漸近展開

同義語:漸近級数asymptotic expansionasymptotic series

概要

漸近展開(asymptotic expansion)とは、$x\to x_0$ で次々に小さくなる関数の列 $\varphi_n$ を使って関数を $f\sim\sum a_n\varphi_n$ と表し、どの項で打ち切っても誤差が最後の項より速く小さくなるようにした形式的な級数のことである。級数は収束しなくてよく、打ち切り方を選べば数値計算にもよい近似を与える。係数は関数から一意に決まるが、関数は展開から決まらず、和・積・積分とは両立するが微分とは一般に両立しない。Laplace 型の積分の展開を与える Watson の補題が基本の道具で、Stirling の公式、対数積分、誤差関数、調和数の近似式がこの形をしている。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Landau記号, 級数, 広義積分, Γ関数

関数 $F(x)=\int_0^\infty\frac{e^{-xt}}{1+t}\,dt$ を $x$ が大きいところで調べるために、$\frac1{1+t}=1-t+t^2-\cdots$ を形式的に代入して項ごとに積分すると、級数
$$ \frac1x-\frac{1!}{x^2}+\frac{2!}{x^3}-\frac{3!}{x^4}+\cdots $$
が出てくる。項の大きさ $k!/x^{k+1}$ は $k\to\infty$ で発散するので、この級数はどの $x$ でも収束しない。それでも、$x=10$ で最初の 10 項ほどを足すと、$F(10)=0.0915633\ldots$ が誤差 $2\times10^{-5}$ 程度で再現される。収束しない級数が、打ち切り方を選べば非常によい近似を与えるのである。
このような「収束はしないが、どこで打ち切っても誤差が次の項の程度に収まる」級数を 漸近展開 という。Stirling の公式の高次の補正、対数積分 $\operatorname{li}(x)$ の展開、調和数 $H_n$ の展開、誤差関数の大きな $x$ での振る舞いなど、解析学と数論の多くの近似式は漸近展開の形をしている。この記事では漸近展開を Landau 記号で定義し、係数が一意に決まることと、和・積・積分との関係を証明したうえで、Laplace 型の積分の漸近展開を与える Watson の補題を証明する。

定義

以下、$D\subset\mathbb{R}$(または $\mathbb{C}$)とし、$x_0$ を $D$ の集積点とする($x_0=+\infty$ も許す)。$o$, $O$ は $x\to x_0$($x\in D$)での Landau記号 である。

漸近列

$x_0$ のある穴あき近傍で定義され、そこで $0$ にならない関数の列 $(\varphi_n)_{n\geq0}$ が、すべての $n$ について $\varphi_{n+1}=o(\varphi_n)$($x\to x_0$)を満たすとき、漸近列(asymptotic sequence)という。

典型例は、$x_0=+\infty$ での $\varphi_n(x)=x^{-n}$ や $x^{-n-\lambda}$($\lambda$ は定数)、$x_0=0$ での $\varphi_n(x)=x^n$、$x_0=+\infty$ での $\varphi_n(x)=(\log x)^{-n}$ である。

漸近展開

$(\varphi_n)$ を $x_0$ での漸近列とし、$f$ を $x_0$ の穴あき近傍で定義された関数とする。数の列 $(a_n)_{n\geq0}$ が、すべての $N\geq0$ について
$$ f(x)-\sum_{n=0}^{N}a_n\varphi_n(x)=o\bigl(\varphi_N(x)\bigr)\qquad(x\to x_0) $$
を満たすとき、形式的な級数 $\sum_{n\geq0}a_n\varphi_n$ を $f$ の($(\varphi_n)$ に関する)漸近展開(asymptotic expansion)といい、
$$ f(x)\sim\sum_{n=0}^{\infty}a_n\varphi_n(x)\qquad(x\to x_0) $$
と書く。$x_0=+\infty$ で $\varphi_n=x^{-n}$ のとき、$\sum a_nx^{-n}$ を $f$ の漸近冪級数(asymptotic power series)という。

