二重級数(double series)とは、2 つの添字をもつ数の並び $(a_{mn})$ の全体の和 $\sum_{m,n}a_{mn}$ のことで、長方形の部分和 $S_{M,N}=\sum_{m\le M}\sum_{n\le N}a_{mn}$ が $M,N\to\infty$ で近づく値として定める。行ごとに足してから足す累次和、列ごとの累次和、1 列に並べた級数の和は一般には一致しないが、項が $0$ 以上のときと絶対値の和が有限のときには、どれも有限部分和の上限で定まる同じ値になる。この順序交換は級数の積、冪級数の中心の移動、ゼータ関数の値の和、約数の個数の母関数などの計算に使われ、数え上げ測度についての Fubini の定理の特別な場合にあたる。
2 つの添字をもつ数の並び $a_{mn}$($m,n=1,2,3,\ldots$)を、無限の表とみてすべて足し合わせたい場面は多い。2 つの級数の積 $\bigl(\sum_mb_m\bigr)\bigl(\sum_nc_n\bigr)$ を展開すると $b_mc_n$ の表が現れ、冪級数の中心を移すと二項展開の表が現れ、ゼータ関数の値の和 $\sum_n(\zeta(n)-1)$ も $k^{-n}$ の表の和である。有限の表なら、行ごとに足しても列ごとに足しても和は同じである。無限の表ではそうとは限らない。
たとえば、対角線に $1$、そのすぐ右に $-1$ を並べ、ほかを $0$ とした表では、どの行の和も $1-1=0$ なので行ごとの和の和は $0$ であるが、列ごとに足すと第 1 列だけが $1$ で残りは $0$ なので、列ごとの和の和は $1$ である(Fubiniの定理 の記事の例「反例:絶対値の和が発散する二重数列」)。
この記事では、無限の表の和の 3 つの意味(長方形の部分和の極限、行または列ごとの累次和、1 列に並べた級数の和)を定め、項が $0$ 以上のときと、絶対値の和が有限のときには、それらがすべて一致することを証明する(thm-dser-nonnegative、thm-dser-absolute)。さらに、長方形の部分和が収束し各行が収束すれば、行ごとの累次和も同じ値になること(thm-dser-rows)を示す。
以下、$\mathbb{N}_+:=\{1,2,3,\ldots\}$ とし、数は実数または複素数とする。
写像 $\mathbb{N}_+\times\mathbb{N}_+\to\mathbb{C}$、$(m,n)\mapsto a_{mn}$ を 二重数列 といい、$(a_{mn})$ と書く。$M,N\ge1$ について
$$
S_{M,N}:=\sum_{m=1}^{M}\sum_{n=1}^{N}a_{mn}
$$
を 長方形の部分和 という。ある数 $S$ があって、任意の $\varepsilon>0$ に対し、$M,N\ge K$ ならば $|S_{M,N}-S|< \varepsilon$ となる $K$ が存在するとき、二重級数 $\sum_{m,n}a_{mn}$ は $S$ に 収束 するといい、$S$ をその和という。
この収束は、$M$ と $N$ を独立に大きくしたときの 2 変数の極限である。$M=N$ に限った正方形の部分和 $S_{N,N}$ が収束しても、二重級数が収束するとは限らない。たとえば $n\ge2$ で $a_{1n}=1$、$m\ge2$ で $a_{m1}=-1$、ほかを $0$ とすると、$S_{M,N}=(N-1)-(M-1)=N-M$ なので $S_{N,N}=0$ であるが、$S_{M,N}$ は収束しない。
項がすべて $0$ 以上のときは、値に $\infty$ も許す。$0$ 以上の項の級数は部分和が増加するので、和は $[0,\infty]$ の値として必ず定まる(級数 の記事の命題「正項級数の収束と部分和の有界性」)。行の和 $r_m$ に $\infty$ があれば $\sum_mr_m:=\infty$ と約束する。さらに
$$
T:=\sup\Bigl\{\sum_{(m,n)\in F}a_{mn}\Bigm|F\subset\mathbb{N}_+\times\mathbb{N}_+\text{ は有限集合}\Bigr\}\in[0,\infty]
$$
とおく。これは並べ方を使わずに定めた「表全体の和」である。
