マイクロ台(micro-support)とは、多様体 $X$ 上の層の複体 $F$ に対して余接束 $T^*X$ の閉円錐集合 $SS(F)$ を対応させる不変量で、柏原正樹と P. Schapira が導入した。点 $(x;\xi)$ が $SS(F)$ に入らないとは、微分が $\xi$ に近い関数 $\varphi$ について $R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}(F)$ の茎が消えること、つまり境界 $\{\varphi=0\}$ を越えても $F$ のコホモロジーが変わらないことをいう。零切断との共通部分は $F$ の台で、マイクロ台が零切断に含まれることは局所定数であることと同値である。閉部分多様体の定数層のマイクロ台は余法束であり、マイクロ台はつねに包合的である。
マイクロ台(micro-support)は、多様体 $X$ 上の層(あるいは層の複体)$F$ に対して、余接束 $T^*X$ の閉円錐集合 $\mathrm{SS}(F)$ を対応させる不変量である。柏原正樹と P. Schapira が導入した。点 $x$ と余接ベクトル $\xi\in T^*_xX$ の組 $(x;\xi)$ がマイクロ台に入らないとは、「$x$ の近くで、微分が $\xi$ に近い関数 $\varphi$ を選んで $\{\varphi<0\}$ から $\{\varphi\ge0\}$ へ境界を越えるとき、$F$ のコホモロジーが変わらない」ことをいう。マイクロ台と零切断の共通部分は台であり、零切断の外にある部分は、$F$ がどの余方向へ「伝播しないか」を記録する。
この不変量は、構成可能層の理論を余接束の幾何に移す。実解析多様体の上の複体が(劣解析的な層別について)弱構成可能であることは、マイクロ台が劣解析的な Lagrange 集合であることと同値である(柏原–Schapira)。複素多様体の上の $\mathcal D$ 加群の解の複体のマイクロ台は、特性多様体に一致する。代数多様体のエタール層に対する類似が 特異台(エタール層)であり、その成分に重複度をつけたものが 特性サイクルである。
この記事では、マイクロ台を定義し、基本性質(閉円錐性、台との関係、三角不等式)を証明する。さらに、局所定数層のマイクロ台が零切断であること、直線上の半直線の定数層のマイクロ台、閉部分多様体の定数層のマイクロ台が余法束であることを、定義から計算する。包合性の定理と構成可能性の特徴づけは引用とする。
$X$ を $n$ 次元の $C^\infty$ 級多様体、$A$ を可換環とし、$X$ 上の $A$ 加群の層の複体の下に有界な導来圏を $D^+(X)$ と書く(導来圏)。有界な複体のなす部分圏を $D^b(X)$ と書く。$F\in D^+(X)$ の台を
$$
\operatorname{supp}F:=\overline{\{x\in X\mid \text{ある }j\text{ で }H^j(F)_x\neq0\}}
$$
(閉包)と定める。
$\pi\colon T^*X\to X$ を余接束、$T^*_XX$ をその零切断とする。部分集合 $C\subset T^*X$ が円錐的(conic)であるとは、$(x;\xi)\in C$ と実数 $c>0$ について $(x;c\xi)\in C$ となることをいう。$X$ の部分多様体 $Y$ に対して、
$$
T^*_YX:=\{(x;\xi)\in T^*X\mid x\in Y,\ \xi|_{T_xY}=0\}
$$
を $Y$ の余法束(conormal bundle)という。$Y$ が閉部分多様体なら $T^*_YX$ は $T^*X$ の閉円錐集合であり、$Y=X$ なら零切断である。
$Z\subset X$ を閉集合、$j\colon X\setminus Z\to X$ を包含とする。$F\in D^+(X)$ について、単位射 $F\to Rj_*j^{-1}F$ を含む完全三角形
$$
R\Gamma_Z(F)\longrightarrow F\longrightarrow Rj_*j^{-1}F\xrightarrow{+1}
$$
で $R\Gamma_Z(F)$ を定める($Z$ に台をもつ切断の導来関手)。点 $x$ での茎をとると長完全列
$$
\cdots\to H^k(R\Gamma_Z(F))_x\to H^k(F)_x\to\varinjlim_{V\ni x}H^k(V\setminus Z;F)\to H^{k+1}(R\Gamma_Z(F))_x\to\cdots
$$
が得られる。帰納極限は $x$ の開近傍 $V$ についてとる(高次順像の茎の計算)。したがって
(★) $R\Gamma_Z(F)_x=0$ であることと、すべての $k$ で $H^k(F)_x\to\varinjlim_{V\ni x}H^k(V\setminus Z;F)$ が同型であることは同値である。
