三角不等式(triangle inequality)とは、距離 $d$ については $d(x,z)\le d(x,y)+d(y,z)$、ノルムについては $\|x+y\|\le\|x\|+\|y\|$、体の絶対値については $|x+y|\le|x|+|y|$ という不等式であり、「三角形の 1 辺は他の 2 辺の和を超えない」ことを表す。いずれの場面でも公理の 1 つとして課され、逆三角不等式 $|d(x,z)-d(y,z)|\le d(x,y)$ を通じて距離関数やノルムの連続性を導く。非負で斉次なベクトル空間上の関数については三角不等式は単位球の凸性と同値であり、$0<p<1$ の $(|x_1|^p+|x_2|^p)^{1/p}$ はこれを満たさない。$p$ 進絶対値は、より強い $|x+y|\le\max\{|x|,|y|\}$(強三角不等式)を満たす。
前提知識: 実数, 絶対値, 距離空間, ノルム, ベクトル空間
三角不等式は、「三角形の 1 辺の長さは他の 2 辺の長さの和を超えない」という事実を、長さや距離を測るさまざまな仕組みの公理として取り出したものである。距離空間の距離、ノルム空間のノルム、体の絶対値のそれぞれに同じ形の不等式があり、本記事はこの 3 つの場面を並べて扱う。記法は 距離空間・内積空間 の記事に合わせ、$F$ は実数体 $\mathbb{R}$ または複素数体 $\mathbb{C}$ を表す。
3 点 $x,y,z$ を三角形の頂点とみると、左辺は辺 $xz$ の長さ、右辺は $y$ を経由する折れ線の長さである。$y$ は任意なので、$x,z$ の役割を入れ替えた形や、$y$ を別の頂点にした形もすべて含まれる。
ノルムの三角不等式は、ベクトル $x$ と $y$ を継ぎ足した矢印 $x+y$ の長さが、$x$ と $y$ の長さの和以下であることを表す。
$K$ を体とする。写像 $|\cdot|\colon K\to\mathbb{R}$ が、任意の $x,y\in K$ について
強三角不等式を満たせば、$\max\{|x|,|y|\}\le|x|+|y|$ なので三角不等式も満たす。実数・複素数の通常の絶対値は三角不等式を満たすが強三角不等式は満たさない($|1+1|=2>1=\max\{|1|,|1|\}$)。素数 $p$ に対する有理数体 $\mathbb{Q}$ 上の $p$ 進絶対値 $|\cdot|_p$ は非アルキメデス的である(ex-triangle-inequality-p-adic)。
3 つの定義は次のようにつながっている。体 $K$ の絶対値からは $d(x,y):=|x-y|$ により距離が得られ、ノルムからは $d(x,y):=\|x-y\|$ により距離が得られる(prop-triangle-inequality-norm-metric)。どちらの場合も、距離の三角不等式は絶対値またはノルムの三角不等式を $x-y$ と $y-z$ に適用したものである。
$x$ から $z$ へ直接行く長さは、途中で $y$ に寄り道する長さより長くならない。三角不等式は「寄り道は得にならない」という性質を公理にしたものであり、これがあるおかげで、$x$ が $y$ に近く $y$ が $z$ に近ければ $x$ も $z$ に近い、という推論ができる。開球が開集合になること、収束する数列の極限が一意であること、収束列が Cauchy列 であることなど、距離空間の基本的な議論はほとんどこの形の推論である。
逆向きに読むと、2 点の距離の差は大きくならない:$z$ から見た $x$ と $y$ の遠さの違いは $x$ と $y$ の距離以下である(逆三角不等式、prop-triangle-inequality-reverse)。これは距離関数やノルムが連続であることの根拠になる。
任意の $z,w\in\mathbb{C}$ について $|z+w|\le|z|+|w|$ である(複素数 の記事の命題「絶対値の積と三角不等式」)。実数 $a,b$ に限れば、これは 不等式 の記事の例「絶対値の三角不等式」であり、等号は $ab\ge0$ のときに限る。