有限個の数の和は、どんな順に足しても同じである。無限の表の和が足し方によって変わるのは、正の部分と負の部分がそれぞれ $\infty$ になり、「$\infty-\infty$」を足し方ごとに違う値で打ち消しているときに限られる。冒頭の表では、$1$ も $-1$ も無限個あり、行ごとに足すと $-1$ が $1$ を 1 つずつ打ち消し、列ごとに足すと $1$ が 1 つ余る。
項が $0$ 以上なら打ち消し合いがないので、どの足し方でも結果は「表全体の和」$T$ になる。$T$ は有限個の項の和の上限であり、どの足し方も、有限個の和をだんだん大きくしていく操作にすぎないからである。絶対値の和が有限なら、正の部分と負の部分を別々に足してから引けばよいので、やはり足し方によらない。これは 絶対収束 の記事の定理「絶対収束する級数の並べ替え」の二重数列版であり、測度論の Fubiniの定理 を数え上げ測度に使ったものでもある。
すべての $m,n$ で $a_{mn}\ge0$ とする。次の値はすべて $T$ に等しい($\infty$ も含めて)。
2。部分和 $\sum_{k\le K}a_{\sigma(k)}$ は有限集合 $\sigma(\{1,\ldots,K\})$ の上の和なので $T$ 以下であり、$K$ について増加する。一方、有限集合 $F$ を任意にとると、$\sigma$ は全射なので、十分大きい $K$ で $F\subset\sigma(\{1,\ldots,K\})$ となり、項が $0$ 以上なので部分和は $\sum_Fa_{mn}$ 以上になる。よって部分和の極限は $T$ 以上かつ $T$ 以下で、$T$ に等しい。
3。$S_{M,N}$ は長方形の上の有限和なので $T$ 以下で、$M$ についても $N$ についても増加する。$T< \infty$ とし、$\varepsilon>0$ をとる。上限の定義から $\sum_Fa_{mn}>T-\varepsilon$ となる有限集合 $F$ があり、$F\subset\{1,\ldots,K\}^2$ となる $K$ がある。$M,N\ge K$ なら $T-\varepsilon< \sum_Fa_{mn}\le S_{M,N}\le T$ である。$T=\infty$ のときも、$L$ に対して $\sum_Fa_{mn}>L$ となる $F$ をとれば同じである。
1(行ごと)。$r_m:=\sum_na_{mn}\in[0,\infty]$ とおく。まず $T\le\sum_mr_m$ を示す。有限集合 $F$ が $\{1,\ldots,M\}\times\{1,\ldots,N\}$ に含まれるとすると、項が $0$ 以上なので
$$
\sum_{(m,n)\in F}a_{mn}\le\sum_{m=1}^{M}\sum_{n=1}^{N}a_{mn}\le\sum_{m=1}^{M}r_m\le\sum_{m=1}^{\infty}r_m
$$
である。$F$ について上限をとればよい。次に $\sum_mr_m\le T$ を示す。$M$ を固定すると、すべての $N$ で $\sum_{m\le M}\sum_{n\le N}a_{mn}=S_{M,N}\le T$ である。$N\to\infty$ とすると、各 $m$ で $\sum_{n\le N}a_{mn}\to r_m$ であり、有限個の和なので左辺は $\sum_{m\le M}r_m$ に近づく(ある $r_m$ が $\infty$ なら左辺も $\infty$ に近づき、$T=\infty$ となって不等式は自明である)。よって $\sum_{m\le M}r_m\le T$ であり、$M\to\infty$ として $\sum_mr_m\le T$ を得る。列ごとの累次和も、行と列の役割を入れ替えて同じである。
この定理は「$0$ 以上の項なら、和の順序を自由に入れ替えてよい」ことを述べている。値が $\infty$ の場合も含むので、収束を確かめる前に順序を入れ替えて計算してよい。
二重数列 $(a_{mn})$ が $\sum_m\sum_n|a_{mn}|< \infty$ を満たすとする(thm-dser-nonnegative により、これは $|a_{mn}|$ についての $T$、列ごとの累次和、1 列に並べた級数の和、長方形の部分和の極限のどれか 1 つが有限であることと同値である)。このとき次が成り立つ。
