Hilbert直和

同義語:Hilbert direct sumHilbert sumヒルベルト直和Hilbert和

概要

Hilbert直和(Hilbert direct sum)とは、Hilbert 空間 $H$ を、互いに直交する閉部分空間の族 $(E_i)_{i\in I}$ で有限和の全体が $H$ で稠密なものに分けること、また Hilbert 空間の族から $\sum_i\|x_i\|^2<\infty$ をみたす元の族を集めて作る Hilbert 空間のことである。前者では各元が直交射影の無順序和 $x=\sum_iP_{E_i}x$ にただ一通りに展開され、$\|x\|^2=\sum_i\|P_{E_i}x\|^2$(Bessel–Parseval の等式)が成り立つ。二つの見方は内積を保つ同型で同一視される。正規直交基底による展開は各成分が 1 次元の場合であり、コンパクト自己共役作用素の固有空間による分解もこの形に書ける。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Hilbert空間, 直交射影, 直交補空間, Besselの不等式

Hilbert 直和(Hilbert direct sum)とは、Hilbert 空間を互いに直交する閉部分空間の族に分けること、また逆に、Hilbert 空間の族から 2 乗総和可能な元の族を集めて一つの Hilbert 空間を作ることである。$\mathbb{R}^3$ を直交する直線と平面に分ければ、どのベクトルも二つの成分の和にただ一通りに書け、長さの 2 乗は成分の長さの 2 乗の和になる。Hilbert 直和はこれを無限個の成分へ広げたもので、分解は無限和になる。
無限個の部分空間を扱うとき、有限和だけを集めた代数的な直和は一般に閉じていない。たとえば成分が $1,\frac12,\frac13,\dots$ と無限に続くベクトルは、有限和では書けない。そこで、部分空間の有限和の全体が稠密であることを要求し、各ベクトルを部分空間への直交射影の無限和として表す。正規直交基底による展開は、各部分空間が 1 次元の場合にあたる。一般の Hilbert 直和は、コンパクト自己共役作用素の固有空間分解や、$L^2(\mathbb{R})$ を区間ごとに分ける分解のように、成分そのものが無限次元の場合も扱える。
この記事では、無順序和を使って添字集合を任意にし、射影による展開と Parseval の等式、直和であるための判定、部分空間の内側から見た直和と族から作る直和の同一視を証明する。

定義

以下、$F$ は $\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$、$H$ は $F$ 上の Hilbert空間 とする。内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ は第 1 変数について線形、第 2 変数について共役線形とし、$\|x\|=\sqrt{\langle x,x\rangle}$ とおく。閉部分空間 $E\subset H$ への直交射影を $P_E$ と書く。$P_E x$ は、$P_Ex\in E$ かつ $x-P_Ex\in E^\perp$ をみたすただ一つの元である(Hilbert空間 の定理「直交射影と直交分解」)。

無順序和

添字集合 $I$ は可算とは限らないので、和を添字の順序によらない形で定める。

無順序和

$X$ をノルム空間、$(x_i)_{i\in I}$ を $X$ の元の族とする。$I$ の有限部分集合 $J$ について $S_J:=\sum_{i\in J}x_i$ とおく。$x\in X$ が次をみたすとき、無順序和 $\sum_{i\in I}x_i$ は $x$ に 収束する といい、$\sum_{i\in I}x_i=x$ と書く:任意の $\varepsilon>0$ に対し有限集合 $J_0\subset I$ があって、$J_0\subset J$ をみたす任意の有限集合 $J\subset I$ について $\|x-S_J\|<\varepsilon$ となる。

極限はあれば一つである。$T\colon X\to Y$ が有界線形写像で $\sum_ix_i=x$ なら、$\|Tx-\sum_{i\in J}Tx_i\|\le\|T\|\,\|x-S_J\|$ から $\sum_iTx_i=Tx$ である。とくに $H$ では各 $y$ について $\langle\sum_ix_i,y\rangle=\sum_i\langle x_i,y\rangle$ である。$I=\{1,2,\dots\}$ のとき、無順序和が $x$ に収束すれば、級数 $\sum_{n=1}^\infty x_n$ は項をどう並べ替えても $x$ に収束する。非負の実数の族 $(a_i)$ については、$\sum_ia_i$ を有限部分和の上限 $\sup_J\sum_{i\in J}a_i\in[0,\infty]$ と定める。上限が有限なら、上の意味の収束と一致する。

