逆関数定理(inverse function theorem)とは、$\mathbb{R}^n$ の開集合上の $C^1$ 級写像 $f$ が点 $a$ で正則な微分 $Df(a)$ をもつならば、$a$ の近傍 $U$ とその像 $f(U)$ の間で $f$ が $C^1$ 級の逆写像 $g$ をもち、その微分が $Dg(y)=Df(g(y))^{-1}$ で与えられるという定理である。$f$ が $C^k$ 級なら $g$ も $C^k$ 級になる。一次近似の可逆性から写像自身の局所的な可逆性が従う点が本質で、証明は縮小写像の原理による。仮定「$Df(a)$ が正則」は $f(x)=x^3$ が示すように落とせず、「$C^1$ 級」も $x+2x^2\sin(1/x)$ が示すように落とせない。陰関数定理と互いに他方から導かれ、多様体の局所構造定理の出発点となる。
前提知識: Euclid空間, 開集合, 全微分, Jacobi行列, 完備距離空間, 縮小写像
$C^1$ 級の写像 $f\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$ を 1 点 $a$ の近くで見ると、$f(a+h)\approx f(a)+Df(a)h$ と一次近似される。この一次近似 $Df(a)$ が正則行列(逆行列をもつ行列)ならば、一次近似の段階では $f$ は「逆に解ける」。逆関数定理は、この線形代数的な条件だけから、$f$ 自身が $a$ の近傍で逆写像をもち、しかもその逆写像がもとの $f$ と同じだけ滑らかであることを保証する定理である。1 変数の場合には「$f'(a)\ne0$ ならば $f$ は $a$ の近くで逆関数をもち、その導関数は $1/f'$ である」という初等的な事実にあたる。多変数では単調性が使えないため、縮小写像の原理(Banachの不動点定理)を用いて逆写像を構成するのが標準的な証明である。
$\mathbb{R}^n$ には Euclid ノルム $\|x\|:=\bigl(\sum_i x_i^2\bigr)^{1/2}$(ノルム)を入れ、正の実数 $r$ に対し $B(x,r):=\{y\mid\|y-x\|< r\}$ を開球、$\bar B(x,r):=\{y\mid\|y-x\|\le r\}$ を閉球とする。$\mathbb{R}^n$ から $\mathbb{R}^m$ への線形写像の全体を $L(\mathbb{R}^n,\mathbb{R}^m)$ と書き、$L(\mathbb{R}^n):=L(\mathbb{R}^n,\mathbb{R}^n)$ とする。$T\in L(\mathbb{R}^n,\mathbb{R}^m)$ の作用素ノルム(作用素ノルム)を
$$
\|T\|:=\sup\{\|Tx\|\mid x\in\mathbb{R}^n,\ \|x\|\le1\}
$$
で定める。$T$ の行列表示を $(t_{ij})$ とすると Cauchy–Schwarzの不等式により $\|Tx\|\le\bigl(\sum_{i,j}t_{ij}^2\bigr)^{1/2}\|x\|$ なので $\|T\|$ は有限であり、任意の $x$ について $\|Tx\|\le\|T\|\,\|x\|$、また $\|ST\|\le\|S\|\,\|T\|$ が成り立つ。また $t_{ij}=\langle e_i,Te_j\rangle$($e_i$ は標準基底、$\langle\cdot,\cdot\rangle$ は標準内積)なので $|t_{ij}|\le\|T\|$、したがって $\bigl(\sum_{i,j}t_{ij}^2\bigr)^{1/2}\le\sqrt{mn}\,\|T\|$ である。すなわち $L(\mathbb{R}^n,\mathbb{R}^m)$ を行列成分により $\mathbb{R}^{mn}$ と同一視すると、作用素ノルムと Euclid ノルムは互いに定数倍で抑えられ、同じ位相を定める。作用素ノルムの基本性質は Rud76 Theorem 9.7 を参照。
$E\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon E\to\mathbb{R}^m$ を写像とする。$f$ が点 $x\in E$ で微分可能(微分可能)であるとは、ある $T\in L(\mathbb{R}^n,\mathbb{R}^m)$ が存在して
$$
\lim_{h\to0}\frac{\|f(x+h)-f(x)-Th\|}{\|h\|}=0
$$
となることをいう。この $T$ は一意に定まり、$f$ の $x$ における微分(全微分、Fréchet 微分)とよび $Df(x)$ と書く。その行列表示がJacobi行列 $\bigl(\partial f_i/\partial x_j(x)\bigr)_{i,j}$ である。
$f$ が $E$ の各点で微分可能であり、写像 $Df\colon E\to L(\mathbb{R}^n,\mathbb{R}^m)$ が連続写像であるとき、$f$ は $E$ 上 $C^1$ 級(連続的微分可能)であるという。整数 $k\ge2$ に対し、$f$ が微分可能で $Df\colon E\to L(\mathbb{R}^n,\mathbb{R}^m)\cong\mathbb{R}^{mn}$ が $C^{k-1}$ 級であるとき $f$ は $C^k$ 級であるといい、すべての $k$ について $C^k$ 級であるとき $C^\infty$ 級(滑らか、滑らかな写像)であるという。$C^0$ 級とは連続のこととする。
