奇数の完全数(odd perfect number)とは、約数の総和 $\sigma(N)$ が $2N$ に等しい奇数 $N$ であり、存在するかどうかは未解決である。存在すれば Euler 形 $N=p^\alpha M^2$($p\equiv\alpha\equiv1\pmod 4$)をもち、そこから $N\equiv1\pmod{12}$ または $N\equiv9\pmod{36}$ という Touchard の合同条件が初等的に従い、約数比の評価から相異なる素因数が3個以上必要なことも分かる。公刊文献により $\omega(N)\geq10$、$\Omega(N)\geq101$、$N>10^{1500}$ などが知られ、相異なる素因数の個数を固定すれば候補は有限個である。これらはすべて必要条件であり、有限範囲の排除と同じく非存在の証明にはならない。
正の整数 $N$ の正の約数の総和を $\sigma(N)$ と書く。$N$ が完全数であるとは
$$
\sigma(N)=2N
$$
が成り立つことをいう。奇数の完全数は、この等式を満たす奇数 $N$ である。
奇数の正整数 $N$ が
$$
\sigma(N)=2N
$$
を満たすとき、$N$ を奇数の完全数(odd perfect number)という。
2026年9月現在、奇数の完全数は一つも知られていない。一方で、奇数の完全数が存在しないという証明も知られていない。したがって以下の結果は、すべて
奇数の完全数 $N$ が存在すると仮定すれば、$N$ はこの条件を満たす
という必要条件である。必要条件を多数並べても、それだけで非存在が証明されたことにはならない。
最も基本的な必要条件は、素因数分解に現れる奇数指数がちょうど一つであることを述べる。
$N$ が奇数の完全数ならば、奇素数 $p$、正の整数 $\alpha$、奇数 $M$ が存在して
$$
N=p^\alpha M^2,\qquad \gcd(p,M)=1,\qquad
p\equiv\alpha\equiv1\pmod4
$$
と書ける。素因数分解では
$$
N=p^\alpha q_1^{2b_1}\cdots q_s^{2b_s}
$$
となり、$p$ だけが奇数指数で現れる。$p$ を特殊素数、$p^\alpha$ をEuler因子という。
素因数分解を
$$
N=\prod_{i=1}^r p_i^{e_i}
$$
とする。$N$ は奇数なので、各 $p_i$ は奇素数である。約数総和関数の乗法性から
$$
\sigma(N)=\prod_{i=1}^r\sigma(p_i^{e_i}),
\qquad
\sigma(p_i^{e_i})=1+p_i+\cdots+p_i^{e_i}
$$
である。各 $p_i$ は奇数だから
$$
\sigma(p_i^{e_i})\equiv e_i+1\pmod2.
$$
したがって $e_i$ が奇数なら $\sigma(p_i^{e_i})$ は偶数、$e_i$ が偶数なら奇数である。
$\sigma(N)=2N$ で $N$ は奇数なので、$\sigma(N)$ は $2$ では割れるが $4$ では割れない。ゆえに奇数指数 $e_i$ はちょうど一つでなければならない。すべて偶数なら $\sigma(N)$ が奇数になり、二つ以上が奇数なら $4\mid\sigma(N)$ になるからである。その唯一の素数を $p$、指数を $\alpha$ と書けば
$$
N=p^\alpha M^2,\qquad\gcd(p,M)=1
$$
となる。
さらに $\sigma(p^\alpha)$ は $2$ で割れるが $4$ では割れない。もし $p\equiv3\pmod4$ なら、$\alpha$ は奇数なので
$$
\sigma(p^\alpha)
=(1+p)+(p^2+p^3)+\cdots+(p^{\alpha-1}+p^\alpha)
\equiv0\pmod4,
$$
となって矛盾する。よって $p\equiv1\pmod4$ である。このとき
$$
\sigma(p^\alpha)\equiv\alpha+1\pmod4.
$$
左辺は $2\pmod4$ だから $\alpha\equiv1\pmod4$ である。
奇数の完全数 $N$ が存在すれば
$$
N\equiv1\pmod4
$$
である。
Euler形で $M^2\equiv1\pmod4$ かつ $p^\alpha\equiv1\pmod4$ だから、その積 $N$ も $1\pmod4$ である。
Euler形は必要条件であって十分条件ではない。
$45=5\cdot3^2$ は
$$
p=5,\qquad\alpha=1,\qquad M=3
$$
としてEuler形を満たす。しかし
$$
\sigma(45)=\sigma(5)\sigma(3^2)=6\cdot13=78\ne90=2\cdot45.
$$
したがって「Euler形を満たせば奇数の完全数である」という逆向きの含意は偽であり、$45$ が反例になる。
正整数 $n$ に対して
$$
I(n):=\frac{\sigma(n)}{n}
$$
を約数比という。素数べきについて
$$
I(p^a)=1+\frac1p+\cdots+\frac1{p^a}
<\frac{p}{p-1}
$$
である。
奇数の完全数は、少なくとも三つの相異なる素因数をもつ。
$N$ の相異なる素因数を $p_1<\cdots< p_r$ とする。約数総和関数の乗法性から
$$
2=I(N)=\prod_{i=1}^r I(p_i^{e_i})
<\prod_{i=1}^r\frac{p_i}{p_i-1}.
