絶対Galois群(absolute Galois group)とは、体 $F$ の分離閉包 $F^{\mathrm{sep}}$ の $F$ 上の自己同型全体のなす群 $G_F=\operatorname{Gal}(F^{\mathrm{sep}}/F)$ に Krull 位相を入れた位相群である。有限次 Galois 拡大の Galois 群の射影極限としてコンパクトな副有限群になり、$F$ の有限次分離拡大は $G_F$ の開部分群と一対一に対応する。分離閉包の選び方により内部自己同型の差を除いて定まる。たとえば有限体 $\mathbb{F}_q$ では $q$ 乗写像を位相的な生成元とする $\widehat{\mathbb{Z}}$、実数体 $\mathbb{R}$ では位数 $2$ の群である。
有限体 $\mathbb{F}_q$ の有限次拡大は、各次数 $n$ についてただ 1 つの $\mathbb{F}_{q^n}$ であり、その Galois 群は $q$ 乗写像 $x\mapsto x^q$ が生成する位数 $n$ の巡回群 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ である。$n\mid m$ のとき $\mathbb{F}_{q^n}\subset\mathbb{F}_{q^m}$ であり、制限写像は $\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の自然な全射になる。この「すべての有限次分離拡大の Galois 群を、制限写像で両立するように束ねたもの」が絶対 Galois 群である。$\mathbb{F}_q$ の場合は $\widehat{\mathbb{Z}}=\varprojlim_n\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ になり、$q$ 乗写像がその位相的な生成元になる(thm-absolute-galois-group-finite-field)。一般の体 $F$ の絶対 Galois 群 $G_F$ は、$F$ の有限次分離拡大を開部分群として(thm-absolute-galois-group-open-subgroups)、有限次 Galois 拡大を開正規部分群による商として、すべて 1 つの位相群の中に並べる。$G_{\mathbb{Q}}$ は代数的整数論の中心的な対象であり、Galoisコホモロジー やエタール基本群の出発点でもある。
体 $F$ の分離閉包 $F^{\mathrm{sep}}$ を 1 つ固定する。$F^{\mathrm{sep}}/F$ は Galois 拡大であり、$F$ を含む代数閉包の中にある $F$ の分離拡大はすべて $F^{\mathrm{sep}}$ に含まれる(分離閉包 の記事の命題「分離閉包は最大の Galois 拡大」)。$F^{\mathrm{sep}}$ の自己同型で $F$ の元を動かさないもの全体のなす群を $\operatorname{Gal}(F^{\mathrm{sep}}/F)$ と書く。$F^{\mathrm{sep}}$ の有限部分集合 $S$ に対し
$$
G(S):=\{\sigma\in\operatorname{Gal}(F^{\mathrm{sep}}/F)\mid \text{すべての }s\in S\text{ について }\sigma(s)=s\}
$$
とおく。これは部分群である。
体 $F$ の分離閉包 $F^{\mathrm{sep}}$ について、群 $\operatorname{Gal}(F^{\mathrm{sep}}/F)$ に、$\sigma G(S)$($\sigma\in\operatorname{Gal}(F^{\mathrm{sep}}/F)$、$S\subset F^{\mathrm{sep}}$ は有限部分集合)の形の集合を開基とする位相(Krull 位相)を入れた位相群を、$F$ の絶対 Galois 群(absolute Galois group)といい、$G_F$ または $\operatorname{Gal}(F^{\mathrm{sep}}/F)$ と書く。
これは Galois群 の記事の定義「Krull位相」を Galois 拡大 $F^{\mathrm{sep}}/F$ に当てはめたものであり、この位相で $G_F$ は位相群になる(Mil22 Chapter 7)。単位元の近傍の基本系としては、$F^{\mathrm{sep}}$ に含まれる $F$ の有限次 Galois 拡大 $E$ についての部分群
$$
G_E:=\operatorname{Gal}(F^{\mathrm{sep}}/E)=\{\sigma\in G_F\mid \sigma|_E=\mathrm{id}_E\}
$$
をとってもよい。
$E$ の $F$ 上の有限個の生成元を $S_E$ とすれば $G_E=G(S_E)$ である。逆に有限部分集合 $S$ に対し、$S$ の元の $F$ 上の最小多項式から重複を除いて掛けた分離多項式は分離閉体 $F^{\mathrm{sep}}$ で分解するので、その根を $F$ に添加した体 $E\subset F^{\mathrm{sep}}$ は分離多項式の分解体、したがって有限次 Galois 拡大であり(Galois拡大 の記事の定理「有限次Galois拡大の特徴づけ」)、$S\subset E$、$G_E\subset G(S)$ となる。
