双極定理(bipolar theorem)とは、実ノルム空間 $E$ の部分集合 $A$ の極集合 $A^\circ=\{f\in E^*\mid\langle f,x\rangle\le1\ (x\in A)\}$ をとり、さらにその前極集合をとると、$A$ と原点を含む最小の閉凸集合 $\overline{\operatorname{conv}}\,(A\cup\{0\})$ が得られるという定理である。とくに原点を含む閉凸集合は極集合を 2 回とると元に戻り、閉凸錐の極錐や閉部分空間の零化空間についての同様の公式はその特別な場合である。閉凸集合が閉半空間の共通部分であるという Fenchel–Moreau の定理の系から、支持関数の正斉次性を使って導かれる。原点を含む閉凸集合が原点を内点にもつことと極集合が有界であることの同値性などに使われる。
前提知識: 支持関数, 凸集合, ノルム空間, Hahn–Banachの定理
平面の正方形 $C=[-1,1]^2$ に対し、$f_1x_1+f_2x_2\le1$ が $C$ のすべての点で成り立つような係数 $(f_1,f_2)$ の全体を考える。左辺の $C$ 上の最大値は $|f_1|+|f_2|$ なので、この集合は菱形 $\{|f_1|+|f_2|\le1\}$ である。同じ操作を菱形に施すと、$x_1f_1+x_2f_2$ の菱形上の最大値は $\max\{|x_1|,|x_2|\}$ なので、もとの正方形に戻る。
集合 $A$ からこのように作る双対側の集合を $A$ の 極集合 $A^\circ$ という。双極定理 は、極集合をとる操作を 2 回繰り返すと、$A$ と原点を含む最小の閉凸集合(閉凸包)が得られることを述べる。とくに原点を含む閉凸集合は、2 回で元に戻る。閉部分空間についての $(M^\perp)_\perp=M$ や、閉凸錐についての双対錐の双対錐の公式は、その特別な場合である。
この記事では、極集合を定義して基本性質を示し、双極定理を Fenchel–Moreauの定理 の系として証明する。応用として、極錐の双極定理、原点が内点であることと極集合の有界性の双対性を証明する。最後に、双対空間の側では、ノルム位相で閉じた凸集合でも前極集合から復元できない例を挙げる。
以下、$E$ を実数体上のノルム空間、$E^*$ をその連続双対、$\|\cdot\|_*$ を双対ノルム、$B_*(0,r):=\{f\mid\|f\|_*\le r\}$ とし、$f\in E^*$ の $x\in E$ での値を $\langle f,x\rangle$ と書く。
$A\subset E$ に対し、
$$
A^\circ:=\{f\in E^*\mid\langle f,x\rangle\le1\ \ (x\in A)\}
$$
を $A$ の 極集合(polar)という。$B\subset E^*$ に対し、
$$
B_\circ:=\{x\in E\mid\langle f,x\rangle\le1\ \ (f\in B)\}
$$
を $B$ の 前極集合 という。$(A^\circ)_\circ$ を $A$ の 双極集合(bipolar)という。
$A$ が空でなければ、支持関数 $h_A(f)=\sup_{x\in A}\langle f,x\rangle$ を使って $A^\circ=\{f\mid h_A(f)\le1\}$ と書ける。極集合は「$A$ を含む閉半空間 $\{\langle f,\cdot\rangle\le1\}$ の法線ベクトル $f$ の全体」である。この定義は Minkowski汎関数 の節「極集合と双対表示」と同じものである。文献によっては $|\langle f,x\rangle|\le1$ で定めた集合(絶対極集合)を極集合と呼ぶが、$A=-A$ のときは両者は一致する。錐については、BV04 §2.6.1(p. 51)の双対錐 $K^*=\{f\mid\langle f,x\rangle\ge0\ (x\in K)\}$ は $-K^\circ$ にあたる(下の prop-bp-basic の 4)。
$A,A'\subset E$、$B\subset E^*$ とする。
各項を定義から確かめる。
1:$A^\circ=\bigcap_{x\in A}\{f\mid\langle f,x\rangle\le1\}$ であり、各 $\{f\mid\langle f,x\rangle\le1\}$ は $0$ を含む凸集合で、$f\mapsto\langle f,x\rangle$ が弱スター連続なので(弱スター位相 の定義「弱スター位相」)弱スター閉である。共通部分をとればよい。弱スター位相はノルム位相より粗いので、ノルム位相でも閉じている。$B_\circ$ は連続線形汎関数 $f$ による閉半空間 $\{\langle f,\cdot\rangle\le1\}$ の共通部分である。
2:定義から明らかである。$f\in(tA)^\circ$ は $\langle tf,x\rangle\le1$($x\in A$)、すなわち $tf\in A^\circ$ と同値である。
