不等式の証明の技法

同義語:並べ替え不等式Chebyshevの和の不等式Schurの不等式techniques for proving inequalities

概要

不等式の証明の技法(techniques for proving inequalities)とは、相加相乗平均・Cauchy–Schwarz・微分に加え、不等式の形(対称・巡回・同次)と等号条件から道具を選んで示す方法の体系である。基本になるのは、2 組の実数を組にした積の和は大小の順を揃えると最大、逆にすると最小という並べ替え不等式、同順な組についての Chebyshev の和の不等式 $n\sum a_ib_i\ge\sum a_i\sum b_i$、$p,q>1$、$\frac1p+\frac1q=1$ のときの Hölder の不等式 $\sum|x_iy_i|\le\|x\|_p\|y\|_q$ と $p\ge1$ での Minkowski の不等式、$x,y,z\ge0$、$t>0$ での Schur の不等式 $\sum x^t(x-y)(x-z)\ge0$ である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 相加平均・相乗平均と凸関数, 判別式で示す不等式とCauchy–Schwarzの不等式, 微分係数と導関数の定義(高校数学), 置換

高校での出発点

高校で不等式を示す道具は、おおむね三つである。差を平方の和にすること、有名な不等式(相加相乗平均の不等式と Cauchy–Schwarz の不等式)を使うこと、微分することである。

差を平方の和にする

$a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca=\frac12\{(a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2\}\ge0$。

有名な不等式を使う

正の $a,b,c$ について、Cauchy–Schwarz の不等式を $(\sqrt a,\sqrt b,\sqrt c)$ と $(1/\sqrt a,1/\sqrt b,1/\sqrt c)$ に使うと $(a+b+c)\bigl(\frac1a+\frac1b+\frac1c\bigr)\ge9$。たとえば $(a,b,c)=(1,2,3)$ では左辺は $6\cdot\frac{11}6=11$ である。

微分する

$f(x):=\log(1+x)-x+\frac{x^2}2$ は $f(0)=0$、$f'(x)=\frac{x^2}{1+x}>0$($x>0$)なので、$x>0$ で $\log(1+x)>x-\frac{x^2}2$。

相加相乗平均の不等式は $\log$ の凹性から重み付きの形 $\prod a_i^{\lambda_i}\le\sum\lambda_ia_i$($a_i>0$、$\lambda_i\ge0$、$\sum\lambda_i=1$)に一般化され(相加平均・相乗平均と凸関数)、Cauchy–Schwarz の不等式は 2 次式 $\sum_i(a_it+b_i)^2\ge0$ の判別式から出る内積の不等式である(判別式で示す不等式とCauchy–Schwarzの不等式)。本記事ではこの二つは要点にとどめ、ほかの技法をなぜ効くか・使える条件・効かない例に分けて証明つきで整理し、選び方の目安を表にする。答える問いは次のとおりである。

  1. 2 組の数の積の和は、組み方によってどう変わるか。→ thm-tpi-rearrangement、thm-tpi-chebyshev
  2. Cauchy–Schwarz の不等式の「2 乗」を別の指数に変えるとどうなるか。→ thm-tpi-holder、thm-tpi-minkowski
  3. 差が平方の和に書けないときはどうするか。→ thm-tpi-schur、ex-tpi-sos-counter
  4. 和が一定のとき、凸でない関数の値の和をどう評価するか。→ ex-tpi-tangent
    高校の計算と大学の概念は、次のように対応する。
    高校の計算大学の概念
    大きい数どうしを掛けると積の和が大きい並べ替え不等式(thm-tpi-rearrangement)
    Cauchy–Schwarz の不等式Hölder の不等式の $p=q=2$ の場合(thm-tpi-holder)
    三角不等式Minkowski の不等式(thm-tpi-minkowski)
    差を平方の和にする平方の和の限界と Schur の不等式(thm-tpi-schur)
    条件 $a+b+c=1$ を使って式を整える同次式・同次化・正規化(def-tpi-shapes)
    微分で増減を調べる接線による評価(ex-tpi-tangent)

取り出すべき構造:形と等号

対称式・巡回式・同次式

$D\subset\mathbb{R}^n$ を成分の入れ替えと正の数倍で閉じた集合とし、$F\colon D\to\mathbb{R}$ とする。変数をどう入れ替えても値が変わらないとき $F$ は対称、$n=3$ で $F(a,b,c)=F(b,c,a)$ が常に成り立つとき巡回的という。実数 $d$ について、すべての $x\in D$、$k>0$ で $F(kx)=k^dF(x)$ となるとき、$F$ は $d$ 次の同次式という。

