ラック

同義語:rack

概要

ラック(rack)とは、集合 $X$ と二項演算 $\ast$ の組で、各元 $y$ による右移動 $x\mapsto x\ast y$ が全単射であり、右自己分配律 $(x\ast y)\ast z=(x\ast z)\ast(y\ast z)$ をみたすものである。冪等性 $x\ast x=x$ を加えたものがカンドルで、写像 $x\mapsto x\ast x$ はどのラックでも全単射な自己同型になり、それが恒等写像であることがカンドルであることと同値になる。結び目の図式のラックによる彩色は II 型・III 型の Reidemeister 移動で 1 対 1 に対応し、よじれを通ると色がこの写像で動くので、ラックはカンドルでは見えない図式のよじれ、すなわち枠付き絡み目の枠の違いを検出でき、自明な結び目では枠の絶対値を区別する。図式の基本ラックの随伴群は絡み目群と同型である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: カンドル, 結び目カンドル, 群の表示, 米田の補題

ラック(rack)は、集合 $X$ と二項演算 $\ast$ の組で、各元 $y$ による右移動 $x\mapsto x\ast y$ が $X$ の全単射であり、右自己分配律 $(x\ast y)\ast z=(x\ast z)\ast(y\ast z)$ をみたすものである。カンドル はこれにさらに冪等性 $x\ast x=x$ を課したものなので、カンドルはラックの特別な場合である。
結び目の図式の弧に元を塗るとき、全単射性は Reidemeister 移動の II 型、右自己分配律は III 型に対応し、冪等性は I 型に対応する(カンドル の節「Reidemeister 移動と公理の対応」)。冪等性を外したラックは I 型での不変性を失うが、そのかわりに図式の「よじれ」を数えることができ、枠付きの結び目・絡み目の不変量になる。この見方は Fenn–Rourke による。
この記事では、ラックの基本性質(よじれの写像 $x\mapsto x\ast x$ が全単射な自己同型であること)、ラックによる彩色が II 型・III 型の移動で 1 対 1 に対応すること、I 型ではよじれの写像で色が動くことを証明する。そこから図式の基本ラックの不変性と、その随伴群が絡み目群であることを導き、よじれの数が異なる自明な結び目の図式をラックで区別する。

定義

ラック

集合 $X$ と写像 $X\times X\to X$、$(x,y)\mapsto x\ast y$ の組で、次をみたすものをラックという。

  1. (右移動の全単射性)各 $y\in X$ について、写像 $S_y\colon X\to X$、$S_y(x):=x\ast y$ は全単射である。
  2. (右自己分配律)すべての $x,y,z\in X$ について $(x\ast y)\ast z=(x\ast z)\ast(y\ast z)$ である。
    $S_y$ を $y$ による右移動、$x\ast^{-1}y:=S_y^{-1}(x)$ を逆演算という。準同型・同型・自己同型は カンドル の定義「準同型と部分カンドル」と同じく定める。

右自己分配律は、$S_z$ が演算を保つこと、すなわち $S_z(x\ast y)=S_z(x)\ast S_z(y)$ と同じである。したがって各 $S_z$ は自己同型で、その逆写像 $S_z^{-1}$ も自己同型である(カンドル の補題「基本の恒等式」の 3 の証明は冪等性を使わない)。準同型は逆演算も保つ。文献によっては演算を左から書く(Brieskorn の automorphic set)、または $x\ast y$ を指数の形 $x^y$ で書く。

基本性質

以下、写像の合成 $g\circ h$ は「先に $h$、続いて $g$」を表す。

右移動と共役

ラック $X$ の自己同型 $g$ と $x\in X$ について $S_{g(x)}=g\circ S_x\circ g^{-1}$ である。とくに $S_{x\ast y}=S_y\circ S_x\circ S_y^{-1}$ である。

任意の $u$ について $g(S_x(g^{-1}(u)))=g(g^{-1}(u)\ast x)=u\ast g(x)=S_{g(x)}(u)$ である。$g=S_y$ と置けば後半になる。$\square$

よじれの写像

ラック $X$ の写像 $\pi\colon X\to X$、$\pi(x):=x\ast x$ について次が成り立つ。

  1. $S_{\pi(x)}=S_x$ である。
  2. $\pi$ は全単射で、逆写像は $z\mapsto z\ast^{-1}z$ である。
  3. $\pi$ は自己同型で、すべての $S_y$ と可換である。
    とくに $X$ がカンドルであることと $\pi=\mathrm{id}_X$ は同値である。

