Steinerの内接楕円

同義語:シュタイナーの内接楕円Steiner inellipse

概要

Steinerの内接楕円(Steiner inellipse)とは、三角形の 3 辺にそれぞれの中点で接する楕円である。どんな三角形にもただ 1 つあり、中心は三角形の重心、面積は三角形の面積の $\frac{\pi}{3\sqrt3}$ 倍(約 $0.6046$ 倍)である。正三角形の内接円をアフィン変換(1 次変換と平行移動)で移したものとして得られ、アフィン変換が中点・接すること・面積の比を保つことから性質が出る。ただ 1 つであることは、標準の直角三角形で 2 次式の係数を重解の条件で決めて示せる。重心を $G$ とすると $G+\frac{\cos t}2(C-G)+\frac{\sin t}{2\sqrt3}(B-A)$ と媒介変数で書ける。アフィン変換は焦点を保たないので、焦点は正三角形に直しても求まらない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 中点連結定理, 1次変換と行列式:面積の拡大率, 2次曲線の媒介変数表示, 三角形の重心(高校数学)

高校での出発点:正三角形の内接円を横に縮める

正三角形の内接円は、3 辺にそれぞれの中点で接する。正三角形では内心と重心が一致し、内心から辺に下ろした垂線の足が辺の中点になるからである。
では、正三角形でない三角形の中に、3 辺に 中点で 接する曲線はあるだろうか。円では無理である。円が 3 辺に接するなら、その円は内接円で、内接円が辺に接する点は一般に中点ではない。ところが、円をあきらめて楕円まで広げると、どの三角形にもそのような楕円が見つかる。まず、正三角形の図をそのまま横に縮めて確かめる。

正三角形と内接円を横に縮める

正三角形 $A_0(-\sqrt3,-1)$、$B_0(\sqrt3,-1)$、$C_0(0,2)$ の内接円は $x^2+y^2=1$ で、3 辺にそれぞれの中点 $(0,-1)$、$\left(\dfrac{\sqrt3}2,\dfrac12\right)$、$\left(-\dfrac{\sqrt3}2,\dfrac12\right)$ で接する。
図全体を横に $\dfrac1{\sqrt3}$ 倍に縮める。つまり点 $(x,y)$ を点 $\left(\dfrac x{\sqrt3},\ y\right)$ に移す。
(1) 三角形は $A(-1,-1)$、$B(1,-1)$、$C(0,2)$ に移る。
(2) 円 $x^2+y^2=1$ の上の点 $(x,y)$ の像を $(X,Y)=\left(\dfrac x{\sqrt3},\ y\right)$ とすると、$x=\sqrt3X$、$y=Y$ なので、像は
$$ 3X^2+Y^2=1 $$
を満たす。これは楕円 $\dfrac{X^2}{(1/\sqrt3)^2}+Y^2=1$ である。
(3) 3 つの接点は $(0,-1)$、$\left(\dfrac12,\dfrac12\right)$、$\left(-\dfrac12,\dfrac12\right)$ に移る。これは三角形 $ABC$ の 3 辺 $AB$、$BC$、$CA$ の中点である。
(4) 辺 $BC$ は直線 $Y=-3X+2$ である。楕円の式に代入すると
$$ 3X^2+(-3X+2)^2=1\iff12X^2-12X+3=0\iff3(2X-1)^2=0 $$
で、共有点は $X=\dfrac12$ の 1 点だけである。辺 $CA$ の直線 $Y=3X+2$ でも同じく $3(2X+1)^2=0$、辺 $AB$ の直線 $Y=-1$ では $3X^2=0$ となり、共有点は 1 点だけである。楕円は 3 辺にそれぞれの中点で接している。

正三角形の内接円は、3 辺にそれぞれの中点(赤)で接する 正三角形の内接円は、3 辺にそれぞれの中点(赤)で接する
三角形と円を横に 1/√3 倍に縮めると、円は楕円になり、接点は縮めた三角形の辺の中点に移る 三角形と円を横に 1/√3 倍に縮めると、円は楕円になり、接点は縮めた三角形の辺の中点に移る

縮めても中点は中点に移り、接していることも保たれた。一方、円は楕円に変わった。ex-stin-start の変換は 1 次変換の特別な場合である。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. どんな三角形にも、3 辺に中点で接する楕円はあるか。いくつあるか。→ thm-stin-main
  2. その楕円の中心はどこか。面積は三角形の何倍か。→ thm-stin-main、ex-stin-std
  3. その楕円を式で書けるか。→ prop-stin-param
    高校の計算この記事の言葉大学数学で見ると
    楕円 $\dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}=1$ と媒介変数表示 $(a\cos\theta,\ b\sin\theta)$楕円は $\vec c+\cos\theta\,\vec p+\sin\theta\,\vec q$ の形の曲線(lem-stin-param)円のアフィン変換による像
    直線と 2 次曲線の式から重解を調べる共有点がただ 1 つ=接する接触の条件は 1 次式
    行列の行列式面積の拡大率(lem-stin-affine)アフィン変換で保たれる量
    正三角形の内接円Steiner の内接楕円(thm-stin-main)アフィン幾何

言葉の準備:楕円・接する・アフィン変換

楕円と「接する」

楕円と接線

$a>0$、$b>0$ とする。座標平面の曲線 $\dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}=1$ を回転と平行移動で動かして得られる曲線を 楕円 という($a$ と $b$ の大小は問わない。$a=b$ なら円である)。$a$、$b$ を楕円の半軸の長さといい、動かした後の原点の位置を楕円の中心という。
楕円 $E$ の上の点 $M$ を通る直線 $\ell$ が、$E$ と $M$ 以外に共有点をもたないとき、$\ell$ は $M$ で $E$ に 接する という。

「共有点がただ 1 つ」で接することを決めたのは、あとでアフィン変換で移したときに保たれることがすぐ分かるからである。

微分で求めた接線と同じである

楕円 $\dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}=1$ の上の点 $M$ で、def-stin-ellipse の意味で接する直線はただ 1 本で、微分で求めた接線(2次曲線の接線と光学的性質)と一致する。

理由を開く

点 $(x,y)$ を $\left(\dfrac xa,\dfrac yb\right)$ に移すと、楕円は単位円に、直線は直線に、$M$ を通る直線は $M$ の像を通る直線に移る。単位円の上の点 $M'$ を通る直線のうち、$M'$ 以外に共有点をもたないのは、半径 $OM'$ に垂直な直線だけである(それ以外の直線は、$O$ から下ろした垂線の足について $M'$ と対称な点でもう一度交わる)。この直線を元にもどしたものが微分で求めた接線である。回転と平行移動をしても同じである。