$G_F$ の元は、$F$ のすべての有限次 Galois 拡大 $E$ の上の自己同型 $\sigma_E\in\operatorname{Gal}(E/F)$ を、制限で両立するように同時に選んだものである。Krull 位相では、2 つの元が「近い」とは、大きな有限次拡大の上で同じはたらきをすることを意味する。この位相のおかげで、無限次の拡大 $F^{\mathrm{sep}}/F$ でも Galois 理論が成り立つ。ただし対応するのはすべての部分群ではなく閉部分群であり、とくに $F$ の有限次分離拡大は $G_F$ の開部分群と一対一に対応する。
$G_F$ は代数的位相幾何学の基本群の類似である。位相空間の連結な被覆空間が基本群の部分群に対応するように、$F$ の有限次分離拡大は $G_F$ の開部分群に対応し、Galois 拡大は正規部分群に対応する。実際、体 $F$ の点 $\operatorname{Spec}F$ のエタール基本群は $G_F$ と位相群として同型である(エタール基本群 の記事の命題「体のエタール基本群」)。
$G_F$ の定義は分離閉包 $F^{\mathrm{sep}}$ の選び方による。別の分離閉包を選んでも同型な位相群が得られるが、その同型は内部自己同型の分だけ不定である。
$\Sigma,\Sigma'$ を $F$ の分離閉包とし、$\varphi\colon\Sigma\to\Sigma'$ を $F$ の元を動かさない体の同型とする(分離閉包 の記事の定理「分離閉包の一意性」により存在する)。
1:$\varphi\sigma\varphi^{-1}$ は $\Sigma'$ の自己同型で、$F$ の元を動かさない。$c_\varphi$ は群準同型で、$c_{\varphi^{-1}}$ が逆写像である。$\Sigma$ の有限部分集合 $S$ について、$\tau\in\operatorname{Gal}(\Sigma/F)$ が $S$ の各元を固定することと、$\varphi\tau\varphi^{-1}$ が $\varphi(S)$ の各元を固定することは同値なので、$c_\varphi(G(S))=G'(\varphi(S))$($G'$ は $\operatorname{Gal}(\Sigma'/F)$ の中の同様の部分群)であり、$c_\varphi(\sigma G(S))=c_\varphi(\sigma)G'(\varphi(S))$ である。$\Sigma'$ の有限部分集合はすべて $\varphi(S)$ の形なので、$c_\varphi$ は開基を開基に移し、同相写像である。
2:$\psi=\varphi\rho$ なので、$c_\psi(\sigma)=\varphi\rho\sigma\rho^{-1}\varphi^{-1}=c_\varphi(\rho\sigma\rho^{-1})$ である。$\square$
$\operatorname{inn}(\rho)$ は $G_F$ の内部自己同型なので、$G_F$ は「内部自己同型を除いて一意に定まる位相群」である(Mil22 Chapter 7 の脚注)。したがって、$G_F$ の共役類、正規部分群、アーベル化 $G_F^{\mathrm{ab}}$、連続な作用をもつ加群のGaloisコホモロジー などは、分離閉包の選び方によらずに意味をもつ。一方、$G_F$ の個々の元や部分群を名指すには分離閉包を固定する必要がある。$G_F$ が非可換なら $\operatorname{inn}(\rho)$ は一般に恒等写像でないので、この不定性は本当に残る(後の反例の表)。
以下、$F^{\mathrm{sep}}$ を固定し、$G=G_F$ とする。$F\subset E\subset F^{\mathrm{sep}}$ となる体 $E$ を $F^{\mathrm{sep}}/F$ の中間体といい、$G_E:=\operatorname{Gal}(F^{\mathrm{sep}}/E)=\{\sigma\in G\mid\sigma|_E=\mathrm{id}_E\}$ とおく。部分群 $H\subset G$ の固定体を $(F^{\mathrm{sep}})^H:=\{x\in F^{\mathrm{sep}}\mid\text{すべての }\sigma\in H\text{ について }\sigma(x)=x\}$ と書く。
中間体 $E$ と、$F$ の元を動かさない体の準同型 $\lambda\colon E\to F^{\mathrm{sep}}$ について、$\sigma|_E=\lambda$ となる $\sigma\in G$ が存在する。