巡回的だが対称でない式

$a^2b+b^2c+c^2a$ は巡回的な 3 次の同次式だが対称ではない($(3,2,1)$ で $25$、$(1,2,3)$ で $23$)。

もう一つの手がかりは等号条件である。$A\ge C\ge B$ と 2 段で $A\ge B$ を示すなら、$A=B$ となる点では両段とも等号でなければならない。$a=b=c$ で等号になる不等式の途中で、$a=4b$ でしか等号にならない $a+4b\ge4\sqrt{ab}$ を使えば、証明は必ず失敗する。等号の点を予想し、そこで等号を保つ評価を選ぶのが出発点である。

並べ替え不等式と Chebyshev の和の不等式

並べ替え不等式

実数 $a_1\le\cdots\le a_n$、$b_1\le\cdots\le b_n$ と $\{1,\dots,n\}$ の置換 $\sigma$ について
$$ \sum_{i=1}^na_ib_{n+1-i}\le\sum_{i=1}^na_ib_{\sigma(i)}\le\sum_{i=1}^na_ib_i . $$
$a,b$ がともに狭義増加なら、右の等号は $\sigma$ が恒等置換のときに限る。

言い換えると、2 組の $n$ 個の実数を 1 対 1 に組にして積の和をとるとき、大きさの順を揃えた組み方が最大、逆にした組み方が最小である。符号は問わない。

隣り合う逆転を解消する

$c_i:=b_{\sigma(i)}$、$S(c):=\sum_ia_ic_i$ とし、$j< k$ かつ $c_j>c_k$ となる組の個数を逆転数と呼ぶ。$c$ が小さい順でなければ $c_i>c_{i+1}$ となる $i$ があり、$c_i,c_{i+1}$ を入れ替えた列 $c'$ について
$$ S(c')-S(c)=(a_{i+1}-a_i)(c_i-c_{i+1})\ge0 $$
である。隣り合う 2 項の入れ替えでは組 $(i,i+1)$ の大小だけが変わるので、逆転数はちょうど $1$ 減る。よってこの操作は有限回で止まり、そのとき列は小さい順、すなわち $(b_1,\dots,b_n)$ になる。$S$ は減らないので右の不等式が従う。$a,b$ が狭義増加なら各段で $S$ は真に増えるので、$\sigma$ が恒等置換でなければ(このとき $c$ は小さい順でない)不等号は真である。左の不等式は、小さい順に並んだ列 $b'_i:=-b_{n+1-i}$ に右の不等式を使えば得られる($b$ の並べ替えは $b'$ の並べ替えの $-1$ 倍)。$\square$

6 通りの組み方

$(a_1,a_2,a_3)=(1,2,3)$、$(b_1,b_2,b_3)=(4,5,6)$ の組み方 $6$ 通りの積の和は $28,29,29,31,31,32$ である。最大 $32=1\cdot4+2\cdot5+3\cdot6$ は順を揃えた組み方、最小 $28=1\cdot6+2\cdot5+3\cdot4$ は逆にした組み方である。

並べ替え不等式はなぜ効くか

組み方を 1 か所変えたときの変化が $(a_{i+1}-a_i)(c_i-c_{i+1})$ という積になり、符号が大小の順だけで決まる。使える条件は、同じ 2 組の数の組み方どうしを比べる「積の和」であることである。

Chebyshev の和の不等式

実数の組 $(a_i)$、$(b_i)$($i=1,\dots,n$)が同順、すなわちすべての $i,j$ で $(a_i-a_j)(b_i-b_j)\ge0$ ならば $n\sum_ia_ib_i\ge\bigl(\sum_ia_i\bigr)\bigl(\sum_ib_i\bigr)$。すべての $i,j$ で $(a_i-a_j)(b_i-b_j)\le0$(逆順)なら不等号は逆向きになる。

二重和を展開する

$\sum_{i,j}(a_i-a_j)(b_i-b_j)=2n\sum_ia_ib_i-2\bigl(\sum_ia_i\bigr)\bigl(\sum_jb_j\bigr)$ であり、同順なら左辺の各項は $0$ 以上、逆順なら $0$ 以下である。$\square$

