巨大因子(big divisor)とは、射影多様体 $X$ の上の因子 $D$ で、倍数 $mD$ の大域切断の個数が無限に多くの $m$ で $m^{\dim X}$ の定数倍以上になるものである。小平の補題により、$D$ の倍数が豊富な因子と有効な因子の和に線形同値であることと同値で、巨大性は数値的同値類だけで決まる。ネフな因子では体積は $D^{\dim X}$ に等しく、巨大性は $D^{\dim X}>0$ と同値である。巨大性は双有理射の引き戻しで保たれ、川又–Viehweg の消滅定理や極小モデル理論の基本の仮定になる。
前提知識: Cartier因子, 豊富な可逆層, ネフ因子, 交叉数, Hilbert多項式
射影多様体 $X$ の上の因子 $D$ が巨大(big)であるとは、倍数 $mD$ の大域切断の個数が、とりうる最大の速さ $m^{\dim X}$ の程度で増えることをいう。豊富な因子は巨大だが、巨大な因子は曲線と負に交わることもあり、豊富性よりずっと弱い。この弱さのおかげで、巨大性は双有理射による引き戻しで保たれ、双有理幾何学の基本の言葉になっている。
巨大性は切断の個数で定義されるが、「豊富な因子と有効な因子の和」という幾何の形に書き直せる。この書き直し(小平の補題)が理論の中心である。この記事では次のことを示す。
| 問い | 答え |
|---|---|
| 同値な言い換えは | 小平の補題の形、豊富+有効、すべての大きな $m$ での増え方、線形系の像の次元(thm-big-equiv) |
| 数値的な性質か | 巨大性は数値的同値類だけで決まる(cor-big-numerical) |
| ネフな因子では | 巨大性は $D^n>0$ と同値で、体積は $D^n$ に等しい(thm-big-nef) |
| 類の錐としては | 巨大な類の全体は、有効な類が張る錐の閉包の内部である(thm-big-cone) |
この記事を通して $k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の $n$ 次元の射影多様体(整な射影スキーム、$n\ge1$)とする。$h^0(\mathcal{F}):=\dim_kH^0(X,\mathcal{F})$ と書き、Cartier 因子 $D$ について $\lvert D\rvert$ で $\mathcal{O}_X(D)$ の $0$ でない切断の零因子の全体を表す。$D$ と線形同値な有効因子の全体である。$X$ は整なので、$0$ でない切断の積は $0$ でない。とくに $E$ が有効な Cartier 因子なら、$E$ を定める切断をかけることで $h^0(D)\le h^0(D+E)$ である。これを以下で繰り返し使う。
$D$ を $X$ の Cartier 因子とする。
$$
\operatorname{vol}(D):=\limsup_{m\to\infty}\frac{h^0(X,\mathcal{O}_X(mD))}{m^n/n!}
$$
を $D$ の 体積(volume)という。$\operatorname{vol}(D)>0$ のとき、すなわち、ある定数 $c>0$ と無限に多くの正の整数 $m$ について $h^0(X,\mathcal{O}_X(mD))\ge cm^n$ となるとき、$D$ は 巨大(big)であるという。可逆層 $\mathcal{O}_X(D)$ も巨大という。$\mathbb{Q}$ 因子 $D$ は、ある正の整数 $r$ について $rD$ が Cartier 因子で巨大なとき、巨大という。
この定義は 川又–Viehwegの消滅定理 の定義と同じである。文献には「十分大きく割り切れるすべての $m$ について $h^0\ge cm^n$」とする定義もある(Voj11 Definition 9.11, p. 146)。thm-big-equiv の 4 により、どちらも同じ条件である。$\mathbb{Q}$ 因子の定義が $r$ の取り方によらないことは cor-big-numerical で確かめる。
$m^n$ が増え方の上限であることは、次の補題からわかる。
$Y$ を $k$ 上の射影スキーム、$\mathcal{F}$ を台の次元が $e$ 以下の $Y$ の上の連接層、$\mathcal{L}$ を $Y$ の可逆層とする。ある定数 $C$ があって、すべての $m\ge1$ で $h^0(Y,\mathcal{F}\otimes\mathcal{L}^{\otimes m})\le Cm^{e}$ である。
$\mathcal{L}$ に非常に豊富な有効因子を足して非常に豊富にし、Hilbert多項式で評価する。
