不等式の証明の技法(techniques for proving inequalities)とは、相加相乗平均・Cauchy–Schwarz・微分に加え、不等式の形(対称・巡回・同次)と等号条件から道具を選んで示す方法の体系である。基本になるのは、2 組の実数を組にした積の和は大小の順を揃えると最大、逆にすると最小という並べ替え不等式、同順な組についての Chebyshev の和の不等式 $n\sum a_ib_i\ge\sum a_i\sum b_i$、$p,q>1$、$\frac1p+\frac1q=1$ のときの Hölder の不等式 $\sum|x_iy_i|\le\|x\|_p\|y\|_q$ と $p\ge1$ での Minkowski の不等式、$x,y,z\ge0$、$t>0$ での Schur の不等式 $\sum x^t(x-y)(x-z)\ge0$ である。
前提知識: 相加平均・相乗平均と凸関数, 判別式で示す不等式とCauchy–Schwarzの不等式, 微分係数と導関数の定義(高校数学), 置換
高校で不等式を示す道具は、おおむね三つである。差を平方の和にすること、有名な不等式(相加相乗平均の不等式と Cauchy–Schwarz の不等式)を使うこと、微分することである。
$a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca=\frac12\{(a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2\}\ge0$。
正の $a,b,c$ について、Cauchy–Schwarz の不等式を $(\sqrt a,\sqrt b,\sqrt c)$ と $(1/\sqrt a,1/\sqrt b,1/\sqrt c)$ に使うと $(a+b+c)\bigl(\frac1a+\frac1b+\frac1c\bigr)\ge9$。たとえば $(a,b,c)=(1,2,3)$ では左辺は $6\cdot\frac{11}6=11$ である。
$f(x):=\log(1+x)-x+\frac{x^2}2$ は $f(0)=0$、$f'(x)=\frac{x^2}{1+x}>0$($x>0$)なので、$x>0$ で $\log(1+x)>x-\frac{x^2}2$。
相加相乗平均の不等式は $\log$ の凹性から重み付きの形 $\prod a_i^{\lambda_i}\le\sum\lambda_ia_i$($a_i>0$、$\lambda_i\ge0$、$\sum\lambda_i=1$)に一般化され(相加平均・相乗平均と凸関数)、Cauchy–Schwarz の不等式は 2 次式 $\sum_i(a_it+b_i)^2\ge0$ の判別式から出る内積の不等式である(判別式で示す不等式とCauchy–Schwarzの不等式)。本記事ではこの二つは要点にとどめ、ほかの技法をなぜ効くか・使える条件・効かない例に分けて証明つきで整理し、選び方の目安を表にする。答える問いは次のとおりである。
| 高校の計算 | 大学の概念 |
|---|---|
| 大きい数どうしを掛けると積の和が大きい | 並べ替え不等式(thm-tpi-rearrangement) |
| Cauchy–Schwarz の不等式 | Hölder の不等式の $p=q=2$ の場合(thm-tpi-holder) |
| 三角不等式 | Minkowski の不等式(thm-tpi-minkowski) |
| 差を平方の和にする | 平方の和の限界と Schur の不等式(thm-tpi-schur) |
| 条件 $a+b+c=1$ を使って式を整える | 同次式・同次化・正規化(def-tpi-shapes) |
| 微分で増減を調べる | 接線による評価(ex-tpi-tangent) |
$D\subset\mathbb{R}^n$ を成分の入れ替えと正の数倍で閉じた集合とし、$F\colon D\to\mathbb{R}$ とする。変数をどう入れ替えても値が変わらないとき $F$ は対称、$n=3$ で $F(a,b,c)=F(b,c,a)$ が常に成り立つとき巡回的という。実数 $d$ について、すべての $x\in D$、$k>0$ で $F(kx)=k^dF(x)$ となるとき、$F$ は $d$ 次の同次式という。
$a^2b+b^2c+c^2a$ は巡回的な 3 次の同次式だが対称ではない($(3,2,1)$ で $25$、$(1,2,3)$ で $23$)。
もう一つの手がかりは等号条件である。$A\ge C\ge B$ と 2 段で $A\ge B$ を示すなら、$A=B$ となる点では両段とも等号でなければならない。$a=b=c$ で等号になる不等式の途中で、$a=4b$ でしか等号にならない $a+4b\ge4\sqrt{ab}$ を使えば、証明は必ず失敗する。等号の点を予想し、そこで等号を保つ評価を選ぶのが出発点である。
実数 $a_1\le\cdots\le a_n$、$b_1\le\cdots\le b_n$ と $\{1,\dots,n\}$ の置換 $\sigma$ について
$$
\sum_{i=1}^na_ib_{n+1-i}\le\sum_{i=1}^na_ib_{\sigma(i)}\le\sum_{i=1}^na_ib_i .
