Čech–de Rham複体(Čech–de Rham complex)とは、多様体の開被覆の重なりの上の微分形式を並べ、Čech の差分作用素 $\delta$ と外微分 $d$ を微分とする二重複体 $C^p(\mathfrak U,\Omega^q)$ と、その全複体のことである。1 の分割を使うと各行は大域的な形式から始まる完全列になり(一般化 Mayer–Vietoris 原理)、全複体は de Rham 複体と同じコホモロジーをもつ。被覆が良い被覆なら各列も Poincaré の補題で完全になり、de Rham コホモロジーは被覆の Čech コホモロジー $\check H^\bullet(\mathfrak U,\mathbb R)$ に同型になる。de Rham コホモロジーを被覆の組合せから計算する道具である。
前提知識: de Rhamコホモロジー, Mayer–Vietoris完全列, 二重複体, 1の分割
Čech–de Rham 複体(Čech–de Rham complex)とは、$C^\infty$ 級多様体 $M$ の開被覆 $\mathfrak U=\{U_\alpha\}_{\alpha\in I}$ について、重なり $U_{\alpha_0\cdots\alpha_p}:=U_{\alpha_0}\cap\cdots\cap U_{\alpha_p}$ の上の $q$ 次微分形式を並べた二重複体
$$
K^{p,q}=C^p(\mathfrak U,\Omega^q)
$$
と、その全複体のことである。横の微分は重なりの取り替え(Čech の差分作用素 $\delta$)、縦の微分は外微分 $d$ である。
この二重複体は、多様体の上の 2 つの見方をつなぐ。左端の列に大域的な微分形式の複体 $\Omega^\bullet(M)$ を付け足すと、各行は完全になる。これは 1 の分割による議論で、2 つの開集合の Mayer–Vietoris完全列 を任意個の開集合へ広げたもの(一般化 Mayer–Vietoris 原理)である。下端の行に局所定数関数の Čech 複体 $C^\bullet(\mathfrak U,\mathbb R)$ を付け足すと、被覆が良い被覆なら各列も完全になる。これは各重なりの上の Poincaré の補題である。行と列の両方が完全なら、全複体を介して
$$
H^\bullet_{dR}(M)\cong H^\bullet(\operatorname{Tot}K)\cong\check H^\bullet(\mathfrak U,\mathbb R)
$$
が得られる。左辺は微分幾何の量、右辺は被覆の組合せだけで決まる量である。
この記事では、一般化 Mayer–Vietoris 原理と、行が完全な二重複体についての比較の補題を完全に証明し、そこから de Rham コホモロジーと良い被覆の Čech コホモロジーの同型を導く。同型を 1 次で具体的に書く公式と、円周・2 次元球面での計算も示す。
$M$ を $C^\infty$ 級多様体(Hausdorff で第 2 可算)、$\mathfrak U=\{U_\alpha\}_{\alpha\in I}$ を $M$ の開被覆とする。$\Omega^q(U)$ は開集合 $U$ 上の $C^\infty$ 級 $q$ 形式の空間で、$\Omega^q(\emptyset)=0$ とする。
$p,q\ge0$ について、$K^{p,q}=C^p(\mathfrak U,\Omega^q)$ を、$(p+1)$ 個の添字の組 $(\alpha_0,\dots,\alpha_p)\in I^{p+1}$ ごとに形式 $\omega_{\alpha_0\cdots\alpha_p}\in\Omega^q(U_{\alpha_0\cdots\alpha_p})$ を与える族 $\omega=(\omega_{\alpha_0\cdots\alpha_p})$ で、交代的なもの、すなわち 2 つの添字を入れ替えると符号が変わる(とくに同じ添字を 2 つ含めば $0$ になる)ものの全体とする。
添字集合 $I$ に全順序を入れれば、交代的な族は $\alpha_0<\cdots<\alpha_p$ の成分だけで決まり、$K^{p,q}\cong\prod_{\alpha_0<\cdots<\alpha_p}\Omega^q(U_{\alpha_0\cdots\alpha_p})$ である。BT82 §8 は順序付きの成分で定義し、交代的な規約との一致を Exercise 8.4(p. 93)にしている。交代的な規約を使うと、後の作用素 $K$ が順序によらずに書ける。
$\delta^2=0$、$d^2=0$、$\delta d=d\delta$ であり、$D^2=0$ である。また $\delta\circ r=0$、$D\circ r=r\circ d$ であり、$r$ は複体の射 $\Omega^\bullet(M)\to\operatorname{Tot}^\bullet K$ である。