$$
$N$ は奇数なので、$r\leq2$ なら右辺は、最小の二つの奇素数 $3,5$ を用いた場合でも
$$
\prod_{i=1}^r\frac{p_i}{p_i-1}
\leq\frac32\cdot\frac54
=\frac{15}{8}<2
$$
である。これは上の不等式に矛盾する。よって $r\geq3$ である。
この初等的評価は現在知られている下界よりはるかに弱い。しかし、素因数が増える必要性を約数比から直接説明する。
$N$ が完全数で $d\mid N$ かつ $d< N$ ならば
$$
\sigma(d)<2d
$$
である。
$N=\prod p_i^{e_i}$、$d=\prod p_i^{f_i}$ とし、$0\leq f_i\leq e_i$ とする。$d< N$ なので、少なくとも一つの $i$ で $f_i< e_i$ である。各素数 $p$ について
$$
I(p^f)=1+\frac1p+\cdots+\frac1{p^f}
$$
は $f$ とともに狭義単調増加する。よって
$$
I(d)=\prod_i I(p_i^{f_i})
<\prod_i I(p_i^{e_i})
=I(N)=2.
$$
両辺に $d$ を掛ければ結論を得る。
$\omega(N)$ を相異なる素因数の個数、$\Omega(N)$ を重複を込めた素因数の個数とする。すなわち
$$
N=\prod_{i=1}^r p_i^{e_i}
$$
なら
$$
\omega(N)=r,\qquad\Omega(N)=e_1+\cdots+e_r
$$
である。
奇数の完全数 $N$ が存在すると仮定すると、査読済みの公刊文献から少なくとも次が分かっている。
$10^{1500}$、$101$、$10^{62}$ という三つの下界は、因子連鎖と大規模計算を用いた OR12 の公刊結果である。これらは各論文で証明された必要条件であり、すべての量について最強の下界であると述べるものではない。探索範囲の有限性と、その範囲内の候補の排除を組み合わせる計算証明であり、計算の対象と終了条件を含む論文の議論に基づく。
奇数の完全数全体が有限か無限かは分かっていない。ただし、相異なる素因数の個数を固定すれば有限性が成り立つ。
各正整数 $r$ に対し
$$
\omega(N)\leq r
$$
を満たす奇数の完全数 $N$ は有限個しか存在しない。
この有限性はDicksonによる古典的な結果である Dic13。以下の「固定した素因数個数での有限性を確かめる」で、奇数の完全数に対する命題を証明する。
この命題は「奇数の完全数は有限個である」とは述べていない。$r$ を固定するごとに有限であっても、$r$ が無制限に増えることで全体が無限になる可能性は論理的には残る。
完全数の等式は、各素数べきの約数和から別の素因数を要求する。$q^e\mid N$ が素因数分解の一成分なら $\sigma(q^e)$ は $\sigma(N)=2N$ を割るため、その奇素因数はすべて $N$ の素因数でなければならない。例えば $3^2$ が成分なら $\sigma(3^2)=13$ なので $13\mid N$ が必要である。さらに $13^2$ が成分なら $\sigma(13^2)=183=3\cdot61$ だから $61$ が必要となる。このように新たな素因数をたどる議論が因子連鎖の原型である。
ここで「成分」という条件が大切である。$3^2\mid N$ だけでは指数が2であるとは限らず、実際の指数が4なら使う約数和は $\sigma(3^4)=121$ となる。候補の一部を割る約数から、その約数和が $2N$ を割ると無条件に推論することはできない。$\sigma$ は整除性を一般に保つ写像ではない。例えば $3\mid9$ だが $\sigma(3)=4$ は $\sigma(9)=13$ を割らない。
相異なる奇素数 $p_1,\ldots,p_r$ に対し $\prod_i p_i/(p_i-1)\le2$ なら、それらだけを素因数にもつ正整数は完全数にならない。
各有限指数 $e_i\ge0$ に対して $I(p_i^{e_i})< p_i/(p_i-1)$ である。約数比は互いに素な整数の積について乗法的なので、$N=\prod p_i^{e_i}$ に対し $I(N)<\prod p_i/(p_i-1)\le2$ を得る。従って $I(N)=2$ は成立しない。$\square$
例えば素因数集合が $\{3,7,11\}$ だけなら、上限は $\frac32\frac76\frac{11}{10}=\frac{77}{40}<2$ である。指数をどれだけ大きくしても約数比は2に届かない。一方、上限が2より大きいときは、候補が完全数になることを保証しない。上限は有限指数の約数比そのものではないし、完全数の等式は厳密な等式だからである。
奇数の完全数 $N$ は、$3\nmid N$ なら $N\equiv1\pmod{12}$、$3\mid N$ なら $N\equiv9\pmod{36}$ を満たす。