同順と逆順

$(1,2,3)$ と $(4,5,6)$ は同順で、$3\cdot32=96\ge6\cdot15=90$ である。$(1,2,3)$ と $(6,5,4)$ は逆順で、$3\cdot28=84\le90$ である。

両辺を $n^2$ で割ると「積の平均 $\ge$ 平均の積」と読める。並べ替え不等式からも出る:$a,b$ が小さい順なら、$b$ を $k$ だけ巡回的にずらした組み方の和 $\sum_ia_ib_{i+k}$(添字は $n$ を法とする)はどれも $\sum_ia_ib_i$ 以下で、$k=0,\dots,n-1$ について足すと $\bigl(\sum a_i\bigr)\bigl(\sum b_j\bigr)$ になる。

使用例

$a,b,c\ge0$ なら $(a-b)(a^2-b^2)=(a-b)^2(a+b)\ge0$ なので、$(a,b,c)$ と $(a^2,b^2,c^2)$ は同順である。

  1. $a^2b+b^2c+c^2a$ は $a^2\leftrightarrow b$、$b^2\leftrightarrow c$、$c^2\leftrightarrow a$ と組にした積の和なので、thm-tpi-rearrangement により $a^3+b^3+c^3\ge a^2b+b^2c+c^2a$。
  2. thm-tpi-chebyshev により $(a+b+c)(a^2+b^2+c^2)\le3(a^3+b^3+c^3)$。差は $\sum(a-b)^2(a+b)$(3 つの組についての和)である。
反例:同順でなければ成り立たない

$(a,b,c)=(-2,1,1)$ では $(a-b)(a^2-b^2)=-9<0$ で同順でない。実際 $(a+b+c)(a^2+b^2+c^2)=0$、$3(a^3+b^3+c^3)=-18$ で、上の 2 は成り立たない。負の数を許すと $x\mapsto x^2$ が増加でなくなり、同順の仮定が破れる。

Chebyshev の和の不等式は、同じ順に並んだ 2 つの変量の共分散が $0$ 以上であることと同じ内容で、共分散と相関係数は 相関係数(高校数学) で扱う。

Young・Hölder・Minkowski の不等式

$p,q>1$ が $\frac1p+\frac1q=1$ を満たすとき共役指数という。実数の組 $x=(x_i)$ と $p>0$ について $\|x\|_p:=\bigl(\sum_i|x_i|^p\bigr)^{1/p}$ とおく。

Young の不等式

$p,q$ が共役指数で $a,b\ge0$ なら $ab\le\frac{a^p}p+\frac{b^q}q$。等号は $a^p=b^q$ のときに限る。

1 変数の最小値

$b=0$ なら差は $\frac{a^p}p$ で明らか。$b>0$ を固定し $f(a):=\frac{a^p}p+\frac{b^q}q-ab$ とおく。$f'(a)=a^{p-1}-b$ は $a_0:=b^{1/(p-1)}$ の左で負、右で正なので、$f$ は $a=a_0$ でだけ最小になる。$\frac p{p-1}=q$ より $a_0^p=b^q=a_0b$ なので $f(a_0)=b^q\bigl(\frac1p+\frac1q-1\bigr)=0$。$a=a_0$ は $a^p=b^q$ と同値である。$\square$

Hölder の不等式

$p,q$ が共役指数なら、実数 $x_i,y_i$($i=1,\dots,n$)について $\sum_i|x_iy_i|\le\|x\|_p\|y\|_q$。

正規化して Young の不等式を足す

$\|x\|_p=0$ または $\|y\|_q=0$ なら両辺は $0$。そうでなければ $u_i:=|x_i|/\|x\|_p$、$v_i:=|y_i|/\|y\|_q$ とおくと $\sum u_i^p=\sum v_i^q=1$ なので、lem-tpi-young を足して $\sum u_iv_i\le\frac1p+\frac1q=1$。両辺に $\|x\|_p\|y\|_q$ を掛ける。$\square$

Hölder の不等式はなぜ効くか

両辺は $x$ についても $y$ についても 1 次の同次式なので $\|x\|_p=\|y\|_q=1$ と正規化でき、あとは項ごとの Young の不等式の和になる。使える条件は $\frac1p+\frac1q=1$(正規化で次数が合う条件)である。$p=q=2$ が Cauchy–Schwarz の不等式であり、ex-tpi-hs-cs はこの場合を $x_i=\sqrt{a_i}$、$y_i=1/\sqrt{a_i}$ に使ったものである。