1:prop-rack-conj で $y=x$ と置くと $S_{x\ast x}=S_x\circ S_x\circ S_x^{-1}=S_x$ である。
2:単射。$\pi(x)=\pi(x')=:z$ とすると、1 により $S_x=S_z=S_{x'}$ である。$S_x(x)=z=S_{x'}(x')=S_x(x')$ で $S_x$ は単射なので $x=x'$ である。全射。$z\in X$ に対し $x:=z\ast^{-1}z$ と置くと $x\ast z=z$ である。prop-rack-conj から $S_z=S_{x\ast z}=S_z\circ S_x\circ S_z^{-1}$、したがって $S_x=S_z$ で、$\pi(x)=S_x(x)=S_z(x)=z$ である。この計算は逆写像が $z\mapsto z\ast^{-1}z$ であることも示している。
3:右自己分配律で $y=x$ と置くと $(x\ast x)\ast z=(x\ast z)\ast(x\ast z)$、すなわち $S_z\circ\pi=\pi\circ S_z$ である。これと 1 から
$$ \pi(x\ast y)=\pi(S_y(x))=S_y(\pi(x))=S_{\pi(y)}(\pi(x))=\pi(x)\ast\pi(y) $$
であり、2 と合わせて $\pi$ は自己同型である。$\square$

例

自明カンドル・共役カンドル・二面体カンドル・Alexander カンドルなど、カンドル の命題「主な例」に挙げたカンドルはどれもラックである。カンドルでないラックの典型は次の例である。

置換ラック

集合 $X$ とその全単射 $\sigma$ について $x\ast y:=\sigma(x)$ と定める。$S_y=\sigma$ は全単射で、$(x\ast y)\ast z=\sigma^2(x)=(x\ast z)\ast(y\ast z)$ なのでラックである。$\pi=\sigma$ なので、$\sigma\ne\mathrm{id}$ ならカンドルではない。たとえば $\mathbb{Z}/m$($m\ge2$)に $x\ast y:=x+1$ を入れたラックは、カンドルでないラックである。

置換ラックでは、すべての元が同じ全単射で作用する。図式の言葉では、下の節で見るように「よじれを 1 回通るごとに色が $\sigma^{\pm1}$ で動く」ことだけを見ている。

随伴群

ラック $X$ の随伴群 $\operatorname{As}(X)$ を、カンドルの場合(カンドル の定義「随伴群」)と同じ表示
$$ \operatorname{As}(X):=\bigl\langle\,e_x\ (x\in X)\ \bigm|\ e_{x\ast y}=e_y^{-1}e_xe_y\ (x,y\in X)\,\bigr\rangle $$
で定める。共役カンドル $\operatorname{Conj}(G)$($x\ast y=y^{-1}xy$)について、全単射
$$ \operatorname{Hom}_{\text{ラック}}(X,\operatorname{Conj}(G))\cong\operatorname{Hom}_{\text{群}}(\operatorname{As}(X),G) $$
が成り立ち、$G$ について自然である。カンドル の定理「随伴群の普遍性」の証明は表示の普遍性だけを使い、冪等性を使わないので、そのままラックで成り立つ。

置換ラックの随伴群

$\mathbb{Z}/m$ の置換ラック $x\ast y=x+1$ では、$y=x$ の関係式から $e_{x+1}=e_x^{-1}e_xe_x=e_x$ となり、すべての $e_x$ が等しい。すべての $e_x$ を 1 つの $e$ に置くと、どの関係式も $e=e^{-1}ee$ で自明になるので、$\operatorname{As}(X)\cong\mathbb{Z}$ である。$m$ 個の元が 1 つの元に送られるので、$X\to\operatorname{As}(X)$ は単射とは限らない。

図式の彩色と移動

図式・弧・交差の符号は Wirtinger表示 の定義「正則な射影と図式」「弧と交差の符号」に、右の弧・左の弧は 結び目カンドル の言い方に従う(上の弧の向きに沿って進むとき、下の線の右側の部分が右の弧、左側の部分が左の弧)。$\varepsilon=1$ の交差では下の線は右の弧から左の弧へくぐる。

ラックによる彩色

ラック $X$ による図式 $D$ の彩色とは、弧の集合から $X$ への写像 $c$ で、各交差で上の弧を $\alpha_o$ として
$$ c(\text{左の弧})=c(\text{右の弧})\ast c(\alpha_o) $$
をみたすものをいう。その全体を $\operatorname{Col}_X(D)$ と書く。