$$
$a,b$ がともに狭義増加なら、右の等号は $\sigma$ が恒等置換のときに限る。
言い換えると、2 組の $n$ 個の実数を 1 対 1 に組にして積の和をとるとき、大きさの順を揃えた組み方が最大、逆にした組み方が最小である。符号は問わない。
$c_i:=b_{\sigma(i)}$、$S(c):=\sum_ia_ic_i$ とし、$j< k$ かつ $c_j>c_k$ となる組の個数を逆転数と呼ぶ。$c$ が小さい順でなければ $c_i>c_{i+1}$ となる $i$ があり、$c_i,c_{i+1}$ を入れ替えた列 $c'$ について
$$
S(c')-S(c)=(a_{i+1}-a_i)(c_i-c_{i+1})\ge0
$$
である。隣り合う 2 項の入れ替えでは組 $(i,i+1)$ の大小だけが変わるので、逆転数はちょうど $1$ 減る。よってこの操作は有限回で止まり、そのとき列は小さい順、すなわち $(b_1,\dots,b_n)$ になる。$S$ は減らないので右の不等式が従う。$a,b$ が狭義増加なら各段で $S$ は真に増えるので、$\sigma$ が恒等置換でなければ(このとき $c$ は小さい順でない)不等号は真である。左の不等式は、小さい順に並んだ列 $b'_i:=-b_{n+1-i}$ に右の不等式を使えば得られる($b$ の並べ替えは $b'$ の並べ替えの $-1$ 倍)。$\square$
$(a_1,a_2,a_3)=(1,2,3)$、$(b_1,b_2,b_3)=(4,5,6)$ の組み方 $6$ 通りの積の和は $28,29,29,31,31,32$ である。最大 $32=1\cdot4+2\cdot5+3\cdot6$ は順を揃えた組み方、最小 $28=1\cdot6+2\cdot5+3\cdot4$ は逆にした組み方である。
組み方を 1 か所変えたときの変化が $(a_{i+1}-a_i)(c_i-c_{i+1})$ という積になり、符号が大小の順だけで決まる。使える条件は、同じ 2 組の数の組み方どうしを比べる「積の和」であることである。
実数の組 $(a_i)$、$(b_i)$($i=1,\dots,n$)が同順、すなわちすべての $i,j$ で $(a_i-a_j)(b_i-b_j)\ge0$ ならば $n\sum_ia_ib_i\ge\bigl(\sum_ia_i\bigr)\bigl(\sum_ib_i\bigr)$。すべての $i,j$ で $(a_i-a_j)(b_i-b_j)\le0$(逆順)なら不等号は逆向きになる。
$\sum_{i,j}(a_i-a_j)(b_i-b_j)=2n\sum_ia_ib_i-2\bigl(\sum_ia_i\bigr)\bigl(\sum_jb_j\bigr)$ であり、同順なら左辺の各項は $0$ 以上、逆順なら $0$ 以下である。$\square$
$(1,2,3)$ と $(4,5,6)$ は同順で、$3\cdot32=96\ge6\cdot15=90$ である。$(1,2,3)$ と $(6,5,4)$ は逆順で、$3\cdot28=84\le90$ である。
両辺を $n^2$ で割ると「積の平均 $\ge$ 平均の積」と読める。並べ替え不等式からも出る:$a,b$ が小さい順なら、$b$ を $k$ だけ巡回的にずらした組み方の和 $\sum_ia_ib_{i+k}$(添字は $n$ を法とする)はどれも $\sum_ia_ib_i$ 以下で、$k=0,\dots,n-1$ について足すと $\bigl(\sum a_i\bigr)\bigl(\sum b_j\bigr)$ になる。
$a,b,c\ge0$ なら $(a-b)(a^2-b^2)=(a-b)^2(a+b)\ge0$ なので、$(a,b,c)$ と $(a^2,b^2,c^2)$ は同順である。
$(a,b,c)=(-2,1,1)$ では $(a-b)(a^2-b^2)=-9<0$ で同順でない。実際 $(a+b+c)(a^2+b^2+c^2)=0$、$3(a^3+b^3+c^3)=-18$ で、上の 2 は成り立たない。負の数を許すと $x\mapsto x^2$ が増加でなくなり、同順の仮定が破れる。
Chebyshev の和の不等式は、同じ順に並んだ 2 つの変量の共分散が $0$ 以上であることと同じ内容で、共分散と相関係数は 相関係数(高校数学) で扱う。
