多様体

同義語:位相多様体manifoldtopological manifold

概要

多様体(manifold)とは、各点が Euclid 空間 $\mathbb{R}^n$ の開集合と同相な開近傍をもつ Hausdorff かつ第 2 可算な位相空間(位相多様体)と、その座標変換に微分可能性・正則性・区分線形性などの条件を課して得られる可微分多様体・複素多様体・PL 多様体の総称である。円周・球面・トーラス・射影空間のように大域的には曲がった図形を、局所座標を貼り合わせて扱うための共通の枠組みを与え、幾何学のほぼ全域の基礎的対象である。位相多様体は局所コンパクト・局所弧状連結・距離化可能・パラコンパクトであり、次元は位相だけから定まる。二つの原点をもつ直線(Hausdorff でない)と長い直線(第 2 可算でない)は、局所的には Euclid 空間と同じでも多様体でない反例である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相空間, Hausdorff空間, 第2可算公理, 同相写像, Euclid空間, 開集合

定義

局所 Euclid 性と座標近傍

$X$位相空間$n$自然数とする。$X$ の点 $x$$n$ 次元局所 Euclid 的(locally Euclidean of dimension $n$)であるとは、$x$ の開近傍(近傍$U$ と、Euclid空間 $\mathbb{R}^n$開集合 $\varphi(U)$ への同相写像 $\varphi\colon U\to\varphi(U)\subset\mathbb{R}^n$ が存在することをいう。この組 $(U,\varphi)$$x$ のまわりの座標近傍(coordinate neighborhood)またはチャート(chart)といい、$\varphi$座標写像$\varphi$ の成分 $x^1,\dots,x^n\colon U\to\mathbb{R}$$U$ 上の局所座標(local coordinates)という。すべての点が $n$ 次元局所 Euclid 的である位相空間を $n$ 次元局所 Euclid 空間という。
座標近傍の族 $\{(U_\alpha,\varphi_\alpha)\}_{\alpha\in A}$$\bigcup_\alpha U_\alpha=X$ となるものを $X$アトラス(atlas、座標近傍系)という。$U_\alpha\cap U_\beta\neq\emptyset$ のとき、同相写像
$$\varphi_\beta\circ\varphi_\alpha^{-1}\colon\varphi_\alpha(U_\alpha\cap U_\beta)\to\varphi_\beta(U_\alpha\cap U_\beta)$$
$(U_\alpha,\varphi_\alpha)$ から $(U_\beta,\varphi_\beta)$ への座標変換(transition map)という。両辺はそれぞれ $\mathbb{R}^n$ の開集合である。

位相多様体

位相空間 $M$$n$ 次元位相多様体(topological manifold of dimension $n$)であるとは、次の 3 条件を満たすことをいう。

  1. $M$Hausdorff空間である。
  2. $M$第2可算公理を満たす。すなわち高々可算な開基をもつ。
  3. $M$$n$ 次元局所 Euclid 空間である。
    $n$$M$次元といい $\dim M=n$ と書く。コンパクト(コンパクト空間)な位相多様体を閉多様体(closed manifold)ともいう。
多様体という総称

多様体(manifold)とは、位相多様体、およびそのアトラスの座標変換に追加の条件を課して得られる空間の総称である。座標変換に何も課さないものが位相多様体、座標変換が $C^r$ 級($1\le r\le\infty$)であるアトラスを指定したものが可微分多様体$r=\infty$ のとき滑らかな多様体)、座標変換が正則写像であるもの($\mathbb{R}^{2n}=\mathbb{C}^n$ とみなす)が複素多様体、座標変換が区分線形写像であるものが PL多様体 である。文脈上どの構造を扱うかが明らかなときは、単に「多様体」と呼ぶ。本記事は位相多様体を扱い、可微分多様体の定義と性質は可微分多様体が所有する。