3:$x\in A$、$f\in A^\circ$ なら $\langle f,x\rangle\le1$ なので $x\in(A^\circ)_\circ$ である。
4:$\langle f,x\rangle\le0$ なら $\le1$ である。逆に $f\in A^\circ$ で $\langle f,x\rangle>0$ となる $x\in A$ があれば、大きな $t$ で $\langle f,tx\rangle>1$、$tx\in A$ となり矛盾する。部分空間では $x$ と $-x$ に用いて $\langle f,x\rangle=0$ を得る。
5:$\sup_{\|x\|\le r}\langle f,x\rangle=r\|f\|_*$(双対ノルムの定義)なので、$f\in B(0,r)^\circ$ は $\|f\|_*\le1/r$ と同値である。
6:2 と 5 による。$\square$
閉凸集合 $L\neq\emptyset$ が支持関数によって
$$
L=\{x\in E\mid\langle f,x\rangle\le h_L(f)\ \ (f\in E^*)\}
$$
と表されることは、Fenchel–Moreauの定理 の系「閉凸集合は閉半空間の共通部分」で、Fenchel–Moreau の定理を指示関数に当てて証明されている($h_L(f)=+\infty$ となる $f$ の条件は空とみなす)。双極定理はこの表示から従う。集合 $S$ を含む最小の閉凸集合を $\overline{\operatorname{conv}}\,S$ と書く。
$A\subset E$ を任意の部分集合とする。このとき
$$
(A^\circ)_\circ=\overline{\operatorname{conv}}\,(A\cup\{0\})
$$
である。とくに、$0$ を含む閉凸集合 $C$ について $(C^\circ)_\circ=C$ であり、$0$ を含む凸集合 $C$ について $(C^\circ)_\circ=\overline C$ である。
$S:=\overline{\operatorname{conv}}\,(A\cup\{0\})$ とおく。$S$ は $0$ を含む閉凸集合である。
段 1($A^\circ=S^\circ$)。$A\subset S$ なので $S^\circ\subset A^\circ$ である。逆に $f\in A^\circ$ なら、閉半空間 $\{x\mid\langle f,x\rangle\le1\}$ は $A$ と $0$ を含む閉凸集合なので $S$ を含み、$f\in S^\circ$ である。
段 2($S$ の双極集合を支持関数で書く)。$0\in S$ なので $h_S\ge0$ であり、$S^\circ=\{f\mid h_S(f)\le1\}$ である。
$$
(S^\circ)_\circ=\{x\mid\langle f,x\rangle\le h_S(f)\ \ (f\in E^*)\}
$$
を示す。右辺の $x$ をとると、$h_S(f)\le1$ なら $\langle f,x\rangle\le h_S(f)\le1$ なので $x\in(S^\circ)_\circ$ である。逆に $x\in(S^\circ)_\circ$ とし、$f\in E^*$ をとる。$h_S(f)=+\infty$ なら示すことはない。$c:=h_S(f)$ が正の実数なら、支持関数の正斉次性(支持関数 の命題「支持関数の基本性質」の 1)により $h_S(f/c)=1$ なので $f/c\in S^\circ$、よって $\langle f,x\rangle\le c$ である。$c=0$ なら、すべての $t>0$ で $h_S(tf)=0$、すなわち $tf\in S^\circ$ なので $\langle f,x\rangle\le1/t$ であり、$t\to\infty$ として $\langle f,x\rangle\le0=h_S(f)$ である。
段 3。段 2 の右辺は、冒頭の表示により $S$ に等しい。段 1 と合わせて $(A^\circ)_\circ=(S^\circ)_\circ=S$ である。
後半:$C$ が $0$ を含む閉凸集合なら $\overline{\operatorname{conv}}\,(C\cup\{0\})=C$ である。$C$ が $0$ を含む凸集合なら、閉包 $\overline C$ も凸である($x_k\to x$、$y_k\to y$、$x_k,y_k\in C$ なら $(1-t)x_k+ty_k\in C$ は $(1-t)x+ty$ に収束する)。よって $\overline C$ は $C$ を含む最小の閉凸集合であり、$\overline{\operatorname{conv}}\,(C\cup\{0\})=\overline C$ である。$\square$
