逆像(preimage)とは、写像 $f\colon X\to Y$ と部分集合 $B\subseteq Y$ に対し、$B$ に入る値をもつ $X$ の元全体からなる部分集合 $f^{-1}(B)$ である。
逆像(preimage)とは、写像 $f\colon X\to Y$ と部分集合 $B\subseteq Y$ に対し、$B$ に入る値をもつ $X$ の元全体からなる部分集合 $f^{-1}(B)$ である。
逆像は終域側の部分集合を定義域側へ引き戻す操作である。和集合・共通部分・差集合・補集合を保ち、連続性や可測性の定義を支える。
$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を $f(x)=x^{2}$ とする。区間 $A=[-2,1]$ の像は、$A$ 上で $x^{2}$ のとる値の全体だから $f(A)=[0,4]$ である。$B=[1,4]$ の逆像は $f^{-1}(B)=\{x\in\mathbb{R}\mid 1\le x^{2}\le4\}=[-2,-1]\cup[1,2]$ であり、$f^{-1}(\{-1\})=\emptyset$、$f^{-1}(\{4\})=\{-2,2\}$ である。$f$ の像は $f(\mathbb{R})=[0,\infty)$ で、終域 $\mathbb{R}$ より小さい。グラフ $\Gamma_f=\{(x,x^{2})\mid x\in\mathbb{R}\}$ は座標平面の放物線である。
$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を $f(x)=x^{2}$ とし、$A=[-2,1]$ とする。上の例のとおり $f(A)=[0,4]$ である。
$f\colon\{1,2\}\to\{0\}$ を定数写像とし、$A_1=\{1\}$、$A_2=\{2\}$ とする。$A_1\cap A_2=\emptyset$ なので $f(A_1\cap A_2)=\emptyset$ であるが、$f(A_1)\cap f(A_2)=\{0\}$ である。また $f(A_1\setminus A_2)=\{0\}$ だが、$f(A_1)\setminus f(A_2)=\emptyset$ である。従って像は共通部分や差集合を一般には保存しない。逆像がこれらの演算を保存することから、像にも同じ性質があるとは結論できない。
$B_1,B_2,B\subseteq Y$ とする。
いずれも、$x\in f^{-1}(B)$ が $f(x)\in B$ と同値であることだけを使う。
$f\colon X\to Y$ を写像とし、$A\subseteq X$、$B\subseteq Y$ とする。このとき
$$A\subseteq f^{-1}(B)\iff f(A)\subseteq B$$
が成り立つ。$f$ の単射性・全射性は仮定しない。
($\Rightarrow$)$A\subseteq f^{-1}(B)$ とする。$y\in f(A)$ を任意にとると、像の定義よりある $a\in A$ が存在して $y=f(a)$ である。$a\in A\subseteq f^{-1}(B)$ だから、逆像の定義より $f(a)\in B$、すなわち $y\in B$ である。よって $f(A)\subseteq B$ が成り立つ。
($\Leftarrow$)$f(A)\subseteq B$ とする。$a\in A$ を任意にとると $f(a)\in f(A)\subseteq B$ だから、逆像の定義より $a\in f^{-1}(B)$ である。よって $A\subseteq f^{-1}(B)$ が成り立つ。
どちらの向きでも $f$ の単射性・全射性は使っていない。また選択公理も使っていない。$y\in f(A)$ から $y=f(a)$ となる $a\in A$ を取り出すのは、各 $y$ ごとに一度だけ存在命題を使う操作であって、族全体からの同時選択ではないからである。$\square$
部分集合族 $(B_i)_{i\in I}$ に対して
$$
f^{-1}\left(\bigcup_{i\in I}B_i\right)
=\bigcup_{i\in I}f^{-1}(B_i),
$$
$$
f^{-1}\left(\bigcap_{i\in I}B_i\right)
=\bigcap_{i\in I}f^{-1}(B_i)
$$
が成り立つ。空族では、和集合を空集合、共通部分をそれぞれ $Y$ と $X$ とする。