定義の流儀

局所 Euclid 性は「各点が $\mathbb{R}^n$ の開集合と同相な開近傍をもつ」と述べたが、「$\mathbb{R}^n$ 自身と同相な開近傍をもつ」「開球(開球$B(0,1)\subset\mathbb{R}^n$ と同相な開近傍をもつ」と述べても同値である。$\mathbb{R}^n$ の開集合 $\varphi(U)$ は点 $\varphi(x)$ を中心とする開球を含み、開球は $\mathbb{R}^n$ と同相だからである(manifold-prop-ball)。
Hausdorff 性と第 2 可算性を課すかどうかには文献間で差がある。Lee11 Ch. 1 と Mun00 §36 は本記事と同じく両方を課す。第 2 可算性の代わりにパラコンパクト性(パラコンパクト空間)を課す文献もあり(Spi99 Ch. 1)、連結(連結空間)な局所 Euclid Hausdorff 空間ではパラコンパクト性と第 2 可算性は同値である(パラコンパクト空間の記事の命題(連結な局所 Euclid 空間))。連結成分(連結成分)が非可算個ある場合には、パラコンパクトだが第 2 可算でない空間(非可算集合の離散空間)が生じるので、両者は一般には一致しない。Hausdorff 性のみを課し第 2 可算性を課さない流儀もあり、その流儀では後述の長い直線や Prüfer 曲面(manifold-rem-long-line)も多様体に含まれるが、本記事では両条件を課すので、これらは多様体ではない反例として扱う。
境界付き多様体境界付き多様体、manifold with boundary)は、局所モデルを $\mathbb{R}^n$ の開集合から閉半空間 $\mathbb{H}^n=\{x\in\mathbb{R}^n\mid x^n\ge0\}$ の開集合に広げたもので、閉球体 $D^n$ や閉区間 $[0,1]$ がその例である。本記事の意味の多様体は境界を持たない。

直感

多様体とは、大域的には曲がったり閉じたりしていてよいが、どの点のまわりも十分小さく見れば $\mathbb{R}^n$ の一部と区別がつかない空間である。円周や球面は全体としては曲がっているが、各点の近くでは平面の一部のように座標を引ける。「近くで座標が引ける」という性質だけを抽出したのが局所 Euclid 性であり、座標を貼り替えるときの規則(座標変換)にどれだけの滑らかさを要求するかによって、位相多様体・可微分多様体・複素多様体が区別される。
Hausdorff 性と第 2 可算性は、局所的には見えない大域的な条件である。Hausdorff 性は「点列の極限が一意である」「コンパクト集合が閉(閉集合)である」といった議論を保証し、第 2 可算性は「可算個の座標近傍で覆える」「距離が入る」「1 の分割がある」ことを保証する。これらを落とすと、局所的には $\mathbb{R}^n$ と同じでも、二つの原点をもつ直線(manifold-rem-line-two-origins)や長い直線(manifold-rem-long-line)のような、解析にも幾何にも不向きな空間が混入する。

Euclid 空間とその開部分集合

$\mathbb{R}^n$$n$ 次元位相多様体である。Hausdorff 性は距離空間(距離空間)であることから、第 2 可算性は有理点を中心とする有理数半径の開球全体が可算な開基をなすことから従う(第2可算公理の記事の例(有理点を中心とする開球の族))。恒等写像 $\mathrm{id}\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$ だけからなる族が一つのアトラスである。$\mathbb{R}^n$ の任意の開集合 $U$ も、包含写像を座標写像として $n$ 次元位相多様体になる(manifold-prop-open-subset)。とくに $\mathbb{R}$ の開区間、$\mathbb{R}^2$ の開円板、一般線形群(一般線形群$\mathrm{GL}(n,\mathbb{R})\subset\mathbb{R}^{n^2}$(行列式(行列式)が $0$ でない行列の全体、行列式の連続性により開集合)は位相多様体である。

球面

$n$ 次元球面(n次元球面$S^n=\{x\in\mathbb{R}^{n+1}\mid\|x\|=1\}$$n$ 次元位相多様体である。Hausdorff 性と第 2 可算性は $\mathbb{R}^{n+1}$ の部分空間(部分空間)であることから遺伝し、局所 Euclid 性は北極と南極からの立体射影(立体射影)による 2 枚の座標近傍で与えられる(manifold-prop-sphere-charts)。$S^1$ は円周、$S^2$ は通常の球面である。

直積とトーラス

位相多様体の有限個の直積は位相多様体である(manifold-prop-product)。とくに $n$ 個の円周の直積 $T^n=S^1\times\cdots\times S^1$$n$ 次元位相多様体で、$n$ 次元トーラストーラス)という。$T^2$ は浮き輪の表面である。