$0$ を含む凸集合の場合は Bre11 Exercise 1.15 の 1(p. 24)に演習として挙げられている。段 2 で $0\in S$ を使ったのは、$h_S(f)=0$ となる方向 $f$ を扱うところである。原点を含まない集合では、双極集合は原点まで広がる(下の ex-bp-point)。冒頭の表示を使わずに、Hahn–Banachの定理 の系「閉凸集合と外の点の分離」で $S$ の外の点を分離し、その汎関数を正の定数倍して $S^\circ$ の元を作る直接の証明もできる。
$\mathbb{R}^n$ では $(\mathbb{R}^n)^*$ を内積で $\mathbb{R}^n$ と同一視すると、極集合と前極集合は同じ操作になり、$C\mapsto C^\circ$ は原点を含む閉凸集合の全体の上の、包含を逆にする全単射で、2 回で恒等写像になる。
空でない $K\subset E$ に対し、$K$ の点の $0$ 以上の係数の有限和の全体を $\operatorname{cone}K$ と書く。これは $K$ と $0$ を含む最小の凸錐である。$K^\circ$ の代わりに、
$$
K^-:=\{f\in E^*\mid\langle f,x\rangle\le0\ \ (x\in K)\}
$$
を $K$ の 極錐 という。$B\subset E^*$ についても同様に $B_-:=\{x\mid\langle f,x\rangle\le0\ (f\in B)\}$ とおく。
空でない $K\subset E$ について $(K^-)_-=\overline{\operatorname{cone}K}$ である。とくに $K$ が閉凸錐なら $(K^-)_-=K$、$M$ が線形部分空間なら $(M^\perp)_\perp=\overline M$ である。
$C:=\operatorname{cone}K$ とおく。$f$ が $K$ 上で $\langle f,\cdot\rangle\le0$ なら、$K$ の点の非負係数の和の上でも $\le0$ なので、$K^-=C^-$ である。$C$ は錐なので、prop-bp-basic の 4 により $C^-=C^\circ$ である。$C^\circ$ も錐なので、同じく $(C^\circ)_-=(C^\circ)_\circ$ である。$C$ は $0$ を含む凸集合なので、thm-bp-main により $(K^-)_-=(C^\circ)_\circ=\overline C$ である。部分空間では $M^-=M^\perp$、$(M^\perp)_-=(M^\perp)_\perp$ である(prop-bp-basic の 4)。$\square$
部分空間の場合は Fenchel–Moreauの定理 の例「閉部分空間と零化空間」でも示されている。$\mathbb{R}^n$ の有限個のベクトル $a_1,\dots,a_m$ が生成する錐 $C$ では閉包をとる必要がない。実際、線形計画法 の系「等式と非負条件の形の Farkas の補題」は、$b\notin C$ なら $a_j\cdot z\le0$(全 $j$)かつ $b\cdot z>0$ となる $z$ があること、すなわち $b\notin(C^-)_-$ を述べており、$(C^-)_-\subset C$ を与える。双極定理と合わせると、これは「有限生成の錐は閉じている」ことと同じ内容である。
$C\subset E$ を $0$ を含む閉凸集合とする。
1:$C\subset B(0,R)$ なら prop-bp-basic の 6 により $B_*(0,1/R)\subset C^\circ$ である。逆に $B_*(0,r)\subset C^\circ$ とし、$x\in C$ をとる。$\|f\|_*\le r$ なら $\langle f,x\rangle\le1$ なので、連続双対空間 の系「双対ノルムによる元のノルムの復元」により $r\|x\|=\sup_{\|f\|_*\le r}\langle f,x\rangle\le1$ である($f$ と $-f$ を合わせて考える)。よって $C\subset B(0,1/r)$ である。
2:$B(0,r)\subset C$ なら prop-bp-basic の 6 により $C^\circ\subset B_*(0,1/r)$ である。逆に $C^\circ\subset B_*(0,R)$($R>0$)とする。$\|x\|\le1/R$ なら、$f\in C^\circ$ について $\langle f,x\rangle\le\|f\|_*\|x\|\le1$ なので $x\in(C^\circ)_\circ$ である。thm-bp-main により $(C^\circ)_\circ=C$ なので、$B(0,1/R)\subset C$ である。$\square$