カンドルによる彩色(カンドル彩色 の定義「カンドル彩色」)と同じ規則である。$X=\operatorname{Conj}(G)$ なら条件は $c(\text{左})=c(\alpha_o)^{-1}c(\text{右})\,c(\alpha_o)$ で、Wirtinger表示 の関係式と同じ形である。
移動 I・II・III は 結び目カンドル の定義「Reidemeister 移動」の I 型・II 型・III 型とする。さらに次の移動を考える。

  • **移動 I'**:円板の中で、交差のない 1 本の線を、自分自身と 1 回ずつ交わる 2 つのよじれを続けてもち、その 2 つの交差の符号が反対である線に取り替える。またその逆。
移動と彩色

$X$ をラックとし、図式 $D'$ は $D$ に移動を 1 回施したものとする。

  1. II 型・III 型なら、円板の外の弧の色を保つ全単射 $\operatorname{Col}_X(D)\to\operatorname{Col}_X(D')$ がある。円板の中の弧の色は、外の色から $\ast$ と $\ast^{-1}$ で決まる。
  2. 符号 $\varepsilon$ のよじれでは、向きに沿ってよじれに入る弧の色を $a$ とすると、出る弧の色は $\pi^{\varepsilon}(a)$ である($\pi$ は prop-rack-kink の写像)。逆に出る弧を $\pi^{\varepsilon}(a)$ と塗れば彩色が延びる。
  3. したがって移動 I' でも 1 の全単射がある。$X$ がカンドルなら I 型でもある。
II 型

上の線は円板の中で 1 本の弧で、色を $c$ とする。下の線は 3 本の弧に分かれ、両端の 2 本 $a,a'$ は上の線の同じ側に、中央の 1 本 $m$ は反対側にある。両端が右側なら条件は $m=a\ast c=a'\ast c$ で、$S_c$ の単射性から $a=a'$、$m$ は $a$ から決まる。両端が左側なら条件は $a=m\ast c$ と $a'=m\ast c$ なので $a=a'$ で、$S_c$ の全射性から $m=a\ast^{-1}c$ がただ 1 つ決まる。どちらの場合も $D'$ の彩色は円板の外の色($a=a'$ と $c$)で決まり、どの色からも作れる。移動前の図式では両端が 1 本の弧なので、これが全単射を与える。$\square$

III 型

上・中・下の線を $T,M,B$ とする。$T$ は 1 本の弧で色を $z$ とする。$M$ は $T$ の下で 2 本に分かれ、$T$ の右側の弧の色を $y$ とすると左側の弧の色は $y\ast z$ である。$y_{\mathrm R}:=y$、$y_{\mathrm L}:=y\ast z$ と書く。円板は $M$ と $T$ で 4 つの象限 $Q(\sigma,\tau)$ に分かれる($\sigma$ は $M$ のどちら側か、$\tau$ は $T$ のどちら側か、$\sigma,\tau\in\{\mathrm L,\mathrm R\}$)。
4 つの値 $\beta(\sigma,\tau)\in X$ で
$$ \beta(\mathrm L,\tau)=\beta(\mathrm R,\tau)\ast y_\tau,\qquad \beta(\sigma,\mathrm L)=\beta(\sigma,\mathrm R)\ast z $$
をみたすものを正方形の彩色と呼ぶ。正方形の彩色は、$x:=\beta(\mathrm R,\mathrm R)$ を任意に選んで $\beta(\mathrm L,\mathrm R)=x\ast y$、$\beta(\mathrm R,\mathrm L)=x\ast z$、$\beta(\mathrm L,\mathrm L)=(x\ast y)\ast z$ と定めればよく、$\beta(\mathrm L,\mathrm L)$ の 2 通りの求め方 $(x\ast y)\ast z$ と $(x\ast z)\ast(y\ast z)$ は右自己分配律で一致する。逆に、どれか 1 つの象限の値から $\ast^{-1}$ を使って $x$ が一意に決まる。
$B$ は 3 本の弧に分かれ、両端の弧と中央の弧は 3 つの続いた象限にある(中央の弧の象限と各端の象限は座標が 1 つだけ違う)。$B$ が $M$ と交わる点は中央の象限と同じ $T$ の側 $\tau$ にあり、そこでの上の弧の色は $y_\tau$ である。$B$ が $T$ と交わる点での上の弧の色は $z$ である。したがって $B$ の 2 つの交差の条件は正方形の彩色の 2 つの関係式そのもので、$B$ の彩色は正方形の彩色を 3 つの象限に制限したものと 1 対 1 に対応する。
III 型の移動では、$T$ と $M$ と $B$ の端点を保ったまま $B$ が $M$ と $T$ の交点の反対側へ移るので、$B$ の中央の部分は $M$ と $T$ の両方について反対側へ移り、反対の象限に入る。両端の弧の象限は変わらない。したがって $D$ と $D'$ の彩色はどちらも $(y,z,\text{正方形の彩色})$ と 1 対 1 に対応し、この対応は円板の外へ出る弧($T$、$M$ の 2 本、$B$ の両端)の色を保つ。$\square$

