Pontryagin類

同義語:Pontryagin classポントリャーギン類Pontrjagin類全Pontryagin類total Pontryagin classPontryagin数Pontryagin number

概要

Pontryagin類(Pontryagin class)とは、実ベクトル束 $E\to B$ の複素化の Chern 類から $p_i(E)=(-1)^ic_{2i}(E\otimes\mathbb C)\in H^{4i}(B;\mathbb Z)$ と定める特性類である(符号を付けない流儀もある)。複素化の奇数番目の Chern 類は位数 $2$ なので、Whitney の和公式は位数 $2$ の元を除いて成り立つ。$p(\mathbb{CP}^n)=(1+h^2)^{n+1}$ であり、$\mathbb{CP}^4$ が $\mathbb R^{11}$ にはめ込めないことが従う。Pontryagin 数は向き付けられた同境の不変量で、$p_1[\mathbb{CP}^2]=3$ から $\mathbb{CP}^2$ は向き付けられた境界にならない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Chern類, ベクトル束, 特異コホモロジー, Euler類, 同境

Pontryagin 類(Pontryagin class)とは、実ベクトル束 $E\to B$ に対して、その複素化 $E\otimes\mathbb C$ の偶数番目の Chern 類から
$$ p_i(E):=(-1)^ic_{2i}(E\otimes\mathbb C)\in H^{4i}(B;\mathbb Z) $$
と定める整係数の特性類である。和 $p(E)=1+p_1(E)+p_2(E)+\cdots$ を全 Pontryagin 類という。符号 $(-1)^i$ を付けない流儀もあるので、この記事の約束を下の注意で明記する。
実ベクトル束の特性類として、$\mathbb Z/2$ 係数の Stiefel–Whitney類 と向きを使う Euler類 に対し、Pontryagin 類は向きを使わない整係数の類である。複素化の奇数番目の Chern 類は位数 $2$ の元にしかならないので捨て、残った偶数番目を使う。そのため Whitney の和公式は位数 $2$ の元を除いてしか成り立たないが、有理係数では整った理論になる。閉多様体の接束の Pontryagin 類から作る Pontryagin 数は向き付けられた同境の不変量であり、複素射影平面 $\mathbb{CP}^2$ が向き付けられた多様体の境界にならないことを示す。
この記事では、複素化の奇数番目の Chern 類が位数 $2$ であること、Whitney の和公式、複素ベクトル束の実化の Pontryagin 類の公式を証明し、主定理として $p(\mathbb{CP}^n)=(1+h^2)^{n+1}$ を示す。応用として $\mathbb{CP}^4$ が $\mathbb R^{11}$ にはめ込めないこと、境界になる閉多様体の Pontryagin 数が $0$ であることを完全に証明する。

定義

底空間はパラコンパクトとし、コホモロジーは特異コホモロジーで、係数を書かなければ $\mathbb Z$ である。複素ベクトル束の Chern 類は Chern類 の記事の公理(自然性・Whitney の和公式・$c(\mathcal O(1))=1+h$)で定まるものとする。

複素化と共役

階数 $n$ の実ベクトル束 $E$ について、$E\oplus E$ の各ファイバーに $i\cdot(x,y):=(-y,x)$ で複素数倍を入れた階数 $n$ の複素ベクトル束を $E$ の複素化といい、$E\otimes\mathbb C$ と書く($(x,y)$ を $x+iy$ と書く)。複素ベクトル束 $W$ について、同じ実ベクトル束に複素数 $\lambda$ の作用を $\bar\lambda$ 倍として入れ直した複素ベクトル束を $W$ の共役といい、$\overline W$ と書く。複素ベクトル束 $W$ から複素構造を忘れた実ベクトル束を $W_{\mathbb R}$ と書く。

共役と奇数番目の Chern 類
  1. 複素ベクトル束 $W$ について $c_k(\overline W)=(-1)^kc_k(W)$ である。
  2. 実ベクトル束 $E$ について $E\otimes\mathbb C\cong\overline{E\otimes\mathbb C}$ である。したがって $2c_{2i+1}(E\otimes\mathbb C)=0$ である。

要点:Hermite 計量で $\overline W$ は双対束 $W^\vee$ と同型になり、双対束の Chern 類は符号 $(-1)^k$ で変わる。複素化は $x+iy\mapsto x-iy$ で自分の共役と同型である。