指数 3 の Hölder の不等式

$y_i=1$、$p=3$ とすると $\sum|x_i|\le n^{2/3}\|x\|_3$、たとえば $a,b,c\ge0$ で $(a+b+c)^3\le9(a^3+b^3+c^3)$。$(a,b,c)=(1,2,3)$ では $216\le324$ である。

Minkowski の不等式

$p\ge1$ なら、実数 $x_i,y_i$ について $\|x+y\|_p\le\|x\|_p+\|y\|_p$。

Hölder の不等式を 2 回使う

$p=1$ は $|x_i+y_i|\le|x_i|+|y_i|$ の和。$p>1$ とし $q$ を共役指数、$s:=\|x+y\|_p>0$ とする($s=0$ なら明らか)。$|x_i+y_i|^p\le(|x_i|+|y_i|)|x_i+y_i|^{p-1}$ を足し、$(p-1)q=p$ に注意して thm-tpi-holder を 2 回使うと $s^p\le(\|x\|_p+\|y\|_p)s^{p/q}$。$p-\frac pq=1$ なので $s^{p/q}$ で割って主張を得る。$\square$

$p=2$ は平面・空間の三角不等式である。

根号の和の最小値

thm-tpi-minkowski($p=2$)を $(x,1)$ と $(3-x,2)$ に使うと $\sqrt{x^2+1}+\sqrt{(3-x)^2+4}\ge\sqrt{3^2+3^2}=3\sqrt2$。$x=1$ では左辺が $\sqrt2+\sqrt8=3\sqrt2$ となるので、最小値は $3\sqrt2$ である。$x=1$ は 2 つのベクトルが同じ向きになる $x:1=(3-x):2$ から見つけられる。

反例:指数の条件を外すと成り立たない
  1. Hölder で $p=q=3$($\frac1p+\frac1q\ne1$)、$x=y=(1,1)$ とすると、左辺 $2$ に対し右辺 $2^{2/3}=1.587\ldots$。
  2. Minkowski で $p=\frac12$、$x=(1,0)$、$y=(0,1)$ とすると、$\|x+y\|_{1/2}=(1+1)^2=4>2=\|x\|_{1/2}+\|y\|_{1/2}$。

Young の不等式の土台である重み付きの相加相乗平均の不等式は 平均の大小関係 で扱う。

平方の和と Schur の不等式

差を「$0$ 以上の係数 × 平方」の和に書けば $0$ 以上とわかる(ex-tpi-hs-sos)。3 変数では $S_a(b-c)^2+S_b(c-a)^2+S_c(a-b)^2$ の形を目指す。

対称な 3 次式を平方の和にする

$\sum_{\mathrm{sym}}a^2b:=a^2b+a^2c+b^2a+b^2c+c^2a+c^2b$ とおくと
$$ \textstyle\sum_{\mathrm{sym}}a^2b-6abc=a(b-c)^2+b(c-a)^2+c(a-b)^2 $$
で、$a,b,c\ge0$ なら $0$ 以上である。

Cauchy–Schwarz の不等式も、差が $\sum_{i< j}(a_ib_j-a_jb_i)^2$(Lagrange の恒等式。展開して確かめられる)という平方の和になる。ただし、係数が負になりうる式にはこの方法を直接使えない。その代表が次の不等式である。

Schur の不等式

$x,y,z\ge0$、$t>0$ なら
$$ x^t(x-y)(x-z)+y^t(y-z)(y-x)+z^t(z-x)(z-y)\ge0 . $$
等号は $x=y=z$ のとき、または 2 つが等しく残りが $0$ のときに限る。

大小の順に並べる

左辺は対称なので $x\ge y\ge z$ としてよい。第 1 項と第 2 項の和は $(x-y)\{x^t(x-z)-y^t(y-z)\}$ であり、$x^t\ge y^t\ge0$、$x-z\ge y-z\ge0$ なので $0$ 以上である。第 3 項は $z^t(x-z)(y-z)\ge0$。等号には両方が $0$ であることが要る。第 3 項が $0$ なのは $z=0$ か $y=z$ のとき($x=z$ なら 3 つとも等しい)。$y=z$ なら第 1・2 項の和は $x^t(x-y)^2$ で、これが $0$ なのは $x=y$(または $x=0$ で 3 つとも $0$)のとき。$z=0< y$ なら和は $(x-y)(x^{t+1}-y^{t+1})$ で、$0$ なのは $x=y$ のとき。逆にこれらの点で左辺が $0$ になるのは代入してわかる。$\square$

