包含写像

同義語:inclusion map包含射

概要

包含写像(inclusion map)とは、部分集合 $A\subseteq X$ の元を動かさずに大きい集合 $X$ へ送る写像 $i:A\to X$ である。常に単射で、全射となるのは $A=X$ の場合に限る。恒等写像とは終域が異なることに注意する。部分空間位相を与えた場合は位相的埋め込みとなり、部分ベクトル空間や部分群では構造を保つ。集合の圏では単射射の具体例だが、任意の圏の単射射を包含写像と呼ぶわけではない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 集合, 写像, 恒等写像

包含写像とは

集合 $A$ が集合 $X$ の部分集合であるとき、$A$ の元を同じ元として $X$ に入れる写像を包含写像(inclusion map)という。$A\subseteq X$ と書けば、通常は
$$ i:A\longrightarrow X,\qquad i(a)=a $$
である。記号 $A\hookrightarrow X$ は、単射であることを強調しながらこの写像を表す。包含写像は元を動かさないため単純に見える。しかし定義域と終域を明示すると、部分集合を大きな集合の中で扱う議論、写像の制限、位相空間の部分空間、部分ベクトル空間などを一つの形で記述できる。
例えば $A=\{1,3\}$ と $X=\{1,2,3\}$ なら、包含写像は $1\mapsto1$、$3\mapsto3$ とする $A$ から $X$ への写像である。$X$ の元 $2$ は像に入らない。$A$ 上の恒等写像も $1$ と $3$ を動かさないが、その終域は $A$ である。値の計算式が同じでも、定義域・終域の指定が違えば別の写像として扱う。この区別は合成や全射性を考えるとすぐに現れる(Hara20 第1章・第3章)。
この記事ではまず集合の間の包含写像を定義し、その後で位相や代数的構造を与えた場合に何が追加されるかを扱う。「包含射」という語は文脈によって構造を保つ包含写像を指す。一方、抽象的な圏における任意の単射射を、集合の包含写像そのものと同一視することはできない。

定義と最初の性質

包含写像

$A\subseteq X$ とする。$A$ から $X$ への包含写像は
$$ i_{A,X}:A\to X,\qquad a\mapsto a $$
で定める写像である。文脈から $A$ と $X$ が明らかなときは $i$ と略す。$A=X$ の場合、$i_{X,X}=\operatorname{id}_X$ である。

定義中の $A\subseteq X$ は等号を許している。等号を許さない $A\subsetneq X$ なら「真部分集合の包含」と呼べる。空集合 $\emptyset\subseteq X$ の包含写像も存在し、空集合を定義域とする唯一の写像 $\emptyset\to X$ である。値を調べる元がなくても、定義域と終域によってこの写像は指定される。

包含写像の単射性と全射性

$A\subseteq X$ の包含写像 $i:A\to X$ は単射で、その像は $i(A)=A$ である。また $i$ が全射であることと $A=X$ は同値である。

単射性と全射性

$a,b\in A$ が $i(a)=i(b)$ を満たすとする。定義から $i(a)=a$、$i(b)=b$ だから $a=b$ であり、$i$ は単射である。像は $\{i(a)\mid a\in A\}=\{a\mid a\in A\}=A$ である。終域は $X$ なので、全射である条件は像 $A$ が $X$ 全体と等しいこと、すなわち $A=X$ である。

この命題では像を $X$ の部分集合として読んでいる。「包含写像は全射でない」と一律に言うのは正しくない。$A=X$ なら全射でもあり、恒等写像でもある。逆に $A\subsetneq X$ なら $X\setminus A$ の任意の元は像に入らない。$A=\emptyset$、$X=\emptyset$ の場合も写像は恒等写像で全単射、$A=\emptyset$、$X\ne\emptyset$ の場合は単射だが全射ではない。

有限集合での包含

$A=\{1,3\}$、$X=\{1,2,3\}$ とすると $i(A)=\{1,3\}$ である。部分集合 $B=\{2,3\}$ に対して $i^{-1}(B)=\{3\}$。$B$ 自体を $A$ の部分集合と取り違えると、逆像の意味を誤る。終域の集合 $B$ のうち、$A$ から到達できる元だけが逆像に残る。

