変数分離形の微分方程式(separable differential equation)とは、$y'=f(x)g(y)$ の形の微分方程式である。$f$、$g$ が連続で、$g$ が開区間 $J$ 上で $0$ にならないとき、値が $J$ に入る $y$ が解であることは、$\frac1g$ の原始関数 $G$ と $f$ の原始関数 $F$ について $G(y)=F(x)+C$ が成り立つことと同値で、値が $J$ に入る解は初期条件でただ 1 つに決まる。これが「$\frac{dy}{g(y)}=f(x)\,dx$ と分けて積分する」根拠である。$g(c)=0$ なら定数関数 $y=c$ も解で、割り算で落ちる。解は有限の $x$ で発散することがあり($y'=y^2$)、$g$ が $0$ になる点では解が 1 つに決まらないことがある($y'=3y^{2/3}$)。
前提知識: 置換積分の使い方, 対数微分法, 微分方程式としての指数関数・三角関数
数学 III では、$y'=xy$ のような微分方程式を「$y$ を含む部分を左辺に、$x$ を含む部分を右辺に分けて、両辺を積分する」方法で解く。この方法を変数分離といい、この方法で解ける形の方程式を変数分離形という。まず、教科書どおりに 2 つの方程式を解いてみる。
$y\ne0$ として、両辺を $y$ で割ると
$$
\frac{y'}{y}=x
$$
である。左辺は 対数微分法 で見た $\log\lvert y\rvert$ の導関数なので、両辺を $x$ で積分すると
$$
\log\lvert y\rvert=\frac{x^2}2+C\qquad(C\text{ は定数})
$$
となる。よって $\lvert y\rvert=e^Ce^{x^2/2}$、$y=\pm e^Ce^{x^2/2}$ である。$\pm e^C$ をまとめて $A$ と書くと
$$
y=Ae^{x^2/2}
$$
となる。$A=0$ の $y=0$ も、$y'=0=x\cdot0$ なので解である(最初に $y$ で割ったので、この解は計算の途中では出てこなかった)。
確かめ:$y=Ae^{x^2/2}$ なら、連鎖律により $y'=Ae^{x^2/2}\cdot x=xy$ である。$y(0)=2$ となるのは $A=2$ のときで、$y=2e^{x^2/2}$、$x=1$ では $y=2e^{1/2}=3.29744\ldots$ である。
両辺に $y$ を掛けて $yy'=-x$ とし、両辺を $x$ で積分する。左辺 $yy'$ は $\dfrac{y^2}2$ の導関数(連鎖律)なので
$$
\frac{y^2}2=-\frac{x^2}2+C,\qquad x^2+y^2=2C
$$
となる。解の曲線は原点を中心とする円の一部である。$y(0)=2$ なら $2C=4$ で、$y>0$ の側をとって
$$
y=\sqrt{4-x^2}\qquad(-2< x<2)
$$
である。確かめ:$y'=\dfrac{-2x}{2\sqrt{4-x^2}}=-\dfrac{x}{y}$。$x=\pm2$ では $y=0$ となり、方程式の右辺 $-\dfrac xy$ が定義されないので、解は $-2< x<2$ でしか考えられない。
2 つの例から、次の問いが出てくる。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| $\dfrac{dy}{g(y)}=f(x)\,dx$ として両辺を積分 | 原始関数 $G$、$F$ で $G(y)=F(x)+C$ と同値 | thm-sep-main |
| 「$dy$ と $dx$ を分ける」 | 置換積分 $u=y(x)$ の書き方 | rem-sep-substitution |
| 割り算の前に「$y=0$ も解」 | $g(c)=0$ なら定数関数 $y=c$ は解 | prop-sep-constant |
| 積分定数を初期条件で決める | $g(y_0)\ne0$ なら、$g\ne0$ の範囲で解はただ 1 つ | thm-sep-main |
| 解の式の定義域 | 解は有限の $x$ で発散することがある | ex-sep-blowup |
| 「$C$ を決めれば解は 1 つ」の思い込み | $g$ が $0$ になる点では一意性が崩れることがある | ex-sep-nonunique |
$I$、$J$ を区間とし、$f$ を $I$ 上の連続関数、$g$ を $J$ 上の連続関数とする。
$$
y'=f(x)\,g(y)
$$