複素数の場合の等号条件は「$w=0$ であるか、実数 $c\ge0$ があって $z=cw$ となる」ことである。実際、複素数 の記事の証明では $|z+w|^2=|z|^2+2\operatorname{Re}(z\overline w)+|w|^2$ と $\operatorname{Re}(z\overline w)\le|z\overline w|=|z|\,|w|$ を使っているので、等号は $\operatorname{Re}(z\overline w)=|z\overline w|$、すなわち $t:=z\overline w$ が $0$ 以上の実数であるときに限る。$w\ne0$ なら $z=t w/|w|^2$ で $c:=t/|w|^2\ge0$ である。逆に $z=cw$($c\ge0$)なら $|z+w|=(c+1)|w|=|z|+|w|$ である。複素平面では、等号は $0,z,z+w$ が一直線上にあり $z,w$ が同じ向きを向くときに起こる。
$F^n$ 上の $\|x\|_2:=\sqrt{\sum_{i=1}^{n}|x_i|^2}$ は三角不等式 $\|x+y\|_2\le\|x\|_2+\|y\|_2$ を満たす。$F=\mathbb{R}$ の場合は 不等式 の記事の系「Euclidノルムの三角不等式」が Cauchy–Schwarzの不等式 から導いている。一般の内積空間のノルム $\|x\|=\sqrt{\langle x,x\rangle}$ についても三角不等式が成り立ち、等号は一方が他方の $0$ 以上の実数倍であるときに限る(内積空間 の記事の定理「三角不等式と平行四辺形の等式」)。$n=1$ ではこれは ex-triangle-inequality-complex の等号条件と一致する。
$F^n$ 上で
$$
\|x\|_1:=\sum_{i=1}^{n}|x_i|,\qquad \|x\|_\infty:=\max_{1\le i\le n}|x_i|
$$
とおくと、どちらも三角不等式を満たすノルムである($n\ge1$ とする)。
実際、各 $i$ で $|x_i+y_i|\le|x_i|+|y_i|$(ex-triangle-inequality-complex)であり、$i$ について和をとれば $\|x+y\|_1\le\|x\|_1+\|y\|_1$ を得る。また各 $i$ で $|x_i+y_i|\le|x_i|+|y_i|\le\|x\|_\infty+\|y\|_\infty$ なので、左辺の最大値をとれば $\|x+y\|_\infty\le\|x\|_\infty+\|y\|_\infty$ を得る。$\|x\|=0\Leftrightarrow x=0$ と $\|ax\|=|a|\,\|x\|$ は、各成分の絶対値の性質から直ちに従う。
これらのノルムでは、等号が平行でないベクトルでも起こる。$\mathbb{R}^2$ で $x=(1,0)$、$y=(0,1)$ とすると $\|x+y\|_1=2=\|x\|_1+\|y\|_1$ であり、$x=(1,0)$、$y=(1,1)$ とすると $\|x+y\|_\infty=2=\|x\|_\infty+\|y\|_\infty$ である。したがって ex-triangle-inequality-euclid の等号条件はノルム一般には成り立たない。等号が非負実数倍の場合に限るのは狭義凸なノルムの性質であり、内積から来るノルムはその一例にすぎない($1< p<\infty$ の $\|\cdot\|_p$ も狭義凸である。rem-triangle-inequality-equality)。
無向のグラフ $G$ の頂点 $u,v$ について、$u$ と $v$ を結ぶ道の長さの最小値 $d_G(u,v)$ を距離(グラフ)という(結ぶ道がなければ $\infty$)。$d_G$ は三角不等式 $d_G(u,w)\le d_G(u,v)+d_G(v,w)$ を満たす(距離(グラフ) の記事の命題「距離空間の公理」)。要点は、$u$ から $v$ への最短路と $v$ から $w$ への最短路を継ぎ足すと、長さ $d_G(u,v)+d_G(v,w)$ の歩道になり、歩道から繰り返しの部分を取り除くと長さがそれ以下の道が得られることである。連結グラフでは $d_G$ は値が有限の距離になり、頂点集合は距離空間になる。