要点:$(\delta^2\omega)$ の成分では、2 つの添字 $\alpha_i,\alpha_j$ を除いた項が符号違いで 2 回現れる。$D^2$ の交差項は $d$ の符号 $(-1)^p$ が列ごとに変わるので打ち消し合う。
$(\delta^2\omega)_{\alpha_0\cdots\alpha_{p+2}}=\sum_i(-1)^i(\delta\omega)_{\alpha_0\cdots\widehat{\alpha_i}\cdots\alpha_{p+2}}$ を展開すると、$i< j$ について $\alpha_i,\alpha_j$ を除いた成分 $\omega_{\cdots\widehat{\alpha_i}\cdots\widehat{\alpha_j}\cdots}$ が、先に $\alpha_j$ を除いてから $\alpha_i$ を除く項(符号 $(-1)^j(-1)^i$)と、先に $\alpha_i$ を除いてから $\alpha_j$ を除く項($\alpha_j$ は 1 つ前にずれるので符号 $(-1)^i(-1)^{j-1}$)の 2 回現れ、打ち消し合う(BT82 Proposition 8.3、p. 93)。$d^2=0$ は外微分の性質で、$\delta d=d\delta$ は外微分が制限と可換なことによる。$x\in K^{p,q}$ について $D^2x=\delta^2x+(-1)^{p+1}d\delta x+(-1)^p\delta dx+d^2x=0$ である。最後に、$(\delta r\omega)_{\alpha\beta}=\omega|_{U_{\alpha\beta}}-\omega|_{U_{\alpha\beta}}=0$ であり、$K^{0,q}$ の上では $D=\delta+d$ なので $Dr\omega=d(r\omega)=r(d\omega)$ である。$\square$
どの多様体も良い被覆をもち、良い被覆は開被覆のなかで共終である(任意の開被覆を細分する良い被覆がある)。コンパクトなら有限の良い被覆がとれる(BT82 Theorem 5.1、p. 42、Corollary 5.2、p. 43。Riemann 計量をとり、測地的に凸な近傍で覆う。この記事では証明しない)。2 の $\check H^p(\mathfrak U,\mathbb R)$ は、局所定数関数の層に対する被覆 $\mathfrak U$ の Čech コホモロジー(Čechコホモロジー の定義「Čech複体」。交代的な族で計算してよいことは同記事の注意「交代複体」)である。良い被覆では空でない重なりが連結なので、$C^p(\mathfrak U,\mathbb R)$ は空でない重なりごとに実数を 1 つ与えるものであり、被覆の重なり方(脈体)だけで決まる。
任意の開被覆 $\mathfrak U$ と $q\ge0$ について、列
$$
0\to\Omega^q(M)\xrightarrow{\ r\ }K^{0,q}\xrightarrow{\ \delta\ }K^{1,q}\xrightarrow{\ \delta\ }K^{2,q}\xrightarrow{\ \delta\ }\cdots
$$
は完全である。さらに、$\mathfrak U$ に従属する 1 の分割 $\{\rho_\alpha\}_{\alpha\in I}$($\operatorname{supp}\rho_\alpha\subset U_\alpha$、台が局所有限、$\sum_\alpha\rho_\alpha=1$)をとり、$p\ge1$ について $K\colon K^{p,q}\to K^{p-1,q}$ を
$$
(K\omega)_{\alpha_0\cdots\alpha_{p-1}}:=\sum_{\alpha\in I}\rho_\alpha\,\omega_{\alpha\alpha_0\cdots\alpha_{p-1}}
$$
で定めると、$p\ge1$ で $\delta K+K\delta=1$ が成り立つ。
右辺の和の各項 $\rho_\alpha\omega_{\alpha\alpha_0\cdots\alpha_{p-1}}$ は $U_{\alpha\alpha_0\cdots\alpha_{p-1}}$ 上の形式だが、$\rho_\alpha$ の台は $U_\alpha$ に含まれる閉集合なので、$U_{\alpha_0\cdots\alpha_{p-1}}$ 上へ $0$ で延ばすと $C^\infty$ 級になる。台が局所有限なので和は各点の近くで有限和であり、$K\omega$ は交代的な族である。
$\delta^2=0$ と $\delta r=0$ は prop-cdr-differentials で示したので、列は複体である。