$F^{\mathrm{sep}}$ の代数閉包 $\Omega$ をとる。$\Omega$ は $F$ 上代数的なので、包含 $E\to\Omega$ によっても、$\lambda$ によっても($\Omega$ は $\lambda(E)\supset F$ の上で代数的)$E$ の代数閉包である。代数閉体 の記事の定理「代数閉包の存在と一意性」により、$\varphi|_E=\lambda$ となる同型 $\varphi\colon\Omega\to\Omega$ がある。$\varphi$ は $F$ の元を動かさない。$\Omega$ は $F$ の代数閉包で $F^{\mathrm{sep}}=\Omega_{\mathrm{sep}}$ なので(分離閉包 の記事の定理「分離閉包の一意性」の 1)、同記事の命題「代数閉包の自己同型と分離閉包の自己同型」により $\varphi(F^{\mathrm{sep}})=F^{\mathrm{sep}}$ であり、$\sigma:=\varphi|_{F^{\mathrm{sep}}}$ が求めるものである。$\square$
1:$E/F$ は有限次なので、有限部分集合 $S$ で $E=F(S)$ と書け、$G_E=G(S)$ は開である。固定体:$x\in F^{\mathrm{sep}}\setminus E$ をとる。$x$ は $F$ 上分離的なので $E$ 上も分離的であり(分離拡大 の記事の命題「中間体への遺伝」)、$m=m_{x,E}$ は次数 $2$ 以上の分離多項式である。$F^{\mathrm{sep}}$ は分離閉体なので $m$ は $F^{\mathrm{sep}}$ で分解し、$x$ と異なる根 $y$ をもつ。$E(x)\to F^{\mathrm{sep}}$、$x\mapsto y$ となる $E$ 上の準同型がある(Galois拡大 の記事の補題「単純拡大への同型の延長」)。$F^{\mathrm{sep}}$ は $E$ 上分離的な代数拡大で分離閉体なので $E$ の分離閉包であり、lem-absolute-galois-group-extension を $E$ 上で使うと、この準同型は $\sigma\in G_E$ に延長され、$\sigma(x)=y\neq x$ である。よって $(F^{\mathrm{sep}})^{G_E}=E$ である。
指数と位相:剰余類 $\sigma G_E$ に $\sigma|_E$ を対応させると、$G/G_E$ と $F$ 上の準同型 $E\to F^{\mathrm{sep}}$ 全体の集合 $\operatorname{Hom}_F(E,F^{\mathrm{sep}})$ の全単射が得られ、後者は $[E:F]$ 個の元をもつので $[G:G_E]=[E:F]$ である。
$\sigma|_E=\tau|_E\iff\tau^{-1}\sigma\in G_E$ なので、この対応は矛盾なく定まり単射であり、lem-absolute-galois-group-extension により全射である。$\operatorname{Hom}_F(E,F^{\mathrm{sep}})$ の元の個数を数える。分離拡大 の記事の定理「原始元定理」により $E=F(\theta)$ と書ける。$F$ 上の準同型 $E\to F^{\mathrm{sep}}$ は $\theta$ の行き先で決まり、行き先は $m_{\theta,F}$ の $F^{\mathrm{sep}}$ における根であり、逆に各根に対して準同型がただ 1 つある(Galois拡大 の記事の補題「単純拡大への同型の延長」)。$m_{\theta,F}$ は次数 $[E:F]$ の分離多項式で、分離閉体 $F^{\mathrm{sep}}$ で相異なる $[E:F]$ 個の根に分解する。
位相:$F^{\mathrm{sep}}$ の有限部分集合 $T$ について $\{\sigma\in G_E\mid\sigma|_T=\mathrm{id}\}=G_E\cap G(T)$ なので、$G_E$ の Krull 位相の開基 $\sigma(G_E\cap G(T))$($\sigma\in G_E$)は $G$ の開基と $G_E$ の共通部分であり、$G_E$ の Krull 位相は相対位相と一致する。
2:1 により $E=(F^{\mathrm{sep}})^{G_E}$ なので $E\mapsto G_E$ は単射であり、包含を逆にすることは定義から明らかである。全射を示す。$H$ を開部分群とする。$H$ は単位元の近傍なので、ある有限部分集合 $S$ について $G(S)\subset H$ であり、定義の直後に見たように $S\subset E'$ となる有限次 Galois 拡大 $E'\subset F^{\mathrm{sep}}$ をとれば $U:=G_{E'}\subset H$ である。制限写像 $r\colon G\to\operatorname{Gal}(E'/F)$ は($E'/F$ は正規なので $\sigma(E')=E'$ であり)群準同型で、lem-absolute-galois-group-extension により全射、核は $U$ である。$H\supset U$ なので $H=r^{-1}(r(H))$ である。$E:=(F^{\mathrm{sep}})^H$ とおくと、$H$ で固定される元は $U$ でも固定されるので 1 により $E'$ に属し、$E=(E')^{r(H)}$ となる。有限次 Galois 拡大 $E'/F$ に Galois理論 の記事の定理「Galois理論の基本定理」を使うと $\operatorname{Gal}(E'/E)=r(H)$ であり、$G_E=\{\sigma\in G\mid r(\sigma)\in\operatorname{Gal}(E'/E)\}=r^{-1}(r(H))=H$ である。$E\subset E'$ なので $E/F$ は有限次である。