証明を開く

1.底空間はパラコンパクトなので $W$ に Hermite 計量 $\langle\ ,\ \rangle$(第 1 変数について複素線型、第 2 変数について共役線型)がある(MS74 p. 157)。$\overline W$ のファイバー $\overline F$ から双対 $\operatorname{Hom}_{\mathbb C}(F,\mathbb C)$ への写像 $v\mapsto\langle\,\cdot\,,v\rangle$ は、$\overline F$ での $\lambda$ 倍が $\bar\lambda v$ であることと $\langle w,\bar\lambda v\rangle=\lambda\langle w,v\rangle$ により複素線型であり、$\langle v,v\rangle>0$($v\ne0$)から単射、次元が等しいので同型である。計量は連続なので、これは束の同型 $\overline W\cong W^\vee$ を与える(MS74 pp. 168–169)。Chern類 の命題「双対束と行列式束のChern類」により $c_k(\overline W)=c_k(W^\vee)=(-1)^kc_k(W)$ である。

2.$\kappa(x+iy):=x-iy$ は各ファイバーの実線型な全単射で、$\kappa(i(x+iy))=\kappa(-y+ix)=-y-ix=-i\,\kappa(x+iy)$ をみたす。よって $\kappa$ は複素ベクトル束の同型 $E\otimes\mathbb C\to\overline{E\otimes\mathbb C}$ である(MS74 Lemma 15.1、p. 173)。1 により $c_k(E\otimes\mathbb C)=(-1)^kc_k(E\otimes\mathbb C)$ であり、$k$ が奇数なら $2c_k(E\otimes\mathbb C)=0$ である。$\square$

Pontryagin 類

階数 $n$ の実ベクトル束 $E\to B$ の第 $i$ Pontryagin 類を
$$ p_i(E):=(-1)^ic_{2i}(E\otimes\mathbb C)\in H^{4i}(B;\mathbb Z) $$
と定め、$p(E):=1+p_1(E)+\cdots+p_{\lfloor n/2\rfloor}(E)$ を全 Pontryagin 類という。$E\otimes\mathbb C$ の階数は $n$ なので、$2i>n$ なら $p_i(E)=0$ である。多様体 $M$ の接束の Pontryagin 類を $p_i(M)$ と書く。複素多様体では複素構造を忘れた実接束をとる。

符号の約束

この記事の約束は MS74(§15、p. 174)と Hat17(§3.2、p. 94)に従う。BT82(§22、p. 289)は de Rham コホモロジーで $p(E):=c(E\otimes\mathbb C)=1+c_1(E\otimes\mathbb C)+\cdots$ と符号を付けずに定めている(実係数では奇数番目が $0$ なので、$4i$ 次の成分は $c_{2i}(E\otimes\mathbb C)$ である)。2 つの約束の $4i$ 次の類は $(-1)^i$ 倍だけ違う。

約束$4i$ 次の類$p(\mathbb{CP}^n)$出典
この記事$(-1)^ic_{2i}(E\otimes\mathbb C)$$(1+h^2)^{n+1}$MS74 Example 15.6、p. 177
符号なし$c_{2i}(E\otimes\mathbb C)$$(1-h^2)^{n+1}$BT82 Example 22.8・Remark 22.8.1、p. 290

符号 $(-1)^i$ を付ける理由として、MS74 p. 174 は $p_k=e^2$(Corollary 15.8)と $p(\mathbb{CP}^n)$(Example 15.6)の公式に符号が出ないようにするためと述べ、BT82 Remark 22.8.1 も複素多様体の公式に正の項だけが出ることを理由の 1 つに挙げている。どちらの約束でも $p_i=0$ という条件や Pontryagin 数が $0$ であるという条件は変わらない。

基本性質

自然性・安定性・Whitney の和公式
  1. (自然性)連続写像 $f\colon B'\to B$ について $p(f^*E)=f^*p(E)$ である。とくに自明束の全 Pontryagin 類は $1$ である。
  2. (安定性)自明束 $\varepsilon^k$ について $p(E\oplus\varepsilon^k)=p(E)$ である。
  3. (Whitney の和公式)$2\bigl(p(E\oplus F)-p(E)\,p(F)\bigr)=0$ である。とくに $H^*(B;\mathbb Z)$ に位数 $2$ の元がなければ $p(E\oplus F)=p(E)\,p(F)$ である。