$B$ を十分豊富にとると、$B$ も $\mathcal{L}(B)$ も非常に豊富である。$k$ は無限体で $\lvert B\rvert$ は基点をもたないので、$\mathcal{F}$ の随伴点を通らない $B_0\in\lvert B\rvert$ がとれる。$B_0$ の切断をかける写像は $\mathcal{F}$ の上で単射なので、$\mathcal{F}\otimes\mathcal{L}^{\otimes m}\hookrightarrow\mathcal{F}\otimes\mathcal{L}(B)^{\otimes m}$ である。$\mathcal{L}(B)$ による埋め込みについて、$m\gg0$ で右辺の $h^0$ は $\mathcal{F}$ の Hilbert 多項式の値に等しく(Serre の消滅定理)、その次数は $\mathcal{F}$ の台の次元である。有限個の小さな $m$ は $C$ を大きくして吸収する。$\square$
とくに $\operatorname{vol}(D)< \infty$ である。$k$ が非可算のとき、巨大な $D$ については、体積の定義の上極限は実は極限である。これは Okounkov 体を使って証明される(LM08 Theorem A の前後, pp. 2–3、Theorem 2.3, p. 18。この記事では証明しない)。この記事の証明では上極限のまま扱う。
$D$ を $X$ の Cartier 因子とする。次は同値である。
1 から 2 が要の段で、$h^0(mD)$ が $m^n$ の程度なのに、超平面切断の上の切断は $m^{n-1}$ の程度しかないことを使う。あとは順に 2 ⇒ 3 ⇒ 4 ⇒ 1 と 3 ⇒ 5 ⇒ 1 を示す。
1 ⇒ 2. 非常に豊富な $H$ を $B:=G+H$ も非常に豊富になるようにとり、有効因子 $Y\in\lvert B\rvert$ をとる。完全列 $0\to\mathcal{O}_X(mD-B)\to\mathcal{O}_X(mD)\to\mathcal{O}_Y(mD)\to0$ から $h^0(mD-B)\ge h^0(mD)-h^0(Y,\mathcal{O}_Y(mD))$ である。$\dim Y=n-1$ なので lem-big-growth により右辺の第 2 項は $Cm^{n-1}$ 以下で、無限に多くの $m$ で第 1 項は $cm^n$ 以上である。よってある $m$ で $H^0(mD-B)\ne0$ であり、$mD-G=(mD-B)+H$ で $H$ は有効なので $H^0(mD-G)\ne0$ である。
2 ⇒ 3. $G=A$ を豊富な因子にとり、$0$ でない切断の零因子を $E$ とする。
3 ⇒ 4. 全体を倍数に取り替えて、$A$ は非常に豊富としてよい。$mD\sim A+E$ の $m$ を $m_1$ と書く。$t\ge1$ を、$0\le j< m_1$ のすべてで $tA+jD$ が大域切断で生成されるようにとる(Serre の定理)。$m=qm_1+j$($0\le j< m_1$、$q\ge t$)とすると$$mD\sim(q-t)A+(tA+jD)+qE$$で、第 2 項と第 3 項は有効因子と線形同値なので $h^0(mD)\ge h^0((q-t)A)$ である。右辺は $q\gg0$ で $A$ の Hilbert 多項式の値で、その次数は $n$、最高次の係数は $A^n/n!>0$ である。$q\ge m/m_1-1$ なので 4 が従う。
4 ⇒ 1. 定義から明らかである。
3 ⇒ 5. 倍数に取り替えて $A$ は非常に豊富としてよい。$s_E$ を $E$ の切断とし、$V:=s_E\cdot H^0(X,\mathcal{O}_X(A))\subset H^0(X,\mathcal{O}_X(mD))$ とおく。$V$ の定める有理写像は $A$ による埋め込みの $X\setminus E$ への制限である。これは $\lvert mD\rvert$ の定める有理写像に線形射影を合成したものなので、後者の像の次元も $n$ である。
5 ⇒ 1. $s_0,\dots,s_N$ を $H^0(X,\mathcal{O}_X(mD))$ の基底、$Y\subset\mathbb{P}^N$ を像の閉包、$S=k[x_0,\dots,x_N]/I_Y$ を $Y$ の斉次座標環とする。斉次多項式 $f$ について、$f(s_0,\dots,s_N)$ が切断として $0$ であることは $f$ が $Y$ の上で消えることと同値である。よって $S_\ell\to H^0(X,\mathcal{O}_X(\ell mD))$ は単射である。$\dim S_\ell$ は $\ell\gg0$ で $Y$ の Hilbert 多項式の値で、その次数は $n$ である。したがって $h^0(\ell mD)\ge c\,\ell^n$ である。$\square$