この定義は Poincaré によるもので、DLMF2 §2.1(iii) の式 2.1.13–2.1.14(冪の場合)と §2.1(v)(一般の漸近列)にある。冪の場合には、「すべての $N$ で $o(x^{-N})$」は「すべての $N$ で $O(x^{-N-1})$」と同値である($O(x^{-N-1})$ なら $o(x^{-N})$ であり、逆に $N+1$ での条件 $f-\sum_{n\leq N+1}a_nx^{-n}=o(x^{-N-1})$ から $f-\sum_{n\leq N}a_nx^{-n}=a_{N+1}x^{-N-1}+o(x^{-N-1})=O(x^{-N-1})$ が出る)。
記号 $\sim$ は、Landau記号 の記事では比が $1$ に収束すること(漸近同値)に使われている。漸近展開の $\sim$ はそれとは別の意味で、右辺は数ではなく形式的な級数である。$a_0\neq0$ なら、$f\sim\sum a_n\varphi_n$ から $f(x)/(a_0\varphi_0(x))\to1$ が従う。

直感

漸近展開で問われるのは、級数の和ではなく、各段階で打ち切ったときの誤差の大きさである。収束する級数では、$x$ を固定して項数 $N$ を増やすと誤差が $0$ に近づく。漸近展開では逆に、項数 $N$ を固定して $x\to x_0$ とすると誤差が最後の項より速く小さくなる。この 2 つは独立な性質であり、収束しない級数でも漸近展開になりうるし、収束する級数でも元の関数に収束するとは限らない。
収束しない漸近展開を数値計算に使うときは、項の絶対値がいちばん小さくなるところで打ち切る。最初の例では $k!/x^{k+1}$ が $k\approx x$ で最小になり、$x=10$ でそこまで足すと、誤差は $2\times10^{-5}$ 程度で、$e^{-10}=4.5\times10^{-5}$ と同じ桁になる(次の ex-asymptotic-stieltjes の表)。

基本的な性質

係数の一意性

$(\varphi_n)$ を $x_0$ での漸近列とする。$f\sim\sum a_n\varphi_n$ かつ $f\sim\sum b_n\varphi_n$ ならば、すべての $n$ で $a_n=b_n$ である。係数は
$$ a_N=\lim_{x\to x_0}\frac{f(x)-\sum_{n=0}^{N-1}a_n\varphi_n(x)}{\varphi_N(x)} $$
によって順に決まる。

係数の式:$f-\sum_{n=0}^{N}a_n\varphi_n=o(\varphi_N)$ を $\varphi_N$($x_0$ の近くで $0$ でない)で割ると、$\frac{f-\sum_{n< N}a_n\varphi_n}{\varphi_N}-a_N\to0$ である。
一意性:$a_n\neq b_n$ となる最小の $m$ をとる。2 つの展開の $N=m$ での条件を引き算すると、$n< m$ の項は打ち消し合い
$$ (b_m-a_m)\varphi_m=\Bigl(f-\sum_{n\leq m}a_n\varphi_n\Bigr)-\Bigl(f-\sum_{n\leq m}b_n\varphi_n\Bigr)=o(\varphi_m) $$
となる。両辺を $\varphi_m$ で割って $x\to x_0$ とすると $b_m-a_m=0$ となり、矛盾する。$\square$

一方、関数は漸近展開から決まらない。$x\to+\infty$ で $e^{-x}=o(x^{-N})$ がすべての $N$ で成り立つので $e^{-x}\sim0$ であり、$f$ と $f+e^{-x}$ は同じ漸近冪級数をもつ。同じことは $x\to0$ での $e^{-1/x^2}$ にも言える(Taylorの定理 の命題「何回でも微分できて導関数がすべて0になる関数」)。漸近冪級数は、指数関数的に小さい量を見分けられない。

