狭義Hensel局所環(strictly Henselian local ring)とは、Hensel の補題が成り立ち(剰余体上のモニック多項式の単根が持ち上がる)、かつ剰余体が分離閉である局所環をいう。局所環 $A$ と剰余体の分離閉包ごとに狭義 Hensel 化 $A^{\mathrm{sh}}$ が普遍性で定まり、スキームの幾何的点 $\bar x$ における構造層のエタール位相での茎 $\mathcal{O}_{X,\bar x}^{\mathrm{sh}}$ がその例で、エタール位相での「点の無限小近傍」の役を果たす。その上では有限エタール代数はすべて $A^n$ と同型で、Brauer 群と正次数のエタールコホモロジーが消える。$W(\bar{\mathbb{F}}_p)$、$\bar k[\![t]\!]$、$\mathbb{C}\{t\}$ が例である。
前提知識: 局所環, Hensel局所環, 分離閉体, エタール射, 帰納極限, エタールコホモロジー
狭義 Hensel 局所環は、Hensel局所環(Hensel の補題が成り立つ局所環)のうち剰余体が分離閉体であるものである。Hensel 性が「陰関数定理で解ける方程式の解をすべてもつ」ことを、剰余体の分離閉性が「点そのものの上にこれ以上の不分岐拡大がない」ことを表し、両方を合わせたものがエタール位相における「点の無限小近傍」の座標環になる。まず定義を述べ、次に任意の局所環から狭義 Hensel 局所環を作る狭義 Hensel 化を定義する。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を局所環(極大イデアル $\mathfrak{m}$ をただ 1 つもつ可換環)、$k=A/\mathfrak{m}$ をその剰余体とする。$A$ が狭義 Hensel 局所環(strictly Henselian local ring)であるとは、次の 2 条件をみたすことをいう。
Hensel 局所環の条件 1 には多くの同値な言い換えがあり、それらは Hensel局所環 の記事で証明されている。本記事で使うのは次の 2 つである。
局所環 $(A,\mathfrak{m},k)$ について、次の 3 条件は同値である(Hensel局所環 の記事、および Stacks の「Henselian local rings」の節、Mil80 第 I 章 §4、Ray70)。
剰余体が分離閉な局所環では、Hensel 局所環であることと狭義 Hensel 局所環であることは同じである。2 つの条件は互いに独立で、一方だけをみたす局所環の例を ex-strictly-henselian-zp・ex-strictly-henselian-real-series・ex-strictly-henselian-not-henselian に挙げる。「強 Hensel 局所環」「strictly local ring」(SGA4 の anneau strictement local)とも呼ばれる。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を局所環、$k^{\mathrm{s}}$ を $k$ の分離閉包とする。$A$ の($k\to k^{\mathrm{s}}$ に関する)狭義 Hensel 化(strict Henselization)とは、狭義 Hensel 局所環 $(A^{\mathrm{sh}},\mathfrak{m}^{\mathrm{sh}},k^{\mathrm{sh}})$ と局所準同型 $i\colon A\to A^{\mathrm{sh}}$ と $k$ 上の同型 $k^{\mathrm{sh}}\cong k^{\mathrm{s}}$ の組であって、次の普遍性をみたすものをいう。
任意の狭義 Hensel 局所環 $(B,\mathfrak{n},k_B)$、局所準同型 $\varphi\colon A\to B$、および $\varphi$ が誘導する $k\to k_B$ を延長する体の準同型 $\psi\colon k^{\mathrm{s}}\to k_B$ に対して、局所準同型 $\tilde\varphi\colon A^{\mathrm{sh}}\to B$ で $\tilde\varphi\circ i=\varphi$ かつ剰余体上で $\psi$ を誘導するものがただ 1 つ存在する。
普遍性により狭義 Hensel 化は(存在すれば)$A$ 上の同型を除いて一意に定まる。存在は thm-strictly-henselian-existence で述べる。
