有限射影加群

同義語:有限生成射影加群finite projective module

概要

有限射影加群(finite projective module)とは、有限生成かつ射影的な加群である。可換環 $A$ 上では、有限自由加群 $A^n$ の直和因子であること、冪等行列 $e$ により $eA^n$ と表せること、有限双対基底をもつこと、有限表示かつ平坦であることがいずれも同値で、局所環上では有限階数の自由加群になる。さらに、有限表示で全ての素点で有限自由であることや、$\operatorname{Spec}A$ を覆う($(s_1,\ldots,s_r)=A$ となる)有限個の基本開集合 $D(s_i)$ で各 $P_{s_i}$ が有限自由になることとも同値であり、各素点での階数は局所定数である。ただし $\mathbb Z[\sqrt{-5}]$ のイデアル $(2,1+\sqrt{-5})$ のように、一定階数でも自由とは限らない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 加群, 射影加群, テンソル積, 局所化

以下、$A$ は可換で単位元をもつ環、加群は単位的とする。Noether 性は仮定しない。「有限」は有限生成という意味であり、有限集合であるという意味ではない。

有限射影加群を行列で見る

有限射影加群は、有限自由加群の中に直和因子として置ける加群である。大域的に基底を持たなくても、有限個の生成元と、それに対応する有限個の線形汎関数で恒等写像を表せる。環の各素イデアルの近くでは有限自由となり、その階数は局所的に一定である。
任意生成の射影加群の持上げや無限直和の問題とは異なり、ここで重要なのは有限個の行列成分、有限個の関係、有限個の分母を同時に処理できることである。有限生成性だけと有限表示性を区別しながら、これらの表示を互いに移す。

有限射影加群

$A$ 加群 $P$ が有限射影加群であるとは、有限生成かつ射影的であることをいう。射影的とは、任意の全射 $X\to Y$ に対し、$P\to Y$ の任意の準同型が $P\to X$ に持ち上がることである。

零加群は空の生成系をもつ有限射影加群である。零環上の単位的加群は零加群だけなので、この場合も含める。体上では有限射影加群は有限次元ベクトル空間である。しかし一般環上では有限射影であっても自由とは限らない。

有限自由の直和因子、冪等行列、双対基底

有限射影性の四つの表示

$A$ 加群 $P$ について、次の条件は同値である。

  1. $P$ は有限射影加群である。
  2. ある $n\ge0$ と加群 $Q$ に対して $A^n\simeq P\oplus Q$ となる。
  3. ある $n$ 次行列 $e$ が $e^2=e$ を満たし、$P\simeq eA^n$ となる。
  4. 有限個の $x_i\in P$、$f_i\in\operatorname{Hom}_A(P,A)$ があって、全ての $x\in P$ に対して $x=\sum_i f_i(x)x_i$ となる。
    条件4の組を有限双対基底という。ただし $x_i$ 自身が基底であるとは限らない。
切断と恒等写像の有限表示

1から2を示す。生成元 $x_1,\ldots,x_n$ による全射 $q:A^n\to P$ を取り、恒等写像 $1_P$ を持ち上げる。得られる $i:P\to A^n$ は $qi=1_P$ を満たす。任意の $v\in A^n$ は
$$v=i(qv)+(v-i(qv))$$
と分かれ、第二項は $\ker q$ に入る。$i(P)\cap\ker q=0$ は $qi=1_P$ により従う。従って $A^n=i(P)\oplus\ker q$ である。
2から1は持上げを直接作る。自由加群 $A^n$ からの写像は、基底の像を全射の上に一つずつ持ち上げれば持ち上がる。$P$ からの写像には射影 $A^n\to P$ を先に合成し、その持上げを $P$ へ制限する。$P$ は $A^n$ の商なので有限生成でもある。
切断から $e=iq$ を作れば $e^2=i(qi)q=e$、像は $i(P)$ であり2から3を得る。逆に冪等行列について
$$A^n=eA^n\oplus(1-e)A^n$$
である。和が全体であることは $v=ev+(1-e)v$、交叉が零であることは交叉の元に $e$ を作用させると、第一表示ではその元、第二表示では零となることによる。
1から4では、$i$ の第 $j$ 座標を $f_j$、$q$ の標準基底の像を $x_j$ とすれば $qi=1$ が必要な式そのものである。4からは $i(x)=(f_j(x))_j$、$q((a_j)_j)=\sum_j a_jx_j$ と置けば $qi=1$ となり2を得る。添字集合が空の場合は $1_P=0$ なので $P=0$ となり、全ての表示に整合する。