茎 $R\Gamma_Z(F)_x$ は、$x$ の近くでの $Z$ と $F$ だけで決まる。関数 $\varphi$ が $x$ の近傍 $W$ でだけ定義されているときも、$W$ の閉集合 $\{\varphi\ge0\}$ について $R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}(F|_W)_x$ を考え、これを $R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}(F)_x$ と書く。
$F\in D^+(X)$ とする。点 $p=(x_0;\xi_0)\in T^*X$ が $F$ のマイクロ台に入らないとは、$p$ の $T^*X$ における開近傍 $U$ があって、次が成り立つことをいう:点 $x_1\in X$ と、$x_1$ の近傍で定義された実数値 $C^\infty$ 関数 $\varphi$ で
$$
\varphi(x_1)=0,\qquad (x_1;d\varphi(x_1))\in U
$$
を満たすものについて、つねに
$$
R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}(F)_{x_1}=0
$$
となる。マイクロ台に入らない点全体の補集合を $\mathrm{SS}(F)\subset T^*X$ と書き、$F$ のマイクロ台という。
これは KS85 Definition 3.1.2(p. 53)の定義であり、同書は序の Definition 0.1(p. 5)でも同じ形で述べる。同書 Theorem 3.1.1(p. 49)は、この条件が、$\varphi$ を $C^\alpha$ 級($1\le\alpha\le\infty$)に限っても実解析的に限っても変わらないこと、また凸な錐 $G$ を使った大域的な条件(「$G$ 位相」の条件)と同値であることを示す(この記事では証明しない)。函手的な性質の証明には、この大域的な言い換えが使われる。
直感的には、$\{\varphi<0\}$ の上の $F$ の切断(とそのコホモロジー類)が、境界 $\{\varphi=0\}$ を越えて $x_1$ のまわりに一意に延びることが、$(R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}F)_{x_1}=0$ の意味である((★))。マイクロ台に入らない余方向とは、この延長がいつもできる向きのことである。
用語の注意。 代数多様体のエタール層について Beilinson が定めた $\mathrm{SS}(F)$ も、英語で singular support または micro-support と呼ばれる(Bei16 §1.3)。この記事の $\mathrm{SS}(F)$ は多様体の上の層に対する柏原–Schapira の不変量を指し、エタール層の不変量は 特異台(エタール層)の記事で扱う。
$F\in D^+(X)$ とする。
要点:(1)・(2) は定義の言い換えで、円錐性は $\varphi$ を正の定数倍しても $\{\varphi\ge0\}$ が変わらないことによる。(3) は恒等的に $0$ の関数 $\varphi$ を使うと $R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}(F)=F$ となることから、(4) は茎の長完全列から従う。
(1) $p$ に対して def-ms-micro-support の $U$ がとれれば、$U$ の各点に対しても同じ $U$ が使えるので、補集合は開集合である。円錐性:$U$ が $p=(x_0;\xi_0)$ について条件を満たすとし、$c>0$ とする。$cU:=\{(x;c\xi)\mid(x;\xi)\in U\}$ は $(x_0;c\xi_0)$ の開近傍である。$\varphi(x_1)=0$、$(x_1;d\varphi(x_1))\in cU$ なら、$\psi:=c^{-1}\varphi$ は $\psi(x_1)=0$、$(x_1;d\psi(x_1))\in U$ を満たし、$\{\psi\ge0\}=\{\varphi\ge0\}$ なので $R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}(F)_{x_1}=R\Gamma_{\{\psi\ge0\}}(F)_{x_1}=0$ である。よって補集合は円錐的であり、$\mathrm{SS}(F)$ も円錐的である。
(2) 茎 $R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}(F)_{x_1}$ は $x_1$ の近くの $F$ だけで決まる(節「設定と記号」)。$V$ の点 $x_1$ と $V$ の中の近傍で定義された $\varphi$ について、$F$ と $F|_V$ で同じ茎が得られるので、$\pi^{-1}(V)$ の点については両者の条件は同じである。平行移動 $[k]$ は $R\Gamma_Z$ と茎をとる操作と交換し、茎が $0$ であるかどうかを変えない。
