Ostrowskiの定理

同義語:オストロフスキーの定理Ostrowski's theorem

概要

Ostrowskiの定理(Ostrowski's theorem)とは、有理数体 $\mathbb Q$ の自明でない絶対値は、通常の絶対値 $|\cdot|_\infty$ の $\alpha$ 乗($0<\alpha\le1$)か、ある素数 $p$ についての $p$ 進絶対値 $|\cdot|_p$ の $t$ 乗($t>0$)のちょうど一方に限る、という定理である。証明は、アルキメデス的な場合は整数の $n$ 進表記の評価と $k$ 乗根により、非アルキメデス的な場合は絶対値が $1$ 未満の整数のなす素イデアル $p\mathbb Z$ による。これにより $\mathbb Q$ の完備化は $\mathbb R$ と各 $\mathbb Q_p$ に限られ、素点や積公式の考え方の土台になる。有限体上の有理関数体でも、既約多項式と次数による同じ型の分類が成り立つ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: p進付値, 付値, 三角不等式, 素因数分解の一意性

有理数の「大きさ」を測る方法として、ふつうは通常の絶対値 $|x|_\infty$ を使う。一方、素数 $p$ を 1 つ決めて「$p$ で何回割り切れるか」を数えると、$p$ で多く割り切れるほど小さいとみなす $p$ 進絶対値 $|x|_p=p^{-v_p(x)}$ が得られ、これも掛け算と両立し三角不等式を満たす。では、有理数体 $\mathbb Q$ の上で、絶対値の公理を満たす測り方はほかにどれだけあるか。
Ostrowski の定理 はこの問いに完全に答える。$\mathbb Q$ の自明でない絶対値は、通常の絶対値の $\alpha$ 乗($0<\alpha\le1$)か、ある素数 $p$ についての $p$ 進絶対値の $t$ 乗($t>0$)のどちらかである。冪の違いは位相も完備化も変えないので、$\mathbb Q$ を完備化して得られる体は実数体 $\mathbb R$ と各素数の p進数体 $\mathbb Q_p$ に限られる。素数と「無限大」$\infty$ を同じ資格で並べる数論の見方(素点、積公式、局所大域原理)は、この一覧が完全であることに支えられている。
この記事では、thm-ost-main をアルキメデス的な場合と非アルキメデス的な場合の両方について証明し、どの冪が絶対値になるか(prop-ost-exponent)を決める。さらに、有理関数体 $k(t)$ での同じ型の分類(prop-ost-function-field)を述べ、完備なアルキメデス的体についての定理(thm-ost-complete-archimedean)を紹介する。

定義

体の絶対値と同値

体 $K$ の 絶対値 とは、写像 $|\cdot|\colon K\to\mathbb R_{\ge0}$ で、次の (i)(ii)(iii) を満たすものをいう。
(i) $|x|=0$ となるのは $x=0$ のときに限る。
(ii) $|xy|=|x|\,|y|$。
(iii) $|x+y|\le|x|+|y|$(三角不等式)。
さらに $|x+y|\le\max\{|x|,|y|\}$(強三角不等式)を満たすとき 非アルキメデス的 といい、そうでないとき アルキメデス的 という。$x\ne0$ ならつねに $|x|=1$ となる絶対値を 自明な絶対値 という。2 つの絶対値 $|\cdot|_1,|\cdot|_2$ は、ある実数 $t>0$ があってすべての $x\in K$ で $|x|_2=|x|_1^{\,t}$ となるとき 同値 であるという。

(ii) から $|1|=1$、$|-1|=1$、$|x^{-1}|=|x|^{-1}$($x\ne0$)が従う。整数 $n$ の像 $n\cdot1\in K$ を単に $n$ と書くと、$n\ge1$ について (iii) を繰り返し使って $|n|=|1+\dots+1|\le n$ である。
同値を「同じ位相を定めること」で定める文献もある。自明でない絶対値については、どちらの定義でも同じ関係になる(付値 の記事の定理「絶対値が同値であるための条件」)。同値な絶対値は同じ Cauchy 列と同じ $0$ に収束する列をもつので、同じ 完備化 を与える。