接するかどうかを重解で判定する
  1. 楕円 $3x^2+y^2=1$ と直線 $y=-3x+2$ は、ex-stin-start の (4) のとおり、代入した 2 次方程式 $3(2x-1)^2=0$ が重解だけをもつので、点 $\left(\dfrac12,\dfrac12\right)$ で接する。
  2. 同じ楕円と直線 $y=-3x+1$ では、代入すると $3x^2+(1-3x)^2=1$、つまり $12x^2-6x=0$、$6x(2x-1)=0$ で、2 点 $(0,1)$、$\left(\dfrac12,-\dfrac12\right)$ で交わる。接していない。

楕円は、中心を通る 2 本のベクトルで書くこともできる。2次曲線の媒介変数表示 の $(a\cos\theta,\ b\sin\theta)$ では、2 本のベクトル $(a,0)$、$(0,b)$ が垂直だった。垂直でなくてもよい、というのが次の補題である。

楕円の媒介変数表示と面積

$\vec c$ を点の位置ベクトル、$\vec p$、$\vec q$ を平行でない(どちらも $\vec0$ でなく、一方が他方の実数倍でない)2 つのベクトルとする。
$$ \vec c+\cos\theta\,\vec p+\sin\theta\,\vec q\qquad(0\le\theta<2\pi) $$
が表す曲線は、中心 $\vec c$ の楕円である。その楕円が囲む部分の面積は $\pi\left\lvert\det(\vec p,\vec q)\right\rvert$ である。ここで $\det(\vec p,\vec q)$ は、$\vec p=(p_1,p_2)$、$\vec q=(q_1,q_2)$ に対して $p_1q_2-p_2q_1$ である。

垂直な 2 本に取りかえる

要点:媒介変数を $\theta_0$ だけずらすと、曲線は $\vec c+\cos\varphi\,\vec p\,'+\sin\varphi\,\vec q\,'$($\vec p\,'=\cos\theta_0\,\vec p+\sin\theta_0\,\vec q$、$\vec q\,'=-\sin\theta_0\,\vec p+\cos\theta_0\,\vec q$)とも書ける。三角関数の合成で $\theta_0$ を選ぶと $\vec p\,'\perp\vec q\,'$ にでき、その 2 本の向きに座標軸をとると楕円 $\dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}=1$($a=\lvert\vec p\,'\rvert$、$b=\lvert\vec q\,'\rvert$)になる。面積 $\pi ab$ は $\pi\lvert\det(\vec p\,',\vec q\,')\rvert=\pi\lvert\det(\vec p,\vec q)\rvert$ に等しい。

詳しい証明を開く

方針:媒介変数を $\theta_0$ だけずらして、2 本のベクトルを垂直なものに取りかえる。垂直な 2 本なら、その向きに座標軸をとると 2次曲線の媒介変数表示 の楕円になる。

段 1(取りかえる)。角 $\theta_0$ に対して

$$\vec p\,'=\cos\theta_0\,\vec p+\sin\theta_0\,\vec q,\qquad\vec q\,'=-\sin\theta_0\,\vec p+\cos\theta_0\,\vec q$$

とおく。加法定理により、$\varphi=\theta-\theta_0$ として

$$\cos\varphi\,\vec p\,'+\sin\varphi\,\vec q\,'=(\cos\varphi\cos\theta_0-\sin\varphi\sin\theta_0)\vec p+(\cos\varphi\sin\theta_0+\sin\varphi\cos\theta_0)\vec q=\cos\theta\,\vec p+\sin\theta\,\vec q$$

である。したがって、曲線は $\vec c+\cos\varphi\,\vec p\,'+\sin\varphi\,\vec q\,'$ とも書ける。

段 2(垂直にする)。内積を計算し、2 倍角の公式を使うと

$$\vec p\,'\cdot\vec q\,'=\frac{\lvert\vec q\rvert^2-\lvert\vec p\rvert^2}2\sin2\theta_0+(\vec p\cdot\vec q)\cos2\theta_0$$

である。右辺は $2\theta_0$ の三角関数の合成で $K\sin(2\theta_0+\delta)$($K\ge0$)の形に書けるので、$2\theta_0=-\delta$ ととれば $0$ になる。以下、この $\theta_0$ を使う。

段 3(楕円になる)。$\vec p\,'$ と $\vec q\,'$ は $\vec p$、$\vec q$ の組み合わせで、段 1 の式を逆に解くと $\vec p=\cos\theta_0\,\vec p\,'-\sin\theta_0\,\vec q\,'$ なども成り立つ。もし $\vec p\,'=\vec0$ なら $\vec p$ と $\vec q$ がどちらも $\vec q\,'$ の実数倍になり、平行でないことに反する。よって $\vec p\,'\ne\vec0$、同じく $\vec q\,'\ne\vec0$ である。$a=\lvert\vec p\,'\rvert$、$b=\lvert\vec q\,'\rvert$ とし、点 $\vec c$ を原点、$\vec p\,'$ の向きを $x$ 軸、$\vec q\,'$ の向きを $y$ 軸とする座標をとる(元の座標から回転と平行移動で移る)。ただし、$\vec q\,'$ が $\vec p\,'$ を時計回りに $90^\circ$ 回した向きのときは、$y$ 軸を $-\vec q\,'$ の向きにとる。この座標で曲線の点は $(a\cos\varphi,\ b\sin\varphi)$ または $(a\cos\varphi,\ -b\sin\varphi)$ なので、曲線は楕円 $\dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}=1$ である(2次曲線の媒介変数表示)。

段 4(面積)。楕円 $\dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}\le1$ の面積は $\pi ab$ である(1次変換と行列式:面積の拡大率 の「楕円の面積」)。$\vec p\,'\perp\vec q\,'$ なので、$ab=\lvert\vec p\,'\rvert\lvert\vec q\,'\rvert$ は 2 本が張る長方形の面積で、$\left\lvert\det(\vec p\,',\vec q\,')\right\rvert$ に等しい。一方、段 1 の式から

$$\det(\vec p\,',\vec q\,')=(\cos^2\theta_0+\sin^2\theta_0)\det(\vec p,\vec q)=\det(\vec p,\vec q)$$

である($\det$ は各ベクトルについて 1 次で、$\det(\vec p,\vec p)=\det(\vec q,\vec q)=0$、$\det(\vec q,\vec p)=-\det(\vec p,\vec q)$ を使って展開した)。よって面積は $\pi\left\lvert\det(\vec p,\vec q)\right\rvert$ である。$\square$