複素化は引き戻しと直和と可換である:$(f^*E)\otimes\mathbb C\cong f^*(E\otimes\mathbb C)$、$(E\oplus F)\otimes\mathbb C\cong(E\otimes\mathbb C)\oplus(F\otimes\mathbb C)$(定義の $E\oplus E$ がそのまま引き戻し・直和と可換だから)。1 は Chern 類の自然性から従い、自明束は 1 点上の束の引き戻しである。2 は $\varepsilon^k\otimes\mathbb C$ が自明な複素束で $c=1$ なので、Whitney の和公式から $c((E\oplus\varepsilon^k)\otimes\mathbb C)=c(E\otimes\mathbb C)$ となることによる。
3 を示す。$a_j:=c_j(E\otimes\mathbb C)$、$b_j:=c_j(F\otimes\mathbb C)$ とおくと、Chern 類の Whitney の和公式から
$$ c_{2k}\bigl((E\oplus F)\otimes\mathbb C\bigr)=\sum_{j+l=2k}a_jb_l=\sum_{i+m=k}a_{2i}b_{2m}+\sum_{j+l=2k,\ j,l\text{ 奇数}}a_jb_l $$
である。prop-pont-conjugate により $2a_j=2b_l=0$($j,l$ 奇数)なので、最後の和は位数 $2$ の元の和で、$2$ 倍すると $0$ になる。両辺に $(-1)^k=(-1)^i(-1)^m$ を掛けると、$p_k(E\oplus F)-\sum_{i+m=k}p_i(E)p_m(F)$ は $2$ 倍すると $0$ になる元である。$\square$

これは MS74 Lemma 15.2(p. 174)と Theorem 15.3(p. 175)である。3 の整係数の等式は一般には成り立たない(反例の節の 1 行目)。有理係数(あるいは de Rham コホモロジー)に移せば位数 $2$ の元は消えるので、$p(E\oplus F)=p(E)\,p(F)$ が等式として成り立つ。
2 から、$TS^n\oplus\varepsilon^1$ が自明(ベクトル束 の命題「球面の接束は安定的に自明」)なので $p(S^n)=1$ である(MS74 p. 175)。Pontryagin 類は自明束との直和で変わらない、いわゆる安定な類である。
Pontryagin 類とほかの特性類の関係として、次が知られている(この記事では証明しない)。$p_i(E)$ の $\bmod 2$ 還元は $w_{2i}(E)^2$ である(Hat17 Proposition 3.15 (a)、p. 94)。向き付けられた階数 $2k$ の束では $p_k(E)=e(E)^2$ である(MS74 Corollary 15.8、p. 179。Hat17 Proposition 3.15 (b)、p. 94)。$\tfrac12$ を含む整域(たとえば $\mathbb Q$)を係数とすると、向き付けられた階数 $n$ の束の特性類はすべて Pontryagin 類と($n$ が偶数なら)Euler 類の多項式であり、関係は $n$ 偶数のとき $e^2=p_{n/2}$ だけである(MS74 Theorem 15.9、p. 179。Hat17 Theorem 3.16、p. 95)。

複素ベクトル束と複素射影空間

実化の複素化

複素ベクトル束 $W$ について、複素ベクトル束の同型 $W_{\mathbb R}\otimes\mathbb C\cong W\oplus\overline W$ がある。したがって
$$ 1-p_1(W_{\mathbb R})+p_2(W_{\mathbb R})-\cdots=c(W)\,c(\overline W)=\bigl(1+c_1(W)+c_2(W)+\cdots\bigr)\bigl(1-c_1(W)+c_2(W)-\cdots\bigr) $$
が成り立つ。

$W$ のファイバーを $F$、$V:=F_{\mathbb R}$ とすると、$V\otimes\mathbb C=V\oplus V$(複素構造 $J(x,y)=(-y,x)$)である。$g\colon F\to V\oplus V$、$g(x):=(x,-ix)$ は $g(ix)=(ix,x)=J(x,-ix)=J\,g(x)$ をみたすので複素線型である。$\overline F$ の $\lambda$ 倍は $\bar\lambda$ 倍なので、$h\colon\overline F\to V\oplus V$、$h(x):=(x,ix)$ は、$\overline F$ での $i$ 倍 $-ix$ について $h(-ix)=(-ix,x)=J(x,ix)=J\,h(x)$ をみたし、複素線型である。$g(x)=h(y)$ なら $x=y$ かつ $-ix=iy$ なので $x=y=0$ であり、実次元は $2\dim_{\mathbb R}F=\dim_{\mathbb R}(V\oplus V)$ なので、$g+h\colon F\oplus\overline F\to V\otimes\mathbb C$ は複素線型同型である。これはファイバーごとに自然に定まり、局所自明化の上で連続なので、束の同型 $W\oplus\overline W\cong W_{\mathbb R}\otimes\mathbb C$ を与える(MS74 Lemma 15.4、p. 176)。
Chern 類の Whitney の和公式と prop-pont-conjugate の 1 により $c(W_{\mathbb R}\otimes\mathbb C)=c(W)\,c(\overline W)$ で、右辺は上の積である。右辺の $2m$ 次の成分は $\sum_{j+l=m}(-1)^lc_j(W)c_l(W)$ であり、$m$ が奇数なら、$(j,l)$ と $(l,j)$ の項は偶数次の類の積として等しく、符号 $(-1)^l$ と $(-1)^j$ は $j+l$ が奇数なので逆である。よって右辺の $4i+2$ 次の成分は $0$ で、左辺の奇数番目の Chern 類 $c_{2i+1}(W_{\mathbb R}\otimes\mathbb C)$ も $0$ である。左辺の $4i$ 次の成分は定義により $c_{2i}(W_{\mathbb R}\otimes\mathbb C)=(-1)^ip_i(W_{\mathbb R})$ なので、主張の等式が得られる(MS74 Corollary 15.5、p. 177)。$\square$