Schur の不等式の値

$t=1$ とする。$(x,y,z)=(2,1,0)$ では左辺は $2\cdot1\cdot2+1\cdot1\cdot(-1)+0=3>0$、$(1,1,0)$ と $(1,1,1)$ では $0$ で、等号条件のとおりである。

$t=1$ の場合を $p:=x+y+z$、$q:=xy+yz+zx$、$r:=xyz$ で書くと、左辺は $\sum x^3-\sum_{\mathrm{sym}}x^2y+3xyz=p^3-4pq+9r$ である。平方の和の形に書くと $\frac12\{(y+z-x)(y-z)^2+(z+x-y)(z-x)^2+(x+y-z)(x-y)^2\}$ となり、係数 $y+z-x$ などは負になりうるので、この形だけでは示せない。順序を仮定した証明がその穴を埋める。

反例:技法が効かない場合
  1. 変数が負の場合:$t=1$、$(x,y,z)=(-1,0,0)$ なら Schur の左辺は $(-1)(-1)(-1)=-1<0$。$x,y,z\ge0$ の仮定を外すと成り立たない。
  2. $0$ 以上でも平方の和でない場合:$M(x,y):=x^4y^2+x^2y^4-3x^2y^2+1$ は、3 数 $x^4y^2,x^2y^4,1$ の相加相乗平均により $M\ge0$ である(相乗平均は $x^2y^2$)。しかし $M$ は実係数の多項式の平方の和に書けない。実際 $M=\sum_kf_k^2$ とすると、(i) $y=0$ とおいて $\sum_kf_k(x,0)^2=1$。$f_k(x,0)$ の次数の最大 $m$ が $1$ 以上なら $x^{2m}$ の係数が最高次係数の平方の和で正になるので、$f_k(x,0)$ は定数である。$f_k(0,y)$ も同様。(ii) $f_k$ の次数の最大を $m$ とすると、$M$ の $2m$ 次の部分は $f_k$ の $m$ 次の部分の平方の和で $0$ でないので、$2m\le6$。(i)(ii) より $f_k=\alpha_k+\beta_kxy+\gamma_kx^2y+\delta_kxy^2$ の形である。(iii) 積が $x^2y^2$ になる単項式の組は $xy\cdot xy$ だけなので、$\sum_kf_k^2$ の $x^2y^2$ の係数は $\sum_k\beta_k^2\ge0$ となり、$-3$ と矛盾する。

同次化・正規化・順序付け

正規化

$F$ が $d$ 次の同次式なら、正の変数での $F\ge0$ は $x_1+\cdots+x_n=1$ の点だけで示せば十分である。$s:=\sum x_i>0$ として $F(x)=s^dF(x/s)$ だからである。和の代わりに積 $=1$ などに正規化してもよい。

同次化

逆に、条件式つきの同次でない不等式は、条件を使って次数をそろえると同次式になり、平方の和や Schur が使える。

条件を使って次数をそろえる

$a+b+c=1$ のとき $a^2+b^2+c^2\ge\frac13$ は、$3(a^2+b^2+c^2)\ge(a+b+c)^2$ と同値で、差は $\sum(a-b)^2\ge0$ である。

条件 $abc=1$(正の $a,b,c$)は、$x=1$、$y=\frac1a$、$z=\frac1{ab}$ とおくと $a=\frac xy$、$b=\frac yz$、$c=\frac zx$ と書け、分数の式を同次式に直せる。

順序付け

$F$ が対称なら、変数を並べ替えても値が変わらないので $x_1\ge\cdots\ge x_n$ と仮定してよい(prf-thm-tpi-schur で使った)。巡回的なだけなら、$a$ が最大と仮定しても $b\ge c$ と $c\ge b$ の 2 通りが残る。

反例:巡回式で大小を 1 通りに決めてしまう誤り

$a^2b+b^2c+c^2a-(ab^2+bc^2+ca^2)=(a-b)(a-c)(b-c)$ は、$(3,2,1)$ で $2$、$(1,2,3)$ で $-2$ である。「$a\ge b\ge c$ としてよい」と仮定すると差は $0$ 以上と「示せて」しまうが、主張は偽である。左辺は巡回的だが対称ではないので、この仮定は許されない。