1 の「$\Leftarrow$」は $C$ の閉凸性を使わない。2 の「$\Leftarrow$」は双極定理を使っており、$C$ が閉でなければ成り立たない(下の反例の表の 5 行目)。$\mathbb{R}^n$ では、この定理により $C\mapsto C^\circ$ は「原点を内点にもつコンパクト凸集合」の全体をそれ自身に移す。Minkowski汎関数 の定理「Minkowski 汎関数の双対表示」の最後の主張は、2 の「$\Rightarrow$」にあたる。
$\mathbb{R}^2$ で $C=[-1,1]^2$ とする。$h_C(f)=|f_1|+|f_2|$(支持関数 の例「凸多面体と楕円体」)なので $C^\circ=\{|f_1|+|f_2|\le1\}$ である。菱形の支持関数は $\max\{|x_1|,|x_2|\}$ なので、その極集合は $C$ に戻り、thm-bp-main と合っている。Euclid ノルムの単位円板は、prop-bp-basic の 5 によりそれ自身の極集合である。
$E=\ell^1$ とすると $E^*$ は $\ell^\infty$ と等長同型である(ℓp空間 の定理「$\ell^p$ と $c_0$ の双対」)。$N:=c_0\subset\ell^\infty$ はノルム閉な線形部分空間である。$N_\circ=N_\perp$ であり(prop-bp-basic の 4)、$x\in N_\perp$ なら $e_n\in N$ との対で $x_n=0$ がすべての $n$ で成り立つので $N_\circ=\{0\}$ である。よって $(N_\circ)^\circ=\{0\}^\circ=\ell^\infty\neq N$ である。
これは、$(N_\circ)^\circ$ がつねに弱スター閉であること(prop-bp-basic の 1)から説明される。$N$ は弱スター閉でない。実際、$x^{(k)}:=e_1+\cdots+e_k\in N$ は、各 $y\in\ell^1$ について $\sum_{n\le k}y_n\to\sum_ny_n$ となるので、$N$ に属さない $(1,1,1,\dots)$ に弱スター収束する(弱スター位相 の命題「収束の判定」)。この例は Bre11 Exercise 1.16(p. 24)にある。
thm-bp-main の後半「$0$ を含む閉凸集合 $C$ について $(C^\circ)_\circ=C$」と、thm-bp-interior の 2 の仮定を 1 つずつ外す。各行は 1 つの条件だけを破る。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $0\in C$ | $C=\{1\}\subset\mathbb{R}$ | $(C^\circ)_\circ=[0,1]\neq C$ |
| 閉であること | $C=(-1,1)\subset\mathbb{R}$ | $(C^\circ)_\circ=[-1,1]\neq C$ |
| 凸であること | $C=\{-1,0,1\}\subset\mathbb{R}$ | $(C^\circ)_\circ=[-1,1]\neq C$ |
| $C\subset E$(双対空間の側で前極集合をとる) | $N=c_0\subset\ell^\infty=(\ell^1)^*$(ノルム閉な部分空間) | $(N_\circ)^\circ=\ell^\infty\neq N$ |
| 閉であること(thm-bp-interior の 2) | $\ell^2$ の有限個を除いて $0$ の数列の全体 $c_{00}$ | $c_{00}^\circ=\{0\}$ は有界だが、$0$ は $c_{00}$ の内点でない |
1〜3 行目は thm-bp-main の前半による。
$\mathbb{R}^*$ を $\mathbb{R}$ と同一視する。1 行目:$\{1\}^\circ=(-\infty,1]$ で、その前極集合は $\{x\mid sx\le1\ (s\le1)\}=[0,1]$ である($s\to-\infty$ から $x\ge0$、$s=1$ から $x\le1$)。2 行目:$(-1,1)^\circ=[-1,1]$ で、その前極集合は $[-1,1]$ である。3 行目:$\{-1,0,1\}^\circ=[-1,1]$ なので 2 行目と同じである。4 行目は ex-bp-c0 である。5 行目:$c_{00}$ は線形部分空間なので $c_{00}^\circ=c_{00}^\perp$ であり、$(\ell^2)^*$ を内積で $\ell^2$ と同一視すると、$f\perp e_n$(全 $n$)から $f=0$ である。$c_{00}$ の点 $x$ の近くには $x+\varepsilon\sum_n2^{-n}e_n/n$ のように無限個の座標が $0$ でない点があるので、$c_{00}$ は内点をもたない。$c_{00}$ は閉でない(その閉包は $\ell^2$ である)。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する