保存拡大

同義語:保存的拡大conservative extension

概要

保存拡大(conservative extension)とは、言語 $L$ の理論 $T$ に新しい記号や公理を加えた理論 $T'$ で、$L$ の文については $T$ で証明できるものしか証明できない拡大のことである。$T$ のどのモデルも新しい記号の解釈を補って $T'$ のモデルにできれば保存拡大であり、正確には、$T$ のどのモデルも $T'$ のあるモデルの簡約と初等同値になることが必要十分である。保存拡大は推移的で無矛盾性を保ち、Skolem 関数・Henkin 定数・定義による記号を足す拡大はその例である。足した道具が元の言語について新しい結論を生まないことを保証する概念で、算術や集合論の体系を比べるのに使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 一階述語論理, Gödelの完全性定理, 構造(モデル理論), 無矛盾性

群論の議論では、単位元を表す定数 $e$ や逆元をとる関数 $x\mapsto x^{-1}$ を記号として自由に使う。集合論では $\emptyset$ や $\{x,y\}$ を記号として使い、算術では自然数の集合を表す変数を足して自然数についての命題を示すこともある。理論に新しい記号や公理を足したとき、元の言語で書ける文については、足す前と同じものしか証明できないなら、足した道具は便利なだけで新しい結論を生まないことが保証される。この性質をもつ拡大を 保存拡大 という。
保存拡大かどうかは、モデルの言葉で調べられる。元の理論のどのモデルも、新しい記号の解釈を補って新しい理論のモデルにできれば、保存拡大である(thm-cons-ext-expansion)。正確な必要十分条件は、元の理論のどのモデルも、新しい理論のあるモデルから新しい記号を忘れた構造と同じ文を真にすることである(thm-cons-ext-characterization)。この記事では、この 2 つの判定法と、推移性・無矛盾性との関係などの基本性質を証明し、Skolem 関数や Henkin 定数を足す拡大が保存拡大になることを示す。

定義

以下、一階言語は等号を含むものとし、構造と充足関係は 一階述語論理 の記事の定義「構造」「充足関係」による。言語 $L$ の文の集合を $L$ 理論 という(証明できる文について閉じていることは求めない)。$L$ 理論 $T$ と $L$ の文 $\sigma$ について、$T\vdash\sigma$ は $T$ から $L$ の論理式だけを使って $\sigma$ が導出できることを表し、$T\models\sigma$ は $T$ のどのモデル($L$ 構造)でも $\sigma$ が真であることを表す。Gödelの完全性定理 により
$$ T\vdash\sigma\iff T\models\sigma $$
であり、以下の証明ではこの同値を断らずに使う。$T$ がモデルをもたないことと、$T$ が矛盾する(ある文とその否定がともに導出できる)ことも同値である(無矛盾性 の記事の定理「無矛盾性とモデルの存在」)。
言語 $L\subset L'$ と $L'$ 構造 $M'$ について、$L'\setminus L$ の記号の解釈を忘れた $L$ 構造を $M'$ の 簡約 といい $M'|_L$ と書き、$M'$ を $M'|_L$ の 拡張 という(構造(モデル理論) の記事の定義「簡約と拡張」)。同記事にあるとおり、$L$ の論理式 $\varphi$ と割り当て $s$ について
$$ M'\models\varphi[s]\iff M'|_L\models\varphi[s] $$
であり、簡約で $L$ の論理式の真偽は変わらない。また、どの $L$ 構造 $M$ も $L'$ 構造に拡張できる。台集合 $M$ は空でないので、元 $a\in M$ を 1 つ選び、新しい定数記号を $a$、新しい関数記号を値がつねに $a$ の写像、新しい関係記号を空集合と解釈すればよい。

保存拡大

$L\subset L'$ を一階言語、$T$ を $L$ 理論、$T'$ を $L'$ 理論とする。

  1. $T$ のすべての文 $\sigma$ について $T'\vdash\sigma$ であるとき、$T'$ は $T$ の 拡大(extension)であるという。
  2. $T'$ が $T$ の拡大であって、さらに $L$ のすべての文 $\sigma$ について
    $$ T'\vdash\sigma\ \Longrightarrow\ T\vdash\sigma $$
    が成り立つとき、$T'$ は $T$ の 保存拡大(conservative extension)であるという。

