幾何分布と待ち時間(geometric distribution and waiting times)とは、成功の確率が $p$($0<p<1$)で一定の試行を独立にくり返すとき、初めて成功するまでの回数 $T$ の分布の話題である。$T$ は幾何分布 $P(T=j)=q^{j-1}p$($j=1,2,\ldots$、$q=1-p$)に従い、$P(T>j)=q^j$、平均は $\frac1p$、分散は $\frac q{p^2}$ である。すべての正の整数 $s,t$ で無記憶性 $P(T>s+t\mid T>s)=P(T>t)$ が成り立つ。逆に、正の整数の値だけをとり $P(X>1)>0$ で、すべての正の整数 $s,t$ で $P(X>s+t)=P(X>s)P(X>t)$ を満たす確率変数 $X$ は幾何分布に従う。
前提知識: 反復試行の確率, 確率変数の期待値と分散, 期待値の漸化式と停止, 無限級数の和と収束判定
さいころを、6 の目が出るまで振り続ける。6 の目が初めて出るのが何回目かを $T$ とする。$T$ は $1,2,3,\ldots$ のどの値もとりうる。$T$ がそれぞれの値をとる確率は、反復試行の確率 と同じ考え方で求まる。
$T=j$ となるのは、1 回目から $j-1$ 回目までに 6 以外の目が出て、$j$ 回目に 6 の目が出るときである。各回の結果は独立で、6 以外の目が出る確率は $\dfrac56$、6 の目が出る確率は $\dfrac16$ なので
$$
P(T=j)=\underbrace{\frac56\cdot\frac56\cdots\frac56}_{j-1\text{ 個}}\cdot\frac16=\left(\frac56\right)^{j-1}\frac16\qquad(j=1,2,3,\ldots)
$$
である。$j=1$ から $6$ までの値を並べると次のようになる。
| $j$ | $1$ | $2$ | $3$ | $4$ | $5$ | $6$ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| $P(T=j)$ | $\dfrac16$ | $\dfrac5{36}$ | $\dfrac{25}{216}$ | $\dfrac{125}{1296}$ | $\dfrac{625}{7776}$ | $\dfrac{3125}{46656}$ |
| 小数 | $0.167$ | $0.139$ | $0.116$ | $0.096$ | $0.080$ | $0.067$ |
どの確率も、1 つ前の $\dfrac56$ 倍である。いちばん起こりやすいのは $T=1$ で、$T$ が大きいほど確率は小さくなるが、$0$ にはならない。
硬貨を、表が出るまで投げ続ける。表が初めて出る回を $T$ とすると、同じ考え方で
$$
P(T=j)=\left(\frac12\right)^{j-1}\cdot\frac12=\frac1{2^j}\qquad(j=1,2,3,\ldots)
$$
である。$P(T=1)=\dfrac12$、$P(T=2)=\dfrac14$、$P(T=3)=\dfrac18$、$P(T=4)=\dfrac1{16}$ で、確率は 1 つ進むごとに半分になる。
成功の確率が 1/2 のとき、初めて成功する回 T の分布。棒の高さは 1 つ進むごとに半分になる。破線は平均 2 の位置
成功の確率が 1/6 のとき、初めて成功する回 T の分布。棒の高さは 1 つ進むごとに 5/6 倍になり、裾が長い。破線は平均 6 の位置
図 1(成功の確率 $\frac12$)と図 2(成功の確率 $\frac16$)を比べると、成功の確率が小さいほど、棒の高さの減り方がゆるやかで、大きな $T$ まで確率が残っている。どちらでも、いちばん高い棒は $T=1$ である。
この記事では、成功の確率が $p$ の試行をくり返すときの「初めて成功するまでの回数」を一般に調べる。答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 6 の目が初めて出る回 | 初めて成功するまでの回数 $T$ | 幾何分布に従う確率変数 |
| 「$j$ 回続けて 6 以外」の確率 $\left(\frac56\right)^j$ | $P(T>j)=q^j$ | 生存関数(裾の確率) |
| 等比数列の和の工夫 | $\sum jx^{j-1}=\dfrac1{(1-x)^2}$ | べき級数の項別微分 |