$r$ の単射性と $K^{0,q}$ での完全性.$r\omega=0$ なら $\omega$ は各 $U_\alpha$ の上で $0$ なので $0$ である。$\omega\in K^{0,q}$ が $\delta\omega=0$ をみたすとは、$(\delta\omega)_{\alpha\beta}=\omega_\beta-\omega_\alpha=0$($U_{\alpha\beta}$ 上)、すなわち各 $U_\alpha$ 上の形式が重なりで一致することである。したがってそれらは貼り合わさって大域的な形式 $\eta\in\Omega^q(M)$ を与え、$\omega=r\eta$ である。1 の分割を使えば $\eta=\sum_\alpha\rho_\alpha\omega_\alpha$ と書ける:$U_\beta$ 上で $\sum_\alpha\rho_\alpha\omega_\alpha=\sum_\alpha\rho_\alpha\omega_\beta=\omega_\beta$ だからである。
$\delta K+K\delta=1$.$p\ge1$、$\omega\in K^{p,q}$ とする。$(\delta\omega)_{\alpha\alpha_0\cdots\alpha_p}$ の定義で最初の添字 $\alpha$ を除く項を分けると
$$
(\delta\omega)_{\alpha\alpha_0\cdots\alpha_p}=\omega_{\alpha_0\cdots\alpha_p}+\sum_{i=0}^{p}(-1)^{i+1}\omega_{\alpha\alpha_0\cdots\widehat{\alpha_i}\cdots\alpha_p}
$$
である。$\rho_\alpha$ を掛けて $\alpha$ について和をとると、$\sum_\alpha\rho_\alpha=1$ により
$$
(K\delta\omega)_{\alpha_0\cdots\alpha_p}=\omega_{\alpha_0\cdots\alpha_p}-\sum_{i=0}^{p}(-1)^{i}(K\omega)_{\alpha_0\cdots\widehat{\alpha_i}\cdots\alpha_p}=\omega_{\alpha_0\cdots\alpha_p}-(\delta K\omega)_{\alpha_0\cdots\alpha_p}
$$
となる。よって $\delta K+K\delta=1$ である。
$p\ge1$ での完全性.$\omega\in K^{p,q}$($p\ge1$)が $\delta\omega=0$ なら、$\omega=\delta(K\omega)+K(\delta\omega)=\delta(K\omega)$ である。$\square$
$\mathfrak U=\{U,V\}$ のとき、交代的な族は $\omega_{UV}=-\omega_{VU}$ の 1 つだけで決まり、$p\ge2$ の成分は同じ添字を含むので $0$ である。定理の列は $0\to\Omega^q(U\cup V)\to\Omega^q(U)\oplus\Omega^q(V)\to\Omega^q(U\cap V)\to0$ となり、これは de Rhamの定理 の命題「de Rham 複体の Mayer–Vietoris 列」の短完全列そのものである(差の向きは符号の規約の違いだけ)。一般化 Mayer–Vietoris 原理は BT82 Proposition 8.5(p. 94)で、作用素 $K$ は同書の (8.6)・(8.7)(pp. 94–95)である。
証明が 1 の分割だけを使っていることに注意する。$\Omega^q$ を局所定数関数に替えると、$\rho_\alpha\omega_{\alpha\cdots}$ はもはや局所定数でないので $K$ は定義できず、行は完全でなくなる。下の例「円周」で、$C^1(\mathfrak U,\mathbb R)$ に $\delta$ で閉じているが $\delta$ の像でない元があることがその具体例である。
次の補題は二重複体についての一般的な事実で、Čech–de Rham 複体では 2 回使う(行について 1 回、列について 1 回)。二重複体 の定理「列が正の次数で非輪状な二重複体の全複体」と同じ内容を、第 1 象限の場合に直接示す。
$K^{p,q}$($p,q\ge0$)を、$\delta\colon K^{p,q}\to K^{p+1,q}$、$d\colon K^{p,q}\to K^{p,q+1}$ が $\delta^2=0$、$d^2=0$、$\delta d=d\delta$ をみたすベクトル空間の族とし、全複体 $\operatorname{Tot}^nK=\bigoplus_{p+q=n}K^{p,q}$ に $D=\delta+(-1)^pd$ を入れる。