$f$ が $C^1$ 級であることは、すべての偏微分 $\partial f_i/\partial x_j$ が $E$ 上存在して連続であることと同値である(Rud76 Theorem 9.21)。同様に $C^k$ 級であることは $k$ 階までのすべての偏微分が存在して連続であることと同値である(Rud76 Theorem 9.21 を $Df$ に繰り返し適用する)。微分可能な写像は連続であり、連鎖律(Rud76 Theorem 9.15)により、微分可能な写像の合成は微分可能で $D(g\circ f)(x)=Dg(f(x))\,Df(x)$ が成り立つ。連鎖律を繰り返し用いれば、$C^k$ 級写像の合成は $C^k$ 級である。
証明は三つの補題を準備したのち、「主定理の証明」の節で与える。言い換えれば、$f$ は $a$ の近傍 $U$ から $f(a)$ の近傍 $V$ の上への $C^k$ 級微分同相写像($C^k$ 級の全単射で逆写像も $C^k$ 級のもの)を与える。この性質を「$f$ は $a$ において局所微分同相(局所微分同相)である」という。定理が保証するのは $a$ の近くでの可逆性だけであり、$E$ 全体での単射性は従わない(ex-ift-complex-exp)。
一次近似 $Df(a)$ が可逆ならば、方程式 $f(x)=y$ を $x=x+Df(a)^{-1}(y-f(x))$ と書き換えることで、「現在の近似解 $x$ に対して、線形化した方程式で誤差 $y-f(x)$ を補正する」という反復(Newton法の変種)が得られる。$Df(x)$ が $Df(a)$ の近くにとどまる範囲では、この補正写像は各ステップで誤差を半分以下にする縮小写像になり、唯一の不動点、すなわち $f(x)=y$ の唯一の解に収束する。これが局所的な単射性と全射性を同時に与える。逆写像の微分の公式 $Dg=(Df\circ g)^{-1}$ は、$g\circ f=\mathrm{id}$ に連鎖律を当てはめれば必然的に出てくる形であり、証明の要点は $g$ の微分可能性そのものにある。
主定理の証明は三つの補題に基づく。いずれも完全に証明する。
$(X,d)$ を空でない完備距離空間とし、$\varphi\colon X\to X$ を、ある定数 $0\le c<1$ について任意の $x,y\in X$ に対し $d(\varphi(x),\varphi(y))\le c\,d(x,y)$ を満たす写像(縮小写像)とする。このとき $\varphi$ はただ一つの不動点をもつ(Banach の不動点定理)。すなわち $\varphi(x)=x$ となる $x\in X$ がちょうど一つ存在する。
一意性。$\varphi(x)=x$、$\varphi(y)=y$ ならば $d(x,y)=d(\varphi(x),\varphi(y))\le c\,d(x,y)$ であり、$c<1$ なので $d(x,y)=0$、よって $x=y$ である。
存在。任意に $x_0\in X$ をとり、$x_{n+1}:=\varphi(x_n)$ と定める。数学的帰納法により $d(x_{n+1},x_n)\le c^n d(x_1,x_0)$ である。$m>n$ に対し、三角不等式と等比級数の和により
$$
d(x_m,x_n)\le\sum_{i=n}^{m-1}d(x_{i+1},x_i)\le d(x_1,x_0)\sum_{i=n}^{m-1}c^i\le\frac{c^n}{1-c}\,d(x_1,x_0)
$$
であり、右辺は $n\to\infty$ で $0$ に収束する。よって $(x_n)$ は Cauchy列であり、$X$ の完備性から極限 $x\in X$ に収束する。$\varphi$ は $d(\varphi(x),\varphi(x_n))\le c\,d(x,x_n)\to0$ を満たすので、$\varphi(x)=\lim_n\varphi(x_n)=\lim_n x_{n+1}=x$ である。$\square$
$U\subset\mathbb{R}^n$ を開集合かつ凸集合とし、$f\colon U\to\mathbb{R}^m$ を $U$ 上微分可能な写像で、ある定数 $M\ge0$ について任意の $x\in U$ に対し $\|Df(x)\|\le M$ を満たすものとする。このとき任意の $a,b\in U$ に対し
$$
\|f(b)-f(a)\|\le M\|b-a\|
$$
が成り立つ。
$f(b)=f(a)$ ならば示すことはない。$f(b)\ne f(a)$ とし、単位ベクトル $u:=(f(b)-f(a))/\|f(b)-f(a)\|$ をとる。$U$ が凸なので線分 $\gamma(t):=a+t(b-a)$($0\le t\le1$)は $U$ に含まれる。実数値関数
$$
\phi(t):=\langle u,\,f(\gamma(t))\rangle\qquad(0\le t\le1)
$$
を考える。$\gamma$ は微分可能で $D\gamma(t)=b-a$($\mathbb{R}$ から $\mathbb{R}^n$ への線形写像 $s\mapsto s(b-a)$)であり、$v\mapsto\langle u,v\rangle$ は線形なので、連鎖律により $\phi$ は $(0,1)$ 上微分可能で
