおく。$W^+:=U(\mu_{B^+})$ は $\pi$ により $B^+$ と同相で、$B^+$ は開球なので $\mathbb{R}^n$ と同相であり、$W:=U(\mu_B)$ はその中の有限半径の開球に当たる。上と同じ合成で同型 $\theta_W\colon H_n(\widetilde M\mid W)\cong H_n(W^+\mid W)\cong H_n(B^+\mid B)\cong H_n(M\mid B)$ が定まり(切除は $\overline W\subset W^+$、$\overline B\subset B^+$ による)、各 $\eta\in W$ への制限と可換である。$\tilde\mu_W:=\theta_W^{-1}(\mu_B)$ の $\eta=\mu_y\in W$ への制限は $\theta_\eta^{-1}(\rho^B_y\mu_B)=\theta_\eta^{-1}(\mu_y)=\tilde\mu_\eta$ である($\mu_y\in U(\mu_B)$ による)。よって $\xi\mapsto\tilde\mu_\xi$ は向きである。


4.$R$ 向き付け $x\mapsto\mu_x$ があるとき、$s(x):=\mu_x$ とおく。$x$ について局所整合性の球体 $B$ と $\mu_B$ をとると、$B$ の上で $s=(\pi|_{U(\mu_B)})^{-1}$ なので $s$ は連続である。逆に、各値が生成元である連続な切断 $s$ が与えられたとする。$x\in M$ について $s(x)\in U(\alpha)$($\alpha\in H_n(M\mid B;R)$)となる開基の元をとると、$s^{-1}(U(\alpha))$ は $x$ の開近傍なので、球体 $B'$ で $x\in B'\subset B\cap s^{-1}(U(\alpha))$ となるものがある。$y\in B'$ について $s(y)\in U(\alpha)\cap\pi^{-1}(y)$ だから $s(y)=\rho^B_y(\alpha)=\rho^{B'}_y(\rho^B_{B'}\alpha)$ であり、$\mu_{B'}:=\rho^B_{B'}\alpha$ が局所整合性を与える。$\square$

$\pi\colon M_R\to M$ の各ファイバーは $R$ 加群 $H_n(M\mid x;R)$ そのものであり、$M_R$ は、点ごとの局所ホモロジーを連続につないだ空間である(Hat02 p. 235)。$\widetilde M$ は $M_{\mathbb{Z}}$ のうち生成元の部分で、残りは $0$ の部分($M$ の複製)と、各 $k\ge2$ について「生成元の $\pm k$ 倍」の部分($\widetilde M$ の複製)に分かれる。

連結性と被覆変換

$M$ が連結なとき、向き付け可能多様体 の定理「向きの 2 重被覆による判定」(Hat02 Proposition 3.25、p. 234)により、$M$ が向き付け可能であることと $\widetilde M$ が連結でないことは同値であり、向き付け可能なら向きはちょうど 2 つ($s$ と $-s$)あって $\widetilde M=s(M)\sqcup(-s)(M)$ と 2 つの $M$ の複製に分かれる。thm-odc-covering と合わせると、連結で向き付け不可能な多様体 $M$ は、連結で向き付け可能な多様体 $\widetilde M$ によって 2 重に被覆される。次の命題は、$\widetilde M$ の 2 枚のシートを入れ替える写像が向きを反転することを述べる。

被覆変換は向きを反転する

$\iota\colon\widetilde M\to\widetilde M$、$\iota(\mu_x):=-\mu_x$ は不動点をもたない同相写像で、$\pi\circ\iota=\pi$、$\iota\circ\iota=\mathrm{id}$ をみたし、$\widetilde M$ の標準の向きを反転する。すなわち、すべての $\xi\in\widetilde M$ について $\iota_*\tilde\mu_\xi=-\tilde\mu_{\iota(\xi)}$ である。