有理数体の標準的な絶対値

$\mathbb Q$ の 通常の絶対値 を $|x|_\infty$ と書く。素数 $p$ について、$0$ でない有理数 $x$ を $x=p^k\,a/b$($a,b$ は $p$ で割り切れない整数)と書いたときの $k$ を $v_p(x)$ とし、
$$ |x|_p=p^{-v_p(x)}\quad(x\ne0),\qquad |0|_p=0 $$
を $p$ 進絶対値 という。

$|\cdot|_p$ が非アルキメデス的な絶対値であることは、$v_p(xy)=v_p(x)+v_p(y)$ と $v_p(x+y)\ge\min\{v_p(x),v_p(y)\}$ による(p進付値 の記事の命題「有理数の付値の性質」)。$|\cdot|_\infty$ は $|1+1|_\infty=2>\max\{1,1\}$ なのでアルキメデス的である。
この記事でくり返し使う判定法を 1 つ挙げる。体 $K$ の絶対値について、次の 3 条件は同値である(付値 の記事の定理「非アルキメデス的であるための条件」、Neu99 Chapter II, (3.6))。

  1. $|\cdot|$ は非アルキメデス的である。
  2. すべての整数 $n$ について $|n|\le1$ である。
  3. $\{|n|\mid n\in\mathbb Z\}$ は有界である。
    つまり「アルキメデス的」とは、$1$ を十分多く足せばいくらでも大きくなる、というアルキメデスの性質が成り立つことである。

主定理

Ostrowski の定理

$|\cdot|$ を $\mathbb Q$ の自明でない絶対値とする。次のどちらか一方がちょうど成り立つ。

  1. $|\cdot|$ はアルキメデス的であり、ただ 1 つの実数 $0<\alpha\le1$ があって、すべての $x\in\mathbb Q$ について $|x|=|x|_\infty^{\,\alpha}$ である。
  2. $|\cdot|$ は非アルキメデス的であり、ただ 1 組の素数 $p$ と実数 $t>0$ があって、すべての $x\in\mathbb Q$ について $|x|=|x|_p^{\,t}$ である。
証明の筋

アルキメデス的か否かは定義により排他的なので、1 と 2 のどちらかが成り立つことを示せばよい。証明(prf-ost-main)は、アルキメデス的な場合は次の lem-ost-digit-bound で整数の値を比べ、非アルキメデス的な場合は絶対値が $1$ より小さい整数の集合が素イデアルになることを使う。

証明の準備:整数の $n$ 進表記による評価

$n$ 進表記による評価

$|\cdot|$ を $\mathbb Q$ の絶対値、$m,n\ge2$ を整数とする。このとき
$$ |m|\le\Bigl(1+\frac{\log m}{\log n}\Bigr)\,n\,\max\{1,|n|\}^{\log m/\log n}. $$

各桁を三角不等式で評価する

$m$ を $n$ 進法で $m=a_0+a_1n+\dots+a_rn^r$($0\le a_i\le n-1$、$a_r\ne0$)と書く。$n^r\le m$ なので $r\le\log m/\log n$ である。各桁は $|a_i|\le a_i< n$ を満たす($a_i\ge1$ なら上の注意 $|a_i|\le a_i$、$a_i=0$ なら $|a_i|=0$)。三角不等式と (ii) から
$$ |m|\le\sum_{i=0}^r|a_i|\,|n|^i<(r+1)\,n\,\max\{1,|n|\}^r \le\Bigl(1+\frac{\log m}{\log n}\Bigr)\,n\,\max\{1,|n|\}^{\log m/\log n} $$
である。最後の不等号は $r\le\log m/\log n$ と $\max\{1,|n|\}\ge1$ による。$\square$