包含写像は任意の単射と密接に関係する。$f:S\to X$ が単射なら、$f$ の値域 $f(S)\subseteq X$ に終域を取り直した $\widetilde f:S\to f(S)$ は全単射である。$f(S)$ の包含写像を $i:f(S)\hookrightarrow X$ とすると $f=i\circ\widetilde f$ となる。この分解は「単射は、定義域をその像と同一視すれば包含写像として見られる」という言い方の正確な内容である。ただし $S$ と $f(S)$ がもともと同じ集合とは限らず、$f$ そのものが文字どおり $s\mapsto s$ とは限らない。

単射の像を通る分解

単射 $f:S\to X$ に対し、$\widetilde f:S\to f(S)$ を $\widetilde f(s)=f(s)$ とし、$i:f(S)\hookrightarrow X$ を包含写像とする。このとき $\widetilde f$ は全単射で、$f=i\circ\widetilde f$ である。

単射の分解

$\widetilde f$ は $f$ と同じ値を持つので単射であり、終域を $f(S)$ としたので全射でもある。任意の $s\in S$ について $(i\circ\widetilde f)(s)=i(f(s))=f(s)$。両辺は $S$ から $X$ への写像で値が一致するから等しい。$S=\emptyset$ のときも $f(S)=\emptyset$ であり、空集合上の全単射と包含写像を用いた同じ等式が成り立つ。

恒等写像・制限写像との関係

包含写像 $i_{A,X}:A\to X$ と恒等写像 $\operatorname{id}_A:A\to A$ は、いずれも各 $a\in A$ を $a$ に送る。だが $A\ne X$ なら終域が違う。例えば $\operatorname{id}_A$ は常に全射だが、真部分集合の包含写像は全射でない。写像を値の対応だけで書いてしまうと、この違いが消えて見える。特に別の写像と合成するときは、値が次の写像の定義域に入るかを終域から確認する必要がある。

恒等写像の制限

$A\subseteq X$ とする。$\operatorname{id}_X:X\to X$ の定義域を $A$ に制限した写像は、包含写像 $i_{A,X}:A\to X$ に等しい。一方、同じ値の対応で終域も $A$ に指定すると $\operatorname{id}_A:A\to A$ になる。

恒等写像の制限

制限写像 $\operatorname{id}_X|_A$ の定義域は $A$、終域は $X$ であり、各 $a\in A$ で $\operatorname{id}_X|_A(a)=a=i_{A,X}(a)$ である。したがって二つの写像は等しい。終域を $A$ に変更した写像も各 $a$ を $a$ に送るので、定義により $\operatorname{id}_A$ である。

$A\subseteq B\subseteq X$ と三つの集合が入れ子になっていれば、包含写像を二段階で合成できる。$i_{A,B}:A\to B$ と $i_{B,X}:B\to X$ の合成は $i_{A,X}:A\to X$ である。$a$ をまず $B$ に入れ、それから $X$ に入れても、直接 $X$ に入れても、値は同じ $a$ になる。この等式は、包含関係の推移性を写像の合成で表したものといえる。

包含写像の合成

$A\subseteq B\subseteq X$ なら
$$ i_{B,X}\circ i_{A,B}=i_{A,X} $$
である。

包含写像の合成

左辺と右辺はともに $A$ から $X$ への写像である。任意の $a\in A$ に対して $(i_{B,X}\circ i_{A,B})(a)=i_{B,X}(a)=a=i_{A,X}(a)$。したがって写像として等しい。$A$ が空集合でも、同じ定義域・終域の空写像は一つしかないので等式は成り立つ。

像と逆像の計算

包含写像を通した集合の像と逆像は、集合演算の式に直せる。$C\subseteq A$ の像 $i(C)$ は $X$ の部分集合としても同じ集合 $C$ である。$D\subseteq X$ の逆像は $i^{-1}(D)=A\cap D$ となる。この式は、$D$ のうち部分集合 $A$ に入っている部分だけを取り出すことを意味する。値を一つずつ追うかわりに共通部分で計算できるので、開集合・閉集合の制限や可測集合の制限にも現れる。

包含写像の逆像

$i:A\hookrightarrow X$ に対し、$D\subseteq X$ なら $i^{-1}(D)=A\cap D$ である。また $C\subseteq A$ なら $i(C)=C$ である。

