位相空間

同義語:topological space

概要

位相空間(topological space)とは、集合と、その部分集合のうち開集合とするものを集めた族(位相)の組である。開集合族は空集合と全体集合を含み、任意和と有限交叉で閉じる。Euclid 空間の通常の位相、離散位相と密着位相、Sierpiński 空間、順序位相が代表例で、同じ集合上の位相は包含関係で細かさを比較でき、任意の部分集合族はそれを含む最小の位相を生成する。連続写像やコンパクト性などの位相的性質は、すべてこの開集合族だけから定義される。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 集合, 部分集合, 冪集合, 集合族

定義

開集合系による位相空間

集合 $X$ 上の 位相(topology)とは、$X$ の部分集合族 $\mathcal O\subseteq\mathcal P(X)$ で、次の三条件を満たすものをいう。

  1. 空集合 $\emptyset$ と $X$ が $\mathcal O$ に属する。
  2. 添字集合 $I$ と族 $(U_i)_{i\in I}$ が各 $U_i\in\mathcal O$ を満たすならば、和集合 $\bigcup_{i\in I}U_i$ は $\mathcal O$ に属する。
  3. $U,V\in\mathcal O$ ならば、共通部分 $U\cap V$ は $\mathcal O$ に属する。
    組 $(X,\mathcal O)$ を 位相空間(topological space)といい、$\mathcal O$ の元を $(X,\mathcal O)$ の 開集合(open set)という。文脈から $\mathcal O$ が明らかなときは、位相空間を単に $X$ と書く。

位相は部分集合族 $\mathcal O$ であり、位相空間は台集合と位相の組 $(X,\mathcal O)$ である。この二つを区別しておくと、同じ集合に異なる位相を入れる場合にも混乱しない。$\mathcal O$ の元である 開集合 の基本性質はその記事が扱い、公理の番号付けもその記事に合わせてある。

空の和と空の交叉を含める流儀

空の族の和集合を $\emptyset$、空の族の共通部分を $X$ と約束し、公理2を空の族を含む「任意個の開集合の和集合は開集合」、公理3を「有限個の開集合の共通部分は開集合」と述べるなら、公理1は省いてよい。空の和から $\emptyset\in\mathcal O$、空の交叉から $X\in\mathcal O$ が従うからである。
一方、公理3を二つの開集合の共通部分についてだけ述べる流儀では、空の交叉を扱えないため、公理1を残す必要がある。たとえば $X\ne\emptyset$ と $\mathcal O=\{\emptyset\}$ は、二元交叉と任意和について閉じているが $X\notin\mathcal O$ なので位相ではない。

二元交叉と有限交叉

$\mathcal O$ が公理1と公理3を満たすならば、任意の有限個の $\mathcal O$ の元の共通部分も $\mathcal O$ に属する。

二元交叉から有限交叉を得る証明

個数 $n$ に関する 数学的帰納法 で示す。$n=0$ の共通部分は $X$ であり、公理1により $X\in\mathcal O$ である。$n=1$ は明らかである。$U_1,\ldots,U_{n+1}\in\mathcal O$ とし、$U_1\cap\cdots\cap U_n\in\mathcal O$ が分かっているとする。公理3をこの集合と $U_{n+1}$ に適用すれば
$$ (U_1\cap\cdots\cap U_n)\cap U_{n+1}\in\mathcal O $$
を得る。したがってすべての有限個数について成り立つ。この証明は 選択公理 を使わない。

開集合の 補集合 として定まる閉集合が満たす性質は 閉集合、部分集合をそれを含む最小の閉集合へ送る閉包作用素の性質は 閉包 が扱う。閉集合系や閉包作用素から位相を復元できることは Mun00 §17 を参照。閉包という集合と閉包作用素を同じものとして扱わない。

例と反例

Euclid空間の通常の位相

Euclid空間 $\mathbb R^n$ の通常の距離による 開球 を $B(x,r)=\{y\in\mathbb R^n\mid\|y-x\|< r\}$ と書く。$\mathbb R^n$ の部分集合 $U$ について、各 $x\in U$ に対し $B(x,r)\subseteq U$ を満たす $r>0$ が存在するとき $U$ を開とする。この開集合族は $\mathbb R^n$ 上の位相をなし、これを $\mathbb R^n$ の 通常の位相という。
この開集合族が三公理を満たすことは、より一般に任意の距離空間で成り立つ。その証明は 距離空間 の記事の命題(開球は開基をなす)とその系(開球と開集合)に譲る。