の形の微分方程式を変数分離形(separable)という。区間 $I_0\subset I$ 上で微分可能で、値が $J$ に入る関数 $y=y(x)$ が、$I_0$ のすべての $x$ で $y'(x)=f(x)\,g(y(x))$ を満たすとき、$y$ をこの方程式の $I_0$ 上の解という。$x_0\in I_0$、$y_0\in J$ について、条件 $y(x_0)=y_0$(初期条件)を満たす解を求める問題を初期値問題という。
右辺が「$x$ だけの関数」と「$y$ だけの関数」の積になっていることが大切である。
$c\in J$ が $g(c)=0$ を満たすなら、定数関数 $y=c$ は $I$ 上の解である。
定数関数 $y=c$ の導関数は $0$ である。一方、右辺は $f(x)g(c)=f(x)\cdot0=0$ である。よって $I$ のすべての $x$ で $y'=f(x)g(y)$ が成り立つ。$\square$
このような解を定数解(平衡解)という。$y'=xy$ では $g(y)=y$ が $0$ になる $y=0$ が定数解、$y'=y^2$ でも $y=0$ が定数解である。$y'=y(1-y)$ なら $g(y)=y(1-y)$ なので、$y=0$ と $y=1$ の 2 つが定数解である。変数分離の計算では $g(y)$ で割るので、定数解は計算の途中では出てこない。割り算の前に、$g(c)=0$ となる $c$ を探して、定数解を書き出しておく。
教科書の計算で「両辺を積分する」とは、原始関数をとることである。$f$ は $I$ 上で連続なので、$I$ 上の原始関数 $F$($F'=f$)をもつ。$g$ が $J$ 上で $0$ にならなければ $\dfrac1g$ も $J$ 上で連続なので、$J$ 上の原始関数 $G$($G'=\dfrac1g$)をもつ(連続関数が原始関数をもつことは 微分積分学の基本定理 で示した)。たとえば $I$ の 1 点 $a$ をとって $F(x)=\displaystyle\int_a^xf(t)\,dt$ とおけばよい。この形の関数の扱いは 定積分で表された関数 で見た。
def-sep-separable の $f$、$g$ について、$I$、$J$ は開区間で、$J$ のすべての $y$ で $g(y)\ne0$ とする。$F$ を $f$ の $I$ 上の原始関数、$G$ を $\dfrac1g$ の $J$ 上の原始関数とする。
方針:$G(y(x))-F(x)$ を微分すると $0$ になることを、連鎖律で確かめる(1)。$\dfrac1g$ の符号が一定であることから $G$ の単調性を出し(2)、初期条件で定数 $C$ を決める(3)。
段 1(1 の「解なら等式」)。$y$ を $I_0$ 上の解とし、$H(x)=G(y(x))-F(x)$ とおく。$G$ は $J$ 上で微分可能で、$y(x)\in J$ なので、連鎖律(高校数学) により
$$
H'(x)=G'(y(x))\,y'(x)-F'(x)=\frac{1}{g(y(x))}\cdot f(x)\,g(y(x))-f(x)=0
$$
である(2 つ目の等号で $G'=\dfrac1g$、$y'=f(x)g(y)$、$F'=f$ を使った)。区間 $I_0$ 上で導関数が $0$ の関数は定数なので(平均値の定理による差の評価)、$H(x)=C$ となる定数 $C$ がある。これが $G(y(x))=F(x)+C$ である。
段 2(1 の「等式なら解」)。逆に、$I_0$ 上で $G(y(x))=F(x)+C$ が成り立つとする。両辺を $x$ で微分すると、連鎖律により
$$
\frac{1}{g(y(x))}\,y'(x)=f(x)
$$
である。両辺に $g(y(x))$ を掛けると $y'(x)=f(x)\,g(y(x))$ となり、$y$ は解である。
段 3(2:$G$ の単調性)。$g$ は区間 $J$ 上で連続で $0$ にならないので、$J$ 全体で正か、$J$ 全体で負である。
もし $J$ の 2 点 $p< q$ で $g(p)>0$、$g(q)<0$(またはその逆)なら、連続関数 $g$ は $p$ と $q$ の間で $0$ になる(中間値の定理。関数の連続性と中間値の定理(高校数学))。これは $J$ 上で $g\ne0$ という仮定に反する。
定理の 1 が、教科書の計算そのものである。$G(y)=\displaystyle\int\frac{dy}{g(y)}$、$F(x)=\displaystyle\int f(x)\,dx$ と書けば、1 の等式は