$p,q>1$ が $\frac1p+\frac1q=1$ を満たすとき共役指数という。実数の組 $x=(x_i)$ と $p>0$ について $\|x\|_p:=\bigl(\sum_i|x_i|^p\bigr)^{1/p}$ とおく。
$p,q$ が共役指数で $a,b\ge0$ なら $ab\le\frac{a^p}p+\frac{b^q}q$。等号は $a^p=b^q$ のときに限る。
$b=0$ なら差は $\frac{a^p}p$ で明らか。$b>0$ を固定し $f(a):=\frac{a^p}p+\frac{b^q}q-ab$ とおく。$f'(a)=a^{p-1}-b$ は $a_0:=b^{1/(p-1)}$ の左で負、右で正なので、$f$ は $a=a_0$ でだけ最小になる。$\frac p{p-1}=q$ より $a_0^p=b^q=a_0b$ なので $f(a_0)=b^q\bigl(\frac1p+\frac1q-1\bigr)=0$。$a=a_0$ は $a^p=b^q$ と同値である。$\square$
$p,q$ が共役指数なら、実数 $x_i,y_i$($i=1,\dots,n$)について $\sum_i|x_iy_i|\le\|x\|_p\|y\|_q$。
$\|x\|_p=0$ または $\|y\|_q=0$ なら両辺は $0$。そうでなければ $u_i:=|x_i|/\|x\|_p$、$v_i:=|y_i|/\|y\|_q$ とおくと $\sum u_i^p=\sum v_i^q=1$ なので、lem-tpi-young を足して $\sum u_iv_i\le\frac1p+\frac1q=1$。両辺に $\|x\|_p\|y\|_q$ を掛ける。$\square$
両辺は $x$ についても $y$ についても 1 次の同次式なので $\|x\|_p=\|y\|_q=1$ と正規化でき、あとは項ごとの Young の不等式の和になる。使える条件は $\frac1p+\frac1q=1$(正規化で次数が合う条件)である。$p=q=2$ が Cauchy–Schwarz の不等式であり、ex-tpi-hs-cs はこの場合を $x_i=\sqrt{a_i}$、$y_i=1/\sqrt{a_i}$ に使ったものである。
$y_i=1$、$p=3$ とすると $\sum|x_i|\le n^{2/3}\|x\|_3$、たとえば $a,b,c\ge0$ で $(a+b+c)^3\le9(a^3+b^3+c^3)$。$(a,b,c)=(1,2,3)$ では $216\le324$ である。
$p\ge1$ なら、実数 $x_i,y_i$ について $\|x+y\|_p\le\|x\|_p+\|y\|_p$。
$p=1$ は $|x_i+y_i|\le|x_i|+|y_i|$ の和。$p>1$ とし $q$ を共役指数、$s:=\|x+y\|_p>0$ とする($s=0$ なら明らか)。$|x_i+y_i|^p\le(|x_i|+|y_i|)|x_i+y_i|^{p-1}$ を足し、$(p-1)q=p$ に注意して thm-tpi-holder を 2 回使うと $s^p\le(\|x\|_p+\|y\|_p)s^{p/q}$。$p-\frac pq=1$ なので $s^{p/q}$ で割って主張を得る。$\square$
$p=2$ は平面・空間の三角不等式である。
thm-tpi-minkowski($p=2$)を $(x,1)$ と $(3-x,2)$ に使うと $\sqrt{x^2+1}+\sqrt{(3-x)^2+4}\ge\sqrt{3^2+3^2}=3\sqrt2$。$x=1$ では左辺が $\sqrt2+\sqrt8=3\sqrt2$ となるので、最小値は $3\sqrt2$ である。$x=1$ は 2 つのベクトルが同じ向きになる $x:1=(3-x):2$ から見つけられる。
Young の不等式の土台である重み付きの相加相乗平均の不等式は 平均の大小関係 で扱う。
差を「$0$ 以上の係数 × 平方」の和に書けば $0$ 以上とわかる(ex-tpi-hs-sos)。3 変数では $S_a(b-c)^2+S_b(c-a)^2+S_c(a-b)^2$ の形を目指す。
