σ-代数の濃度(cardinality of σ-algebras)とは、σ-代数が元として何個の集合をもつかという問題とその答えのことである。有限の σ-代数の元の個数は $2^k$ の形で、無限の σ-代数の濃度は連続体濃度 $\mathfrak{c}$ 以上である。選択公理のもとで、濃度 $\kappa\ge2$ の集合族が生成する σ-代数の濃度は $\kappa^{\aleph_0}$ 以下であり、可算個の集合から生成される無限の σ-代数の濃度はちょうど $\mathfrak{c}$ になる。とくに $\mathbb{R}^n$ の Borel 集合全体の濃度は $\mathfrak{c}$、$\mathbb{R}$ の Lebesgue 可測集合全体の濃度は $2^{\mathfrak{c}}$ である。
σ-代数はいくつの元をもちうるか。有限の σ-代数の元の個数は $2^k$ の形であり、無限の σ-代数は可算無限にはならず、連続体濃度 $\mathfrak{c}=2^{\aleph_0}$ 以上の元をもつ(σ-代数 の記事)。この記事では反対向きの評価として、濃度 $\kappa\ge2$ の集合族が生成する σ-代数の濃度が $\kappa^{\aleph_0}$ 以下であることを、生成の過程を可算順序数の段階に分けて数えることで証明する。とくに、可算個の集合から生成される無限の σ-代数の濃度はちょうど $\mathfrak{c}$ である。
応用として、$\mathbb{R}^n$ の Borel 集合全体の濃度が $\mathfrak{c}$、Lebesgue 可測集合全体の濃度が $2^{\mathfrak{c}}$ であることを示し、Lebesgue 可測集合全体が可算個の集合からは生成されないこと、濃度が $\mathfrak{c}$ でも可算個の集合から生成されない σ-代数があることを述べる。この記事では選択公理を仮定する。
集合 $X$ の部分集合の族 $\mathcal{G}$ を含む最小の σ-代数を $\sigma(\mathcal{G})$ と書く(σ-代数 の記事の定義「生成される σ-代数」)。集合 $A$ の濃度を $\lvert A\rvert$、$A$ の部分集合全体を $\mathcal{P}(A)$ と書き、基数の和・積・冪は 基数 の記事の定義「基数の算術」の意味とする。$\mathfrak{c}:=2^{\aleph_0}=\lvert\mathbb{R}\rvert$ である(同記事の例「連続体の濃度」)。
$X$ 上の σ-代数 $\mathcal{S}$ が可算生成であるとは、可算個の集合 $G_0,G_1,\ldots\subset X$ があって $\mathcal{S}=\sigma(\{G_n\mid n\in\mathbb{N}\})$ となることをいう。
$\omega_1$ で、非可算な最小の順序数を表す(基数 $\aleph_1$ を順序数と見たもの。基数 の記事の定義「有限・可算・非可算と $\aleph$ 数」)。$\alpha<\omega_1$ であることと、順序数 $\alpha$ が可算であることは同値である。
$\alpha_0,\alpha_1,\ldots<\omega_1$ ならば、$\sup_n\alpha_n<\omega_1$ である。
σ-代数 の記事の定理「有限のσ-代数の構造」により、有限の σ-代数は $X$ のある有限個の空でない集合への分割 $P_1,\dots,P_k$ の和集合の全体であり、元の個数は $2^k$ である。同記事の定理「無限のσ-代数の濃度」により、無限の σ-代数 $\mathcal{S}$ は互いに交わらない空でない集合の列 $D_0,D_1,\ldots\in\mathcal{S}$ を含み、$\varepsilon\mapsto\bigcup_{\varepsilon_n=1}D_n$ は $\{0,1\}^{\mathbb{N}}$ から $\mathcal{S}$ への単射である。したがって無限の σ-代数の濃度は $\mathfrak{c}$ 以上であり、可算無限個の元をもつ σ-代数は存在しない。
$\kappa\ge2$ を基数とし、$\mathcal{G}$ を集合 $X$ の部分集合の族で $\lvert\mathcal{G}\rvert\le\kappa$ をみたすものとする。このとき $\lvert\sigma(\mathcal{G})\rvert\le\kappa^{\aleph_0}$ である。
要点:補集合と可算個の和をとる操作を、可算順序数の回数だけくり返す。$\omega_1$ 段までくり返せば可算個の和で閉じ(lem-sac-omega1)、各段の濃度は $\kappa^{\aleph_0}$ を超えない。
段の構成:順序数 $\alpha<\omega_1$ についての超限再帰(順序数 の記事の定理「順序数上の超限再帰」)で $X$ の部分集合の族 $\mathcal{F}_\alpha$ を次のように定める。
$$
\begin{aligned}
\mathcal{F}_0&:=\mathcal{G}\cup\{\emptyset\},\\
\mathcal{F}_{\alpha+1}&:=\mathcal{F}_\alpha\cup\{X\setminus A\mid A\in\mathcal{F}_\alpha\}\cup\Bigl\{\bigcup_{n\in\mathbb{N}}A_n\ \Big|\ A_0,A_1,\ldots\in\mathcal{F}_\alpha\Bigr\},\\
\mathcal{F}_\alpha&:=\bigcup_{\beta<\alpha}\mathcal{F}_\beta\quad(\alpha\text{ は極限順序数}).