0 次元多様体と離散空間

$\mathbb{R}^0$ は一点なので、$0$ 次元局所 Euclid 空間とは各点が開集合である空間、すなわち離散空間である。離散空間は Hausdorff であり、第 2 可算であるのは高々可算のときに限る(第2可算公理の記事の注意(反例:非可算集合上の離散空間))。したがって $0$ 次元位相多様体とは高々可算な離散空間のことである。

射影空間と商による構成

実射影空間(射影空間$\mathbb{R}P^n$ は、$S^n$ の対蹠点 $x$$-x$ を同一視した商空間であり、$n$ 次元閉多様体である。複素射影空間 $\mathbb{C}P^n$ は実 $2n$ 次元閉多様体である。いずれの証明も射影空間の記事の命題(アフィン座標近傍と多様体構造)が所有する。より一般に、多様体への群の自由かつ固有不連続な作用(群作用)による商は多様体になり、レンズ空間がその例である。

反例:二つの原点をもつ直線

$X:=(\mathbb{R}\times\{0\})\cup(\mathbb{R}\times\{1\})$ に、$t\neq0$ のとき $(t,0)$$(t,1)$ を同一視する同値関係(同値関係)による商空間 $L$ を考える。$L$$\mathbb{R}$ の原点を二つに複製した空間であり、二つの原点をもつ直線(line with two origins)という。二つの原点を $0_0,0_1$ と書く。
$L$ が満たす性質は「$1$ 次元局所 Euclid 空間であり、第 2 可算である」ことであり、満たさない性質は「Hausdorff である」ことである。破れる含意は「局所 Euclid かつ第 2 可算ならば位相多様体」であり、manifold-def-topological-manifold の条件 1 が落とせないことを示す。
実際、$q\colon X\to L$ を商写像(商写像)とすると、$U_i:=q(\mathbb{R}\times\{i\})$$i=0,1$)は $L$ の開集合で($q^{-1}(U_i)=X\setminus\{(0,1-i)\}$ は開)、$q$$\mathbb{R}\times\{i\}$ への制限は $U_i$ への連続(連続写像)な全単射(全単射)で、逆写像 $q(t,j)\mapsto t$ は連続($q$ の像を通して $\mathbb{R}$ への射影が連続)なので同相写像である。よって $U_0,U_1$$\mathbb{R}$ と同相な開集合で $L$ を覆い、$L$$1$ 次元局所 Euclid 空間である。$U_0,U_1$ の可算な開基を合わせれば $L$ の可算な開基が得られる。一方、$0_0$ の任意の開近傍 $V$$0_1$ の任意の開近傍 $W$ について、$q^{-1}(V)$$(0,0)$ を含む $X$ の開集合なのである $\varepsilon>0$ について $(-\varepsilon,\varepsilon)\times\{0\}$ を含み、同様に $q^{-1}(W)\supset(-\delta,\delta)\times\{1\}$ となる $\delta>0$ がある。$0< t<\min(\varepsilon,\delta)$ をとると $q(t,0)=q(t,1)\in V\cap W$ なので、$V\cap W\neq\emptyset$ である。よって $L$ は Hausdorff でない。

反例:長い直線と Prüfer 曲面

長い直線 $L$ は、最小の非可算順序数(順序数$\omega_1$ 個の半開区間 $[0,1)$ を辞書式順序で並べて得られる順序位相(順序位相)空間を両側につないだものである。$L$ が満たす性質は「Hausdorff な $1$ 次元局所 Euclid 空間である」ことであり、満たさない性質は「第 2 可算である」ことである。破れる含意は「Hausdorff かつ局所 Euclid ならば位相多様体」であり、manifold-def-topological-manifold の条件 2 が落とせないことを示す。各点が実数の開区間と同相な開近傍をもつこと、Hausdorff であること、可分(可分空間)でも第 2 可算でもないことは、いずれも長い直線の記事の命題(有界な区間と局所モデル)および命題(可分性と第2可算性)が証明つきで所有する。「$L$ は可分でないから第 2 可算でない」という議論は、可算開基の各元から一点ずつ選べば可算な稠密(稠密)集合が得られるという事実によるもので、同記事の証明に含まれている。
$2$ 次元の同種の例として Prüfer 曲面(Prüfer surface、Prüfer 多様体)がある。上半平面 $H=\{(x,y)\mid y>0\}$ に、実数 $a$ ごとの平面の複製 $X_a=\mathbb{R}^2\times\{a\}$ を、$y>0$ の点 $((x,y),a)\in X_a$$(a+xy,y)\in H$ を同一視して貼り合わせた空間で、Hausdorff な $2$ 次元局所 Euclid 空間だが、互いに交わらない開集合が非可算個(各 $X_a$ の下半平面の像)あるので可分でなく、したがって第 2 可算でない。構成の詳細と、この空間がパラコンパクトでもないことの証明は Spi99 Appendix A に譲る。