$p$ を素数とし、$0$ でない有理数 $x=p^ea/b$($a,b\in\mathbb{Z}$、$p\nmid ab$)について $|x|_p:=p^{-e}$、$|0|_p:=0$ とおく。$|\cdot|_p$ は $\mathbb{Q}$ 上の絶対値で、強三角不等式 $|x+y|_p\le\max\{|x|_p,|y|_p\}$ を満たす(p進数 の記事の系「p進絶対値の強三角不等式」)。たとえば $p=5$ では $|25|_5=1/25$、$|10|_5=1/5$ で、$|25+10|_5=|35|_5=1/5=\max\{1/25,1/5\}$ である。$\mathbb{Q}$ を $d(x,y)=|x-y|_p$ について完備化したものが p進数 体 $\mathbb{Q}_p$ である。
$d$ を集合 $X$ 上の距離、$0<\alpha\le1$ とすると、$d^\alpha(x,y):=d(x,y)^\alpha$ も距離である。
非負性・分離性・対称性は明らかなので、三角不等式を示す。そのためには $a,b\ge0$ について $(a+b)^\alpha\le a^\alpha+b^\alpha$ を示せばよい。実際そうすれば、$u\mapsto u^\alpha$ が $[0,\infty)$ で単調増加であることから
$$
d(x,z)^\alpha\le\bigl(d(x,y)+d(y,z)\bigr)^\alpha\le d(x,y)^\alpha+d(y,z)^\alpha
$$
となる。$a+b=0$ なら両辺とも $0$ である。$a+b>0$ なら $t:=a/(a+b)\in[0,1]$ とおくと、$0\le t\le1$ と $\alpha\le1$ から $t^\alpha\ge t$、$(1-t)^\alpha\ge1-t$ なので $t^\alpha+(1-t)^\alpha\ge1$ であり、両辺に $(a+b)^\alpha$ を掛けると $a^\alpha+b^\alpha\ge(a+b)^\alpha$ を得る。
$\alpha>1$ では結論は一般には成り立たない(離散距離のように $\alpha>1$ でも $d^\alpha$ が距離になる場合はある)。$\mathbb{R}$ の通常の距離 $d(x,y)=|x-y|$ と $\alpha=2$ では、$d^2(0,2)=4>2=d^2(0,1)+d^2(1,2)$ である(距離空間 の記事の注意「反例:距離の二乗」)。この例は「距離の冪はいつも距離である」という含意を破り、破れているのは三角不等式だけである。
$0< p<1$ とし、$\mathbb{R}^2$ 上で $N_p(x):=\bigl(|x_1|^p+|x_2|^p\bigr)^{1/p}$ とおく。$N_p$ は $N_p(x)\ge0$、$N_p(x)=0\Leftrightarrow x=0$、$N_p(ax)=|a|N_p(x)$ を満たすが、三角不等式を満たさない。実際 $x=(1,0)$、$y=(0,1)$ とすると
$$
N_p(x+y)=2^{1/p}>2=N_p(x)+N_p(y)
$$
である($1/p>1$ なので $2^{1/p}>2$)。この例はノルムの公理のうち三角不等式だけを破り、含意「$p>0$ ならば $(\sum|x_i|^p)^{1/p}$ はノルムである」を破る。$p\ge1$ では三角不等式が成り立つ(Minkowskiの不等式、不等式 の記事の定理「Hölderの不等式とMinkowskiの不等式の言明」)。三角不等式が破れる理由は、単位球 $\{N_p\le1\}$ が凸でないことにある(prop-triangle-inequality-convex)。