同じ構成は有限表示を具体的に与える。$P=eA^n$、$q=e:A^n\to P$ とすれば $\ker q=(1-e)A^n$ である。従って
$$A^n\xrightarrow{1-e}A^n\xrightarrow{q}P\to0$$
は有限表示である。Noether 環でない場合でも、核は $1-e$ の有限個の列で生成される。有限生成な部分加群は何でも有限表示になる、という推論を使っていない。
双対基底の式から $f_i(x_j)$ を成分とする行列 $e$ を作ることもできる。$e^2_{ij}=\sum_l f_i(x_l)f_l(x_j)=f_i(x_j)$ だから冪等である。双対基底は余分な生成元を許すため、この行列は恒等行列とは限らない。冪等性が、生成元の間の関係を保ったまま元を再構成する条件となる。

有限表示平坦との同値

この節では可換環を $R$ と書く。有限表示とは、ある有限整数 $m,n$ と完全列 $R^m\to R^n\to M\to0$ があることであり、生成元だけでなく関係も有限個で指定できる条件である。平坦性は任意の単射をテンソル積で保つ条件である。有限表示の仮定の下では、全ての関係を同時に処理することで有限双対基底が作れる。

有限表示の平坦加群

$R$ 加群 $M$ について、次は同値である。

  1. $M$ は有限表示かつ平坦である。
  2. $M$ は有限生成な射影加群である。
  3. $M$ は有限生成な自由加群 $R^n$ の直和因子である。
    とくに $R$ が局所環なら、有限表示な平坦加群は自由である。
計算

まず 1 ⇒ 3 を、有限個の全関係を同時に用いて示す。有限表示 $R^m\xrightarrow{A}R^n\xrightarrow{q}M\to0$ を取り、$x_i=q(e_i)$ と書く。$A=(a_{ij})$ の転置に対応する写像 $D:R^n\to R^m$ を $D(b)_j=\sum_i a_{ij}b_i$ と定め、$K=\ker D$ とする。関係式により $(x_i)_i$ は $D\otimes\mathrm{id}_M:M^n\to M^m$ の核に属する。
平坦性によりこの核は $K\otimes_R M$ の像である。実際、$J=\operatorname{im}D$ として $0\to K\to R^n\to J\to0$ をテンソルすると右完全性と平坦性により完全列になり、$J\otimes M\to R^m\otimes M$ も平坦性から単射となる。この二つを合わせると主張の核の等式が得られる。従って有限個の $b_l=(b_{il})_i\in K$ と $y_l\in M$ があって
$$ x_i=\sum_l b_{il}y_l,\qquad \sum_i a_{ij}b_{il}=0 $$
と書ける。ここで $K$ の有限生成性は仮定していない。テンソル積の一つの元の表示が有限和であることだけを使っている。
$e_i\mapsto b_{il}$ で定まる $R^n\to R$ は $A$ の各列上で零なので $M$ を経由する。その写像を $h_l:M\to R$ とすると $h_l(x_i)=b_{il}$。生成元上の等式から任意の $x\in M$ について
$$ x=\sum_l h_l(x)y_l $$
である。そこで $v:M\to R^t$ を $x\mapsto(h_l(x))_l$、$u:R^t\to M$ を標準基底の像 $y_l$ で定めると $uv=\mathrm{id}_M$ である。$R^t=v(M)\oplus\ker u$($z=v(u(z))+(z-v(u(z)))$)なので、$M$ は有限自由加群の直和因子である。$M=0$ では空族で同じ結論になる。
3 ⇒ 2:自由加群からの写像は基底の像を全射の上へ持ち上げられる。直和因子 $M\subset R^n$ からの写像は、射影 $R^n\to M$ と合成してこの持上げを作り、$M$ に制限すればよい。従って $M$ は射影的であり、$R^n$ の商なので有限生成である。逆に 2 ⇒ 3 は、有限生成性から選んだ全射 $R^n\to M$ を射影性で分裂させれば得られる。
3 ⇒ 1:直和因子の余因子も $R^n$ の像として有限生成であるから、$R^n\to M$ の核が有限生成であり $M$ は有限表示である。また有限自由加群とのテンソル積は有限直和を取る操作なので単射を保つ。直和因子とのテンソル積も単射を保つ。具体的には、$R^n=M\oplus Q$ のもとで $L\otimes R^n=(L\otimes M)\oplus(L\otimes Q)$ であり、単射 $L\to N$ のテンソル写像の第一成分が零なら全体の単射性からその元は零である。従って $M$ は平坦である。
局所環 $(R,\mathfrak m)$ の場合、剰余体 $k$ 上の $M/\mathfrak mM$ の基底を持ち上げた $x_1,\ldots,x_r$ は生成系になる。必要なNakayamaの計算は次の通りである。有限生成 $V=\mathfrak mV$ の生成元列に対し $z=az$、$a$ の成分が $\mathfrak m$ に属する行列を取り、随伴行列を掛ければ $\det(I-a)z=0$。$\det(I-a)\equiv1\pmod{\mathfrak m}$ は単元なので $V=0$。この計算を $M/\sum_i Rx_i$ に適用すれば生成性が得られる。
全射 $R^r\to M$ は射影性により分裂し、その核 $Q$ は有限自由加群の像なので有限生成である。分裂列を $k$ とテンソルすると $k^r=(Q/\mathfrak mQ)\oplus(M/\mathfrak mM)$。第二成分への写像は選んだ基底により同型なので $Q/\mathfrak mQ=0$。再び上の行列式計算で $Q=0$ となり、$M\cong R^r$ である。$r=0$ では $M=0$ も含む。$\square$

