同種写像(isogeny)とは、楕円曲線やアーベル多様体の間の全射準同型で核が有限なものをいう。複素数体上では、指数有限な格子の包含 $\Lambda\subset\Lambda'$ から $z\mapsto z$ が誘導する $\mathbb{C}/\Lambda\to\mathbb{C}/\Lambda'$ が典型例である。次数は合成で掛け算になり、次数 $d$ の同種写像 $\varphi$ には $\widehat{\varphi}\circ\varphi=[d]$ を満たす双対同種写像 $\widehat{\varphi}$ がある。標数 $p>0$ では非分離的な同種写像があり、核の幾何学的な点の個数が次数より小さくなり得る。
楕円曲線は曲線であると同時に可換群でもある。二つの楕円曲線を群構造ごと比較するとき、全ての点を一対一に対応させる同型より少し緩い関係が役に立つ。同種写像は、有限個の元だけを核として潰し、行き先の曲線全体を覆う準同型である。複素数上では、平面を格子で割ったトーラスの間の有限枚の写像として見える。一方、正標数では「核が有限」という言葉を点の有限集合だけで理解すると、写像の次数を読み違える。核は有限群スキームとして捉える必要がある(Silverman09 III.4、StacksAV §39.9)。
同種写像を知ると、楕円曲線の有理点・捩れ点・L関数を別の曲線と比較する道筋が見える。ただし二つの曲線が同種であるとは、曲線として同型だという意味ではない。同種写像は次数が $1$ より大きくてよく、有限な核を持つ。この差を、格子の具体例、乗法写像、標数による振る舞いで確かめる(EoMIsogeny)。
体 $k$ 上のアーベル多様体 $A,B$ を取る。これは滑らかで射影的な可換群多様体である。射 $\varphi:A\to B$ が群法則を保つとは、任意の拡大体上の点について $\varphi(x+y)=\varphi(x)+\varphi(y)$ が成り立つことをいい、群スキームの準同型として定式化する。零元を $0_A,0_B$ とすれば $\varphi(0_A)=0_B$ である。
体 $k$ 上のアーベル多様体 $A,B$ の間の群スキーム準同型 $\varphi:A\to B$ が同種写像であるとは、$\varphi$ が全射で、その核 $\ker\varphi=A\times_{B,0_B}\operatorname{Spec}k$ が $k$ 上有限であることをいう。楕円曲線は一次元のアーベル多様体なので、楕円曲線間にも同じ定義を使う。
全射と核の有限性を両方入れるのが大切である。たとえば零写像 $A\to B$ は $B$ が非自明なら全射ではない。包含 $A\hookrightarrow A\times C$ は核が自明でも、$C$ が非自明なら全射でない。また、$A$ が正の次元なら零写像 $A\to0$ は全射でも核 $A$ が有限でない。これらの例は、どちらか一方だけでは同種写像を特徴づけないことを示す。
非自明なアーベル多様体間の同種写像は、相対次元を増減させない。実際、全射性により $\dim A\geq\dim B$、有限な核と群法則により全ての幾何学的な繊維は零次元で、$\dim A=\dim B$ となる。逆に同じ次元のアーベル多様体の準同型が有限な核を持てば、その像は同じ次元の閉部分群となり、標的が連結なので全体を覆う。この逆向きの判定には像の閉性など代数幾何の事実を使う。同じ次元という条件を落として「有限核だけ」と言うことはできない。
楕円曲線 $E,E'$ の場合、非定数の曲線射 $E\to E'$ が零元を零元に送れば、群法則を保つ同種写像になる。非定数な射影曲線間の射は有限かつ全射であり、零元を保つ射が準同型になることには楕円曲線の群法則の性質を使う(Silverman09 III.4)。ただし一般のアーベル多様体では「非定数」だけでは全射も次元一致も保証しない。一次元の場合の簡便な言い換えを高次元へそのまま移してはいけない。
同種写像は有限射であり、単なる点集合として有限対一である以上の条件を満たす。群構造により、標的の点 $b$ の繊維は、ある前像 $a$ を選べば $a+\ker\varphi$ に対応する。したがって全ての繊維は核の平行移動である。この説明は幾何学的な点の集合としては明瞭だが、正標数では核のスキーム構造まで保持することが必要になる。
有限射の次数は、同種写像の大きさを測る基本量である。有限平坦な射では、$\varphi_*\mathcal O_A$ の局所自由加群としての階数が次数 $\deg\varphi$ になる。複素数上の楕円曲線では、各繊維は異なる点を $\deg\varphi$ 個持つ。一方、正標数で非分離的な射の繊維は非被約になり得るので、幾何学的な点を数えるだけでは次数にならない。$\#\ker\varphi(\bar k)$ と $\deg\varphi$ を無条件に等号で結ばない。
$\varphi:A\to B$ と $\psi:B\to C$ が同種写像なら、合成 $\psi\circ\varphi:A\to C$ も同種写像である。代数閉体上で、両者の核がすべてエタールな場合には