楕円の媒介変数表示の例
  1. $\vec c=\vec0$、$\vec p=\left(\dfrac1{\sqrt3},0\right)$、$\vec q=(0,1)$ なら、曲線は $\left(\dfrac{\cos\theta}{\sqrt3},\ \sin\theta\right)$ で、ex-stin-start の楕円 $3x^2+y^2=1$ である。面積は $\pi\cdot\dfrac1{\sqrt3}\cdot1=\dfrac{\pi}{\sqrt3}$ である。
  2. $\vec c=\vec0$、$\vec p=(1,0)$、$\vec q=(1,1)$ なら、点は $(x,y)=(\cos\theta+\sin\theta,\ \sin\theta)$ である。$\sin\theta=y$、$\cos\theta=x-y$ を $\cos^2\theta+\sin^2\theta=1$ に入れると $x^2-2xy+2y^2=1$ となる。面積は $\pi\lvert1\cdot1-0\cdot1\rvert=\pi$ である。

アフィン変換

中点連結定理 の「大学数学で見る」で使ったアフィン変換を、ここでも使う。定義と性質を短く再掲する。

アフィン変換

行列式が $0$ でない $2\times2$ 行列 $P$ とベクトル $\vec v$ を決め、位置ベクトル $\vec x$ の点を位置ベクトル $P\vec x+\vec v$ の点に移す変換を、平面の アフィン変換 という。

アフィン変換で保たれるもの

$f$ をアフィン変換 $\vec x\mapsto P\vec x+\vec v$ とする。
(R1) $f$ は平面の点を 1 対 1 に移しつくし、逆の変換 $\vec x\mapsto P^{-1}(\vec x-\vec v)$ もアフィン変換である。2 つのアフィン変換を続けたものもアフィン変換である。
(R2) 直線は直線に移る。
(R3) 線分の中点は中点に、三角形の重心は重心に移る。
(R4) 楕円は楕円に移り、中心は中心に移る。楕円に接する直線は、像の楕円に接する直線に移る。
(R5) 三角形や楕円が囲む部分の面積は $\lvert\det P\rvert$ 倍になる。
(R6) どんな 2 つの三角形 $A_1B_1C_1$、$A_2B_2C_2$ についても、$A_1\mapsto A_2$、$B_1\mapsto B_2$、$C_1\mapsto C_2$ となるアフィン変換がある。

行列の計算に帰着する

要点:どれも行列の 1 次性 $P(\vec x+\vec y)=P\vec x+P\vec y$、$P(\lambda\vec x)=\lambda P\vec x$ と $\det P\ne0$ から出る。楕円は lem-stin-param の形 $\vec c+\cos\theta\,\vec p+\sin\theta\,\vec q$ に書け、像は $f(\vec c)+\cos\theta\,P\vec p+\sin\theta\,P\vec q$ でまた楕円になり、面積は $\pi\lvert\det(P\vec p,P\vec q)\rvert=\lvert\det P\rvert\cdot\pi\lvert\det(\vec p,\vec q)\rvert$ になる。接することは「共有点がただ 1 つ」なので、1 対 1 で直線を直線に移す $f$ で保たれる。

詳しい証明を開く

(i) $\vec y=P\vec x+\vec v$ は $\vec x=P^{-1}(\vec y-\vec v)$ と同値で、$P^{-1}$ の行列式も $0$ でない。続けたものは $Q(P\vec x+\vec v)+\vec w=(QP)\vec x+(Q\vec v+\vec w)$ で、$\det(QP)=\det Q\det P\ne0$ である。

(ii) 直線 $\vec x_0+s\vec d$($\vec d\ne\vec0$)の像は $(P\vec x_0+\vec v)+sP\vec d$ で、$P\vec d\ne\vec0$ なので直線である。

(iii) 中点は 中点連結定理 の「大学数学で見る」の補題(アフィン変換で保たれるもの)で示されている。重心も同じく $f\left(\dfrac{\vec a+\vec b+\vec c}3\right)=\dfrac{f(\vec a)+f(\vec b)+f(\vec c)}3$($P$ の 1 次性と $\dfrac13+\dfrac13+\dfrac13=1$)から出る。

(iv) 楕円は lem-stin-param の形 $\vec c+\cos\theta\,\vec p+\sin\theta\,\vec q$ に書ける(楕円の定義の $(a\cos\theta,b\sin\theta)$ を回転・平行移動したもの)。像は $f(\vec c)+\cos\theta\,P\vec p+\sin\theta\,P\vec q$ で、$P\vec p$ と $P\vec q$ は平行でない(平行なら $P$ が平面をつぶし、行列式が $0$ になる)ので、lem-stin-param により中心 $f(\vec c)$ の楕円である。接することは「共有点がただ 1 つ」で決めたので、$f$ が 1 対 1 で直線を直線に移すことから保たれる。

(v) 三角形は 1次変換と行列式:面積の拡大率 の主定理(平行四辺形の半分)。楕円は、lem-stin-param の面積 $\pi\lvert\det(\vec p,\vec q)\rvert$ が $\pi\lvert\det(P\vec p,P\vec q)\rvert=\pi\lvert\det P\rvert\lvert\det(\vec p,\vec q)\rvert$ になることから出る。

(vi) 中点連結定理 の「大学数学で見る」の定理(1 つの三角形で確かめれば足りる)の 1 により、$O(0,0)$、$E_1(1,0)$、$E_2(0,1)$ を $A_i$、$B_i$、$C_i$ に移すアフィン変換 $f_i$ がある($i=1,2$)。$f_2\circ f_1^{-1}$ が求めるものである((i))。$\square$

主定理:中点で接する楕円はただ 1 つ

Steiner の内接楕円

どんな三角形 $ABC$ にも、3 辺 $AB$、$BC$、$CA$ にそれぞれの中点で接する楕円がただ 1 つある。この楕円を三角形 $ABC$ の Steiner の内接楕円 という。さらに次が成り立つ。
(R1) Steiner の内接楕円の中心は、三角形の重心 $G$ である。
(R2) Steiner の内接楕円が囲む部分の面積は、三角形の面積の $\dfrac{\pi}{3\sqrt3}$ 倍(約 $0.6046$ 倍)である。

「ただ 1 つ」を示すには、1 つの三角形で楕円の式を決めてしまえばよい。計算が簡単な直角三角形を使う。

標準の三角形で式を決める

三角形 $O(0,0)$、$E_1(1,0)$、$E_2(0,1)$ の 3 辺にそれぞれの中点 $\left(\dfrac12,0\right)$、$\left(\dfrac12,\dfrac12\right)$、$\left(0,\dfrac12\right)$ で接する楕円があるとすれば、それは
$$ 4x^2+4xy+4y^2-4x-4y+1=0 $$
で表される曲線である。

