余弦定理(高校数学)

同義語:law of cosines (high school mathematics)

概要

余弦定理(高校数学)は、三角形の辺の長さを $a,b,c$、$a$ の向かいの角を $A$ とすると $a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$ が成り立つ、という定理である。$A=90^\circ$ なら三平方の定理で、$-2bc\cos A$ は直角からのずれを表す補正の項である。$\cos A=\frac{b^2+c^2-a^2}{2bc}$ により 3 辺で角がただ 1 つに決まり、$b^2+c^2-a^2$ の符号で $A$ が鋭角・直角・鈍角のどれかが分かる。ベクトルで見ると、内積の 2 つの形 $|\vec{u}||\vec{v}|\cos\theta$ と $u_1v_1+u_2v_2$ が一致することと同じ内容である。面積の公式と組み合わせて $\sin A$ を消すと Heron の公式が得られる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 三角比と鈍角への拡張, 三平方の定理, 座標平面

高校での出発点:三平方の定理が崩れるとき

三角形 $\mathrm{ABC}$ で、頂点 $\mathrm A,\mathrm B,\mathrm C$ の角の大きさを $A,B,C$、それぞれの向かいの辺の長さを $a=\mathrm{BC}$、$b=\mathrm{CA}$、$c=\mathrm{AB}$ と書く。この記事では、この書き方を断りなく使う。
$A=90^\circ$ なら、三平方の定理 により $a^2=b^2+c^2$ である。$A$ が直角でないとき、$a^2$ と $b^2+c^2$ はどれだけずれるだろうか。

辺が 3, 5, 7 の三角形

$b=3$、$c=5$、$a=7$ とする。$b^2+c^2=9+25=34$、$a^2=49$ で、$a^2$ の方が $15$ 大きい。$A$ が直角なら等しいはずなので、$A$ は直角ではない。
ずれ $15$ を $2bc=30$ で割ると $\dfrac{15}{30}=\dfrac12$ である。後で示す余弦定理によると、このずれは $-2bc\cos A$ に等しい。つまり $\cos A=-\dfrac12$ で、三角比と鈍角への拡張 の表から $A=120^\circ$ である。

辺が 4, 5, 6 の三角形

$b=4$、$c=5$、$a=6$ とする。$b^2+c^2=16+25=41$、$a^2=36$ で、今度は $a^2$ の方が $5$ 小さい。$-2bc\cos A=a^2-(b^2+c^2)=-5$ から $\cos A=\dfrac5{40}=\dfrac18$ で、$\cos A>0$ なので $A$ は鋭角である(約 $82.82^\circ$)。

2 つの例では、$a^2$ が $b^2+c^2$ より大きいと $A$ は鈍角、小さいと鋭角だった。ずれを正確に表すのが 余弦定理 $a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$ である。$A=90^\circ$ のときは $\cos A=0$ で、三平方の定理そのものになる。
この記事で答える問いは次の 4 つである。

  1. $a^2$ と $b^2+c^2$ のずれはどう表されるか。→ thm-lch-main
  2. 3 辺の長さから角はどう決まるか。鋭角・直角・鈍角はどう見分けるか。→ cor-lch-angle、cor-lch-type
  3. 余弦定理とベクトルの内積はどう関係するか。→ prop-lch-inner
  4. 3 辺から面積を求めるにはどうするか(Heron の公式への道)。→ prop-lch-area
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    $a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$三平方の定理の補正の項$\lvert\vec v-\vec u\rvert^2$ の展開
    $\cos A=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}$3 辺で角が決まる長さ(距離)から内積が決まる(極化恒等式)
    $b^2+c^2-a^2$ の符号鋭角・直角・鈍角の判定内積の符号
    $\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert\cos\theta=u_1v_1+u_2v_2$内積の 2 つの形が一致標準内積と角の定義
    $16S^2=4b^2c^2-(b^2+c^2-a^2)^2$面積を 3 辺で表すGram 行列式、Heron の公式

余弦定理

余弦定理の公式

三角形 $\mathrm{ABC}$ について
$$ a^2=b^2+c^2-2bc\cos A,\qquad b^2=c^2+a^2-2ca\cos B,\qquad c^2=a^2+b^2-2ab\cos C $$
が成り立つ。

3 つの式は、頂点の名前を付け替えたものである。1 つ目の式を 2 通りに証明する。
図1:座標による証明。A を原点、B を x 軸上の (c, 0) におくと、C は半径 b の半円の上の角 A の点で、座標は (b cos A, b sin A) になる。A が鈍角でも同じ式で表せる 図1:座標による証明。A を原点、B を x 軸上の (c, 0) におくと、C は半径 b の半円の上の角 A の点で、座標は (b cos A, b sin A) になる。A が鈍角でも同じ式で表せる