要点:$D$ で閉じた元の一番右の成分は $\delta$ で閉じるので、行の完全性から $\delta$ の像になり、$D$ の像を引いて消せる。これを繰り返すと $K^{0,n}$ 成分だけが残り、それは $A^n$ から来る。
1 を示す。$\delta r=0$ なので $Dr(a)=\delta r(a)+d\,r(a)=r(d_Aa)$ であり、$r$ は複体の射である。$\varphi\in\operatorname{Tot}^nK$ の $K^{p,n-p}$ 成分を $\varphi_p$ と書く。$D\varphi$ の $K^{p,n+1-p}$ 成分は $\delta\varphi_{p-1}+(-1)^pd\varphi_p$ である。
主張.$\varphi\in\operatorname{Tot}^nK$ について、$D\varphi$ の成分のうち $K^{p,\,n+1-p}$($p\ge1$)がすべて $0$ なら、ある $\psi\in\operatorname{Tot}^{n-1}K$ について $\varphi-D\psi$ は $K^{0,n}$ 成分しかもたない。実際、$\varphi$ の成分が $0\le p\le m$ にしかなく $m\ge1$ とする。$D\varphi$ の $K^{m+1,n-m}$ 成分は $\delta\varphi_m$ なので $\delta\varphi_m=0$ であり、行の完全性($m\ge1$ での完全性)から $\varphi_m=\delta\chi$ となる $\chi\in K^{m-1,n-m}$ がある。$\varphi':=\varphi-D\chi$ は $K^{m,n-m}$ 成分が $\varphi_m-\delta\chi=0$ で、成分は $0\le p\le m-1$ にしかない。また $D\varphi'=D\varphi$ なので仮定はそのまま保たれる。これを $m$ が $0$ になるまで繰り返せばよい。
全射性.$\varphi\in\operatorname{Tot}^nK$ が $D\varphi=0$ をみたすとする。主張により $\varphi$ を同じコホモロジー類の中で $K^{0,n}$ 成分だけのもの $\varphi_0$ に取り替えられる。$D\varphi_0=\delta\varphi_0+d\varphi_0=0$ で、2 つの項は別の成分なので $\delta\varphi_0=0$、$d\varphi_0=0$ である。行の完全性から $\varphi_0=r(a)$ となる $a\in A^n$ があり、$r(d_Aa)=d\,r(a)=0$ と $r$ の単射性から $d_Aa=0$ である。よって $[\varphi]=r_*[a]$ である。
単射性.$a\in A^n$ が $d_Aa=0$ で、$r(a)=D\psi$($\psi\in\operatorname{Tot}^{n-1}K$)となったとする。$n=0$ なら $r(a)=0$ で $a=0$ である。$n\ge1$ なら、$D\psi=r(a)$ は $K^{0,n}$ 成分しかもたないので、主張を $\psi$(次数 $n-1$)に当てはめて、$\psi-D\chi$ が $K^{0,n-1}$ 成分 $\psi_0$ しかもたないようにできる。$D\psi_0=D\psi=r(a)$ の $K^{1,n-1}$ 成分から $\delta\psi_0=0$ なので、$\psi_0=r(b)$ となる $b\in A^{n-1}$ がある。$r(a)=D\psi_0=d\,r(b)=r(d_Ab)$ と $r$ の単射性から $a=d_Ab$ である。よって $r_*$ は単射である。
2 は、$p$ と $q$ の役割を入れ替えて同じ議論をすればよい。$D\,i(b)=\delta i(b)+(-1)^pd\,i(b)=i(\delta_Bb)$ なので $i$ は複体の射であり、階段は $K^{0,n}$ 成分から $K^{n,0}$ 成分へ向かって順に消していく。符号 $(-1)^p$ は列の完全性に影響しない。$\square$
この補題は BT82 Proposition 8.8 の証明(pp. 96–97)の議論を一般の形で述べたもので、同書 p. 97 は、行の完全性だけを使うこの議論が一般の二重複体に通用することを注意している。
$\mathfrak U$ を $M$ の開被覆とする。
1:thm-cdr-generalized-mv により増大した各行は完全であり、prop-cdr-differentials により $dr=rd$ なので、lem-cdr-staircase の 1 を $A^\bullet=\Omega^\bullet(M)$ に当てはめればよい。