普遍性で $\psi$ を指定するのは、$k^{\mathrm{s}}$ には $k$ 上の自己同型(Galois群 $\operatorname{Gal}(k^{\mathrm{s}}/k)$)があるため、剰余体の同一視を固定しないと射が一意に定まらないからである。この点が、剰余体を変えない Hensel 化 $A^{\mathrm{h}}$(Hensel局所環)との違いである。
Zariski位相の局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$ は「点 $x$ の Zariski 開近傍で定義された関数」の環であり、Zariski 開集合は大きすぎるため、たとえば結節点をもつ曲線の局所環は整域のままで、2 本の枝を分けることができない。Hensel 化は、$\mathcal{O}_{X,x}$ に「陰関数定理で $x$ の近くで一意に定まる代数関数」をすべて付け加えたもので、複素解析の収束冪級数環 $\mathbb{C}\{t\}$ の代数版にあたる。狭義 Hensel 化はさらに剰余体を分離閉包まで広げる。幾何的には、点 $x$ そのものを幾何的点 $\bar x$(分離閉体に値をもつ点)に置き換えることに相当し、$x$ の上の有限個の点に分裂するような被覆空間(不分岐被覆)が $\bar x$ の上ではすべて分裂する。
エタール位相では開近傍の代わりにエタール射 $U\to X$ を使うので、「$\bar x$ の十分小さな近傍」は Zariski 開集合よりずっと小さい。その極限が $\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,\bar x}^{\mathrm{sh}}$ であり(thm-strictly-henselian-stalk)、狭義 Hensel 局所環の上ではエタール被覆が自明になる(thm-strictly-henselian-trivial-covers)。これは、可縮空間の上では被覆空間が自明になることの代数版である。エタール層の茎が狭義 Hensel 化で計算できるため、エタールコホモロジーの局所的な計算はすべて狭義 Hensel 局所環の上の計算に帰着する。
完備局所環は Hensel 局所環である(Hensel局所環 の記事、Mat86 Theorem 8.3)。したがって剰余体が分離閉な完備局所環は狭義 Hensel 局所環である。
p進数の整数環 $\mathbb{Z}_p$ の狭義 Hensel 化は、$\mathbb{Q}_p$ の最大不分岐拡大 $\mathbb{Q}_p^{\mathrm{ur}}=\bigcup_{n\ge1}\mathbb{Q}_p(\zeta_{p^n-1})$($\zeta_{p^n-1}$ は $1$ の原始 $p^n-1$ 乗根、1の冪根)の整数環
$$
\mathbb{Z}_p^{\mathrm{sh}}=\mathbb{Z}_p^{\mathrm{ur}}=\bigcup_{n\ge1}\mathbb{Z}_p[\zeta_{p^n-1}]=\varinjlim_n W(\mathbb{F}_{p^n})
$$
である。実際 $\mathbb{Z}_p$ は Hensel 局所環なので、その狭義 Hensel 化は剰余体の有限分離拡大 $\mathbb{F}_{p^n}/\mathbb{F}_p$ に対応する有限エタール局所 $\mathbb{Z}_p$ 代数 $W(\mathbb{F}_{p^n})=\mathbb{Z}_p[\zeta_{p^n-1}]$ の帰納極限である(thm-strictly-henselian-existence の 4)。$\mathbb{Z}_p^{\mathrm{ur}}$ は完備ではなく、その完備化が $W(\bar{\mathbb{F}}_p)$ である(Ser79)。狭義 Hensel 化は完備化より真に小さい。
$\bar k$ を代数閉体、$A=\bar k[t]_{(t)}$ とする。剰余体 $\bar k$ は分離閉なので $A^{\mathrm{sh}}=A^{\mathrm{h}}$ であり、これは代数的冪級数環
$$
\bar k\langle t\rangle=\{\,\varphi\in\bar k[\![t]\!]\mid\varphi\text{ は }\bar k(t)\text{ 上代数的}\,\}
$$
に等しい(Hensel局所環 の記事、Ray70)。$\bar k=\mathbb{C}$ のとき
$$
\mathbb{C}[t]_{(t)}\subsetneq\mathbb{C}[t]_{(t)}^{\mathrm{sh}}=\mathbb{C}\langle t\rangle\subsetneq\mathbb{C}\{t\}\subsetneq\mathbb{C}[\![t]\!]