実数の場合。$a^+_{mn}:=\max(a_{mn},0)$、$a^-_{mn}:=\max(-a_{mn},0)$ とおくと、$a_{mn}=a^+_{mn}-a^-_{mn}$、$0\le a^\pm_{mn}\le|a_{mn}|$ である。thm-dser-nonnegative を $|a_{mn}|$、$a^+_{mn}$、$a^-_{mn}$ に使い、それぞれの「表全体の和」を $T_{|a|}$、$T^+$、$T^-$ とする。仮定から $T_{|a|}< \infty$ であり、有限集合の上の和を比べて $T^\pm\le T_{|a|}< \infty$ である。
1:$\sum_m\sum_n|a_{mn}|< \infty$ なので、各行で $\sum_n|a_{mn}|< \infty$ であり、$r_m$ は絶対収束する。$r^\pm_m:=\sum_na^\pm_{mn}$ とおくと、級数 の記事の命題「級数の線形性」により $r_m=r^+_m-r^-_m$ である。thm-dser-nonnegative により $\sum_mr^\pm_m=T^\pm$ は有限なので、再び線形性により $\sum_mr_m$ は収束して $T^+-T^-$ に等しい。$|r_m|\le\sum_n|a_{mn}|$ なので $\sum_m|r_m|\le T_{|a|}$ であり、絶対収束する。列も同じで、$\sum_nc_n=T^+-T^-$ である。
2:$\sum_k|a_{\sigma(k)}|=T_{|a|}< \infty$ なので絶対収束する。$\sum_ka^\pm_{\sigma(k)}=T^\pm$ と線形性から、和は $T^+-T^-$ である。
3:thm-dser-nonnegative の 3 により、長方形の部分和 $S^\pm_{M,N}$ は $T^\pm$ に収束する。$\varepsilon>0$ に対し、$M,N\ge K$ で $|S^+_{M,N}-T^+|< \varepsilon/2$、$|S^-_{M,N}-T^-|< \varepsilon/2$ となる $K$ をとると、$S_{M,N}=S^+_{M,N}-S^-_{M,N}$ から $|S_{M,N}-(T^+-T^-)|< \varepsilon$ である。
4:以上で、どの値も $T^+-T^-$ に等しい。
複素数の場合。$\operatorname{Re}a_{mn}$ と $\operatorname{Im}a_{mn}$ の絶対値は $|a_{mn}|$ 以下なので、どちらも仮定を満たす。実数の場合を実部と虚部に使い、$a_{mn}=\operatorname{Re}a_{mn}+i\operatorname{Im}a_{mn}$ と線形性で組み合わせればよい。絶対収束は $|r_m|\le\sum_n|a_{mn}|$ などから、実数の場合と同じく分かる。
仮定は、絶対値の表についてどれか 1 つの足し方で和が有限であることを確かめれば十分である。実際の計算では、絶対値について行ごとの和を求め、それが有限なら、元の表の和を列ごとに足してもよい、という使い方をする。
$\mathbb{N}_+\times\mathbb{N}_+$ を、空でない有限集合 $B_1,B_2,B_3,\ldots$ の互いに交わらない和集合に分ける。$a_{mn}\ge0$ であるか、$\sum_m\sum_n|a_{mn}|< \infty$ であるならば、
$$
\sum_{j=1}^{\infty}\Bigl(\sum_{(m,n)\in B_j}a_{mn}\Bigr)
$$
は thm-dser-nonnegative または thm-dser-absolute の共通の値に等しい(項が $0$ 以上のときは $\infty$ も許す)。
$B_1$ の元を任意の順に並べ、続けて $B_2$ の元を、と並べていくと、各 $B_j$ は有限で、全体は $\mathbb{N}_+\times\mathbb{N}_+$ なので、全単射 $\sigma\colon\mathbb{N}_+\to\mathbb{N}_+\times\mathbb{N}_+$ が得られる。問題の級数は、$\sum_ka_{\sigma(k)}$ の連続する項を順序を変えずに括弧でまとめたものである。$\sum_ka_{\sigma(k)}$ は共通の値に収束するので(thm-dser-nonnegative の 2、thm-dser-absolute の 2)、級数 の記事の命題「項をまとめても和は変わらない」により、まとめた級数も同じ値に収束する。値が $\infty$ の場合は、まとめた級数の部分和が元の部分和の部分列であることから同じく従う。