$$
\phi'(t)=\langle u,\,Df(\gamma(t))(b-a)\rangle
$$
である。Cauchy–Schwarz の不等式により $|\phi'(t)|\le\|u\|\,\|Df(\gamma(t))\|\,\|b-a\|\le M\|b-a\|$ である。また $\gamma$、$f$ は連続であり $v\mapsto\langle u,v\rangle$ も連続なので、$\phi$ は $[0,1]$ 上連続である。1 変数の平均値の定理(Rud76 Theorem 5.10)により、ある $\theta\in(0,1)$ について $\phi(1)-\phi(0)=\phi'(\theta)$ が成り立つ。一方
$$
\phi(1)-\phi(0)=\langle u,\,f(b)-f(a)\rangle=\|f(b)-f(a)\|
$$
であるから、$\|f(b)-f(a)\|=|\phi'(\theta)|\le M\|b-a\|$ を得る。$\square$
$A\in L(\mathbb{R}^n)$ を正則とし、$B\in L(\mathbb{R}^n)$ が $\alpha:=\|A^{-1}\|\,\|B-A\|<1$ を満たすとする。このとき $B$ は正則であり、
$$
\|B^{-1}\|\le\frac{\|A^{-1}\|}{1-\alpha},\qquad
\|B^{-1}-A^{-1}\|\le\frac{\|A^{-1}\|^2\,\|B-A\|}{1-\alpha}
$$
が成り立つ。したがって、正則な線形写像の全体 $\mathrm{GL}(\mathbb{R}^n)$ は $L(\mathbb{R}^n)$ の開集合であり、逆をとる写像 $\mathrm{inv}\colon\mathrm{GL}(\mathbb{R}^n)\to\mathrm{GL}(\mathbb{R}^n)$、$A\mapsto A^{-1}$ は連続である。
$C:=A^{-1}(A-B)$ とおくと $\|C\|\le\|A^{-1}\|\,\|A-B\|=\alpha<1$ であり、$B=A-(A-B)=A(I-C)$ である($I$ は恒等写像)。任意の $x\in\mathbb{R}^n$ に対し
$$
\|(I-C)x\|\ge\|x\|-\|Cx\|\ge(1-\alpha)\|x\|
$$
なので、$(I-C)x=0$ ならば $x=0$ であり、$I-C$ は単射である。有限次元空間上の単射な線形写像は全射でもある(次元定理)ので、$I-C$ は正則である。上の不等式で $x=(I-C)^{-1}y$ とおけば $\|(I-C)^{-1}y\|\le\|y\|/(1-\alpha)$、すなわち $\|(I-C)^{-1}\|\le1/(1-\alpha)$ を得る。よって $B=A(I-C)$ は正則で $B^{-1}=(I-C)^{-1}A^{-1}$ であり、$\|B^{-1}\|\le\|A^{-1}\|/(1-\alpha)$ である。
次に、$B^{-1}(A-B)A^{-1}=B^{-1}AA^{-1}-B^{-1}BA^{-1}=B^{-1}-A^{-1}$ なので、
$$
\|B^{-1}-A^{-1}\|\le\|B^{-1}\|\,\|A-B\|\,\|A^{-1}\|\le\frac{\|A^{-1}\|^2\,\|B-A\|}{1-\alpha}
$$
である。
$\mathrm{GL}(\mathbb{R}^n)$ が開であること。$A$ が正則ならば、$\|B-A\|<1/\|A^{-1}\|$ を満たすすべての $B$ が正則であることを示したので、$A$ を中心とする半径 $1/\|A^{-1}\|$ の開球が $\mathrm{GL}(\mathbb{R}^n)$ に含まれる。$\mathrm{inv}$ の連続性。$B\to A$ のとき $\alpha\to0$ であり、二つ目の不等式の右辺は $0$ に収束するので $B^{-1}\to A^{-1}$ である。$\square$
$A:=Df(a)$ とおき、
$$
\lambda:=\frac{1}{2\|A^{-1}\|}
$$
と定める($A^{-1}\ne0$ なので $\|A^{-1}\|>0$ である)。$Df$ は $a$ で連続なので、$\rho>0$ を、開球 $U:=B(a,\rho)$ が $E$ に含まれ、かつ任意の $x\in U$ に対し
$$
\|Df(x)-A\|<\lambda \qquad\text{(評価 1)}
$$
となるようにとれる。この $U$ が求めるものであることを示す。
第 1 段(補正写像と局所単射性)。 各 $y\in\mathbb{R}^n$ に対し写像 $\varphi_y\colon U\to\mathbb{R}^n$ を
$$
\varphi_y(x):=x+A^{-1}\bigl(y-f(x)\bigr)
$$
で定める。$A^{-1}$ が単射なので、$f(x)=y$ と $\varphi_y(x)=x$ は同値である。$\varphi_y$ は微分可能で、連鎖律により $D\varphi_y(x)=I-A^{-1}Df(x)=A^{-1}(A-Df(x))$ であるから、評価 1 により任意の $x\in U$ に対し
$$
\|D\varphi_y(x)\|\le\|A^{-1}\|\,\|A-Df(x)\|<\|A^{-1}\|\lambda=\frac12
$$