3 辺で重解の条件を立てる

要点:楕円は $F(x,y)=c_1x^2+c_2xy+c_3y^2+c_4x+c_5y+c_6=0$ の形の式で表され、2 次の部分は $(x,y)\ne(0,0)$ で正である。辺 $OE_1$($y=0$)を代入した 2 次方程式 $c_1x^2+c_4x+c_6=0$ は、接するので $x=\dfrac12$ を重解にもち、$c_4=-c_1$、$c_6=\dfrac{c_1}4$ となる。辺 $OE_2$ から $c_3=c_1$、$c_5=-c_1$、辺 $E_1E_2$($y=1-x$)から $c_2=c_1$ が出て、$F=\dfrac{c_1}4(4x^2+4xy+4y^2-4x-4y+1)$ である。

詳しい証明を開く

方針:楕円を 2 次式 $=0$ で表し、各辺の直線を代入した 2 次方程式が中点で重解をもつ、という条件から係数を決める。

段 1(楕円の式)。def-stin-ellipse により、楕円は $\dfrac{X^2}{a^2}+\dfrac{Y^2}{b^2}=1$ を角 $\varphi$ の回転と $(x_0,y_0)$ への平行移動で動かしたものである。点 $(x,y)$ が楕円の上にあることは、

$$X=\cos\varphi\,(x-x_0)+\sin\varphi\,(y-y_0),\qquad Y=-\sin\varphi\,(x-x_0)+\cos\varphi\,(y-y_0)$$

が $\dfrac{X^2}{a^2}+\dfrac{Y^2}{b^2}=1$ を満たすことと同じである。展開すると、楕円は

$$F(x,y)=c_1x^2+c_2xy+c_3y^2+c_4x+c_5y+c_6=0$$

の形の式で表される。2 次の部分 $c_1x^2+c_2xy+c_3y^2$ は $\dfrac{(\cos\varphi\,x+\sin\varphi\,y)^2}{a^2}+\dfrac{(-\sin\varphi\,x+\cos\varphi\,y)^2}{b^2}$ に等しい。2 つのかっこが同時に $0$ になるのは $x=y=0$ のときだけなので、$(x,y)\ne(0,0)$ ならこの値は正である。特に $c_1>0$、$c_3>0$、$c_1-c_2+c_3>0$($(x,y)=(1,-1)$ を入れた値)である。

段 2(辺 $OE_1$)。辺 $OE_1$ を含む直線は $y=0$ である。$F(x,0)=c_1x^2+c_4x+c_6$ で、直線と楕円の共有点は 2 次方程式 $c_1x^2+c_4x+c_6=0$($c_1>0$)の実数解に対応する。接するので共有点は $x=\dfrac12$ の 1 つだけで、この 2 次方程式は $x=\dfrac12$ を重解にもつ。よって

$$c_1x^2+c_4x+c_6=c_1\left(x-\frac12\right)^2=c_1x^2-c_1x+\frac{c_1}4$$

で、$c_4=-c_1$、$c_6=\dfrac{c_1}4$ である。

段 3(辺 $OE_2$)。直線 $x=0$ で同じく $c_3y^2+c_5y+c_6=c_3\left(y-\dfrac12\right)^2$ なので、$c_5=-c_3$、$c_6=\dfrac{c_3}4$ である。段 2 と合わせて $c_3=c_1$、$c_5=-c_1$ である。

段 4(辺 $E_1E_2$)。直線 $x+y=1$ の点は $(x,\ 1-x)$ と書ける。段 2・3 の結果を使って代入すると

$$F(x,1-x)=c_1x^2+c_2x(1-x)+c_1(1-x)^2-c_1x-c_1(1-x)+\frac{c_1}4=(2c_1-c_2)x^2-(2c_1-c_2)x+\frac{c_1}4$$

である。$x^2$ の係数 $2c_1-c_2$ は段 1 の $c_1-c_2+c_3>0$ に等しい。この 2 次方程式が $x=\dfrac12$ を重解にもつので

$$(2c_1-c_2)x^2-(2c_1-c_2)x+\frac{c_1}4=(2c_1-c_2)\left(x-\frac12\right)^2$$

で、定数項を比べて $\dfrac{c_1}4=\dfrac{2c_1-c_2}4$、つまり $c_2=c_1$ である($x$ の係数は両辺とも $-(2c_1-c_2)$ で、新しい条件は出ない)。

段 5(まとめ)。$F(x,y)=c_1\left(x^2+xy+y^2-x-y+\dfrac14\right)=\dfrac{c_1}4(4x^2+4xy+4y^2-4x-4y+1)$ で、$c_1>0$ なので、$F=0$ は $4x^2+4xy+4y^2-4x-4y+1=0$ と同じ曲線を表す。$\square$

主定理(thm-stin-main)の証明。方針:存在と中心・面積は、正三角形の内接円をアフィン変換で移して示す(ex-stin-start を一般にしたもの)。ただ 1 つであることは、標準の三角形に移して lem-stin-std を使う。
段 1(存在)。1 辺の長さ $s$ の正三角形 $A_0B_0C_0$ と、その内接円 $K_0$ をとる。正三角形では内心と重心が一致するので、内心から辺に下ろした垂線の足は辺の中点であり、$K_0$ は 3 辺にそれぞれの中点で接する。lem-stin-affine (vi) により、$A_0\mapsto A$、$B_0\mapsto B$、$C_0\mapsto C$ となるアフィン変換 $f$ がある。$E=f(K_0)$ とおく。(iv) により $E$ は楕円である。辺 $A_0B_0$ を含む直線は、(ii) により辺 $AB$ を含む直線に移り、$A_0B_0$ の中点は (iii) により $AB$ の中点に移る。$K_0$ はこの直線に中点で接するので、(iv) により $E$ は辺 $AB$ に中点で接する。辺 $BC$、$CA$ も同じである。
段 2(中心)。$K_0$ の中心は正三角形の重心 $G_0$ である。(iv) により $E$ の中心は $f(G_0)$ で、(iii) により $f(G_0)$ は三角形 $ABC$ の重心 $G$ である。
段 3(面積)。正三角形の内接円の半径は $r=\dfrac{s}{2\sqrt3}$(重心は中線を $2:1$ に分け、中線の長さは $\dfrac{\sqrt3}2s$ なので $r=\dfrac13\cdot\dfrac{\sqrt3}2s$)である。よって
$$ \frac{K_0\text{ の面積}}{\triangle A_0B_0C_0}=\frac{\pi r^2}{\frac{\sqrt3}4s^2}=\frac{\pi\frac{s^2}{12}}{\frac{\sqrt3}4s^2}=\frac{\pi}{3\sqrt3} $$
である。(v) により、$f$ で三角形の面積も楕円の面積も同じ $\lvert\det P\rvert$ 倍になるので、比は変わらない。
段 4(ただ 1 つ)。$E$、$E'$ がどちらも 3 辺に中点で接する楕円だとする。(vi) により $A\mapsto O$、$B\mapsto E_1$、$C\mapsto E_2$ となるアフィン変換 $g$ がある。段 1 と同じ理由で、$g(E)$ と $g(E')$ はどちらも三角形 $OE_1E_2$ の 3 辺に中点で接する楕円である。lem-stin-std により、どちらも曲線 $4x^2+4xy+4y^2-4x-4y+1=0$ に等しい。$g$ は 1 対 1 なので $E=E'$ である。$\square$