| 何回失敗しても次の確率は同じ | 無記憶性 | 幾何分布の特徴づけ |
さいころでも硬貨でも、使ったのは次の 2 つの仮定だけである。この 2 つを取り出して定義にする。
1 回ごとに「成功」か「失敗」のどちらかが起こる試行を考え、次の 2 つを仮定する。
(R1) どの回でも、成功の確率は同じ値 $p$ である($0< p<1$)。失敗の確率を $q=1-p$ とおく。
(R1) 各回の結果は互いに独立である。
この試行を成功が出るまでくり返し、初めて成功する回を $T$ とする。$T$ は正の整数の値をとり
$$
P(T=j)=q^{j-1}p\qquad(j=1,2,3,\ldots)
$$
である。この分布を、成功の確率 $p$ の 幾何分布 という。$T$ を、初めて成功するまでの 待ち時間 ともいう(回数を時刻と見る)。
$P(T=j)=q^{j-1}p$ となる理由は ex-geo-die と同じである。$T=j$ は「1 回目から $j-1$ 回目まで失敗し、$j$ 回目に成功」という事象で、条件 (ii) により各回の確率を掛けてよく、条件 (i) により掛ける数は $q$ が $j-1$ 個と $p$ が 1 個になる。確率 $q^{j-1}p$ は公比 $q$ の等比数列なので、この名前がある。
分布を扱うときは、「$T$ がちょうど $j$」より「$T$ が $j$ より大きい」のほうが式が簡単になることが多い。
成功の確率 $p$ の幾何分布に従う $T$ について、次が成り立つ。
(1) $0$ 以上の整数 $j$ について $P(T>j)=q^j$ である。
(2) $\displaystyle\sum_{j=1}^{\infty}P(T=j)=1$ である。つまり、確率 $1$ でいつかは成功する。
さいころで 6 の目が出るまで振る($q=\dfrac56$)。
(1) 10 回振っても 6 の目が出ない確率は
$$
P(T>10)=\left(\frac56\right)^{10}=\frac{9765625}{60466176}=0.1615\ldots
$$
で、約 16% ある。6 回に 1 回出る目でも、10 回続けて出ないことは珍しくない。
(2) 何回振れば、6 の目が出ている確率が $\dfrac12$ 以上になるか。$P(T\le m)=1-\left(\dfrac56\right)^m\ge\dfrac12$、つまり $\left(\dfrac56\right)^m\le\dfrac12$ となる最小の $m$ を求める。$\left(\dfrac56\right)^3=\dfrac{125}{216}=0.578\ldots$、$\left(\dfrac56\right)^4=\dfrac{625}{1296}=0.482\ldots$ なので、$m=4$ である。半分以上の確率で 4 回以内に 6 の目が出る。
ex-geo-tail (2) の $4$ は、あとで求める平均 $6$ よりずっと小さい。図 2 の長い裾が平均を大きくしている。
$T$ の期待値は無限個の項の和
$$
E[T]=\sum_{j=1}^{\infty}j\,q^{j-1}p=p\,(1+2q+3q^2+4q^3+\cdots)
$$
である。括弧の中は等比数列ではなく、係数 $1,2,3,\ldots$ がついている。分散にはさらに $j^2$ のついた和が要る。この 2 種類の和を先に求めておく。
準備として、係数が増えても、公比が $1$ より小さい等比数列の減り方には勝てないことを確かめる。
$0< x<1$ とし、$k$ を $0$ 以上の整数とする。$n\to\infty$ のとき $n^kx^n\to0$ である。
要点:$\dfrac1x=1+h$($h>0$)とおき、二項定理で $(1+h)^n\ge{}_n\mathrm{C}_{k+1}h^{k+1}$ と下から押さえる。右辺は $n$ の $k+1$ 次式なので、$n^k$ で割っても $\infty$ に大きくなる。
$\dfrac1x>1$ なので $\dfrac1x=1+h$($h>0$)と書ける。$n\ge k+1$ のとき、二項定理 $(1+h)^n=\displaystyle\sum_{i=0}^{n}{}_n\mathrm{C}_ih^i$ の各項は正なので、$i=k+1$ の項だけを残すと
$$(1+h)^n\ge{}_n\mathrm{C}_{k+1}h^{k+1}=\frac{n(n-1)\cdots(n-k)}{(k+1)!}h^{k+1}$$