$T'$ が $T$ の拡大なら、$T\vdash\sigma$ である $L$ の文 $\sigma$ について $T'\vdash\sigma$ である。$T'$ のモデルの簡約は $T$ の文をすべて真にするので、$T$ のモデルになり、$\sigma$ を真にするからである。したがって、$T'$ が $T$ の保存拡大であることは、$L$ の文のうち証明できるものの全体が一致すること
$$ \{\sigma\mid\sigma\text{ は }L\text{ の文で }T'\vdash\sigma\}=\{\sigma\mid\sigma\text{ は }L\text{ の文で }T\vdash\sigma\} $$
と同じである。Gal15 Problem 5.6.8(p. 240)は、理論を論理的帰結で閉じた文の集合として、この等式の形で保存拡大を定めている。$L'=L$ なら、$T$ と $T'$ が同じ文を証明すること(同値な理論であること)を意味する。保存拡大が問題になるのは、新しい記号を足す場合や、新しい記号についての公理を足す場合である。集合論で NBG と ZFC を集合についての文に限って比べるのも同じ考え方である(ZFC公理系 の記事の定義「保存拡大と強さの比較」)。

直感

新しい記号についての公理が、新しい記号の振る舞いを決めるだけで、元の記号について何も主張していなければ、保存拡大になると期待できる。ところが、新しい記号についての公理が、元の記号に間接的に制約を課すことがある。体の理論に新しい関数記号 $f$ と公理 $\forall x\,(f(x)\cdot f(x)=x)$ を足すと、新しい記号についての公理に見えるが、元の言語の文「どの元も平方である」$\forall x\,\exists y\,(y\cdot y=x)$ が導出できてしまう(ex-cons-ext-counterexamples)。判定の基本は、元の構造を変えずに、新しい記号の解釈を補えるかである。補えるなら、新しい公理が元の構造に制約を課していないからである。

モデルによる判定

モデルの拡張による判定

$L\subset L'$、$T$ を $L$ 理論、$T'$ を $L'$ 理論とする。

  1. $T'$ のどのモデル $N'$ についても簡約 $N'|_L$ が $T$ のモデルなら、$T'$ は $T$ の拡大である。
  2. 1 の仮定に加えて、$T$ のどのモデル $M$ も $T'$ のモデルに拡張できる($M'|_L=M$ となる $T'$ のモデル $M'$ がある)なら、$T'$ は $T$ の保存拡大である。

1:$\sigma\in T$ とし、$T'$ のモデル $N'$ をとる。$N'|_L$ は $T$ のモデルなので $N'|_L\models\sigma$ であり、$\sigma$ は $L$ の文なので $N'\models\sigma$ である。$N'$ は任意だったので $T'\models\sigma$、すなわち $T'\vdash\sigma$ である。
2:1 により $T'$ は $T$ の拡大である。$\sigma$ を $L$ の文として $T'\vdash\sigma$ とし、$T$ の任意のモデル $M$ をとる。仮定により、$M'|_L=M$ となる $T'$ のモデル $M'$ がある。$T'\models\sigma$ なので $M'\models\sigma$ であり、$\sigma$ は $L$ の文なので $M=M'|_L\models\sigma$ である。$M$ は任意だったので $T\models\sigma$、すなわち $T\vdash\sigma$ である。$\square$

2 の仮定は十分条件であって、必要条件ではない(ex-cons-ext-no-expansion)。必要十分条件を述べるために、2 つの $L$ 構造 $M,N$ が同じ $L$ の文を真にするとき、$M$ と $N$ は 初等同値 であるといい、$M\equiv N$ と書く(一階述語論理 の記事の定義「モデル・妥当性・論理的帰結」の 5)。