この評価の右辺は、$m$ を $m^k$ に替えると係数 $(1+k\log m/\log n)\,n$ が $k$ について 1 次でしか増えないのに対し、冪の部分は $k$ 乗になる。そこで $k$ 乗根をとって $k\to\infty$ とすると、係数の影響が消える。これが証明の鍵である。

定理の証明

冪をとって $k$ 乗根で係数を消す

アルキメデス的な場合。 $|\cdot|$ をアルキメデス的とする。
段 1($2$ 以上の整数の値は $1$ より大きい).ある整数 $n_0\ge2$ で $|n_0|\le1$ だったとする。lem-ost-digit-bound を $n=n_0$ と $m^k$($m\ge2$、$k\ge1$)に当てはめると
$$ |m|^k=|m^k|\le\Bigl(1+k\frac{\log m}{\log n_0}\Bigr)n_0 $$
である。$k$ 乗根をとって $k\to\infty$ とすると、右辺の $k$ 乗根は $1$ に収束するので $|m|\le1$ である。$|0|=0$、$|1|=1$、$|-m|=|m|$ と合わせて、すべての整数で $|m|\le1$ となり、判定法により $|\cdot|$ は非アルキメデス的になって仮定に反する。よって $n\ge2$ ならつねに $|n|>1$ である。
段 2($\log|n|/\log n$ が一定).整数 $m,n\ge2$ をとる。段 1 から $\max\{1,|n|\}=|n|$ なので、lem-ost-digit-bound を $m^k$ と $n$ に当てはめて
$$ |m|^k\le\Bigl(1+k\frac{\log m}{\log n}\Bigr)\,n\,|n|^{k\log m/\log n} $$
を得る。$k$ 乗根をとって $k\to\infty$ とすると $|m|\le|n|^{\log m/\log n}$、すなわち
$$ \frac{\log|m|}{\log m}\le\frac{\log|n|}{\log n} $$
である。$m$ と $n$ を入れ替えると逆向きの不等式も成り立つので、両辺は等しい。この共通の値を $\alpha$ とおくと、すべての整数 $n\ge2$ で $|n|=n^{\alpha}$ である。
段 3($\alpha$ の範囲と結論).段 1 から $|2|>1$ なので $\alpha=\log|2|/\log2>0$ である。三角不等式から $|2|\le|1|+|1|=2$ なので $\alpha\le1$ である。$|1|=1=1^{\alpha}$、$|-1|=1$ なので、$0$ でない整数 $a$ について $|a|=|a|_\infty^{\,\alpha}$ であり、$0$ でない有理数 $x=a/b$ について $|x|=|a|/|b|=|x|_\infty^{\,\alpha}$ である。$x=0$ でも両辺は $0$ である。$\alpha$ は $|2|=2^{\alpha}$ から一通りに決まる。
非アルキメデス的な場合。 $|\cdot|$ を非アルキメデス的とする。
段 4(素数 $p$ の取り出し).判定法からすべての整数で $|n|\le1$ である。$I=\{n\in\mathbb Z\mid|n|<1\}$ とおく。$a,b\in I$ なら $|a+b|\le\max\{|a|,|b|\}<1$、$c\in\mathbb Z$ なら $|ca|=|c|\,|a|<1$ なので、$I$ は $\mathbb Z$ のイデアルであり、$|1|=1$ から $I\ne\mathbb Z$ である。$ab\in I$ なら $|a|\,|b|<1$ で $|a|,|b|\le1$ なので、$a,b$ の一方は $I$ に属する。よって $I$ は素イデアルである。$I=\{0\}$ なら $0$ でない整数の値はすべて $1$ で、$|a/b|=1$ から $|\cdot|$ は自明になってしまう。よって $I=p\mathbb Z$($p$ は素数)である。
段 5(値の決定).$0<|p|<1$ なので $|p|=p^{-t}$ となる実数 $t>0$ がある。$p$ で割り切れない整数は $I$ に属さないので値は $1$ である。$0$ でない $x\in\mathbb Q$ を $x=p^k\,a/b$($k=v_p(x)$、$p\nmid a$、$p\nmid b$)と書くと
$$ |x|=|p|^k\,\frac{|a|}{|b|}=p^{-kt}=|x|_p^{\,t} $$
である。
段 6(一意性).$|\cdot|_p^{\,t}=|\cdot|_q^{\,s}$ なら、$p$ での値を比べて $p^{-t}=|p|_q^{\,s}$ となる。$q\ne p$ なら右辺は $1$ で $t>0$ に反するので $q=p$ であり、$p^{-t}=p^{-s}$ から $t=s$ である。$\square$