$$
であり、右の 3 つはいずれも狭義 Hensel 局所環である($e^t\in\mathbb{C}\{t\}$ は $\mathbb{C}(t)$ 上超越元なので中央の包含は真、$\sum n!\,t^n$ は収束しないので右の包含は真)。
$\bar k$ を標数 $2$ でない代数閉体、$A=\bar k[x,y]_{(x,y)}/(y^2-x^2(x+1))$ を結節点をもつ 3 次曲線の原点における局所環とする。$A$ は整域だが、$A^{\mathrm{sh}}$ は整域でない。実際、モニック多項式 $T^2-(1+x)$ の剰余体 $\bar k$ への像 $T^2-1$ は単根 $1$ をもつ($2\ne0$)ので、Hensel 性により $s^2=1+x$、$s\equiv1$ をみたす $s\in A^{\mathrm{sh}}$ があり、
$$
(y-xs)(y+xs)=y^2-x^2(1+x)=0
$$
となる。$y\pm xs\ne0$ は次のように分かる。$A^{\mathrm{sh}}$ は Noether 局所環(Noether環)でその完備化は $\hat A=\bar k[\![x,y]\!]/(y^2-x^2(x+1))$ に等しく(thm-strictly-henselian-existence の 3)、$A^{\mathrm{sh}}\to\hat A$ は忠実平坦、とくに単射である。$\hat A$ では $u=y-xs$、$v=y+xs$($s=\sqrt{1+x}\in\bar k[\![x]\!]$)が $\hat A\cong\bar k[\![u,v]\!]/(uv)$ という表示を与え、$u,v$ はいずれも $0$ でない。これは、結節点がエタール局所的には交わる 2 本の直線であることを表す。
$\mathbb{Z}_p$ は完備なので Hensel 局所環だが、剰余体 $\mathbb{F}_p$ は有限体であり分離閉ではない($\mathbb{F}_{p^2}$ は $\mathbb{F}_p$ の次数 $2$ の分離拡大)。したがって $\mathbb{Z}_p$ は def-strictly-henselian の条件 1 をみたし条件 2 を破る。thm-strictly-henselian-trivial-covers の結論も破れる:$W(\mathbb{F}_{p^2})=\mathbb{Z}_p[\zeta_{p^2-1}]$ は階数 $2$ の有限エタール $\mathbb{Z}_p$ 代数で局所環だから、$\mathbb{Z}_p\times\mathbb{Z}_p$(極大イデアルを 2 つもつ)と同型でない。同じ理由で、$\mathbb{Z}_{(p)}$ の Hensel 化 $\mathbb{Z}_{(p)}^{\mathrm{h}}$ や $\mathbb{F}_q[\![t]\!]$($q$ は素数冪)も狭義 Hensel ではない。
$\mathbb{R}\{t\}$(実係数の収束冪級数環)と $\mathbb{R}[\![t]\!]$ は Hensel 局所環だが、剰余体 $\mathbb{R}$ は分離閉でない($x^2+1$ が既約)。よって狭義 Hensel ではない。有限エタール $\mathbb{R}\{t\}$ 代数 $\mathbb{R}\{t\}\otimes_{\mathbb{R}}\mathbb{C}=\mathbb{C}\{t\}$ は階数 $2$ の局所環で、$\mathbb{R}\{t\}^2$ と同型でない。$\mathbb{R}\{t\}$ の狭義 Hensel 化は $\mathbb{C}\{t\}$ である(thm-strictly-henselian-existence の 4:剰余体の分離閉包 $\mathbb{C}/\mathbb{R}$ に対応する有限エタール局所代数がこれだけ)。
$\bar k$ を代数閉体とし、$A=\bar k[t]_{(t)}$ とする。剰余体 $\bar k$ は分離閉だが、$A$ は Hensel 局所環でない。実際 $f(x)=x^2-x-t$ の剰余体への像 $x^2-x=x(x-1)$ は単根 $0,1$ をもつ($\bar f'(x)=2x-1$ は $0,1$ で $\mp1\ne0$。標数によらない)が、$f$ は $A$ に根をもたない。もし $r\in A\subset\bar k(t)$ が $r^2-r=t$ をみたせば、$r$ は $\bar k[t]$ 上整であり、$\bar k[t]$ は整閉整域なので $r\in\bar k[t]$ となる。