である。$n\ge2k$ なら、$0\le i\le k$ について $n-i\ge n-k\ge\dfrac n2$ なので、分子の $k+1$ 個の数はどれも $\dfrac n2$ 以上である。よって $(1+h)^n\ge\dfrac{n^{k+1}h^{k+1}}{2^{k+1}(k+1)!}$ で、
$$0< n^kx^n=\frac{n^k}{(1+h)^n}\le\frac{2^{k+1}(k+1)!}{h^{k+1}}\cdot\frac1n$$
となる。右辺は $n\to\infty$ で $0$ に近づくので、はさみうちの原理により $n^kx^n\to0$ である。$\square$
たとえば $x=\dfrac56$、$k=2$ なら、$n^2\left(\dfrac56\right)^n$ は $n=10$ で $16.2$、$n=30$ で $3.79$、$n=50$ で $0.275$、$n=100$ で $0.00012$ と、$0$ に近づいていく($n=1,2,\ldots$ と順に見ると、$n=11$ までは大きくなり、そこから小さくなる)。
$0< x<1$ のとき
$$
\sum_{j=1}^{\infty}j\,x^{j-1}=\frac1{(1-x)^2},\qquad\sum_{j=2}^{\infty}j(j-1)\,x^{j-2}=\frac2{(1-x)^3}
$$
である。
方針:等比数列の和の公式を導くときと同じく、部分和に $1-x$ を掛けて、ずらして引く。
段 1(1 つ目の和)。$S_n=\displaystyle\sum_{j=1}^{n}jx^{j-1}=1+2x+3x^2+\cdots+nx^{n-1}$ とおく。$xS_n=x+2x^2+\cdots+(n-1)x^{n-1}+nx^n$ なので、$x^{j-1}$ の項をそろえて引くと、係数の差はどれも $1$ になり
$$
(1-x)S_n=1+x+x^2+\cdots+x^{n-1}-nx^n=\frac{1-x^n}{1-x}-nx^n
$$
である。lem-geo-power($k=0$ と $k=1$)により $x^n\to0$、$nx^n\to0$ なので、$(1-x)S_n\to\dfrac1{1-x}$ である。両辺を $1-x$ で割って $S_n\to\dfrac1{(1-x)^2}$ を得る。
段 2(2 つ目の和)。$U_n=\displaystyle\sum_{j=2}^{n}j(j-1)x^{j-2}=2+6x+12x^2+\cdots+n(n-1)x^{n-2}$ とおく。$xU_n$ の $x^{j-2}$ の係数は $(j-1)(j-2)$ なので、引くと係数は
$$
j(j-1)-(j-1)(j-2)=(j-1)\bigl(j-(j-2)\bigr)=2(j-1)
$$
になり、最後に $xU_n$ の最高次の項 $n(n-1)x^{n-1}$ が残る。よって
$$
(1-x)U_n=\sum_{j=2}^{n}2(j-1)x^{j-2}-n(n-1)x^{n-1}=2S_{n-1}-n(n-1)x^{n-1}
$$
である($i=j-1$ とおくと $\sum_{j=2}^{n}(j-1)x^{j-2}=\sum_{i=1}^{n-1}ix^{i-1}=S_{n-1}$)。段 1 から $S_{n-1}\to\dfrac1{(1-x)^2}$、lem-geo-power($k=2$)から $n(n-1)x^{n-1}=\dfrac{n^2-n}{x}\,x^n\to0$ なので、$(1-x)U_n\to\dfrac2{(1-x)^2}$、つまり $U_n\to\dfrac2{(1-x)^3}$ である。$\square$
$x=\dfrac12$ なら、1 つ目の和は $\dfrac1{(1/2)^2}=4$ である。部分和は
$$
1,\quad1+2\cdot\frac12=2,\quad2+3\cdot\frac14=2.75,\quad2.75+4\cdot\frac18=3.25,\quad3.25+5\cdot\frac1{16}=3.5625
$$
と $4$ に近づく。2 つ目の和は $\dfrac2{(1/2)^3}=16$ で、部分和は $2,\ 5,\ 8,\ 10.5,\ 12.375,\ldots$ と $16$ に近づく。
準備ができたので、主定理を述べる。
成功の確率 $p$ の幾何分布に従う $T$ について
$$