分数と準同型の有限表示

局所基底を大域へ貼り合わせるため、局所化と準同型の対応を元の表示から確認する。

有限表示加群からの準同型の局所化

有限表示 $A$ 加群 $M$ と任意の加群 $N$ に対して、乗法的集合 $S$ による自然写像
$$S^{-1}\operatorname{Hom}_A(M,N)\longrightarrow\operatorname{Hom}_{S^{-1}A}(S^{-1}M,S^{-1}N)$$
は同型である。

有限個の生成元と関係の分母払い

有限表示 $A^m\xrightarrow{D}A^n\to M\to0$ を取り、生成元の像を $x_i$ とする。局所準同型 $h$ の値 $h(x_i/1)$ は有限個だから、ある共通分母 $s\in S$ と $y_i\in N$ により $h(x_i/1)=y_i/s$ と書ける。各列の関係は局所化後零なので、有限個の関係について共通の $t\in S$ を選び $t\sum_i D_{ij}y_i=0$ とできる。$x_i\mapsto ty_i$ は関係を零に送るため $M\to N$ を定め、これを $f$ と書けば局所化後 $f/(st)=h$ となる。これが全射性である。
局所化後 $f/s=0$ なら、有限個の $f(x_i)$ を全て零にする $t\in S$ がある。生成元を零にする写像は零なので $tf=0$、従って源でも $f/s=0$ であり単射性を得る。分数等号は、ある乗法集合の元を掛けて等号になるという局所化の定義による。$S$ が零を含む場合は両環・加群とも零となり同じ結論である。$m=0$ や $n=0$ も空の関係または空の生成元で処理する。

局所自由性と有限被覆

有限自由の直和分解を局所化すると、分数を成分ごとに取る対応により $(S^{-1}A)^n=S^{-1}P\oplus S^{-1}Q$ となる。従って有限射影性は局所化で保たれる。

可換局所環上の有限生成射影加群

可換局所環 $(A,\mathfrak m)$ 上の有限生成射影加群 $P$ は有限階数の自由加群である。その階数は $\dim_{A/\mathfrak m}(P/\mathfrak mP)$ に等しい。