2 つの絶対収束する級数の積が、$b_mc_n$ の表をどう並べて足しても積に等しいこと(絶対収束 の記事の定理「絶対収束する級数の積」)は、thm-dser-absolute を $a_{mn}=b_mc_n$ に使ったものと同じ内容である。$m+n$ が一定の組ごとにまとめれば、同記事の系「Cauchy積の和」になる。
絶対値の和が有限でなくても、長方形の部分和が収束していれば、各行が収束する限り行ごとの累次和は同じ値になる。
二重級数 $\sum_{m,n}a_{mn}$ が $S$ に収束し、各 $m$ で行の級数 $r_m=\sum_na_{mn}$ が収束するならば、$\sum_mr_m$ は収束して $S$ に等しい。列についても同様である。
$\varepsilon>0$ をとり、$M,N\ge K$ ならば $|S_{M,N}-S|< \varepsilon$ となる $K$ をとる。$M\ge K$ を固定する。$N\to\infty$ とすると、各 $m\le M$ で $\sum_{n\le N}a_{mn}\to r_m$ なので、有限個の和 $S_{M,N}=\sum_{m\le M}\sum_{n\le N}a_{mn}$ は $\sum_{m\le M}r_m$ に近づく(数列の極限 の記事の命題「極限の四則演算」)。$N\ge K$ ではいつも $|S_{M,N}-S|< \varepsilon$ なので、極限で $\bigl|\sum_{m\le M}r_m-S\bigr|\le\varepsilon$ である。これがすべての $M\ge K$ で成り立つので、$\sum_mr_m=S$ である。
この定理は、関数の極限 の記事の定理「2 重極限と累次極限」の二重数列版である。行と列の両方が収束していれば、2 つの累次和はどちらも $S$ に等しい。逆に、2 つの累次和が存在して等しくても、二重級数が収束するとは限らない(ex-dser-table の 2 行目)。
$|x|<1$、$|y|<1$ とし、$a_{mn}:=x^my^n$ とする。$\sum_m\sum_n|x|^m|y|^n=\frac{|x|}{1-|x|}\cdot\frac{|y|}{1-|y|}< \infty$ なので(級数 の記事の定理「等比級数の和」)、thm-dser-absolute により、どの意味でも
$$
\sum_{m,n\ge1}x^my^n=\frac{xy}{(1-x)(1-y)}
$$
である。$x=y$ として $m+n=k$ の組($k-1$ 個)ごとにまとめると、cor-dser-blocks により $\sum_{k\ge2}(k-1)x^k=\frac{x^2}{(1-x)^2}$ を得る。
$\zeta(s)=\sum_{k\ge1}k^{-s}$($s>1$、Riemannゼータ関数)とする。$n\ge1$、$k\ge2$ について $a_{nk}:=k^{-2n}\ge0$ とおく。行ごとに足すと $\sum_kk^{-2n}=\zeta(2n)-1$ である。列ごとに足すと、等比級数の和により
$$
\sum_{n\ge1}k^{-2n}=\frac{k^{-2}}{1-k^{-2}}=\frac1{k^2-1}=\frac12\Bigl(\frac1{k-1}-\frac1{k+1}\Bigr)
$$
であり、$k=2,\ldots,K$ について足すと $\frac12\bigl(1+\frac12-\frac1K-\frac1{K+1}\bigr)$ なので、$K\to\infty$ で $\frac34$ になる。thm-dser-nonnegative により 2 つの累次和は等しいので
$$
\sum_{n=1}^{\infty}\bigl(\zeta(2n)-1\bigr)=\frac34
$$
である。$\sum_{n\ge2}(\zeta(n)-1)=1$(Fubiniの定理 の記事の例「二重級数の順序交換」)と合わせると、$\sum_{n\ge1}(\zeta(2n+1)-1)=1-\frac34=\frac14$ も分かる。