(3) $x_0\notin\operatorname{supp}F$ とすると、$x_0$ の開近傍 $V$ で $F|_V=0$ となる。$U:=\pi^{-1}(V)$ とおくと、$(x_1;d\varphi(x_1))\in U$ なら $x_1\in V$ で、$R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}(F)_{x_1}$ は $F|_V=0$ から計算されるので $0$ である。よって $(x_0;0)\notin\mathrm{SS}(F)$ である。逆に $(x_0;0)\notin\mathrm{SS}(F)$ とし、$U$ を条件を満たす開近傍とする。$x_0$ の開近傍 $V$ で、$x_1\in V$ なら $(x_1;0)\in U$ となるものがある。$x_1\in V$ に対し恒等的に $0$ の関数 $\varphi$ をとると、$\varphi(x_1)=0$、$d\varphi(x_1)=0$ であり、$\{\varphi\ge0\}$ は全体なので $R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}(F)=F$ である。よってすべての $k$ で $H^k(F)_{x_1}=0$ であり、これが $V$ のすべての点で成り立つので $x_0\notin\operatorname{supp}F$ である。
(4) $p\notin\mathrm{SS}(F')\cup\mathrm{SS}(F'')$ とし、それぞれの条件を満たす開近傍 $U',U''$ をとって $U:=U'\cap U''$ とおく。$\varphi(x_1)=0$、$(x_1;d\varphi(x_1))\in U$ とする。$R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}$ は完全三角形を完全三角形に写し、茎をとる操作は完全なので、長完全列 $$\cdots\to H^k(R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}F')_{x_1}\to H^k(R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}F)_{x_1}\to H^k(R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}F'')_{x_1}\to\cdots$$ がある。両端は仮定により $0$ なので、真ん中も $0$ である。よって $p\notin\mathrm{SS}(F)$ である。$\square$
(1)・(3)・(4) は KS85 3.1.2(p. 53)にある。同じ箇所は (4) と並べて、$(\mathrm{SS}(F')\setminus\mathrm{SS}(F''))\cup(\mathrm{SS}(F'')\setminus\mathrm{SS}(F'))\subset\mathrm{SS}(F)$ も述べる。
マイクロ台が零切断に収まることは、局所定数性の言い換えである。まず局所定数な層について、零切断の外の点がマイクロ台に入らないことを定義から示す。
$L$ を $X$ 上の局所定数な $A$ 加群の層とする。$x_1\in X$ の近傍で定義された $C^\infty$ 関数 $\varphi$ が $\varphi(x_1)=0$、$d\varphi(x_1)\neq0$ を満たすなら、$R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}(L)_{x_1}=0$ である。
$d\varphi(x_1)\neq0$ なので、$d\varphi(x_1)$ を $T^*_{x_1}X$ の基底に延ばし、逆関数定理を使うと、$x_1$ を中心とする局所座標 $(y_1,\dots,y_n)$ で $y_1=\varphi$ となるものがとれる。$\varepsilon>0$ について $W_\varepsilon:=\{|y_i|< \varepsilon\ (1\le i\le n)\}$ とおくと、$W_\varepsilon$ は $x_1$ の近傍の基本系をなす。$L$ は局所定数なので、$\varepsilon_0$ を小さくとれば $W_{\varepsilon_0}$ の上で $L$ は定数層 $M_{W_{\varepsilon_0}}$($M$ は $A$ 加群)に同型である。以下 $\varepsilon\le\varepsilon_0$ とする。