1:三角不等式 $d(x,z)\le d(x,y)+d(y,z)$ から $d(x,z)-d(y,z)\le d(x,y)$ である。$x$ と $y$ を入れ替えると $d(y,z)-d(x,z)\le d(y,x)$ であり、対称性により右辺は $d(x,y)$ である。実数 $s$ について $s\le c$ かつ $-s\le c$ なら $|s|\le c$ なので、主張を得る。
2:$x=(x-y)+y$ に三角不等式を使うと $\|x\|\le\|x-y\|+\|y\|$、すなわち $\|x\|-\|y\|\le\|x-y\|$ である。$x$ と $y$ を入れ替えると $\|y\|-\|x\|\le\|y-x\|$ であり、$\|y-x\|=\|(-1)(x-y)\|=|-1|\,\|x-y\|=\|x-y\|$ なので、1 と同じく主張を得る。
3:絶対値の乗法性から $|1|=|1\cdot1|=|1|^2$ で、$|1|\ne0$ なので $|1|=1$ である。さらに $|-1|^2=|(-1)^2|=|1|=1$ で $|-1|\ge0$ なので $|-1|=1$、したがって $|y-x|=|-1|\,|x-y|=|x-y|$ である。あとは 2 と同じ計算である。$\square$
1:prop-triangle-inequality-reverse の 1 により $|d(x,z)-d(x',z)|\le d(x,x')$ なので、$\varepsilon>0$ に対し $\delta:=\varepsilon$ とすれば $d(x,x')<\delta$ から $|d(x,z)-d(x',z)|<\varepsilon$ が従う。後半は、同じ命題を 2 回使って
$$
|d(x,y)-d(x',y')|\le|d(x,y)-d(x',y)|+|d(x',y)-d(x',y')|\le d(x,x')+d(y,y')
$$
とすればよい(最初の不等号は実数の絶対値の三角不等式)。$d(x,x')<\varepsilon/2$ かつ $d(y,y')<\varepsilon/2$ となる点の組 $(x',y')$ 全体は $(x,y)$ の直積位相での近傍なので、$d$ は $(x,y)$ で連続である。
2:prop-triangle-inequality-reverse の 2 により $\bigl|\|x\|-\|x'\|\bigr|\le\|x-x'\|$ なので、1 と同じく $\delta:=\varepsilon$ でよい。$\square$
1:$n$ についての数学的帰納法による。$n=1$ では両辺が等しい。$n-1$ 個の辺について正しいとすると、三角不等式と帰納法の仮定により
$$
d(x_0,x_n)\le d(x_0,x_{n-1})+d(x_{n-1},x_n)\le\sum_{i=1}^{n-1}d(x_{i-1},x_i)+d(x_{n-1},x_n)
$$
であり、右辺は $\sum_{i=1}^{n}d(x_{i-1},x_i)$ である。
2:$d(x,y)=\|x-y\|$ は距離である(prop-triangle-inequality-norm-metric)。$x_0:=0$、$x_k:=v_1+\dots+v_k$ とおくと $d(x_{k-1},x_k)=\|v_k\|$、$d(x_0,x_n)=\|\sum v_i\|$ なので、1 から従う。
3:部分和 $S_N:=\sum_{i=1}^{N}v_i$ は和 $S$ に収束する。2 により $\|S_N\|\le\sum_{i=1}^{N}\|v_i\|\le\sum_{i=1}^{\infty}\|v_i\|$ であり、ノルムは連続なので(cor-triangle-inequality-continuity の 2)$\|S\|=\lim_{N\to\infty}\|S_N\|\le\sum_{i=1}^{\infty}\|v_i\|$ である(非狭義の不等式は極限で保たれる)。$\square$
3 の $\sum\|v_i\|$ が収束する級数を絶対収束する級数という。$V$ がBanach空間なら、絶対収束する級数は収束する($m>n$ について $\|S_m-S_n\|\le\sum_{i=n+1}^{m}\|v_i\|$ が 2 から従い、部分和が Cauchy列 になるため)ので、3 の前半の仮定は自動的に満たされる。