性質

開球は Euclid 空間と同相

$\mathbb{R}^n$ の開球 $B(a,r)=\{x\in\mathbb{R}^n\mid\|x-a\|< r\}$$r>0$)は $\mathbb{R}^n$ と同相である。したがって $n$ 次元局所 Euclid 空間の各点は $\mathbb{R}^n$ と同相な開近傍をもつ。

平行移動と拡大により $B(0,1)$ の場合に帰着する。$f\colon B(0,1)\to\mathbb{R}^n$$f(x):=x/(1-\|x\|)$ と定めると、$f$ は連続で、$g\colon\mathbb{R}^n\to B(0,1)$$g(y):=y/(1+\|y\|)$ が逆写像である。実際 $\|f(x)\|=\|x\|/(1-\|x\|)$ より $1+\|f(x)\|=1/(1-\|x\|)$ なので $g(f(x))=x(1-\|x\|)/(1-\|x\|)=x$ であり、同様に $\|g(y)\|=\|y\|/(1+\|y\|)$ より $1-\|g(y)\|=1/(1+\|y\|)$ なので $f(g(y))=y$ である。$g$ も連続だから $f$ は同相写像である。
後半について、点 $x$ の座標近傍 $(U,\varphi)$ をとると $\varphi(U)$$\varphi(x)$ を含む開集合なので、ある $r>0$ について $B(\varphi(x),r)\subset\varphi(U)$ となる。$V:=\varphi^{-1}(B(\varphi(x),r))$$x$ の開近傍で、$\varphi|_V$ により $B(\varphi(x),r)$ と同相、したがって $\mathbb{R}^n$ と同相である。$\square$

開部分集合は多様体

$M$$n$ 次元位相多様体、$U\subset M$ を開集合とする。$U$ に相対位相(相対位相)を入れたものは $n$ 次元位相多様体である。

Hausdorff 性は部分空間に遺伝する(分離公理の記事の命題(基本的な分離公理の遺伝性))。第 2 可算性も部分空間に遺伝する(第2可算公理の記事の命題(部分空間への遺伝))。$x\in U$ に対し $M$ における座標近傍 $(V,\varphi)$ をとると、$U\cap V$$U$ の開集合で $x$ を含み、$\varphi(U\cap V)$ は同相写像 $\varphi$ による $V$ の開集合の像なので $\varphi(V)$ の開集合、したがって $\mathbb{R}^n$ の開集合である。制限 $\varphi|_{U\cap V}\colon U\cap V\to\varphi(U\cap V)$ は同相写像なので、$(U\cap V,\varphi|_{U\cap V})$$U$ における $x$ の座標近傍である。$\square$

直積は多様体

$M$$m$ 次元、$N$$n$ 次元位相多様体とすると、直積位相(直積位相)を入れた $M\times N$$(m+n)$ 次元位相多様体である。

Hausdorff 空間の直積は Hausdorff である(Tychonoffの定理の記事の命題(Hausdorff 性の保存))。第 2 可算空間の可算個の直積は第 2 可算である(第2可算公理の記事の命題(可算個の直積))。$(x,y)\in M\times N$ に対し座標近傍 $(U,\varphi)$$(V,\psi)$ をとると、$U\times V$$(x,y)$ の開近傍で、$\varphi\times\psi\colon U\times V\to\varphi(U)\times\psi(V)$ は同相写像である(成分ごとに連続な逆写像 $\varphi^{-1}\times\psi^{-1}$ をもつ)。$\varphi(U)\times\psi(V)$$\mathbb{R}^m\times\mathbb{R}^n=\mathbb{R}^{m+n}$ の開集合である。$\square$