保存拡大の特徴づけ

$L\subset L'$、$T$ を $L$ 理論、$T'$ を $T$ の拡大である $L'$ 理論とする。次の 2 つは同値である。

  1. $T'$ は $T$ の保存拡大である。
  2. $T$ のどのモデル $M$ にも、$T'$ のモデル $N'$ で $N'|_L\equiv M$ となるものがある。

2 ⇒ 1:$\sigma$ を $L$ の文として $T'\vdash\sigma$ とし、$T$ のモデル $M$ をとる。2 の $N'$ について $N'\models\sigma$ なので $N'|_L\models\sigma$ であり、$N'|_L\equiv M$ より $M\models\sigma$ である。よって $T\models\sigma$、すなわち $T\vdash\sigma$ である。
1 ⇒ 2:$T$ のモデル $M$ をとり、$M$ で真な $L$ の文の全体を $\operatorname{Th}(M)$ とおく。まず $T'\cup\operatorname{Th}(M)$ がモデルをもつことを示す。もたないと仮定すると、コンパクト性定理(一階論理) により $T'\cup\operatorname{Th}(M)$ のある有限部分集合がモデルをもたない。その中の $\operatorname{Th}(M)$ の文を $\tau_1,\dots,\tau_k$ とし、$\tau:=\tau_1\land\dots\land\tau_k$ とおく($k=0$ なら $\tau$ は $\forall x\,(x=x)$ とする)。$T'\cup\{\tau\}$ はモデルをもたないので、$T'$ のどのモデルでも $\tau$ は偽であり、$T'\models\lnot\tau$、すなわち $T'\vdash\lnot\tau$ である。$\lnot\tau$ は $L$ の文なので、1 により $T\vdash\lnot\tau$ となり、$T$ のモデル $M$ で $\lnot\tau$ が真になる。これは $\tau_1,\dots,\tau_k$ が $M$ で真であることに反する。
そこで $T'\cup\operatorname{Th}(M)$ のモデル $N'$ をとる。$N'$ は $T'$ のモデルである。$L$ の文 $\sigma$ について、$M\models\sigma$ なら $\sigma\in\operatorname{Th}(M)$ なので $N'|_L\models\sigma$ であり、$M\not\models\sigma$ なら $\lnot\sigma\in\operatorname{Th}(M)$ なので $N'|_L\not\models\sigma$ である。よって $N'|_L\equiv M$ である。$\square$

2 つの判定法を並べると次のようになる。

thm-cons-ext-expansion の 2thm-cons-ext-characterization の 2
$T$ のモデル $M$ に求めること$M$ そのものを $T'$ のモデルに拡張できる$M$ と初等同値な構造を $T'$ のモデルに拡張できる
保存拡大との関係十分条件必要十分条件
確かめ方新しい記号の解釈を $M$ の上で作るコンパクト性などでモデルの存在を示す

基本性質

保存拡大の基本性質

$L\subset L'\subset L''$ を一階言語とし、$T,T',T''$ をそれぞれ $L,L',L''$ 理論とする。

  1. (推移性)$T'$ が $T$ の保存拡大で、$T''$ が $T'$ の保存拡大なら、$T''$ は $T$ の保存拡大である。
  2. (無矛盾性)$T'$ が $T$ の保存拡大なら、$T$ が無矛盾であることと $T'$ が無矛盾であることは同値である。
  3. (完全な理論の場合)$T$ が完全で、$T'$ が $T$ の無矛盾な拡大なら、$T'$ は $T$ の保存拡大である。
  4. (増大列の和)言語の増大列 $L_0\subset L_1\subset L_2\subset\cdots$ と $L_k$ 理論 $T_k$ について、各 $k$ で $T_{k+1}$ が $T_k$ の保存拡大なら、言語 $L_\omega:=\bigcup_kL_k$ の理論 $T_\omega:=\bigcup_kT_k$ は $T_0$ の保存拡大である。

3 の「完全」は、$L$ のどの文 $\sigma$ についても $T\vdash\sigma$ か $T\vdash\lnot\sigma$ が成り立つことをいう(完全な理論)。