漸近冪級数の演算

$x\to+\infty$ で $f\sim\sum_{n\geq0}a_nx^{-n}$、$g\sim\sum_{n\geq0}b_nx^{-n}$ とする。

  1. 定数 $\alpha,\beta$ について $\alpha f+\beta g\sim\sum(\alpha a_n+\beta b_n)x^{-n}$ である。
  2. $fg\sim\sum_{n\geq0}c_nx^{-n}$、$c_n=\sum_{j+k=n}a_jb_k$ である。
  3. $f$ が $[X,\infty)$ で連続で $a_0=a_1=0$ ならば、$\int_x^\infty f(t)\,dt$ は収束し、
    $$ \int_x^\infty f(t)\,dt\sim\sum_{n\geq2}\frac{a_n}{n-1}x^{-(n-1)} $$
    である。

上で見たとおり、冪の場合の条件は「すべての $N$ で $f-\sum_{n\leq N}a_nx^{-n}=O(x^{-N-1})$」と同値なので、この形で示す。
1 は Landau 記号の和の規則から明らかである。
2:$P_N:=\sum_{n\leq N}a_nx^{-n}$、$Q_N:=\sum_{n\leq N}b_nx^{-n}$ とおく。$P_N$, $Q_N$, $f$, $g$ は十分大きな $x$ で有界なので
$$ fg-P_NQ_N=(f-P_N)g+P_N(g-Q_N)=O(x^{-N-1}) $$
である。$P_NQ_N=\sum_{n\leq2N}\bigl(\sum_{j+k=n,\ j,k\leq N}a_jb_k\bigr)x^{-n}$ のうち $n\leq N$ の係数は $c_n$ に等しく、$n>N$ の項は $O(x^{-N-1})$ である。よって $fg-\sum_{n\leq N}c_nx^{-n}=O(x^{-N-1})$ である。
3:$N\geq2$ を固定し、$r(t):=f(t)-\sum_{n=2}^{N}a_nt^{-n}$ とおく。仮定から、定数 $K$ と $X_1\geq\max(X,1)$ があって $t\geq X_1$ で $|r(t)|\leq Kt^{-N-1}$ である。特に $|f(t)|\leq K't^{-2}$ なので $\int_x^\infty f$ は収束する。$\int_x^\infty t^{-n}\,dt=\frac{x^{-(n-1)}}{n-1}$($n\geq2$)より、$x\geq X_1$ で
$$ \Bigl|\int_x^\infty f(t)\,dt-\sum_{n=2}^{N}\frac{a_n}{n-1}x^{-(n-1)}\Bigr|=\Bigl|\int_x^\infty r(t)\,dt\Bigr|\leq\frac{K}{N}x^{-N} $$
である。右辺は展開の第 $N$ 項 $x^{-(N-1)}$ について $o(x^{-(N-1)})$ であり、$N$ は任意なので主張を得る。$\square$

積分と違って、微分は漸近展開と両立しない。$f(x)=e^{-x}\sin(e^{x})$ は $|f(x)|\leq e^{-x}$ なので $f\sim0$ であるが、$f'(x)=-e^{-x}\sin(e^x)+\cos(e^x)$ は $x\to\infty$ で振動して極限をもたず、漸近冪級数をもたない。ただし、$f'$ が連続で漸近冪級数 $\sum b_nx^{-n}$ をもつと分かっていれば、それは $f$ の展開を項別に微分したものである。実際、$b_0\neq0$ なら $f$ は $x$ に比例して増え、$b_0=0$、$b_1\neq0$ なら $f$ は $b_1\log x$ のように増えるので、どちらも $f$ が $a_0$ に収束することに反する。よって $b_0=b_1=0$ であり、$f(x)=a_0-\int_x^\infty f'(t)\,dt$ に 3 と thm-asymptotic-uniqueness を使えば $b_n=-(n-1)a_{n-1}$($n\geq2$)が分かる。複素平面の扇形で正則な関数については、$f=O(z^{\nu})$ から、頂点を共有するより狭い閉扇形で $f'=O(z^{\nu-1})$ が従うという Ritt の定理がある(DLMF2 §2.1(ii))。