球面の座標近傍

$n\ge1$ とし、$N:=(0,\dots,0,1)$$S:=(0,\dots,0,-1)\in S^n\subset\mathbb{R}^{n+1}$ とおく。写像
$$\varphi_N(x_1,\dots,x_{n+1}):=\frac{(x_1,\dots,x_n)}{1-x_{n+1}}\quad(x\in S^n\setminus\{N\}),\qquad\varphi_S(x_1,\dots,x_{n+1}):=\frac{(x_1,\dots,x_n)}{1+x_{n+1}}\quad(x\in S^n\setminus\{S\})$$
はそれぞれ $S^n\setminus\{N\}$$S^n\setminus\{S\}$ から $\mathbb{R}^n$ への同相写像である(北極・南極からの立体射影)。$\{S^n\setminus\{N\},S^n\setminus\{S\}\}$$S^n$ の開被覆(開被覆)であり、$\{(S^n\setminus\{N\},\varphi_N),(S^n\setminus\{S\},\varphi_S)\}$$S^n$ のアトラスである。座標変換は
$$\varphi_S\circ\varphi_N^{-1}(u)=\frac{u}{\|u\|^2}\qquad(u\in\mathbb{R}^n\setminus\{0\})$$
で与えられる。

$S^n\setminus\{N\}$$S^n\setminus\{S\}$$S^n$ から一点を除いた集合で、Hausdorff 空間の一点集合は閉なので開集合であり、$N\neq S$ よりどの点も少なくとも一方に属するから、両者は $S^n$ を覆う。
$\varphi_N$ が同相写像であることを示す($\varphi_S$$x_{n+1}\mapsto-x_{n+1}$ の対称で $\varphi_N$ に移るので同様)。$x\in S^n\setminus\{N\}$ では $x_{n+1}\neq1$ なので分母 $1-x_{n+1}$$0$ でなく、$\varphi_N$ は連続である。$u\in\mathbb{R}^n$ に対し
$$\psi(u):=\frac{1}{1+\|u\|^2}\bigl(2u_1,\dots,2u_n,\ \|u\|^2-1\bigr)$$
とおく。$\|\psi(u)\|^2=\dfrac{4\|u\|^2+(\|u\|^2-1)^2}{(1+\|u\|^2)^2}=\dfrac{(\|u\|^2+1)^2}{(1+\|u\|^2)^2}=1$ であり、最後の成分は $(\|u\|^2-1)/(\|u\|^2+1)<1$ なので $\psi(u)\in S^n\setminus\{N\}$ である。$\psi$ は分母が消えない有理式なので連続である。$1-\psi(u)_{n+1}=2/(1+\|u\|^2)$ より $\varphi_N(\psi(u))=\dfrac{2u/(1+\|u\|^2)}{2/(1+\|u\|^2)}=u$ である。逆に $x\in S^n\setminus\{N\}$$u:=\varphi_N(x)$ とおくと、$\|u\|^2=\dfrac{1-x_{n+1}^2}{(1-x_{n+1})^2}=\dfrac{1+x_{n+1}}{1-x_{n+1}}$ より $1+\|u\|^2=\dfrac{2}{1-x_{n+1}}$$\|u\|^2-1=\dfrac{2x_{n+1}}{1-x_{n+1}}$ であり、
$$\psi(u)=\frac{1-x_{n+1}}{2}\Bigl(\frac{2(x_1,\dots,x_n)}{1-x_{n+1}},\ \frac{2x_{n+1}}{1-x_{n+1}}\Bigr)=x$$
である。よって $\varphi_N$ は全単射で $\psi$ が逆写像であり、双方連続なので同相写像である。幾何的には、$\psi(u)$$N$ と点 $(u,0)$ を結ぶ直線が $S^n$ と交わる $N$ 以外の点である。
座標変換について、$u\neq0$ のとき $\psi(u)\neq S$ であり、$1+\psi(u)_{n+1}=2\|u\|^2/(1+\|u\|^2)$ なので $\varphi_S(\psi(u))=\dfrac{2u/(1+\|u\|^2)}{2\|u\|^2/(1+\|u\|^2)}=u/\|u\|^2$ である。$\square$