1:非負性と分離性はノルムの $\|x\|\ge0$ と $\|x\|=0\Leftrightarrow x=0$ から、対称性は $\|y-x\|=\|x-y\|$(prop-triangle-inequality-reverse の証明の 2 の計算)から従う。三角不等式は、ノルムの三角不等式を $x-z=(x-y)+(y-z)$ に使えばよい。平行移動不変性は $(x+w)-(y+w)=x-y$ から、斉次性は $\|ax-ay\|=|a|\,\|x-y\|$ から従う。
2:$\|x\|=d(x,0)\ge0$ であり、$\|x\|=0$ は $x=0$ と同値である。斉次性から $\|ax\|=d(ax,a\cdot0)=|a|\,d(x,0)=|a|\,\|x\|$ である。平行移動不変性($w=-y$)から $d(x,y)=d(x-y,0)=\|x-y\|$ である。三角不等式は、平行移動不変性と対称性と距離の三角不等式から
$$
\|x+y\|=d(x+y,0)\le d(x+y,y)+d(y,0)=d(x,0)+d(y,0)=\|x\|+\|y\|
$$
である($d(x+y,y)=d(x,0)$ は平行移動不変性で $w=-y$ としたもの)。
3:1 と同じ計算で、ノルムの代わりに絶対値の性質($|y-x|=|x-y|$ は prop-triangle-inequality-reverse の証明の 3)を使えばよい。$\square$
2 の仮定は外せない。離散距離は $\mathbb{R}$ 上で平行移動不変だが斉次でなく、ノルムから来ない(距離空間 の記事の節「似た構造との違い」)。
$V$ を $F$ 上のベクトル空間とし、$N\colon V\to\mathbb{R}$ が $N(x)\ge0$ と $N(ax)=|a|N(x)$($x\in V$、$a\in F$)を満たすとする。$B:=\{x\in V\mid N(x)\le1\}$ とおく。$N$ が三角不等式を満たすことと、$B$ が凸集合である($x,y\in B$、$0\le t\le1$ ならば $tx+(1-t)y\in B$)ことは同値である。
三角不等式を仮定する。$x,y\in B$、$0\le t\le1$ なら、三角不等式と斉次性により
$$
N(tx+(1-t)y)\le N(tx)+N((1-t)y)=tN(x)+(1-t)N(y)\le t+(1-t)=1
$$
なので $tx+(1-t)y\in B$ である。
逆に $B$ が凸であるとし、$x,y\in V$ と $\varepsilon>0$ をとる。$s:=N(x)+\varepsilon>0$、$r:=N(y)+\varepsilon>0$ とおくと、$N(x/s)=N(x)/s\le1$、$N(y/r)\le1$ なので $x/s,\ y/r\in B$ である。$t:=s/(s+r)\in[0,1]$ とすると
$$
\frac{x+y}{s+r}=t\cdot\frac{x}{s}+(1-t)\cdot\frac{y}{r}\in B
$$
であり、斉次性から $N(x+y)\le s+r=N(x)+N(y)+2\varepsilon$ を得る。$\varepsilon>0$ は任意なので $N(x+y)\le N(x)+N(y)$ である。$\square$
ex-triangle-inequality-small-p の $N_p$($0< p<1$)では、$(1,0),(0,1)\in B$ だがその中点 $(1/2,1/2)$ は $N_p=2^{1/p-1}>1$ で $B$ に属さず、$B$ は凸でない。三角不等式は「単位球が凸である」という幾何的な条件と同じものである。
$|\cdot|$ を体 $K$ の非アルキメデス的な絶対値とする。
1:$|x|<|y|$ としてよい。強三角不等式から $|x+y|\le|y|$ である。一方 $y=(x+y)+(-x)$ と $|-x|=|x|$(prop-triangle-inequality-reverse の証明の 3)から $|y|\le\max\{|x+y|,|x|\}$ である。$|x+y|<|y|$ と仮定すると、右辺は $|y|$ 未満になり矛盾する。よって $|x+y|=|y|$ である。