$$
\#\ker(\psi\circ\varphi)(k)
=\#\ker\varphi(k)\,\#\ker\psi(k)
$$
が成り立つ。
全射の合成は全射で、群準同型の合成も群準同型である。合成の核は $\varphi^{-1}(\ker\psi)$ である。有限射 $\varphi$ の下で有限スキーム $\ker\psi$ の逆像は有限なので、合成も同種写像となる。点数の式については、$k$ が代数閉であるため $\varphi(k):A(k)\to B(k)$ は全射であり、核の制限から群の完全列
$$
0\longrightarrow\ker\varphi(k)
\longrightarrow\ker(\psi\circ\varphi)(k)
\xrightarrow{\varphi}\ker\psi(k)
\longrightarrow0
$$
を得る。右端の全射性は、$b\in\ker\psi(k)$ の前像 $a\in A(k)$ を取り、$\psi\varphi(a)=\psi(b)=0$ と確かめればよい。有限群の完全列の位数を掛け合わせると式が従う。エタール性の仮定により、これらの位数は核スキームの次数とも一致する。$\square$
一般の体では、有限局所自由射の次数について $\deg(\psi\circ\varphi)=\deg\psi\,\deg\varphi$ が成り立つ。これは局所自由加群の階数の積から従うが、点数の証明と混同しない。前の命題で明示した点数の等式は代数閉体とエタール核の下で安全に使える形である。
複素楕円曲線は解析的には $E(\mathbb C)\cong\mathbb C/\Lambda$ と書ける。ここで $\Lambda=\mathbb Z\omega_1+\mathbb Z\omega_2$ は実一次独立な二つの複素数で張る格子である。加法は複素数の加法を商へ降ろしたものになる。二つの格子 $\Lambda\subset\Lambda'$ の指数 $d=[\Lambda':\Lambda]$ が有限なら、恒等写像 $z\mapsto z$ は商の間に
$$
q:\mathbb C/\Lambda\longrightarrow\mathbb C/\Lambda',
\qquad z+\Lambda\longmapsto z+\Lambda'
$$
を定める。$z$ の代表元を $\Lambda$ の元だけ変えても $\Lambda'$ の剰余類は同じなので、写像は well-defined である。これは複素トーラスの正則群準同型で、複素楕円曲線の同種写像を与える(Silverman09 VI、III.4)。
上の $q$ は全射で、$\ker q\cong\Lambda'/\Lambda$ は位数 $d$ の有限群である。従って $q$ は複素楕円曲線の次数 $d$ の同種写像である。
任意の $z+\Lambda'$ は $z+\Lambda$ の像なので $q$ は全射である。$z+\Lambda$ が零元 $0+\Lambda'$ に送られることと $z\in\Lambda'$ は同値であるから、核は $\Lambda'$ の元を $\Lambda$ で割った群 $\Lambda'/\Lambda$ に一致する。指数が $d$ なので核は $d$ 個の点を持つ。複素数上ではこの写像は非分岐の有限被覆で、繊維は核の平行移動だから各繊維は $d$ 個の点を持つ。したがって有限射の次数も $d$ である。$\square$
たとえば $\Lambda=\mathbb Z+i\mathbb Z$、$\Lambda'=\tfrac12\mathbb Z+i\mathbb Z$ とすると $\Lambda\subset\Lambda'$ の指数は $2$ である。核は $0+\Lambda$ と $\tfrac12+\Lambda$ からなる。従って同種写像 $\mathbb C/\Lambda\to\mathbb C/\Lambda'$ は次数 $2$ だが、同型ではない。この例では定義域と値域のトーラスを別の格子表示で与えているので、同種写像が必ず自己写像であると考える必要もない。
格子による説明は $z\mapsto z$ に限らない。複素数 $c\ne0$ が $c\Lambda\subseteq\Lambda'$ を満たせば、$z+\Lambda\mapsto cz+\Lambda'$ が定まる。核は $c^{-1}\Lambda'/\Lambda$ であり、$c\Lambda$ の $\Lambda'$ における指数と同じ位数を持つ。逆に、複素トーラスの零元を保つ正則群準同型は、被覆空間 $\mathbb C$ へ持ち上げると複素線形写像 $z\mapsto cz$ になる。従って複素数上の楕円曲線の同種写像は格子の有限指数包含として把握できる。方程式の係数を直接比べるより、核の形や次数が読みやすい場合がある。