$\sum_{\mathrm{sym}}a^2b:=a^2b+a^2c+b^2a+b^2c+c^2a+c^2b$ とおくと
$$
\textstyle\sum_{\mathrm{sym}}a^2b-6abc=a(b-c)^2+b(c-a)^2+c(a-b)^2
$$
で、$a,b,c\ge0$ なら $0$ 以上である。
Cauchy–Schwarz の不等式も、差が $\sum_{i< j}(a_ib_j-a_jb_i)^2$(Lagrange の恒等式。展開して確かめられる)という平方の和になる。ただし、係数が負になりうる式にはこの方法を直接使えない。その代表が次の不等式である。
$x,y,z\ge0$、$t>0$ なら
$$
x^t(x-y)(x-z)+y^t(y-z)(y-x)+z^t(z-x)(z-y)\ge0 .
$$
等号は $x=y=z$ のとき、または 2 つが等しく残りが $0$ のときに限る。
左辺は対称なので $x\ge y\ge z$ としてよい。第 1 項と第 2 項の和は $(x-y)\{x^t(x-z)-y^t(y-z)\}$ であり、$x^t\ge y^t\ge0$、$x-z\ge y-z\ge0$ なので $0$ 以上である。第 3 項は $z^t(x-z)(y-z)\ge0$。等号には両方が $0$ であることが要る。第 3 項が $0$ なのは $z=0$ か $y=z$ のとき($x=z$ なら 3 つとも等しい)。$y=z$ なら第 1・2 項の和は $x^t(x-y)^2$ で、これが $0$ なのは $x=y$(または $x=0$ で 3 つとも $0$)のとき。$z=0< y$ なら和は $(x-y)(x^{t+1}-y^{t+1})$ で、$0$ なのは $x=y$ のとき。逆にこれらの点で左辺が $0$ になるのは代入してわかる。$\square$
$t=1$ とする。$(x,y,z)=(2,1,0)$ では左辺は $2\cdot1\cdot2+1\cdot1\cdot(-1)+0=3>0$、$(1,1,0)$ と $(1,1,1)$ では $0$ で、等号条件のとおりである。
$t=1$ の場合を $p:=x+y+z$、$q:=xy+yz+zx$、$r:=xyz$ で書くと、左辺は $\sum x^3-\sum_{\mathrm{sym}}x^2y+3xyz=p^3-4pq+9r$ である。平方の和の形に書くと $\frac12\{(y+z-x)(y-z)^2+(z+x-y)(z-x)^2+(x+y-z)(x-y)^2\}$ となり、係数 $y+z-x$ などは負になりうるので、この形だけでは示せない。順序を仮定した証明がその穴を埋める。
$F$ が $d$ 次の同次式なら、正の変数での $F\ge0$ は $x_1+\cdots+x_n=1$ の点だけで示せば十分である。$s:=\sum x_i>0$ として $F(x)=s^dF(x/s)$ だからである。和の代わりに積 $=1$ などに正規化してもよい。
逆に、条件式つきの同次でない不等式は、条件を使って次数をそろえると同次式になり、平方の和や Schur が使える。
$a+b+c=1$ のとき $a^2+b^2+c^2\ge\frac13$ は、$3(a^2+b^2+c^2)\ge(a+b+c)^2$ と同値で、差は $\sum(a-b)^2\ge0$ である。
条件 $abc=1$(正の $a,b,c$)は、$x=1$、$y=\frac1a$、$z=\frac1{ab}$ とおくと $a=\frac xy$、$b=\frac yz$、$c=\frac zx$ と書け、分数の式を同次式に直せる。
$F$ が対称なら、変数を並べ替えても値が変わらないので $x_1\ge\cdots\ge x_n$ と仮定してよい(prf-thm-tpi-schur で使った)。巡回的なだけなら、$a$ が最大と仮定しても $b\ge c$ と $c\ge b$ の 2 通りが残る。
$a^2b+b^2c+c^2a-(ab^2+bc^2+ca^2)=(a-b)(a-c)(b-c)$ は、$(3,2,1)$ で $2$、$(1,2,3)$ で $-2$ である。「$a\ge b\ge c$ としてよい」と仮定すると差は $0$ 以上と「示せて」しまうが、主張は偽である。左辺は巡回的だが対称ではないので、この仮定は許されない。