$Z:=\{\varphi\ge0\}$ とおく。座標で見ると $W_\varepsilon$ は立方体 $(-\varepsilon,\varepsilon)^n$、$W_\varepsilon\setminus Z$ は直方体 $(-\varepsilon,0)\times(-\varepsilon,\varepsilon)^{n-1}$ であり、どちらも $\mathbb R^n$ の凸開集合なので可縮な多様体である。可縮な多様体の上の定数層のコホモロジーは特異コホモロジーと一致し(層コホモロジーの定理「de Rham の定理と特異コホモロジーとの比較」)、
$$
H^0(W_\varepsilon\setminus Z;M)=M,\qquad H^k(W_\varepsilon\setminus Z;M)=0\quad(k\ge1)
$$
である。$H^0$ は連結集合の上の局所定数関数、すなわち定数関数の群である。同様に $\Gamma(W_\varepsilon;L)=M$ であり、制限写像 $\Gamma(W_\varepsilon;L)\to\Gamma(W_\varepsilon\setminus Z;L)$ は定数関数を定数関数に写すので $M$ の恒等写像である。
$\varepsilon\to0$ の帰納極限をとると、$L_{x_1}=\varinjlim\Gamma(W_\varepsilon;L)=M$ であり、$\varinjlim H^0(W_\varepsilon\setminus Z;L)=M$、$k\ge1$ では $\varinjlim H^k(W_\varepsilon\setminus Z;L)=0$ で、比較写像は $M$ の恒等写像である。$L$ は次数 $0$ だけにある層なので、(★) の条件がすべての $k$ で成り立ち、$R\Gamma_Z(L)_{x_1}=0$ である。$\square$
$F\in D^b(X)$ とし、すべてのコホモロジー層 $H^j(F)$ が局所定数であるとする。このとき
$$
\mathrm{SS}(F)=T^*_XX\cap\pi^{-1}(\operatorname{supp}F)
$$
であり、特に $\mathrm{SS}(F)$ は零切断に含まれる。
まず $\mathrm{SS}(F)\subset T^*_XX$ を、$0$ でないコホモロジー層の個数 $m$ についての帰納法で示す。$m=0$ なら $F=0$ で $\mathrm{SS}(F)=\emptyset$ である。$m=1$ なら $F\cong L[-j]$($L=H^j(F)$ は局所定数な層)であり、prop-ms-basic の (2) により $\mathrm{SS}(F)=\mathrm{SS}(L)$ である。$p=(x_0;\xi_0)$ で $\xi_0\neq0$ とし、$U:=\{(x;\xi)\in T^*X\mid\xi\neq0\}$ とおく。$\varphi(x_1)=0$、$(x_1;d\varphi(x_1))\in U$ なら $d\varphi(x_1)\neq0$ なので、lem-ms-crossing により $R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}(L)_{x_1}=0$ である。よって $p\notin\mathrm{SS}(L)$ である。
$m\ge2$ とし、$H^j(F)\neq0$ となる最小の $j$ をとる。切り捨ての完全三角形
$$
\tau_{\le j}F\longrightarrow F\longrightarrow\tau_{>j}F\xrightarrow{+1}
$$
で、$\tau_{\le j}F\cong H^j(F)[-j]$ は $0$ でないコホモロジー層を 1 個、$\tau_{>j}F$ は $m-1$ 個もち、どちらのコホモロジー層も局所定数である。帰納法の仮定と三角不等式(prop-ms-basic の (4))から $\mathrm{SS}(F)\subset T^*_XX$ である。
最後に、零切断との共通部分は prop-ms-basic の (3) により $\operatorname{supp}F$ である。$\mathrm{SS}(F)$ が零切断に含まれるので、$\mathrm{SS}(F)=T^*_XX\cap\pi^{-1}(\operatorname{supp}F)$ である。$\square$
逆も成り立つ:$F\in D^+(X)$ について $\mathrm{SS}(F)\subset T^*_XX$ なら、すべての $H^j(F)$ は局所定数である(KS85 Proposition 4.1.2 の ii)、p. 62 を、$Y=X$ から 1 点への滑らかな写像に当てはめたもの。この記事では証明しない)。逆向きの証明では、零切断の外で「境界を越えても変わらない」ことを、凸な錐の方向に切断を押し広げる議論(同書 Proposition 3.2.2、p. 58)で大域的な定数性につなぐ。こうしてマイクロ台は、「局所定数でない度合い」を余接束の中で測る量になる。