である。開球 $U$ は凸なので、lem-ift-mean-value により任意の $x_1,x_2\in U$ に対し
$$
\|\varphi_y(x_1)-\varphi_y(x_2)\|\le\frac12\|x_1-x_2\| \qquad\text{(評価 2)}
$$
が成り立つ。とくに $\varphi_y$ は $U$ 上で不動点を高々一つしかもたない(二つの不動点 $x_1,x_2$ があれば評価 2 により $\|x_1-x_2\|\le\frac12\|x_1-x_2\|$、すなわち $x_1=x_2$)。したがって各 $y$ に対し $f(x)=y$ となる $x\in U$ は高々一つであり、$f|_U$ は単射である。
第 2 段(像 $V:=f(U)$ は開集合である)。 $y_0\in V$ とし、$y_0=f(x_0)$($x_0\in U$)と書く。$U$ は開なので、閉球 $\bar B:=\bar B(x_0,r)$ が $U$ に含まれるような $r>0$ がとれる。$B(y_0,\lambda r)\subset V$ を示す。$\|y-y_0\|<\lambda r$ とする。まず
$$
\|\varphi_y(x_0)-x_0\|=\|A^{-1}(y-f(x_0))\|=\|A^{-1}(y-y_0)\|\le\|A^{-1}\|\,\|y-y_0\|<\|A^{-1}\|\lambda r=\frac r2
$$
である。よって任意の $x\in\bar B$ に対し、評価 2 により
$$
\|\varphi_y(x)-x_0\|\le\|\varphi_y(x)-\varphi_y(x_0)\|+\|\varphi_y(x_0)-x_0\|<\frac12\|x-x_0\|+\frac r2\le r
$$
であり、$\varphi_y(\bar B)\subset\bar B$ である。$\bar B$ は完備距離空間 $\mathbb{R}^n$(Rud76 Theorem 3.11)の閉集合なので完備であり、評価 2 により $\varphi_y|_{\bar B}\colon\bar B\to\bar B$ は定数 $\frac12$ の縮小写像である。lem-ift-contraction により $\varphi_y$ は $\bar B\subset U$ に不動点 $x$ をもち、$f(x)=y$ である。ゆえに $y\in V$ であり、$B(y_0,\lambda r)\subset V$ が示された。$V$ は開集合である。
第 3 段(逆写像は Lipschitz 連続である)。 第 1 段・第 2 段により $f|_U\colon U\to V$ は全単射であり、逆写像 $g\colon V\to U$ が定まる。$x_1,x_2\in U$ に対し、$\varphi_y(x_1)-\varphi_y(x_2)=(x_1-x_2)-A^{-1}(f(x_1)-f(x_2))$ は $y$ によらないので、評価 2 と三角不等式により
$$
\|x_1-x_2\|\le\|\varphi_y(x_1)-\varphi_y(x_2)\|+\|A^{-1}(f(x_1)-f(x_2))\|\le\frac12\|x_1-x_2\|+\|A^{-1}\|\,\|f(x_1)-f(x_2)\|
$$
となり、整理して
$$
\|x_1-x_2\|\le2\|A^{-1}\|\,\|f(x_1)-f(x_2)\|=\frac1\lambda\|f(x_1)-f(x_2)\| \qquad\text{(評価 3)}
$$
を得る。$x_i=g(y_i)$ とおけば $\|g(y_1)-g(y_2)\|\le\frac1\lambda\|y_1-y_2\|$ であり、$g$ は Lipschitz 連続(Lipschitz連続)、とくに連続である。これで 1 が示され、$f|_U\colon U\to V$ は同相写像である。
第 4 段($g$ は微分可能で $Dg(y)=Df(g(y))^{-1}$ である)。 まず任意の $x\in U$ について $Df(x)$ は正則である。実際、評価 1 により $\|A^{-1}\|\,\|Df(x)-A\|<\|A^{-1}\|\lambda=\frac12<1$ なので lem-ift-inverse-continuity が適用できる。
$y\in V$ を固定し、$x:=g(y)$、$T:=Df(x)$ とおく。$V$ は開なので、十分小さい $k\in\mathbb{R}^n$ に対し $y+k\in V$ である。そのような $k$ に対し $h:=g(y+k)-g(y)$ とおくと、$x+h=g(y+k)\in U$ かつ $f(x+h)-f(x)=(y+k)-y=k$ である。評価 3 により
$$
\|h\|\le\frac1\lambda\|k\| \qquad\text{(評価 4)}
$$
であり、また $k\ne0$ ならば($g$ の単射性により)$h\ne0$ である。ここで
$$
g(y+k)-g(y)-T^{-1}k=h-T^{-1}k=-T^{-1}(k-Th)=-T^{-1}\bigl(f(x+h)-f(x)-Th\bigr)
$$
であるから、$k\ne0$ に対し評価 4 を用いて
$$
\frac{\|g(y+k)-g(y)-T^{-1}k\|}{\|k\|}
\le\|T^{-1}\|\cdot\frac{\|f(x+h)-f(x)-Th\|}{\|h\|}\cdot\frac{\|h\|}{\|k\|}