球体 $B$ と生成元 $\mu_B$ について、$\rho^B_y(-\mu_B)=-\rho^B_y(\mu_B)$ なので $\iota$ は $W:=U(\mu_B)$ を $W':=U(-\mu_B)$ の上へ写し、そこでは $\iota|_W=(\pi|_{W'})^{-1}\circ\pi|_W$ である。よって $\iota$ は同相写像で、$\pi\circ\iota=\pi$、$\iota\circ\iota=\mathrm{id}$ であり、$-\mu_x\ne\mu_x$ なので不動点はない。$\xi=\mu_x\in W$ について、$(\pi|_{W'})\circ(\iota|_W)=\pi|_W$ と局所ホモロジーの同型の自然性から $\theta_{\iota(\xi)}\circ\iota_*=\theta_\xi$ である。したがって
$$ \iota_*\tilde\mu_\xi=\theta_{\iota(\xi)}^{-1}\bigl(\theta_\xi(\tilde\mu_\xi)\bigr)=\theta_{\iota(\xi)}^{-1}(\mu_x)=-\theta_{\iota(\xi)}^{-1}(-\mu_x)=-\tilde\mu_{\iota(\xi)} $$
である(最後は $\iota(\xi)=-\mu_x$ における標準の向きの定義)。$\square$

逆に、向きを反転する被覆変換をもつ 2 重被覆は向き付け二重被覆に限られる。

向き付け二重被覆の特徴づけ

$p\colon N\to M$ を 2 重の被覆写像とし、$\tau\colon N\to N$ を $p\circ\tau=p$ をみたし不動点をもたない同相写像とする。$N$ に向き $y\mapsto\nu_y$ があり、$\tau$ がそれを反転する(すべての $y$ で $\tau_*\nu_y=-\nu_{\tau(y)}$)とする。このとき、$y\in N$ を通るシートが誘導する同型 $\theta^N_y\colon H_n(N\mid y)\cong H_n(M\mid p(y))$ によって $\Phi(y):=\theta^N_y(\nu_y)$ と定めると、$\Phi\colon N\to\widetilde M$ は同相写像で、$\pi\circ\Phi=p$、$\Phi\circ\tau=\iota\circ\Phi$ をみたす。とくに $N$ が連結なら、$M$ は向き付け不可能であり $\widetilde M\cong N$ である。

$N$ は Hausdorff で局所 Euclid であり(thm-odc-covering の 3 と同じ議論)、2 重被覆なので第 2 可算でもある。$\theta^N_y$ は prf-odc-covering の $\theta_\xi$ と同じく、シート $S\ni y$ と同相写像 $p|_S$ を通して定め、シートの取り方によらない。$p\circ\tau=p$ から、prf-odc-involution と同じく $\theta^N_{\tau(y)}\circ\tau_*=\theta^N_y$ である。よって
$$ \Phi(\tau(y))=\theta^N_{\tau(y)}(\nu_{\tau(y)})=-\theta^N_{\tau(y)}(\tau_*\nu_y)=-\theta^N_y(\nu_y)=-\Phi(y) $$
である。$p^{-1}(x)=\{y,\tau(y)\}$(2 点で、$\tau$ は不動点をもたない)なので、$\Phi$ は各ファイバーを $\{\mu_x,-\mu_x\}$ の上へ全単射に写し、全体として全単射で $\pi\circ\Phi=p$ をみたす。
連続性:要点は、同相写像が球体を球体に、局所整合的な類を局所整合的な類に写すことである。

連続性の詳しい証明を開く

$y\in N$ について、$p(y)$ の均等に覆われた開近傍の上の $y$ を含むシート $S$ をとる。$S$ の中の座標近傍 $\psi\colon V\cong\mathbb{R}^n$($V\subset S$)について、$\psi\circ(p|_S)^{-1}\colon p(V)\cong\mathbb{R}^n$ は $M$ の座標近傍なので、$V$ の中の球体 $\widetilde B$ の像 $B:=p(\widetilde B)$ は $M$ の球体であり、$p|_S$ は同型 $H_n(N\mid\widetilde B)\cong H_n(S\mid\widetilde B)\cong H_n(p(S)\mid B)\cong H_n(M\mid B)$ を誘導し、点への制限 $\rho$ と可換である。$\nu$ の局所整合性の球体を $y$ のまわりで小さくとって $V$ の中の球体 $\widetilde B$ とし、そのときの類 $\nu_{\widetilde B}$ の像を $\mu_B$ とすると、$\widetilde B$ の上で $\Phi=(\pi|_{U(\mu_B)})^{-1}\circ p|_{\widetilde B}$ となる。よって $\Phi$ は連続で、局所同相写像である。

全単射な局所同相写像は同相写像なので、$\Phi$ は同相写像であり、$\Phi\circ\tau=\iota\circ\Phi$ は上の式である。$N$ が連結なら $\widetilde M\cong N$ は連結なので、$M$ は向き付け不可能である($M$ は連結な $N$ の連続像なので連結である)。$\square$