よじれ

よじれでは、下の線の 2 本の弧のうち一方が上の線を兼ねる。入る弧を $a$、出る弧を $b$ とする。$\varepsilon=1$ なら下の線は右から左へくぐるので、$a$ が右、$b$ が左の弧で、$b=a\ast o$($o$ は上の弧)である。$o=a$ なら $b=a\ast a=\pi(a)$、$o=b$ なら $b=a\ast b$ から $a=b\ast^{-1}b=\pi^{-1}(b)$(prop-rack-kink の 2)、すなわち $b=\pi(a)$ である。$\varepsilon=-1$ なら $a$ が左、$b$ が右で $a=b\ast o$ である。$o=b$ なら $a=\pi(b)$、$o=a$ なら $b=a\ast^{-1}a=\pi^{-1}(a)$ で、どちらも $b=\pi^{-1}(a)$ である。逆に $b=\pi^{\varepsilon}(a)$ と塗れば条件をみたす。
符号が反対の 2 つのよじれを続けて通ると色は $\pi^{-\varepsilon}\pi^{\varepsilon}=\mathrm{id}$ で戻り、途中の色は入る色から一意に決まるので、移動 I' で全単射がある。カンドルでは $\pi=\mathrm{id}$(prop-rack-kink)なので、よじれ 1 つでも同じである。$\square$

I 型の移動でラックの彩色は保たれない。下の例で、よじれの個数が彩色に現れる。

図式の基本ラック

図式 $D$ の基本ラック $R(D)$ を、弧を生成元とし、各交差の関係式 $(\text{左の弧})=(\text{右の弧})\ast(\text{上の弧})$ を関係とする、生成元と関係式で与えられるラックとする(Kam02 §3、p. 107)。生成元と関係式で与えられるラックは、結び目カンドル の補題「表示の存在」の証明で冪等性の関係 $t\ast t\sim t$ を除けば同じように作れ、同じ普遍性をもつ。したがってラックの準同型 $R(D)\to X$ は弧の色で決まり、$\operatorname{Hom}(R(D),X)\cong\operatorname{Col}_X(D)$ がラック $X$ について自然に成り立つ。

基本ラックの不変性

図式 $D,D'$ が平面イソトピーと移動 II・III・I' の有限回の列で移り合うなら、$R(D)\cong R(D')$ である。I 型の移動では一般に同型でない。

平面イソトピーは弧・交差・左右を保つ。thm-rack-moves の全単射は、円板の外の色を保ち円板の中の色を外の色から $\ast$、$\ast^{-1}$、$\pi^{\pm1}$ で決めるだけなので、ラックの準同型 $X\to X'$ と両立する。したがって $\operatorname{Hom}(R(D),-)\cong\operatorname{Col}_{-}(D)\cong\operatorname{Col}_{-}(D')\cong\operatorname{Hom}(R(D'),-)$ はラックの圏での自然同型であり、米田の補題 の系「表現可能関手による同型判定」により $R(D)\cong R(D')$ である。I 型で同型でない例は ex-rack-unknot である。$\square$

Fenn–Rourke は、枠付きの絡み目 $L$ について、枠でずらした平行な曲線の点から基点への道のホモトピー類全体に、メリディアンを使った演算を入れて基本ラック $\Gamma(L)$ を位相的に定めた。図式から決まる枠(黒板の枠)を考えると $R(D)\cong\Gamma(L)$ となる(定義と同一視は FRS07 §3、pp. 22–23。この記事では証明しない)。この意味で $R(D)$ は枠付き絡み目の不変量である。

随伴群は絡み目群

$D$ を絡み目 $L$ の図式とすると、$\operatorname{As}(R(D))\cong\pi_1(\mathbb{R}^3\setminus L)$ である。