E[T]=\frac1p,\qquad V[T]=\frac q{p^2}\qquad(q=1-p)
$$
である。
方針:lem-geo-sums で $x=q$ とおく。分散は $V[T]=E[T^2]-(E[T])^2$ で求めるが、$E[T^2]$ を直接求める代わりに $E[T(T-1)]$ を求めると、lem-geo-sums の 2 つ目の和がそのまま使える。
段 1(平均)。$0< q<1$ なので lem-geo-sums の 1 つ目の和で $x=q$ とおけて
$$
E[T]=\sum_{j=1}^{\infty}j\,q^{j-1}p=p\cdot\frac1{(1-q)^2}=p\cdot\frac1{p^2}=\frac1p
$$
である($1-q=p$ を使った)。
段 2($E[T(T-1)]$)。$j=1$ の項は $j(j-1)=0$ なので $j\ge2$ だけ足せばよい。$q^{j-1}=q\cdot q^{j-2}$ と分けて、lem-geo-sums の 2 つ目の和で $x=q$ とおくと
$$
E[T(T-1)]=\sum_{j=2}^{\infty}j(j-1)\,q^{j-1}p=pq\sum_{j=2}^{\infty}j(j-1)\,q^{j-2}=pq\cdot\frac2{p^3}=\frac{2q}{p^2}
$$
である。
段 3(分散)。期待値の線形性(確率変数の期待値と分散)により $E[T^2]=E[T(T-1)]+E[T]=\dfrac{2q}{p^2}+\dfrac1p$ である。よって
$$
V[T]=E[T^2]-(E[T])^2=\frac{2q}{p^2}+\frac1p-\frac1{p^2}=\frac{2q+p-1}{p^2}=\frac{2q-q}{p^2}=\frac q{p^2}
$$
である($p-1=-q$ を使った)。$\square$
平均 $\dfrac1p$ は「成功の確率が $\dfrac16$ なら、平均 6 回に 1 回成功する」という感覚と合っている。分散 $\dfrac q{p^2}$ は、$p$ が小さくなると $\dfrac1{p^2}$ の速さで大きくなる。図 1 と図 2 の裾の長さの違いは、この分散の違いである。
平均だけを求めるなら、最初の 1 回で場合を分ける方法もある。1 回目に確率 $p$ で成功して終わり、確率 $q$ で失敗して最初と同じ状況にもどるので、$E=p\cdot1+q(1+E)$ から $E=\dfrac1p$ となる。この方法を正しく使うには $E$ が有限であることを先に確かめる必要があり、その議論は 期待値の漸化式と停止 で扱った。この記事では、分布から和を直接計算したので、有限であることも同時に分かっている。
さいころを 10 回振って、まだ 6 の目が出ていないとする。「これだけ出ていないのだから、そろそろ出やすいはずだ」と考えたくなる。しかし、さいころは過去の結果を覚えていない。11 回目以降の振り方は、最初から振り始めるのと同じである。これを式で表すと、次の性質になる。
さいころで 6 の目が出るまで振る($q=\dfrac56$)。10 回振って出ていないという条件のもとで、さらに 3 回振っても出ない確率は、prop-geo-tail (1) と条件付き確率の定義(確率の定義と条件付き確率)から
$$
P(T>13\mid T>10)=\frac{P(T>13\text{ かつ }T>10)}{P(T>10)}=\frac{P(T>13)}{P(T>10)}=\frac{(5/6)^{13}}{(5/6)^{10}}=\left(\frac56\right)^3=\frac{125}{216}
$$
である($T>13$ なら $T>10$ なので、「かつ」の事象は $T>13$ である)。これは、最初から振って 3 回出ない確率 $P(T>3)=\dfrac{125}{216}$ と同じである。10 回出なかったことは、この先の出やすさを変えない。
方針:(1) は prop-geo-tail (1) の式を代入するだけである。(2) は $g(t)=P(X>t)$ とおくと、$g$ が指数法則 $g(s+t)=g(s)g(t)$ を満たすので $g(t)=g(1)^t$ となり、分布が決まる。
(1) $T>s+t$ なら $T>s$ なので、prop-geo-tail (1) により
$$
P(T>s+t\mid T>s)=\frac{P(T>s+t)}{P(T>s)}=\frac{q^{s+t}}{q^s}=q^t=P(T>t)
