位相空間(topological space)とは、集合と、その部分集合のうち開集合とするものを集めた族(位相)の組である。開集合族は空集合と全体集合を含み、任意和と有限交叉で閉じる。Euclid 空間の通常の位相、離散位相と密着位相、Sierpiński 空間、順序位相が代表例で、同じ集合上の位相は包含関係で細かさを比較でき、任意の部分集合族はそれを含む最小の位相を生成する。連続写像やコンパクト性などの位相的性質は、すべてこの開集合族だけから定義される。
集合 $X$ 上の 位相(topology)とは、$X$ の部分集合族 $\mathcal O\subseteq\mathcal P(X)$ で、次の三条件を満たすものをいう。
位相は部分集合族 $\mathcal O$ であり、位相空間は台集合と位相の組 $(X,\mathcal O)$ である。この二つを区別しておくと、同じ集合に異なる位相を入れる場合にも混乱しない。$\mathcal O$ の元である 開集合 の基本性質はその記事が扱い、公理の番号付けもその記事に合わせてある。
空の族の和集合を $\emptyset$、空の族の共通部分を $X$ と約束し、公理2を空の族を含む「任意個の開集合の和集合は開集合」、公理3を「有限個の開集合の共通部分は開集合」と述べるなら、公理1は省いてよい。空の和から $\emptyset\in\mathcal O$、空の交叉から $X\in\mathcal O$ が従うからである。
一方、公理3を二つの開集合の共通部分についてだけ述べる流儀では、空の交叉を扱えないため、公理1を残す必要がある。たとえば $X\ne\emptyset$ と $\mathcal O=\{\emptyset\}$ は、二元交叉と任意和について閉じているが $X\notin\mathcal O$ なので位相ではない。
$\mathcal O$ が公理1と公理3を満たすならば、任意の有限個の $\mathcal O$ の元の共通部分も $\mathcal O$ に属する。
開集合の 補集合 として定まる閉集合が満たす性質は 閉集合、部分集合をそれを含む最小の閉集合へ送る閉包作用素の性質は 閉包 が扱う。閉集合系や閉包作用素から位相を復元できることは Mun00 §17 を参照。閉包という集合と閉包作用素を同じものとして扱わない。
Euclid空間 $\mathbb R^n$ の通常の距離による 開球 を $B(x,r)=\{y\in\mathbb R^n\mid\|y-x\|< r\}$ と書く。$\mathbb R^n$ の部分集合 $U$ について、各 $x\in U$ に対し $B(x,r)\subseteq U$ を満たす $r>0$ が存在するとき $U$ を開とする。この開集合族は $\mathbb R^n$ 上の位相をなし、これを $\mathbb R^n$ の 通常の位相という。
この開集合族が三公理を満たすことは、より一般に任意の距離空間で成り立つ。その証明は 距離空間 の記事の命題(開球は開基をなす)とその系(開球と開集合)に譲る。
任意の集合 $X$ について、$\mathcal P(X)$ は $X$ 上の位相であり 離散位相 と呼ばれ、$\{\emptyset,X\}$ は $X$ 上の位相であり 密着位相 と呼ばれる。前者ではすべての部分集合が開であり、後者では $\emptyset$ と $X$ だけが開である。どちらも三公理を直接満たす。
離散位相は $X$ 上で最も細かい位相、密着位相は最も粗い位相である(細かい・粗いは prop-topological-space-comparison で定義する)。これは、任意の位相 $\mathcal O$ に対して
$$
\{\emptyset,X\}\subseteq\mathcal O\subseteq\mathcal P(X)
$$
が成り立つことを意味する。
$X=\{0,1\}$ とし、$\mathcal O=\{\emptyset,\{1\},X\}$ と置くと、$(X,\mathcal O)$ は位相空間である。$\mathcal O$ の元を列挙すれば、任意和と有限交叉について閉じていることが分かる。
この空間は Sierpinski空間 と呼ばれる。$\{1\}$ が開なので二点密着空間ではなく、$\{0\}$ が開でないので二点離散空間でもない。
全順序集合(全順序)$(L,<)$ について、左半直線 $\{x\in L\mid x< a\}$ と右半直線 $\{x\in L\mid a< x\}$($a\in L$)をすべて開にする最小の位相を 順序位相 という。この最小の位相は後述の生成によって存在する。
$L=\mathbb R$ に通常の順序を入れた場合、得られる順序位相は上の $n=1$ の通常の位相と一致する。実際、開区間 $(a,b)=(a,\infty)\cap(-\infty,b)$ は二つの半直線の共通部分なので順序位相で開であり、開区間全体は通常の位相の 開基 をなすから、通常の位相の開集合は開区間の和として順序位相でも開である。逆に、半直線 $(a,\infty)=\bigcup_{n\geq1}(a,a+n)$ と $(-\infty,b)=\bigcup_{n\geq1}(b-n,b)$ は通常の位相で開なので、順序位相の最小性により順序位相は通常の位相に含まれる。
順序位相は全順序から作る位相である。開集合族が任意交叉についても閉じるという性質を持つ位相(Alexandroff位相、その空間を Alexandroff 空間という)とは別の概念であり、たとえば通常の位相を入れた $\mathbb R$ は $\bigcap_{n\ge1}(-1/n,1/n)=\{0\}$ が開でないのでこの性質を持たない。
通常の位相を入れた $\mathbb R$ で、各 $n\ge1$ に対して $U_n=(-1/n,1/n)$ は開であるが、
$$
\bigcap_{n\ge1}U_n=\{0\}
$$
は開でない。この例は「開集合の任意交叉も開である」という含意を破る。位相の公理が要求するのは有限交叉である。
任意の集合族は自分自身を含むので $\mathcal O\subseteq\mathcal O$ である。$\mathcal O_1\subseteq\mathcal O_2$ かつ $\mathcal O_2\subseteq\mathcal O_3$ ならば、包含関係の推移性により $\mathcal O_1\subseteq\mathcal O_3$ である。また $\mathcal O_1\subseteq\mathcal O_2$ かつ $\mathcal O_2\subseteq\mathcal O_1$ ならば、集合の 外延性 により $\mathcal O_1=\mathcal O_2$ である。この証明は選択公理を使わない。
集合 $X$ と部分集合族 $\mathcal S\subseteq\mathcal P(X)$ に対して、$\mathcal S$ を含む $X$ 上の最小の位相がただ一つ存在する。これを $\mathcal S$ が 生成する位相という。
補有限位相 と 余可算位相 は異なる条件から作る位相であり、それぞれの定義と性質は各記事が扱う。分離公理 と Tychonoff空間 は本記事では定義しない。Tychonoff空間という空間の性質と、積のコンパクト性を述べるTychonoffの定理は別の主題である。
本記事の定義、位相の比較と生成、基本例については Matsusaka68 と Mun00 を参照できる。
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