次数だけでは核の群構造は決まらない。たとえば $[2]$ は次数 $4$ で核が $(\mathbb Z/2\mathbb Z)^2$ だが、$\Lambda=\mathbb Z+i\mathbb Z$ と $\Lambda''=\tfrac14\mathbb Z+i\mathbb Z$ の包含から作る次数 $4$ の写像の核は $\Lambda''/\Lambda\cong\mathbb Z/4\mathbb Z$ である。どちらも四枚の有限被覆であっても、一方は零でない核元が全て位数 $2$、他方には位数 $4$ の元がある。特に「次数 $d$ の同種写像」という情報だけで核を指定したつもりにならない。
逆向きの同種写像も構成できる。指数 $d$ の包含では $d\Lambda'\subseteq\Lambda$ なので $z+\Lambda'\mapsto dz+\Lambda$ が定まる。これを $q$ の後に合成すると $z+\Lambda\mapsto dz+\Lambda$、すなわち $[d]$ になる。格子の場合に見えたこの構図は、一般の楕円曲線の双対同種写像に対応する。ただし格子を $d$ 倍する具体式は複素表示を選んだから書けるもので、任意の体上でこの式をそのまま使うわけではない。
アーベル多様体 $A$ に対し、整数 $n\geq1$ 倍写像 $[n]:A\to A$ は点 $a$ を $a+\cdots+a$($n$ 項)に送る群準同型である。$A$ の次元を $g$ とすると $[n]$ は有限局所自由で次数 $n^{2g}$、かつ全射である(StacksAV Lemma 39.9.8、Proposition 39.9.11)。よって $[n]$ は同種写像となる。特に楕円曲線では $g=1$ だから次数は $n^2$ である。
複素楕円曲線 $E=\mathbb C/\Lambda$ では、この次数を格子だけで検算できる。$[n](z+\Lambda)=nz+\Lambda$ の核は
$$
E[n]=(\tfrac1n\Lambda)/\Lambda
\cong(\mathbb Z/n\mathbb Z)^2
$$
である。$\Lambda$ の二つの基底係数をそれぞれ $n$ で割ると剰余が $n$ 通りずつあり、核は $n^2$ 個の異なる点からなる。
$E=\mathbb C/(\mathbb Z\omega_1+\mathbb Z\omega_2)$ と $n\geq1$ に対し、$[n]:E\to E$ は次数 $n^2$ の同種写像で、その核は $(\mathbb Z/n\mathbb Z)^2$ である。
$[n](z+\Lambda)=0$ は $nz\in\Lambda$ と同値なので、$z=(a\omega_1+b\omega_2)/n$ と書ける。$a,b$ をそれぞれ $n$ を法として変えたものだけが同じ剰余類になり、核の群構造は $(\mathbb Z/n\mathbb Z)^2$ である。$[n]$ は任意の $w+\Lambda$ に対し $w/n+\Lambda$ を前像に持つので全射である。複素トーラスの有限被覆として全繊維が $n^2$ 個の点を持ち、次数も $n^2$ となる。$\square$
正標数では、この最後の「$n^2$ 個の異なる点」という結論に条件が付く。$\operatorname{char}k=p>0$ で $p\mid n$ なら、$[n]$ の微分は接空間上で $n$ 倍、したがって零になる場合がある。$[p]$ は非エタールで、核の群スキーム次数は $p^{2g}$ のままでも、幾何学的な点の個数はそれより小さくなり得る(StacksAV Lemmas 39.9.9–10)。楕円曲線では通常型と超特異型で $p$ 捩れ点の様子が異なるが、いずれも核を群スキームとして数えると次数は $p^2$ である。
逆に $n$ が $k$ で可逆、すなわち標数が $n$ を割らなければ、$[n]$ はエタールである。代数閉体上ではその核の点群は $(\mathbb Z/n\mathbb Z)^{2g}$ になる(StacksAV Proposition 39.9.11)。こうして同じ乗法写像でも、次数、群スキームとしての核、点として見える捩れ群を区別して読める。
ここで「非エタール」を「全射でない」と読み替えてはいけない。$[p]$ は正標数でもアーベル多様体からそれ自身への全射であり、群スキームとしての核は有限である。失われるのは、有限核を異なる幾何学的な点の集合として数える性質である。例えば代数閉体上の楕円曲線で $[p]$ の次数は $p^2$ だが、その核の点群は型によって $p$ 個または一個になり得る。この不一致はスキーム論的な重なりを反映し、同種写像の定義自体に例外が生じたわけではない。正標数の具体例を読むときは、射の次数を述べているのか、幾何学的な核の点数を述べているのかを先に見分ける。
楕円曲線の同種写像 $\varphi:E\to E'$ が次数 $d$ を持つとき、逆写像が存在するとは限らない。それでも $E'$ から $E$ へ戻る双対同種写像 $\widehat\varphi:E'\to E$ があり、
$$