内部の Hilbert 直和

Hilbert直和

$(E_i)_{i\in I}$ を $H$ の閉部分空間の族とする。次の 2 条件がみたされるとき、$H$ は $(E_i)$ の Hilbert 直和 であるといい、$H=\widehat{\bigoplus}_{i\in I}E_i$ と書く。

  1. $i\ne j$ なら $E_i\perp E_j$、すなわち $u\in E_i$、$v\in E_j$ について $\langle u,v\rangle=0$ である。
  2. $E_i$ たちの有限個の元の和の全体 $\sum_iE_i$(代数的な和)は $H$ で稠密である。

記号 $\widehat{\bigoplus}$ の代わりに、$\bigoplus$ や $\overline{\bigoplus}$ を使う文献も多い(Bre11 §5.4、p. 141 は可算族について $\bigoplus$ と書く)。各 $E_i$ が $\{0\}$ であってもよい。$I$ が有限なら、2 の代数的な和はそれ自身閉じている(prop-hds-finite)ので、条件 2 は $H=E_1+\dots+E_n$ と同じである。

族から作る Hilbert 直和

族から作る Hilbert直和

$(H_i)_{i\in I}$ を $F$ 上の Hilbert 空間の族とする。$x_i\in H_i$ の族 $x=(x_i)_{i\in I}$ で $\sum_{i\in I}\|x_i\|^2<\infty$ をみたすもの全体を
$$ \widehat{\bigoplus}_{i\in I}H_i $$
と書き、成分ごとの和とスカラー倍、および内積
$$ \langle x,y\rangle:=\sum_{i\in I}\langle x_i,y_i\rangle $$
を入れたものを、族 $(H_i)$ の Hilbert 直和 という。すべての $H_i$ が $F$ のとき、これを $\ell^2(I)$ と書く。

$\|x_i+y_i\|^2\le2\|x_i\|^2+2\|y_i\|^2$ と $|\langle x_i,y_i\rangle|\le\frac12(\|x_i\|^2+\|y_i\|^2)$ から、和と内積は意味をもつ(内積の和は $F$ の中で絶対収束する)。$\ell^2(\{1,2,\dots\})$ は通常の数列空間 $\ell^2$ である。$j\in I$ について、$v\in H_j$ を「第 $j$ 成分が $v$、ほかの成分が $0$」の族に送る写像を $\iota_j\colon H_j\to\widehat{\bigoplus}_iH_i$ と書く。これは内積を保つ線形写像である。

直交する族の和

直交する族の無順序和

$(x_i)_{i\in I}$ を $H$ の元の族とし、$i\ne j$ なら $x_i\perp x_j$ とする。

  1. 無順序和 $\sum_ix_i$ が収束するための必要十分条件は、$\sum_i\|x_i\|^2<\infty$ である。
  2. このとき $\bigl\|\sum_ix_i\bigr\|^2=\sum_i\|x_i\|^2$ である。
  3. このとき $x_i\ne0$ となる $i$ は高々可算個である。
Pythagoras の定理と完備性

有限集合 $J,K\subset I$ について、$S_J-S_K=\sum_{i\in J\setminus K}x_i-\sum_{i\in K\setminus J}x_i$ は互いに直交する元の有限和なので、Pythagoras の定理から
$$ \|S_J-S_K\|^2=\sum_{i\in J\triangle K}\|x_i\|^2,\qquad \|S_J\|^2=\sum_{i\in J}\|x_i\|^2 $$
である($J\triangle K$ は対称差)。以下、この 2 式を (1) と呼ぶ。
1 の「十分」:$s:=\sum_i\|x_i\|^2<\infty$ とする。$s$ は有限部分和の上限なので、各 $n\ge1$ について有限集合 $J_n$ で $\sum_{i\in J_n}\|x_i\|^2>s-n^{-2}$ となるものがとれ、$J_1\subset J_2\subset\cdots$ としてよい。すると $J_n$ と交わらない有限集合 $L$ について $\sum_{i\in L}\|x_i\|^2< n^{-2}$ である。$J,K\supset J_n$ なら $J\triangle K$ は $J_n$ と交わらないので、(1) から $\|S_J-S_K\|<1/n$ である。とくに $(S_{J_n})_n$ は Cauchy 列であり、$H$ の完備性から極限 $x$ をもつ。$J\supset J_n$ なる有限集合 $J$ と $m\ge n$ について $\|S_J-S_{J_m}\|<1/n$ なので、$m\to\infty$ として $\|S_J-x\|\le1/n$ である。よって $\sum_ix_i=x$ である。
1 の「必要」:$\sum_ix_i=x$ とすると、有限集合 $J_0$ で、$J\supset J_0$ なら $\|x-S_J\|<1$ となるものがある。任意の有限集合 $J$ について、(1) から $\sum_{i\in J}\|x_i\|^2\le\|S_{J\cup J_0}\|^2\le(\|x\|+1)^2$ なので、$\sum_i\|x_i\|^2<\infty$ である。
2:1 の証明の記号で、$\|S_{J_n}\|^2=\sum_{i\in J_n}\|x_i\|^2\to s$ かつ $S_{J_n}\to x$ である。
3:各 $k\ge1$ について $\|x_i\|>1/k$ となる $i$ は $k^2s$ 個以下なので、$x_i\ne0$ となる $i$ はそれらの可算和に含まれる。$\square$