直線 $X=\mathbb R$ の余接束を $T^*\mathbb R=\mathbb R\times\mathbb R$ と同一視し、点を $(x;\xi)$($\xi$ は $dx$ の係数)で表す。閉集合 $Z\subset X$ への包含 $i$ について、$A_Z:=i_*i^{-1}A_X$ と書く。開集合 $\Omega$ への包含 $j$ については $A_\Omega:=j_!j^{-1}A_X$(零拡張)と書く。どちらも茎は集合の点で $A$、外で $0$ である。
$A\neq0$ とする。$\mathbb R$ の上で
$$
\begin{aligned}
\mathrm{SS}(A_{[0,\infty)})&=\{(x;0)\mid x\ge0\}\cup\{(0;\xi)\mid\xi\ge0\},\\
\mathrm{SS}(A_{(0,\infty)})&=\{(x;0)\mid x\ge0\}\cup\{(0;\xi)\mid\xi\le0\}
\end{aligned}
$$
である。
$F=A_{[0,\infty)}$ とする。$(-\infty,0)$ の上では $F=0$、$(0,\infty)$ の上では $F$ は定数層なので、prop-ms-basic の (2) と thm-ms-locally-constant により、$x\neq0$ の上では $\mathrm{SS}(F)$ は $\{(x;0)\mid x>0\}$ に一致する。零切断との共通部分は $\operatorname{supp}F=[0,\infty)$ である(prop-ms-basic の (3))。残るのは $\xi_0\neq0$ の点 $(0;\xi_0)$ である。
$\varphi$ を $x_1$ の近くの関数で $\varphi(x_1)=0$、$\varphi'(x_1)=\xi\neq0$ とする。$x_1\neq0$ が $0$ に十分近ければ、$F$ は $x_1$ の近くで局所定数なので、lem-ms-crossing により茎は $0$ である。$x_1=0$ のとき、$\varphi$ は $0$ の近くで狭義単調なので、小さな $\delta>0$ について
$$
\{\varphi\ge0\}\cap(-\delta,\delta)=\begin{cases}[0,\delta)&(\xi>0)\\(-\delta,0]&(\xi< 0)\end{cases}
$$
となる。(★) により、茎 $R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}(F)_0$ が $0$ であることは、$F_0\to\varinjlim_\varepsilon R\Gamma(V_\varepsilon;F)$ が同型であることと同値である。ここで $V_\varepsilon$ は $(-\varepsilon,\varepsilon)\setminus\{\varphi\ge0\}$ である。
$x\neq0$ での様子と零切断との共通部分は $F$ と同じである($\operatorname{supp}G$ は閉包 $[0,\infty)$)。$x_1=0$ では $G_0=0$ である。$\xi>0$ なら $V_\varepsilon=(-\varepsilon,0)$ の上で $G=0$ なので、両辺とも $0$ で茎は $0$ である。$\xi< 0$ なら $V_\varepsilon=(0,\varepsilon)$ の上で $G$ は定数層 $A$ なので、右辺の $H^0$ は $A\neq0$、左辺は $0$ であり、茎は $0$ でない($H^1(R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}G)_0=A$)。あとは $F$ のときと同じ議論で 2 つ目の等式を得る。$\square$
$\mathbb R^n$ の閉半空間・開半空間についての同じ計算が KS85 3.1.3 の例 2)・4)(p. 54)にある。閉半直線では、切断が消えている側 $\{x< 0\}$ から $0$ を越えると茎が $A$ に跳ぶので、$x$ が増える余方向 $\xi>0$ がマイクロ台に入る。開半直線では、切断のある側 $\{x>0\}$ から $0$ を越えると茎が $0$ に落ちるので、逆向きの $\xi< 0$ が入る。この 2 つの層は $0$ の茎だけが違い、茎の違いがマイクロ台の向きの違いとして現れている。
$A\neq0$ とし、$Y\subset X$ を閉部分多様体、$i\colon Y\to X$ を包含、$A_Y:=i_*A_Y$ とする。このとき
$$
\mathrm{SS}(A_Y)=T^*_YX
$$
である。