3:$\tau$ が $E$ の元を固定することと、$\sigma\tau\sigma^{-1}$ が $\sigma(E)$ の元を固定することは同値なので、$G_{\sigma(E)}=\sigma G_E\sigma^{-1}$ である。$E/F$ が Galois なら正規なので、$\sigma|_E$ は $E$ の各元をその最小多項式の根、すなわち $E$ の元に移す。$\sigma(E)\subset E$ で両者の $F$ 上の次元は等しいので $\sigma(E)=E$ であり、したがって $G_E$ は正規である。逆に $G_E$ が正規なら、すべての $\sigma$ について $G_{\sigma(E)}=G_E$ であり、2 の単射性から $\sigma(E)=E$ である。$\alpha\in E$ の最小多項式の $F^{\mathrm{sep}}$ における根 $\beta$ は、$F(\alpha)\to F^{\mathrm{sep}}$、$\alpha\mapsto\beta$ を lem-absolute-galois-group-extension で延長した $\sigma$ により $\beta=\sigma(\alpha)\in E$ となるので、$E/F$ は正規、したがって Galois である。このとき $r\colon G\to\operatorname{Gal}(E/F)$ は全射で核が $G_E$ なので、$G/G_E\cong\operatorname{Gal}(E/F)$ である。$\square$
2 は、無限次 Galois 理論の基本定理($G$ の閉部分群と、すべての中間体との、包含を逆にする一対一対応)のうち、有限次の中間体の部分である。基本定理そのものは Mil22 Theorem 7.13、Stacks Fields, Theorem 22.4(Tag 0BML)にあり、Galois群 の記事の注意「無限次のGalois対応」にも述べられている。閉部分群に限る必要があることは後の反例で見る。
正の整数全体を整除関係 $n\mid m$ で順序づけた有向集合の上で、自然な全射 $\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$($n\mid m$)を推移写像とする射影系の射影極限を
$$
\widehat{\mathbb{Z}}:=\varprojlim_n\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}=\Bigl\{(a_n)_{n\ge1}\in\prod_{n\ge1}\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\ \Bigm|\ n\mid m\text{ なら }a_m\equiv a_n\pmod n\Bigr\}
$$
とおき、各 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ を離散空間とする直積位相から誘導される位相を入れる。$\widehat{\mathbb{Z}}$ は加法について副有限群であり、$m\mapsto(m\bmod n)_n$ による $\mathbb{Z}\to\widehat{\mathbb{Z}}$ は単射な準同型である(すべての $n$ で $n\mid m$ なら $m=0$)。
$q$ を素数の冪、$F=\mathbb{F}_q$ を位数 $q$ の有限体、$\overline{F}$ をその代数閉包とする($F$ は完全体なので $\overline{F}=F^{\mathrm{sep}}$)。$\phi(x):=x^q$ で定まる $\phi\colon\overline{F}\to\overline{F}$ は $G_F$ の元である。
$\phi\in G_F$ であること:$\phi$ は単射な環準同型で、$\overline{F}$ が代数閉体なので全射であり、$F$ の元を動かさない。
$q$ 乗は標数 $p$ の体の環準同型の合成であり(有限体 の記事の命題「Frobenius写像の性質」)、体の準同型なので単射である。$\overline{F}$ は代数閉体なので $x^q=a$ は根をもち、$\phi$ は全射である。$F$ の元は $x^q=x$ を満たす(同記事の系「有限体における $x^q=x$」)。
$n=2^km$($m$ は奇数)に対し、中国の剰余定理により $a_n\equiv1\pmod{2^k}$、$a_n\equiv0\pmod m$ となる $a_n\in\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ が定まり、$(a_n)_n\in\widehat{\mathbb{Z}}$ である。これが整数 $N$ の像なら、すべての $k$ で $N\equiv1\pmod{2^k}$ から $N=1$、$N\equiv0\pmod3$ から $3\mid N$ となって矛盾する。したがって対応する $\sigma\in G_F$ は $\langle\phi\rangle$ に属さない。