$I=\{1,2,\dots\}$ の場合の 1・2 は Bre11 Lemma 5.1(pp. 141–142)にある。収束はノルムでの収束であり、$\sum_i\|x_i\|<\infty$(絶対収束)までは言えない。$\ell^2$ の $x_n=\frac1ne_n$($e_n$ は第 $n$ 成分だけが $1$ の数列)では $\sum\|x_n\|^2=\sum\frac1{n^2}<\infty$ だが $\sum\|x_n\|=\sum\frac1n=\infty$ である(Bre11 Remark 9、p. 143)。

主定理:射影による展開と Parseval の等式

直交射影による展開

$(E_i)_{i\in I}$ を $H$ の閉部分空間の族で、$i\ne j$ なら $E_i\perp E_j$ とする。$P_i:=P_{E_i}$ とおき、$M$ を代数的な和 $\sum_iE_i$ の閉包とする。

  1. すべての $x\in H$ について $\sum_i\|P_ix\|^2\le\|x\|^2$ であり、無順序和 $\sum_iP_ix$ は $P_Mx$ に収束する。
  2. $H=\widehat{\bigoplus}_iE_i$ なら、すべての $x,y\in H$ について
    $$ x=\sum_{i\in I}P_ix,\qquad \|x\|^2=\sum_{i\in I}\|P_ix\|^2,\qquad \langle x,y\rangle=\sum_{i\in I}\langle P_ix,P_iy\rangle $$
    である。
  3. $x_i\in E_i$ の族について無順序和 $\sum_ix_i$ が $x$ に収束するなら、すべての $i$ について $x_i=P_ix$ である。とくに 2 の展開はただ一通りである。
有限部分和は有限個の成分への射影である

1:有限集合 $J\subset I$ について $S_J:=\sum_{i\in J}P_ix$ とおく。$j\in J$ と $v\in E_j$ について、$i\ne j$ なら $P_ix\in E_i\perp E_j$ なので
$$ \langle x-S_J,v\rangle=\langle x-P_jx,v\rangle-\sum_{i\in J,\ i\ne j}\langle P_ix,v\rangle=0 $$
である。とくに $x-S_J$ は $S_J$ と直交し、Pythagoras の定理と lem-hds-orthogonal-sum の (1) から
$$ \|x\|^2=\|x-S_J\|^2+\|S_J\|^2\ge\sum_{i\in J}\|P_ix\|^2 $$
である。$J$ について上限をとれば $\sum_i\|P_ix\|^2\le\|x\|^2$ を得る。$P_ix$ たちは互いに直交するので、lem-hds-orthogonal-sum により $S:=\sum_iP_ix$ が収束する。
$S=P_Mx$ を示す。$S_J$ は $\sum_iE_i$ に属するので、その極限 $S$ は $M$ に属する。$j\in I$ と $v\in E_j$ を固定すると、$j\in J$ なるすべての有限集合 $J$ で $\langle x-S_J,v\rangle=0$ である。$\{j\}$ を含む十分大きい $J$ で $S_J$ は $S$ に近いので、内積の連続性から $\langle x-S,v\rangle=0$ である。よって $x-S$ は $\sum_iE_i$ と直交し、内積の連続性からその閉包 $M$ とも直交する。$S\in M$ かつ $x-S\in M^\perp$ なので、直交射影の一意性から $S=P_Mx$ である。
2:$H=\widehat{\bigoplus}_iE_i$ なら $M=H$、$P_M$ は恒等写像なので、1 から $x=\sum_iP_ix$ である。ノルムの等式は lem-hds-orthogonal-sum の 2 である。内積については、無順序和と有界線形汎関数 $\langle\cdot,y\rangle$ の交換から $\langle x,y\rangle=\sum_i\langle P_ix,y\rangle$ であり、$P_ix\in E_i$ と $y-P_iy\in E_i^\perp$ から $\langle P_ix,y\rangle=\langle P_ix,P_iy\rangle$ である。
3:$j\in I$ を固定する。$i\ne j$ なら $x_i\in E_i\subset E_j^\perp$ なので $P_jx_i=0$ であり、$P_jx_j=x_j$ である。$P_j$ は有界線形なので無順序和と交換し、$P_jx=\sum_iP_jx_i=x_j$ である。$\square$