逆像公式

$a\in i^{-1}(D)$ である条件は、$a\in A$ かつ $i(a)\in D$ である。$i(a)=a$ なので、これは $a\in A\cap D$ と同値である。像については $i(C)=\{i(c)\mid c\in C\}=\{c\mid c\in C\}=C$ である。どちらの式も $A$ が空集合のときに成り立つ。

逆像は $X$ のすべての部分集合を $A$ の部分集合へ送る。一方、像は $A$ の部分集合を $X$ の部分集合へ送る。$D\subseteq X$ について $i(i^{-1}(D))=A\cap D$ で、一般には $D$ に戻らない。$D$ がすでに $A$ に含まれるときだけ $D$ に戻る。この片側性は、包含写像が真部分集合について全射でないことを別の形で示している。

逆像が元の集合と異なる場合

$A=(0,1)\subseteq\mathbb R$、$D=[0,2]$ とすると、$i^{-1}(D)=(0,1)$ である。$0$ や $1$ が $D$ に含まれていても、$A$ の点ではないので逆像には入らない。$D=(-1,1/2)$ なら $i^{-1}(D)=(0,1/2)$ である。この切り取りが部分空間位相の開集合の形になる。

部分空間位相と包含写像

位相空間 $X$ の部分集合 $A$ に部分空間位相を入れる。$X$ の開集合 $U$ と $A$ の共通部分 $A\cap U$ を $A$ の開集合とする位相である。このとき包含写像 $i:A\to X$ は連続である。実際、$X$ の任意の開集合 $U$ の逆像が $i^{-1}(U)=A\cap U$ となり、部分空間位相では開だからである。逆に、$A$ 上のある位相について包含写像が連続であるためには、すべての $A\cap U$ が開でなければならない。したがって部分空間位相は包含写像を連続にする最も粗い位相である(EoMSubspace)。

部分空間としての包含

位相空間 $(X,\tau)$ と部分集合 $A\subseteq X$ に対し、$A$ の部分空間位相を
$$ \tau_A=\{A\cap U\mid U\in\tau\} $$
とする。この位相を持つ $A$ から $X$ への包含写像 $i:(A,\tau_A)\to(X,\tau)$ を、部分空間の包含という。

部分空間の包含は位相的埋め込み

部分空間位相を入れた $A\subseteq X$ の包含写像 $i:A\to X$ は連続な単射であり、$A$ と像 $i(A)$ の間の同相写像である。

位相的埋め込み

集合としての単射性はすでに示した。任意の $X$ の開集合 $U$ について $i^{-1}(U)=A\cap U$ は $A$ で開なので $i$ は連続である。像 $i(A)=A$ に $X$ から誘導される部分空間位相を入れると、$i:A\to i(A)$ は各点を同じ点へ送る全単射となる。像と元の $A$ に入れた位相は同じ $\tau_A$ だから、この全単射の逆も連続である。したがって $i$ は位相的埋め込みである。

「連続な単射」と「位相的埋め込み」は一般には同じではない。たとえば集合 $A=\{0,1\}$ に離散位相を与え、同じ集合 $X=\{0,1\}$ には密着位相 $\{\emptyset,X\}$ を与える。点ごとの包含 $i:A\to X$ は全単射かつ連続である。しかし逆写像は $A$ の開集合 $\{0\}$ の逆像が $X$ で開でないため連続でない。両者の underlying set が等しくても、$A$ の位相が $X$ からの部分空間位相ではない。この例は、位相空間で「部分空間の包含」というために位相の指定が必要なことを示す。

実数の部分空間

$A=[0,1)\subseteq\mathbb R$ に通常の部分空間位相を入れると、$[0,1/2)$ は $A$ で開である。これは $A\cap(-1,1/2)$ と書ける。一方、$[0,1/2)$ は $\mathbb R$ の開集合ではない。包含写像 $A\to\mathbb R$ が連続であることは「$A$ の開集合がすべて $\mathbb R$ で開」という意味ではなく、「$\mathbb R$ の開集合の逆像が $A$ で開」という意味である。

部分空間の包含が $X$ への開写像になるとは限らない。上の $A=[0,1)$ から $\mathbb R$ への包含では、$A$ 自身は $A$ で開だが、その像 $[0,1)$ は $\mathbb R$ で開でない。同様に閉写像とも限らない。$A=(0,1)$ の場合、$A$ 自身は $A$ で閉だが、像 $(0,1)$ は $\mathbb R$ で閉でない。連続性・埋め込み性と、周囲の空間への開写像性・閉写像性は区別する。