標準の三角形の Steiner の内接楕円

lem-stin-std の曲線 $4x^2+4xy+4y^2-4x-4y+1=0$ を調べる。
(1) 中心。重心 $\left(\dfrac13,\dfrac13\right)$ を原点に移すため $x=\dfrac13+u$、$y=\dfrac13+v$ とおく。$x^2+xy+y^2=\dfrac13+u+v+u^2+uv+v^2$、$x+y=\dfrac23+u+v$ なので、式を $4$ で割ったものは
$$ x^2+xy+y^2-x-y+\frac14=u^2+uv+v^2+\frac13-\frac23+\frac14=u^2+uv+v^2-\frac1{12} $$
となる。$u^2+uv+v^2=\dfrac1{12}$ は $(u,v)$ を $(-u,-v)$ に替えても変わらないので、中心は $\left(\dfrac13,\dfrac13\right)$ である。
(2) 半軸。$45^\circ$ 回した座標 $u=\dfrac{\xi-\eta}{\sqrt2}$、$v=\dfrac{\xi+\eta}{\sqrt2}$ をとると、$u^2+v^2=\xi^2+\eta^2$、$uv=\dfrac{\xi^2-\eta^2}2$ なので
$$ u^2+uv+v^2=\frac{3\xi^2+\eta^2}2=\frac1{12}\iff\frac{\xi^2}{1/18}+\frac{\eta^2}{1/6}=1 $$
である。半軸は、直線 $y=x$ の向きに $\dfrac1{3\sqrt2}=\dfrac{\sqrt2}6\approx0.2357$、それに垂直な向きに $\dfrac1{\sqrt6}=\dfrac{\sqrt6}6\approx0.4082$ である。
(3) 面積。$\pi\cdot\dfrac{\sqrt2}6\cdot\dfrac{\sqrt6}6=\dfrac{\sqrt{12}\,\pi}{36}=\dfrac{\sqrt3\,\pi}{18}$ で、三角形の面積 $\dfrac12$ で割ると
$$ \frac{\sqrt3\,\pi}{18}\cdot2=\frac{\sqrt3\,\pi}9=\boxed{\frac{\pi}{3\sqrt3}} $$
となり、thm-stin-main (ii) と一致する。

標準の三角形 O、E₁、E₂ の Steiner の内接楕円。中心は重心 G で、破線は長さの違う 2 本の半軸(直線 y=x の向きとそれに垂直な向き) 標準の三角形 O、E₁、E₂ の Steiner の内接楕円。中心は重心 G で、破線は長さの違う 2 本の半軸(直線 y=x の向きとそれに垂直な向き)

媒介変数表示で書く

thm-stin-main の証明はアフィン変換 $f$ を使ったが、$f$ を具体的に求めなくても、Steiner の内接楕円は頂点の座標から直接書ける。この式は Mardenの定理 で焦点を求めるときにも使う。

Steiner の内接楕円の媒介変数表示

三角形 $ABC$ の重心を $G$ とする(点とその位置ベクトルを同じ文字で書く)。Steiner の内接楕円は
$$ G+\frac{\cos t}2\,(C-G)+\frac{\sin t}{2\sqrt3}\,(B-A)\qquad(0\le t<2\pi) $$
で表される。辺 $AB$、$BC$、$CA$ の中点は、それぞれ $t=180^\circ$、$60^\circ$、$-60^\circ$($300^\circ$)の点である。

3 本の直線との共有点を調べる

要点:重心を原点にし、$\vec u=C$、$\vec v=B-A$ とおくと、曲線は $\dfrac{\cos t}2\,\vec u+\dfrac{\sin t}{2\sqrt3}\,\vec v$ で、lem-stin-param により楕円である。辺 $AB$ を含む直線 $-\dfrac12\vec u+s\vec v$ と係数を比べると $\cos t=-1$ となり、共有点は中点だけである。辺 $BC$ では係数の比較から $\sqrt3\sin t+\cos t=2$、つまり $2\sin(t+30^\circ)=2$ となって $t=60^\circ$ だけ、辺 $CA$ では $2\sin(t-30^\circ)=-2$ となって $t=-60^\circ$ だけである。3 辺に中点で接するので、thm-stin-main の「ただ 1 つ」により Steiner の内接楕円である。

詳しい証明を開く

方針:この曲線が楕円で、3 辺を含む直線とそれぞれ中点だけを共有することを示す。そうすれば thm-stin-main の「ただ 1 つ」により、Steiner の内接楕円である。

段 1(重心を原点にする)。平行移動しても式の形は変わらないので、$G$ を原点とし、$A+B+C=\vec0$ とする。$\vec u=C$、$\vec v=B-A$ とおくと、$A+B=-\vec u$ と $B-A=\vec v$ から

$$A=-\frac{\vec u+\vec v}2,\qquad B=\frac{\vec v-\vec u}2$$

である。曲線は $\dfrac{\cos t}2\,\vec u+\dfrac{\sin t}{2\sqrt3}\,\vec v$ である。

段 2(楕円である)。$\vec u$ と $\vec v$ が平行なら、$C$ は $AB$ の中点 $-\dfrac{\vec u}2$ を通り $AB$ に平行な直線、つまり直線 $AB$ の上にあることになり、三角形にならない。よって $\vec u$、$\vec v$ は平行でなく、lem-stin-param により曲線は楕円である。以下、$\vec u$、$\vec v$ が平行でないので、$x\vec u+y\vec v=x'\vec u+y'\vec v$ なら $x=x'$、$y=y'$ である(係数を比べてよい)。