$I=\{1,2,\dots\}$ の場合は Bre11 Theorem 5.9(pp. 141–143)であり、1 の後半(稠密性を仮定しない場合の極限が $P_Mx$ であること)もその証明の中で示されている。2 の等式を Bessel–Parseval の等式 ともいう。
1 の不等式は、Besselの不等式 の部分空間版である。各 $E_i$ が単位ベクトル $e_i$ の張る直線 $Fe_i$ なら $P_ix=\langle x,e_i\rangle e_i$ であり、1・2 は正規直交系についての Bessel の不等式と Parseval の等式そのものになる(ex-hds-onb)。

Hilbert 直和であることの判定

Hilbert直和の判定

$(E_i)_{i\in I}$ を $H$ の閉部分空間の族で、$i\ne j$ なら $E_i\perp E_j$ とする。次は同値である。

  1. $H=\widehat{\bigoplus}_iE_i$ である。
  2. すべての $E_i$ と直交する $H$ の元は $0$ だけである。
  3. すべての $x\in H$ について $\|x\|^2=\sum_i\|P_ix\|^2$ である。
  4. 部分集合 $D\subset H$ で、$D$ の有限線形結合の全体が $H$ で稠密であり、すべての $x\in D$ について $\|x\|^2=\sum_i\|P_ix\|^2$ となるものがある。
等号が成り立つ元は閉包 $M$ に入る

要点:4 ⇒ 1 では、等号が成り立つ元が $M$ に入ることを thm-hds-expansion の 1 から読む。

詳しい証明を開く

$M$ を $\sum_iE_i$ の閉包とする。

1 ⇔ 2:$x$ がすべての $E_i$ と直交することは $x\in(\sum_iE_i)^\perp=M^\perp$ と同じである。$M^\perp=\{0\}$ と $M=H$ は同値である(Hilbert空間 の系「稠密な部分空間の判定」)。

1 ⇒ 3 は thm-hds-expansion の 2、3 ⇒ 4 は $D=H$ とすればよい。

4 ⇒ 1:$x\in D$ とする。thm-hds-expansion の 1 と lem-hds-orthogonal-sum の 2 から $\|P_Mx\|^2=\sum_i\|P_ix\|^2=\|x\|^2$ である。一方 $x-P_Mx\perp P_Mx$ なので $\|x\|^2=\|P_Mx\|^2+\|x-P_Mx\|^2$ であり、$x=P_Mx\in M$ を得る。$M$ は $D$ を含む閉部分空間なので、$D$ の有限線形結合の全体の閉包、すなわち $H$ を含む。$\square$

4 は Bre11 Exercise 5.27(p. 154)の主張であり、$D$ 自身が部分空間である必要はない。Parseval の等式は、稠密な部分集合の上で確かめれば足りる。

有限個の場合

直交する閉部分空間の有限和

$E_1,\dots,E_n$ が $H$ の閉部分空間で、互いに直交するなら、代数的な和 $E_1+\dots+E_n$ は閉部分空間である。

証明を開く

$n=2$ で示せば、帰納法で一般の場合になる($E_1+\dots+E_{n-1}$ と $E_n$ も直交する)。$u_k+v_k$($u_k\in E_1$、$v_k\in E_2$)が $H$ で $w$ に収束するとする。Pythagoras の定理から $\|(u_k+v_k)-(u_l+v_l)\|^2=\|u_k-u_l\|^2+\|v_k-v_l\|^2$ なので、$(u_k)$、$(v_k)$ はともに Cauchy 列であり、閉部分空間 $E_1,E_2$ の中の極限 $u,v$ をもつ。よって $w=u+v\in E_1+E_2$ である。$\square$

これは Bre11 Exercise 5.17(p. 151)である。直交性を外すと、二つの閉部分空間の和でも閉じているとは限らない(ex-hds-counterexamples の 4 行目)。