2 で $G$ を豊富な因子に限ったものと 3 の同値は、小平の補題として Voj11 Proposition 9.12(p. 146)にある。3 は「巨大 = 豊富 + 有効」と標語的に覚えられる。この形から、切断の個数によらない次の性質がすぐに出る。
$D$ を $X$ の巨大な Cartier 因子とする。
$mD\sim A+E$ と書く(thm-big-equiv の 3)。1:$mD'\sim(A+m(D'-D))+E$ で、豊富な因子に数値的に $0$ な因子を足しても豊富である(Kleimanの判定法(豊富性))。2:$m(D+N)\sim(A+mN)+E$ で、ネフ因子 の定理「ネフ因子と豊富な因子」により $A+mN$ は豊富である。$E'$ を足す場合は、$A+(E+mE')$ の形である。3:$D_0$ が巨大で $mD_0\sim A+E$ なら $m(tD_0)\sim tA+tE$ である。逆に $tD_0$ が巨大で $m(tD_0)\sim A+E$ なら、$(mt)D_0\sim A+E$ である。$\square$
$f\colon Y\to X$ を射影多様体の間の全射で $\dim Y=\dim X$ とし、$D$ を $X$ の Cartier 因子とする。
1:$f$ は支配的なので、$f^*$ は切断の空間の上で単射である。次元が同じなので、$h^0(mf^*D)\ge h^0(mD)$ からそのまま従う。2:$X$ が正規なら $f_*\mathcal{O}_Y=\mathcal{O}_X$ であり(Zariski の主定理)、射影公式から $f_*\mathcal{O}_Y(mf^*D)=\mathcal{O}_X(mD)$ である。$\square$
これが、巨大性が双有理幾何学で使いやすい理由である。豊富な因子の引き戻しは豊富でなくなるが(川又–Viehwegの消滅定理 の例「爆発による豊富な因子の引き戻し」)、巨大性は失われない。
$D$ を $X$ の巨大な Cartier 因子、$k\ge1$ を整数とすると、$\operatorname{vol}(kD)=k^n\operatorname{vol}(D)$ である。
倍数 $mk$ の列に制限すれば $\operatorname{vol}(D)\ge\operatorname{vol}(kD)/k^n$ である。逆向きを示す。$kD$ は巨大なので(cor-big-numerical の 3)、thm-big-equiv の 2 と 4 により、ある $t\ge1$ があって、$0\le j< k$ のすべてで $H^0(X,\mathcal{O}_X(tkD-jD))\ne0$ である。$m=qk+j$($0\le j< k$)について $(q+t)kD-mD=tkD-jD$ なので $h^0(mD)\le h^0((q+t)kD)$ である。$m^n\sim(qk)^n\sim((q+t)k)^n$ なので、上極限をとって $\operatorname{vol}(D)\le\operatorname{vol}(kD)/k^n$ である。$\square$
ネフな因子では、巨大性は交点数だけで判定できる。鍵は、2 つの非常に豊富な因子の差の切断の個数を、交点数で下から抑える次の不等式である。
$H_1,H_2$ を $X$ の非常に豊富な因子とする。$m\to\infty$ で
$$
h^0\bigl(X,\mathcal{O}_X(m(H_1-H_2))\bigr)\ge\bigl(H_1^{\,n}-n\,H_1^{\,n-1}\cdot H_2\bigr)\frac{m^n}{n!}+O(m^{n-1})
$$
である。
$E\in\lvert H_2\rvert$ を 1 つ固定し、$mH_1$ から $E$ を 1 回ずつ引く。1 回引くごとに失う切断は、$E$ の上の切断で抑えられる。