段 1 と段 2 は Neu99 Chapter II, (3.7)(pp. 119–120)の証明と同じ筋である。同書は非アルキメデス的な場合をイデアル $I$ が極大イデアル $p\mathbb Z$ を含むことから導いており、段 4 はそれを素イデアルの形に言い換えたものである。

同値類の完全な代表系

$\mathbb Q$ の自明でない絶対値は、$|\cdot|_\infty,|\cdot|_2,|\cdot|_3,|\cdot|_5,\dots$ のちょうど 1 つと同値である。

thm-ost-main により、どれか 1 つと同値である。2 つと同値にならないことを示す。同値な絶対値の一方がアルキメデス的なら他方もそうである($|n|_2=|n|_1^{\,t}$ の有界性は $|n|_1$ の有界性と同値)。$|\cdot|_\infty$ だけがアルキメデス的なので、$|\cdot|_\infty$ はどの $|\cdot|_p$ とも同値でない。$p\ne q$ なら $|p|_p<1$ だが $|p|_q^{\,s}=1$ なので、$|\cdot|_p$ と $|\cdot|_q$ は同値でない。$\square$

冪の範囲

主定理の 1 で指数が $0<\alpha\le1$ に限られ、2 で $t>0$ が任意なのは、次の命題による。

絶対値になる冪
  1. 体 $K$ の絶対値 $|\cdot|$ と実数 $0< t\le1$ について、$|\cdot|^t$ も絶対値である。$|\cdot|$ が非アルキメデス的なら、すべての $t>0$ について $|\cdot|^t$ は非アルキメデス的な絶対値である。
  2. $\mathbb Q$ の上で、$|\cdot|_\infty^{\,t}$($t>0$)が絶対値であるのは $t\le1$ のときに限る。$|\cdot|_p^{\,t}$ はすべての $t>0$ について絶対値である。
冪関数の劣加法性

1:(i)(ii) は $|\cdot|^t$ でも明らかに成り立つ。$a,b\ge0$、$a+b>0$、$0< t\le1$ なら、$0\le a/(a+b)\le1$ より $(a/(a+b))^t\ge a/(a+b)$ であり、$b$ についても同様なので、足して $a^t+b^t\ge(a+b)^t$ を得る。よって $|x+y|^t\le(|x|+|y|)^t\le|x|^t+|y|^t$ である。非アルキメデス的なら、$s\mapsto s^t$ が単調増加なので $|x+y|^t\le\max\{|x|,|y|\}^t=\max\{|x|^t,|y|^t\}$ である。
2:$t>1$ なら $|1+1|_\infty^{\,t}=2^t>2=|1|_\infty^{\,t}+|1|_\infty^{\,t}$ で三角不等式が破れる。残りは 1 による。$\square$

したがって、主定理は「$\mathbb Q$ の自明でない絶対値は、$|\cdot|_\infty$ の冪と $|\cdot|_p$ の冪のうち絶対値になるものの全体である」と言い換えられる。