$\phi$ を $F=\mathbb{F}_q$ の Frobenius 元という。3 により $\phi$ は $G_F$ を位相群として生成する($\langle\phi\rangle$ の閉包が $G_F$)が、群として生成するわけではない(Mil22 Example 7.17)。$\widehat{\mathbb{Z}}$ は中国の剰余定理により $p$ 進整数環 $\mathbb{Z}_p$ の全素数についての直積と同型である(Mil22 Example 7.17)。
$\mathbb{C}$ は代数閉体なので $G_{\mathbb{C}}=1$ である。$\mathbb{R}$ の分離閉包は $\mathbb{C}$ であり(分離閉包 の記事の例「実数体の分離閉包」)、$G_{\mathbb{R}}=\{\mathrm{id},c\}\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$($c$ は複素共役)である。
実数である代数的数の全体 $R:=\overline{\mathbb{Q}}\cap\mathbb{R}$ も、$\overline{\mathbb{Q}}=R(i)$ から $G_R\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ をもつ。
$\alpha\in\overline{\mathbb{Q}}$ の複素共役 $\bar\alpha$ は $\alpha$ と同じ最小多項式の根なので $\overline{\mathbb{Q}}$ に属し、$i\in\overline{\mathbb{Q}}$ なので $\operatorname{Re}\alpha=(\alpha+\bar\alpha)/2$、$\operatorname{Im}\alpha=(\alpha-\bar\alpha)/(2i)$ は $R$ に属する。よって $\overline{\mathbb{Q}}=R(i)$、$[\overline{\mathbb{Q}}:R]=2$ である。$\overline{\mathbb{Q}}$ は代数閉体で $R$ 上 $2$ 次、標数 $0$ なので $R$ の分離閉包であり、$G_R\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ である。
有限な絶対 Galois 群はきわめて限られる。標数 $0$ の体の絶対 Galois 群が有限なら、その位数は $1$ か $2$ である。より一般に、代数閉体でない体 $F$ の代数閉包 $\overline{F}$ が $F$ 上有限次なら、$F$ は実閉体で $\overline{F}=F(\sqrt{-1})$ である(Artin–Schreier の定理。Mil22 Aside 7.11。ここでは証明しない)。
$G_{\mathbb{Q}}=\operatorname{Gal}(\overline{\mathbb{Q}}/\mathbb{Q})$($\overline{\mathbb{Q}}\subset\mathbb{C}$ は代数的数全体)は、あらゆる有限次 Galois 拡大 $E/\mathbb{Q}$ の Galois 群を商 $G_{\mathbb{Q}}/G_E$ としてもつ巨大な群である(thm-absolute-galois-group-open-subgroups の 3)。たとえば $x^3-2$ の分解体を $E$ とすると $G_{\mathbb{Q}}/G_E\cong S_3$ であり(Galois群 の記事の例「3 次式 $x^3-2$ と $x^3-3x+1$」)、$G_{\mathbb{Q}}$ は可換でない。アーベルな商の代表例は、1 の冪根への作用から得られる。
$n\ge1$ に対し $\zeta_n:=e^{2\pi i/n}\in\overline{\mathbb{Q}}$ とする。$\sigma\in G_{\mathbb{Q}}$ は $x^n-1$ の根を根に移し、位数を保つので、$\sigma(\zeta_n)=\zeta_n^{a}$ となる $a\in(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times$ がただ 1 つ定まる。これを $\chi_n(\sigma)$ と書くと、
$$
\chi\colon G_{\mathbb{Q}}\to\widehat{\mathbb{Z}}^\times=\varprojlim_n(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times,\qquad \sigma\mapsto(\chi_n(\sigma))_n
$$
は連続な全射準同型であり、その核は $G_{\mathbb{Q}(\mu_\infty)}$($\mathbb{Q}(\mu_\infty)$ は 1 の冪根をすべて $\mathbb{Q}$ に添加した体)である。$\chi$ を円分指標(cyclotomic character)という。