$0\le j< m$ について完全列 $0\to\mathcal{O}_X(mH_1-(j+1)E)\to\mathcal{O}_X(mH_1-jE)\to\mathcal{O}_E(mH_1-jH_2)\to0$ があるので、足し合わせて$$h^0(m(H_1-H_2))\ge h^0(mH_1)-\sum_{j=0}^{m-1}h^0\bigl(E,\mathcal{O}_E(mH_1-jH_2)\bigr)$$である。$E$ の随伴点を通らない $E'\in\lvert H_2\rvert$ をとると、$E'$ の切断をかける写像は $\mathcal{O}_E$ の上の可逆層の間で単射なので、$h^0(E,\mathcal{O}_E(mH_1-jH_2))\le h^0(E,\mathcal{O}_E(mH_1))$ である。$H_1$ による埋め込みの Hilbert 多項式から、$m\gg0$ で$$h^0(mH_1)=H_1^{\,n}\frac{m^n}{n!}+O(m^{n-1}),\qquad h^0(E,\mathcal{O}_E(mH_1))=(H_1^{\,n-1}\cdot H_2)\frac{m^{n-1}}{(n-1)!}+O(m^{n-2})$$である。第 2 式を $m$ 倍して差をとればよい。$\square$
$D$ を $X$ のネフな Cartier 因子とする。このとき $\operatorname{vol}(D)=D^n$ である。とくに、$D$ が巨大であることと $D^n>0$ は同値である。
$A$ を非常に豊富な因子とする。ネフ因子 の定理「ネフ因子と豊富な因子」により、$k\ge1$ について $kD+A$ は豊富である。下からは $kD=(kD+A)-A$ に prop-big-difference を使い、上からは $A$ を足して豊富な因子と比べる。
豊富な因子. $B$ が豊富なら $\operatorname{vol}(B)=B^n$ である。実際 $tB$ が非常に豊富なら Hilbert 多項式から $\operatorname{vol}(tB)=t^nB^n$ で、$B$ は巨大なので prop-big-homogeneous から $\operatorname{vol}(tB)=t^n\operatorname{vol}(B)$ である。
下からの評価. $k\ge1$ を固定し、$H_1:=t(kD+A)$、$H_2:=tA$ がともに非常に豊富になる $t\ge1$ をとる。$\Phi(k):=(kD+A)^n-n(kD+A)^{n-1}\cdot A$ とおくと、prop-big-difference から $h^0(mtkD)\ge t^n\Phi(k)\,m^n/n!+O(m^{n-1})$ である。上極限を倍数 $mtk$ の列に制限して $\operatorname{vol}(D)\ge\Phi(k)/k^n$ を得る。$\Phi(k)$ は $k$ の多項式で、$k^n$ の係数は $D^n$ なので、$k\to\infty$ として $\operatorname{vol}(D)\ge D^n$ である。
上からの評価. $D$ が巨大でないときは $\operatorname{vol}(D)=0$ で、下の評価と $D^n\ge0$(Kleimanの判定法(豊富性) の定理「nef な可逆層の交叉数(Kleiman の定理)」)から $D^n=0$ である。$D$ が巨大なら、$A$ は有効なので $h^0(mkD)\le h^0(m(kD+A))$ であり、prop-big-homogeneous から $k^n\operatorname{vol}(D)=\operatorname{vol}(kD)\le\operatorname{vol}(kD+A)=(kD+A)^n$ である。$k$ で割って $k\to\infty$ とすると $\operatorname{vol}(D)\le D^n$ である。$\square$
とくに $n=2$ なら、ネフな因子が巨大であることと $D^2>0$ は同値である。川又–Viehwegの消滅定理 が文献を引いて述べている「曲面の上のネフかつ巨大な因子は $D^2>0$ をみたす」は、この定理の特別な場合である。
ネフでない因子では体積は交点数と一致しない(ex-big-blowup)。複素数体上の滑らかな射影曲面の上の巨大な因子 $D$ は、ネフな $P$ と、$P$ と交わらない負定値の有効な部分 $N$ の和 $D=P+N$ に書け(Zariski 分解)、$\operatorname{vol}(D)=P^2$ である(BKS04 Proposition 3.1, Corollary 3.2, §3。この記事では証明しない)。同じ文献は、曲面の体積関数が巨大な類の錐の上で局所的に多項式であること(Corollary 3.3)と、3 次元以上では局所的に多項式でない例があること(§3.3)も示している。$k$ が非可算のとき、体積は巨大な類の錐の上の連続関数である(LM08 Theorem B の後, p. 4。この記事では証明しない)。