差が 1 変数の関数なら増減で示せる(ex-tpi-hs-diff)。多変数でも他の変数を固定して 1 変数ずつ動かせる。和が一定で同じ関数の値の和を評価するには接線が効く。
$a,b,c\ge0$、$a+b+c=3$ なら $\sum\frac1{1+a^2}\ge\frac32$。$f(t):=\frac1{1+t^2}$ の $t=1$ での接線は $y=\frac{2-t}2$ で、
$$
f(t)-\frac{2-t}2=\frac{t(t-1)^2}{2(1+t^2)}\ge0\qquad(t\ge0)
$$
である。$a,b,c$ について足すと $\sum f\ge\frac{6-(a+b+c)}2=\frac32$。等号は各変数が $0$ か $1$ で和が $3$、すなわち $a=b=c=1$ のときである。
$f''(t)=\frac{2(3t^2-1)}{(1+t^2)^3}$ は $0\le t<\frac1{\sqrt3}$ で負なので、$f$ は $[0,3]$ で凸ではなく、Jensen の不等式は使えない。接線の方法は、接線がグラフの下にあることを変数の動く範囲でだけ確かめればよい。
等号の点で 1 次近似が一致するので、等号を保ったまま各項を 1 次式に置き換えられ、その和は条件で定数になる。
負の値を許すと、$t=-1$ では $f(-1)=\frac12$ が接線の値 $\frac{2-(-1)}2=\frac32$ を下回り、接線の評価が破れる。実際 $(a,b,c)=(-1,2,2)$ では $\sum f=0.9<1.5$ となって主張も偽になる。
接線の不等式 $f(x)\ge f(a)+f'(a)(x-a)$ で示す方法は 曲線の凹凸と接線 で扱う。
| 形・条件 | まず試す技法 | 確かめること |
|---|---|---|
| 2 組の数の積の和、組み方だけが違う | 並べ替え、Chebyshev | 同順か逆順か |
| 積が一定、または和が一定 | 相加相乗平均 | 等号の点で各項が等しいか |
| 分子が 2 乗で分母が正の分数の和 | Cauchy–Schwarz(Engel 形) | 等号の点での比 |
| 冪や根号の混じる積の和 | Hölder | 指数が共役か |
| 根号の和(距離) | Minkowski | 等号になる点を代入で確かめる |
| 和が一定で、同じ関数の値の和 | 凸なら Jensen、凸でなければ接線 | 変数の範囲で接線が下にあるか |
| 対称な 3 次の多項式 | 平方の和、Schur | 変数が $0$ 以上か |
| 条件式つきで同次でない | 同次化 | 条件で次数をそろえる |
| 同次で条件がない | 正規化 | 和や積を $1$ に |
| $abc=1$ | $a=\frac xy$ などの置換 | 変数が正か |
| 変数を 1 つずつ動かせる | 微分 | 端点と臨界点 |
表の Engel 形とは、$b_i>0$ のときの $\sum_i\frac{a_i^2}{b_i}\ge\frac{(\sum_ia_i)^2}{\sum_ib_i}$ である。Cauchy–Schwarz の不等式を $\frac{a_i}{\sqrt{b_i}}$ と $\sqrt{b_i}$ に使えば得られ、等号は比 $\frac{a_i}{b_i}$ がすべて等しいときに限る。
技法の仮定を外すと崩れる例は、次のとおりである。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 同順(変数が $0$ 以上) | Chebyshev の和の不等式 | ex-tpi-chebyshev-counter |
| $\frac1p+\frac1q=1$ | Hölder の不等式 | ex-tpi-holder-counter の 1 |
| $p\ge1$ | Minkowski の不等式 | ex-tpi-holder-counter の 2 |
| 変数が $0$ 以上 | Schur の不等式 | ex-tpi-sos-counter の 1 |
| 1 変数であること | $0$ 以上の多項式は平方の和 | ex-tpi-sos-counter の 2 |