向き付け二重被覆の例
  1. $M$ が連結で向き付け可能なら、$\widetilde M\cong M\sqcup M$ である。
  2. $n\ge1$ とし、$p\colon S^n\to\mathbb{RP}^n$ を商写像、$\tau=a$ を対蹠写像 $a(v)=-v$ とする。$a$ は $n$ が偶数なら $S^n$ の向きを反転し、奇数なら保つ(向き付け可能多様体 の例「商として得られる多様体」の 2 と、命題「滑らかな向きと位相的な向きの一致」)。よって $n$ が偶数なら prop-odc-characterization により $\widetilde{\mathbb{RP}^n}\cong S^n$ であり、$n$ が奇数なら $\mathbb{RP}^n$ は向き付け可能で $\widetilde{\mathbb{RP}^n}\cong\mathbb{RP}^n\sqcup\mathbb{RP}^n$ である。
  3. Kleinの壺 $K$ の向き付け二重被覆はトーラス、開いた Möbiusの帯 のそれは円環 $S^1\times(-1,1)$ である。
    3 の確認を開く

    $\mathbb{R}^2$ に $\tau(x,y)=(x+1,-y)$ と $\sigma(x,y)=(x,y+1)$ が生成する群 $\Gamma$ を作用させた商 $K=\mathbb{R}^2/\Gamma$ を考える。$\tau^2$ と $\sigma$ が生成する部分群 $\Gamma_0$(平行移動 $(x,y)\mapsto(x+2a,y+b)$ の全体)は指数 $2$ の正規部分群で、$T:=\mathbb{R}^2/\Gamma_0$ はトーラスである。$\tau$ は $T$ の不動点をもたない対合 $\bar\tau$ を誘導し、$T\to T/\langle\bar\tau\rangle=K$ は 2 重被覆である(被覆空間 の命題「自由で固有不連続な作用から得られる被覆」)。$\tau$ の微分は $\operatorname{diag}(1,-1)$ なので $\bar\tau$ は $T$ の向きを反転する。よって $\widetilde K\cong T$ である。開いた Möbius の帯 $\mathbb{R}\times(-1,1)/\langle\tau\rangle$ では、同じ議論で向き付け二重被覆は $\mathbb{R}\times(-1,1)/\langle\tau^2\rangle\cong S^1\times(-1,1)$ である。

係数環 $R$ の版と $R$ 向き付け可能性

$r\in R$ について $M_r:=\{\mu\otimes r\mid\mu\in\widetilde M\}\subset M_R$ とおく($\mu\otimes r$ は係数の写像 $\mathbb{Z}\to R$、$1\mapsto r$ による $\mu$ の像)。$M_r=M_{-r}$ である。

$M_R$ の分解と $R$ 向き付け可能性
  1. $M_R=\bigcup_{r\in R}M_r$ であり、$M_r\cap M_{r'}\ne\emptyset$ となるのは $r'=\pm r$ のときに限る。各 $M_r$ は $M_R$ の開かつ閉な部分集合である。
  2. $2r\ne0$ なら $\mu\mapsto\mu\otimes r$ は同相写像 $\widetilde M\cong M_r$ であり、$2r=0$ なら $\pi|_{M_r}\colon M_r\to M$ は同相写像である。
  3. 向き付け可能な多様体は、すべての $R$ について $R$ 向き付け可能である。連結で向き付け不可能な多様体が $R$ 向き付け可能であることは、$R$ で $2=0$ であることと同値である。とくに、すべての多様体は $\mathbb{Z}/2$ 向き付け可能である。

要点:開基の元はすべて $U(\mu_B\otimes r)$ の形なので $M_R$ は開集合 $M_r$ に分かれ、$\mu\otimes r=(-\mu)\otimes r$ は $2r=0$ と同値である。連結な $M$ の $R$ 向き付けは一つの $M_u$($u$ は単元)に値をとり、$2u\ne0$ なら $\widetilde M\cong M_u$ を通して向きになる。