微分による方法

差が 1 変数の関数なら増減で示せる(ex-tpi-hs-diff)。多変数でも他の変数を固定して 1 変数ずつ動かせる。和が一定で同じ関数の値の和を評価するには接線が効く。

接線による評価

$a,b,c\ge0$、$a+b+c=3$ なら $\sum\frac1{1+a^2}\ge\frac32$。$f(t):=\frac1{1+t^2}$ の $t=1$ での接線は $y=\frac{2-t}2$ で、
$$ f(t)-\frac{2-t}2=\frac{t(t-1)^2}{2(1+t^2)}\ge0\qquad(t\ge0) $$
である。$a,b,c$ について足すと $\sum f\ge\frac{6-(a+b+c)}2=\frac32$。等号は各変数が $0$ か $1$ で和が $3$、すなわち $a=b=c=1$ のときである。

$f''(t)=\frac{2(3t^2-1)}{(1+t^2)^3}$ は $0\le t<\frac1{\sqrt3}$ で負なので、$f$ は $[0,3]$ で凸ではなく、Jensen の不等式は使えない。接線の方法は、接線がグラフの下にあることを変数の動く範囲でだけ確かめればよい。

接線の方法はなぜ効くか

等号の点で 1 次近似が一致するので、等号を保ったまま各項を 1 次式に置き換えられ、その和は条件で定数になる。

反例:負の値を許すと接線の評価が破れる

負の値を許すと、$t=-1$ では $f(-1)=\frac12$ が接線の値 $\frac{2-(-1)}2=\frac32$ を下回り、接線の評価が破れる。実際 $(a,b,c)=(-1,2,2)$ では $\sum f=0.9<1.5$ となって主張も偽になる。

接線の不等式 $f(x)\ge f(a)+f'(a)(x-a)$ で示す方法は 曲線の凹凸と接線 で扱う。

どの技法を選ぶか

形・条件まず試す技法確かめること
2 組の数の積の和、組み方だけが違う並べ替え、Chebyshev同順か逆順か
積が一定、または和が一定相加相乗平均等号の点で各項が等しいか
分子が 2 乗で分母が正の分数の和Cauchy–Schwarz(Engel 形)等号の点での比
冪や根号の混じる積の和Hölder指数が共役か
根号の和(距離)Minkowski等号になる点を代入で確かめる
和が一定で、同じ関数の値の和凸なら Jensen、凸でなければ接線変数の範囲で接線が下にあるか
対称な 3 次の多項式平方の和、Schur変数が $0$ 以上か
条件式つきで同次でない同次化条件で次数をそろえる
同次で条件がない正規化和や積を $1$ に
$abc=1$$a=\frac xy$ などの置換変数が正か
変数を 1 つずつ動かせる微分端点と臨界点

表の Engel 形とは、$b_i>0$ のときの $\sum_i\frac{a_i^2}{b_i}\ge\frac{(\sum_ia_i)^2}{\sum_ib_i}$ である。Cauchy–Schwarz の不等式を $\frac{a_i}{\sqrt{b_i}}$ と $\sqrt{b_i}$ に使えば得られ、等号は比 $\frac{a_i}{b_i}$ がすべて等しいときに限る。
技法の仮定を外すと崩れる例は、次のとおりである。

外した仮定崩れる主張ボックス
同順(変数が $0$ 以上)Chebyshev の和の不等式ex-tpi-chebyshev-counter
$\frac1p+\frac1q=1$Hölder の不等式ex-tpi-holder-counter の 1
$p\ge1$Minkowski の不等式ex-tpi-holder-counter の 2
変数が $0$ 以上Schur の不等式ex-tpi-sos-counter の 1
1 変数であること$0$ 以上の多項式は平方の和ex-tpi-sos-counter の 2
式が対称であること大小の順を 1 通りに仮定してよいex-tpi-cyclic-counter
変数の範囲 $t\ge0$接線による評価ex-tpi-tangent-counter