二つの見方の同一視

族の Hilbert 直和は Hilbert 空間である

$(H_i)_{i\in I}$ を Hilbert 空間の族とし、$K:=\widehat{\bigoplus}_iH_i$ とおく。

  1. $K$ は Hilbert 空間である。
  2. 各 $\iota_j(H_j)$ は $K$ の閉部分空間で、$K=\widehat{\bigoplus}_j\iota_j(H_j)$(内部の Hilbert 直和)である。
  3. 逆に $H=\widehat{\bigoplus}_iE_i$ なら、$U\colon H\to\widehat{\bigoplus}_iE_i$、$Ux:=(P_ix)_{i\in I}$ は内積を保つ線形な全単射である。
成分ごとの極限と有限個の成分での打ち切り

要点:完備性は成分ごとの極限を有限部分和で評価して示し、3 は thm-hds-expansion と lem-hds-orthogonal-sum から従う。

詳しい証明を開く

1:内積の公理は成分ごとの公理から従う。$(x^{(n)})_n$ を $K$ の Cauchy 列とする。各 $i$ で $\|x^{(n)}_i-x^{(m)}_i\|\le\|x^{(n)}-x^{(m)}\|$ なので、$(x^{(n)}_i)_n$ は $H_i$ の Cauchy 列で、極限 $x_i$ をもつ。$\varepsilon>0$ に対し $N$ を、$n,m\ge N$ なら $\|x^{(n)}-x^{(m)}\|<\varepsilon$ となるようにとる。有限集合 $J$ について $\sum_{i\in J}\|x^{(n)}_i-x^{(m)}_i\|^2<\varepsilon^2$ であり、$m\to\infty$ として $\sum_{i\in J}\|x^{(n)}_i-x_i\|^2\le\varepsilon^2$ である。$J$ について上限をとると $\sum_i\|x^{(n)}_i-x_i\|^2\le\varepsilon^2$ なので、$x^{(n)}-x\in K$、したがって $x=(x_i)\in K$ であり、$n\ge N$ で $\|x^{(n)}-x\|\le\varepsilon$ である。

2:$\iota_j$ は内積を保つので、$\iota_j(H_j)$ は完備、したがって閉である。$j\ne k$ なら成分の位置が違うので $\iota_j(H_j)\perp\iota_k(H_k)$ である。$x\in K$ と有限集合 $J$ について $x-\sum_{j\in J}\iota_j(x_j)$ は $J$ の外の成分だけをもち、そのノルムの 2 乗は $\sum_{i\notin J}\|x_i\|^2$ である。$J$ を大きくとればこれはいくらでも小さいので、代数的な和 $\sum_j\iota_j(H_j)$ は稠密である。

3:thm-hds-expansion の 2 から $\sum_i\|P_ix\|^2=\|x\|^2<\infty$ なので $Ux\in\widehat{\bigoplus}_iE_i$ であり、$U$ は線形で、同じ定理の内積の等式から内積を保つ。とくに単射である。$(x_i)\in\widehat{\bigoplus}_iE_i$ が与えられたとき、$x_i$ たちは互いに直交し $\sum_i\|x_i\|^2<\infty$ なので、lem-hds-orthogonal-sum により $x:=\sum_ix_i$ が収束し、thm-hds-expansion の 3 から $P_ix=x_i$、すなわち $Ux=(x_i)$ である。$\square$

このため、内部と族から作る二つの Hilbert 直和は、内積を保つ同型を通して同じものとみなされる。$I$ が有限なら、族の Hilbert 直和は代数的な直和 $H_1\oplus\dots\oplus H_n$ に内積 $\sum_k\langle x_k,y_k\rangle$ を入れたものであり、直和 の記事のベクトル空間の直和と同じ元からなる。$I$ が無限で、$H_i\ne\{0\}$ となる $i$ が無限個あるときは、有限個を除いて $0$ である族だけを集めた代数的な直和は $K$ の真の稠密部分空間になる(ex-hds-not-algebraic)。