$h\in H^2(\mathbb{CP}^n)$ を超平面類($\langle h^n,[\mathbb{CP}^n]\rangle=1$、Chern類 の定義「複素射影空間の超平面類」)とする。$H^*(\mathbb{CP}^n)=\mathbb Z[h]/(h^{n+1})$ で、位数 $2$ の元はない(Hat02 Theorem 3.19、p. 220)。

複素射影空間の Pontryagin 類

$\mathbb{CP}^n$ の(実の)接束の全 Pontryagin 類は
$$ p(\mathbb{CP}^n)=(1+h^2)^{n+1},\qquad p_i(\mathbb{CP}^n)=\binom{n+1}{i}h^{2i}\quad(0\le 2i\le n) $$
である。

Chern 類から計算する

$T:=T\mathbb{CP}^n$ を複素ベクトル束とみる。Chern類 の例「複素射影空間の接束」により $c(T)=(1+h)^{n+1}$ であり、prop-pont-conjugate の 1 により $c(\overline T)=(1-h)^{n+1}$ である。$\mathbb{CP}^n$ の実の接束は $T_{\mathbb R}$ であり、lem-pont-realification の証明のとおり
$$ c(T_{\mathbb R}\otimes\mathbb C)=c(T)\,c(\overline T)=(1+h)^{n+1}(1-h)^{n+1}=(1-h^2)^{n+1}=\sum_{i\ge0}(-1)^i\binom{n+1}{i}h^{2i} $$
である。$4i$ 次の成分を比べて $c_{2i}(T_{\mathbb R}\otimes\mathbb C)=(-1)^i\binom{n+1}{i}h^{2i}$、よって $p_i(\mathbb{CP}^n)=(-1)^ic_{2i}=\binom{n+1}{i}h^{2i}$ である。$h^{n+1}=0$ なので $2i>n$ の項は消え、全 Pontryagin 類は $(1+h^2)^{n+1}$ に等しい。$\square$

これは MS74 Example 15.6(p. 177)である。小さい $n$ では次のとおりである。

$n$$p(\mathbb{CP}^n)$実次元
$1$$1$$2$
$2$$1+3h^2$$4$
$3$$1+4h^2$$6$
$4$$1+5h^2+10h^4$$8$

$\mathbb{CP}^1=S^2$ の $p=1$ は $p(S^n)=1$ と合っている。

はめ込みの障害

法束の Pontryagin 類

$m$ 次元の $C^\infty$ 級多様体 $M$ が $\mathbb R^{m+k}$ にはめ込めるとし、$H^*(M;\mathbb Z)$ に位数 $2$ の元がないとする。$p(M)$ の逆元 $\bar p(M):=p(M)^{-1}$ の $4i$ 次の成分を $\bar p_i(M)$ とすると、$2i>k$ なら $\bar p_i(M)=0$ である。

はめ込み $f\colon M\to\mathbb R^{m+k}$ について、$df$ で $TM$ を $f^*T\mathbb R^{m+k}=M\times\mathbb R^{m+k}$ の部分束とみなし、標準内積に関する直交補束を $\nu$(階数 $k$、法束)とすると $TM\oplus\nu\cong\varepsilon^{m+k}$ である。prop-pont-basic の 1・3 と位数 $2$ の元がないことから $p(M)\,p(\nu)=1$、すなわち $p(\nu)=\bar p(M)$ である。$\nu$ の階数は $k$ なので、$2i>k$ なら $p_i(\nu)=0$ である。$\square$

複素射影空間 $\mathbb{CP}^4$ は $\mathbb R^{11}$ にはめ込めない

$M=\mathbb{CP}^4$($m=8$)では $p(M)=1+5h^2+10h^4$ で、$y=h^2$ とおくと $(1+y)^{-5}=1-5y+15y^2-\cdots$、$h^{10}=0$ なので
$$ \bar p(\mathbb{CP}^4)=1-5h^2+15h^4 $$
である。$h^4$ は $H^8(\mathbb{CP}^4)\cong\mathbb Z$ の生成元なので $\bar p_2(\mathbb{CP}^4)=15h^4\ne0$ である。prop-pont-immersion により $\mathbb{CP}^4$ が $\mathbb R^{8+k}$ にはめ込めるなら $2\cdot2\le k$、すなわち $k\ge4$ である。よって $\mathbb{CP}^4$ は $\mathbb R^{11}$ にはめ込めず、埋め込みもできない。