$$
である($q^s>0$ なので割ってよい)。
(2) 段 1(指数の形)。$0$ 以上の整数 $t$ について $g(t)=P(X>t)$ とおき、$r=g(1)$ とする。$X$ は正の整数の値だけをとるので $g(0)=P(X>0)=1$ である。すべての正の整数 $t$ について $g(t)=r^t$ であることを、$t$ についての数学的帰納法で示す。$t=1$ では定義どおりである。$g(t)=r^t$ を仮定すると、条件の式で $s=t$、$t=1$ とおいて $g(t+1)=g(t)\,g(1)=r^t\cdot r=r^{t+1}$ である。
段 2($0< r<1$)。仮定から $r=P(X>1)>0$ である。$r=1$ とすると、段 1 からすべての正の整数 $t$ で $P(X>t)=1$、つまり $P(X\le t)=0$ になる。一方、$X$ は正の整数の値だけをとるので、$\displaystyle\sum_{j=1}^{\infty}P(X=j)=1$ であり、部分和 $P(X\le t)=\displaystyle\sum_{j=1}^{t}P(X=j)$ は $t\to\infty$ で $1$ に近づく。これは $P(X\le t)=0$ と矛盾する。よって $0< r<1$ である。
段 3(分布)。正の整数 $j$ について、事象 $X>j-1$ は、排反な 2 つの事象 $X=j$ と $X>j$ に分かれるので
$$
P(X=j)=g(j-1)-g(j)=r^{j-1}-r^j=r^{j-1}(1-r)
$$
である($j=1$ のときは $g(0)=1=r^0$ を使う)。$p=1-r$ とおくと $0< p<1$、$P(X=j)=(1-p)^{j-1}p$ で、これは成功の確率 $p$ の幾何分布である。$j=1$ とおくと $P(X=1)=p$ である。$\square$
上は 6 の目が初めて出る回 T の分布、下は T が 3 より大きいという条件のもとでの T の分布。下の棒は上の棒を右へ 3 つずらした形で、高さもそろっている
図 3 は、無記憶性を分布の形で見たものである。$T>3$ という条件のもとで $T=3+t$ となる確率は
$$
P(T=3+t\mid T>3)=\frac{q^{3+t-1}p}{q^3}=q^{t-1}p=P(T=t)
$$
なので、条件付きの分布は、もとの分布をそのまま右へ 3 つずらしたものになる。3 回失敗した後の待ち時間は、最初からの待ち時間と同じ分布をもつ。
thm-geo-memoryless (2) の証明の段 1 は、関数 $g$ が $g(s+t)=g(s)g(t)$ を満たすと指数関数になる、という議論を正の整数の上で行ったものである。実数の上で同じ議論をすると、連続な解は指数関数に限ることが分かる(指数関数と対数関数はどう定義するか)。連続の場合の無記憶性は指数分布がもち、一様分布と指数分布 で扱った。幾何分布の無記憶性は整数の時刻でだけ成り立ち、整数でない時刻では崩れることも、そこで注意した。2 つの分布を並べると次のようになる。
| 幾何分布 | 指数分布 | |
|---|---|---|
| 値 | 正の整数 $1,2,3,\ldots$ | $0$ 以上の実数 |
| 確率 | $P(T=j)=q^{j-1}p$ | 密度 $\lambda e^{-\lambda x}$ |
| 裾の確率 | $P(T>j)=q^j$ | $P(X>x)=e^{-\lambda x}$ |
| 平均 | $\dfrac1p$ | $\dfrac1\lambda$ |
| 分散 | $\dfrac q{p^2}$ | $\dfrac1{\lambda^2}$ |
| 無記憶性 | 正の整数 $s,t$ で成り立つ | $0$ 以上の実数 $s,t$ で成り立つ |
| 逆(特徴づけ) | thm-geo-memoryless (2) | 一様分布と指数分布 |
裾の確率 $q^j$ と $e^{-\lambda x}$ はどちらも指数の形で、$q=e^{-\lambda}$ とおくと整数の点で一致する。幾何分布の時間の刻みを細かくしていった極限が指数分布になることも、一様分布と指数分布 で扱った。
「初めて成功するまでの回数」に見えても、def-geo の条件を満たさなければ幾何分布にはならない。よくある取り違えと、条件を外した例を並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 「$j$ 回目に初めて成功」 | 「$j$ 回中ちょうど 1 回成功」と取り違える | 確率の和が $1$(prop-geo-tail (2)) |