段 3(辺 $AB$)。辺 $AB$ を含む直線の点は、中点 $\dfrac{A+B}2=-\dfrac{\vec u}2$ から $\vec v$ の向きに進んだ $-\dfrac12\vec u+s\vec v$($s$ は実数)である。曲線の点と等しいとすると、$\vec u$ の係数を比べて $\dfrac{\cos t}2=-\dfrac12$、つまり $\cos t=-1$ で、$t=180^\circ$ だけである。共有点は中点 $-\dfrac{\vec u}2$ の 1 つだけである。

段 4(辺 $BC$)。中点は $\dfrac{B+C}2=\dfrac{\vec u+\vec v}4$、向きは $C-B=\dfrac{3\vec u-\vec v}2$ なので、直線の点は $\left(\dfrac14+\dfrac{3s}2\right)\vec u+\left(\dfrac14-\dfrac s2\right)\vec v$ である。曲線の点と係数を比べると

$$\cos t=\frac12+3s,\qquad\sin t=\sqrt3\left(\frac12-s\right)$$

である。第 1 式から $s=\dfrac{2\cos t-1}6$ で、第 2 式に入れて整理すると

$$\sqrt3\sin t=\frac32-3s=\frac32-\frac{2\cos t-1}2=2-\cos t,\qquad\text{つまり}\qquad\sqrt3\sin t+\cos t=2$$

となる。三角関数の合成で $\sqrt3\sin t+\cos t=2\sin(t+30^\circ)$ なので、$\sin(t+30^\circ)=1$、$t+30^\circ=90^\circ$、$t=60^\circ$ だけである。このとき $s=0$ で、共有点は中点だけである。

段 5(辺 $CA$)。中点は $\dfrac{C+A}2=\dfrac{\vec u-\vec v}4$、向きは $A-C=-\dfrac{3\vec u+\vec v}2$ である。段 4 と同じ計算で $\sqrt3\sin t-\cos t=-2$、つまり $2\sin(t-30^\circ)=-2$ となり、$t=-60^\circ$ だけである。

段 5 の計算を開く

直線の点は $\left(\dfrac14-\dfrac{3s}2\right)\vec u+\left(-\dfrac14-\dfrac s2\right)\vec v$ である。係数を比べると $\cos t=\dfrac12-3s$、$\sin t=\sqrt3\left(-\dfrac12-s\right)$ で、第 1 式から $s=\dfrac{1-2\cos t}6$。第 2 式に入れると $\sqrt3\sin t=-\dfrac32-3s=-\dfrac32-\dfrac{1-2\cos t}2=-2+\cos t$、つまり $\sqrt3\sin t-\cos t=-2$ である。合成すると $2\sin(t-30^\circ)=-2$、$t-30^\circ=-90^\circ$ で、$t=-60^\circ$、$s=0$ である。

段 6(まとめ)。曲線は楕円で、3 辺を含む直線にそれぞれの中点だけで接する。thm-stin-main の「ただ 1 つ」により、これが Steiner の内接楕円である。$\square$

面積を媒介変数表示からもう一度確かめる計算を開く

lem-stin-param の面積の式から、thm-stin-main (ii) をもう一度確かめられる。段 1 の記号で、面積は $\pi\left\lvert\det\left(\dfrac{\vec u}2,\dfrac{\vec v}{2\sqrt3}\right)\right\rvert=\dfrac{\pi}{4\sqrt3}\lvert\det(\vec u,\vec v)\rvert$ である。$A+B+C=\vec0$ のとき $\det(\vec u,\vec v)=\det(C,B-A)$ は三角形の面積 $S$ の $\dfrac43$ 倍(符号を除く)になるので、面積は $\dfrac{\pi}{4\sqrt3}\cdot\dfrac43S=\dfrac{\pi}{3\sqrt3}S$ である。

$\lvert\det(C,B-A)\rvert=\dfrac43S$ の計算を開く

$A=-B-C$ を使うと、$\det(A,B)=\det(-B-C,B)=-\det(C,B)=\det(B,C)$、$\det(C,A)=\det(C,-B-C)=-\det(C,B)=\det(B,C)$ である。よって $2S=\lvert\det(B-A,C-A)\rvert=\lvert\det(B,C)-\det(B,A)-\det(A,C)\rvert=\lvert\det(B,C)+\det(A,B)+\det(C,A)\rvert=3\lvert\det(B,C)\rvert$。一方 $\det(C,B-A)=\det(C,B)-\det(C,A)=-2\det(B,C)$ なので、$\lvert\det(C,B-A)\rvert=2\cdot\dfrac{2S}3=\dfrac43S$ である。

鋭角三角形と鈍角三角形で求める
  1. 鋭角三角形 $A(0,0)$、$B(5,0)$、$C(1,4)$(面積 $10$)。重心は $G\left(2,\dfrac43\right)$、$C-G=\left(-1,\dfrac83\right)$、$B-A=(5,0)$ なので、prop-stin-param は
    $$ x=2-\frac12\cos t+\frac{5}{2\sqrt3}\sin t,\qquad y=\frac43+\frac43\cos t $$
    である。$t=180^\circ$ で $\left(\dfrac52,0\right)$、$t=60^\circ$ で $\left(2-\dfrac14+\dfrac54,\ \dfrac43+\dfrac23\right)=(3,2)$、$t=-60^\circ$ で $\left(2-\dfrac14-\dfrac54,\ 2\right)=\left(\dfrac12,2\right)$ となり、3 辺の中点が出てくる。$\cos t$、$\sin t$ を消去すると
    $$ 16x^2+12xy+21y^2-80x-80y+100=0 $$
    である。辺 $AB$($y=0$)を代入すると $16x^2-80x+100=4(2x-5)^2$ で、$x=\dfrac52$ の重解になる。面積は $\pi\left\lvert\det\left(\left(-\dfrac12,\dfrac43\right),\left(\dfrac5{2\sqrt3},0\right)\right)\right\rvert=\pi\cdot\dfrac43\cdot\dfrac5{2\sqrt3}=\dfrac{10\pi}{3\sqrt3}\approx6.046$ で、三角形の面積 $10$ の $\dfrac{\pi}{3\sqrt3}$ 倍である。
  2. 鈍角三角形 $A(0,0)$、$B(10,0)$、$C(3,4)$(面積 $20$、$\angle C\approx97.1^\circ$)でも同じように求まり、楕円は $16x^2+16xy+79y^2-160x-280y+400=0$、面積は $\dfrac{20\pi}{3\sqrt3}\approx12.092$(三角形の面積 $20$ の $\dfrac{\pi}{3\sqrt3}$ 倍)である。
    (2) の媒介変数表示と、中点・重解を確かめる計算を開く