\widehat\varphi\circ\varphi=[d]_E,
\qquad
\varphi\circ\widehat\varphi=[d]_{E'}
$$
を満たす(Silverman09 III.6)。これは一般には $\widehat\varphi\circ\varphi=\mathrm{id}$ という意味ではない。右辺は $d$ 倍写像であり、$d>1$ なら通常は同型でない。複素格子の包含の例では、先ほどの逆向きの $d$ 倍を使う写像がこの性質を目に見える形で示した。
「$E$ と $E'$ が同種である」とは、どちらかの向きに同種写像が存在することをいう。恒等写像は次数 $1$ の同種写像なので反射的であり、合成命題から推移的である。双対同種写像により楕円曲線では対称性も成り立つ。したがって同種性は楕円曲線の同値関係である。ただし同じ同種類に属することと同型であることを混同しない。先の指数 $2$ の格子例は、次数 $2$ の写像が同型ではないという差を具体化している。
体を拡大したときの言い方にも注意がいる。$k$ 上の同種写像は基底変換後も同種写像を与える。一方、$\bar k$ 上で同種である二曲線が、もとの $k$ 上でも同種であるとは自動的にはいえない。射そのものが $k$ 上で定義されるかを確かめる必要がある。算術で「$k$ 上で同種」と記すのは、この区別を明示するためである。
さらに、スキームの射としての全射性と、有理点上の群準同型 $\varphi:A(k)\to B(k)$ の全射性も別の主張である。$b\in B(k)$ の幾何学的な前像は存在しても、その前像が $k$ で定義されるとは限らない。代数閉体上では閉点が全て $k$ 有理なのでこの区別は見えにくいが、数体や有限体の上では重要になる。たとえば $[n]:A\to A$ は同種写像であっても、任意の $k$ 有理点が $n$ 倍に割れるとは限らない。点群の商 $A(k)/nA(k)$ を調べる算術では、まさにこの持ち上げの可否が問題になる。
同種写像は群構造と幾何学的な次元を保ちながら、有限核を許す。対象の位相や方程式の係数をそのまま保存する、という意味ではない。複素トーラスでは、格子を有限指数で変えても有限被覆で結ばれることが同種性に当たる。楕円曲線の方程式が異なっていても、同種写像が存在する場合がある。
群準同型であるという条件も欠かせない。楕円曲線には、点 $P$ による平行移動 $t_P(Q)=Q+P$ という曲線の自己同型がある。$P\ne0$ なら $t_P(0)=P$ なので零元を保たず、群準同型ではない。次数は $1$ であり各点を一対一に移すが、この定義では同種写像ではない。逆に、零元を保つ曲線の同型は群同型で、次数 $1$ の同種写像である。曲線としての射、群としての射、同種写像という三段階を区別することで、例えば座標変換や平行移動を同種写像と取り違えずに済む。
一方、同種写像の定義だけから「同型である」「核の幾何学的な点数は次数に等しい」「任意の非定数写像が同種写像である」とは言えない。最後の言い換えは零元を保つ楕円曲線間の射という条件のもとで使う。より高次元のアーベル多様体、正標数の非分離的な射、体上の定義の問題では、条件を一つずつ確かめる必要がある。
同種写像は 楕円曲線 から アーベル多様体 へ視野を広げる際の基本語であり、有限射、捩れ点、双対性を一つの構図に置く。Mordell–Weilの定理 のように曲線上の有理点を調べる話題でも、点群を比較する写像として現れる。まず零元を保つ群準同型か、全射か、核が群スキームとして有限かを順に見れば、同種写像であることを過不足なく判定できる。
同種写像の定義の各条件と、本文の命題の仮定を一つずつ外した反例を並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 全射(def-isogeny) | 包含 $A\to A\times C$、$a\mapsto(a,0)$($\dim C>0$) | 同種写像である(核は自明なのに) |
| 核が有限(def-isogeny) | 射影 $A\times C\to A$($\dim C>0$) | 同種写像である(全射なのに) |
| 零元を保つ(群準同型) | 平行移動 $t_P$($P\ne0$) | 同種写像である(次数 $1$ の全単射なのに) |
| 一次元(「非定数なら同種写像」) | $E\times E\to E\times E$、$(x,y)\mapsto(x,0)$ | 非定数の準同型は同種写像 |
| 核がエタール(点数と次数の一致) | 標数 $p$ の超特異楕円曲線の $[p]$ | $\#\ker\varphi(\bar k)=\deg\varphi$ |
| 代数閉体(有理点の上での全射) | $\mathbb F_3$ 上 $y^2=x^3-x$ の $[2]$ | $\varphi:A(k)\to B(k)$ が全射 |
各行の確認は次のとおりである。
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