\end{aligned}
$$
$\beta\le\alpha$ なら $\mathcal{F}_\beta\subset\mathcal{F}_\alpha$ であり、$\sigma(\mathcal{G})$ は補集合と可算個の和で閉じるので、超限帰納法(超限帰納法)によりすべての $\mathcal{F}_\alpha$ は $\sigma(\mathcal{G})$ に含まれる。$\mathcal{F}:=\bigcup_{\alpha<\omega_1}\mathcal{F}_\alpha$ とおく。
$\mathcal{F}=\sigma(\mathcal{G})$:$\mathcal{F}\subset\sigma(\mathcal{G})$ はいま見た。$\emptyset\in\mathcal{F}_0$ であり、$A\in\mathcal{F}_\alpha$ なら $X\setminus A\in\mathcal{F}_{\alpha+1}$ である。$A_n\in\mathcal{F}_{\alpha_n}$($n\in\mathbb{N}$)なら、lem-sac-omega1 により $\beta:=\sup_n\alpha_n<\omega_1$ であり、すべての $A_n$ は $\mathcal{F}_\beta$ に属するので $\bigcup_nA_n\in\mathcal{F}_{\beta+1}$ で、$\beta+1<\omega_1$ である。よって $\mathcal{F}$ は $\mathcal{G}$ を含む σ-代数であり、$\sigma(\mathcal{G})\subset\mathcal{F}$ である。
濃度:$\lambda:=\kappa^{\aleph_0}$ とおく。$\kappa\ge2$ なので $\lambda\ge2^{\aleph_0}$ であり、$\lambda$ は無限で、$\lambda^{\aleph_0}=\kappa^{\aleph_0\cdot\aleph_0}=\lambda$ である(基数 の記事の命題「基数の算術の基本規則」の 3・4 と $\aleph_0\cdot\aleph_0=\aleph_0$)。また $2^{\aleph_0}$ は $\aleph_0$ より大きい基数なので $\aleph_1\le2^{\aleph_0}\le\lambda$ である。$\alpha<\omega_1$ についての超限帰納法で $\lvert\mathcal{F}_\alpha\rvert\le\lambda$ を示す。
可算生成な σ-代数は、有限であるか、濃度がちょうど $\mathfrak{c}$ である。
thm-sac-upper を $\kappa=\aleph_0$ で使うと、濃度は $\aleph_0^{\aleph_0}$ 以下である。$2^{\aleph_0}\le\aleph_0^{\aleph_0}\le(2^{\aleph_0})^{\aleph_0}=2^{\aleph_0}$ なので(基数 の記事の命題「基数の算術の基本規則」の 3・4)、$\aleph_0^{\aleph_0}=\mathfrak{c}$ である。無限なら rem-sac-lower により濃度は $\mathfrak{c}$ 以上なので、Cantor–Bernstein の定理(同記事の定理「Cantor–Bernstein の定理:単射の往復から全単射」)により $\mathfrak{c}$ に等しい。$\square$
$\mathcal{P}(\mathbb{N})$ は 1 点集合 $\{n\}$($n\in\mathbb{N}$)から生成されるので可算生成であり、濃度は $\mathfrak{c}$ である。これは cor-sac-countable の直接の確かめにもなっている。
第2可算公理をみたす位相空間 $X$ の Borel 集合全体 $\mathcal{B}(X)$ は可算生成であり、濃度は $\mathfrak{c}$ 以下である。とくに $\lvert\mathcal{B}(\mathbb{R}^n)\rvert=\mathfrak{c}$($n\ge1$)である。
可算な開基 $\mathcal{U}$ をとると、開集合はそれに含まれる $\mathcal{U}$ の元の和であり、その個数は可算なので $\sigma(\mathcal{U})$ に属する。よって $\mathcal{B}(X)=\sigma(\mathcal{U})$ は可算生成で、thm-sac-upper により濃度は $\aleph_0^{\aleph_0}=\mathfrak{c}$ 以下である。$\mathbb{R}^n$ では有理数の端点をもつ開直方体の全体が可算な開基であり、1 点集合は閉集合なので $x\mapsto\{x\}$ は $\mathbb{R}^n$ から $\mathcal{B}(\mathbb{R}^n)$ への単射である。よって $\mathfrak{c}=\lvert\mathbb{R}^n\rvert\le\lvert\mathcal{B}(\mathbb{R}^n)\rvert\le\mathfrak{c}$ である。$\square$
Borel集合 の記事の注意「Borel集合全体の濃度」が述べている $\lvert\mathcal{B}(\mathbb{R})\rvert=\mathfrak{c}$ の上からの評価は、この命題の $n=1$ の場合である。
$\mathbb{R}$ の Lebesgue 可測集合全体 $\mathcal{L}$ の濃度は $2^{\mathfrak{c}}$ である。とくに $\mathcal{L}$ は可算生成でなく、$\mathcal{B}(\mathbb{R})\subsetneq\mathcal{L}$ である。