    鈍角三角形 $A(0,0)$、$B(10,0)$、$C(3,4)$(面積 $20$、$\angle C\approx97.1^\circ$)。重心は $G\left(\dfrac{13}3,\dfrac43\right)$ で、楕円は

    $$x=\frac{13}3-\frac23\cos t+\frac5{\sqrt3}\sin t,\qquad y=\frac43+\frac43\cos t$$

    である。消去すると $16x^2+16xy+79y^2-160x-280y+400=0$ で、面積は $\dfrac{20\pi}{3\sqrt3}\approx12.092$ である。

    $t=180^\circ$ で $(5,0)$、$t=60^\circ$ で $\left(\dfrac{13}3-\dfrac13+\dfrac52,\ 2\right)=\left(\dfrac{13}2,2\right)$、$t=-60^\circ$ で $\left(\dfrac{13}3-\dfrac13-\dfrac52,\ 2\right)=\left(\dfrac32,2\right)$ で、それぞれ辺 $AB$、$BC$、$CA$ の中点である。$y=0$ を代入すると $16x^2-160x+400=16(x-5)^2$ で、$x=5$ の重解になる。

鋭角三角形 A(0,0)、B(5,0)、C(1,4) の Steiner の内接楕円。中心は重心 G で、3 辺に中点(赤)で接する 鋭角三角形 A(0,0)、B(5,0)、C(1,4) の Steiner の内接楕円。中心は重心 G で、3 辺に中点(赤)で接する
鈍角三角形 A(0,0)、B(10,0)、C(3,4) でも、楕円は 3 辺に中点で接し、中心は重心 G である 鈍角三角形 A(0,0)、B(10,0)、C(3,4) でも、楕円は 3 辺に中点で接し、中心は重心 G である

アフィン変換で移り合う

thm-stin-main の「ただ 1 つ」から、Steiner の内接楕円はアフィン変換と相性がよいことが分かる。

Steiner の内接楕円はアフィン変換で移り合う

アフィン変換 $h$ が三角形 $T_1=A_1B_1C_1$ を三角形 $T_2=A_2B_2C_2$ に移す($h(A_1)=A_2$ など)とき、$h$ は $T_1$ の Steiner の内接楕円 $S_1$ を $T_2$ の Steiner の内接楕円 $S_2$ に移す。

中点で接することが保たれる

lem-stin-affine (ii)〜(iv) により、$h(S_1)$ は楕円で、$T_2$ の 3 辺にそれぞれの中点で接する。thm-stin-main の「ただ 1 つ」により $h(S_1)=S_2$ である。$\square$

標準の三角形 $T_0=OE_1E_2$ の Steiner の内接楕円を $S_0$ とし、$f_i$ を $T_0$ を $T_i$ に移すアフィン変換とする(lem-stin-affine (vi))。3 つの変換の関係は次の図式で表せる。
$$ \xymatrix{ & T_0 \ar[dl]_{f_1} \ar[dr]^{f_2} & \\ T_1 \ar[rr]_{h=f_2\circ f_1^{-1}} & & T_2 } $$
図式が可換とは $h\circ f_1=f_2$ ということである。cor-stin-invariance により、楕円についても $S_1=f_1(S_0)$、$S_2=f_2(S_0)$、$h(S_1)=S_2$ が成り立つ。どの三角形の Steiner の内接楕円も、1 つの楕円 $S_0$(あるいは正三角形の内接円)の像である。
アフィン変換で保たれるものと保たれないものを並べる。Steiner の内接楕円の性質(中点・接する・重心・面積の比)は、どれも保たれる側にある。

アフィン変換で保たれるか理由・例
直線、平行保たれるlem-stin-affine (ii)。平行は 中点連結定理 の補題(アフィン変換で保たれるもの)の 3
中点、重心、同じ直線の上の長さの比保たれる(iii)。長さの比は 中点連結定理 の補題の 3
楕円であること、接すること保たれる(iv)
面積の比保たれる(v)、どちらも $\lvert\det P\rvert$ 倍
長さ、角保たれないex-stin-start で正三角形が二等辺三角形になる
円であること、内接円保たれないex-stin-cx-incircle
楕円の焦点保たれないex-stin-cx-focus

例と反例:保たれないものを移すと

thm-stin-main の証明は「アフィン変換で保たれる性質だけを使う」ことで成り立っていた。保たれない性質まで移せると考えると誤る。

外す条件・誤った使い方反例成り立たなくなること
正三角形でない三角形の内接円を移す直角三角形の内接円を縦に 2 倍する(ex-stin-cx-incircle)像が像の三角形の内接円になる/中点で接する
円の中心(焦点)を焦点として移す正三角形の内接円の中心の像は重心(ex-stin-cx-focus)像の楕円の焦点になる
「中点で」を「3 辺に接する」に弱める内接円も 3 辺に接する楕円(ex-stin-cx-inscribed)ただ 1 つであること
反例:内接円を移しても内接円にならない

直角三角形 $O(0,0)$、$(4,0)$、$(0,3)$ の内接円は、中心 $(1,1)$、半径 $1$ で(半径は $\dfrac{3+4-5}2=1$)、3 辺に $(1,0)$、$(0,1)$、$\left(\dfrac85,\dfrac95\right)$ で接する。アフィン変換 $(x,y)\mapsto(x,2y)$ で移すと、三角形は $O(0,0)$、$(4,0)$、$(0,6)$ に、内接円は楕円 $(x-1)^2+\dfrac{(y-2)^2}4=1$ に移る。
(1) 像の楕円は、lem-stin-affine (iv) により 3 辺に接するが、接点は $(1,0)$、$(0,2)$、$\left(\dfrac85,\dfrac{18}5\right)$ で、辺の中点 $(2,0)$、$(0,3)$、$(2,3)$ ではない。もとの内接円が中点で接していなかったからである。
(2) 像の三角形の内接円は、半径 $\dfrac{4+6-\sqrt{52}}2=5-\sqrt{13}\approx1.394$、中心 $(5-\sqrt{13},\ 5-\sqrt{13})$ の円で、像の楕円とは別物である。角の二等分線も保たれない:もとの直角の二等分線 $y=x$ は $y=2x$ に移るが、像の三角形の直角の二等分線は $y=x$ のままである。

直角三角形の内接円を縦に 2 倍した楕円(橙)は 3 辺に接するが、接点は辺の中点(赤)ではなく、像の三角形の内接円(灰色の破線)とも違う 直角三角形の内接円を縦に 2 倍した楕円(橙)は 3 辺に接するが、接点は辺の中点(赤)ではなく、像の三角形の内接円(灰色の破線)とも違う
鋭角三角形 A(0,0)、B(5,0)、C(1,4) の Steiner の内接楕円の焦点 F₁、F₂(緑)は、重心 G とは別の点である 鋭角三角形 A(0,0)、B(5,0)、C(1,4) の Steiner の内接楕円の焦点 F₁、F₂(緑)は、重心 G とは別の点である
反例:焦点はアフィン変換で移らない