準同型:$\sigma(\zeta_n)=\zeta_n^a$、$\tau(\zeta_n)=\zeta_n^b$ なら $\sigma\tau(\zeta_n)=\sigma(\zeta_n)^b=\zeta_n^{ab}$ である。両立性:$n\mid m$ なら $\zeta_m^{m/n}=\zeta_n$ なので $\zeta_n^{\chi_n(\sigma)}=\sigma(\zeta_n)=\sigma(\zeta_m)^{m/n}=\zeta_n^{\chi_m(\sigma)}$、すなわち $\chi_m(\sigma)\equiv\chi_n(\sigma)\pmod n$ である。連続:$\chi_n(\sigma)$ は $\sigma|_{\mathbb{Q}(\zeta_n)}$ だけで決まるので、$\chi_n$ は開部分群 $G_{\mathbb{Q}(\zeta_n)}$ の剰余類の上で一定であり、各成分が連続である。全射:$\chi_n$ は同型 $\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_n)/\mathbb{Q})\cong(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times$(Galois群 の記事の例「円分体の Galois 群」。円分多項式の既約性 Mil22 Theorem 5.10 による)と制限写像の合成なので全射である。$\chi$ の像はコンパクト集合の連続像なので閉であり、各成分への射影が全射なので稠密である($\widehat{\mathbb{Z}}^\times$ の開基は有限個の成分を指定する集合で、有限個の $n_1,\dots,n_r$ は最小公倍数 $n$ の成分で決まる)。よって $\chi$ は全射である。核:$\chi(\sigma)=1$ は $\sigma$ がすべての $\zeta_n$ を固定すること、すなわち $\sigma\in G_{\mathbb{Q}(\mu_\infty)}$ と同値である。
lem-absolute-galois-group-extension により制限写像 $G_{\mathbb{Q}}\to\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}(\mu_\infty)/\mathbb{Q})$ は全射で、核は $G_{\mathbb{Q}(\mu_\infty)}$ なので、$\chi$ は群の同型 $\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}(\mu_\infty)/\mathbb{Q})\cong\widehat{\mathbb{Z}}^\times$ を引き起こす。素数 $p$ について、$p$ 冪の 1 の冪根だけを使うと、$p$ 進整数環 $\mathbb{Z}_p$ の単数群への準同型 $G_{\mathbb{Q}}\to\mathbb{Z}_p^\times$ が得られ、これを $p$ 進円分指標という。さらに、$\mathbb{Q}$ のアーベル拡大をすべて合成した体 $\mathbb{Q}^{\mathrm{ab}}$ について $\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}^{\mathrm{ab}}/\mathbb{Q})\cong\widehat{\mathbb{Z}}^\times$ が成り立つ(Mil22 Example 7.18。ここでは証明しない)。これは類体論の最初の例である。
上の定義や定理から条件を外したり、主張を強めたりすると成り立たなくなることを表にまとめる(確認は表の下)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 部分群が閉 | $\langle\phi\rangle\subset G_{\mathbb{F}_q}$ | $H\mapsto(F^{\mathrm{sep}})^H$ が単射 |
| 部分群が開(指数が有限なだけ) | $G_{\mathbb{Q}}$ の開でない指数 $2^n$ の正規部分群 | 指数有限の部分群は有限次の中間体に対応 |
| Krull 位相(離散位相に替える) | 離散位相の $G_{\mathbb{F}_q}$ | $G_F\cong\varprojlim_E\operatorname{Gal}(E/F)$ が同相・開部分群は有限次の中間体に対応 |
| $G_F$ が可換 | $G_{\mathbb{Q}}$ | 分離閉包の取り替えによる同型が一意 |
| 体が同型 | $\mathbb{F}_p$ と $\mathbb{F}_{p^2}$、$\mathbb{R}$ と $\overline{\mathbb{Q}}\cap\mathbb{R}$ | $G_F\cong G_{F'}$ なら $F\cong F'$ |
上の表の 5 つの行を上から順に確かめる。