計算

まず必要なNakayamaの補題を計算する。有限生成 $V$ が $V=\mathfrak mV$ を満たすなら、生成元列 $z$ と成分がすべて $\mathfrak m$ に属する正方行列 $a$ によって $z=az$ と書ける。随伴行列を掛けて $\det(I-a)z=0$。行列式は $\mathfrak m$ を法として $1$ なので単元であり、$z=0$、すなわち $V=0$ となる。空の生成系の場合は最初から零加群である。
$k=A/\mathfrak m$ とし、$P/\mathfrak mP$ の基底を $x_1,\ldots,x_r\in P$ に持ち上げる。$P/\sum_i Ax_i$ は有限生成で $\mathfrak m$ 倍と等しいので、上の計算で零になる。従って $q:A^r\to P$、$e_i\mapsto x_i$ は全射である。射影性によりこの全射は分裂し、$A^r=K\oplus P$、$K=\ker q$ と書ける。$K$ は $A^r$ の射影の像だから有限生成である。この分裂を剰余体とテンソルすると
$$ k^r=(K/\mathfrak mK)\oplus(P/\mathfrak mP) $$
になる。第二成分への写像は選んだ基底により同型なので、$K/\mathfrak mK=0$ である。再びNakayamaの計算で $K=0$、従って $q$ は同型である。$r=0$ なら $P=0$ で、階数 $0$ の自由加群として含まれる。$\square$

基本開近傍での有限射影加群の基底

有限生成射影 $A$ 加群 $P$ と素イデアル $\mathfrak p$ に対し、ある $s\notin\mathfrak p$ と整数 $r\ge0$ があって $P_s\cong A_s^r$ となる。従って $\operatorname{Spec}A$ は $P$ が有限自由になる基本開集合で覆われる。

計算

$P$ を $A^n$ の直和因子として固定し、射影を $e:A^n\to P$ と書く。有限自由の直和分解を局所化し、前の定理を適用すると $P_{\mathfrak p}$ は自由である。その基底の各元の分母は $\mathfrak p$ の外の単元だから、各基底元をそれぞれ単元倍して $P$ の元 $x_1,\ldots,x_r$ の像にしてよい。$\phi:A^r\to P$ をこの元から定めると $\phi_{\mathfrak p}$ は同型である。
その逆 $h:P_{\mathfrak p}\to A_{\mathfrak p}^r$ を $e_{\mathfrak p}$ と合成すれば、有限自由加群 $A_{\mathfrak p}^n$ から $A_{\mathfrak p}^r$ への有限行列になる。その有限個の成分の分母を共通に払い、$t\notin\mathfrak p$ と $A$ 線形写像 $\psi:P\to A^r$ を取って $\psi_{\mathfrak p}=t h$ とする。これは分母を払った行列を $P\subset A^n$ に制限して作れる。
$(\psi\phi-t\mathrm{id})_{\mathfrak p}=0$ と $(\phi\psi-t\mathrm{id})_{\mathfrak p}=0$ である。第一の写像は $A^r$ の有限個の標準基底、第二は $P$ の有限個の生成元上で調べればよい。その有限個の像が局所化で零だから、ある $u\notin\mathfrak p$ を掛けると全部零になる。ここでは局所化の零判定、すなわち $z/1=0$ ならある $v\notin\mathfrak p$ が $vz=0$ を満たすことを各像に適用し、有限個の $v$ の積を取っている。従って
$$ (u\psi)\phi=ut\mathrm{id}_{A^r},\qquad \phi(u\psi)=ut\mathrm{id}_P. $$
$s=ut\notin\mathfrak p$ を可逆にすれば $\phi_s$ と $(u\psi)_s/s$ は互いに逆である。$r=0$ の場合も、有限生成元を同時に零にする $u$ を選ぶ同じ計算で $P_s=0$ となる。各素イデアルについてこのような $s$ があるので、対応する基本開集合 $D(s)$ が全体を覆う。$\square$

有限自由になる基本開近傍は有限個でも選べる。上で得たすべての $s$ が生成するイデアルが真なら、それを含む極大イデアルがどの $D(s)$ にも入らず、覆いであることに矛盾する。従って $1=\sum_{i=1}^N a_i s_i$ となる有限個の $s_i$ があり、$D(s_1),\ldots,D(s_N)$ が全体を覆う。この結論にもNoether性は不要である。

有限基本開被覆での有限生成性

$D(s_1),\ldots,D(s_l)$ が $\operatorname{Spec}A$ を覆うとする。任意の加群 $M$ について、各 $M_{s_i}$ が有限生成なら $M$ は有限生成である。