正三角形の内接円は円なので、2 つの焦点は中心で重なっている(円は、2 つの焦点が一致した楕円である)。thm-stin-main の証明の $f$ で移すと、中心の像は重心 $G$ である。もし「焦点の像は像の楕円の焦点」が正しければ、$G$ で 2 つの焦点が重なり、Steiner の内接楕円はいつも $G$ を中心とする円になるはずである。
ex-stin-examples (1) の三角形 $A(0,0)$、$B(5,0)$、$C(1,4)$ で調べる。$G\left(2,\dfrac43\right)$ から 3 辺の中点までの距離は
$$ \sqrt{\frac14+\frac{16}9}=\frac{\sqrt{73}}6\approx1.424,\qquad\sqrt{1+\frac49}=\frac{\sqrt{13}}3\approx1.202,\qquad\sqrt{\frac94+\frac49}=\frac{\sqrt{97}}6\approx1.641 $$
で等しくないので、楕円は $G$ を中心とする円ではない。実際の焦点は $F_1(1,2)$、$F_2\left(3,\dfrac23\right)$ である(楕円の式 $16x^2+12xy+21y^2-80x-80y+100=0$ の半軸 $\dfrac53$、$\dfrac{2\sqrt3}3$ から、中心と焦点の距離は $\sqrt{\dfrac{25}9-\dfrac{12}9}=\dfrac{\sqrt{13}}3$)。3 つの中点で焦点までの距離の和を計算すると、
$$ \left(\tfrac52,0\right):\ \frac52+\frac56=\frac{10}3,\qquad(3,2):\ 2+\frac43=\frac{10}3,\qquad\left(\tfrac12,2\right):\ \frac12+\frac{17}6=\frac{10}3 $$
で、どれも長軸の長さ $2\cdot\dfrac53=\dfrac{10}3$ に等しい(2次曲線の焦点と準線)。

別の楕円での例を開く

楕円 $\dfrac{x^2}{25}+\dfrac{y^2}9=1$ の焦点は $(\pm4,0)$ である。$(x,y)\mapsto(x,2y)$ で移すと楕円は $\dfrac{x^2}{25}+\dfrac{y^2}{36}=1$ になり、焦点は $(0,\pm\sqrt{11})$ である。移した点 $(\pm4,0)$ までの距離の和は、$(5,0)$ で $1+9=10$、$(0,6)$ で $2\sqrt{52}\approx14.42$ と一定でなく、$(\pm4,0)$ は焦点ではない。

焦点が保たれないので、Steiner の内接楕円の焦点を「正三角形に直して」求めることはできない。変換で位置を直してから焦点を求めるなら、焦点を焦点に移す変換、つまり長さの比と角を保つ変換(回転・平行移動・拡大・縮小)を使う。それを複素数で行うのが Mardenの定理 である。ex-stin-cx-focus の焦点 $F_1(1,2)$、$F_2\left(3,\dfrac23\right)$ は、複素数で $1+2i$、$3+\dfrac23i$ と書くと、3 次式 $z(z-5)(z-1-4i)$ の導関数の 2 つの根になっている。

反例:3 辺に接するだけの楕円は 1 つでない

ex-stin-examples (1) の三角形 $A(0,0)$、$B(5,0)$、$C(1,4)$ の内接円は、半径 $r=\dfrac{2\cdot10}{5+4\sqrt2+\sqrt{17}}\approx1.3532$ で、辺 $AB$ に $x\approx1.7331$ の点で接する。辺 $AB$ の中点 $x=\dfrac52$ ではないので、内接円は Steiner の内接楕円とは異なる、3 辺に接するもう 1 つの楕円(円)である。面積は $\pi r^2\approx5.753$ で、Steiner の内接楕円の面積 $\approx6.046$ より小さい。「中点で」接するという条件を外すと、「ただ 1 つ」は成り立たない。

大学数学で見る:アフィン幾何と面積最大の楕円

thm-stin-main は、長さや角を使わず、「中点」「接する」「面積の比」だけで述べられている。このような性質だけを扱う幾何を アフィン幾何 という。

変換で保たれるもので幾何を分ける

F. Klein は、変換の集まり(群)を 1 つ決め、それで保たれる性質を調べるのが幾何である、という見方を示した(エルランゲン・プログラム)。

変換の群と幾何の対応を開く

回転・平行移動・裏返し(合同変換)で保たれる性質を調べるのが Euclid 幾何で、長さ・角・円・焦点が意味をもつ。拡大・縮小も加えると(相似変換)、長さの比と角が残る。アフィン変換まで広げると、長さや角は意味を失い、平行・中点・面積の比・楕円であることだけが残る。この見方では、アフィン幾何ではすべての三角形が「同じ」であり(lem-stin-affine (vi))、すべての楕円も「同じ」である(円の像)。Steiner の内接楕円は、アフィン幾何での正三角形の内接円そのものである。一方、焦点は相似変換までしか保たれない。Mardenの定理 が複素数の相似変換 $z\mapsto\alpha z+\beta$ だけを使うのはこのためである。

面積が最大の内接楕円(証明しない)

三角形の内部に含まれる楕円のうち、面積が最大のものは Steiner の内接楕円である。この記事では証明しない。正三角形では、内部に含まれる楕円のうち面積最大のものが内接円であることが示せれば、アフィン変換は面積の比を保つので、すべての三角形に移る。ex-stin-cx-inscribed の内接円の面積 $\approx5.753$ が Steiner の内接楕円の $\approx6.046$ より小さいのは、この例である。凸な図形に含まれる面積最大の楕円(Löwner–John の楕円)は、最適化や凸幾何で使われる。

さらに先へ

  • Steiner の内接楕円の 2 つの焦点は、3 頂点を複素数 $z_1,z_2,z_3$ で表したとき、$(z-z_1)(z-z_2)(z-z_3)$ の導関数の根である(Mardenの定理)。
  • 3 頂点を通り、中心が重心の楕円(Steiner の外接楕円)もただ 1 つある。これは Steiner の内接楕円を重心を中心に $2$ 倍に拡大したもので、正三角形の外接円の像である。この記事では証明しない。
  • 三角形の中の点を「面積の比」で表す重心座標(三角形の面積比)も、アフィン変換で変わらない量である。

関連項目

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