座標で 2 点間の距離を計算する

方針:$\mathrm A$ を原点、$\mathrm B$ を $x$ 軸の正の部分におき、$\mathrm C$ の座標を三角比で書く。$a=\mathrm{BC}$ を 2 点間の距離の公式で計算する(図 1)。
段 1(座標をおく)。$\mathrm A(0,0)$、$\mathrm B(c,0)$ とし、$\mathrm C$ は $x$ 軸より上にあるようにおく。$\mathrm{AC}=b$ なので、$\mathrm C$ は原点を中心とする半径 $b$ の円の上半分にあり、$\angle\mathrm{BAC}=A$ である。三角比と鈍角への拡張 の注意「半径 r の円で考えてもよい」により
$$ \mathrm C=(b\cos A,\ b\sin A) $$
である。$A$ が鋭角でも直角でも鈍角でも、この式は同じである。
段 2(距離を計算する)。2 点間の距離の公式(三平方の定理 から従う)により
$$ a^2=\mathrm{BC}^2=(b\cos A-c)^2+(b\sin A-0)^2 $$
である。
段 3(展開して整理する)。展開すると
$$ a^2=b^2\cos^2A-2bc\cos A+c^2+b^2\sin^2A=b^2(\cos^2A+\sin^2A)+c^2-2bc\cos A $$
である。三角比と鈍角への拡張 の定理「三角比の相互関係」により $\cos^2A+\sin^2A=1$ なので、$a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$ を得る。$\square$

もう 1 つの証明は、$\mathrm C$ から直線 $\mathrm{AB}$ に垂線を下ろし、2 つの直角三角形に三平方の定理を使う。こちらは $A$ が鋭角か鈍角かで図が変わる(図 2)。
図2:C から直線 AB に下ろした垂線の足 H。左は A が鋭角で、H は A から B の向きの半直線の上にあり AH = b cos A。右は A が鈍角で、H は反対側にあり AH = −b cos A 図2:C から直線 AB に下ろした垂線の足 H。左は A が鋭角で、H は A から B の向きの半直線の上にあり AH = b cos A。右は A が鈍角で、H は反対側にあり AH = −b cos A

垂線を下ろして三平方の定理を 2 回使う

方針:垂線の足 $\mathrm H$ をとり、直角三角形 $\mathrm{BHC}$ に三平方の定理を使う。$\mathrm{CH}$ と $\mathrm{BH}$ を $b,c,A$ で表す。$\mathrm H$ の位置は $A$ が鋭角・直角・鈍角で変わるので、場合に分ける。
段 1($A=90^\circ$)。$\mathrm H=\mathrm A$ で、三平方の定理により $a^2=b^2+c^2$ である。$\cos90^\circ=0$ なので、これは $a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$ と同じである。
段 2($A$ が鋭角)。まず $\mathrm H\ne\mathrm A$ である($\mathrm H=\mathrm A$ なら $\mathrm{CA}\perp\mathrm{AB}$ で $A=90^\circ$ となる)。$\mathrm H$ は $\mathrm A$ から $\mathrm B$ の向きに延びる半直線の上にある(反対側にあると、直角三角形 $\mathrm{AHC}$ の $\mathrm A$ での角 $180^\circ-A$ が鈍角になってしまう)。直角三角形 $\mathrm{AHC}$ で $\mathrm{AH}=b\cos A$、$\mathrm{CH}=b\sin A$ である。$\mathrm H$ と $\mathrm B$ は同じ半直線の上にあるので $\mathrm{BH}=\lvert c-b\cos A\rvert$ である($\mathrm H$ が $\mathrm B$ より先にあってもよい)。$\mathrm H\ne\mathrm B$ なら三角形 $\mathrm{BHC}$ は $\mathrm H$ で直角なので
$$ a^2=\mathrm{BH}^2+\mathrm{CH}^2=(c-b\cos A)^2+b^2\sin^2A $$
である。$\mathrm H=\mathrm B$ のときも $\mathrm{BH}=0$、$a=\mathrm{CH}$ なので、この式は成り立つ。
段 3($A$ が鈍角)。同じ理由で $\mathrm H\ne\mathrm A$ であり、$\mathrm H$ は反対側の半直線の上にあり、直角三角形 $\mathrm{AHC}$ の $\mathrm A$ での角は $180^\circ-A$ である。三角比と鈍角への拡張 の定理「$180^\circ-\theta$ と $90^\circ-\theta$ の三角比」により
$$ \mathrm{AH}=b\cos(180^\circ-A)=-b\cos A,\qquad \mathrm{CH}=b\sin(180^\circ-A)=b\sin A $$
である。$\mathrm A$ は $\mathrm H$ と $\mathrm B$ の間にあるので $\mathrm{BH}=\mathrm{AH}+c=c-b\cos A$ であり
$$ a^2=\mathrm{BH}^2+\mathrm{CH}^2=(c-b\cos A)^2+b^2\sin^2A $$
である。
段 4(まとめ)。段 2 と段 3 の式は同じで、展開すると prf-lch-coord の段 3 と同じ計算で $a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$ になる。$\square$