実数 $s$ について $\sum_{m,n\ge1}(m+n)^{-s}$ を考える。項は正なので、$B_k:=\{(m,n)\mid m+n=k\}$($k\ge2$、$k-1$ 個の元)ごとにまとめてよく(cor-dser-blocks)、
$$
\sum_{m,n\ge1}\frac1{(m+n)^s}=\sum_{k=2}^{\infty}\frac{k-1}{k^s}
$$
である。$s>2$ なら $\frac{k-1}{k^s}< \frac1{k^{s-1}}$ で $s-1>1$ なので、右辺は収束する(Riemannゼータ関数 の記事の定理「級数の収束」と、級数 の記事の定理「比較判定法」)。$s\le2$ なら $\frac{k-1}{k^s}\ge\frac{k-1}{k^2}\ge\frac1{2k}$ なので、調和級数 の記事の定理「調和級数の発散」により発散する。$s=3$ では右辺は $\sum_{k\ge2}\bigl(\frac1{k^2}-\frac1{k^3}\bigr)=\zeta(2)-\zeta(3)$ である。2 変数の和は、1 変数の $\sum k^{-s}$ より 1 だけ大きい $s$ でないと収束しない。
$|x|<1$ とし、$a_{mn}:=x^{mn}$ とおく。$\sum_n|x|^{mn}=\frac{|x|^m}{1-|x|^m}\le\frac{|x|^m}{1-|x|}$ なので $\sum_m\sum_n|a_{mn}|\le\frac{|x|}{(1-|x|)^2}< \infty$ である。行ごとに足すと $\sum_m\frac{x^m}{1-x^m}$ になる。一方、$mn=k$ となる組の集合 $B_k$ は $k$ の正の約数 $m$ と 1 対 1 に対応し、その個数は約数の個数 $d(k)$(約数関数)である。cor-dser-blocks により
$$
\sum_{m=1}^{\infty}\frac{x^m}{1-x^m}=\sum_{k=1}^{\infty}d(k)\,x^k\qquad(|x|<1)
$$
が成り立つ。$x=\frac12$ では、左辺は $1+\frac13+\frac17+\frac1{15}+\cdots$、右辺は $\frac12+\frac24+\frac28+\frac3{16}+\cdots$ で、どちらも $1.6066\ldots$ になる。
Taylor級数 の記事の系「冪級数の和は実解析的」は、冪級数 $\sum_ka_k(x-c)^k$ の各項を $x-c=(x-x_1)+(x_1-c)$ で二項展開した表に thm-dser-absolute を使い、和を $(x-x_1)$ の冪ごとに並べ直して、中心を $x_1$ に移した冪級数を得ている。
次の表の 1〜3 行目は thm-dser-absolute の仮定 $\sum_m\sum_n|a_{mn}|< \infty$ を外したもので、それぞれ別の結論が崩れる。4 行目は thm-dser-rows の仮定を外したものである。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 絶対値の和が有限 | $a_{mm}=-1$、$n< m$ で $a_{mn}=2^{n-m}$、$n>m$ で $a_{mn}=0$ | 2 つの累次和が一致すること(行ごとは $-2$、列ごとは $0$) |
| 絶対値の和が有限 | 対角線上の $2\times2$ の区画 $\begin{pmatrix}1&-1\\-1&1\end{pmatrix}$ を並べ、ほかは $0$ | 二重級数が収束すること(2 つの累次和はともに $0$) |
| 絶対値の和が有限 | 第 1 行だけ $a_{1n}=\frac{(-1)^{n+1}}n$、ほかは $0$ | 1 列に並べた級数の和が並べ方によらないこと |
| 各行の級数が収束する | 第 1 行 $a_{1n}=(-1)^n$、第 2 行 $a_{2n}=-(-1)^n$、ほかは $0$ | 行ごとの累次和が定まること(二重級数は $0$ に収束する) |
4 つの表を確かめる。どの表も絶対値の和は $\infty$ である。