多様体の基本的な位相的性質

$M$$n$ 次元位相多様体とする。

  1. $M$ は局所コンパクト(局所コンパクト空間)である。より強く、各点は、閉包(閉包)がコンパクトで一つの座標近傍に含まれる開近傍をもつ。
  2. $M$ は局所弧状連結(弧状連結空間の記事の定義(局所弧状連結性))である。したがって $M$ の連結成分は開集合であり、弧状連結成分と一致し、$M$ が連結であることと弧状連結であることは同値である。
  3. $M$ の連結成分は高々可算個であり、各連結成分は $n$ 次元位相多様体である。
  4. $M$ は可算個の座標近傍からなるアトラスをもつ。
  1. $x\in M$ の座標近傍 $(U,\varphi)$ をとり、閉球 $\overline{B}(\varphi(x),r)\subset\varphi(U)$ となる $r>0$ をとる。$K:=\varphi^{-1}(\overline{B}(\varphi(x),r))$ は、コンパクト集合(コンパクト空間の記事の定理(有界閉集合とコンパクト性の一致))の連続像なのでコンパクトであり、$M$ が Hausdorff なので閉集合である(コンパクト空間の記事の命題(保存と閉性))。$V:=\varphi^{-1}(B(\varphi(x),r))$$x$ の開近傍で、$V\subset K$ かつ $K$ は閉なので $\overline{V}\subset K\subset U$ であり、$\overline{V}$ はコンパクト集合の閉部分集合としてコンパクトである。
  2. $x$ の任意の開近傍 $W$ に対し、座標近傍 $(U,\varphi)$ と、$B(\varphi(x),r)\subset\varphi(U\cap W)$ となる $r>0$ をとると、$\varphi^{-1}(B(\varphi(x),r))$$x$ を含み $W$ に含まれる開集合で、開球と同相なので弧状連結である。よって $M$ は局所弧状連結である。連結成分と弧状連結成分についての主張は弧状連結空間の記事の定理(連結性からの回復)による。
  3. 連結成分は 2 により開集合であり、互いに交わらない。$M$ の可算な開基 $\mathcal{B}$ をとると、各連結成分 $C$ は空でない開集合なので $B\subset C$ となる $B\in\mathcal{B}$ を含み、異なる成分には異なる $B$ が対応するので、成分は高々可算個である。各成分は開集合なので manifold-prop-open-subset により位相多様体である。
  4. 各点 $x$ に座標近傍 $(U_x,\varphi_x)$ をとると $\{U_x\}$$M$ の開被覆である。第 2 可算空間は Lindelöf(Lindelöf空間)である(第2可算公理の記事の命題(三つの帰結))ので、可算個の $U_{x_1},U_{x_2},\dots$$M$ を覆える。対応する座標近傍が可算なアトラスをなす。$\square$
多様体の分離公理・距離化・パラコンパクト性

位相多様体 $M$ は正規(正規空間)かつ距離化可能(距離化可能空間)であり、パラコンパクトである。したがって $M$ の任意の開被覆に従属する 1 の分割(1の分割)が存在する。

距離化とパラコンパクト性の証明の所在

$M$manifold-prop-basic-topology の 1 により局所コンパクト Hausdorff なので正則(正則空間)である(局所コンパクト空間の記事の定理(局所コンパクト空間は Tychonoff 空間))。正則かつ第 2 可算な空間は正規であり距離化可能である(Urysohn の距離化定理、Mun00 §34 Theorem 34.1。第2可算公理の記事の補題(閉集合を開集合で分離する)と命題(可算な観測値から作る距離)が同じ議論を含む)。パラコンパクト性は、正則 Lindelöf 空間がパラコンパクトであること(パラコンパクト空間の記事の命題(正則 Lindelöf 空間))による。1 の分割の存在はパラコンパクト空間の記事の定理(1 の分割の存在)による。滑らかな 1 の分割は可微分多様体が扱う。

次元の不変性

$m\neq n$ ならば、$\mathbb{R}^m$ の空でない開集合と $\mathbb{R}^n$ の空でない開集合は同相でない。したがって、空でない位相空間が $m$ 次元位相多様体かつ $n$ 次元位相多様体であれば $m=n$ であり、位相多様体の次元は位相空間としての構造だけから定まる。