2 つの証明を比べると、座標の証明では場合分けが要らない。$\mathrm C=(b\cos A,\ b\sin A)$ という 1 つの式が、鈍角のとき自動的に「$\mathrm H$ が反対側にある」ことを表しているからである($b\cos A<0$)。三角比を鈍角まで広げておいたことが、ここで効いている。垂線を使う証明は、古代ギリシャの Euclid『原論』が余弦を使わずに述べた形(第 II 巻 命題 12・13。鈍角の場合と鋭角の場合を別の命題にしている)に近い(Hea08)。

2 辺とその間の角から残りの辺を求める
  1. $b=3$、$c=8$、$A=60^\circ$。$a^2=9+64-2\cdot3\cdot8\cdot\dfrac12=73-24=49$ なので $a=7$ である。
  2. $b=2$、$c=3$、$A=120^\circ$。$\cos120^\circ=-\dfrac12$ なので $a^2=4+9-2\cdot2\cdot3\cdot\left(-\dfrac12\right)=13+6=19$、$a=\sqrt{19}$ である。垂線の証明で確かめると、$\mathrm{AH}=-b\cos A=1$、$\mathrm{BH}=1+3=4$、$\mathrm{CH}=b\sin A=\sqrt3$ で、$a^2=4^2+(\sqrt3)^2=16+3=19$ である(図 1・図 2 の右はこの三角形)。

3 辺から角を求める

余弦定理を $\cos A$ について解くと、3 辺の長さから角が求まる。

3 辺で角が決まる

三角形 $\mathrm{ABC}$ について
$$ \cos A=\frac{b^2+c^2-a^2}{2bc} $$
であり、角 $A$ は 3 辺 $a,b,c$ によってただ 1 つに決まる。$B$、$C$ についても同じである。特に、3 辺の長さがそれぞれ等しい 2 つの三角形では、対応する角もそれぞれ等しい。

余弦の値は角を 1 つに決める

方針:thm-lch-main を移項し、余弦の値から角が 1 つに決まること(三角比と鈍角への拡張 の命題「三角比の値と角の個数」の 1)を使う。
段 1。thm-lch-main の 1 つ目の式を移項すると $2bc\cos A=b^2+c^2-a^2$ で、$2bc>0$ なので両辺を $2bc$ で割って $\cos A=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}$ を得る。
段 2。右辺は $a,b,c$ だけで決まる数である。$0^\circ< A<180^\circ$ の範囲で、$\cos A$ の値が決まると $A$ はただ 1 つに決まる。
段 3。3 辺がそれぞれ等しい 2 つの三角形では、段 1 の右辺が等しいので $\cos A$ が等しく、段 2 により $A$ も等しい。$B$、$C$ も同じである。$\square$

これは中学校で学ぶ三角形の合同条件「3 辺がそれぞれ等しい」を、角の値の一致として言い直したものである。同じく「2 辺とその間の角がそれぞれ等しい」なら、thm-lch-main で残りの辺が等しくなり、cor-lch-angle に帰着する。

3 辺から角を求める
  1. 辺 $3,5,7$:最大の辺 $7$ の向かいの角は $\cos=\dfrac{9+25-49}{2\cdot3\cdot5}=\dfrac{-15}{30}=-\dfrac12$ より $120^\circ$(ex-lch-357)。
  2. 辺 $5,7,8$:辺 $7$ の向かいの角は $\cos=\dfrac{25+64-49}{2\cdot5\cdot8}=\dfrac{40}{80}=\dfrac12$ より $60^\circ$。3 辺が整数で $60^\circ$ の角をもつ三角形の例である。
  3. 辺 $2,3,4$:辺 $4$ の向かいの角は $\cos=\dfrac{4+9-16}{2\cdot2\cdot3}=-\dfrac3{12}=-\dfrac14$ で、表にない値である。$\cos<0$ なので鈍角(約 $104.48^\circ$)である。

$\cos A$ の分母 $2bc$ は正なので、$\cos A$ の符号は分子 $b^2+c^2-a^2$ の符号で決まる。ここから角の種類が分かる。

鋭角・直角・鈍角の判定

三角形 $\mathrm{ABC}$ について

  1. $A<90^\circ$ $\iff$ $b^2+c^2>a^2$、
  2. $A=90^\circ$ $\iff$ $b^2+c^2=a^2$、
  3. $A>90^\circ$ $\iff$ $b^2+c^2< a^2$
    である。さらに、最も長い辺を $a$ とすると、三角形が鋭角三角形であることと $b^2+c^2>a^2$ は同値である。
余弦の符号