| 条件 (i):成功の確率が各回同じ | 当たり 1 本を含む 10 本のくじを、戻さずに引く | 無記憶性(thm-geo-memoryless (1)) |
| 1 回の成功で止まる | 表が 2 回続けて出るまで投げる | 分布が $q^{j-1}p$ の形、無記憶性 |
さいころを $j$ 回振って 6 の目がちょうど 1 回出る確率は、反復試行の確率 により ${}_j\mathrm{C}_1\left(\dfrac16\right)\left(\dfrac56\right)^{j-1}=j\left(\dfrac56\right)^{j-1}\dfrac16$ である。これは 6 の目が何回目に出てもよい確率で、「$j$ 回目に初めて出る」確率 $\left(\dfrac56\right)^{j-1}\dfrac16$ の $j$ 倍になる。
| $j$ | $1$ | $2$ | $3$ | $4$ |
|---|---|---|---|---|
| $j$ 回目に初めて 6 | $\dfrac16$ | $\dfrac5{36}$ | $\dfrac{25}{216}$ | $\dfrac{125}{1296}$ |
| $j$ 回中ちょうど 1 回 6 | $\dfrac16$ | $\dfrac5{18}$ | $\dfrac{25}{72}$ | $\dfrac{125}{324}$ |
下の行の値を $j=1,2,3,\ldots$ についてすべて足すと、thm-geo-mean-var の計算と同じ和 $\displaystyle\sum_{j=1}^{\infty}j\left(\frac56\right)^{j-1}\frac16=6$ になり、$1$ にならない。下の行の事象どうしは排反でなく(振る回数 $j$ ごとに別の試行を考えている)、1 つの確率変数の分布ではない。
当たり 1 本を含む 10 本のくじから、1 本ずつ戻さずに引き、当たりを引いた回を $T$ とする。当たりが何本目にあるかは $1$ から $10$ まで同様に確からしいので、$P(T=j)=\dfrac1{10}$($j=1,\ldots,10$)で、$P(T>t)=\dfrac{10-t}{10}$($t=0,1,\ldots,10$)である。
2 回目の成功の確率は、1 回目にはずれたという条件のもとで $\dfrac19$ で、1 回目の $\dfrac1{10}$ と違う。条件 (i) が成り立たない。無記憶性を調べると
$$
P(T>5\mid T>3)=\frac{P(T>5)}{P(T>3)}=\frac{5/10}{7/10}=\frac57,\qquad P(T>2)=\frac8{10}=\frac45
$$
で、$\dfrac57\ne\dfrac45$ である。はずれが続くと残りのくじの中の当たりの割合が上がるので、この場合は「そろそろ当たる」が正しい。
硬貨を投げ、表が 2 回続けて出た時点で止める。止まる回を $T_2$ とする。$T_2=j$ となる表と裏の並びを数えると
$$
P(T_2=2)=\frac14,\quad P(T_2=3)=\frac18,\quad P(T_2=4)=\frac18,\quad P(T_2=5)=\frac3{32},\quad P(T_2=6)=\frac5{64}
$$
である($T_2=4$ は「裏表表」の前に 1 回で「表裏表表」「裏裏表表」の 2 通り、$T_2=5$ は 3 通り)。$P(T_2=1)=0$ で、隣どうしの比は $\dfrac12,\ 1,\ \dfrac34,\ldots$ とそろわないので、$q^{j-1}p$ の形ではない。
無記憶性も崩れる。$P(T_2>1)=1$、$P(T_2>2)=1-\dfrac14=\dfrac34$ なので
$$
P(T_2>2\mid T_2>1)=\frac{3/4}{1}=\frac34\ne1=P(T_2>1)
$$
である。1 回目に表が出ていれば、次に表が出るだけで止まるので、直前の結果を「覚えている」。平均は $E[T_2]=6$ で、その求め方は 期待値の漸化式と停止 で扱った。