\le\frac{\|T^{-1}\|}{\lambda}\cdot\frac{\|f(x+h)-f(x)-Th\|}{\|h\|}
$$
を得る。$k\to0$ のとき評価 4 により $h\to0$ であり、$f$ が $x$ で微分可能で $Df(x)=T$ であることから右辺は $0$ に収束する。よって $g$ は $y$ で微分可能で $Dg(y)=T^{-1}=Df(g(y))^{-1}$ である。
第 5 段($g$ は $C^1$ 級である)。 第 4 段の公式は、写像として $Dg=\mathrm{inv}\circ Df\circ g$ と書ける。$g\colon V\to U$ は連続(第 3 段)、$Df\colon U\to\mathrm{GL}(\mathbb{R}^n)$ は連続($f$ が $C^1$ 級)、$\mathrm{inv}$ は連続(lem-ift-inverse-continuity)なので、合成 $Dg$ は連続である。これで 2 が示された。
第 6 段($C^k$ 級)。 $f$ が $C^k$ 級($1\le k\le\infty$)とし、$g$ が $C^j$ 級($1\le j< k$)であると仮定する。$Df$ は $C^{k-1}$ 級、したがって $C^j$ 級であり、$\mathrm{inv}$ は $C^\infty$ 級(rem-ift-inverse-smooth)、$g$ は仮定により $C^j$ 級なので、合成 $Dg=\mathrm{inv}\circ Df\circ g$ は $C^j$ 級である。よって $g$ は $C^{j+1}$ 級である。$j=1$ から始めて帰納法を進めれば、$k$ が有限ならば $g$ は $C^k$ 級、$k=\infty$ ならばすべての $j$ について $C^j$ 級、すなわち $C^\infty$ 級である。これで 3 が示された。$\square$
この証明は Rud76 Theorem 9.24 の構成に従う。定数 $\lambda=1/(2\|A^{-1}\|)$ の役割は、評価 1 により補正写像 $\varphi_y$ の縮小定数を $\frac12$ に抑えることと、評価 3 により逆写像の Lipschitz 定数を $1/\lambda$ に抑えることの二つである。$Df$ の連続性は、評価 1 を満たす $U$ をとるとき($a$ での連続性)と、第 5 段で $g$ が $C^1$ 級であることを示すとき($U$ 上の連続性)に使われる。前者を外すと定理は成り立たない(rem-ift-counterexample-non-c1)。
$n=1$ のとき、$L(\mathbb{R})$ の元は実数 $t$ 倍の写像であり、正則であることは $t\ne0$ と同値である。したがって thm-ift-main は次のように述べられる。開区間(区間)$E\subset\mathbb{R}$ 上の $C^1$ 級関数 $f$ が点 $a$ で $f'(a)\ne0$ を満たすならば、thm-ift-main の 1 の開集合 $U$ は $a$ を含む開区間にとり直してよく(同相写像による開集合の像は開集合なので、$U$ を開区間に縮めても $f|_U$ の像は開集合のままである)、$V:=f(U)$ は開区間 $U$ の連続写像による像だから連結な開集合、すなわち開区間である。こうして $a$ を含む開区間 $U$ と開区間 $V=f(U)$ があって $f|_U\colon U\to V$ は全単射、その逆関数 $g$ は $C^1$ 級で
$$
g'(y)=\frac{1}{f'(g(y))}\qquad(y\in V)
$$
が成り立つ。
具体例として $f(x)=x^2$ と点 $a=1$ をとる。$f'(1)=2\ne0$ なので、$U=(0,\infty)$、$V=(0,\infty)$ とすれば $f|_U$ は全単射で、逆関数は $g(y)=\sqrt y$ であり、公式は $g'(y)=1/(2\sqrt y)$ を与える。これは $\sqrt y$ を直接微分した結果と一致する。点 $a=0$ では $f'(0)=0$ なので定理は適用できず、実際 $f$ は $0$ のどんな近傍でも単射でない($f(x)=f(-x)$)。
同様に $f(x)=\sin x$ と $a=0$ では $f'(0)=\cos0=1\ne0$ であり、$U=(-\pi/2,\pi/2)$、$V=(-1,1)$ 上の逆関数 $g=\arcsin$ について $g'(y)=1/\cos(\arcsin y)=1/\sqrt{1-y^2}$ を得る。
1 変数では、$f'(a)\ne0$ と $f'$ の連続性から $f'$ は $a$ の近くで一定の符号をもち、平均値の定理により $f$ はその区間で狭義単調になるので、逆関数の存在と連続性は縮小写像を使わなくても示せる。逆関数定理の本質的な内容は、逆関数が微分可能であることと、その導関数の公式である。
$f\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2$ を $f(x,y):=(e^x\cos y,\,e^x\sin y)$ で定める(複素数 $z=x+iy$ に対する指数関数 $e^z$ を実 2 次元で見たもの)。$f$ は $C^\infty$ 級で、Jacobi 行列と Jacobi 行列式(Jacobi行列式)は