2:$a:=x-y$、$b:=y-z$ とおくと $a+b=x-z$ である。$|a|\ne|b|$ なら 1 により $|a+b|=\max\{|a|,|b|\}$ で、最大値は 2 回現れる。$|a|=|b|$ なら $|a+b|\le\max\{|a|,|b|\}=|a|=|b|$ で、やはり最大値 $|a|=|b|$ が 2 回現れる。
3:$|0|=0$、$|1|=1$ である。$n\ge1$ で $|(n-1)\cdot1|\le1$ なら $|n\cdot1|\le\max\{|(n-1)\cdot1|,|1|\}\le1$ であり、帰納法で $n\ge0$ について成り立つ。負の $n$ は $|-1|=1$ による。$\square$
3 の逆も成り立つ。すなわち体の絶対値 $|\cdot|$ について、$\{|n\cdot1|\mid n\in\mathbb{Z}\}$ が有界であることと $|\cdot|$ が非アルキメデス的であることは同値である(Neu99 Chapter II §3)。通常の絶対値では $|n|=n$ が有界でなく、「十分多く足せばいくらでも大きくなる」というアルキメデスの性質が成り立つ。これが「非アルキメデス的」という名前の由来である。$\mathbb{Q}$ の自明でない絶対値は、通常の絶対値の $\alpha$ 乗($0<\alpha\le1$)と、素数 $p$ ごとの $p$ 進絶対値の正の実数乗で尽きる(Ostrowskiの定理、Neu99 Chapter II §3)。強三角不等式を満たす距離の空間は 超距離空間 の記事が扱う。
$f\colon[a,b]\to\mathbb{R}$($a< b$)が Riemann積分 可能ならば、$|f|$ も Riemann 積分可能であり
$$
\left|\int_a^bf(t)\,dt\right|\le\int_a^b|f(t)|\,dt
$$
が成り立つ。各成分が Riemann 積分可能な $f\colon[a,b]\to\mathbb{R}^k$ についても、$|f|$(Euclid ノルム)は Riemann 積分可能であり、成分ごとに積分したベクトルの Euclid ノルムについて同じ不等式が成り立つ。
証明は Rud76 Chapter 6(実数値の場合は Theorem 6.13、$\mathbb{R}^k$ 値の場合は Theorem 6.25)に譲る。実数値の場合、$|f|$ の可積分性を認めれば、$-|f|\le f\le|f|$ を積分して(積分の単調性)$-\int|f|\le\int f\le\int|f|$ となることから従う。これは prop-triangle-inequality-polygon の 2 を Riemann 和に適用して極限をとったものとみることができ、Lebesgue積分でも同じ形で成り立つ。
ノルムの三角不等式で等号が「一方が他方の $0$ 以上の実数倍」のときに限るかどうかは、ノルムによる。内積から来るノルムでは限る(ex-triangle-inequality-euclid)が、$\|\cdot\|_1$・$\|\cdot\|_\infty$ では限らない(ex-triangle-inequality-l1-sup)。等号がこの場合に限るノルムを狭義凸(strictly convex)なノルムという。$1< p<\infty$ の $\|x\|_p=(\sum|x_i|^p)^{1/p}$ は狭義凸であり、これは Minkowskiの不等式 の等号条件にあたる(HLP88 §2.11)。内積から来るノルムは狭義凸なノルムの一例であって、狭義凸なノルムがすべて内積から来るわけではない。実際、$p\ne2$ の $\|\cdot\|_p$ は($\mathbb{R}^2$ 以上では)平行四辺形の等式を満たさず内積から来ないが、狭義凸である。
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