$$
\int\frac{dy}{g(y)}=\int f(x)\,dx+C
$$
となる。定理は、この計算が「$g$ が $0$ にならない範囲では、解をもれなく、余分なく与える」ことを保証している。
「$\dfrac{dy}{dx}=f(x)g(y)$ を $\dfrac{dy}{g(y)}=f(x)\,dx$ と分ける」という書き方は、次の計算を短く書いたものである。解 $y=y(x)$ について、$y'(x)=f(x)g(y(x))$ の両辺を $g(y(x))$ で割り、$x$ で積分すると
$$
\int\frac{y'(x)}{g(y(x))}\,dx=\int f(x)\,dx
$$
である。左辺は、置換 $u=y(x)$($du=y'(x)\,dx$)により $\displaystyle\int\frac{du}{g(u)}$ になる(置換積分の使い方)。「$dy=y'\,dx$」は、置換積分の公式の書き方である。thm-sep-main の証明の段 1 は、この置換積分を、連鎖律で微分して確かめる形に書き直したものになっている。
$y'=f(x)g(y)$ を解くには、次のようにする(StH16 §4.3 の Problem-Solving Strategy: Separation of Variables の手順に、最後の確かめを加えたもの)。
thm-sep-main の 3 の一意性は「値が $J$ に入る解どうし」の話で、$J$ は $g\ne0$ となる区間である。解が $g$ の $0$ に到達して $J$ から出ていく場合は、定理は何も言わない。そこで何が起こりうるかは ex-sep-nonunique で見る。
$f(x)=x$($I=\mathbb{R}$)、$g(y)=y$ である。
手順 1(定数解)。$g(c)=c=0$ なので、定数解は $y=0$ である。
手順 2($g\ne0$ の区間)。$g\ne0$ となる開区間は $J_+=(0,\infty)$ と $J_-=(-\infty,0)$ の 2 つである。$F(x)=\dfrac{x^2}2$ とする。$J_+$ では $G(y)=\log y$($G'=\dfrac1y$)なので、thm-sep-main の 1 により、値が正の解は $\log y=\dfrac{x^2}2+C$、つまり $y=e^Ce^{x^2/2}$ である。$J_-$ では $G(y)=\log(-y)$($G'=\dfrac{-1}{-y}=\dfrac1y$)なので、値が負の解は $y=-e^Ce^{x^2/2}$ である。どちらも $x$ がすべての実数で定義される。
手順 3(まとめる)。$y=0$ も含めて、$y=Ae^{x^2/2}$($A$ は任意の実数)と書ける。
これで解が全部かどうかを確かめる。値が正と負の両方をとる解は、途中で $0$ を通る(中間値の定理)。そこで「ある点で $0$ になる解は恒等的に $0$ である」ことが分かれば、どの解も「つねに正」「つねに負」「恒等的に $0$」のどれかになり、上の式に含まれる。これは 微分方程式としての指数関数・三角関数 で示した Lipschitz 条件による一意性(右辺 $F(x,y)$ が $\lvert F(x,y)-F(x,z)\rvert\le L\lvert y-z\rvert$ を満たせば、初期値が同じ解は一致する)から従う。実際、区間 $[-a,a]$ の上では $\lvert xy-xz\rvert=\lvert x\rvert\,\lvert y-z\rvert\le a\lvert y-z\rvert$ なので $L=a$ ととれ、$x_1$ で $0$ になる解は、定数解 $0$ と、解の定義域と $[-a,a]$ の共通部分($x_1$ を含む区間)の上で一致する。$a$ はいくらでも大きくとれるので、恒等的に $0$ である。
ex-sep-start-xy の答え $y=Ae^{x^2/2}$ は、これで「すべての解」だと確かめられた。
y′ = xy の方向の場と解曲線 y = A e^(x²/2)。定数解 y = 0 を境に、上の解はつねに正、下の解はつねに負で、y(0) = 2 の解が 1 本だけ通ることを見る図
図 1 の短い線分は、各点 $(x,y)$ での傾き $xy$ を描いたもので、方向の場という。解曲線は、どの点でもその点の線分に接するように進む。解曲線どうしは交わらず、定数解 $y=0$ を横切る解もない。