Cantor集合 $C$ の部分集合はすべて Lebesgue 零集合なので Lebesgue 可測であり、$\lvert C\rvert=\mathfrak{c}$ である(Lebesgue測度 の記事の命題「Borel集合でないLebesgue可測集合」の証明)。よって $2^{\mathfrak{c}}=\lvert\mathcal{P}(C)\rvert\le\lvert\mathcal{L}\rvert\le\lvert\mathcal{P}(\mathbb{R})\rvert=2^{\mathfrak{c}}$ であり、$\lvert\mathcal{L}\rvert=2^{\mathfrak{c}}$ である。Cantor の定理(基数 の記事の定理「Cantor の定理:冪集合は真に大きい」)により $2^{\mathfrak{c}}>\mathfrak{c}$ なので、cor-sac-countable により $\mathcal{L}$ は可算生成でなく、prop-sac-borel により $\mathcal{B}(\mathbb{R})\ne\mathcal{L}$ である。$\square$
$\mathbb{R}^n$ でも、$C\times\{0\}^{n-1}$ の部分集合を使えば同じことが示せる。ただし $\mathbb{R}$ の Lebesgue 可測集合はどれも、ある Borel 集合と零集合の分しか違わない(Lebesgue測度 の記事の命題「Lebesgue可測集合の特徴づけ」)。$\mathcal{L}$ が可算生成でないことと、測度の議論の多くを可算生成な $\mathcal{B}(\mathbb{R})$ の上で行えることとは両立する。
$\mathbb{R}$ の可算集合と、補集合が可算な集合の全体 $\mathcal{C}$(σ-代数 の記事の例「可算集合と補集合が可算な集合」)は、濃度が $\mathfrak{c}$ だが可算生成でない。したがって cor-sac-countable の逆(濃度が $\mathfrak{c}$ 以下の σ-代数は可算生成である)は成り立たない。
濃度:$x\mapsto\{x\}$ は単射なので $\lvert\mathcal{C}\rvert\ge\mathfrak{c}$ である。空でない可算集合は写像 $\mathbb{N}\to\mathbb{R}$ の像なので、可算集合の全体の濃度は $1+\mathfrak{c}^{\aleph_0}=\mathfrak{c}$ 以下であり、補集合をとって $\lvert\mathcal{C}\rvert\le\mathfrak{c}+\mathfrak{c}=\mathfrak{c}$ である。
可算生成でないこと:$\mathcal{C}=\sigma(\{G_n\mid n\in\mathbb{N}\})$ と仮定する。$G_n$ が可算なら $C_n:=G_n$、そうでなければ $C_n:=\mathbb{R}\setminus G_n$(可算)とし、$C:=\bigcup_nC_n$ とおくと $C$ は可算である。$x\ne y$ を $\mathbb{R}\setminus C$ からとる。$x,y\notin C_n$ なので、各 $n$ で $x,y$ はともに $G_n$ に属するか、ともに属さない。$\mathcal{K}:=\{E\subset\mathbb{R}\mid x\in E\iff y\in E\}$ は σ-代数で、すべての $G_n$ を含むので $\mathcal{C}\subset\mathcal{K}$ である。しかし $\{x\}\in\mathcal{C}$ は $\mathcal{K}$ に属さないので矛盾する。
濃度がちょうど $\aleph_1$ の σ-代数が存在することは、連続体仮説 $\mathfrak{c}=\aleph_1$(連続体仮説)と同値である。連続体仮説が成り立てば $\mathcal{B}(\mathbb{R})$ の濃度は $\mathfrak{c}=\aleph_1$ である。成り立たなければ $\aleph_1<\mathfrak{c}$ であり、rem-sac-lower により無限の σ-代数の濃度は $\mathfrak{c}$ 以上なので、濃度 $\aleph_1$ の σ-代数はない。一方、連続体仮説は ZFC からは証明も反証もできない(基数 の記事の定理「連続体仮説の独立性」)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 可算個の和で閉じていること(有限個の和だけにする) | $\mathbb{N}$ の有限集合と補集合が有限な集合の族 | 無限なら濃度 $\mathfrak{c}$ 以上(可算無限になる) |
| 生成系が可算であること | $\mathbb{R}$ の Lebesgue 可測集合全体 $\mathcal{L}$ | 濃度 $\mathfrak{c}$ 以下($2^{\mathfrak{c}}$ になる) |
1 行目の族は補集合と有限個の和で閉じた集合代数で、可算無限個の元をもつ(σ-代数 の記事の例「有限集合と補有限集合の族」)。2 行目は prop-sac-lebesgue である。
生成された σ-代数を可算順序数の段階で表すことと、濃度 $\kappa$ の族が生成する σ-代数の濃度が $\kappa^{\aleph_0}$ 以下であることは、Tao11 Exercise 1.4.15・1.4.16(pp. 87–88)に演習として挙がっている。有限の Boole 代数の元の個数が $2^n$ であることは同書 Exercise 1.4.4(p. 83)にある。
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