詳しい証明を開く

1.球体 $B$ の生成元 $\mu_B\in H_n(M\mid B)$ について、点の場合と同じく $H_n(M\mid B;R)$ は $\mu_B\otimes1$ を基底とする自由 $R$ 加群であり、係数の写像は $\rho^B_y$ と可換である。よって任意の開基の元は $U(\mu_B\otimes r)$ の形で、$U(\mu_B\otimes r)\subset M_r$ である。これより $M_R=\bigcup_rM_r$ であり、各 $M_r$ は開基の元の和なので開集合である。$\mu\otimes r=\mu'\otimes r'$($\mu'=\pm\mu$)なら、$\mu\otimes1$ が基底なので $r'=\pm r$ である。よって $M_r$ の補集合は $r'\ne\pm r$ である $M_{r'}$ の和で、開集合である。

2.$m_r(\mu):=\mu\otimes r$ は $U(\mu_B)$ を $U(\mu_B\otimes r)$ の上へ写し、$\pi$ と可換なので、局所同相写像で $M_r$ の上への全射である。$\mu\otimes r=(-\mu)\otimes r$ は $\mu\otimes 2r=0$、すなわち $2r=0$ と同値である。よって $2r\ne0$ なら $m_r$ は単射でもあり同相写像になる。$2r=0$ なら $M_r$ は各ファイバーとちょうど 1 点で交わり、$\pi|_{M_r}$ は全単射で、$M_r$ が開集合なので局所同相写像でもあり、同相写像である。

3.thm-odc-covering の 4 により、$R$ 向き付けは各値が生成元 $\mu_x\otimes u_x$($u_x$ は単元)である連続な切断 $s$ である。$M$ に向き $x\mapsto\mu_x$ があれば $x\mapsto\mu_x\otimes1=m_1(\mu_x)$ はそのような切断である。$M$ が連結で向き付け不可能とし、$s$ を $R$ 向き付けとする。点 $x_0$ で $s(x_0)\in M_u$($u$ は単元)とすると、$s(M)$ は連結なので 1 により $M_u$ に含まれる。$2u\ne0$ なら $m_u^{-1}\circ s$ は $\widetilde M\to M$ の連続な切断、すなわち $M$ の向きとなり矛盾する。よって $2u=0$ で、$u$ は単元なので $2=0$ である。逆に $2=0$ なら $(\pi|_{M_1})^{-1}$ は各値が生成元 $\mu_x\otimes1$ の連続な切断である。$\square$

この定理は Hat02 pp. 235–236 の記述と同じ内容である。実用上は $R=\mathbb{Z}$ と $R=\mathbb{Z}/2$ が重要で、$\mathbb{Z}/2$ 係数では向きの問題が消えるので、Poincaré双対 や 基本類 の $\mathbb{Z}/2$ 係数版はすべての閉多様体で成り立つ。

開集合・被覆空間・商空間の向き

向き付け二重被覆を使うと、向き付け可能性がどの操作で保たれるかを見通しよく示せる。

向き付け可能性の遺伝と降下

$M$ を $n$ 次元位相多様体とする。

  1. $M$ が向き付け可能なら、その開集合も向き付け可能である。
  2. $p\colon E\to M$ を被覆写像とし、$E$ は第 2 可算とする。$M$ が向き付け可能なら、$E$ は向き付け可能な $n$ 次元位相多様体である。
  3. $n\ge2$ とし、$x\in M$ とする。$M$ が向き付け可能であることと、$M\setminus\{x\}$ が向き付け可能であることは同値である。
  4. 群 $G$ が $M$ に同相写像として作用し、各点 $x$ が、$g\ne1$ について $gV\cap V=\emptyset$ となる開近傍 $V$ をもつとする。$M$ に向き $\mu$ があり、各 $g$ が向きを保つ(すべての $x$ で $g_*\mu_x=\mu_{gx}$)とする。商 $M/G$ が Hausdorff なら、$M/G$ は向き付け可能な $n$ 次元位相多様体である。

要点:開集合 $V\subset M$ では局所ホモロジーが切除で $H_n(V\mid x)\cong H_n(M\mid x)$ と一致し、$V$ の球体を $M$ の球体とみなせるので、$\widetilde V=\pi^{-1}(V)$ である。局所同相写像は prf-odc-characterization の連続性の議論で向きを運ぶ。3 では穿孔された球体が連結であることを使う。

1–4 の詳しい証明を開く

1.$V\subset M$ を開集合とする。$x\in V$ について切除の同型 $H_n(V\mid x)\cong H_n(M\mid x)$ があり、$V$ に含まれる $M$ の球体は $V$ の球体でもあって、これらは $V$ の開基をなす。よって $M$ の向きを $V$ の点に制限したものは $V$ の向きである。