方針:$\cos A$ の符号と $A$ の大きさの関係を、単位円の上の点の $x$ 座標で読む。
段 1(余弦の符号)。三角比と鈍角への拡張 の定義により、$\cos A$ は単位円の上半分の点の $x$ 座標である。$0^\circ< A<90^\circ$ の点は第 1 象限にあって $x>0$、$A=90^\circ$ の点は $(0,1)$ で $x=0$、$90^\circ< A<180^\circ$ の点は第 2 象限にあって $x<0$ である。3 つの場合は重ならず、すべての $A$ をおおうので、「$A<90^\circ\iff\cos A>0$」「$A=90^\circ\iff\cos A=0$」「$A>90^\circ\iff\cos A<0$」が成り立つ。
段 2(1〜3)。cor-lch-angle により $\cos A=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}$ で、$2bc>0$ なので、$\cos A$ と $b^2+c^2-a^2$ の符号は同じである。段 1 と合わせて 1〜3 を得る。
段 3(最も長い辺)。$a$ が最も長い辺なら、$b\le a$ なので、$c^2+a^2-b^2\ge c^2>0$ である。段 2 の 1 を $B$ に使うと $B<90^\circ$ である。同じく $C<90^\circ$ である。したがって三角形が鋭角三角形であることは $A<90^\circ$、つまり $b^2+c^2>a^2$ と同値である。$\square$

2 は、三平方の定理 の逆「$b^2+c^2=a^2$ ならば $A=90^\circ$」を含んでいる。

三角形の種類を判定する
  1. 辺 $5,12,13$:$25+144=169=13^2$ なので直角三角形。
  2. 辺 $4,5,6$:最も長い辺 $6$ について $16+25=41>36$ なので鋭角三角形(ex-lch-456)。
  3. 辺 $2,3,4$:$4+9=13<16$ なので鈍角三角形(ex-lch-angle の (3))。
  4. 辺 $6,7,9$:$36+49=85>81$ なので鋭角三角形。辺 $6,7,10$:$85<100$ なので鈍角三角形。最も長い辺を $9$ から $10$ に伸ばすと、最大の角が $90^\circ$ を越える。

判定の境目 $b^2+c^2=a^2$ には、図形としての意味がある。

辺 BC を直径とする円

辺 $\mathrm{BC}$ の中点を $\mathrm M$ とし、$\mathrm M$ を原点、$\mathrm B(-h,0)$、$\mathrm C(h,0)$($a=2h$)、$\mathrm A(p,q)$ とおく。
$$ b^2+c^2-a^2=\bigl((p-h)^2+q^2\bigr)+\bigl((p+h)^2+q^2\bigr)-4h^2=2(p^2+q^2)-2h^2=2\left(\mathrm{MA}^2-\left(\frac a2\right)^2\right) $$
である。したがって $A$ が鋭角・直角・鈍角であることは、点 $\mathrm A$ が辺 $\mathrm{BC}$ を直径とする円の外側・円周上・内側にあることと同じである(図 3)。円周上で直角になるのは、直径に対する円周角が直角であること(Thales の定理)そのものである。同じ計算を整理した $b^2+c^2=2\mathrm{MA}^2+\dfrac{a^2}2$ は 中線定理 と呼ばれ、中線定理(高校数学) で扱う。

図3:辺 BC を直径とする円。点 A が円の内側にあれば角 A は鈍角、円周上なら直角、外側なら鋭角である 図3:辺 BC を直径とする円。点 A が円の内側にあれば角 A は鈍角、円周上なら直角、外側なら鋭角である

ベクトルの内積とのつながり

余弦定理の補正の項 $-2bc\cos A$ は、ベクトルの 内積 と呼ばれる量の $-2$ 倍である。この節では、平面のベクトルを成分で $\vec u=(u_1,u_2)$ と書き、その大きさを $\lvert\vec u\rvert=\sqrt{u_1^2+u_2^2}$ とする。$\vec 0$ でない 2 つのベクトル $\vec u,\vec v$ の なす角 $\theta$($0^\circ\le\theta\le180^\circ$)とは、原点 $\mathrm O$ から $\vec u,\vec v$ の終点 $\mathrm U(u_1,u_2)$、$\mathrm V(v_1,v_2)$ に引いた線分がつくる角 $\angle\mathrm{UOV}$ のことである。ただし、$\mathrm U,\mathrm V$ が $\mathrm O$ から見て同じ向きにあるとき(一直線上で同じ側)は $\theta=0^\circ$、反対向きにあるときは $\theta=180^\circ$ とする。

内積の 2 つの形は一致する

$\vec 0$ でない平面のベクトル $\vec u=(u_1,u_2)$、$\vec v=(v_1,v_2)$ のなす角を $\theta$ とすると
$$ \lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert\cos\theta=u_1v_1+u_2v_2 $$
である。

証明の要点:$\mathrm O,\mathrm U,\mathrm V$ が三角形をつくるときは、$\mathrm{UV}^2$ を thm-lch-main で $\lvert\vec u\rvert^2+\lvert\vec v\rvert^2-2\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert\cos\theta$ と表し、2 点間の距離の公式で
$$ \mathrm{UV}^2=(v_1-u_1)^2+(v_2-u_2)^2=\lvert\vec u\rvert^2+\lvert\vec v\rvert^2-2(u_1v_1+u_2v_2) $$
と表して比べればよい。一直線上にある場合($\theta=0^\circ,180^\circ$)は、$\vec v=k\vec u$ とおいて両辺を直接計算すれば確かめられる。高校の数学 C で内積 $\vec u\cdot\vec v=\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert\cos\theta$ を成分で計算できることの証明の全体と、内積の性質・使い方は、ベクトルの内積(高校数学)(定理「内積の成分表示」)で扱う。