商加群を有限被覆で零と検出

各局所生成元の分母を払って $M$ の元として選び、全てを集めて生成する部分加群を $L$ とする。局所化後は $L_{s_i}=M_{s_i}$ なので $C=M/L$ は $C_{s_i}=0$ を満たす。
任意の $c\in C$ について、各 $i$ に $s_i^{n_i}c=0$ となる整数 $n_i\ge1$ がある。$D(s_i^{n_i})=D(s_i)$ なので、これらの冪が生成するイデアルは単位イデアルである。もし真イデアルなら極大イデアルに含まれ、その素点が全ての $D(s_i)$ から外れて矛盾する。極大イデアルの存在は、真イデアルを含む真イデアルの鎖の合併が依然真であることを確認して Zorn の補題を適用すればよい。従って $1=\sum_i a_i s_i^{n_i}$ と書け、$c=\sum_i a_i s_i^{n_i}c=0$ である。$C=0$ だから $M=L$ は有限生成となる。
この証明は、任意加群が有限被覆上で零なら零であることも示す。指数 $n_i$ は元 $c$ に依存してよく、加群全体を同じ冪で零にするという仮定は要らない。空被覆はスペクトルが空、すなわち $A=0$ の場合で、その単位的加群は零である。

有限射影加群の局所自由判定

$A$ 加群 $M$ について、次の条件は同値である。

  1. $M$ は有限射影である。
  2. $M$ は有限表示であり、全ての素イデアル $\mathfrak p$ で $M_{\mathfrak p}$ は有限自由である。
  3. 有限基本開被覆 $\{D(s_i)\}$ があり、各 $M_{s_i}$ は有限自由である。
    全ての素点での自由性だけから、有限表示の仮定を省略した条件2を主張しているわけではない。
有限被覆上の切断の貼合せ

1から2と3は既に証明した。2から3では各素点での基底の元を $M$ の元の分数として選び、$\phi:A^r\to M$ を作る。$\phi_{\mathfrak p}$ の逆は前の準同型局所化補題で分母を払える。二つの合成と恒等との差は、$M$ と $A^r$ の有限生成元上で零判定を使って一つの分母で零にできる。従って $\phi_s$ はある $s\notin\mathfrak p$ の上で同型である。得られた基本開被覆から有限個を選べるのは、対応する $s$ 全てが生成するイデアルが単位イデアルで、$1$ の表示は有限和だからである。
3から1を示す。まず前補題で $M$ は有限生成であり、全射 $q:A^r\to M$ を選ぶ。核を $K$ とする。局所化は完全である。実際、局所化後に零となる元は乗法集合のある元で零となるので、単射を保ち、商については分数の代表から右完全性を得る。従って $K_{s_i}$ は $A_{s_i}^r\to M_{s_i}$ の核である。終域が有限自由なので基底の持上げで全射が分裂し、核は有限自由加群の直和因子となる。射影行列の列により $K_{s_i}$ は有限生成である。前補題を $K$ に適用すると $K$ は有限生成となり、$M$ は有限表示である。
各局所自由 $M_{s_i}$ に対する切断 $h_i:M_{s_i}\to A_{s_i}^r$ を取る。準同型の局所化補題から、ある $t_i\ge0$ と $f_i:M\to A^r$ があって $(f_i)_{s_i}=s_i^{t_i}h_i$ となる。すると $(qf_i-s_i^{t_i}1_M)_{s_i}=0$。$M$ の有限個の生成元上で零判定を用い、ある $u_i\ge0$ を掛けて
$$q(s_i^{u_i}f_i)=s_i^{u_i+t_i}1_M$$
とできる。指数をさらに増やして $v_i\ge1$ とし、$g_i$ を対応する $f_i$ の倍として $qg_i=s_i^{v_i}1_M$ とする。
$D(s_i^{v_i})$ も被覆なので $1=\sum_i a_i s_i^{v_i}$ と書ける。$h=\sum_i a_i g_i$ と置けば $qh=1_M$ である。従って $A^r=h(M)\oplus\ker q$ となり、有限自由の直和因子の判定から $M$ は有限射影である。貼合せたのは基底そのものではなく、全射の切断であることが重要である。

階数は局所定数になる

階数関数と支持

有限射影 $A$ 加群 $P$ に対し
$$r_P(\mathfrak p)=\dim_{\kappa(\mathfrak p)}(P\otimes_A\kappa(\mathfrak p))$$
は有限値の局所定数関数である。各階数を取る集合は開かつ閉であり、取り得る階数は有限個である。従って支持 $\{\mathfrak p:P_{\mathfrak p}\ne0\}$ も開かつ閉である。