2.$E$ は Hausdorff で局所 Euclid である(thm-odc-covering の 3 と同じ議論)。$e\in E$ について、シート $S\ni e$ と $p|_S$ を通した同型 $\theta^E_e\colon H_n(E\mid e)\cong H_n(M\mid p(e))$ をとり、$\nu_e:=(\theta^E_e)^{-1}(\mu_{p(e)})$ とおく。prf-odc-characterization の連続性の議論と同じく、$S$ の中の座標近傍の球体は $p$ で $M$ の球体に写り、局所整合性の類が運ばれるので、$\nu$ は $E$ の向きである。シートの枚数や $E$ の連結性は使わない。

3.1 により、$M$ が向き付け可能なら $M\setminus\{x\}$ も向き付け可能である。逆に $M\setminus\{x\}$ に向きがあるとし、thm-odc-covering の 4 によりそれを連続な切断 $s\colon M\setminus\{x\}\to\pi^{-1}(M\setminus\{x\})\subset\widetilde M$ とみなす(1 の同一視による)。$x$ を含む球体 $B$ をとると $\pi^{-1}(B)\cap\widetilde M=U(\mu_B)\sqcup U(-\mu_B)$ である。$B\setminus\{x\}$ は $\mathbb{R}^n$ の穿孔された開球と同相で、$n\ge2$ なので連結である($S^{n-1}\times(0,1)$ と同相)。よって $s(B\setminus\{x\})$ は $U(\varepsilon\mu_B)$($\varepsilon=\pm1$)のどちらか一方に含まれる。$s(x):=\rho^B_x(\varepsilon\mu_B)$ と延ばすと、$B$ の上で $s=(\pi|_{U(\varepsilon\mu_B)})^{-1}$ なので $s$ は $B$ と $M\setminus\{x\}$ の上で連続、したがって $M$ 全体で連続であり、$M$ の向きを与える。

4.商写像 $q\colon M\to M/G$ は被覆写像である(被覆空間 の命題「自由で固有不連続な作用から得られる被覆」)。$q$ は開写像なので、$M$ の可算開基の像は $M/G$ の可算開基であり、$M/G$ は仮定により Hausdorff、$q$ のシートを通して局所 Euclid なので、$n$ 次元位相多様体である。$x\in M$ について 2 と同じ同型 $\theta^q_x\colon H_n(M\mid x)\cong H_n(M/G\mid q(x))$ をとり、$\bar\mu_{q(x)}:=\theta^q_x(\mu_x)$ とおく。$q\circ g=q$ から $\theta^q_{gx}\circ g_*=\theta^q_x$ なので、$\theta^q_{gx}(\mu_{gx})=\theta^q_{gx}(g_*\mu_x)=\theta^q_x(\mu_x)$ であり、$\bar\mu$ は代表 $x$ の選び方によらない。シートの上で $\bar\mu$ は $\mu$ を同相写像 $q|_S$ で運んだものなので、2 と同じく局所整合的である。$\square$

2 で $E$ が連結である必要はなく、シートの枚数も任意である。$M$ が連結なら、4 で作用が向きを保つことは必要でもある。$M/G$ の向きを 2 と同じ同型 $\theta^q_x$ で $M$ に引き戻すと、$q\circ g=q$ から $G$ で保たれる向きになり、連結な $M$ の向きは $\pm\mu$ だけなので、どの $g$ も $\mu$ を保つからである。たとえば $S^{2m}\to\mathbb{RP}^{2m}$ では対蹠写像が向きを反転するので、商は向き付け不可能である(prop-odc-characterization も参照)。4 の Hausdorff 性の仮定は外せない(次の節の反例の 3 行目)。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
$M$ の連結性(「$\widetilde M$ が連結でないなら向き付け可能」)$M=\mathbb{RP}^2\sqcup\mathbb{RP}^2$$\widetilde M\cong S^2\sqcup S^2$ は連結でないが、$M$ は向き付け不可能
$\tau$ が向きを反転すること(prop-odc-characterization)$S^n\to\mathbb{RP}^n$($n$ は奇数)$N=S^n$ は連結な向き付け可能な 2 重被覆だが、$\widetilde{\mathbb{RP}^n}\cong\mathbb{RP}^n\sqcup\mathbb{RP}^n$ と同相でない
商の Hausdorff 性(prop-odc-inherit の 4)$M=\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$、$G=\langle\varphi\rangle$、$\varphi(x,y)=(2x,y/2)$作用は向きを保ち各点に $gV\cap V=\emptyset$ となる近傍があるが、$M/G$ は Hausdorff でなく多様体でない
反例の確かめ