1:$T''$ のモデル $N''$ をとる。$T''$ は $T'$ の拡大なので $N''|_{L'}$ は $T'$ のモデルであり、$T'$ は $T$ の拡大なので $(N''|_{L'})|_L=N''|_L$ は $T$ のモデルである。thm-cons-ext-expansion の 1 により $T''$ は $T$ の拡大である。$L$ の文 $\sigma$ について $T''\vdash\sigma$ なら、$\sigma$ は $L'$ の文でもあるので $T'\vdash\sigma$ であり、したがって $T\vdash\sigma$ である。
2:$T$ が矛盾するなら $T$ はモデルをもたない。$T'$ のモデルがあればその簡約は $T$ のモデルになるので、$T'$ もモデルをもたず、矛盾する。逆に $T'$ が矛盾するとする。矛盾する理論からはどの文も導出できる(無矛盾性 の記事の補題「矛盾からの導出」)ので、$L$ の文 $\theta:=\forall x\,(x=x)$ について $T'\vdash\lnot\theta$ である。保存拡大なので $T\vdash\lnot\theta$ であり、$\theta$ はどの構造でも真なので $T\vdash\theta$ でもある。よって $T$ は矛盾する。
3:$L$ の文 $\sigma$ について $T'\vdash\sigma$ であり、$T\vdash\sigma$ でないとする。$T$ は完全なので $T\vdash\lnot\sigma$ であり、$T'$ は $T$ の拡大なので $T'\vdash\lnot\sigma$ となる。これは $T'$ が無矛盾であることに反する。よって $T\vdash\sigma$ である。
4:$T_0\subset T_\omega$ なので $T_\omega$ は $T_0$ の拡大である。$L_0$ の文 $\sigma$ について $T_\omega\vdash\sigma$ とする。導出は有限の列なので、$T_\omega$ の有限個の文 $\delta_1,\dots,\delta_m$ だけを使っている(コンパクト性定理(一階論理) の記事の系「帰結の有限性」としても得られる)。各 $\delta_i$ はある $T_{k_i}$ に属するので、$k:=\max_ik_i$ とおく。$j\le k$ について、1 を繰り返し使うと $T_k$ は $T_j$ の拡大なので、$T_k\vdash\delta_i$ がすべての $i$ で成り立つ。$T_k$ の任意のモデル $M$($L_k$ 構造)を $L_\omega$ 構造 $M^+$ に拡張すると、$M^+\models\delta_i$ がすべての $i$ で成り立ち、$\{\delta_1,\dots,\delta_m\}\models\sigma$ なので $M^+\models\sigma$、簡約して $M\models\sigma$ である。よって $T_k\vdash\sigma$ であり、1 を $k$ 回使って $T_0\vdash\sigma$ を得る。$\square$

2 の逆は成り立たない。どちらも無矛盾でも、保存拡大とは限らない(ex-cons-ext-counterexamples の 3)。また、2 は相対無矛盾性の証明の基本の形である。新しい理論が古い理論の保存拡大であることを示せば、古い理論が無矛盾である限り新しい理論も無矛盾である。