1 行目:第 $m$ 行の和は $\sum_{n=1}^{m-1}2^{n-m}-1=(1-2^{1-m})-1=-2^{1-m}$ なので、行ごとの累次和は $\sum_m(-2^{1-m})=-2$ である。第 $n$ 列の和は $-1+\sum_{m>n}2^{n-m}=-1+1=0$ なので、列ごとの累次和は $0$ である。thm-dser-rows により、2 つの累次和が違うので二重級数は収束しない。
2 行目:$k\ge1$ について $a_{2k-1,2k-1}=a_{2k,2k}=1$、$a_{2k-1,2k}=a_{2k,2k-1}=-1$ とする。どの行もどの列も $1$ と $-1$ を 1 つずつ含むので、累次和はともに $0$ である。一方、正方形の部分和は $S_{2K,2K}=0$(区画が丸ごと入る)、$S_{2K-1,2K-1}=1$(第 $K$ 区画の左上の $1$ だけが入る)なので、二重級数は収束しない。2 つの累次和が存在して等しくても、二重級数の収束は従わない。
3 行目:行ごとの累次和、列ごとの累次和、二重級数の和はどれも交代調和級数の和 $\log2$ に等しい(調和級数 の記事の例「符号を交互にすると収束する」)。しかし交代調和級数は条件収束なので、絶対収束 の記事の定理「Riemannの再配列定理」により、和が任意の実数 $L$ となる並べ替えがある。第 1 行の項をその順に、残りの $0$ の項を間にはさみながら並べると、全単射 $\sigma$ で $\sum_ka_{\sigma(k)}=L$ となるものが作れる($0$ をはさんでも部分和は同じ値を繰り返すだけである)。
4 行目:$M\ge2$ なら第 1 行と第 2 行が打ち消し合うので $S_{M,N}=0$ であり、二重級数は $0$ に収束する。しかし第 1 行の級数 $\sum_n(-1)^n$ は収束しない。第 $n$ 列の和は $0$ なので、列ごとの累次和は $0$ で、二重級数の和と一致する。
1 行目の表は、thm-dser-nonnegative の「項が $0$ 以上」という仮定を外した反例にもなっている。$|a_{mn}|$ の表では行ごとの和がどれも $1+(1-2^{1-m})\ge1$ で、累次和は $\infty$ である。
$\mathbb{N}_+\times\mathbb{N}_+$ に数え上げ測度を入れると、$0$ 以上の二重数列の積分は $T$ であり、thm-dser-nonnegative の 1 は Tonelli の定理、thm-dser-absolute の 1・4 は Fubini の定理の特別な場合である(Fubiniの定理)。この記事の証明は測度論を使わず、有限部分和の上限 $T$ だけで済ませている。可積分性の条件 $\int|f|< \infty$ が、ここでは $\sum_m\sum_n|a_{mn}|< \infty$ にあたる。
thm-dser-nonnegative の証明は、添字の集合が $\mathbb{N}_+\times\mathbb{N}_+$ であることを、有限集合が長方形に含まれることと、全単射 $\sigma$ が存在することにしか使っていない。$\mathbb{N}_+^3$ などの可算集合 $J$ についても、有限部分和の上限で $\sum_{j\in J}a_j$ を定めれば、同じ議論で、どの並べ方・どの順の累次和もこの値に等しい。ex-dser-lambert のように、添字を積や和で分類してまとめる計算はすべてこの形である。
絶対値の和が有限な二重級数で 2 つの累次和が等しいことは Rud76 Theorem 8.3(p. 175)にあり、そこでは 1 点だけを集積点にもつ集合の上の連続関数の一様収束を使って証明されている。同じ形が Leb2 Theorem 11.3.5(Fubini for sums、p. 157)にある。項が $0$ 以上の場合と、1 列に並べた級数を含む形は Leb Exercise 2.6.15(p. 112)の演習であり、Rud76 Chapter 8 Exercise 3(p. 196)も項が $0$ 以上の場合の順序の交換を演習にしている。表の 1 行目の配列は Rud76 Chapter 8 Exercise 2(p. 196)による。この記事の 3 つの定理と系には、ここで証明を与えた。
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