数値的同値 の記号で、$N^1(X)_{\mathbb{R}}$ を数値的同値類の有限次元実ベクトル空間とする。cor-big-numerical の 1 により、Cartier 因子の類について巨大であることが意味をもつ。巨大な Cartier 因子の類の正の実数係数の有限和の全体を $\operatorname{Big}(X)$、有効な Cartier 因子の類の $0$ 以上の実数係数の有限和の全体を $\operatorname{Eff}(X)$ とし、その閉包を $\overline{\operatorname{Eff}}(X)$ と書く。
$\operatorname{Big}(X)$ は $\overline{\operatorname{Eff}}(X)$ の内部に等しい。Cartier 因子 $D$ が巨大であることと $[D]\in\operatorname{Big}(X)$ は同値である。
豊富な類の全体は $N^1(X)_{\mathbb{R}}$ の開集合である(ネフ因子 の節「補足」)。これと「内部の点から豊富な類を少し引いても $\operatorname{Eff}(X)$ に残る」ことを合わせる。
$\subset$. 巨大な $D$ について $m[D]=[A]+[E]$ である。$[A]$ は豊富な類の開集合の点で、豊富な類は $\operatorname{Eff}(X)$ に含まれるので、$[A]$ は内部の点である。閉凸錐の内部の点と錐の点の和は内部の点なので、$[D]$ は内部の点で、その正の和も内部の点である。
$\supset$. 有限次元の凸集合とその閉包は内部が一致するので、$\alpha$ が内部の点なら、豊富な Cartier 因子 $A$ と小さな $\varepsilon>0$ について $x:=\alpha-\varepsilon[A]$ は $\operatorname{Eff}(X)$ の内部の点である。$x$ のまわりの小さな単体の頂点を $\operatorname{Eff}(X)$ の中にとれば、有効な Cartier 因子 $E_1,\dots,E_s$ と $c_i>0$ で $x=\sum_ic_i[E_i]$ と書け、$[E_i]$ は全空間を張る。$\sum_i\varepsilon_i=\varepsilon$($\varepsilon_i>0$)と分けると $\alpha=\sum_i(\varepsilon_i[A]+c_i[E_i])$ である。有理数 $0< q< c_i/\varepsilon_i< q'$ をとると、$[A]+(c_i/\varepsilon_i)[E_i]$ は $[A]+q[E_i]$ と $[A]+q'[E_i]$ の凸結合で、この 2 つは巨大な $\mathbb{Q}$ 因子の類である(分母を払うと豊富+有効)。よって $\alpha\in\operatorname{Big}(X)$ である。
第 2 の主張. $[D]$ が内部の点なら、$\varepsilon$ を有理数にとる。上の $x$ は有理点で、$[E_i]$ は全空間を張るので、$x=\sum_ic_i[E_i]$ の解 $(c_i)$ の全体は有理数係数の連立 1 次方程式の解の空間であり、すべて正の解の近くに有理数の解がある。分母を払うと、$N[D]=[N\varepsilon A+\sum_iNc_iE_i]$ の右辺は豊富+有効で巨大である。cor-big-numerical の 1 と 3 により $D$ は巨大である。$\square$
$X$ を $\mathbb{P}^2$ の点 $P$ の爆発、$h$ を直線の引き戻し、$E$ を例外曲線とする。$D=ah-bE$($a>0$)について、$H^0(X,\mathcal{O}_X(mD))$ は次数 $ma$ の斉次多項式のうち $P$ で $mb$ 次以上消えるものの空間である($b\le0$ なら条件はない)。$P=(0:0:1)$ の座標で単項式を数えると、次の表になる。
| 範囲 | $h^0(mD)$ | $\operatorname{vol}(D)$ | $D^2$ | ネフか |
|---|---|---|---|---|
| $b\le0$ | $\binom{ma+2}{2}$ | $a^2$ | $a^2-b^2$ | $b<0$ ならネフでない |
| $0\le b\le a$ | $\binom{ma+2}{2}-\binom{mb+1}{2}$ | $a^2-b^2$ | $a^2-b^2$ | ネフ |
| $b>a$ | $0$ | $0$ | $a^2-b^2$ | ネフでない |