内積で角を求める
  1. $\vec u=(4,0)$、$\vec v=(1,3)$。$u_1v_1+u_2v_2=4$、$\lvert\vec u\rvert=4$、$\lvert\vec v\rvert=\sqrt{10}$ なので $\cos\theta=\dfrac4{4\sqrt{10}}=\dfrac1{\sqrt{10}}$ である。これは 正弦定理(高校数学) の例「座標の三角形で確かめる」の三角形の角 $A$ で、$\sin A=\sqrt{1-\dfrac1{10}}=\dfrac3{\sqrt{10}}$ とも合う。
  2. $\vec u=(1,2)$、$\vec v=(3,-1)$。$u_1v_1+u_2v_2=3-2=1$、$\lvert\vec u\rvert=\sqrt5$、$\lvert\vec v\rvert=\sqrt{10}$ なので $\cos\theta=\dfrac1{\sqrt{50}}=\dfrac{\sqrt2}{10}$ で、$\theta$ は約 $81.87^\circ$ の鋭角である。
  3. $\vec u=(2,1)$、$\vec v=(-1,2)$。$u_1v_1+u_2v_2=-2+2=0$ なので $\cos\theta=0$、$\theta=90^\circ$ である。内積が $0$ であることが、2 つのベクトルが垂直であることの判定になる(cor-lch-type の 2 と同じ内容)。
長さから内積が決まる

prop-lch-inner の証明の要点で使った成分の式を、内積 $\vec u\cdot\vec v=u_1v_1+u_2v_2$ について解くと
$$ \vec u\cdot\vec v=\frac12\left(\lvert\vec u\rvert^2+\lvert\vec v\rvert^2-\lvert\vec u-\vec v\rvert^2\right) $$
となる。右辺は 3 つの長さだけで書かれている。つまり、長さが分かれば内積が分かり、内積が分かれば角が分かる。これが「3 辺で角が決まる」(cor-lch-angle)の正体である。大学ではこの式(や、同じ内容の $\vec u\cdot\vec v=\dfrac14\left(\lvert\vec u+\vec v\rvert^2-\lvert\vec u-\vec v\rvert^2\right)$)を 極化恒等式 と呼び、長さ(ノルム)から内積を復元する式として使う。
内積 $\vec u\cdot\vec v=u_1v_1+u_2v_2$ の定義と展開 $\lvert\vec v-\vec u\rvert^2=\lvert\vec u\rvert^2+\lvert\vec v\rvert^2-2\vec u\cdot\vec v$ は、成分の数を増やしても同じように成り立つ。空間のベクトル(3 成分)でも、さらに多くの成分をもつベクトルでも、余弦定理は内積の展開として成り立つ(内積)。関数を無限個の成分をもつベクトルとみて同じ展開を使う話は 関数の内積(高校数学) にある。

余弦が 1 を超えないこと

$\lvert\cos\theta\rvert\le1$ なので、prop-lch-inner から
$$ \lvert u_1v_1+u_2v_2\rvert\le\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert,\qquad\text{つまり}\qquad (u_1v_1+u_2v_2)^2\le(u_1^2+u_2^2)(v_1^2+v_2^2) $$
が従う。これは Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学) の 2 成分の場合である。逆に、Cauchy–Schwarz の不等式を先に証明しておけば、$\dfrac{\vec u\cdot\vec v}{\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert}$ は $-1$ 以上 $1$ 以下なので、これを $\cos\theta$ とおいて角を 定義 できる。成分の多いベクトルや関数には「角」の図がないので、大学ではこちらの順で角を定める。データの組を成分とみて同じ $\cos\theta$ を計算したものが 相関係数(高校数学) である。

3 辺から面積へ:Heron の公式への道

3 辺から角が決まる(cor-lch-angle)なら、面積も 3 辺で決まるはずである。面積の公式 $S=\dfrac12bc\sin A$(正弦定理(高校数学) の系「面積と外接円の半径」)と余弦定理を組み合わせて、実際に 3 辺で表す。

面積の 2 乗を 3 辺で表す

三角形 $\mathrm{ABC}$ の面積を $S$ とすると
$$ 16S^2=4b^2c^2-(b^2+c^2-a^2)^2=(a+b+c)(-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c) $$
である。