| 式が対称であること | 大小の順を 1 通りに仮定してよい | ex-tpi-cyclic-counter |
| 変数の範囲 $t\ge0$ | 接線による評価 | ex-tpi-tangent-counter |
問題文の和訳は本記事による。
相異なる正の整数の列 $a_1,a_2,\dots$ について、すべての正の整数 $n$ で $\sum_{k=1}^n\frac{a_k}{k^2}\ge\sum_{k=1}^n\frac1k$ を示せ。
— 第 20 回国際数学オリンピック(1978 年)第 5 問(和訳。Oly78)
$a_1,\dots,a_n$ を小さい順に並べた $b_1<\cdots< b_n$ は相異なる正の整数なので $b_k\ge k$、よって $\sum\frac1{a_k}=\sum\frac1{b_k}\le\sum\frac1k$。Cauchy–Schwarz の不等式で $\bigl(\sum\frac1k\bigr)^2=\bigl(\sum\frac{\sqrt{a_k}}k\cdot\frac1{\sqrt{a_k}}\bigr)^2\le\sum\frac{a_k}{k^2}\sum\frac1{a_k}\le\sum\frac{a_k}{k^2}\sum\frac1k$ となり、$\sum\frac1k$ で割ればよい。$\square$
これは $\{a_k\}$ と $\{\frac1{k^2}\}$ の組み方の問題である。$\frac1{k^2}$ は減少なので、thm-tpi-rearrangement により逆順の組み方が最小で、$\sum\frac{a_k}{k^2}\ge\sum\frac{b_k}{k^2}\ge\sum\frac k{k^2}$。最小を与える並べ方まで分かる。
実数 $x_1\ge\cdots\ge x_n$、$y_1\ge\cdots\ge y_n$ と、$y_1,\dots,y_n$ の並べ替え $z_1,\dots,z_n$ について、$\sum_{i=1}^n(x_i-y_i)^2\le\sum_{i=1}^n(x_i-z_i)^2$ を示せ。
— 第 17 回国際数学オリンピック(1975 年)第 1 問(和訳。Oly75)
展開すると $\sum y_i^2=\sum z_i^2$ なので、示すべきは $\sum x_iy_i\ge\sum x_iz_i$ である。$z\ne y$ なら $z_i< z_{i+1}$ となる隣り合う $i$ があり、入れ替えると $\sum x_iz_i$ は $(x_i-x_{i+1})(z_{i+1}-z_i)\ge0$ だけ増える。この入れ替えで逆転($j< k$ かつ $z_j< z_k$ の組)の数が 1 減るので、有限回で $z$ は $y$ になる。$\square$
高校の解は prf-thm-tpi-rearrangement そのものであり、主張は並べ替え不等式の言い換えである。$\sum(x_i-z_i)^2$ は点 $x$ と点 $z$ の距離の 2 乗なので、「$y$ の座標を並べ替えて得られる点のうち、$x$ に最も近いのは $x$ と同じ順に並べたもの」という $\mathbb{R}^n$ の幾何の主張として読める。
$a,b,c$ が三角形の 3 辺の長さなら $a^2(b+c-a)+b^2(c+a-b)+c^2(a+b-c)\le3abc$ を示せ。
— 第 6 回国際数学オリンピック(1964 年)第 2 問(和訳。Oly64)
正の実数 $a,b,c$ が $abc=1$ を満たすなら $\bigl(a-1+\frac1b\bigr)\bigl(b-1+\frac1c\bigr)\bigl(c-1+\frac1a\bigr)\le1$ を示せ。
— 第 41 回国際数学オリンピック(2000 年)第 2 問(和訳。Oly00)
1964 年の問題は、三角形なので $a=y+z$、$b=z+x$、$c=x+y$($x,y,z>0$)と書け、右辺 $-$ 左辺 $=x(y-z)^2+y(z-x)^2+z(x-y)^2\ge0$。2000 年の問題は、$a=\frac xy$、$b=\frac yz$、$c=\frac zx$(前節)とおくと $(x-y+z)(y-z+x)(z-x+y)\le xyz$ になる。3 因子のうち 2 つが負になることはない(例えば初めの 2 つの和は $2x>0$)。どれかが $0$ 以下なら左辺 $\le0$。すべて正なら $(x-y+z)(y-z+x)\le x^2$($uv\le(\frac{u+v}2)^2$)などを掛けて、左辺の 2 乗 $\le(xyz)^2$。$\square$