$$
Df(x,y)=\begin{pmatrix}e^x\cos y&-e^x\sin y\\ e^x\sin y&e^x\cos y\end{pmatrix},\qquad\det Df(x,y)=e^{2x}>0
$$
である。したがって thm-ift-main により $f$ は $\mathbb{R}^2$ のすべての点で局所微分同相であり、各点の近傍 $U$ で $C^\infty$ 級の逆写像(複素対数関数の一つの枝に相当する)をもつ。
しかし $f$ は $\mathbb{R}^2$ 全体では単射でない。$f(x,y+2\pi)=f(x,y)$ だからである。また $f$ の像(像(写像))は $\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ であって $\mathbb{R}^2$ 全体ではない。この例は、逆関数定理が保証するのがあくまで各点の近傍での可逆性であり、$\det Df$ がいたるところ $0$ でなくても大域的な逆写像が存在するとは限らないことを示している。同じ現象は極座標の写像 $(r,\theta)\mapsto(r\cos\theta,r\sin\theta)$(Jacobi 行列式 $r$)についても $r>0$ の範囲で起こる。
$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$、$f(x)=x^3$ を考える。$f$ は $C^\infty$ 級であり、$\mathbb{R}$ 全体で狭義単調増加(単調関数)な全単射で、逆写像 $g(y)=\sqrt[3]{y}$ は連続である($f$ は同相写像である)。しかし $f'(0)=0$ であり、$g$ は $y=0$ で微分可能でない。実際 $\frac{g(y)-g(0)}{y}=y^{-2/3}\to\infty$($y\to0$)である。
この例が満たす性質は「$C^\infty$ 級かつ全単射かつ逆写像が連続」、満たさない性質は「逆写像が微分可能」であり、破る含意は「$C^1$ 級の同相写像の逆写像は $C^1$ 級である」である。満たさない定理の仮定は「$Df(a)$ が正則」である。
一般に、$a$ の近傍で $f$ が微分可能な逆写像 $g$ をもつならば、$g\circ f=\mathrm{id}$ に連鎖律を適用して $Dg(f(a))\,Df(a)=I$ を得るので、$Df(a)$ は正則でなければならない。したがって、逆関数定理の仮定「$Df(a)$ が正則」は、$C^1$ 級の局所的な逆写像の存在にとって十分条件であるだけでなく必要条件でもある。
$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を
$$
f(x):=\begin{cases}x+2x^2\sin(1/x),&x\ne0,\\ 0,&x=0\end{cases}
$$
で定める。$f$ は $\mathbb{R}$ 全体で微分可能で、$f'(0)=1\ne0$ である。実際 $x\ne0$ に対し $\frac{f(x)-f(0)}{x}=1+2x\sin(1/x)$ であり、$|2x\sin(1/x)|\le2|x|\to0$ である。また $x\ne0$ では
$$
f'(x)=1+4x\sin(1/x)-2\cos(1/x)
$$
である。しかし $f'$ は $0$ で連続でない。$x_k:=1/(2k\pi)$、$x_k':=1/((2k+1)\pi)$($k\ge1$ の整数)とおくと $x_k\to0$、$x_k'\to0$ であるのに $f'(x_k)=1-2=-1$、$f'(x_k')=1+2=3$ だからである。
$f$ は $0$ のどんな近傍でも単射でない。これを示す。$k\ge1$ を固定し、閉区間 $I:=[x_k',x_k]$($x_k'< x_k$)を考える。$f'$ は $(0,\infty)$ 上連続で $f'(x_k')=3>0$、$f'(x_k)=-1<0$ なので、$\delta>0$ を $2\delta< x_k-x_k'$ かつ $[x_k',x_k'+\delta]$ 上で $f'>0$、$[x_k-\delta,x_k]$ 上で $f'<0$ となるようにとれる。平均値の定理により $f(x_k'+\delta)>f(x_k')$ かつ $f(x_k-\delta)>f(x_k)$ である。連続関数 $f$ はコンパクト空間 $I$ 上で最大値をとる(最大値の定理)が、いま述べたことから最大値は端点ではとられず、ある内点 $c\in(x_k',x_k)$ でとられる。$\varepsilon>0$ を $[c-\varepsilon,c+\varepsilon]\subset(x_k',x_k)$ となるようにとる。$f(c-\varepsilon)=f(c+\varepsilon)$ ならば $f$ は $I$ 上単射でない。そうでなければ、対称性により $f(c-\varepsilon)< f(c+\varepsilon)\le f(c)$ としてよく、$f(c+\varepsilon)=f(c)$ なら単射でない。残る場合 $f(c-\varepsilon)< f(c+\varepsilon)< f(c)$ には、中間値の定理により $t\in(c-\varepsilon,c)$ で $f(t)=f(c+\varepsilon)$ となるものがあり、$t\ne c+\varepsilon$ なのでやはり単射でない。$k$ は任意なので、$0$ を含むどの開区間も、十分大きい $k$ について $I=[x_k',x_k]$ を含み、そこで $f$ は単射でない。
