Gorenstein環は、各素イデアルで局所化した環が、それ自身の上の加群として有限長の入射分解をもつネーター環である。局所環では「正則ならGorenstein、GorensteinならCohen–Macaulay」が成り立つが、逆はいずれも成り立たない。零因子や非零の冪零元をもつ環も含まれ、正則局所環より広いクラスとなる。
前提知識: 可換環、局所環、加群、完全列
以下、環は単位元をもつ可換環とする。ネーター環はすべてのイデアルが有限生成の環、局所環は唯一の極大イデアルをもつ非零環である。
加群 $I$ が入射的であるとは、部分加群 $M\subset N$ からの任意の準同型 $M\to I$ を $N\to I$ に延長できることをいう。加群 $M$ の入射次元が有限であるとは、ある有限の $n$ と入射加群 $I^0,\ldots,I^n$ による完全列
$$
0\longrightarrow M\longrightarrow I^0\longrightarrow\cdots\longrightarrow I^n\longrightarrow0
$$
が存在することをいう。そのような $n$ の最小値を $\operatorname{id}_R M$ と書く。
ネーター局所環 $R$ が Gorenstein環であるとは、$R$ をそれ自身の加群と見たとき $\operatorname{id}_R R<\infty$ となることをいう。
一般のネーター環 $R$ がGorensteinであるとは、すべての素イデアル $\mathfrak p$ について $R_{\mathfrak p}$ がGorenstein局所環であることをいう。
これは双対化複体による定義と同値である。 Stacks, Gorenstein rings を参照。局所環についての定義を、無条件に非局所環全体の $\operatorname{id}_R R<\infty$ と置き換えない。後者と同値なのは、$R$ がGorensteinかつ有限Krull次元であることである。
環の元の因数分解や、イデアルが何個の元で生成されるかだけでなく、環自身の入射分解に注目する条件である。ネーター環ではGorenstein性からCohen–Macaulay性が従う。つまり局所化した環の深さと次元は一致するが、CM性だけではGorenstein性は保証されない。Krull次元は素イデアルの真の包含列の長さの上限であり、局所環の深さは、極大イデアル内から順に非零因子で商を取れる回数の最大値である。各段階では、それまでの元による商の上で非零因子であることを調べる。
体 $k$ 上では、部分空間からの線形写像を基底の延長で拡張できるため、$k$ は入射 $k$-加群である。従って $k$ はGorenstein環である。
より一般に、正則局所環はGorensteinである。ここでネーター局所環 $(R,\mathfrak m,k)$ が正則であるとは、$\dim_k\mathfrak m/\mathfrak m^2=\dim R$ となることをいう。この一般化にはホモロジー代数の定理を使う。
Swanson, Homological Algebra, Theorem 27.3
$A=k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ とする。これは基底 $1,\varepsilon$ をもつ有限次元の $k$-代数なのでネーター的である。$a+b\varepsilon$($a\neq0$)には逆元 $a^{-1}-ba^{-2}\varepsilon$ がある。素イデアルは冪零元 $\varepsilon$ を必ず含み、$A/(\varepsilon)=k$ なので、唯一の極大イデアルも唯一の素イデアルも $(\varepsilon)$ で、次元は $0$ である。$\lambda(a+b\varepsilon)=b$ と定めると、積を用いる対応
$$
A\longrightarrow\operatorname{Hom}_k(A,k),\qquad a\longmapsto(b\longmapsto\lambda(ab))
$$
は $A$-加群の同型となる。右辺の作用は $(c\varphi)(b)=\varphi(cb)$ で定める。実際、基底 $1,\varepsilon$ に関する双線形形式の行列は $\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ で可逆である。
$\operatorname{Hom}_k(A,k)$ は入射 $A$-加群である。実際、$A$-線形写像 $f:M\to\operatorname{Hom}_k(A,k)$ には $m\mapsto f(m)(1)$ を対応させる。逆に $k$-線形写像 $g:M\to k$ には $m\mapsto(a\mapsto g(am))$ を対応させると、互いに逆の対応となる。これにより $\operatorname{Hom}_A(M,\operatorname{Hom}_k(A,k))\cong\operatorname{Hom}_k(M,k)$ を得る。部分空間からの線形写像は全体へ延長できるので、右辺の双対を取る関手は完全であり、左辺の対象は入射的である。従って $A$ 自身が入射的で、Gorensteinである。