帰結:素点と完備化

cor-ost-places により、$\mathbb Q$ の絶対値の同値類(素点 という)は、素数 $p$ と記号 $\infty$ で番号付けられる。

素点代表の絶対値アルキメデス的か$\{x\in\mathbb Q:\lvert x\rvert\le1\}$完備化
$\infty$$\lvert x\rvert_\infty$アルキメデス的$[-1,1]\cap\mathbb Q$(和で閉じない)$\mathbb R$
素数 $p$$\lvert x\rvert_p=p^{-v_p(x)}$非アルキメデス的分母が $p$ で割り切れない有理数の環 $\mathbb Z_{(p)}$$\mathbb Q_p$

同値な絶対値は同じ完備化を与えるので、$\mathbb Q$ の自明でない絶対値についての完備化は $\mathbb R$ か $\mathbb Q_p$ のどれかである(p進数体 の系「$\mathbb Q$ の完備化」)。
表の代表をとると、$0$ でない有理数 $x$ について
$$ |x|_\infty\prod_p|x|_p=1 $$
が成り立つ(p進付値 の定理「積公式」)。たとえば $x=12/35$ では $|x|_\infty=12/35$、$|x|_2=1/4$、$|x|_3=1/3$、$|x|_5=5$、$|x|_7=7$ で、積は $1$ である。代表を $|\cdot|_\infty^{\,t_\infty}$、$|\cdot|_p^{\,t_p}$ に替えても積公式が成り立つのは、$x=p$ を代入して $p^{t_\infty}\cdot p^{-t_p}=1$ となることから、すべての $t_p$ が $t_\infty$ に等しいときに限る。この意味で、表の代表は全体に共通の冪を除いて積公式で決まる。

例

値 1 つから絶対値を決める
  1. $\mathbb Q$ の非アルキメデス的な絶対値で $|2|=1/8$ となるものは、thm-ost-main の 2 により $|x|=|x|_p^{\,t}$ と書け、$|p|<1$ となる素数はこの $p$ だけなので $p=2$、$2^{-t}=1/8$ から $t=3$ であり、$|x|=|x|_2^{\,3}$ である。たとえば $|12|=|4|\,|3|=1/64$、$|3/4|=64$、$|5|=1$ である。
  2. アルキメデス的な絶対値で $|3|=\sqrt3$ となるものは、$3^{\alpha}=\sqrt3$ から $\alpha=1/2$ で、$|x|=|x|_\infty^{\,1/2}$ である。たとえば $|10|=\sqrt{10}$ である。
補題の評価が $k$ 乗根で鋭くなる様子

$|\cdot|=|\cdot|_\infty^{\,1/2}$、$m=10$、$n=3$ とする。lem-ost-digit-bound を $m^k$ に当てはめた右辺の $k$ 乗根は次のようになる(小数第 4 位まで)。

$k$$1$$10$$100$$1000$$10000$
右辺の $k$ 乗根$29.3703$$4.8070$$3.3729$$3.1901$$3.1658$

$k=1$ では真の値 $|10|=\sqrt{10}=3.1623\cdots$ の 9 倍以上の粗い評価だが、$k$ を大きくすると極限 $|3|^{\log10/\log3}=\sqrt{10}$ に近づく。証明の段 2 はこの極限をとっている。

有理関数体での類似

体 $k$ 上の有理関数体 $K=k(t)$ では、素数の代わりにモニックな既約多項式 $P\in k[t]$ が、通常の絶対値の代わりに次数が現れる。$v_P$ を「$P$ で何回割り切れるか」、$v_\infty(g/h)=\deg h-\deg g$ とする(付値 の例「$p$ 進付値と有理関数の位数」)。

有理関数体の絶対値

$k$ を体、$K=k(t)$ とする。

  1. $K$ の自明でない絶対値 $|\cdot|$ が、$0$ でないすべての $a\in k$ で $|a|=1$ を満たすとする。このとき $|\cdot|$ は非アルキメデス的であり、モニックな既約多項式 $P$ と $\infty$ のうちただ 1 つの $w\in\{v_P\}\cup\{v_\infty\}$ と、実数 $0< c<1$ があって、$0$ でないすべての $x\in K$ について $|x|=c^{\,w(x)}$ である。
  2. $k$ が有限体なら、$K$ のすべての絶対値は $k$ の $0$ でない元で $1$ をとる。したがって 1 は $K$ の自明でない絶対値をすべて与え、$K$ にアルキメデス的な絶対値はない。
付値の分類に帰着する