右辺は $-x\cdot\dfrac1y$ なので、$f(x)=-x$、$g(y)=\dfrac1y$ である。$g$ は $y=0$ で定義されないので、$J$ は $(0,\infty)$ か $(-\infty,0)$ にとる。どちらでも $g\ne0$ なので定数解はない。$F(x)=-\dfrac{x^2}2$、$G(y)=\displaystyle\int y\,dy=\frac{y^2}2$ として、thm-sep-main の 1 から
$$
\frac{y^2}2=-\frac{x^2}2+C,\qquad x^2+y^2=2C
$$
である。$y(0)=2$ なら $J=(0,\infty)$、$C=2$ で、$y=\sqrt{4-x^2}$($-2< x<2$)が、値が正の解としてただ 1 つに決まる(thm-sep-main の 3)。$G(y)=\dfrac{y^2}2$ は $J=(0,\infty)$ で狭い意味で増加するので、$y^2=4-x^2$ から $y$ が 1 つに決まる。$y(0)=-2$ なら $J=(-\infty,0)$ で、$y=-\sqrt{4-x^2}$ である。
y′ = −x/y の方向の場と解曲線。解曲線は原点を中心とする円の上半分か下半分で、x 軸上の端点では方程式が定義されないことを見る図
図 2 のとおり、解は円の上半分か下半分で、$x$ 軸に着いたところで終わる。円 $x^2+y^2=4$ を 陰関数の微分 で微分すると $2x+2yy'=0$、つまり $y'=-\dfrac xy$ になる。変数分離はこの計算を逆にたどったものである。同じように $y'=\dfrac xy$ を解くと $y^2-x^2=2C$ となり、解曲線は双曲線の一部になる。
室温 $20$ 度の部屋に置いた飲み物の温度 $T$(度)は、時刻 $t$(分)について
$$
T'=-k(T-20)\qquad(k>0\text{ は定数})
$$
に従うとする(温度差に比例して冷める、という仮定)。$T(0)=90$、$T(10)=60$ のとき、$k$ と、$T=30$ になる時刻を求める。
$f(t)=-k$、$g(T)=T-20$ で、定数解は $T=20$ である。$T>20$ の範囲では $G(T)=\log(T-20)$ なので
$$
\log(T-20)=-kt+C,\qquad T=20+e^Ce^{-kt}
$$
である。$T(0)=90$ から $e^C=70$、よって $T=20+70e^{-kt}$ である。$T(10)=60$ から $70e^{-10k}=40$、$e^{-10k}=\dfrac47$、$k=\dfrac1{10}\log\dfrac74=0.05596\ldots$ である。
$T=30$ となるのは $70e^{-kt}=10$、$e^{-kt}=\dfrac17$ のときで、$t=\dfrac{\log7}{k}=\dfrac{10\log7}{\log\frac74}=34.77\ldots$(分)である。$e^{-kt}=\left(\dfrac47\right)^{t/10}$ なので、$10$ 分ごとに温度差が $\dfrac47$ 倍になる。$t=20$ では $T=20+70\cdot\left(\dfrac47\right)^2=42.85\ldots$ である。
冷却の法則は、温度差 $T-20$ の相対変化率が一定 $-k$ という仮定である。相対変化率が一定の量は、指数モデルとロジスティックモデル の指数モデルでも中心になる。
| 外す条件・見落とし | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 割る前に $g(c)=0$ の $c$ を調べる | $y'=y^2$ の $y=0$ | 「解はすべて $y=\dfrac1{C-x}$ の形」 |
| 解が延びる範囲を確かめる | $y'=y^2$、$y(0)=1$ | 「解は $x$ のすべての実数で定義される」 |
| $g$ が $0$ になる点の近くで $g$ がなめらか | $y'=3y^{2/3}$、$y(0)=0$ | 「初期値問題の解はただ 1 つ」 |
$y'=y^2$ で、手順 1 を飛ばして $y^2$ で割ると、$\dfrac{y'}{y^2}=1$ から $-\dfrac1y=x+C$、つまり
$$
y=-\frac1{x+C}=\frac1{C'-x}\qquad(C'=-C)
$$
を得る。しかし定数解 $y=0$ は、どの $C'$ でもこの形にならない($\dfrac1{C'-x}$ は $0$ にならない)。初期条件 $y(0)=0$ の解を求めようとすると、$\dfrac1{C'}=0$ となる $C'$ がなく、「解がない」と誤ってしまう。正しい答えは定数解 $y=0$ である。