どちらも Schur の不等式($t=1$)そのものである。1964 年の問題の右辺 $-$ 左辺は $a,b,c$ についての Schur の左辺に等しく、したがって三角形の条件がなくても $a,b,c\ge0$ で成り立つ。2000 年の問題は $xyz-(x+y-z)(y+z-x)(z+x-y)=p^3-4pq+9r$ である。等号は $x=y=z$、すなわち $a=b=c=1$ のときである。
$x,y,z\ge0$、$x+y+z=1$ のとき $0\le xy+yz+zx-2xyz\le\frac7{27}$ を示せ。
— 第 25 回国際数学オリンピック(1984 年)第 1 問(和訳。Oly84)
対称なので $z$ を最小、$z\le\frac13$ としてよい。式は $(1-2z)xy+z(x+y)$ で各項 $\ge0$。$xy\le\bigl(\frac{1-z}2\bigr)^2$ なので式 $\le g(z):=\frac{(1-2z)(1-z)^2}4+z(1-z)=\frac14+\frac{z^2}4-\frac{z^3}2$。$g'(z)=\frac{z(1-3z)}2\ge0$($0\le z\le\frac13$)より $g(z)\le g(\frac13)=\frac7{27}$。等号は $x=y=z=\frac13$。$\square$
同次化すると、右側は $7p^3-27(pq-2r)\ge0$ であり、これは $6(p^3-4pq+9r)+p(p^2-3q)$ と Schur と平方の和($p^2-3q=\frac12\sum(x-y)^2$)に分かれる。左側は $pq-2r=\sum_{\mathrm{sym}}x^2y+r\ge0$。
$1$ と異なる実数 $x,y,z$ が $xyz=1$ を満たすなら $\frac{x^2}{(x-1)^2}+\frac{y^2}{(y-1)^2}+\frac{z^2}{(z-1)^2}\ge1$ を示せ。((b) は等号が無限個の有理数の組で成り立つことを示す問題で、本記事では扱わない。)
— 第 49 回国際数学オリンピック(2008 年)第 2 問(和訳。Oly08)
$a:=\frac x{x-1}$ などとおくと $a\ne1$、$x=\frac a{a-1}$ で、$xyz=1$ は $abc=(a-1)(b-1)(c-1)$、すなわち $ab+bc+ca=a+b+c-1$ となる。$s:=a+b+c$ とおくと
$$
a^2+b^2+c^2=s^2-2(s-1)=(s-1)^2+1\ge1 .
$$
$\square$
変数が負にもなりうるので、相加相乗平均や Schur は使えない。置き換えで条件が「2 次の対称式 $ab+bc+ca$ を 1 次式で書く」形になり、示すべき量が $s$ だけの 2 次式に落ちて平方完成で終わる。対称式を基本対称式 $s$、$ab+bc+ca$、$abc$ で書き直すという、Schur の節の $p,q,r$ と同じ考え方である。等号は $s=1$ のとき(このとき $ab+bc+ca=0$)である。
$\mathbb{R}^n$ では、$p\ge1$ のとき $\|\cdot\|_p$ はノルムであり(BV04 §A.1.3。三角不等式が thm-tpi-minkowski)、Hölder の不等式は BV04 §3.1.9 で、Jensen の不等式を $-\log x$ に使って得られる重み付きの相加相乗平均の不等式から導かれている。和を積分に替えた同じ形の不等式も成り立ち、関数解析の $L^p$ 空間の出発点になることが知られているが、本記事では扱わず、証明しない。1 変数では、実数上で $0$ 以上の多項式は 2 つの多項式の平方の和に書けるが(BV04 演習 2.37 (b)。本記事では証明しない)、2 変数では ex-tpi-sos-counter の 2 のように書けないものがある。
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