BT82 Example 22.10(p. 291)は、符号を付けない約束で同じ計算をして、$\mathbb{CP}^4$ が $11$ 次元以下の Euclid 空間に埋め込めないことを示している。一方、Whitney のはめ込み定理により、$8$ 次元の閉多様体は $\mathbb R^{16}$ にはめ込める(Whitneyのはめ込み定理)。実射影空間についての同じ型の議論は、$\mathbb Z/2$ 係数の Stiefel–Whitney類 で行う。

Pontryagin 数と同境

$M$ を向き付けられた $4k$ 次元の閉多様体とし、$[M]\in H_{4k}(M;\mathbb Z)$ を基本類とする。$k$ の分割 $I=(i_1,\dots,i_r)$($i_1+\cdots+i_r=k$)について、整数
$$ p_I[M]:=\bigl\langle p_{i_1}(M)\,p_{i_2}(M)\cdots p_{i_r}(M),\ [M]\bigr\rangle $$
を $M$ の $I$ 番目の Pontryagin 数という(MS74 §16、p. 185)。$M$ の向きを逆にすると $p_i(M)$ は変わらず(定義に向きを使わない)$[M]$ の符号が変わるので、$p_I[-M]=-p_I[M]$ である。非交和では基本類が和になるので $p_I[M\sqcup M']=p_I[M]+p_I[M']$ である。
境界付き多様体の基本類について、次の補題を使う。$R$ は $\mathbb Z$ または $\mathbb Z/2$ とする。$W$ をコンパクトな $n$ 次元の境界付き多様体($n\ge1$)、$M=\partial W$ とし、内部 $W\setminus M$ が $R$ 向き付けられているとする($R=\mathbb Z/2$ なら条件はない)。このとき相対基本類 $[W,M]\in H_n(W,M;R)$ がただ 1 つあり、どの内点 $x$ でも $H_n(W,M)\to H_n(W,W\setminus\{x\})$ で $x$ の局所向き $\mu_x$ に写る(Hat02 §3.3、p. 253。カラー近傍の存在は同 Proposition 3.42、p. 253)。

境界の基本類

上の状況で、連結準同型 $\partial\colon H_n(W,M;R)\to H_{n-1}(M;R)$ による $\partial[W,M]$ は $M$ の基本類である。すなわち、どの $y\in M$ でも $H_{n-1}(M)\to H_{n-1}(M,M\setminus\{y\})\cong R$ で生成元に写る。とくに $R=\mathbb Z$ なら $M$ は向き付け可能で、$\partial[W,M]$ は $M$ のある向きの基本類である。この向きを $W$ から誘導される向きという。

半空間のモデルでの計算

要点:カラー近傍で $y$ の近くを半空間 $H=\mathbb R^{n-1}\times[0,\infty)$ に移し、半球の内部 $\Omega$ を除いた $X=H\setminus\Omega$ を使った 3 つ組の連結準同型が、内点 $x$ の局所向きを境界点 $y$ の局所向きに同型で写すことを示す。

証明を開く

ホモロジーの係数 $R$ を省く。3 つ組 $(A,B,C)$($C\subset B\subset A$)の連結準同型 $\delta\colon H_n(A,B)\to H_{n-1}(B,C)$ は、対 $(A,B)$ の連結準同型と $H_{n-1}(B)\to H_{n-1}(B,C)$ の合成であり、3 つ組の写像と可換で、3 つ組の長完全列に入る。