$\deg r\ge1$ なら $\deg(r^2-r)=2\deg r\ge2$、$r$ が定数なら $r^2-r$ も定数で、いずれも $t$ に等しくならない。よって $A$ は def-strictly-henselian の条件 2 をみたし条件 1 を破る。その狭義 Hensel 化は ex-strictly-henselian-algebraic-series の $\bar k\langle t\rangle$ である。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を局所環、$k^{\mathrm{s}}$ を $k$ の分離閉包とする。
証明は Stacks の「Henselization and strict henselization」および「Henselization and strict henselization of local rings」の節、Mil80 第 I 章 §4、Ray70 に譲る。証明の筋は次のとおりである。1 の帰納極限が局所環であることは、各 $B_{\mathfrak{q}}$ が局所環で遷移射が局所準同型であることから従う。Hensel 性は、モニック多項式 $f$ と単根 $\alpha_0$ が与えられたとき、$f$ をある $B$ 上の多項式と見て $B'=B[x]_{f'}/(f)$(標準エタール代数)に移れば $x$ が根になることによる。剰余体が $k^{\mathrm{s}}$ に等しいことは、$k^{\mathrm{s}}$ の元 $\beta$ の $k$ 上の最小多項式 $\bar g$(分離的)を $B$ 上のモニック多項式 $g$ に持ち上げ、$B[x]_{g'}/(g)$ に移れば $\beta$ が剰余体に入ることによる。普遍性は、狭義 Hensel 局所環 $C$ への局所準同型 $B_{\mathfrak{q}}\to C$ が rem-strictly-henselian-henselian-facts の 3 を $C\otimes_AB$ に適用して一意に得られることによる。4 は、$A$ が Hensel のとき $B\mapsto B\otimes_Ak$ が有限エタール $A$ 代数の圏と有限エタール $k$ 代数の圏の圏同値を与えること(Stacks の「Henselian local rings」の節、Mil80 第 I 章 §4)から従う。
$X$ をスキーム、$\bar x\colon\operatorname{Spec}\Omega\to X$ を点 $x\in X$ に値をもつ幾何的点($\Omega$ は分離閉体、$\kappa(x)\subset\Omega$)とする。$\bar x$ のエタール近傍とは、エタール射 $U\to X$ と $\bar x$ の持ち上げ $\bar u\colon\operatorname{Spec}\Omega\to U$ の組 $(U,\bar u)$ をいい、エタール近傍の全体はエタール近傍の射($\bar u$ と両立する $X$ 上の射)を逆向きにして有向系をなす(Mil80 第 II 章 §2、エタールコホモロジー)。
$X$ をスキーム、$\bar x$ を $x\in X$ に値をもつ幾何的点、$\kappa(x)^{\mathrm{s}}$ を $\Omega$ の中での $\kappa(x)$ の分離閉包とする。構造層のエタール位相での茎
$$
\mathcal{O}_{X,\bar x}:=\varinjlim_{(U,\bar u)}\Gamma(U,\mathcal{O}_U)
$$
は狭義 Hensel 局所環であり、$\kappa(x)\to\kappa(x)^{\mathrm{s}}$ に関する $\mathcal{O}_{X,x}$ の狭義 Hensel 化 $\mathcal{O}_{X,x}^{\mathrm{sh}}$ と標準的に同型である。さらに、$X$ 上の任意のエタール層 $\mathcal{F}$ について、その茎は
$$
\mathcal{F}_{\bar x}=\varinjlim_{(U,\bar u)}\mathcal{F}(U)=\Gamma(\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,\bar x}^{\mathrm{sh}},\mathcal{F})
$$
で与えられる(右辺は $\mathcal{F}$ を $\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,\bar x}^{\mathrm{sh}}\to X$ で引き戻した層の大域切断)。