数学オリンピックの問題から

問題文の和訳は本記事による。

1978 年第 5 問:逆順の組み方が最小

国際数学オリンピック(1978 年)第 5 問

相異なる正の整数の列 $a_1,a_2,\dots$ について、すべての正の整数 $n$ で $\sum_{k=1}^n\frac{a_k}{k^2}\ge\sum_{k=1}^n\frac1k$ を示せ。
— 第 20 回国際数学オリンピック(1978 年)第 5 問(和訳。Oly78)

高校数学で解く

$a_1,\dots,a_n$ を小さい順に並べた $b_1<\cdots< b_n$ は相異なる正の整数なので $b_k\ge k$、よって $\sum\frac1{a_k}=\sum\frac1{b_k}\le\sum\frac1k$。Cauchy–Schwarz の不等式で $\bigl(\sum\frac1k\bigr)^2=\bigl(\sum\frac{\sqrt{a_k}}k\cdot\frac1{\sqrt{a_k}}\bigr)^2\le\sum\frac{a_k}{k^2}\sum\frac1{a_k}\le\sum\frac{a_k}{k^2}\sum\frac1k$ となり、$\sum\frac1k$ で割ればよい。$\square$

大学数学で見ると

これは $\{a_k\}$ と $\{\frac1{k^2}\}$ の組み方の問題である。$\frac1{k^2}$ は減少なので、thm-tpi-rearrangement により逆順の組み方が最小で、$\sum\frac{a_k}{k^2}\ge\sum\frac{b_k}{k^2}\ge\sum\frac k{k^2}$。最小を与える並べ方まで分かる。

1975 年第 1 問:並べ替えて最も近い点

国際数学オリンピック(1975 年)第 1 問

実数 $x_1\ge\cdots\ge x_n$、$y_1\ge\cdots\ge y_n$ と、$y_1,\dots,y_n$ の並べ替え $z_1,\dots,z_n$ について、$\sum_{i=1}^n(x_i-y_i)^2\le\sum_{i=1}^n(x_i-z_i)^2$ を示せ。
— 第 17 回国際数学オリンピック(1975 年)第 1 問(和訳。Oly75)

高校数学で解く

展開すると $\sum y_i^2=\sum z_i^2$ なので、示すべきは $\sum x_iy_i\ge\sum x_iz_i$ である。$z\ne y$ なら $z_i< z_{i+1}$ となる隣り合う $i$ があり、入れ替えると $\sum x_iz_i$ は $(x_i-x_{i+1})(z_{i+1}-z_i)\ge0$ だけ増える。この入れ替えで逆転($j< k$ かつ $z_j< z_k$ の組)の数が 1 減るので、有限回で $z$ は $y$ になる。$\square$

大学数学で見ると

高校の解は prf-thm-tpi-rearrangement そのものであり、主張は並べ替え不等式の言い換えである。$\sum(x_i-z_i)^2$ は点 $x$ と点 $z$ の距離の 2 乗なので、「$y$ の座標を並べ替えて得られる点のうち、$x$ に最も近いのは $x$ と同じ順に並べたもの」という $\mathbb{R}^n$ の幾何の主張として読める。

1964 年第 2 問と 2000 年第 2 問:どちらも Schur の不等式

国際数学オリンピック(1964 年)第 2 問

$a,b,c$ が三角形の 3 辺の長さなら $a^2(b+c-a)+b^2(c+a-b)+c^2(a+b-c)\le3abc$ を示せ。
— 第 6 回国際数学オリンピック(1964 年)第 2 問(和訳。Oly64)

国際数学オリンピック(2000 年)第 2 問

正の実数 $a,b,c$ が $abc=1$ を満たすなら $\bigl(a-1+\frac1b\bigr)\bigl(b-1+\frac1c\bigr)\bigl(c-1+\frac1a\bigr)\le1$ を示せ。
— 第 41 回国際数学オリンピック(2000 年)第 2 問(和訳。Oly00)

高校数学で解く

1964 年の問題は、三角形なので $a=y+z$、$b=z+x$、$c=x+y$($x,y,z>0$)と書け、右辺 $-$ 左辺 $=x(y-z)^2+y(z-x)^2+z(x-y)^2\ge0$。2000 年の問題は、$a=\frac xy$、$b=\frac yz$、$c=\frac zx$(前節)とおくと $(x-y+z)(y-z+x)(z-x+y)\le xyz$ になる。3 因子のうち 2 つが負になることはない(例えば初めの 2 つの和は $2x>0$)。どれかが $0$ 以下なら左辺 $\le0$。すべて正なら $(x-y+z)(y-z+x)\le x^2$($uv\le(\frac{u+v}2)^2$)などを掛けて、左辺の 2 乗 $\le(xyz)^2$。$\square$