反例:拡張できないモデルがある保存拡大

$L=\{< \}$ とし、$T$ を端点のない稠密な全順序の理論 DLO とする。1 項関係記号 $P$ を足した $L'=\{<,P\}$ で、$T'$ を $T$ に次の 3 つの文を加えたものとする。
$$ \exists x\,P(x),\qquad\exists y\,\forall x\,\bigl(P(x)\to x< y\bigr),\qquad\lnot\exists s\,\Bigl(\forall x\,\bigl(P(x)\to x\le s\bigr)\land\forall u\,\bigl(\forall x\,(P(x)\to x\le u)\to s\le u\bigr)\Bigr). $$
ここで $x\le s$ は $x< s\lor x=s$ の略記である。3 つの文は「$P$ は空でない」「$P$ は上に有界」「$P$ の上限がない」と読める。
$(\mathbb Q,<)$ で $P$ を $\{q\in\mathbb Q\mid q<0\text{ または }q^2<2\}$ と解釈すると $T'$ のモデルになる。$P$ の上界である有理数は $q>0$ かつ $q^2>2$ を満たすものであり($q^2=2$ となる有理数はない)、そのどれよりも小さい上界がまたあるので、上限はない。よって $T'$ は無矛盾である。DLO は完全なので(完全な理論 の記事の例「完全な理論と完全でない理論」の 3)、prop-cons-ext-basic の 3 により $T'$ は $T$ の保存拡大である。
ところが $(\mathbb R,<)$ は DLO のモデルなのに、$T'$ のモデルに拡張できない。空でなく上に有界な実数の集合には上限があるので、$P$ をどう解釈しても 3 つ目の文が偽になるからである。したがって thm-cons-ext-expansion の 2 の仮定は保存拡大の必要条件ではない。一方、$(\mathbb R,<)\equiv(\mathbb Q,<)$ であり、$(\mathbb Q,<)$ は上の $T'$ のモデルの簡約なので、thm-cons-ext-characterization の 2 は $(\mathbb R,<)$ についても成り立っている。

例

言語を広げるだけの拡大

$T$ を $L$ 理論、$L\subset L'$ とし、$T$ を $L'$ の理論と見たものを $T_{L'}$ と書く。$T$ のモデル $M$ を任意の仕方で $L'$ 構造 $M'$ に拡張すると、簡約で $L$ の文の真偽は変わらないので $M'$ は $T_{L'}$ のモデルであり、$T_{L'}$ のモデルの簡約は $T$ のモデルである。thm-cons-ext-expansion により、$T_{L'}$ は $T$ の保存拡大である。したがって、$L$ の文 $\sigma$ について「$T$ から $\sigma$ が導出できるか」は、$L$ で考えても $L'$ で考えても同じ答えになる。

Skolem 関数を足す拡大

$T$ を $L$ 理論、$\varphi(x_1,\dots,x_n,y)$ を自由変数が $x_1,\dots,x_n,y$ の中にある $L$ の論理式とし、
$$ T\vdash\forall x_1\cdots\forall x_n\,\exists y\,\varphi(x_1,\dots,x_n,y) $$
とする。$L$ にない $n$ 項関数記号 $f$ を足した言語 $L'=L\cup\{f\}$ で
$$ T':=T\cup\bigl\{\forall x_1\cdots\forall x_n\,\varphi(x_1,\dots,x_n,f(x_1,\dots,x_n))\bigr\} $$
とおくと、$T'$ は $T$ の保存拡大である。$n=0$ のときは $f$ は定数記号である。

ここで $\varphi(\bar x,f(\bar x))$ は、$\varphi$ の $y$ の自由な出現に項 $f(x_1,\dots,x_n)$ を代入した論理式である。束縛変数を付け替えて、$x_1,\dots,x_n$ が $\varphi$ の中で量化されていないようにしておけば、この代入は変数の捕獲を起こさない(一階述語論理 の記事の系「束縛変数の付け替え」)。

$T\subset T'$ なので、$T'$ のモデルの簡約は $T$ のモデルである。$T$ のモデル $M$ をとる。$\bar a=(a_1,\dots,a_n)\in M^n$ ごとに
$$ B_{\bar a}:=\{b\in M\mid M\models\varphi[\bar a,b]\} $$
とおく($x_i$ に $a_i$、$y$ に $b$ を割り当てる)。$M\models\forall\bar x\,\exists y\,\varphi$ なので、各 $B_{\bar a}$ は空でない。選択公理により、写像 $g\colon M^n\to M$ で $g(\bar a)\in B_{\bar a}$ となるものがとれる。$f$ を $g$ と解釈した $M$ の拡張を $M'$ とする。
$x_i$ に $a_i$ を割り当てる割り当て $s$ のもとで、項 $f(x_1,\dots,x_n)$ の $M'$ での値は $g(\bar a)$ である。一階述語論理 の記事の補題「代入補題」により
$$ M'\models\varphi(\bar x,f(\bar x))[s]\iff M'\models\varphi[s_y^{g(\bar a)}]\iff M\models\varphi[\bar a,g(\bar a)] $$
であり(2 つ目の同値は $\varphi$ が $L$ の論理式であることによる)、右端は $g(\bar a)\in B_{\bar a}$ により成り立つ。$\bar a$ は任意なので $M'$ は新しい公理を満たし、簡約が $M$ なので $T$ も満たす。thm-cons-ext-expansion の 2 により、$T'$ は $T$ の保存拡大である。$\square$