基本開基底と剰余体次元

$P_s\simeq A_s^r$ となる基本開 $D(s)$ を取る。その中の素イデアル $\mathfrak q$ でさらに局所化し剰余体を取れば $P\otimes_A\kappa(\mathfrak q)\simeq\kappa(\mathfrak q)^r$ である。従ってこの基本開上の階数は $r$ に等しい。階数が二つの基底表示に依存しないのは、有限自由同型を剰余体でテンソルすると同じ有限次元ベクトル空間になり、その次元が一致するからである。
有限個の基本開で覆えるため階数の値は有限個である。ある階数の逆像は、そこに入る全ての基本開近傍の合併であり開である。補集合も他の階数の逆像の合併なので開であり、元の逆像は閉でもある。局所環上の有限自由加群が零であることは階数零と同値だから、支持は非零階数の逆像の合併となり開閉である。零環のスペクトルでは空の関数となる。

連結なスペクトルの上では階数は一定である。もし二つの異なる値を取れば、一つの非空な開閉逆像とその補集合が連結性に反する。この結論は一定階数なら自由であることを意味しない。大域的な基底の存在は切断や局所基底の存在より強い。

例と反例

階数が成分ごとに変わる有限射影加群

体 $k$ に対して $A=k\times k$、$e=(1,0)$、$P=Ae$ とする。$e^2=e$ なので有限射影である。$A$ の二つの素イデアル $0\times k$ と $k\times0$ における剰余体はそれぞれ $k$ であり、$e$ の像はそれぞれ $1$ と $0$ である。従って階数は一方で1、他方で0となる。$A^r$ の階数はどちらの点でも $r$ だから $P$ は自由でない。局所定数は定数と同義ではない。

一定階数でも自由でない例

$A=\mathbb Z[\sqrt{-5}]$、$I=(2,1+\sqrt{-5})$ とする。$a_1=(-1+\sqrt{-5})/2$、$a_2=-(1+\sqrt{-5})/2$ は $I$ を $A$ へ掛けて送る。生成元上の積はそれぞれ $-1+\sqrt{-5},-3,-1-\sqrt{-5},2-\sqrt{-5}$ となるからである。さらに $2a_1+(1+\sqrt{-5})a_2=1$。従って $f_i(x)=a_ix$ と生成元との組は有限双対基底で、$I$ は有限射影である。
$I$ が自由なら、整域上の非零イデアルであるため階数は1となり単項である。実際、分数体へテンソルすると非零イデアルは分数体自身になり、二つ以上の基底は存在できない。$I=A\alpha$ ならノルム $N(a+b\sqrt{-5})=a^2+5b^2$ の乗法性から $N(\alpha)$ は4と6を割り切り、1または2である。2はこの二次式の値にならないので $\alpha=\pm1$ となる。しかし $A\to\mathbb F_2$、$a+b\sqrt{-5}\mapsto a+b$ は環準同型で、$I$ を零に送り1を零にしないから $I\ne A$。矛盾する。スペクトルは整域のため連結であり、局所定数階数は1だが自由ではない。

平坦性だけでは足りない

$\mathbb Q$ は $\mathbb Z$ の局所化だから平坦である。分数テンソル同型 $(S^{-1}\mathbb Z)\otimes N\simeq S^{-1}N$ と、$n/s$ が零ならある $t\in S$ が $tn=0$ を満たすことから、局所化が単射を保つと分かる。しかし $\mathbb Q$ が射影なら自由加群の直和因子なので、自由アーベル群 $F$ に単射で入る。$1$ の像の非零な一座標 $c\in\mathbb Z$ を選ぶと、$1=2^j(1/2^j)$ より $c$ は全ての $2^j$ で割り切れてしまい矛盾する。
また $\mathbb Q$ は有限生成でない。有限個の有理数の分母の積を $d$ とすると、それらの整数線形結合は $d^{-1}\mathbb Z$ に入る。$1/(2d)$ はそこに入らない。従ってこの例は有限表示平坦の同値から有限表示を外すことの危険を示すが、有限生成平坦の全てが非射影になるという主張ではない。