段 1(台の計算を $Y$ に移す)。 $Z\subset X$ を閉集合、$G$ を $Y$ 上の層とする。$j\colon X\setminus Z\to X$、$j'\colon Y\setminus Z\to Y$、$i'\colon Y\setminus Z\to X\setminus Z$ を包含とすると、$j^{-1}i_*G=i'_*j'^{-1}G$ であり、$i_*$ と $i'_*$ は完全関手なので
$$
Rj_*j^{-1}i_*G=R(j\circ i')_*j'^{-1}G=R(i\circ j')_*j'^{-1}G=i_*Rj'_*j'^{-1}G
$$
である。単位射 $i_*G\to Rj_*j^{-1}i_*G$ は $G\to Rj'_*j'^{-1}G$ に $i_*$ を施したものなので、$x\in Y$ での茎を比べると、(★) により
$$
R\Gamma_Z(i_*G)_x=0\iff R\Gamma_{Z\cap Y}(G)_x=0
$$
である($i_*$ の $x\in Y$ での茎は $G$ の茎である)。$x\notin Y$ なら $i_*G$ は $x$ の近くで $0$ なので、茎は $0$ である。
段 2($\mathrm{SS}(A_Y)\subset T^*_YX$)。 $U:=T^*X\setminus T^*_YX$ は開集合である。$\varphi(x_1)=0$、$(x_1;d\varphi(x_1))\in U$ とする。$x_1\notin Y$ なら段 1 により茎は $0$ である。$x_1\in Y$ なら、$d\varphi(x_1)$ は $T_{x_1}Y$ の上で $0$ でないので、$Y$ の上の関数 $\varphi|_Y$ は $d(\varphi|_Y)(x_1)\neq0$ を満たす。$Y$ 上の定数層に lem-ms-crossing を使うと $R\Gamma_{\{\varphi|_Y\ge0\}}(A_Y)_{x_1}=0$ であり、$\{\varphi|_Y\ge0\}=\{\varphi\ge0\}\cap Y$ なので、段 1 により $R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}(A_Y)_{x_1}=0$ である。よって $U$ の点はマイクロ台に入らない。
段 3($T^*_YX\subset\mathrm{SS}(A_Y)$)。 $p=(x_0;\xi_0)\in T^*_YX$ とする。$x_0$ のまわりの局所座標 $(y_1,\dots,y_n)$ で、$Y=\{y_{k+1}=\dots=y_n=0\}$ となるものをとる($k=\dim Y$)。$\xi_0$ は $T_{x_0}Y$ の上で $0$ なので、$\xi_0=\sum_{i>k}c_i\,dy_i$ と書ける。$\varphi:=\sum_{i>k}c_iy_i$ とおくと、$\varphi(x_0)=0$、$d\varphi(x_0)=\xi_0$ であり、$\varphi$ は $Y$ の上で恒等的に $0$ である。よって $\{\varphi\ge0\}\cap Y$ は $x_0$ の近くで $Y$ 全体であり、$R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}\cap Y}(A_Y)=A_Y$ の $x_0$ での茎は $A\neq0$ である。段 1 により $R\Gamma_{\{\varphi\ge0\}}(A_Y)_{x_0}\neq0$ である。$p$ のどんな開近傍 $U$ もこの $\varphi$($x_1=x_0$)を許すので、$p\in\mathrm{SS}(A_Y)$ である。$\square$
$Y=X$ なら $T^*_XX$ は零切断であり、thm-ms-locally-constant の特別な場合になる。$Y$ が 1 点 $\{x_0\}$ なら $T^*_{x_0}X$ はファイバー全体であり、摩天楼層 $A_{\{x_0\}}$ はすべての余方向に「伝播しない」。段 2 の包含は、固有な順像の評価(節「関手との関係」)を閉埋め込み $i$ に当てはめたものでもある。
余法束 $T^*_YX$ は $T^*X$ の Lagrange 部分多様体の典型である(Lagrange部分多様体)。上の座標で $T^*X$ の座標を $(y;\eta)$ とすると $T^*_YX=\{y_{k+1}=\dots=y_n=0,\ \eta_1=\dots=\eta_k=0\}$ であり、次元は $n$、正準シンプレクティック形式 $\sum_id\eta_i\wedge dy_i$ の制限は $0$ である。次の節の定理は、これがマイクロ台の一般的な性質の現れであることを示す。
$T^*X$ の座標を $(x;\xi)$ とし、$T^*X$ の開集合 $U$ 上の $C^\infty$ 関数 $f$ に対して、Hamilton ベクトル場を
$$