2:第 $p$ 列 $K^{p,0}\xrightarrow{d}K^{p,1}\xrightarrow{d}\cdots$ は、各 $U_{\alpha_0\cdots\alpha_p}$ の de Rham 複体を(添字に全順序を入れて $\alpha_0<\cdots<\alpha_p$ の成分について)直積したものである。仮定から各因子の de Rham 複体のコホモロジーは $0$ 次にしかなく、$0$ 次のコホモロジー $\ker d$ はその上の局所定数関数の空間である。直積はコホモロジーと可換なので、$0\to C^p(\mathfrak U,\mathbb R)\xrightarrow{i}K^{p,0}\xrightarrow{d}K^{p,1}\to\cdots$ は完全である。良い被覆では各交わりが $\mathbb R^n$ と微分同相なので、Poincaréの補題 により仮定をみたす。$C^\bullet(\mathfrak U,\mathbb R)$ の微分は $K^{\bullet,0}$ の $\delta$ の制限なので $\delta i=i\delta$ であり、lem-cdr-staircase の 2 が当てはまる。1 と合わせて $H^\bullet_{dR}(M)\xrightarrow{r_*}H^\bullet(\operatorname{Tot}K)\xleftarrow{i_*}\check H^\bullet(\mathfrak U,\mathbb R)$ はどちらも同型である。$\square$
これは BT82 Proposition 8.8(p. 96)と Theorem 8.9(p. 98)である。良い被覆はどの多様体にもあるので、de Rham コホモロジーは被覆の組合せから計算できる。系として次が従う(BT82 Corollary 8.9.1–8.9.3、p. 99)。
要点:Čech 複体は有限次元の空間の複体になる。
1 は thm-cdr-main の 2 そのものである。2:被覆が $N$ 個の開集合からなるとき、交代的な族は $\alpha_0<\cdots<\alpha_p$ の成分で決まるので $\dim C^p(\mathfrak U,\mathbb R)\le\binom{N}{p+1}$ であり、$\check H^p(\mathfrak U,\mathbb R)$ は有限次元である。$\dim M$ より大きい次数では、$\Omega^q(M)=0$($q>\dim M$)なので $H^q_{dR}(M)=0$ である。$\square$
同型 $\check H^\bullet(\mathfrak U,\mathbb R)\to H^\bullet_{dR}(M)$ は、階段の議論をたどれば 1 の分割で具体的に書ける(BT82 Proposition 9.5・9.8、pp. 102–104 に一般の次数の「貼り合わせの公式」がある)。1 次では次のとおりである。
$\{\rho_\alpha\}$ を $\mathfrak U$ に従属する 1 の分割、$c\in C^1(\mathfrak U,\mathbb R)$ を $\delta c=0$ をみたす Čech 1 余輪体とする。各 $U_\beta$ 上の 1 形式
$$
\omega_\beta:=-\sum_{\alpha\in I}c_{\alpha\beta}\,d\rho_\alpha
$$
は重なりで一致して $M$ 上の閉 1 形式 $\omega$ を定め、$[\omega]=r_*^{-1}i_*[c]$ である。
要点:$(Kc)_\beta=\sum_\alpha\rho_\alpha c_{\alpha\beta}$ とおくと $\delta(Kc)=c$ なので、全複体で $i(c)=D(Kc)-d(Kc)$ となり、$-d(Kc)$ が大域的な閉形式を与える。
$c_{\alpha\beta}\,d\rho_\alpha$ は $U_{\alpha\beta}$ 上の形式だが、$\operatorname{supp}\rho_\alpha\subset U_\alpha$ なので $U_\beta$ 上へ $0$ で延ばせる。$K$ を thm-cdr-generalized-mv の作用素とすると $(Kc)_\beta=\sum_\alpha\rho_\alpha c_{\alpha\beta}$ であり、$c_{\alpha\beta}$ は局所定数なので $\omega_\beta=-d(Kc)_\beta$ である。$c$ を $K^{1,0}$ の元とみると、$\delta c=0$ と $\delta K+K\delta=1$ から $\delta(Kc)=c$ である。$Kc\in K^{0,0}$ の上では $D=\delta+d$ なので $i(c)=D(Kc)-d(Kc)=D(Kc)+(\omega_\beta)_\beta$ である。