モデル.$H:=\mathbb R^{n-1}\times[0,\infty)$、$z=(v,t)$、$\Omega:=\{z\in H\mid |z|< 1,\ t>0\}$、$X:=H\setminus\Omega$、$x_0:=(0,1/2)$ とする。$X$ は $\partial H=\{t=0\}$ 全体を含む。(i) $X$ は $H\setminus\{x_0\}$ の変形レトラクトである:$p\in\Omega\setminus\{x_0\}$ について、$x_0$ から $p$ を通る半直線が凸な開集合 $\Omega$ を最初に出る点 $F(p)$ は $\Omega$ の $H$ での境界 $\{|z|=1\}\cup\{t=0,|z|\le1\}\subset X$ にあり($\Omega\subset\{t>0\}$ なので $H$ を出る前に出る)、$p$ について連続である($x_0$ は $\Omega$ の内点)。$p\notin\Omega$ では $F(p)=p$ とし、線分 $(1-\lambda)p+\lambda F(p)$ は半直線の $p$ より先にあって $x_0$ を通らず、$H$ は凸なのでこれが変形である。$H$ は可縮なので、対の完全列と五項補題により $H_n(H,X)\to H_n(H,H\setminus\{x_0\})$ は同型である。(ii) $X\setminus\{0\}$ は可縮である:$t=0$、$0<|z|< 1$ の点を原点からの半直線に沿って $|z|=1$ まで押し出すと、$O:=\{|z|\ge1,t\ge0\}$ への変形レトラクトになり、$O$ は半径方向の射影で閉じた上半球面に、それは $(1-\lambda)p+\lambda e_t$ の正規化で 1 点に変形する($t$ 成分が正なので $0$ を通らない)。よって $H_*(H,X\setminus\{0\})=0$ で、3 つ組 $(H,X,X\setminus\{0\})$ の長完全列から $\delta\colon H_n(H,X)\to H_{n-1}(X,X\setminus\{0\})$ は同型である。(iii) $B^\circ:=\{t=0,|z|< 1\}$ は $X$ でも $\partial H$ でも開集合なので、切除により $H_{n-1}(\partial H,\partial H\setminus\{0\})\to H_{n-1}(X,X\setminus\{0\})$ は同型である。

$W$ への移し替え.$y\in M$ とし、$M$ の座標近傍 $V\cong\mathbb R^{n-1}$($y\mapsto0$)とカラー $c\colon M\times[0,1)\to W$ から、開集合 $U:=c(V\times[0,1))$ と同相 $U\cong\mathbb R^{n-1}\times[0,1)\cong H$(第 2 成分は $[0,1)\cong[0,\infty)$)をとる。$\Omega$、$x_0$ に対応する $\Omega_W$、$x$ をとり、$X_W:=W\setminus\Omega_W$ とする。$\Omega_W$ の閉包はコンパクトで $U$ に含まれるので、$W\setminus U$ は $X_W$ と $W\setminus\{x\}$ の内部に含まれ、切除により $W$ の対 $(W,X_W)$、$(W,W\setminus\{x\})$、$(X_W,X_W\setminus\{y\})$ のホモロジーはモデルの対応する群と同型で、3 つ組の連結準同型もモデルのものに対応する。$M\subset X_W$ なので 3 つ組の写像 $k\colon(W,M,M\setminus\{y\})\to(W,X_W,X_W\setminus\{y\})$ があり、$\delta\circ k_*=k_*\circ\delta$ である。左の 3 つ組の $\delta[W,M]$ は $\partial[W,M]$ の $H_{n-1}(M,M\setminus\{y\})$ への像である。$k_*\colon H_{n-1}(M,M\setminus\{y\})\to H_{n-1}(X_W,X_W\setminus\{y\})$ は (iii) と同じ切除($V$ の中の $B^\circ$ に対応する開集合)で同型である。一方 $k_*[W,M]\in H_n(W,X_W)$ は、$X_W\subset W\setminus\{x\}$ なので $H_n(W,W\setminus\{x\})$ で $\mu_x$ に写り、(i) によりこの写像は同型だから $k_*[W,M]$ は $H_n(W,X_W)\cong R$ の生成元である。(ii) により $\delta k_*[W,M]$ は生成元であり、したがって $\partial[W,M]$ の $H_{n-1}(M,M\setminus\{y\})$ への像も生成元である。

$M$ は $W$ の閉集合なのでコンパクトで、境界のない $(n-1)$ 次元多様体である。各点で生成元に写る類は基本類であり、$R=\mathbb Z$ ならそれが $M$ の向きを定める(Hat02 Theorem 3.26 の後の段落、p. 236)。モデルの計算は点によらないので、$W$ の向きを保つカラーの座標で見れば、この向きと「外向きの法線を先頭に置く」向きの比は次元 $n$ だけで決まる符号である。$\square$

境界の Pontryagin 数(Pontryagin)

$W$ を向き付けられたコンパクトな $(4k+1)$ 次元の $C^\infty$ 級の境界付き多様体とし、その境界 $M=\partial W$ に誘導される向き(lem-pont-boundary-class)を入れる。このとき $M$ の Pontryagin 数はすべて $0$ である。