Watsonの補題

Laplace 変換の形の積分 $\int_0^\infty e^{-xt}q(t)\,dt$ では、$x$ が大きいと $e^{-xt}$ が $t=0$ の近く以外をほとんど消してしまう。したがって $x\to\infty$ での振る舞いは、$q$ の $t=0$ の近くでの展開だけで決まるはずである。これを正確に述べたのが Watson の補題である。$\Gamma$ は Γ関数 で、$s>0$、$x>0$ について $\int_0^\infty e^{-xt}t^{s-1}\,dt=\Gamma(s)x^{-s}$ である(Γ関数 の例「尺度変換と Laplace 型積分」)。

Watsonの補題

$q\colon(0,\infty)\to\mathbb{C}$ は連続で、次の 2 つを満たすとする。

  1. 実数 $\lambda>0$ と複素数 $a_0,a_1,\dots$ があって、すべての $N\geq0$ について $t\to+0$ で
    $$ q(t)-\sum_{k=0}^{N-1}a_kt^{k+\lambda-1}=O\bigl(t^{N+\lambda-1}\bigr) $$
    である。
  2. ある $x_0>0$ について $\int_0^\infty e^{-x_0t}|q(t)|\,dt<\infty$ である。
    このとき $x\geq x_0$ で $F(x):=\int_0^\infty e^{-xt}q(t)\,dt$ は絶対収束し、$x\to+\infty$ で
    $$ F(x)\sim\sum_{k=0}^{\infty}a_k\frac{\Gamma(k+\lambda)}{x^{k+\lambda}} $$
    が漸近列 $(x^{-k-\lambda})_{k\geq0}$ に関して成り立つ。

$x\geq x_0$ では $|e^{-xt}q(t)|\leq e^{-x_0t}|q(t)|$ なので $F(x)$ は絶対収束する。$N\geq1$ を固定し、$r_N(t):=q(t)-\sum_{k< N}a_kt^{k+\lambda-1}$ とおく。仮定 1 により、$0<\delta\leq1$ と $K>0$ があって、$0< t\leq\delta$ で $|r_N(t)|\leq Kt^{N+\lambda-1}$ である。$x\geq\max(x_0,1)$ について、$F(x)$ を次の 3 つに分ける。
$$ F(x)=\sum_{k< N}a_k\int_0^\delta e^{-xt}t^{k+\lambda-1}\,dt+\int_0^\delta e^{-xt}r_N(t)\,dt+\int_\delta^\infty e^{-xt}q(t)\,dt. $$
第 1 項:$\int_0^\delta e^{-xt}t^{s-1}\,dt=\Gamma(s)x^{-s}-\int_\delta^\infty e^{-xt}t^{s-1}\,dt$ であり、$t\geq\delta$ で $e^{-xt}=e^{-(x-1)t}e^{-t}\leq e^{-(x-1)\delta}e^{-t}$ なので
$$ 0\leq\int_\delta^\infty e^{-xt}t^{s-1}\,dt\leq e^{-(x-1)\delta}\,\Gamma(s) $$
である。
第 2 項:$\Bigl|\int_0^\delta e^{-xt}r_N(t)\,dt\Bigr|\leq K\int_0^\infty e^{-xt}t^{N+\lambda-1}\,dt=K\,\Gamma(N+\lambda)\,x^{-N-\lambda}$ である。
第 3 項:$t\geq\delta$ で $e^{-xt}=e^{-(x-x_0)t}e^{-x_0t}\leq e^{-(x-x_0)\delta}e^{-x_0t}$ なので、絶対値は $e^{-(x-x_0)\delta}\int_0^\infty e^{-x_0t}|q(t)|\,dt$ 以下である。
$e^{-\delta x}$ はすべての $M$ について $o(x^{-M})$ なので、以上をまとめて
$$ F(x)-\sum_{k=0}^{N-1}a_k\frac{\Gamma(k+\lambda)}{x^{k+\lambda}}=O\bigl(x^{-N-\lambda}\bigr)=o\bigl(x^{-(N-1)-\lambda}\bigr) $$
を得る。$N\geq1$ は任意なので、定義の条件がすべての段階で成り立つ。$\square$