$W(D)$ を Wirtinger表示 の群とする。群 $G$ について、随伴群の普遍性、$R(D)$ の普遍性、$\operatorname{Conj}(G)$ による彩色の条件が Wirtinger の関係式と同じ形であること、群の表示 の普遍性を順に使うと
$$ \operatorname{Hom}(\operatorname{As}(R(D)),G)\cong\operatorname{Hom}(R(D),\operatorname{Conj}(G))\cong\operatorname{Col}_{\operatorname{Conj}(G)}(D)\cong\operatorname{Hom}(W(D),G) $$
で、どれも $G$ について自然である。米田の補題 の系「表現可能関手による同型判定」により $\operatorname{As}(R(D))\cong W(D)$ であり、Wirtinger表示 の定理「Wirtinger 表示の定理」とその後の注意「絡み目と $S^3$」により $W(D)\cong\pi_1(\mathbb{R}^3\setminus L)$ である。$\square$

カンドルの場合の同じ主張は 結び目カンドル の定理「随伴群は結び目群」である。随伴群は冪等性を見ないので、ラックとカンドルの違いは随伴群には現れない。

よじれをもつ自明な結び目

整数 $w$ について、平面の円に同じ符号 $\operatorname{sgn}w$ のよじれを $\lvert w\rvert$ 個加えた図式を $U_w$ とする。thm-rack-moves の 2 により、色 $a$ の弧から円を 1 周すると色は $\pi^{w}(a)$ になるので
$$ \operatorname{Col}_X(U_w)\cong\{a\in X\mid\pi^{w}(a)=a\} $$
である。$X$ を $\mathbb{Z}/m$ の置換ラック $x\ast y=x+1$ とすると $\pi(x)=x+1$ なので、$\operatorname{Col}_X(U_w)$ は $m\mid w$ なら $m$ 個、そうでなければ空である。
$\lvert w\rvert>\lvert w'\rvert$ とする。$w'\ne0$ なら $m=\lvert w\rvert$ と選ぶと $m\mid w$ だが $0< \lvert w'\rvert< m$ なので $m\nmid w'$ である。$w'=0$ なら $m=\lvert w\rvert+1$ と選ぶと $m\mid w'$ だが $m\nmid w$ である。どちらでも一方の図式だけが彩色をもつので、$R(U_w)\not\cong R(U_{w'})$ である。一方、カンドルでは $\pi=\mathrm{id}$ なので、どの $U_w$ も交差のない円と同じ彩色をもつ。

$U_w$ を黒板の枠でずらした曲線と $U_w$ との絡み数は $w$ である(絡み数 の定理「交差の符号による公式」:自己交差 1 つごとに、ずらした曲線が上を通る交差がちょうど 1 つ同じ符号で現れる)。ラックは、カンドルでは見えないこの枠の数の絶対値 $\lvert w\rvert$ を検出する($\pi^{w}(a)=a$ と $\pi^{-w}(a)=a$ は同値なので、$R(U_w)\cong R(U_{-w})$ である)。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
右移動の全単射性$X=\{0,1\}$、$x\ast y:=0$II 型での彩色の 1 対 1 対応
右自己分配律$X=\mathbb{Z}/3$、$x\ast y:=x+y$$S_z$ が演算を保つこと、III 型での彩色の 1 対 1 対応
冪等性(ラックからカンドルへ)$\mathbb{Z}/2$ の置換ラック $x\ast y:=x+1$I 型での彩色の 1 対 1 対応

1 行目:右自己分配律は両辺が $0$ で成り立つが、$S_y$ は定数写像である。prf-rack-moves-2 の両端が右側の場合、移動後の図式では $m=0$ で $a,a'$ は独立に選べるので、移動前($a=a'$)より彩色が多い。
2 行目:$S_y$ は平行移動で全単射だが、$(x\ast y)\ast z=x+y+z$、$(x\ast z)\ast(y\ast z)=x+y+2z$ で、$z\ne0$ なら異なる。正方形の彩色の 2 通りの求め方が一致しない。
3 行目:ex-rack-unknot で $m=2$、$w=1$ とすると $\operatorname{Col}_X(U_1)$ は空だが、$U_0$ は 2 つの彩色をもつ。

補足

文献と規約

ラックと枠付き絡み目の基本ラックは Fenn–Rourke による。カンドル・ラックの定義と例、図式のラック・カンドルの表示、随伴群は Kam02 §2–§3(pp. 104–109)にまとめられている。ラックの定義は FRS07 §1(p. 5)にもあり、そこでは演算を指数の形で書いている。

関連項目

参考文献

[1]
Seiichi Kamada, Knot invariants derived from quandles and racks, Geometry & Topology Monographs(Invariants of knots and 3-manifolds, Kyoto 2001), 2002, pp. 103–117(§2(キー・カンドル・ラックの公理と例、pp. 104–106)、§3(図式のカンドル・ラックの表示と随伴群、pp. 106–109))

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