開集合・閉集合と包含写像

部分空間 $A\subseteq X$ の包含写像 $i:A\to X$ が開写像であることと、$A$ が $X$ で開であることは同値である。また $i$ が閉写像であることと、$A$ が $X$ で閉であることは同値である。

開写像・閉写像の特徴づけ

$i$ が開写像なら、$A$ は自分自身で開なので、その像 $i(A)=A$ は $X$ で開である。逆に $A$ が $X$ で開なら、$A$ の任意の開集合は $A\cap U$ と書ける。二つの $X$ の開集合の共通部分なので $X$ でも開であり、$i$ は開写像である。閉写像についても、$A$ は自分自身で閉なので必要性が従う。$A$ が $X$ で閉で、$F$ が $A$ で閉なら $F=A\cap C$ と書ける。ただし $C$ は $X$ で閉である。ゆえに $F$ は $X$ で閉となり、十分性が従う。

代数的構造を保つ包含

$W$ がベクトル空間 $V$ の部分ベクトル空間なら、集合としての包含 $j:W\to V$ は線形写像でもある。$u,v\in W$ とスカラー $c$ に対し、$j(u+v)=u+v=j(u)+j(v)$、$j(cu)=cu=cj(u)$ だからである。$W$ の線形結合は $V$ でも同じ演算で計算される。包含写像は線形単射で、像は $W$ である。$W\ne V$ なら線形同型 $W\to V$ ではないが、自分の像への線形同型である。

多項式空間の包含

実係数で次数が高々 $2$ の多項式全体 $P_2(\mathbb R)$ は、多項式全体 $\mathbb R[x]$ の部分ベクトル空間である。包含 $P_2(\mathbb R)\hookrightarrow\mathbb R[x]$ は $a+bx+cx^2$ を同じ多項式へ送る。$P_2(\mathbb R)$ の基底 $1,x,x^2$ の像は $\mathbb R[x]$ で線形独立だが、$\mathbb R[x]$ の全体を張らない。このため包含は線形単射で全射ではない。

同様に、$H$ が群 $G$ の部分群なら $H\hookrightarrow G$ は群準同型である。二つの元の積を先に $H$ で計算してから $G$ に入れても、先に $G$ に入れてから積をとっても結果は同じである。環の部分環の包含も、採用している単位元の規約のもとで演算と単位元を保てば環準同型になる。どの構造を保つ射かを指定しないまま「包含射」とだけ言うと、集合の写像なのか、位相空間や代数系の射なのかが曖昧になる。

部分ベクトル空間の包含

$W\subseteq V$ が同じ体上の部分ベクトル空間なら、包含 $j:W\to V$ は線形単射である。任意のベクトル空間 $U$ と線形写像 $f:U\to W$ に対し、$j\circ f:U\to V$ も線形である。

線形性と合成

$u,v\in W$ とスカラー $a,b$ について、$j(au+bv)=au+bv=aj(u)+bj(v)$ なので $j$ は線形である。元を変えない写像だから $j(u)=j(v)$ は $u=v$ を意味し、単射である。$x,y\in U$ とスカラー $a,b$ について $(j\circ f)(ax+by)=j(af(x)+bf(y))=a(j\circ f)(x)+b(j\circ f)(y)$ であり、合成も線形となる。

ノルム空間の部分空間 $W\subseteq V$ に $V$ のノルムの制限を入れれば、包含は等長写像である。任意の $u,v\in W$ に対し、$W$ で測る距離は $\|u-v\|_V$ であり、$V$ に入れて測る距離と一致する。ただし「同じ集合が入っている」だけで距離・位相が継承されていない場合、この結論を使ってはいけない。部分空間という語にどの構造の継承を含めるかが前提である。

単射射との関係

集合と写像の圏では、包含写像は単射なので単射射(monomorphism)である。圏の単射射は「左からの合成で区別できる」という性質で定義される。射 $m:A\to X$ が単射射であるとは、どの対象 $T$ と二つの射 $f,g:T\to A$ に対しても $m\circ f=m\circ g$ なら $f=g$ となることをいう。集合の圏では、この条件は通常の単射性と同値である(Stacks003A)。