$i(c)$ と $D(Kc)$ は $D$ で閉じているので $(\omega_\beta)_\beta\in K^{0,1}$ も $D$ で閉じ、とくに $\delta(\omega_\beta)_\beta=0$、すなわち $\omega_\beta$ は重なりで一致する(thm-cdr-generalized-mv の $K^{0,q}$ での完全性)。貼り合わせた形式 $\omega$ は $r(\omega)=(\omega_\beta)_\beta$ をみたし、$d\omega=0$ である($D\,r(\omega)=r(d\omega)=0$)。上の式から $i(c)$ と $r(\omega)$ は $\operatorname{Tot}K$ で同じ類を定める。$\square$
$S^1=\mathbb R/\mathbb Z$ を、正の向きに並んだ 3 つの開いた弧 $U_0,U_1,U_2$ で覆い、隣り合う弧だけが 1 つの弧で重なり、3 つの交わりは空であるようにする。これは良い被覆である(BT82 Example 9.1・9.2、pp. 100–101)。
Čech コホモロジー.$C^0(\mathfrak U,\mathbb R)=\mathbb R^3$(成分 $b_0,b_1,b_2$)、$C^1(\mathfrak U,\mathbb R)=\mathbb R^3$(成分 $c_{01},c_{12},c_{02}$)、$C^p(\mathfrak U,\mathbb R)=0$($p\ge2$)である。$(\delta b)_{\alpha\beta}=b_\beta-b_\alpha$ の核は $b_0=b_1=b_2$ の 1 次元、像は 2 次元なので
$$
\check H^0(\mathfrak U,\mathbb R)=\mathbb R,\qquad\check H^1(\mathfrak U,\mathbb R)=\mathbb R^3/\operatorname{im}\delta\cong\mathbb R
$$
であり、同型 $\check H^1\to\mathbb R$ は $c\mapsto c_{01}+c_{12}+c_{20}$($c_{20}=-c_{02}$)で与えられる。実際この値は $\delta b$ で $(b_1-b_0)+(b_2-b_1)+(b_0-b_2)=0$ となり、$c=(1,0,0)$ で $1$ である。
対応する閉形式.$c_{01}=1$、$c_{12}=c_{02}=0$ とし、prop-cdr-degree-one を当てはめる。$c_{10}=-1$ なので $\omega_0=d\rho_1$、$\omega_1=-d\rho_0$、$\omega_2=0$ である。$U_{01}$ は $U_2$ と交わらないので $U_{01}$ 上で $\rho_0+\rho_1=1$ であり、$\omega$ の台は $U_{01}$ に含まれる。$U_{01}$ を正の向きに通るとき、入口は $U_1$ の端の近くで $\rho_1=0$、出口は $U_0$ の端の近くで $\rho_0=0$ すなわち $\rho_1=1$ なので
$$
\int_{S^1}\omega=\int_{U_{01}}d\rho_1=1-0=1
$$
である(BT82 Example 9.9、pp. 104–105)。$\check H^1$ も $H^1_{dR}(S^1)$ も 1 次元なので、同型は $\int_{S^1}\omega=c_{01}+c_{12}+c_{20}$ という形で書ける。周回に沿って重なりの値を足したものが、閉形式の周期になる。
$S^2$ を、上半球を少し広げた開集合 $U_0$ と、下半球を 3 つに分けて少し広げた $U_1,U_2,U_3$ で覆うと、4 つの交わりは空、3 つの交わりは $U_0\cap U_1\cap U_2$ などの 4 個($U_{123}$ は南極の近く)、2 つの交わりは 6 個がすべて空でなく円板になる良い被覆がとれる。その脈体は四面体の表面である(BT82 Example 9.3、pp. 101–102)。Čech 複体は
$$
0\to\mathbb R^4\xrightarrow{\ \delta_0\ }\mathbb R^6\xrightarrow{\ \delta_1\ }\mathbb R^4\to0
$$
である。$\ker\delta_0$ は定数の 1 次元なので $\operatorname{rank}\delta_0=3$ である。$\delta_1$ の像は 3 次元である:余輪体 $\eta$ は $\eta_{01},\eta_{02},\eta_{03}$ で決まり($\eta_{12}=\eta_{02}-\eta_{01}$ などが $(\delta\eta)_{012}=0$ などから従う)、$\ker\delta_1$ は 3 次元だからである。したがって