H_f:=\sum_{i=1}^n\Bigl(\frac{\partial f}{\partial\xi_i}\frac{\partial}{\partial x_i}-\frac{\partial f}{\partial x_i}\frac{\partial}{\partial\xi_i}\Bigr)
$$
と書く(符号の規約は文献により異なるが、積分曲線の集合は変わらない)。
$F\in D^+(X)$ とする。$T^*X$ の開集合 $U$ と $U$ 上の実数値 $C^\infty$ 関数 $f$ が $U\cap\mathrm{SS}(F)\subset\{f=0\}$ を満たすなら、$U\cap\mathrm{SS}(F)$ は $H_f$ の積分曲線の和集合である。
これは KS85 Theorem 6.4.1(p. 119)であり、同書は $\mathrm{SS}(F)$ が包合的(involutive)であるという形でも述べる。証明は、層に対する接触変換(同書 第 6 章)で $\mathrm{SS}(F)$ を超平面の近くの状況に移して行う(この記事では証明しない)。点 $\{(0;0)\}\subset T^*\mathbb R$ は、$f=x$ について $H_f=-\partial/\partial\xi$ の積分曲線 $\{(0;\xi)\}$ を含まないので包合的でない。よって $\{(0;0)\}$ はどの $F$ のマイクロ台にもならない。実際、台が $\{0\}$ の摩天楼層 $A_{\{0\}}$ のマイクロ台は、thm-ms-conormal の $Y=\{0\}$ の場合としてファイバー全体 $T^*_0\mathbb R$ であり、これは包合的である($T^*_0\mathbb R$ の上で $0$ となる関数 $f$ は $\partial f/\partial\xi=0$ を満たすので、$H_f$ は $T^*_0\mathbb R$ に接する)。
実解析多様体 $X$ の上の、劣解析的な集合(劣解析的集合)からなる Whitney 層別(Whitney層別)について各コホモロジー層が局所定数となる複体を、弱 $\mathbb R$-構成可能という(KS85 Definition 8.2.5、p. 145。茎の有限性を加えたものが $\mathbb R$-構成可能、構成可能層)。$T^*X$ の円錐的な劣解析的集合 $\Lambda$ が等方的であるとは、稠密な開部分多様体の上で正準 1 形式 $\sum_i\xi_i\,dx_i$ の制限が $0$ となることをいい、等方的かつ包合的なものを Lagrange 的という(同 Definition 8.2.1、p. 144)。
$X$ を実解析多様体、$F\in D^+(X)$ とする。次は同値である。
これは KS85 Theorem 8.2.6(p. 146)と、その証明の 1.⇒3. の段である。この記事では証明しない。1.⇒3. の段は、Thom の同位定理(Thom–Matherの同位定理)で $F$ を層に横断的な切り口と層との積に分け、層の余法束の外の余方向では境界を越えても変わらないことを示し、そのうえで包合性 thm-ms-involutive を使う。Whitney 層別の余法束の和 $\bigcup_\alpha T^*_{X_\alpha}X$ が閉集合であることは、Whitney の条件 (a) の言い換えである(同 Proposition 8.1.4、p. 142)。thm-ms-conormal は、層別 $\{Y,X\setminus Y\}$ について最後の包含が $A_Y$ で等号になる場合にあたる。
複素多様体では、複素解析的な層別について構成可能であること(弱 $\mathbb C$-構成可能)は、$\mathrm{SS}(F)$ が閉円錐的な複素解析的 Lagrange 集合であることと同値である(KS85 Theorem 8.5.2、p. 151)。複素代数多様体の構成可能複体と Whitney 層別についての包含は MS21 の式 (20)(p. 26)にもある。
$\mathcal D$ 加群との関係。 複素多様体 $X$ の上の連接 $\mathcal D_X$ 加群 $\mathcal M$(D加群)について、正則解の複体 $R\mathcal{H}om_{\mathcal D_X}(\mathcal M,\mathcal O_X)$ のマイクロ台は $\mathcal M$ の特性多様体 $\operatorname{char}(\mathcal M)$ に等しい(KS85 Theorem 10.1.1、p. 174)。マイクロ台は、微分方程式の特性多様体を、方程式を忘れて解の層だけから復元したものといえる(同書の序、pp. 5–6)。
マイクロ台は、層の演算と余接束の間の対応で評価できる。$f\colon Y\to X$ を $C^\infty$ 写像とし、
$$