集合の圏での単射射

集合と写像の圏で、写像 $m:A\to X$ が単射射であることと、集合の写像として単射であることは同値である。したがって包含写像は単射射である。

集合の圏での同値性

$m$ が単射なら、$m\circ f=m\circ g$ のとき任意の $t\in T$ で $m(f(t))=m(g(t))$ となり、単射性から $f(t)=g(t)$。よって $f=g$ である。逆に $m$ が単射でないなら、異なる $a,b\in A$ が $m(a)=m(b)$ を満たす。一点集合 $T=\{*\}$ から $A$ への写像 $f(*)=a$、$g(*)=b$ をとると $f\ne g$ なのに $m\circ f=m\circ g$ となり、単射射の条件に反する。

この命題は、任意の圏の単射射が文字どおり部分集合の包含である、という主張ではない。単射射の定義には対象の元も部分集合関係も出てこない。例えば集合の圏でも $n\mapsto n+1$ という $\mathbb N\to\mathbb N$ の単射は単射射だが、元を動かすのでこの二つの集合の間の包含写像ではない。ただし像 $\mathbb N\setminus\{0\}$ への全単射と、その像の包含に分解できる。別の圏では「部分対象」にあたるものを単射射の同型類で表すことがあるが、その解釈には圏を指定する必要がある。
包含写像そのものについても、集合として単射であることだけで、任意の構造付き圏で期待する「部分対象の標準的な包含」になるとは限らない。位相空間なら部分空間位相の確認が必要であるし、環や加群なら演算を保つ射であることの確認が必要である。抽象的な合成による条件と、具体的な元や構造による説明を行き来するとき、どの圏で議論しているかを明示する。

使い分けと境界例

「$A\subseteq X$ を $X$ の中で考える」と言うとき、包含写像はしばしば記号に現れない。例えば $A$ 上の写像 $f:A\to Y$ と $X$ 上の写像 $g:X\to Z$ を続けて使うには、$g\circ i:A\to Z$ と書けばよい。$g|_A=g\circ i$ は制限写像の基本式である。$g$ を $A$ の元に適用するとき、実際にはこの包含を通して $X$ の元として扱っている。

制限写像の合成表示

$A\subseteq X$、$g:X\to Z$ とし、$i:A\hookrightarrow X$ を包含写像とする。このとき $g|_A=g\circ i$ である。

制限の合成表示

両辺は $A$ から $Z$ への写像である。任意の $a\in A$ で $(g\circ i)(a)=g(i(a))=g(a)=g|_A(a)$ なので等しい。

最後に、包含記号を使う際の境界を整理する。$A\subseteq X$ は集合についての条件であり、そこから定まる包含写像は常に一つである。$A$ と $X$ が抽象的に同型なだけなら、特定の包含写像は定まらない。単射 $f:A\to X$ が与えられた場合も、その像への全単射を通して包含の形に直せるが、元を動かす $f$ と標準的な $a\mapsto a$ は同じ写像ではない。位相空間や代数系の議論では、集合の包含だけでなく継承した構造を明記して初めて、連続な包含・線形な包含などの性質を判断できる。

逆像によって移る包含

別の集合から $X$ への写像 $f:Y\to X$ と、部分集合 $A\subseteq X$ を考える。$Y$ の中で $A$ に送られる点を集めた集合 $f^{-1}(A)\subseteq Y$ には、やはり包含写像 $j:f^{-1}(A)\hookrightarrow Y$ がある。$f$ をこの小さい集合に制限すると、その値はすべて $A$ に入るので、終域を $A$ とした写像 $f_A:f^{-1}(A)\to A$ を作れる。すると $i:A\hookrightarrow X$ に対し
$$ f\circ j=i\circ f_A $$
が成り立つ。左辺は $Y$ へ入れてから $X$ に送る経路、右辺は先に $A$ へ送ってから $X$ に入れる経路を表す。どちらも各 $y\in f^{-1}(A)$ を $f(y)$ へ送る。この図式は、包含を写像 $f$ に沿って引き戻したとき、逆像の包含が現れることを示す。