しかし $\dim_k(\varepsilon)/(\varepsilon)^2=1$ で $\dim A=0$ なので、正則局所環ではない。Gorenstein性は非零の冪零元も排除しない。
$B=k[x,y]/(x,y)^2$ は基底 $1,x,y$ をもつためネーター的である。$a+bx+cy$($a\neq0$)の逆元が $a^{-1}-a^{-2}(bx+cy)$ なので、唯一の極大イデアル $\mathfrak m=(x,y)$ をもつ。冪零元 $x,y$ はすべての素イデアルに含まれるので、素イデアルもこの一つだけで、次元は $0$ である。非零元 $x$ が極大イデアル全体により零にされるため深さも $0$、従ってCM環である。しかし $\mathfrak m$ に零にされる元の空間、すなわちソクルは $kx\oplus ky$ である。実際、$z=a+bx+cy$ に対して $xz=ax$、$yz=ay$ だから、$\mathfrak m z=0$ となるのは $a=0$ の場合に限る。
零次元ネーター局所環のGorenstein性は「ソクルが剰余体上一次元」と同値なので、$B$ はGorensteinではない。この判定の次元0・ネーター・局所という仮定を落とさない。
Swanson, Theorem 27.4
ネーター局所環について、正則ならGorenstein、GorensteinならCMである。上の二例により、どちらの逆も一般には成り立たない。
非零因子による商も重要である。ネーター局所環 $(R,\mathfrak m)$ で $f\in\mathfrak m$ が非零因子なら、$R$ がGorensteinであることと $R/(f)$ がGorensteinであることは同値である。商を取る元が零因子である場合には、そのまま適用できない。
Stacks, Lemma 47.21.7
$(R,\mathfrak m,k)$ をネーター局所環とする。次は同値である。
ここで $k=R/\mathfrak m$。$\operatorname{Ext}_R^i(k,R)$ は、$k$ の自由分解に $\operatorname{Hom}_R(-,R)$ を適用して得る第 $i$ コホモロジーである。入射分解を直接作らなくても剰余体とのExtで判定できる。第2引数は環 $R$ であって、$\operatorname{Ext}_R^i(k,k)$ の消滅条件ではない。
ネーター局所環 $(R,\mathfrak m)$、$d=\dim R$ において、$\sqrt{(x_1,\ldots,x_d)}=\mathfrak m$ を満たす列をパラメータ系、$Q=(x_1,\ldots,x_d)$ をパラメータイデアルという。$\operatorname{Soc}(R/Q)=\{z\in R/Q:\mathfrak m z=0\}$ は剰余体 $k$ 上のベクトル空間である。
ネーター局所CM環 $(R,\mathfrak m,k)$ と任意のパラメータイデアル $Q$ について、
$$
R\text{ がGorenstein}
\quad\Longleftrightarrow\quad
\dim_k\operatorname{Soc}(R/Q)=1.
$$
あるパラメータ系で右辺が成り立てば、すべてのパラメータ系で成り立つ。CMの仮定を省かず、正次元では $R$ 自体でなく零次元の商 $R/Q$ のソクルを見る。
CM環のパラメータ系は正則列である( Stacks, Lemma 10.104.2 )。非零因子による商の同値性を一元ずつ適用すると、$R$ がGorensteinであることと $R/Q$ がGorensteinであることが同値になる。$R/Q$ は零次元ネーター局所環なので、既出のソクル判定(Swanson, Theorem 27.4)を適用して結論する。どのパラメータ系にも同じ議論を適用できる。
ネーター正則局所環 $(S,\mathfrak n)$ の $\mathfrak n$ 内の正則列 $f_1,\ldots,f_c$ による商 $S/(f_1,\ldots,f_c)$ はGorensteinである。正則局所環のGorenstein性から、非零因子による商を繰り返して得られる。このような完全交叉の表示は、Gorenstein環を作る重要な方法である。 Stacks, 47.21.3, 7–8
体 $k$ に対し、$D=k[x,y]_{(x,y)}/(xy)$ はGorensteinだが正則でない。双対数環と異なり、次元が正の例である。
$S=k[x,y]_{(x,y)}$ は次元2の正則局所整域なので、非零元 $xy$ は非零因子である。よって上の商の定理で $D$ はGorensteinとなる。$D$ の素イデアルは $(x),(y),(x,y)$ で、最長の真の包含列は長さ1。従って次元は1である。一方 $xy\in(x,y)^2$ だから、この関係式は極大イデアルの一次部分に関係を課さず、$\mathfrak m_D/\mathfrak m_D^2$ は $x,y$ の像を基底とする二次元の $k$-空間である。よって埋込次元2はKrull次元1より大きく、正則でない。
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