T^*Y\xleftarrow{\ {}^tf'\ }Y\times_XT^*X\xrightarrow{\ f_\pi\ }T^*X
$$
を微分の転置と射影とする。
$j\colon(0,\infty)\to\mathbb R$ を包含、$G=A_{(0,\infty)}$($(0,\infty)$ 上の定数層)とする。$\mathrm{SS}(G)$ は $(0,\infty)$ の上の零切断であり(thm-ms-locally-constant)、上の評価式の右辺は $\{(x;0)\mid x>0\}$ である。一方、$Rj_*G$ の $0$ での茎は $\varinjlim_\varepsilon R\Gamma((0,\varepsilon);A)=A$ であり、$x< 0$ では $0$ なので、$Rj_*G\cong A_{[0,\infty)}$ である。prop-ms-half-line により $\mathrm{SS}(Rj_*G)$ は $\{(0;\xi)\mid\xi\ge0\}$ を含み、右辺に収まらない。$j$ は $G$ の台 $(0,\infty)$ の上で固有でない($[-1,1]$ の逆像 $(0,1]$ はコンパクトでない)。
$f\colon\mathbb R\to\mathbb R$、$f(y)=y^3$、$G=A_{\mathbb R}$ とする(KS85 Proposition 4.1.1 のあとの Remark、p. 62)。$f$ は同相写像なので固有であり、$Rf_*A_{\mathbb R}=A_{\mathbb R}$、そのマイクロ台は零切断である。一方 $f'(0)=0$ なので ${}^tf'$ は $0$ の上のファイバー $T^*_0\mathbb R$ 全体を $0$ に写し、${}^tf'^{-1}(\mathrm{SS}(G))$ の像はファイバー $T^*_0\mathbb R$ 全体を含む。評価式の包含は真の包含である。
$Z:=\{0\}\cup\{1/n\mid n\ge1\}\subset\mathbb R$、$F:=A_Z$ とする($A\neq0$)。各 $1/n$ の近くでは $F$ は 1 点の摩天楼層と一致するので、prop-ms-basic の (2) と thm-ms-conormal により、$\mathrm{SS}(F)$ はファイバー $T^*_{1/n}\mathbb R$ を含む。$\mathrm{SS}(F)$ は閉集合なので、その極限であるファイバー $T^*_0\mathbb R$ も含む。一方、台の外の点は prop-ms-basic の (2) によりマイクロ台に入らないので、$\mathrm{SS}(F)=Z\times\mathbb R$ である。直線 $\{\xi=1\}$ との共通部分 $Z\times\{1\}$ は、$(0;1)$ のどの近傍でも無限個の連結成分をもつので、劣解析的集合でない(劣解析的集合の連結成分の族は局所有限である。劣解析的集合の節「演算で閉じること」)。よって $\mathrm{SS}(F)$ は劣解析的な集合でない。構成可能層の命題「反例:収束点列の上の定数層」は、$F$ が劣解析的な層別について弱構成可能でないことを示しており、thm-ms-constructible と合っている。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 局所定数であること | $A_{[0,\infty)}$(prop-ms-half-line) | $\mathrm{SS}(F)\subset T^*_XX$ |
| 順像をとる写像が台の上で固有であること | 開埋め込み $(0,\infty)\to\mathbb R$(ex-ms-open-embedding) | $\mathrm{SS}(Rf_*G)\subset f_\pi({}^tf'^{-1}(\mathrm{SS}(G)))$ |
| 写像が閉埋め込みであること(等号の条件) | $y\mapsto y^3$(ex-ms-cube) | 固有な順像の評価式の等号 |
| 閉円錐集合が包合的であること | $\{(0;0)\}\subset T^*\mathbb R$ | ある層のマイクロ台として実現されること |
| 層別が劣解析的で局所有限であること | 収束点列の定数層(ex-ms-sequence) | $\mathrm{SS}(F)$ が劣解析的な Lagrange 集合であること |
1 行目の $A_{[0,\infty)}$ は $\{[0,\infty),(-\infty,0)\}$ に分けた層別について構成可能であり、マイクロ台は層 $\{0\}$ の余法束の半分 $\{(0;\xi)\mid\xi\ge0\}$ と開いた層の零切断の和になる。構成可能層のマイクロ台は一般に余法束の和の全体ではなく、その一部の閉円錐集合である。
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