要点:$k$ の上で $1$ なら整数の値も $0$ か $1$ なので非アルキメデス的になり、$-\log|\cdot|$ は $k$ 上自明な付値になる。あとは付値の分類による。

詳しい証明を開く

1:整数 $n$ の像 $n\cdot1$ は $k$ に属するので $|n|\in\{0,1\}$ であり、判定法により $|\cdot|$ は非アルキメデス的である。付値 の命題「付値と絶対値の対応」の 2 により、$v(x)=-\log|x|$ は実数値の付値で、$|\cdot|$ が自明でないので $v$ も自明でなく、$0$ でない $a\in k$ で $v(a)=0$ である。付値 の定理「有理関数体の付値の分類」により、$v$ は $v_P$($P$ はモニックな既約多項式)と $v_\infty$ のうちちょうど 1 つ $w$ と同値である。$w$ の値群は $\mathbb Z$ なので、同値を与える順序を保つ同型 $\varphi\colon\mathbb Z\to v(K^\times)$ は $\varphi(n)=n\gamma$($\gamma=\varphi(1)>0$)の形であり、$v=\gamma w$ となる。$c=e^{-\gamma}$ とおけば $0< c<1$、$|x|=e^{-v(x)}=c^{\,w(x)}$ である。$c$ は $w(x)=1$ となる $x$ での値として一通りに決まる。

2:$|\cdot|$ を $k$ に制限したものは有限体の絶対値なので、付値 の系「正標数の体と有限体」の 2 により自明である。よって 1 が当てはまる。$\square$

$\mathbb Q$ と $\mathbb F_q(t)$($q$ 元体上の有理関数体)を並べると次のようになる。$\mathbb F_q(t)$ では各素点の代表を、剰余体の元の個数を底にとって正規化する。

$\mathbb Q$$\mathbb F_q(t)$
整数にあたる環$\mathbb Z$$\mathbb F_q[t]$
有限の素点素数 $p$、$\lvert x\rvert_p=p^{-v_p(x)}$モニックな既約多項式 $P$、$\lvert x\rvert_P=q^{-\deg P\cdot v_P(x)}$
無限の素点$\lvert x\rvert_\infty$(アルキメデス的)$\lvert x\rvert_\infty=q^{-v_\infty(x)}$(非アルキメデス的)
積公式$\lvert x\rvert_\infty\prod_p\lvert x\rvert_p=1$$\lvert x\rvert_\infty\prod_P\lvert x\rvert_P=1$

右の列の積公式は、$\sum_P\deg P\cdot v_P(x)+v_\infty(x)=0$(付値 の注意「有理関数体の積公式」)を $q$ の冪に直したものである。左の列との大きな違いは、$\mathbb F_q(t)$ では無限の素点も非アルキメデス的であることで、これは prop-ost-function-field の 2 による。$\mathbb Q$ と $\mathbb F_q(t)$ はともに 大域体 の基本例である。

完備なアルキメデス的体

thm-ost-main は $\mathbb Q$ の上の分類だが、アルキメデス的な絶対値をもつ完備な体そのものについても、同じ名前で呼ばれる次の定理がある。

完備なアルキメデス的体

体 $K$ がアルキメデス的な絶対値 $|\cdot|$ について完備なら、$K$ から $\mathbb R$ または $\mathbb C$ への体の同型写像 $\sigma$ と実数 $0< s\le1$ があって、すべての $a\in K$ について $|a|=|\sigma(a)|_\infty^{\,s}$ となる。