1. thm-absolute-galois-group-finite-field の 3 により、$\langle\phi\rangle$ と $G_{\mathbb{F}_q}$ はどちらも固定体が $\mathbb{F}_q$ だが、$\langle\phi\rangle\neq G_{\mathbb{F}_q}$ である。よって部分群から固定体への写像は、閉でない部分群まで含めると単射でない。$\langle\phi\rangle$ は稠密なので閉でない(閉なら $G_{\mathbb{F}_q}$ 全体になる)。
2. $G_{\mathbb{Q}}$ には、各 $n>1$ について指数 $2^n$ の開でない正規部分群がある(Mil22 Proposition 7.29。構成には Zorn の補題を使う)。開でない部分群 $H$ は thm-absolute-galois-group-open-subgroups の 2 の対応に現れないので、$H$ の固定体を $E$ とすると $G_E\neq H$ である($G_E$ は閉だが $H$ は閉でない。指数有限の閉部分群は開だから)。指数が有限であることだけでは有限次の中間体に対応しない。
3. $G_{\mathbb{F}_q}$ は $\langle\phi\rangle\cong\mathbb{Z}$ を含む無限群である。離散位相を入れた無限集合は、1 点集合たちによる開被覆が有限部分被覆をもたないのでコンパクトでなく、コンパクトな副有限群 $\varprojlim_n\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ と同相でない。また離散位相では $\{\mathrm{id}\}$ が開部分群になるが、その固定体 $\overline{\mathbb{F}}_q$ は $\mathbb{F}_q$ 上有限次でない。
4. $G_{\mathbb{Q}}$ は $S_3$ を商にもつので可換でなく、$\rho\sigma\rho^{-1}\neq\sigma$ となる $\rho,\sigma$ がある。thm-absolute-galois-group-change の 2 により、分離閉包 $\overline{\mathbb{Q}}$ から自分自身への 2 つの同型 $\mathrm{id}$ と $\rho$ が引き起こす $G_{\mathbb{Q}}$ の自己同型 $c_{\mathrm{id}}=\mathrm{id}$ と $c_\rho=\operatorname{inn}(\rho)$ は異なる。
5. thm-absolute-galois-group-finite-field により $G_{\mathbb{F}_p}\cong\widehat{\mathbb{Z}}\cong G_{\mathbb{F}_{p^2}}$ だが、$\mathbb{F}_p$ と $\mathbb{F}_{p^2}$ は元の個数が違う。ex-absolute-galois-group-real により $G_{\mathbb{R}}\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\cong G_{\overline{\mathbb{Q}}\cap\mathbb{R}}$ だが、一方は非可算、他方は可算である。
絶対 Galois 群は $G_F$、$G_k$、$\Gamma_F$、$\operatorname{Gal}_F$、$\operatorname{Gal}(\overline{F}/F)$ などと書かれる。Stacks は Krull 位相を「作用 $\operatorname{Gal}(E/F)\times E\to E$ が($E$ に離散位相を入れて)連続になる最も粗い位相」として定義し(Fields, Lemma 22.1、Tag 0BMJ)、これは上の定義と同じ位相である。Stacks Étale Cohomology, Definition 56.1(Tag 03QX)は、幾何的点の剰余体の分離閉包を使って $\operatorname{Gal}_{\kappa(s)}$ を定める。分離閉包を固定しないで「$G_F$」と書くときは、内部自己同型を除いて定まる対象として扱っている(thm-absolute-galois-group-change)。
体 $F$ の上の多くの不変量は $G_F$ の言葉で書ける。$G_F$ が連続に作用する離散加群のコホモロジーが Galoisコホモロジー であり(Galoisコホモロジー の記事の定義「体のGaloisコホモロジーの定義」)、$F$ の Brauer群 は $H^2(G_F,(F^{\mathrm{sep}})^\times)$ と同型である(Galoisコホモロジー の記事の「Brauer 群」の節)。$\operatorname{Spec}F$ 上のエタール層は、$G_F$ が連続に作用する集合と同じものである(Stacks Étale Cohomology, Theorem 56.3、Tag 03QT)。数論では、局所体 や代数体の絶対 Galois 群とそのアーベル化が 類体論 の対象になる。
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