正弦を消して余弦で書く

方針:$S=\dfrac12bc\sin A$ を 2 乗し、$\sin^2A=1-\cos^2A$ で余弦に直してから、余弦定理で $\cos A$ を消す。最後に 2 乗の差の因数分解を 2 回使う。
段 1(2 乗する)。$S=\dfrac12bc\sin A$ の両辺を 2 乗して $16$ 倍すると $16S^2=4b^2c^2\sin^2A$ である。
段 2(余弦に直す)。$\sin^2A=1-\cos^2A$ なので
$$ 16S^2=4b^2c^2-4b^2c^2\cos^2A=4b^2c^2-(2bc\cos A)^2 $$
である。
段 3(余弦定理で消す)。thm-lch-main により $2bc\cos A=b^2+c^2-a^2$ なので、$16S^2=4b^2c^2-(b^2+c^2-a^2)^2$ である。
段 4(因数分解 1 回目)。$X^2-Y^2=(X+Y)(X-Y)$ を $X=2bc$、$Y=b^2+c^2-a^2$ に使うと
$$ 16S^2=(2bc+b^2+c^2-a^2)(2bc-b^2-c^2+a^2)=\bigl((b+c)^2-a^2\bigr)\bigl(a^2-(b-c)^2\bigr) $$
である。
段 5(因数分解 2 回目)。もう一度 2 乗の差を使うと
$$ (b+c)^2-a^2=(b+c+a)(b+c-a),\qquad a^2-(b-c)^2=(a-b+c)(a+b-c) $$
なので、$16S^2=(a+b+c)(-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)$ を得る。$\square$

Heron の公式

$s=\dfrac{a+b+c}2$(周の長さの半分)とおくと、$a+b+c=2s$、$-a+b+c=2(s-a)$、$a-b+c=2(s-b)$、$a+b-c=2(s-c)$ である。prop-lch-area に代入すると $16S^2=16s(s-a)(s-b)(s-c)$、つまり
$$ S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)} $$
となる。これが Heronの公式 である。3 辺から面積を求める公式は、余弦定理から「$\sin A$ を消す」ことで得られる。面積のほかの表し方(内接円の半径 $r$ を使う $S=rs$ など)とあわせて、三角形の面積の公式 でまとめて扱う。

3 辺から面積を求める
  1. 辺 $13,14,15$($a=13$、$b=14$、$c=15$)。$b^2+c^2-a^2=196+225-169=252$、$4b^2c^2=4\cdot196\cdot225=176400$ なので、$16S^2=176400-252^2=176400-63504=112896$、$S^2=7056$、$S=84$ である。Heron の公式では $s=21$、$S=\sqrt{21\cdot8\cdot7\cdot6}=\sqrt{7056}=84$ で一致する。
  2. 辺 $3,5,7$($a=7$、$b=3$、$c=5$)。$16S^2=4\cdot9\cdot25-(9+25-49)^2=900-225=675$ なので $S=\dfrac{\sqrt{675}}4=\dfrac{15\sqrt3}4$ である。ex-lch-357 の $A=120^\circ$ を使った $\dfrac12\cdot3\cdot5\cdot\sin120^\circ=\dfrac{15\sqrt3}4$ と一致する。

例と反例

外した仮定崩れる主張ボックス
$A$ が 2 辺 $b,c$ の 間の 角であること2 辺と 1 つの角から残りの辺が 1 つに決まるex-lch-ssa
3 辺が三角形をつくること(三角不等式)$\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}$ が $-1$ と $1$ の間にあり、角が求まるex-lch-no-triangle
平面の三角形であること$a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$ex-lch-sphere
反例:間の角でなければ辺は 1 つに決まらない

$a=\sqrt7$、$c=3$、$A=60^\circ$ の三角形の辺 $b$ を求める。$A$ は辺 $b$ と $c$ の間の角なので、余弦定理 $a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$ に代入すると
$$ 7=b^2+9-3b,\qquad b^2-3b+2=0,\qquad (b-1)(b-2)=0 $$
で、$b=1$ と $b=2$ の 2 つが出る。どちらも三角形をつくる($1+\sqrt7>3$、$2+\sqrt7>3$)。わかっていたのは 2 辺 $a,c$ と、その間ではない角 $A$ だったので、残りの辺は 1 つに決まらなかった。一方、2 辺とその 間の 角が分かっていれば、ex-lch-sas のように残りの辺は $a=\sqrt{b^2+c^2-2bc\cos A}$ でただ 1 つに決まる。同じ現象を正弦定理の側から見たものが 正弦定理(高校数学) の例「三角形が 2 つできる場合」である。