$y'=y^2$、$y(0)=1$ を解く。ex-sep-lost の式で $C'=1$ として、$y=\dfrac1{1-x}$ である。これは $x=1$ で定義されず、$0$ を含む区間で考えると、解は $x<1$ でしか定義されない。$x=0.9$、$0.99$、$0.999$ では $y=10$、$100$、$1000$ となり、$x\to1-0$ で $y\to+\infty$ である。
右辺 $f(x)g(y)=1\cdot y^2$ は、すべての $(x,y)$ で定義された連続関数である。方程式の側にはどこにも「$x=1$ で困ること」はないのに、解の側が $x=1$ に着く前に無限大へ飛んでいく。一般に $y(0)=a>0$ なら $y=\dfrac{a}{1-ax}$ で、$x=\dfrac1a$ で発散する。初期値が大きいほど早く発散する。
$y'=e^x\cdot e^y$、$y(0)=0$ とする。$g(y)=e^y$ は $0$ にならないので定数解はなく、$J=\mathbb{R}$、$G(y)=\displaystyle\int e^{-y}\,dy=-e^{-y}$、$F(x)=e^x$ である。$-e^{-y}=e^x+C$ で、$y(0)=0$ から $-1=1+C$、$C=-2$。よって $e^{-y}=2-e^x$、$y=-\log(2-e^x)$ である。これは $2-e^x>0$、つまり $x<\log2=0.693\ldots$ でしか定義されず、$x\to\log2-0$ で $y\to+\infty$ となる。確かめ:$y'=\dfrac{e^x}{2-e^x}$、$e^{x+y}=e^x\cdot\dfrac1{2-e^x}$ で一致する。
y′ = y² の方向の場と解 y = a/(1 − a x)。y(0) = 1/2, 1, 2 の解がそれぞれ x = 2, 1, 1/2 で発散し、定数解 y = 0 とは交わらないことを見る図
図 3 では、$y(0)=\dfrac12,1,2$ の解が、それぞれ $x=2,1,\dfrac12$ の縦の点線に沿って発散している。この例は 微分方程式としての指数関数・三角関数 でも、「解は実数全体に延びる」という主張の反例として挙がっている。
$y^{2/3}$ を、すべての実数 $y$ について $y^{2/3}=\left(\sqrt[3]y\right)^2$(実数の 3 乗根の 2 乗、$0$ 以上)と定める。初期値問題
$$
y'=3y^{2/3},\qquad y(0)=0
$$
を考える。$g(y)=3y^{2/3}$ は $\mathbb{R}$ 上の連続関数で、$g(0)=0$ である。
解 1:定数解 $y=0$(prop-sep-constant)。
解 2:$y=x^3$。$y'=3x^2$ で、$3y^{2/3}=3\left(\sqrt[3]{x^3}\right)^2=3x^2$ なので、$x=0$ も含めてすべての $x$ で解である。$y(0)=0$ も満たす。
解 3:$c>0$ として
$$
y_c(x)=\begin{cases}0&(x\le c)\\(x-c)^3&(x>c)\end{cases}
$$
とする。$x< c$ では $y_c=0$ で両辺 $0$、$x>c$ では解 2 と同じ計算で両辺 $3(x-c)^2$ である。$x=c$ では、右からの平均変化率 $\dfrac{h^3}{h}=h^2\to0$、左からは $0$ なので $y_c'(c)=0=3y_c(c)^{2/3}$ である。$y_c(0)=0$ なので、初期条件も満たす。
したがって、この初期値問題には解が無数にある(図 4)。「$0$ にしばらくとどまり、好きな時刻 $c$ に動き出す」解がすべて許される。
変数分離の計算と比べる。$y>0$ では $G(y)=\displaystyle\int\frac{dy}{3y^{2/3}}=\sqrt[3]y$($(\sqrt[3]y)'=\dfrac1{3(\sqrt[3]y)^2}$)なので、$\sqrt[3]y=x+C$、$y=(x+C)^3$($x>-C$)である。この曲線は $x=-C$ で $y=0$ に着く。着いた点は $g=0$ となる点で、thm-sep-main の $J$ の外である。定理は $J$ の中にとどまる解についてだけ一意性を保証しているので、矛盾はない。$J$ の外に出た先で、解は $y=0$ に乗り移ることも、そのまま $(x+C)^3$ で進むこともできる。