Watson の補題は、$q$ の $0$ での展開を項ごとに Laplace 変換してよいと言っている。$q$ の展開が収束しなくても、$q$ が $t=0$ から離れたところで大きくても(条件 2 の範囲で)、結論は変わらない。より一般に $t^{(k+\lambda-\mu)/\mu}$ の形の展開を許す形は DLMF2 §2.3(ii) の式 2.3.7–2.3.8 にある。

例

収束しない漸近展開の誤差

$F(x)=\int_0^\infty\frac{e^{-xt}}{1+t}\,dt$($x>0$)とする。$q(t)=\frac1{1+t}=\sum_{k\geq0}(-t)^k$($0< t<1$)なので、Watson の補題($\lambda=1$、$a_k=(-1)^k$)から
$$ F(x)\sim\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^kk!}{x^{k+1}}\qquad(x\to+\infty) $$
である。この場合は誤差がもっと正確に分かる。有限の等式 $\frac1{1+t}=\sum_{k< N}(-t)^k+\frac{(-t)^N}{1+t}$ を積分すると
$$ F(x)=\sum_{k=0}^{N-1}\frac{(-1)^kk!}{x^{k+1}}+R_N(x),\qquad R_N(x)=(-1)^N\int_0^\infty\frac{e^{-xt}t^N}{1+t}\,dt $$
であり、$0<\frac{t^N}{1+t}< t^N$ から $R_N(x)$ は $(-1)^N$ と同じ符号で、$|R_N(x)|<\frac{N!}{x^{N+1}}$ である。つまり誤差は、最初に捨てた項と同じ符号をもち、その項より絶対値が小さい。
$x=10$ での値 $F(10)=0.09156333\ldots$ と、$N$ 項で打ち切った和を比べると次のとおりである(直接の計算による)。

項数 $N$打ち切った和和 $-F(10)$捨てた最初の項の絶対値
$1$$0.1$$8.4\times10^{-3}$$1\times10^{-2}$
$3$$0.092$$4.4\times10^{-4}$$6\times10^{-4}$
$6$$0.09152$$-4.3\times10^{-5}$$7.2\times10^{-5}$
$10$$0.091545632$$-1.8\times10^{-5}$$3.6\times10^{-5}$
$16$$0.0914840\ldots$$-7.9\times10^{-5}$$2.1\times10^{-4}$

誤差は $N=10$ 付近で最小になり、その先は項が大きくなって誤差も増える。どの $N$ でも、誤差は捨てた最初の項より小さい。

誤差関数の漸近展開

$x>0$ について $E(x):=\int_x^\infty e^{-s^2}\,ds$ とおく(Gauss積分 により $E(0)=\frac{\sqrt\pi}2$)。$s=\sqrt{x^2+u}$、続けて $u=x^2t$ と置換すると
$$ E(x)=\frac{e^{-x^2}}2\int_0^\infty\frac{e^{-u}}{\sqrt{x^2+u}}\,du=\frac{x\,e^{-x^2}}2\int_0^\infty e^{-x^2t}(1+t)^{-1/2}\,dt $$
である。$q(t)=(1+t)^{-1/2}=\sum_{k\geq0}\binom{-1/2}{k}t^k$($0< t<1$)、$\binom{-1/2}{k}k!=(-1)^k\frac12\cdot\frac32\cdots\frac{2k-1}2$ なので、Watson の補題を変数 $X=x^2$ で使うと
$$ \int_x^\infty e^{-s^2}\,ds\sim\frac{e^{-x^2}}{2x}\Bigl(1-\frac1{2x^2}+\frac{1\cdot3}{(2x^2)^2}-\frac{1\cdot3\cdot5}{(2x^2)^3}+\cdots\Bigr)\qquad(x\to+\infty) $$
を得る。誤差関数 $\operatorname{erf}(x)=\frac2{\sqrt\pi}\int_0^xe^{-s^2}\,ds$ で書くと、$1-\operatorname{erf}(x)=\frac2{\sqrt\pi}E(x)$ である。これは DLMF7 式 7.12.1 と一致し、そこには実数の $x$ では誤差が最初に捨てた項と同じ符号をもち、その絶対値以下であることも述べられている。たとえば $x=3$ で最初の 3 項を使うと $E(3)\approx1.9615\times10^{-5}$ となり、実際の値 $1.9577\times10^{-5}$ との相対誤差は $0.2\%$ である。