よって、$a>0$ のもとで $D$ が巨大であることは $a>b$ と同値である。$a\le0$ の $D$ は巨大でない($h^0(mD)\le1$)。$D=a(h-E)+(a-b)E$ と書くと、$\operatorname{Big}(X)$ は $h-E$ の類と $E$ の類が張る錐の内部である。ネフな範囲(ネフ因子 の例「射影平面の 1 点の爆発」)では体積は $D^2$ で、thm-big-nef のとおりである。$b<0$ では $D=ah+(-b)E$ が Zariski 分解で、$P=ah$ の自己交点数 $a^2$ が体積である。たとえば $h+E$ は $D^2=0$ で巨大であり、$h+2E$ は $D^2=-3<0$ でも巨大である。体積は $\operatorname{Big}(X)$ の上で連続だが、$b=0$ を境に別の多項式になる。$h$ はネフで巨大だが豊富でない。$h-E$ は $b=a$ の場合で、ネフだが巨大でない。実際 $h^0(m(h-E))=m+1$ は $m$ の 1 次である。$E$ は有効だが、$h^0(mE)=1$ なので巨大でない($a=0$ の場合)。
$X_r$ を $\mathbb{P}^2$ の $r$ 点の爆発、$H$ を直線の引き戻し、$E_1,\dots,E_r$ を例外曲線とし、$D_t:=H-t\sum_iE_i$($t$ は正の有理数)とおく。$D_t^2=1-rt^2$ である。次数と重複度の条件を数えると、$rt^2<1$ なら $D_t$ は巨大である(永田予想 の命題「次元の数え上げ」)。$r$ 点が十分一般の位置にあるとき $rt^2>1$ で $D_t$ が有効になり得ないこと、すなわち巨大な類の境界が $t=1/\sqrt r$ にあることが、平方数でない $r\ge10$ で永田予想の言い換えである(永田予想 の定理「言い換え」)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-big-nef のネフ性(判定を $D^n>0$ だけにする) | $\mathbb{P}^2$ の上の $D=-\ell$($\ell$ は直線) | $D$ が巨大であること |
| thm-big-nef の等式のネフ性 | ex-big-blowup の $h+E$ | $\operatorname{vol}(D)=D^n$ |
| thm-big-equiv の 3 の $A$ の豊富性(ネフに弱める) | ex-big-blowup の $h-E=(h-E)+0$ | $D$ が巨大であること |
| prop-big-pullback の $\dim Y=\dim X$ | 射影 $\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1\to\mathbb{P}^1$ と $\mathcal{O}(1)$ | $f^*D$ が巨大であること |
| cor-big-numerical の 2 の $N$ のネフ性 | $\mathbb{P}^2$ の $D=\ell$、$N=-\ell$ | $D+N$ が巨大であること |
1 行目:$D^2=1>0$ だが $h^0(mD)=0$ である。2 行目:$h+E$ は $E$ との交点数が $-1$ でネフでなく、$\operatorname{vol}=1$、$D^2=0$ である。3 行目:$h-E$ はネフで、$0$ は有効な因子だが、ex-big-blowup により巨大でない。4 行目:$f$ は全射で $\mathcal{O}(1)$ は $\mathbb{P}^1$ の上で巨大だが、$f^*\mathcal{O}(1)=\mathcal{O}(1,0)$ は ex-big-basic の 3 により巨大でない。5 行目:$D$ は巨大で、$N$ はネフでなく、$D+N=0$ の $h^0(0)=1$ は増えない。
巨大性は消滅定理と極小モデル理論の基本の仮定である。川又–Viehwegの消滅定理 は小平の消滅定理の豊富性を「ネフかつ巨大」に弱める。基点自由定理 の命題「ネフかつ巨大な差」は thm-big-equiv の 3 を使って豊富な場合に帰着する。
Fujita の近似定理は、$k$ が非可算のとき、巨大な因子の体積が、双有理な射影多様体の上のネフかつ巨大な因子の体積で、いくらでもよく近似できることを述べる(LM08 Theorem 3.3, p. 23, Remark 3.4, p. 24。この記事では証明しない)。
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