y′ = 3y^(2/3) の方向の場と、原点を通るいくつもの解。y = x³、y = 0、および y = 0 にとどまってから離れる解(破線)を見る図
一意性が崩れた原因は、$g(y)=3y^{2/3}$ が $y=0$ の近くで急に立ち上がることにある。$\dfrac{g(y)-g(0)}{y-0}=\dfrac3{\sqrt[3]y}$ は、$y=10^{-3},10^{-6},10^{-9}$ で $30$、$300$、$3000$ となり、$y\to+0$ で限りなく大きくなる。$\lvert g(y)-g(z)\rvert\le L\lvert y-z\rvert$ となる定数 $L$ がない(Lipschitz 条件を満たさない)。Leb26 の Example 6.3.5(p. 251)も、同じ形の方程式 $y'=2\sqrt{\lvert y\rvert}$ で解が 1 つに決まらない例を挙げている。
ex-sep-nonunique では一意性が崩れ、ex-sep-xy-full では Lipschitz 条件で一意性を示した。大学では、次の定理が基本になる。
$y'=F(x,y)$ の右辺 $F$ が、点 $(x_0,y_0)$ を中心とする長方形の上で連続で、そこで $y$ について Lipschitz 条件(ある定数 $L$ があって $\lvert F(x,y)-F(x,z)\rvert\le L\lvert y-z\rvert$)を満たすとする。このとき、$x_0$ を含むある区間の上に、初期条件 $y(x_0)=y_0$ を満たす解がただ 1 つある。本記事では証明しない(Leb26 Theorem 6.3.2、p. 247。証明は「近似解を積分に代入してよりよい近似解を作る」Picard の逐次近似による)。
変数分離形 $y'=f(x)g(y)$ で、$g$ が微分可能で $g'$ が連続なら(多項式や $e^y$ など)、平均値の定理により $g$ は各点の近くで Lipschitz 条件を満たし、Picard–Lindelöf の定理が使える。すると、定数解 $y=c$ と、$c$ を通らない解は、交わることができない(交わる点を初期値とすると、解が 2 つあることになる)。$g(y_0)\ne0$ から出発した解は、$g$ の $0$ に有限の $x$ で着くことがなく、ずっと thm-sep-main の $J$ の中にとどまる。$y'=xy$ の解が $0$ を横切らない(図 1)のも、$y'=y^2$ の正の解が $0$ に着かない(図 3)のも、このためである。ex-sep-nonunique の $g(y)=3y^{2/3}$ は $y=0$ で微分可能でなく、この議論が使えない。
thm-sep-main の 1 は、関数 $H(x,y)=G(y)-F(x)$ の値が、解の上で一定であることを言っている。このような量を保存量という。
「解を求める」ことを「保存量を見つけて、その等高線を描く」ことに置き換える見方は、大学の力学や 常微分方程式 の理論で大切になる。
2 階の方程式 $x''=-\sin x$(振り子)は、$v=x'$ とおくと $\dfrac{dv}{dx}=\dfrac{v'}{x'}=\dfrac{-\sin x}{v}$ となり、$x$ と $v$ の変数分離形になる。$v\,dv=-\sin x\,dx$ から $\dfrac{v^2}2-\cos x=E$(一定)で、これはエネルギーの保存である。$(x,v)$ の平面(相平面)に $E$ の等高線を描くと、振り子の動きの全体(小さく揺れる、ぐるぐる回る、その境目)が一目で分かる。$x''=-x$(単振動)なら等高線は円 $\dfrac{v^2}2+\dfrac{x^2}2=E$ で、ex-sep-circle-full と同じ形になる。
$f=1$ の場合、つまり $y'=g(y)$ の形の方程式を自励系という。$y(x)$ が解なら、$x$ 方向に平行移動した $y(x-s)$ も解である($\dfrac{d}{dx}y(x-s)=y'(x-s)=g(y(x-s))$)。解が増えるか減るかは $g(y)$ の符号だけで決まり、定数解($g$ の $0$)の間を単調に動く。人口のモデル $y'=ry\left(1-\dfrac yK\right)$ はこの形で、指数モデルとロジスティックモデル で詳しく調べる。
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