巡回平坦だが有限射影でない加群

体 $k$ に対して $A=\prod_{n\ge1}k$、$I=\bigoplus_{n\ge1}k\subset A$、$M=A/I$ とする。$I$ は有限台の列からなるイデアルであり、$1=(1,1,\ldots)$ は $I$ に属さない。$M$ は $1+I$ で生成される非零巡回加群である。しかし $M$ は平坦で、射影的でも有限表示でもない。
まず任意の $A$ 加群 $N$ に対する同型 $N\otimes_A(A/I)\simeq N/IN$ を確認する。両逆は
$$n\otimes(a+I)\longmapsto an+IN,\qquad n+IN\longmapsto n\otimes(1+I)$$
である。係数を $I$ の元だけ変えると第一写像の像は $IN$ だけ変わる。第二写像は $a\in I$ に対して $an\otimes(1+I)=n\otimes(a+I)=0$ なので商を経由する。釣合い関係と加法性を保ち、単純テンソル上で両合成は恒等となる。
単射 $N'\subset N$ に対して $N'\cap IN=IN'$ を示す。一方の包含は明らかである。他方、$x\in N'\cap IN$ を $x=\sum_{j=1}^r a_j n_j$、$a_j\in I$ と書く。有限個の $a_j$ の支持の合併を有限集合 $F$ とし、その座標で1、他で0となる冪等元 $e_F\in I$ を取る。$e_F a_j=a_j$ なので $e_F x=x$ である。$x\in N'$ から $x=e_F x\in IN'$ を得る。従って $N'/IN'\to N/IN$ は単射で、商テンソル表示から $M$ は平坦となる。
射影的でないことは切断の不存在で示す。$A\to M$ に切断 $s$ があれば $t=s(1+I)$ と置く。第 $n$ 座標だけ1の冪等元 $e_n$ は $I$ に入るから、$e_nt=s(e_n(1+I))=0$。これは $t$ の全ての座標が零であることを意味し、$t=0$ である。しかし切断なら $t+I=1+I\ne0$ となるので矛盾する。
最後に $M$ が有限表示なら、全射 $A\to M$ の核 $I$ は有限生成となる。この核についての事実も元で確認できる。有限表示 $A^u\xrightarrow{D}A^v\xrightarrow{q}M\to0$ を取り、$\pi:A\to M$ に沿って $q$ の基底像を持ち上げ $f:A^v\to A$、$\pi$ の像を $q$ に沿って持ち上げ $g:A\to A^v$ を選ぶと $\pi f=q$、$qg=\pi$ である。$h=1_A-fg$ の像は核に入り、核の元 $z$ に対して $gz\in\operatorname{im}D$、$z=f(gz)+h(z)$ だから
$$\ker\pi=\operatorname{im}(fD)+\operatorname{im}h.$$
右辺は有限個の列で生成される。一方 $I$ の有限個の生成候補の支持の和は有限集合 $F$ に限られ、それらの $A$ 線形結合も $F$ の外で零である。$n\notin F$ の $e_n$ を生成できないので $I$ は有限生成でない。従って $M$ は有限表示でない。
この例は有限生成性を満たしながら平坦性から射影性へ進めない。有限表示平坦の判定にある有限表示を有限生成へ置き換えることは、一般の非 Noether 環ではできない。無限積とテンソル積が交換するという仮定も用いていない。

条件正しい結論注意
有限生成かつ射影有限表示かつ平坦Noether性は不要
有限表示かつ平坦有限射影有限個の全関係を使う
有限基本開被覆上で有限自由有限射影有限生成と有限表示も証明してから切断を貼る
全素局所化で自由有限表示を加えれば有限射影点ごとの自由性だけの条件へ縮めない
有限射影で階数一定局所基底の数が一定大域自由性とは別

文献

有限表示平坦と有限射影の関係は Mat86 §7、有限自由の直和因子と双対基底は AK13 §5 に対応する。本記事では、有限関係のテンソル表示と有限被覆上の切断を直接構成した。加群から局所自由層への対応は幾何学への発展であり、本記事の証明では用いない。

関連項目

参考文献

[2]
Hideyuki Matsumura (translated by Miles Reid), Commutative Ring Theory, Cambridge Studies in Advanced Mathematics 8, Cambridge University Press, 1989, §7(平坦性:定理 7.7 イデアルによる判定、定理 7.12 の系 有限表示の平坦加群は射影的、定理 7.10 局所環上の有限生成平坦加群は自由)

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