外向きの法線と境界写像

$i\colon M\hookrightarrow W$ を包含とする。
第 1 段:$TW|_M\cong TM\oplus\varepsilon^1$.境界の各点の境界座標の近くでは、外を向く接ベクトル場が取れる。外を向くベクトルの全体は各ファイバーの開いた半空間で凸なので、$M$ の 1 の分割で貼り合わせた $n\colon M\to TW|_M$ もどこでも外を向き、とくに $TM$ に含まれない。$n$ が張る直線束は自明で $TM$ と交わらず、次元を比べると $TM\oplus\mathbb R n\cong TW|_M$ である。
第 2 段:$p(M)=i^*p(W)$.prop-pont-basic の 1・2 により
$$ p(M)=p(TM\oplus\varepsilon^1)=p(i^*TW)=i^*p(W) $$
であり、$i^*$ は環準同型なので、どの分割 $I$ についても $p_{i_1}(M)\cdots p_{i_r}(M)=i^*\bigl(p_{i_1}(W)\cdots p_{i_r}(W)\bigr)$ である。
第 3 段:$i_*[M]=0$.lem-pont-boundary-class($R=\mathbb Z$)により $[M]=\partial[W,M]$ である。完全列
$$ H_{4k+1}(W,M)\xrightarrow{\ \partial\ }H_{4k}(M)\xrightarrow{\ i_*\ }H_{4k}(W) $$
で $i_*\circ\partial=0$ なので、$i_*[M]=i_*\partial[W,M]=0$ である。
以上から
$$ p_I[M]=\bigl\langle i^*(p_{i_1}(W)\cdots p_{i_r}(W)),[M]\bigr\rangle=\bigl\langle p_{i_1}(W)\cdots p_{i_r}(W),\,i_*[M]\bigr\rangle=0 $$
である。$\square$

これは MS74 Lemma 17.3(p. 202)であり、証明は同書 Theorem 4.9(p. 52)の Stiefel–Whitney 数の議論を整係数で行ったものである(同境 の定理「Pontryagin と Thom の定理」の 1 がその $\mathbb Z/2$ 版である)。

向き付けられた同境不変性

向き付けられた $4k$ 次元の閉多様体 $M_0$、$M_1$ が向き付けられた同境なら、すべての分割 $I$ について $p_I[M_0]=p_I[M_1]$ である。したがって $M\mapsto p_I[M]$ は向き付けられた同境群 $\Omega_{4k}$ から $\mathbb Z$ への準同型を与える。

向き付けられた $W$ で $\partial W$ が $M_0\sqcup(-M_1)$ と向きを保って微分同相なものがある(境界の向きの規約を外向きの法線を先頭に置くものにしても、lem-pont-boundary-class の誘導される向きとは全成分に共通の符号しか違わないので、以下の議論は変わらない)。向きを保つ微分同相 $\phi$ について、$d\phi$ は接束の同型なので Pontryagin 類の自然性から $p_I$ は保たれる。thm-pont-boundary と上の 2 つの式から $0=p_I[M_0\sqcup(-M_1)]=p_I[M_0]-p_I[M_1]$ である。非交和についての加法性から準同型である。$\square$

複素射影平面

thm-pont-cpn により $p_1(\mathbb{CP}^2)=3h^2$、$\langle h^2,[\mathbb{CP}^2]\rangle=1$ なので $p_1[\mathbb{CP}^2]=3$ である。したがって、$\mathbb{CP}^2$ を $j$ 個($j\ge1$、どれも同じ向き)並べた非交和は、Pontryagin 数が $3j\ne0$ なので向き付けられた多様体の境界にならない。
さらに、$\mathbb{CP}^2$ には向きを逆にする微分同相 $f$ がない。実際、$df$ は束の同型 $T\mathbb{CP}^2\cong f^*T\mathbb{CP}^2$ なので $f^*p_1=p_1$ であり、$f_*[\mathbb{CP}^2]=-[\mathbb{CP}^2]$ なら
$$ 3=\langle p_1,[\mathbb{CP}^2]\rangle=\langle f^*p_1,[\mathbb{CP}^2]\rangle=\langle p_1,f_*[\mathbb{CP}^2]\rangle=-3 $$
となって矛盾する。これらは MS74 p. 186 の注意(Pontryagin による)である。

Pontryagin 数は符号数とも結びつく。$4$ 次元の向き付けられた閉多様体 $M$ の符号数 $\sigma(M)$($H^2(M;\mathbb Q)$ の交叉形式の符号数)について、Hirzebruch の符号数定理により $\sigma(M)=\tfrac13p_1[M]$ が成り立つ(MS74 Theorem 19.4、p. 224、$L_1=\tfrac13p_1$ は p. 225。この記事では証明しない。Hirzebruchの符号数定理)。$\mathbb{CP}^2$ では $\sigma=1$、$p_1[\mathbb{CP}^2]=3$ で合っている。$\Omega_4\cong\mathbb Z$ は $\mathbb{CP}^2$ の類で生成される(MS74 p. 203)。また、有理係数の Pontryagin 類は区分線型構造だけで決まり(Thom)、さらに位相不変である(Novikov、1965)ことが知られている(MS74 §20、p. 231)。