$$
\check H^0=\mathbb R,\qquad\check H^1=\ker\delta_1/\operatorname{im}\delta_0=0,\qquad\check H^2=\mathbb R^4/\operatorname{im}\delta_1\cong\mathbb R
$$
であり、thm-cdr-main により $H^\bullet_{dR}(S^2)$ も次数 $0,2$ で $\mathbb R$、ほかは $0$ である。
全複体の類の読み方.$\operatorname{Tot}^1K$ の $D$ 閉な元 $a+b$($a\in K^{0,1}$、$b\in K^{1,0}$)は、$da=0$、$\delta a=d b$、$\delta b=0$ をみたす。$b=0$ なら $a$ は大域的な閉形式、$a=0$ なら $b$ は Čech 余輪体であり、一般の元はその中間で、局所的な閉形式の食い違いを局所定数関数の差で補ったものである。prop-cdr-degree-one の証明は、この中間の元を両端へ押しやる操作を具体的に書いたものである。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 交わりの正の次数のコホモロジーが消える(良い被覆) | $S^1$ を 1 つの開集合 $\{S^1\}$ で覆う | $H^\bullet_{dR}(M)\cong\check H^\bullet(\mathfrak U,\mathbb R)$ |
| 係数が 1 の分割で分解できる(形式の層) | $S^1$ の 3 つの弧、係数を局所定数関数にする | 行の完全性(一般化 Mayer–Vietoris 原理) |
| 交わりが連結(局所定数関数でなく定数だけを使う場合) | $S^1$ を 2 つの弧で覆い、交わり(2 成分)に実数を 1 つだけ与える | $H^1$ の一致 |
1 行目:被覆 $\{S^1\}$ では $C^0(\mathfrak U,\mathbb R)=\mathbb R$ で、$p\ge1$ の成分は同じ添字を含むので $0$ である。よって $\check H^1(\mathfrak U,\mathbb R)=0$ だが、$H^1_{dR}(S^1)=\mathbb R$ である(ex-cdr-circle)。thm-cdr-main の 1 は成り立っているが、列 $0\to\mathbb R\to\Omega^0(S^1)\to\Omega^1(S^1)\to0$ が $\Omega^1(S^1)$ で完全でないので 2 が使えない。
2 行目:ex-cdr-circle の $c=(1,0,0)$ は $\delta c=0$ だが $\delta$ の像にない。形式を係数とする行なら $c=\delta(Kc)$ と書けるが、$Kc=(-\rho_1,\rho_0,0)$ は局所定数でない。一般化 Mayer–Vietoris 原理は 1 の分割が使える係数(微分形式、より一般に $C^\infty$ 級関数の加群の層)に特有の性質である。
3 行目:$S^1$ を 2 つの開いた弧 $U,V$ で覆うと $U\cap V$ は 2 つの弧に分かれる。局所定数関数を使えば $C^1(\mathfrak U,\mathbb R)=\mathbb R^2$ で $\check H^1=\mathbb R^2/\operatorname{im}\delta\cong\mathbb R$ となり、正しい答えが出る(各成分は可縮なので thm-cdr-main の 2 の仮定をみたす)。しかし重なりごとに実数を 1 つだけ与える組合せ的な複体 $\mathbb R^2\to\mathbb R$ では $\check H^1=0$ となる。脈体だけで計算するには、交わりが連結であること(良い被覆ならみたされる)が要る。
Čech コホモロジーの一般論との関係.Čechコホモロジー の記事の反例「重なりが非輪状でない被覆」は、1 行目と同じ現象を層コホモロジーの側から見たものである。二重複体 の例「Čech–de Rham二重複体とde Rhamの定理」は二重複体の 2 つの読み方としての筋を述べており、この記事の thm-cdr-generalized-mv と lem-cdr-staircase はその 2 つの段階を完全にしたものである。良い被覆の Čech コホモロジーが特異コホモロジーと一致することは BT82 Theorem 15.8(p. 191、整数係数で述べられている)にあり、この記事では証明しない(多様体の上での一致は de Rhamの定理 が別の方法で示している)。
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