$j\ge2$ のとき、$T_2=j$ となる並びは、最後の 3 回が「裏表表」($j\ge3$ のとき)で、その前の $j-3$ 回に「表表」が現れないものである。表表を含まない長さ $m$ の並びの個数を $a_m$ とすると、先頭が裏か「表裏」かで分けて $a_m=a_{m-1}+a_{m-2}$、$a_0=1$、$a_1=2$ である。よって $P(T_2=j)=\dfrac{a_{j-3}}{2^j}$($j\ge3$)で、$a_0,a_1,a_2,\ldots=1,2,3,5,8,\ldots$ は Fibonacci 数列(Fibonacci数列)の項が並ぶ。$j=10$ なら $a_7=34$ で $P(T_2=10)=\dfrac{34}{1024}=\dfrac{17}{512}$ である。
表が 2 回続けて出るまでの回数の分布(棒)と、平均が同じ 6 になる幾何分布(点)の比較。前者は 1 回目の確率が 0 で、2 回目の確率 1/4 がいちばん大きい
図 4 のとおり、$T_2$ と、成功の確率 $\dfrac16$ の幾何分布は、平均がどちらも $6$ だが形が違う。$T_2$ は $1$ の値をとらず、$T_2=3$ と $T_2=4$ の確率が等しい。
成功の確率 $p$ の幾何分布に従う $T$ について、$T$ が偶数になる確率を $q=1-p$ で表せ。さいころで 6 の目が出るまで振るとき($p=\dfrac16$)の値も求めよ。
$T=2k$($k=1,2,\ldots$)の確率は $q^{2k-1}p$ で、これは初項 $qp$、公比 $q^2$ の等比数列である。$0< q^2<1$ なので
$$P(T\text{ が偶数})=\sum_{k=1}^{\infty}q^{2k-1}p=\frac{qp}{1-q^2}=\frac{qp}{(1-q)(1+q)}=\frac{q}{1+q}$$
である($1-q=p$ で約分した)。さいころでは $q=\dfrac56$ で、$\dfrac{5/6}{11/6}=\dfrac5{11}$ である。$\dfrac5{11}<\dfrac12$ なので、奇数回目のほうが少し起こりやすい。$q<1$ なら $\dfrac q{1+q}<\dfrac12$ なので、どの $p$ でもそうなる。
成功の確率 $p$ の幾何分布に従う $T$ で、$p=\dfrac1{10}$ のとき、$T$ が平均の 2 倍 $20$ を超える確率を小数第 3 位まで求めよ。
prop-geo-tail (1) により $P(T>20)=0.9^{20}=0.1215\ldots$ で、約 $0.122$ である。平均の 2 倍を超えて待つことが、約 12% の確率で起こる。
成功が 1 回でなく $r$ 回出るまで($r$ は正の整数)くり返すと、その回数 $T_r$ の分布は次のようになる。$T_r=j$ となるのは、$j$ 回目が成功で、それまでの $j-1$ 回のうちちょうど $r-1$ 回が成功のときなので
$$
P(T_r=j)={}_{j-1}\mathrm{C}_{r-1}\,p^rq^{j-r}\qquad(j=r,r+1,\ldots)
$$
である。この分布を 負の二項分布 という(GS06 §5.1)。$r=1$ なら幾何分布にもどる。
1 回目の成功までの回数、そこから 2 回目の成功までの回数、…と区切ると、$T_r$ は幾何分布に従う $r$ 個の確率変数の和になる。条件 (ii) と thm-geo-memoryless により、区切った各区間は最初から始めるのと同じなので、この $r$ 個は互いに独立で、同じ幾何分布に従う(独立であることの厳密な証明は、この記事ではしない)。期待値と分散の和の性質(確率変数の期待値と分散)から
$$
E[T_r]=\frac rp,\qquad V[T_r]=\frac{rq}{p^2}
$$
となる。たとえば 6 の目が 2 回出るまで振る回数の平均は $12$ である。
文献によっては、「初めて成功するまでの失敗の回数」$Y=T-1$ の分布を幾何分布と呼ぶ。このとき $Y$ は $0,1,2,\ldots$ の値をとり、$P(Y=k)=q^kp$、平均は $E[Y]=\dfrac1p-1=\dfrac qp$、分散は $V[T]$ と同じ $\dfrac q{p^2}$ である(定数を引いても分散は変わらない)。さいころの例では $E[Y]=5$ である。どちらの流儀かで平均が $1$ ずれるので、文献を読むときは値の範囲を確かめる。この記事は $1,2,3,\ldots$ の値をとる流儀(GS06 と同じ)で書いた。
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