この命題は Gal15 Problem 5.6.9(p. 241)で演習になっている。この証明は、構造の外側の議論(メタ理論)で選択公理を使っている。
すべての論理式に Skolem 関数を備えた理論も、同じ考え方で保存拡大として得られる。$L_0:=L$、$T_0:=T$ とし、$L_k$ のすべての論理式 $\varphi(\bar x,y)$ について新しい関数記号 $f_\varphi$ を足した言語を $L_{k+1}$、$T_k$ に公理 $\forall\bar x\,\bigl(\exists y\,\varphi\to\varphi(\bar x,f_\varphi(\bar x))\bigr)$ を同時に足した理論を $T_{k+1}$ とする。$T_k$ のモデル $M$ をとり、各 $\varphi$ と $\bar a$ について、prf-cons-ext-skolem と同じく $\varphi$ から定めた $B_{\bar a}$ が空でなければその元を、空なら任意の元を $f_\varphi(\bar a)$ の値として、選択公理で全部の $\varphi$ について一斉に選ぶ。こうして得た拡張は新しい公理をすべて満たすので、thm-cons-ext-expansion の 2 により $T_{k+1}$ は $T_k$ の保存拡大である。$L$ が非可算でも、各段で足す記号の個数に制限はない。prop-cons-ext-basic の 4 で和をとると $T_\omega$ は $T$ の保存拡大で、$L_\omega$ の論理式はどれもある $L_k$ の論理式なので、$L_{k+1}$ でその Skolem 関数をもつ。

Henkin 定数を足す拡大

$\varphi(x)$ を自由変数が $x$ の中にある $L$ の論理式、$c$ を $L$ にない定数記号とする。$T$ に何の仮定も置かずに、
$$ T\cup\bigl\{\exists x\,\varphi(x)\to\varphi(c)\bigr\} $$
は $T$ の保存拡大である。$T$ のモデル $M$ で $\exists x\,\varphi$ が真なら $M\models\varphi[a]$ となる $a$ を、偽なら任意の $a\in M$ を選び、$c$ を $a$ と解釈すればよい。どちらの場合も新しい文は真になり、thm-cons-ext-expansion の 2 が使える。$y$ を $\varphi$ に現れない変数とすると、文 $\exists y\,\bigl(\exists x\,\varphi(x)\to\varphi(y)\bigr)$ は妥当である($\exists x\,\varphi$ が真なら証拠の元を、偽なら任意の元を $y$ に割り当てればよい)。したがってこの例は、prop-cons-ext-skolem を $n=0$、論理式 $\exists x\,\varphi(x)\to\varphi(y)$ に当てはめたものとも見られる。この形の公理(Henkin の公理)を足して作った理論のモデルを組み立てるのが、完全性定理の Henkin による証明の方法である。ただしここでの議論は完全性定理を使っているので、完全性定理の証明の中では使えない。