ほかの記事では、次の漸近展開を扱っている。

  • 対数積分 の定理「対数積分の漸近展開」:$\operatorname{li}(x)\sim\frac{x}{\log x}\sum_{k\geq0}\frac{k!}{(\log x)^k}$。漸近列は $\frac{x}{(\log x)^{k+1}}$ で、係数の $k!$ のために級数は収束しない。証明は部分積分のくり返しである。
  • Eulerの定数:調和数の展開 $H_n\sim\log n+\gamma+\frac1{2n}-\frac1{12n^2}+\cdots$。
  • 階乗 の注意「高次の補正」と Stirlingの公式 の注意「Robbinsの評価と高次の補正」:$n!\sim\sqrt{2\pi n}(n/e)^n\bigl(1+\frac1{12n}+\frac1{288n^2}-\cdots\bigr)$。$\log\Gamma(z)$ の展開(Stirling 級数)は DLMF5 式 5.11.1 にある。

反例

条件を外したときの反例
外す条件反例成り立たなくなること
$\varphi_n$ が $x_0$ の近くで $0$ にならない$\varphi_0=1$、$\varphi_n\equiv0$($n\geq1$)、$f\equiv1$$a_0=1$ のもとで $a_1,a_2,\dots$ は何でもよく、係数が一意に決まらない
$f'$ が漸近冪級数をもつ$f(x)=e^{-x}\sin(e^x)$$f\sim0$ だが $f'$ は振動し、展開を項別に微分した $0$ は $f'$ の展開でない
$f$ が $x^{-1}$ の収束冪級数で表される$f(x)=e^{-x}$漸近展開 $0$ は収束するが、その和 $0$ は $f$ と一致せず、展開から $f$ は決まらない
Watson の補題の条件 2$q(t)=e^{t^2}$$q$ は $0$ で展開をもつが、$\int_0^\infty e^{-xt+t^2}\,dt$ はどの $x$ でも発散する

1 行目の列では、$\varphi_{n+1}=o(\varphi_n)$ は Landau記号 の $o$ の定義($|\varphi_{n+1}|\leq\varepsilon|\varphi_n|$ が $x_0$ の近くで成り立つこと)のもとで成り立っている($n\geq1$ では両辺が $0$)。破れているのは「$0$ にならない」だけである。
Watson の補題の条件 1 の $\lambda>0$ は、$q$ が $t=0$ の近くで可積分であるための条件でもある。$\lambda\leq0$ かつ $a_0\neq0$ なら、$t\to+0$ で $|q(t)|$ は $|a_0|t^{\lambda-1}$ と同じ大きさで、$\int_0^1t^{\lambda-1}\,dt=\infty$ なので条件 2 も必ず崩れる(例:$q(t)=\frac1t$)。$a_0=0$ なら、最初の $0$ でない係数 $a_j$ まで番号をずらすと、指数が $\lambda+j>0$ になって $\lambda>0$ の形に書き直せるか、$\lambda+j\leq0$ のままで同じ理由により条件 2 が崩れる(係数がすべて $0$ なら、どの $\lambda>0$ についても条件 1 が成り立つ)。したがって $\lambda>0$ だけを外す反例はなく、表には入れていない。

補足

一般化

複素変数の関数については、$x\to\infty$ を扇形 $|\arg z|\leq\theta$ の中で考えた漸近展開が使われる。Stirling 級数は $|\arg z|\leq\pi-\delta$ で成り立つ(DLMF5 式 5.11.1)。展開の係数を $x$ にも依存させた一般化された漸近展開(DLMF2 §2.1(v))や、パラメータについて一様な漸近展開(DLMF2 §2.1(iv))もある。積分 $\int e^{\lambda h(x)}g(x)\,dx$ の $\lambda\to\infty$ での展開は、$h$ の最大点の近くで変数変換して Watson の補題に帰着させる方法(Laplace の方法)で求めることが多い。

関連項目

参考文献

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