この定理はこの記事では証明しない(Neu99 Chapter II, (4.2) Theorem、pp. 124–125 に証明がある)。証明は、thm-ost-main により $|\cdot|$ の $\mathbb Q$ への制限を $|\cdot|_\infty$ の冪とみて、$\mathbb Q$ の閉包として $\mathbb R$ を $K$ の中に見つけ、そのうえで $K$ の各元が $\mathbb R$ 係数の 2 次方程式を満たすことを示す、という筋である。代数体などの拡大体の絶対値を調べるとき、アルキメデス的な場合はこの定理により $\mathbb R$ と $\mathbb C$ の場合に帰着する(同書 (4.8) の証明の冒頭)。

仮定を外したときの反例

thm-ost-main の仮定を 1 つずつ外すと、次のように結論が成り立たなくなる。

外す条件反例成り立たなくなること
自明でない$\mathbb Q$ の自明な絶対値1・2 のどちらも成り立たない。1 の形なら $\lvert2\rvert=2^{\alpha}>1$、2 の形なら $\lvert p\rvert<1$ となるが、自明な絶対値は $0$ でない元で $1$ である
三角不等式 (iii)$\varphi(x)=\lvert x\rvert_2\lvert x\rvert_3$(i)(ii) は満たすが 1・2 のどちらの形でもない。$\varphi(2)=1/2$、$\varphi(3)=1/3$ と 2 つの素数で $1$ より小さい(1 の形では $2$ 以上の整数の値は $1$ より大きく、2 の形では $1$ より小さい素数は 1 つだけ)。実際 $\varphi(5)=1>\varphi(2)+\varphi(3)$ である
(iii) を $\lvert x+y\rvert\le4\max\{\lvert x\rvert,\lvert y\rvert\}$ に替える$\lvert x\rvert_\infty^{\,2}$1 の指数の範囲 $\alpha\le1$ が成り立たない($\alpha=2$)。$(\lvert x\rvert+\lvert y\rvert)^2\le(2\max\{\lvert x\rvert,\lvert y\rvert\})^2$ なので替えた条件は満たす
体が $\mathbb Q$$\mathbb Q(\sqrt2)$ の $\lvert a+b\sqrt2\rvert_\infty$ と $\lvert a-b\sqrt2\rvert_\infty$($a,b\in\mathbb Q$)同値でない 2 つのアルキメデス的絶対値がある。$x=1+\sqrt2$ で前者は $2.414\cdots>1$、後者は $0.414\cdots<1$ だが、同値な絶対値の冪は $1$ との大小を変えない

4 行目の 2 つの写像は、体の埋め込み $a+b\sqrt2\mapsto a\pm b\sqrt2$($\mathbb Q(\sqrt2)\to\mathbb R$)と通常の絶対値の合成なので、(i)(ii)(iii) を満たす。

補足

文献での定義の違い

Neu99 Chapter II, §3 は絶対値を valuation と呼び((3.1)、p. 116)、自明なものを最初から除いている。同値を同じ位相を定めることで定義し((3.2)、p. 116)、冪の関係との同値を (3.3)(p. 117)で示す。非アルキメデス的であることを $\{|n|\}$ の有界性で定義し((3.5)、p. 118)、強三角不等式との同値を (3.6)(p. 118)で示している。$\mathbb Q$ の分類は (3.7) Proposition(pp. 119–120)で、「$\mathbb Q$ のすべての絶対値は $|\cdot|_p$ か $|\cdot|_\infty$ と同値である」という形で述べられている。この記事の thm-ost-main は、指数の範囲まで含めて同じ内容を述べたものである。

関連項目

参考文献

[1]
Jürgen Neukirch (translated by Norbert Schappacher), Algebraic Number Theory, Springer, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften 322, 1999, Chapter II, §3((3.1) 定義 p. 116、(3.2) 同値の定義 p. 116、(3.3) 冪による判定 p. 117、(3.5) (3.6) 非アルキメデス性 p. 118、(3.7) Proposition(Ostrowski の定理)pp. 119–120)、§4((4.2) Theorem(完備なアルキメデス的体)pp. 124–125、(4.8) Theorem p. 131)

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