任意の $x\in X$ に対し
$$
x\in f^{-1}\left(\bigcup_iB_i\right)
\Longleftrightarrow
\text{ある }i\text{ について }f(x)\in B_i
\Longleftrightarrow
x\in\bigcup_i f^{-1}(B_i)
$$
である。同様に「ある」を「すべて」に置き換えれば共通部分の式を得る。空族の場合、前者は $f^{-1}(\emptyset)=\emptyset$、後者は $f^{-1}(Y)=X$ であり、先の命題の端の場合と一致する。
$f\colon X\to Y$、$g\colon Y\to Z$ と $C\subseteq Z$ に対して
$$
(g\circ f)^{-1}(C)=f^{-1}(g^{-1}(C))
$$
が成り立つ。また $(\operatorname{id}_X)^{-1}(A)=A$ である。
任意の $x\in X$ について
$$
\begin{aligned}
x\in(g\circ f)^{-1}(C)
&\Longleftrightarrow g(f(x))\in C\\
&\Longleftrightarrow f(x)\in g^{-1}(C)\\
&\Longleftrightarrow x\in f^{-1}(g^{-1}(C))
\end{aligned}
$$
である。恒等写像の式も所属条件を直接書けば従う。合成の順序が逆になることに注意する。
一点集合の逆像 $f^{-1}(\{y\})$ は $y$ のファイバーである。異なる点上のファイバーは交わらず、像に属する点上のファイバーだけが空でない。
$$
X=\bigcup_{y\in f(X)}f^{-1}(\{y\})
$$
であり、$y\neq y'$ なら
$$
f^{-1}(\{y\})\cap f^{-1}(\{y'\})=\emptyset
$$
である。従って非空なファイバー全体は $X$ の分割をなす。
$x\in X$ とすると $f(x)\in f(X)$ であり、$x\in f^{-1}(\{f(x)\})$ なので右辺に属する。逆包含は各ファイバーが $X$ の部分集合であることから従う。
$x$ が二つのファイバーの共通部分に属すると仮定すれば、$f(x)=y$ かつ $f(x)=y'$ なので $y=y'$ となる。従って $y\neq y'$ のとき共通部分は空である。
この見方から、$f$ が単射であることは各ファイバーが高々一元集合であること、全射であることはすべての $y\in Y$ に対してファイバーが空でないことと同値である。
$f^{-1}(B)$ という記号は逆像を表し、$f$ が全単射でなくても任意の $B\subseteq Y$ に対して定義できる。これに対し、逆写像 $f^{-1}\colon Y\to X$ が存在するのは $f$ が全単射の場合に限る。両者は記号を共有するが対象が異なる。
全単射の場合は、逆写像による部分集合 $B$ の像と、$f$ による $B$ の逆像が一致する。この特別な一致を、一般の写像にも逆写像が存在するという意味へ読み替えてはいけない。
逆像が任意和と有限共通部分を保存するため、写像 $f\colon X\to Y$ の連続性は「$Y$ の任意の開集合 $V$ に対して $f^{-1}(V)$ が $X$ で開である」と定義できる。開集合の公理が逆像で保たれるので、$Y$ の位相から $X$ 上の位相を引き戻せる。
同様に、可測写像は可測集合の逆像が可測であることによって定義される。逆像が補集合と可算和を保存するため、ある生成族について逆像の可測性を確認すれば、そこから生成されるσ-代数全体へ性質を広げられる。位相でも測度でも、像より逆像が定義に現れるのは集合演算を正確に保存するからである。
$f^{-1}(\emptyset)=\emptyset$ と $f^{-1}(Y)=X$ は、$f$ の単射性・全射性によらない。一方、$y\notin f(X)$ なら $f^{-1}(\{y\})=\emptyset$ である。終域に元が存在しても、そのファイバーが非空とは限らない。
定義、集合演算、合成、単射・全射との関係については Hara20(第3章 §§3.1--3.2)、Matsusaka68(第1章 §§3--4, pp. 22--41)を参照した。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する