証明は Mil80 第 I 章 §4 と第 II 章 §2–§3、Stacks の「Stalks of the structure sheaf」の節、SGA4 Exposé VIII に譲る。筋は次のとおりである。エタール近傍 $(U,\bar u)$ をアフィンなもの(アフィンスキーム)に限ってよく、$U=\operatorname{Spec}B$ で $\bar u$ は $\mathfrak{m}$ の上の素イデアル $\mathfrak{q}$ と埋め込み $\kappa(\mathfrak{q})\to\Omega$ を与える。$\kappa(\mathfrak{q})$ は $\kappa(x)$ の有限分離拡大なので像は $\kappa(x)^{\mathrm{s}}$ に入り、$(U,\bar u)$ は thm-strictly-henselian-existence の 1 の組 $(B,\mathfrak{q})$ と対応する。$U$ を $\mathfrak{q}$ の周りの主開集合で置き換えて帰納極限をとると $\varinjlim\Gamma(U,\mathcal{O}_U)=\varinjlim B_{\mathfrak{q}}=\mathcal{O}_{X,x}^{\mathrm{sh}}$ となる。層の茎に関する等式は、$\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,\bar x}^{\mathrm{sh}}$ がアフィンな遷移射をもつ準コンパクト・準分離スキームの射影極限 $\varprojlim U$ であり、そのようなスキームの上でエタール層の切断(およびコホモロジー)が帰納極限と交換することによる(Stacks Étale Cohomology の「Colimits」の節、Mil80 第 III 章 §1)。
この定理により、$\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,\bar x}^{\mathrm{sh}}$ はエタール位相における「$\bar x$ の無限小近傍」であり、Zariski 位相における $\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,x}$ の役を果たす。エタール層の射が同型であることは、すべての幾何的点における茎、すなわちすべての狭義 Hensel 化の上で確かめればよい。高次順像 $R^qf_*\mathcal{F}$ の幾何的点 $\bar y$ での茎が $H^q(X\times_Y\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{Y,\bar y}^{\mathrm{sh}},\mathcal{F})$ に等しいこと($f$ が準コンパクト準分離のとき、Mil80 第 III 章 §1)も同じ機構による。
まず Hensel 局所環上の有限エタール代数の構造を調べ、次に狭義 Hensel 局所環ではそれらがすべて自明になることを示す。$A$ 代数 $B$ が有限エタールであるとは、$B$ が $A$ 加群として有限生成(有限生成加群)で、かつ $\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ がエタール射(平坦射かつ不分岐射、局所有限表示)であることをいう(エタール射)。使う事実は次の 3 つである。(a) 体 $k$ 上の有限エタール代数は有限個の有限分離拡大体の直積である(エタール射、Mil80 第 I 章 §3)。(b) 局所環 $A$ 上の有限生成・有限表示・平坦加群は有限階数の自由加群である(Mat86 Theorem 7.10)。(c) エタール代数の局所化および直積因子はエタール代数である。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を Hensel 局所環、$B$ を有限エタール $A$ 代数とする。このとき $B$ は有限個の局所環の直積 $B\cong B_1\times\dots\times B_r$ に分解し、各 $B_i$ は有限エタール $A$ 代数で、$B_i\otimes_Ak=B_i/\mathfrak{m}B_i$ は $k$ の有限分離拡大体 $k_i$ であり、$B_i$ は $A$ 加群として階数 $[k_i:k]$ の自由加群である。