反例と注意

外す条件反例成り立たなくなること
位数 $2$ の元を除くこと$\mathbb{RP}^4$ 上のトートロジー直線束 $\gamma$ と $\gamma\oplus\gamma$整係数の等式 $p(E\oplus F)=p(E)\,p(F)$
境界に $W$ から誘導される向き$\mathbb{CP}^2\sqcup\mathbb{CP}^2=\partial(\mathbb{CP}^2\times[0,1])$(向きを忘れて)境界なら Pontryagin 数は $0$
安定な類であること(Euler 数に替える)$S^4=\partial D^5$境界なら特性数は $0$
特性類が束を決めること$TS^2$ と自明な階数 $2$ の束$p(E)=p(F)$ なら $E\cong F$

1 行目.$\gamma$ は階数 $1$ なので $p(\gamma)=1$ であり、$p(\gamma)\,p(\gamma)=1$ である。一方 $w(\gamma)=1+a$($a\in H^1(\mathbb{RP}^4;\mathbb Z/2)$ の生成元。Stiefel–Whitney類 の補題「トートロジー直線束」)から $w(\gamma\oplus\gamma)=(1+a)^2=1+a^2$、よって $p_1(\gamma\oplus\gamma)$ の $\bmod 2$ 還元は $w_2(\gamma\oplus\gamma)^2=a^4\ne0$ である(Hat17 Proposition 3.15 (a)、p. 94。$a^4\ne0$ は Hat02 Theorem 3.19、p. 220)。したがって $p_1(\gamma\oplus\gamma)\ne0$ で、整係数の和公式は破れる。prop-pont-basic の 3 により $2p_1(\gamma\oplus\gamma)=0$ なので、$p_1(\gamma\oplus\gamma)$ は位数 $2$ の元であり、位数 $2$ の元を除いた和公式とは矛盾しない。
2 行目.$\mathbb{CP}^2\times[0,1]$ の境界は、向きを忘れれば $\mathbb{CP}^2$ 2 つの非交和である。$W$ から誘導される向きは $\mathbb{CP}^2\sqcup(-\mathbb{CP}^2)$ で、その $p_1$ は $3-3=0$ である。同じ向きの 2 つでは $p_1=6\ne0$ なので、thm-pont-boundary の「誘導される向き」は外せない(同境 の反例の 3 行目と同じ例)。
3 行目.$S^4$ は $D^5$ の境界だが、$\langle e(TS^4),[S^4]\rangle=\chi(S^4)=2\ne0$ である(Euler類 の例「球面の接束」)。thm-pont-boundary の証明の第 2 段は $p(TM\oplus\varepsilon^1)=p(TM)$ という安定性に依っていたが、Euler 類では $e(TM\oplus\varepsilon^1)=0$ となり、$TM$ の情報が消える(MS74 p. 101 の注意:$e$ は単元でないので、直和の $e$ から一方の $e$ を解くことはできない)。
4 行目.$p(TS^2)=p(\varepsilon^2)=1$ だが、$e(TS^2)\ne0=e(\varepsilon^2)$ なので $TS^2$ は自明でない。Pontryagin 類は安定な類なので、安定同値な束を区別できない。

関連項目

参考文献

[1]
John W. Milnor, James D. Stasheff, Characteristic Classes, Princeton University Press, 1974, §4 Theorem 4.9(p. 52);§9 Euler 類が単元でないことの注意(p. 101);§14 Hermite 計量の存在(p. 157)、共役束と双対束(pp. 168–169);§15 Lemma 15.1(p. 173)、Pontryagin 類の定義と Lemma 15.2(p. 174)、Theorem 15.3・球面の例(p. 175)、Lemma 15.4(p. 176)、Corollary 15.5・Example 15.6(p. 177)、Corollary 15.8・Theorem 15.9(p. 179);§16 Pontryagin 数(p. 185)、向きの反転と境界についての注意(p. 186);§17 Lemma 17.3(p. 202)、向き付けられた同境群の表(p. 203);§19 Theorem 19.4(p. 224)、L 多項式(p. 225);§20 冒頭(p. 231)
[3]
Raoul Bott, Loring W. Tu, Differential Forms in Algebraic Topology, Springer, 1982, §22 Pontryagin 類の定義と Remark 22.6(p. 289)、Example 22.8・Remark 22.8.1(p. 290)、Example 22.10(p. 291)

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