Euler形 $N=p^\alpha M^2$ を用いる。$3\nmid N$ とする。$M^2\equiv1\pmod3$ なので、もし $N\equiv2\pmod3$ なら $p\equiv2\pmod3$ である。$\alpha$ は奇数だから、$1+p+\cdots+p^\alpha$ は $3$ を法として $1,-1$ を偶数個足したものになり零である。従って $3\mid\sigma(p^\alpha)\mid2N$ となり矛盾する。よって $N\equiv1\pmod3$ であり、既に示した $N\equiv1\pmod4$ と合わせて $N\equiv1\pmod{12}$ となる。
次に $3\mid N$ とする。特殊素数 $p$ は $1\pmod4$ なので3ではない。従って3の指数は正の偶数であり $9\mid N$ となる。$9$ の倍数で $1\pmod4$ になる剰余は、$36$ を法として9だけである。よって $N\equiv9\pmod{36}$ となる。$\square$
この合同条件はTouchardの定理として知られ、Hol02 はその証明を主題としている。上の証明は、Euler形と約数総和の乗法性だけから記事内で結論を得ている。例えば $45$ は $9\pmod{36}$ でありEuler形も満たすが、完全数ではない。合同条件を追加しても必要条件が十分条件へ変わるわけではない。
上の有限性命題は、奇数の完全数については次のようにも証明できる。鍵は、奇数指数をもつ成分が一つだけで、その約数和の2進指数が1であるというEuler形の性質である。以下では任意の非零有理数 $x$ に対し、$v_2(x)$ を分子・分母に含まれる2の指数の差とする。
相異なる素因数の個数が高々 $r$ の奇数の完全数が無限にあると仮定すると、相異なる候補の列を取り、その各素因数・指数について、素因数が固定され指数が固定される、素因数が固定され指数が無限へ向かう、素因数自身が無限へ向かう、のいずれかにそろえた部分列を取れる。
有限個の可能な素因数個数のうち一つを固定して無限列を取る。各候補の素数を昇順に並べる。正整数列は、ある値が無限回現れるか、どの有限範囲にも有限回しか入らず無限へ向かう部分列をもつかのどちらかである。各位置の素数についてこの選択を有限回行い、固定された素数に対しては指数にも同じ選択を行う。さらに唯一の奇数指数の位置も有限個の候補から一つにそろえる。有限回の部分列選択なので、最後まで無限列が残る。$\square$
相異なる候補の無限列を仮定し、直前の補題による部分列を取る。各素数べきの約数比は $I(p^e)=\sum_{j=0}^e p^{-j}$ である。固定した $p,e$ の成分は一定の有理数になる。$p$ を固定して $e\to\infty$ とする成分は $p/(p-1)$ へ向かう。$p\to\infty$ となる成分は、指数の動きにかかわらず $1\le I(p^e)< p/(p-1)\to1$ である。有限個の成分の積は常に2なので、これらの極限の積も2である。
固定した有限指数が偶数なら、その約数和は奇数だから約数比の $v_2$ は0である。固定した指数が奇数なら、それは唯一のEuler因子で、その約数比の $v_2$ は1である。指数が無限へ向かう固定素数の成分は $p/(p-1)$ となり、その $v_2$ は負である。従って無限指数の成分が一つでもあれば、極限の積の $v_2$ は高々0になり、$v_2(2)=1$ に矛盾する。よって固定素数の指数はすべて固定されていなければならない。
すると、固定された素数べきの積を $d$ と書けば、極限の積の式は $I(d)=2$ になる。一方、各候補の $N$ は $d$ で割れ、候補列が相異なる無限列である以上、$d< N$ となる候補がある。真の約数は不足数である命題より $I(d)<2$ となり矛盾する。これで、固定した素因数個数に対する有限性が証明された。$\square$
この議論では候補の大きさに具体的な上限を与えていない。部分列を選ぶ方法は有限性を示すが、どこまで調べればすべての候補を網羅するかという実際の探索範囲を直接計算しない。有限性の存在証明と、明示的な上界や効率的な探索アルゴリズムは異なる成果である。また全候補で素因数個数が一様に有界であるという定理は使っていないため、奇数の完全数全体の有限性は結論できない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 完全数の等式そのもの | $45=5\cdot3^2$ | Euler形と合同条件から完全性を結論すること |
| 素因数の正確な指数を指定する | $3\mid9$ だが $4\nmid13$ | $d\mid N$ から $\sigma(d)\mid\sigma(N)$ とすること |
| 約数比の乗法性で互いに素を要求する | $I(9)=13/9$ と $I(3)^2=16/9$ | $I(ab)=I(a)I(b)$ の無条件な適用 |
下界と上界にも役割の違いがある。ある候補集合の最小元が大きいという下界は、その候補集合が空であることを示さない。一方、素因数個数を固定した有限性は、その限定された集合の各元に上限があることを述べるが、個数を固定する条件を除けばその上限も使えない。存在問題を読む際には、何を固定し、どの変数を無制限に動かすかを明示する必要がある。
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