反例:三角形にならない 3 つの長さ

長さ $1,2,4$ で、$4$ の向かいの角の余弦を形式的に計算すると $\dfrac{1+4-16}{2\cdot1\cdot2}=-\dfrac{11}4<-1$ となる。$\cos\theta$ は $-1$ 以上なので(三角比と鈍角への拡張 の定理「三角比の相互関係」の 3)、そのような角はない。実際 $1+2<4$ なので、この 3 つの長さでは三角形ができない。
一般に、$-1<\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}<1$ を変形する($2bc>0$ を掛ける)。左の不等式は $-2bc< b^2+c^2-a^2$、つまり $a^2<(b+c)^2$ と同じであり、右の不等式は $b^2+c^2-a^2<2bc$、つまり $(b-c)^2< a^2$ と同じである。長さは正なので、あわせて $\lvert b-c\rvert< a< b+c$(三角不等式)になる。$1,2,4$ の例で崩れていたのは左の不等式で、$a< b+c$ が成り立っていなかった($4\ge1+2$)。
三角形があれば、余弦の値は $-1$ と $1$ の間に入る($0^\circ< A<180^\circ$ なので $\cos A\ne\pm1$)。したがって三角不等式が成り立つ。逆に、三角不等式を満たす 3 つの正の数からは三角形が実際に作れる。$-1< k<1$ となる $k=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}$ に対して $\cos A=k$ となる角 $A$ をとり、prf-lch-coord と同じく $\mathrm A(0,0)$、$\mathrm B(c,0)$、$\mathrm C(b\cos A,\ b\sin A)$ とおけば、同じ計算で $\mathrm{BC}^2=b^2+c^2-2bck=a^2$ となるからである($\sin A>0$ なので $\mathrm C$ は直線 $\mathrm{AB}$ の上にない)。用語解説 余弦定理 の命題「3 辺から三角形を作る」も同じ内容である。よって、3 辺から三角形がつくれることと、余弦の値が $-1$ と $1$ の間に入ることは同じ条件である。

反例:球面の上の三角形

半径 $1$ の球面の上で、北極と、赤道上の経度 $0^\circ$ の点、経度 $90^\circ$ の点を大円の弧で結ぶ。この三角形は 3 辺がどれも $\dfrac\pi2$(円周の $\dfrac14$)、3 つの角がどれも $90^\circ$ である。平面の余弦定理に当てはめると、左辺は $\left(\dfrac\pi2\right)^2=2.467\ldots$、右辺は $\left(\dfrac\pi2\right)^2+\left(\dfrac\pi2\right)^2-0=4.934\ldots$ で、成り立たない。球面では、辺の長さの余弦を使った別の形の余弦定理が成り立つ(rem-lch-noneuclid)。

数学オリンピックの問題から

1961 年第 2 問:辺の 2 乗の和と面積

余弦定理で辺の 2 乗を角で書き、面積の公式と組み合わせると、辺と面積の間の不等式が 2 変数の 2 次式の問題になる。

国際数学オリンピック(1961 年)第 2 問

Let $a$, $b$, $c$ be the sides of a triangle, and $T$ its area. Prove: $a^2+b^2+c^2\ge4\sqrt3\,T$. In what case does equality hold?
和訳:$a,b,c$ を三角形の 3 辺の長さ、$T$ をその面積とする。$a^2+b^2+c^2\ge4\sqrt3\,T$ を示せ。等号が成り立つのはどのような場合か。
出典:第 3 回国際数学オリンピック(1961 年)第 2 問(Oly61)。

高校数学で解く:a² を消して b, c の 2 次式にする

方針:$a^2$ を余弦定理で、$T$ を $\dfrac12bc\sin A$ で書き換えると、左辺 − 右辺は $b,c$ と $A$ の式になる。$\cos A+\sqrt3\sin A\le2$ を示せば、$2(b-c)^2\ge0$ に帰着する。
段 1(書き換える)。thm-lch-main により $a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$、面積の公式(正弦定理(高校数学) の系「面積と外接円の半径」)により $T=\dfrac12bc\sin A$ なので
$$ a^2+b^2+c^2-4\sqrt3\,T=(b^2+c^2-2bc\cos A)+b^2+c^2-2\sqrt3\,bc\sin A=2b^2+2c^2-2bc\,(\cos A+\sqrt3\sin A) $$
である。
段 2($\cos A+\sqrt3\sin A\le2$)。展開して $\cos^2A+\sin^2A=1$ を使うと
$$ (\cos A+\sqrt3\sin A)^2+(\sqrt3\cos A-\sin A)^2=4\cos^2A+4\sin^2A=4 $$
である($2\sqrt3\sin A\cos A$ の項は打ち消し合う)。第 2 項は $0$ 以上なので $(\cos A+\sqrt3\sin A)^2\le4$、よって $\cos A+\sqrt3\sin A\le2$ である。
段 3(不等式)。$bc>0$ なので、段 1・段 2 から
$$ a^2+b^2+c^2-4\sqrt3\,T\ge2b^2+2c^2-4bc=2(b-c)^2\ge0 $$
である。
段 4(等号)。等号が成り立つのは、段 3 の 2 つの不等号がどちらも等号のとき、つまり $\cos A+\sqrt3\sin A=2$ かつ $b=c$ のときである。前者は、段 2 により $\sqrt3\cos A-\sin A=0$、つまり $\tan A=\sqrt3$ と同じで(このとき $\cos A+\sqrt3\sin A=\dfrac12+\dfrac32=2$ となる)、$0^\circ< A<180^\circ$ では $A=60^\circ$ である。$b=c$ かつ $A=60^\circ$ の三角形は、残りの 2 つの角が等しく和が $120^\circ$ なので、正三角形である。逆に 1 辺 $a$ の正三角形では $T=\dfrac{\sqrt3}4a^2$ で、$3a^2=4\sqrt3\cdot\dfrac{\sqrt3}4a^2$ と等号が成り立つ。
よって $a^2+b^2+c^2\ge4\sqrt3\,T$ で、等号は正三角形のときに限る。$\square$