$B$ は有限 $A$ 代数なので、rem-strictly-henselian-henselian-facts の 2 により局所環の直積 $B\cong B_1\times\dots\times B_r$ に分解する。$B_i=Be_i$($e_i$ は対応する冪等元)は $B$ の局所化 $B[e_i^{-1}]$ に等しく、局所化はエタールなので $B_i$ は $B$ 上、したがって $A$ 上エタールである。$B_i$ は $B$ の直和因子なので $A$ 加群として有限生成であり、有限エタール $A$ 代数である。
$B_i\otimes_Ak$ は $k$ 上の有限エタール代数なので、(a) により有限分離拡大体の直積である。ところが $B_i$ は局所環で、$B_i$ の極大イデアルはすべて $\mathfrak{m}$ の上にある($B_i$ は $A$ 上整だから)ので、$B_i/\mathfrak{m}B_i$ の極大イデアルは $B_i$ の極大イデアルと 1 対 1 に対応し、ただ 1 つである。よって $B_i\otimes_Ak$ はただ 1 つの有限分離拡大体 $k_i$ である。
最後に $B_i$ はエタールゆえ平坦かつ有限表示で、有限生成でもあるから、(b) により階数 $n$ の自由 $A$ 加群であり、$n=\dim_k(B_i\otimes_Ak)=[k_i:k]$ である。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を局所環とする。
$B\otimes_AA^{\mathrm{sh}}$ は底変換により有限エタール $A^{\mathrm{sh}}$ 代数で、階数は $\dim_{k^{\mathrm{s}}}(B\otimes_Ak^{\mathrm{s}})=\dim_k(B\otimes_Ak)=n$ である($B$ が有限エタールゆえ有限階数の自由加群になることは prop-strictly-henselian-decomposition の証明の (b) と同じ)。thm-strictly-henselian-trivial-covers の 1 を $A^{\mathrm{sh}}$ に適用すればよい。後半は、連結な有限エタール被覆が $\operatorname{Spec}A$ 自身に限ることの言い換えである。
rem-strictly-henselian-henselian-facts の 3 は、狭義 Hensel 局所環では次の形になる。任意のエタール $A$ 代数 $B$(有限とは限らない)と $\mathfrak{m}$ の上にある任意の素イデアル $\mathfrak{q}$ に対して、$A$ 代数の準同型 $s\colon B\to A$ で $s^{-1}(\mathfrak{m})=\mathfrak{q}$ となるものが存在する。実際 $\kappa(\mathfrak{q})$ は $k$ の有限分離拡大(エタール射)なので $k$ に等しく、3 が適用できる。幾何的に言えば、狭義 Hensel 局所環 $A$ の閉点の上のエタール射 $U\to\operatorname{Spec}A$ の閉ファイバーのすべての点は $\operatorname{Spec}A$ の切断に延びる。これは thm-strictly-henselian-stalk で「エタール近傍の極限」が $\operatorname{Spec}A^{\mathrm{sh}}$ で止まる理由でもある。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を Hensel 局所環とする。
1 は Grothendieck Gro68 I (6.1)・(6.2)(Azumaya の定理のスキーム版)、Mil80 第 IV 章 §1 の定理であり、証明は Hensel の補題の幾何的な形(Hensel 局所環上の滑らかなスキームの閉点が切断に延びること)と忠実平坦降下を使う。証明はこれらの文献と Brauer群・Azumaya代数 の記事に譲る。3 は SGA4 Exposé VIII、Mil80 第 III 章 §1 にあり、thm-strictly-henselian-stalk の茎の記述から、$\operatorname{Spec}A$ 上の層の大域切断関手が茎をとる関手に等しく完全であることによる。