この例が満たす性質は「$\mathbb{R}$ 全体で微分可能かつ $f'(0)\ne0$」、満たさない性質は「$0$ の近傍で単射」であり、破る含意は「微分可能で $Df(a)$ が正則ならば $a$ の近傍で単射」である。満たさない定理の仮定は「$C^1$ 級」、すなわち $Df$ の $a$ における連続性である。主定理の証明では、この連続性が評価 1 を満たす近傍 $U$ の存在に使われた。$f'$ が $0$ の近くで正負両方の値をとるため、評価 1 に相当する評価をどの近傍でも満たせないのである。
$E\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon E\to\mathbb{R}^n$ を $C^k$ 級($1\le k\le\infty$)とし、すべての $x\in E$ で $Df(x)$ が正則であるとする。
1 を示す。$W\subset E$ を開集合、$x\in W$ とする。$f|_W\colon W\to\mathbb{R}^n$ は開集合 $W$ 上の $C^k$ 級写像で $Df(x)$ は正則なので、thm-ift-main により $x$ を含む開集合 $U_x\subset W$ で $f(U_x)$ が開集合となるものがある。$f(W)=\bigcup_{x\in W}f(U_x)$ は開集合の和集合なので開集合である。
2 を示す。$f(E)$ が開であることは 1 で $W=E$ とすればよい。$f$ は単射なので逆写像 $g\colon f(E)\to E$ が定まる。$y_0\in f(E)$ とし $x_0:=g(y_0)$ とおく。thm-ift-main を $x_0$ に適用して得られる開集合 $U\ni x_0$、$V=f(U)\ni y_0$ と $C^k$ 級の逆写像 $g_U\colon V\to U$ をとる。$y\in V$ に対し $g_U(y)\in U\subset E$ は $f(g_U(y))=y$ を満たすので、$f$ の $E$ 上の単射性により $g(y)=g_U(y)$ である。よって $g$ は $y_0$ の近傍 $V$ 上で $C^k$ 級写像 $g_U$ と一致する。$C^k$ 級であることは各点の近傍で確かめればよい性質なので、$g$ は $f(E)$ 上 $C^k$ 級である。$\square$
ex-ift-complex-exp の複素指数関数は 1 の例であり、その像 $\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ が開集合であることが 1 から従う。しかし単射でないため 2 は適用できない。複素解析の開写像定理(複素解析)は、定数でない正則関数について、微分が $0$ になる点があっても開写像であることを主張する強い定理であり、本記事の 1 はその「微分が $0$ にならない場合」にあたる。
逆関数定理から陰関数定理が導かれる。$\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m$ の点を $(x,y)$($x\in\mathbb{R}^n$、$y\in\mathbb{R}^m$)と書き、$C^1$ 級写像 $F\colon E\to\mathbb{R}^m$($E\subset\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m$ は開集合)に対し、$DF(x,y)$ の $\mathbb{R}^n\times\{0\}$ への制限を $D_xF(x,y)\in L(\mathbb{R}^n,\mathbb{R}^m)$、$\{0\}\times\mathbb{R}^m$ への制限を $D_yF(x,y)\in L(\mathbb{R}^m)$ と書く。Jacobi 行列で言えば、$D_xF$ は $x$ に関する偏微分からなる $m\times n$ ブロック、$D_yF$ は $y$ に関する偏微分からなる $m\times m$ ブロックであり、$DF(x,y)(h,k)=D_xF(x,y)h+D_yF(x,y)k$ が成り立つ。
$E\subset\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m$ を開集合、$F\colon E\to\mathbb{R}^m$ を $C^k$ 級($1\le k\le\infty$)とし、$(a,b)\in E$ が $F(a,b)=0$ を満たし、$D_yF(a,b)\in L(\mathbb{R}^m)$ が正則であるとする。このとき、$a$ を含む $\mathbb{R}^n$ の開集合 $W$、$b$ を含む $\mathbb{R}^m$ の開集合 $V$($W\times V\subset E$)、および $C^k$ 級写像 $\varphi\colon W\to V$ で、次を満たすものが存在する。
写像 $\Phi\colon E\to\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m$ を
$$
\Phi(x,y):=(x,\,F(x,y))
$$