この不等式は Weitzenböck の不等式 と呼ばれる。

不等式を数値で確かめる
  1. 辺 $3,4,5$:$a^2+b^2+c^2=50$、$T=6$、$4\sqrt3\,T=24\sqrt3=41.56\ldots$ で、$50>41.56\ldots$ である。
  2. 辺 $3,5,7$:$a^2+b^2+c^2=83$、$T=\dfrac{15\sqrt3}4$(ex-lch-area)、$4\sqrt3\,T=45$ で、$83>45$ である。細長い三角形ほど左辺が大きく余る。
  3. 1 辺 $2$ の正三角形:$a^2+b^2+c^2=12$、$T=\sqrt3$、$4\sqrt3\cdot\sqrt3=12$ で等号である。
大学数学で見る:b, c の 2 次形式

段 1 の式 $2b^2-2(\cos A+\sqrt3\sin A)\,bc+2c^2$ は、$A$ を固定すると $b,c$ の 2 次形式(どの項も 2 次の多項式)である。2 次形式 $pb^2+qbc+rc^2$($p>0$)がすべての実数 $b,c$ で $0$ 以上になる条件は、判別式 $q^2-4pr\le0$ である(2次形式と2次曲線の判別式、2次方程式の判別式の正体)。ここでは $q^2-4pr=4(\cos A+\sqrt3\sin A)^2-16$ なので、条件は段 2 の $(\cos A+\sqrt3\sin A)^2\le4$ にちょうど一致する。段 2 の恒等式は、$(1,\sqrt3)$ と $(\cos A,\sin A)$ の 2 つのベクトルについての Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学) の等号の条件まで込めた形(Lagrange の恒等式)でもある。
この不等式は拡大・縮小で変わらないので、「$a^2+b^2+c^2$ が一定の三角形の中で、面積が最大になるのは正三角形」と読める。周の長さが一定の図形の中で面積が最大になるのは円である、という等周問題の、三角形版の 1 つである(等周不等式(高校数学))。

大学数学で見る

Gram 行列式と面積

$\vec u=\overrightarrow{\mathrm{AB}}$、$\vec v=\overrightarrow{\mathrm{AC}}$ とすると、$\lvert\vec u\rvert=c$、$\lvert\vec v\rvert=b$、$\vec u\cdot\vec v=bc\cos A$ である。これらを並べた行列 $G=\begin{pmatrix}\vec u\cdot\vec u&\vec u\cdot\vec v\\ \vec v\cdot\vec u&\vec v\cdot\vec v\end{pmatrix}$ を Gram 行列 という。その行列式は
$$ \det G=c^2b^2-b^2c^2\cos^2A=b^2c^2\sin^2A=4S^2 $$
で、面積の 2 乗の 4 倍である。rem-lch-polarization により $G$ の成分はすべて 3 辺の長さで書けるので、$4\det G=16S^2$ は prop-lch-area の左辺そのものになる。この見方は、$n$ 次元の単体(四面体など)の体積を頂点の間の距離だけで表す Cayley–Menger 行列式へと一般化される(Heronの公式とCayley–Menger行列式)。

球面と双曲平面の余弦定理

半径 $1$ の球面の三角形では
$$ \cos a=\cos b\cos c+\sin b\sin c\cos A $$
が、曲率 $-1$ の双曲平面の三角形では
$$ \cosh a=\cosh b\cosh c-\sinh b\sinh c\cos A $$
が成り立つ(Hit18 定理 6.3.14(a)(PDF 版 p. 148)、定理 5.4.12(a)(PDF 版 p. 114)。この記事では証明しない。$\cosh x=\dfrac{e^x+e^{-x}}2$、$\sinh x=\dfrac{e^x-e^{-x}}2$)。Hit18 の定理 6.3.14 は楕円幾何、つまり球面の向かい合う 2 点(対蹠点)を同じ点とみなしたモデルについての定理であるが、球面の上の三角形でも同じ式が成り立つ。ex-lch-sphere の三角形では、$\cos\dfrac\pi2=0$ なので球面の式は $0=0+1\cdot1\cdot0$ となり、成り立っている。辺が短い三角形では、$\cos x\approx1-\dfrac{x^2}2$、$\sin x\approx x$ を球面の式に代入して 2 次の項まで比べると $1-\dfrac{a^2}2\approx1-\dfrac{b^2+c^2}2+bc\cos A$ となり、平面の余弦定理に近づく。

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関連項目

参考文献

[1]
Euclid, translated with introduction and commentary by Thomas L. Heath, The Thirteen Books of Euclid's Elements, translated with introduction and commentary by T. L. Heath (3 vols., Cambridge University Press, 1908), Cambridge University Press, 1908, 第 II 巻 命題 12・13(Vol. I)

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