算術と集合論の保存拡大
  1. 二階算術の体系 $\mathsf{ACA}_0$ は、一階算術(Peano 算術)の言語の文については Peano 算術の保存拡大である。Peano 算術のどのモデルにも、パラメータ付きで定義可能な部分集合の全体を集合の範囲として補えば $\mathsf{ACA}_0$ のモデルになる、という thm-cons-ext-expansion の 2 の形の議論による(Sim06 Remark I.3.3、p. 8。証明は同書 §IX.1。この記事では証明しない)。二階算術の言語は数と集合の 2 種類の変数をもつが、保存拡大の定義は同じ形で述べられる。
  2. 文のクラスを限った保存性もある。$\mathsf{WKL}_0$ が証明する $\Pi^0_2$ 文は、原始再帰的算術 PRA でも証明できる。PRA の言語は原始再帰的関数ごとの関数記号をもち $\mathsf{WKL}_0$ の言語と包含関係にないので、これは文を両方の言語で読み替え、文のクラスを $\Pi^0_2$ 文に限って比べた保存性(「$\Pi^0_2$ 文について PRA の上で保存的」という)であり、def-cons-ext-main の意味の保存拡大ではない(Sim06 Remark I.10.5、p. 38。証明は同書 §IX.3。この記事では証明しない)。この種の結果は 逆数学 で体系の強さを比べるのに使われる。
  3. NBG は集合についての文について ZFC の保存拡大であり、Morse–Kelley 集合論は ZFC が無矛盾なら保存拡大でない(ZFC公理系 の記事の節「クラスを対象にする体系:NBG と MK」)。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
prop-cons-ext-skolem の仮定 $T\vdash\forall\bar x\,\exists y\,\varphi$体の理論に $\forall x\,(f(x)\cdot f(x)=x)$ を足す保存拡大であること
prop-cons-ext-basic の 3 の「$T$ が完全」群の理論に $\exists x\,\lnot(x=e)$ を足す無矛盾な拡大が保存拡大であること
thm-cons-ext-expansion の 2 の「どのモデルも拡張できる」群の理論に可換律を足す保存拡大であること
反例の確かめ
  1. 言語を $\{+,\cdot,-,0,1\}$、$T$ を体の公理とする。$T':=T\cup\{\forall x\,(f(x)\cdot f(x)=x)\}$ では、$y$ として $f(x)$ をとれば $T'\vdash\forall x\,\exists y\,(y\cdot y=x)$ である。この文は $L$ の文だが、$\mathbb Q$ は体で $2$ は有理数の平方でないので、$T$ からは導出できない。同じ理由で、仮定 $T\vdash\forall x\,\exists y\,(y\cdot y=x)$ も成り立っていない。
  2. 言語を $\{\cdot,e\}$、$T$ を群の公理(結合律、$\forall x\,(x\cdot e=x\land e\cdot x=x)$、$\forall x\,\exists y\,(x\cdot y=e\land y\cdot x=e)$)とする。$T':=T\cup\{\exists x\,\lnot(x=e)\}$ は $\mathbb Z/2\mathbb Z$ をモデルにもつので無矛盾な拡大だが、元が 1 つの群は $T$ のモデルで $\exists x\,\lnot(x=e)$ を偽にするので、$T$ はこの文を導出しない。$T$ は完全でない。
  3. 2 の $T$ に可換律 $\forall x\,\forall y\,(x\cdot y=y\cdot x)$ を足した $T'$ を考える。言語は変わらないので、拡張は構造そのもので、非可換な 3 次対称群 $S_3$ は $T'$ のモデルに拡張できない。$T'$ は可換律を導出するが、$S_3$ が $T$ のモデルなので $T$ は導出しない。$T$ と $T'$ はどちらも無矛盾なので、prop-cons-ext-basic の 2 の逆も成り立たないことが分かる。

補足

定義による拡大との関係

新しい記号を、元の言語の論理式で明示的に定める公理だけを足した拡大を 定義による拡大 という。定義による拡大は保存拡大であり、さらに新しい記号を含む論理式がどれも元の言語の論理式と同値になる。prop-cons-ext-skolem の拡大は保存拡大だが、一般には定義による拡大ではない。たとえば DLO に $\forall x\,(x< f(x))$ を足すと保存拡大になるが($\forall x\,\exists y\,(x< y)$ は DLO の公理から導出できる)、$(\mathbb Q,<)$ には $f(x)=x+1$ と $f(x)=x+2$ という 2 通りの拡張があるので、$f$ は $<$ から定まらない。

関連項目

参考文献

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