1 行目:$\mathbb{RP}^2$ は向き付け不可能で、その向き付け二重被覆は $S^2$(ex-odc-examples の 2)なので、$\widetilde M$ は $S^2$ 2 つである。連結な $M$ では「$\widetilde M$ が連結でない」は「$\widetilde M$ の成分がちょうど 2 つ」を意味するが、連結でない $M$ では成分の数は向き付け可能性を判定しない。
2 行目:$n$ が奇数なら $a$ は $S^n$ の向きを保ち、$\mathbb{RP}^n$ は向き付け可能である(ex-odc-examples の 2)。$S^n$ は連結、$\widetilde{\mathbb{RP}^n}$ は連結でないので同相でない。
3 行目:

作用の性質と非 Hausdorff 性の確認を開く

$\varphi^k(x,y)=(2^kx,2^{-k}y)$ である。$x\ne0$ の点では $\lvert x\rvert$ が区間 $(a,b)$($0< a< b< 2a$)に入る近傍 $V$ をとると、$\varphi^k(V)$ では $\lvert x\rvert\in(2^ka,2^kb)$ で、これらは $k$ ごとに交わらない。$x=0$(したがって $y\ne0$)の点では $\lvert y\rvert$ について同じことをすればよい。$\varphi$ は行列式 $1$ の線形写像なので向きを保つ(向き付け可能多様体 の命題「滑らかな向きと位相的な向きの一致」の 1)。$p=(1,0)$ と $r=(0,1)$ は異なる軌道に属する。$z_k:=(2^{-k},1)$ とすると $z_k\to r$、$\varphi^k(z_k)=(1,2^{-k})\to p$ である。$q(p)$、$q(r)$ の開近傍 $\bar P$、$\bar Q$ をとると、$q^{-1}(\bar P)$、$q^{-1}(\bar Q)$ は $p$、$r$ の開近傍なので、十分大きい $k$ で $\varphi^k(z_k)\in q^{-1}(\bar P)$、$z_k\in q^{-1}(\bar Q)$ となり、$q(z_k)\in\bar P\cap\bar Q$ である。よって $q(p)$ と $q(r)$ は分離できず、$M/G$ は Hausdorff でない。

この反例は、被覆空間 の命題「自由で固有不連続な作用から得られる被覆」の条件(各点に $gV\cap V=\emptyset$ となる近傍がある)だけでは商が Hausdorff にならないことも示している。

補足

  • 基本群による見方:$M$ が連結で向き付け不可能なとき、$x$ を基点とするループ $\gamma$ を $\mu_x$ から持ち上げた道の終点は $\mu_x$ か $-\mu_x$ であり、$\mu_x$ に戻るループのホモトピー類の全体が指数 $2$ の部分群 $\pi_*\pi_1(\widetilde M,\mu_x)$ である(被覆空間 の定理「基本群との関係」)。これは「ループに沿って局所的な向きを運ぶと反転して戻ってくることがある」という向き付け不可能性の直観を定式化したもので、$\pi_1(M)$ が指数 $2$ の部分群をもたなければ $M$ は向き付け可能である(Hat02 Proposition 3.25)。
  • 滑らかな多様体:滑らかな多様体では、局所的な向きと接空間の向きとが 1 対 1 に対応し、座標変換と整合する(向き付け可能多様体 の命題「滑らかな向きと位相的な向きの一致」)。この対応で、$\widetilde M$ は各接空間 $T_xM$ の 2 つの向きを集めた空間とみなせる。
  • ほかの構成への入口:向き付け不可能な多様体の性質を、向き付け可能な $\widetilde M$ と被覆変換 $\iota$ の性質に帰着させることがよく行われる。たとえば閉多様体の Poincaré双対 は $\mathbb{Z}$ 係数では向き付け可能性を仮定するが、thm-odc-coefficients により $\mathbb{Z}/2$ 係数ではすべての閉多様体で成り立つ。境界をもつ多様体や球面の部分集合の補集合での双対は Lefschetz双対定理・Alexander双対定理 で扱う。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する