で定める。$\Phi$ は $C^k$ 級で、その微分は $D\Phi(x,y)(h,k)=(h,\,D_xF(x,y)h+D_yF(x,y)k)$ であり、Jacobi 行列はブロック行列
$$
D\Phi(x,y)=\begin{pmatrix}I_n&0\\ D_xF(x,y)&D_yF(x,y)\end{pmatrix}
$$
である。ブロック三角行列の行列式は対角ブロックの行列式の積なので $\det D\Phi(x,y)=\det D_yF(x,y)$ であり、仮定により $D\Phi(a,b)$ は正則である。
thm-ift-main を $\Phi$ と点 $(a,b)$ に適用する。$(a,b)$ を含む開集合 $U\subset E$ で、$\Phi|_U$ が単射、$V':=\Phi(U)$ が開集合、逆写像 $\Psi\colon V'\to U$ が $C^k$ 級であり、さらにすべての $(x,y)\in U$ で $D\Phi(x,y)$ が正則であるものが存在する。$\Phi$ は第 1 成分を変えないので、$\Psi$ も第 1 成分を変えない。実際 $(x,z)\in V'$ に対し $\Phi(\Psi(x,z))=(x,z)$ であり、$\Phi(p,q)$ の第 1 成分は $p$ なので、$\Psi(x,z)$ の第 1 成分は $x$ である。よって $C^k$ 級写像 $\psi\colon V'\to\mathbb{R}^m$($\Psi$ の第 2 成分)を用いて $\Psi(x,z)=(x,\psi(x,z))$ と書ける。
$U$ は $\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m$ の開集合で $(a,b)$ を含むので、$a$ を含む開球 $W_0\subset\mathbb{R}^n$ と $b$ を含む開球 $V\subset\mathbb{R}^m$ で $W_0\times V\subset U$ となるものがとれる。$W_1:=\{x\in W_0\mid(x,0)\in V'\}$ は、連続写像 $x\mapsto(x,0)$ による開集合 $V'$ の逆像と $W_0$ の共通部分なので開集合であり、$\Phi(a,b)=(a,0)\in V'$ により $a\in W_1$ である。$W_1$ 上で $\varphi_0(x):=\psi(x,0)$ とおくと $\varphi_0$ は $C^k$ 級である。$(a,b)\in U$ かつ $\Phi(a,b)=(a,0)$ なので $\Psi(a,0)=(a,b)$、すなわち $\varphi_0(a)=b$ である。そこで
$$
W:=\{x\in W_1\mid\varphi_0(x)\in V\}
$$
とおくと、$W$ は連続写像 $\varphi_0$ による開集合 $V$ の逆像なので開集合であり、$\varphi_0(a)=b\in V$ により $a\in W$ である。$\varphi:=\varphi_0|_W\colon W\to V$ と定めると $\varphi$ は $C^k$ 級で $\varphi(a)=b$ であり、$W\subset W_0$ により $W\times V\subset U\subset E$ である。
1 を示す。$x\in W$ とする。$(x,\varphi(x))=\Psi(x,0)\in U$ であり $\Phi(x,\varphi(x))=(x,0)$ なので $F(x,\varphi(x))=0$ である。逆に $y\in V$ が $F(x,y)=0$ を満たすとすると、$(x,y)\in W_0\times V\subset U$ であり $\Phi(x,y)=(x,0)=\Phi(x,\varphi(x))$ である。$\Phi|_U$ の単射性により $y=\varphi(x)$ である。
2 を示す。$x\in W$ に対し $(x,\varphi(x))\in U$ なので $D\Phi(x,\varphi(x))$ は正則であり、$\det D_yF(x,\varphi(x))=\det D\Phi(x,\varphi(x))\ne0$、すなわち $D_yF(x,\varphi(x))$ は正則である。1 により $W$ 上で $F(x,\varphi(x))=0$ が恒等的に成り立つので、写像 $x\mapsto(x,\varphi(x))$ と $F$ の合成に連鎖律を適用して、任意の $h\in\mathbb{R}^n$ に対し
$$
0=DF(x,\varphi(x))\bigl(h,\,D\varphi(x)h\bigr)=D_xF(x,\varphi(x))h+D_yF(x,\varphi(x))\,D\varphi(x)h
$$
を得る。$D_yF(x,\varphi(x))$ の逆をかけて $D\varphi(x)=-D_yF(x,\varphi(x))^{-1}D_xF(x,\varphi(x))$ である。$\square$
逆に、陰関数定理を認めれば $F(x,y):=f(y)-x$ に適用して逆関数定理が得られる(thm-ift-implicit の 1 の一意性の主張を用いる)ので、二つの定理は互いに他方から導かれる。Rud76 Theorem 9.28 と Mun91 §9 はここで述べた「逆関数定理から陰関数定理を導く」順序をとっている。
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