逆像の包含が満たす性質

$f:Y\to X$、$A\subseteq X$ とする。$j:f^{-1}(A)\hookrightarrow Y$ と $f_A:f^{-1}(A)\to A$ を上のように定める。集合 $T$ からの写像 $h:T\to Y$、$k:T\to A$ が $f\circ h=i\circ k$ を満たすなら、$j\circ u=h$、$f_A\circ u=k$ を満たす写像 $u:T\to f^{-1}(A)$ がただ一つ存在する。

逆像の包含の性質

各 $t\in T$ に対し $f(h(t))=i(k(t))=k(t)\in A$ である。したがって $h(t)\in f^{-1}(A)$ なので、$u(t)=h(t)$ として $u:T\to f^{-1}(A)$ を定められる。定義から $j(u(t))=h(t)$、$f_A(u(t))=f(h(t))=k(t)$ であり、求める二つの等式が成立する。別の $u'$ も $j\circ u'=h$ を満たせば、包含 $j$ が単射なので各 $t$ で $u'(t)=u(t)$ である。ゆえに一意である。$T$ が空でも同じ議論は成立する。

例えば $f:\mathbb R\to\mathbb R$ を $f(x)=x^2$ とし、$A=[1,\infty)$ とすると、$f^{-1}(A)=(-\infty,-1]\cup[1,\infty)$ である。この集合から $\mathbb R$ への包含は、$[1,\infty)$ の包含を $f$ に沿って戻したものに当たる。単に集合を切り取る操作だけでなく、写像が与えられたときに「条件を満たす入力だけ」を取り出す操作として包含写像が使われる。位相空間で同じ図式を扱うなら、逆像に $Y$ の部分空間位相を与えれば両方の包含と制限写像は連続になる。

条件を外したときの反例

包含写像についての命題は、どれも「$A=X$」「部分空間位相」「$A$ が開(閉)」「演算の継承」などの条件付きである。条件を外すと結論が崩れる例をまとめる。

外す条件反例成り立たなくなること
$A=X$$\{1,3\}\hookrightarrow\{1,2,3\}$包含写像は全射
$A$ に部分空間位相を入れる離散位相の $\{0,1\}$ から密着位相の $\{0,1\}$ への $x\mapsto x$連続な単射の包含は位相的埋め込み
$A$ が $X$ で開$[0,1)\hookrightarrow\mathbb R$包含写像は開写像
$A$ が $X$ で閉$(0,1)\hookrightarrow\mathbb R$包含写像は閉写像
演算を $X$ から継承する群 $\mathbb Z/2\mathbb Z$ を集合 $\{0,1\}$ と見た $\{0,1\}\hookrightarrow\mathbb Z$部分集合の包含は群準同型
部分集合の包含である$\mathbb N\to\mathbb N$、$n\mapsto n+1$単射射は包含写像
表の反例の確かめ

最初の四行は本文で確かめた。要点だけ繰り返す。$2$ は $\{1,3\}$ の像に入らない。離散位相から密着位相への $x\mapsto x$ は連続な全単射だが、$\{0\}$ が密着位相で開でないので逆が連続でなく、埋め込みではない。$[0,1)$ は自分自身で開だが像 $[0,1)$ は $\mathbb R$ で開でない。$(0,1)$ は自分自身で閉だが像 $(0,1)$ は $\mathbb R$ で閉でない。
演算を継承しない部分集合。 集合 $\{0,1\}$ に $1+1=0$ となる演算($\mathbb Z/2\mathbb Z$ の加法)を入れる。集合としては $\{0,1\}\subseteq\mathbb Z$ で、包含写像 $i$ がある。しかし $i(1+1)=i(0)=0$、$i(1)+i(1)=2$ で、$i$ は加法を保たない。部分群の包含が準同型になるのは、部分群の演算が $G$ の演算の制限だからであり、集合の包含だけからは従わない。
包含でない単射射。 $n\mapsto n+1$ は単射なので集合の圏の単射射だが、$0\mapsto1$ と元を動かすので、$\mathbb N$ の部分集合 $\mathbb N$ の包含(恒等写像)とは異なる。

参照箇所

  • Hara20 第1章 §1.2、第3章 §3.1–3.3:包含関係、写像、合成と単射の基礎。第7章 §7.1、第8章 §8.1–8.2:位相空間と圏の言葉。
  • EoMSubspace:部分空間位相と包含写像の連続性。
  • Stacks003A Definition 4.13.1、Example 4.13.2:単射射の定義と、集合の圏における単射との対応。

関連項目

参考文献

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