次元の不変性の証明の所在

これは Brouwer の領域不変性定理(invariance of domain)の帰結であり、証明はホモロジー群(ホモロジー群)を用いる。$U\subset\mathbb{R}^m$$V\subset\mathbb{R}^n$ が空でない開集合で $h\colon U\to V$ が同相写像であるとき、$x\in U$ に対し局所ホモロジー群 $H_k(U,U\setminus\{x\})\cong H_k(\mathbb{R}^m,\mathbb{R}^m\setminus\{x\})$$k=m$ のときだけ $\mathbb{Z}$ で、他は $0$ である(切除定理と球面のホモロジー)。同相写像はこの群の同型を誘導するので $m=n$ を得る。詳細は Hat02 §2.B Theorem 2.26 と Lee11 Ch. 13 に譲る。$m=1$ の場合は連結性だけで示せる:$\mathbb{R}$ の開区間から一点を除くと非連結になるが、$n\ge2$ のとき $\mathbb{R}^n$ の開球から一点を除いても連結である。

曲面の分類

連結な $2$ 次元閉多様体(閉曲面)は、球面 $S^2$$g\ge1$ 個のトーラスの連結和(連結和$T^2\#\cdots\#T^2$$k\ge1$ 個の実射影平面の連結和 $\mathbb{R}P^2\#\cdots\#\mathbb{R}P^2$ のいずれかとちょうど一つ同相である。連結な $1$ 次元位相多様体は $\mathbb{R}$ または $S^1$ と同相である。

分類定理の証明の所在

閉曲面の分類は、閉曲面が三角形分割(三角形分割)をもつこと(Radó の定理)を前提に、多角形の辺の貼り合わせの標準形へ帰着して示される。Mun00 §74–§78 と Lee11 Ch. 6 に完全な証明がある。$1$ 次元多様体の分類には証明がある(滑らかな場合は Mil97 Appendix、位相的な場合は Lee11)。$3$ 次元以上では、位相多様体を同相で分類する一般的な手続きは存在しない($n\ge4$ では、任意の有限表示群(有限表示群)を基本群(基本群)にもつ閉 $n$ 次元多様体があり、群の同型問題が決定不能であることによる。Lee11 Ch. 1 の議論を参照)。単連結(単連結空間)な閉 $3$ 次元多様体が $S^3$ と同相であるという Poincaré 予想は、Perelman により肯定的に解決された。

補足

多様体上で微分・積分を行うには、座標変換が微分可能であるアトラス(微分構造)を指定する必要があり、その枠組みが可微分多様体である。位相多様体は同相で不変な性質、すなわち基本群やホモロジー群で調べられ、$n\ge4$ では同相だが微分同相(微分同相写像)でない滑らかな多様体(エキゾチックな微分構造)が存在するため、位相多様体と可微分多様体の理論は $4$ 次元以上で本質的に分かれる。位相多様体は局所 Euclid なので局所可縮、したがって局所弧状連結かつ半局所単連結(半局所単連結空間)であり、被覆空間の理論の仮定を満たし、連結ならば普遍被覆(普遍被覆)をもつ(被覆空間の記事の注意(分類定理の証明について))。

関連項目

参考文献

[1]
John M. Lee, Introduction to Topological Manifolds, Graduate Texts in Mathematics 202, Springer, 2011, Ch. 1(位相多様体の定義・例・分類の困難さ)、Ch. 3(多様体の位相的性質)、Ch. 5($1$ 次元多様体の分類)、Ch. 6(閉曲面の分類)、Ch. 13(領域不変性・次元の不変性)
[2]
James R. Munkres, Topology, Prentice Hall, 2000, §34 Theorem 34.1(Urysohn の距離化定理)、§36(多様体の定義と埋め込み)、§74–§78(閉曲面の分類)
[4]
Michael Spivak, A Comprehensive Introduction to Differential Geometry, Volume 1, Publish or Perish, 1999, Ch. 1(多様体の定義、パラコンパクト性を課す流儀)、Appendix A(パラコンパクトでない多様体:長い直線と Prüfer 曲面)

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