離散位相と密着位相

任意の集合 $X$ について、$\mathcal P(X)$ は $X$ 上の位相であり 離散位相 と呼ばれ、$\{\emptyset,X\}$ は $X$ 上の位相であり 密着位相 と呼ばれる。前者ではすべての部分集合が開であり、後者では $\emptyset$ と $X$ だけが開である。どちらも三公理を直接満たす。
離散位相は $X$ 上で最も細かい位相、密着位相は最も粗い位相である(細かい・粗いは prop-topological-space-comparison で定義する)。これは、任意の位相 $\mathcal O$ に対して
$$ \{\emptyset,X\}\subseteq\mathcal O\subseteq\mathcal P(X) $$
が成り立つことを意味する。

Sierpiński空間の例

$X=\{0,1\}$ とし、$\mathcal O=\{\emptyset,\{1\},X\}$ と置くと、$(X,\mathcal O)$ は位相空間である。$\mathcal O$ の元を列挙すれば、任意和と有限交叉について閉じていることが分かる。
この空間は Sierpinski空間 と呼ばれる。$\{1\}$ が開なので二点密着空間ではなく、$\{0\}$ が開でないので二点離散空間でもない。

全順序集合に入る位相

全順序集合(全順序)$(L,<)$ について、左半直線 $\{x\in L\mid x< a\}$ と右半直線 $\{x\in L\mid a< x\}$($a\in L$)をすべて開にする最小の位相を 順序位相 という。この最小の位相は後述の生成によって存在する。
$L=\mathbb R$ に通常の順序を入れた場合、得られる順序位相は上の $n=1$ の通常の位相と一致する。実際、開区間 $(a,b)=(a,\infty)\cap(-\infty,b)$ は二つの半直線の共通部分なので順序位相で開であり、開区間全体は通常の位相の 開基 をなすから、通常の位相の開集合は開区間の和として順序位相でも開である。逆に、半直線 $(a,\infty)=\bigcup_{n\geq1}(a,a+n)$ と $(-\infty,b)=\bigcup_{n\geq1}(b-n,b)$ は通常の位相で開なので、順序位相の最小性により順序位相は通常の位相に含まれる。
順序位相は全順序から作る位相である。開集合族が任意交叉についても閉じるという性質を持つ位相(Alexandroff位相、その空間を Alexandroff 空間という)とは別の概念であり、たとえば通常の位相を入れた $\mathbb R$ は $\bigcap_{n\ge1}(-1/n,1/n)=\{0\}$ が開でないのでこの性質を持たない。

反例:無限交叉は開とは限らない

通常の位相を入れた $\mathbb R$ で、各 $n\ge1$ に対して $U_n=(-1/n,1/n)$ は開であるが、
$$ \bigcap_{n\ge1}U_n=\{0\} $$
は開でない。この例は「開集合の任意交叉も開である」という含意を破る。位相の公理が要求するのは有限交叉である。

位相の比較

位相の細粗

$X$ 上の二つの位相 $\mathcal O_1,\mathcal O_2$ について、$\mathcal O_1\subseteq\mathcal O_2$ のとき、$\mathcal O_2$ は $\mathcal O_1$ より 細かい、$\mathcal O_1$ は $\mathcal O_2$ より 粗いという。包含関係による比較は 反射律 と 推移律 を満たし、相互に細かい二つの位相は等しい。

位相の比較の証明

任意の集合族は自分自身を含むので $\mathcal O\subseteq\mathcal O$ である。$\mathcal O_1\subseteq\mathcal O_2$ かつ $\mathcal O_2\subseteq\mathcal O_3$ ならば、包含関係の推移性により $\mathcal O_1\subseteq\mathcal O_3$ である。また $\mathcal O_1\subseteq\mathcal O_2$ かつ $\mathcal O_2\subseteq\mathcal O_1$ ならば、集合の 外延性 により $\mathcal O_1=\mathcal O_2$ である。この証明は選択公理を使わない。

位相の生成

部分集合族が生成する位相

集合 $X$ と部分集合族 $\mathcal S\subseteq\mathcal P(X)$ に対して、$\mathcal S$ を含む $X$ 上の最小の位相がただ一つ存在する。これを $\mathcal S$ が 生成する位相という。

生成位相の証明の所在

$\mathcal S$ の有限個の元の共通部分(空の交叉は $X$)の任意和の全体が求める位相であること、およびその最小性と一意性の証明は、開基 の記事の定理(準開基から生成される位相)に譲る(Mun00 §13)。$\mathcal S$ を含む位相全体の共通部分を取っても同じ位相が得られる。

補有限位相 と 余可算位相 は異なる条件から作る位相であり、それぞれの定義と性質は各記事が扱う。分離公理 と Tychonoff空間 は本記事では定義しない。Tychonoff空間という空間の性質と、積のコンパクト性を述べるTychonoffの定理は別の主題である。
本記事の定義、位相の比較と生成、基本例については Matsusaka68 と Mun00 を参照できる。

関連項目

参考文献

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