2 は 1 から次のように従う。$k$ を分離閉体とすると $\operatorname{Br}(k)=0$ である。実際、$k$ 上の中心単純環 $D$ は $k$ の有限分離拡大体 $L$ で分裂する(中心単純環、Ser79 第 X 章:中心単純環は有限 Galois 分裂体をもつ)が、$k$ の有限分離拡大は $k$ 自身に限るので $D\otimes_kk\cong M_r(k)$、すなわち $D\cong M_r(k)$ である。よって $\operatorname{Br}(A)\cong\operatorname{Br}(k)=0$。後半は、$A$ 上の Azumaya 代数 $\mathcal{A}$ に対して $\mathcal{A}\otimes_AA^{\mathrm{sh}}$ が狭義 Hensel 局所環 $A^{\mathrm{sh}}$ 上の Azumaya 代数だからである。
3 は、$\operatorname{Spec}A^{\mathrm{sh}}$ がエタール位相における「可縮な近傍」であることを表す。Zariski 位相で局所環のスペクトルの上の準連接層のコホモロジーが消えるのと同じ役を、エタール位相ではあらゆるアーベル層について狭義 Hensel 局所環が果たす。1 の帰結として、$\operatorname{Br}(\mathbb{Z}_p)\cong\operatorname{Br}(\mathbb{F}_p)=0$(Wedderburnの小定理)、$\operatorname{Br}(\mathbb{R}\{t\})\cong\operatorname{Br}(\mathbb{R})\cong\mathbb{Z}/2$ である。Hensel でない局所環では 1 は成り立たない($\operatorname{Br}(\mathbb{Z}_{(p)})\ne0=\operatorname{Br}(\mathbb{F}_p)$、Brauer群)。
thm-strictly-henselian-existence の 3 により、正則・正規・被約などの性質は狭義 Hensel 化で保たれる。逆は成り立たない性質もある:ex-strictly-henselian-node の $A$ は整域だが $A^{\mathrm{sh}}$ は整域でない。整域性・一意分解整域であることは狭義 Hensel 化で保たれるとは限らず、たとえば「すべての点の狭義 Hensel 化が一意分解整域である」という条件は正則スキームではみたされる(正則局所環は一意分解整域で、その狭義 Hensel 化も正則)が、正規スキームでは一般にみたされず、これが Brauer群 とコホモロジー的 Brauer 群の比較(コホモロジー的Brauer群)や Brauer群の純性 で仮定として現れる。エタールコホモロジーのあらゆる局所的な計算(高次順像の茎、固有底変換定理、局所コホモロジーの茎)は $\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,\bar x}^{\mathrm{sh}}$ の上の計算に帰着し、離散付値環の狭義 Hensel 化の分数体 $K$(剰余体 $k$ が分離閉な Hensel 離散付値体)は、$k$ の標数と異なる素数 $\ell$ について $\operatorname{cd}_\ell(K)\le1$ をみたす($k$ が分離閉なので $K$ は不分岐拡大をもたず、$K$ の Galois 群は野性分岐群(pro-$p$ 群、$p=\operatorname{char}k$)を法として $\prod_{q\ne p}\mathbb{Z}_q$ になるため)。$k$ が代数閉なら $\ell=p$ についても $\operatorname{cd}_p(K)\le1$ が成り立ち($\operatorname{char}K=p$ なら標数 $p$ の体一般の性質、$\operatorname{char}K=0$ なら $K$ が $C_1$ 体であるという Lang の定理、Ser79 第 X 章)、すべての素数について $\operatorname{cd}(K)\le1$ である。これがGaloisコホモロジーの次元が $1$ 以下の体(コホモロジー次元)の典型例である。$\operatorname{char}K=0$、$\operatorname{char}k=p>0$ で $k$ が分離閉だが完全でないときは、$\operatorname{cd}_p(K)\le1$ は成り立たない(Bloch–Kato による Hensel 離散付値体の $H^2(K,\mathbb{Z}/p(2))$ の計算で、その次数付き商に $\Omega^1_k\ne0$ が現れる)。
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