大学数学で見ると

どちらも Schur の不等式($t=1$)そのものである。1964 年の問題の右辺 $-$ 左辺は $a,b,c$ についての Schur の左辺に等しく、したがって三角形の条件がなくても $a,b,c\ge0$ で成り立つ。2000 年の問題は $xyz-(x+y-z)(y+z-x)(z+x-y)=p^3-4pq+9r$ である。等号は $x=y=z$、すなわち $a=b=c=1$ のときである。

1984 年第 1 問:同次化して Schur と平方の和に分ける

国際数学オリンピック(1984 年)第 1 問

$x,y,z\ge0$、$x+y+z=1$ のとき $0\le xy+yz+zx-2xyz\le\frac7{27}$ を示せ。
— 第 25 回国際数学オリンピック(1984 年)第 1 問(和訳。Oly84)

高校数学で解く

対称なので $z$ を最小、$z\le\frac13$ としてよい。式は $(1-2z)xy+z(x+y)$ で各項 $\ge0$。$xy\le\bigl(\frac{1-z}2\bigr)^2$ なので式 $\le g(z):=\frac{(1-2z)(1-z)^2}4+z(1-z)=\frac14+\frac{z^2}4-\frac{z^3}2$。$g'(z)=\frac{z(1-3z)}2\ge0$($0\le z\le\frac13$)より $g(z)\le g(\frac13)=\frac7{27}$。等号は $x=y=z=\frac13$。$\square$

大学数学で見ると

同次化すると、右側は $7p^3-27(pq-2r)\ge0$ であり、これは $6(p^3-4pq+9r)+p(p^2-3q)$ と Schur と平方の和($p^2-3q=\frac12\sum(x-y)^2$)に分かれる。左側は $pq-2r=\sum_{\mathrm{sym}}x^2y+r\ge0$。

2008 年第 2 問 (a):置き換えて平方完成

国際数学オリンピック(2008 年)第 2 問 (a)

$1$ と異なる実数 $x,y,z$ が $xyz=1$ を満たすなら $\frac{x^2}{(x-1)^2}+\frac{y^2}{(y-1)^2}+\frac{z^2}{(z-1)^2}\ge1$ を示せ。((b) は等号が無限個の有理数の組で成り立つことを示す問題で、本記事では扱わない。)
— 第 49 回国際数学オリンピック(2008 年)第 2 問(和訳。Oly08)

高校数学で解く

$a:=\frac x{x-1}$ などとおくと $a\ne1$、$x=\frac a{a-1}$ で、$xyz=1$ は $abc=(a-1)(b-1)(c-1)$、すなわち $ab+bc+ca=a+b+c-1$ となる。$s:=a+b+c$ とおくと
$$ a^2+b^2+c^2=s^2-2(s-1)=(s-1)^2+1\ge1 . $$
$\square$

大学数学で見ると

変数が負にもなりうるので、相加相乗平均や Schur は使えない。置き換えで条件が「2 次の対称式 $ab+bc+ca$ を 1 次式で書く」形になり、示すべき量が $s$ だけの 2 次式に落ちて平方完成で終わる。対称式を基本対称式 $s$、$ab+bc+ca$、$abc$ で書き直すという、Schur の節の $p,q,r$ と同じ考え方である。等号は $s=1$ のとき(このとき $ab+bc+ca=0$)である。

さらに先へ

$\mathbb{R}^n$ では、$p\ge1$ のとき $\|\cdot\|_p$ はノルムであり(BV04 §A.1.3。三角不等式が thm-tpi-minkowski)、Hölder の不等式は BV04 §3.1.9 で、Jensen の不等式を $-\log x$ に使って得られる重み付きの相加相乗平均の不等式から導かれている。和を積分に替えた同じ形の不等式も成り立ち、関数解析の $L^p$ 空間の出発点になることが知られているが、本記事では扱わず、証明しない。1 変数では、実数上で $0$ 以上の多項式は 2 つの多項式の平方の和に書けるが(BV04 演習 2.37 (b)。本記事では証明しない)、2 変数では ex-tpi-sos-counter の 2 のように書けないものがある。

関連項目

参考文献

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