例

正規直交基底と $\ell^2(I)$

$(e_i)_{i\in I}$ を $H$ の正規直交系とし、$E_i:=Fe_i$ とおく。$E_i$ は閉で互いに直交し、$P_ix=\langle x,e_i\rangle e_i$、$\|P_ix\|=|\langle x,e_i\rangle|$ である。$H=\widehat{\bigoplus}_iFe_i$ であることは、$e_i$ たちの有限線形結合が稠密であること、すなわち $(e_i)$ が完全正規直交系(Hilbert空間 の定義「完全正規直交系」)であることと同じである。このとき thm-hds-expansion は
$$ x=\sum_{i\in I}\langle x,e_i\rangle e_i,\qquad\|x\|^2=\sum_{i\in I}|\langle x,e_i\rangle|^2 $$
を与え、prop-hds-external の 3 は $x\mapsto(\langle x,e_i\rangle)_{i\in I}$ が $H$ から $\ell^2(I)$ への内積を保つ全単射であることを与える。$I=\{1,2,\dots\}$ の場合は Bre11 Corollary 5.10(p. 143)である。完全正規直交系の添字集合の濃度は $H$ だけで決まり、これが Hilbert次元 である。

区間ごとの分解

$H=L^2(\mathbb{R})$ とし、$n\in\mathbb{Z}$ について $E_n:=\{f\in H\mid [n,n+1)\text{ の外でほとんど至るところ }f=0\}$ とおく。$P_nf=f\chi_{[n,n+1)}$($\chi$ は特性関数)であり、$E_n$ は閉で互いに直交する。単調収束定理から
$$ \|f\|^2=\int_{\mathbb{R}}|f|^2\,dx=\sum_{n\in\mathbb{Z}}\int_n^{n+1}|f|^2\,dx=\sum_{n\in\mathbb{Z}}\|P_nf\|^2 $$
なので、thm-hds-criterion の 3 により $L^2(\mathbb{R})=\widehat{\bigoplus}_{n\in\mathbb{Z}}E_n$ である。各成分 $E_n$ は $L^2([n,n+1))$ と同じもので、無限次元である。

$P_nf=f\chi_{[n,n+1)}$ の確かめ

掛け算作用素 $M_nf:=f\chi_{[n,n+1)}$ は $\|M_nf\|\le\|f\|$ をみたす有界作用素で、$E_n=\ker(I-M_n)$ なので $E_n$ は閉である。$g:=M_nf$ は $E_n$ に属し、$f-g$ は $[n,n+1)$ の上で $0$ なので、任意の $v\in E_n$ について $\langle f-g,v\rangle=\int(f-g)\bar v\,dx=0$ である。よって $g=P_nf$ である。

コンパクト自己共役作用素の固有空間

$H$ を複素 Hilbert 空間、$T$ をコンパクトな自己共役作用素とし、$\lambda_1,\lambda_2,\dots$ を $T$ の相異なる $0$ でない固有値とする。スペクトル定理 の定理「コンパクト自己共役作用素のスペクトル定理」により、固有空間 $\ker(T-\lambda_k)$ たちは互いに直交し、それらの代数的な和の閉包は $(\ker T)^\perp$ である。$\ker T$ はそれらすべてと直交するので、
$$ H=\ker T\ \widehat{\oplus}\ \widehat{\bigoplus}_{k}\ker(T-\lambda_k) $$
(右辺は $\ker T$ と固有空間たちを並べた族の Hilbert 直和)となる。thm-hds-expansion から $x=P_0x+\sum_kP_kx$($P_0,P_k$ は $\ker T$、$\ker(T-\lambda_k)$ への直交射影)であり、$T$ は有界なので $Tx=\sum_k\lambda_kP_kx$ である。$\ker T$ は無限次元でもよい。$H$ が可分な実 Hilbert 空間の場合のこの分解は Bre11 Theorem 6.11 の証明(p. 167)にある。

代数的な直和は閉じていない

$H=\widehat{\bigoplus}_{n\ge1}E_n$ で、無限個の $n$ について $E_n\ne\{0\}$ とする。そのような $n$ を $n_1< n_2<\cdots$ とし、単位ベクトル $u_k\in E_{n_k}$ をとる。$\sum_k\|u_k/k\|^2=\sum_k1/k^2<\infty$ なので、lem-hds-orthogonal-sum により $x:=\sum_ku_k/k$ が収束し、thm-hds-expansion の 3 から $P_{n_k}x=u_k/k\ne0$ がすべての $k$ で成り立つ。代数的な和 $\sum_nE_n$ の元は有限個の $n$ を除いて $P_nx=0$ をみたすので、$x$ は代数的な和に属さない。一方 $\sum_k\|P_{n_k}x\|=\sum_k1/k=\infty$ であり、展開 $x=\sum_nP_nx$ は絶対収束しない。

仮定を外すと成り立たなくなること

外す条件反例成り立たなくなること
部分空間どうしの直交性$\mathbb{R}^2$ の $E_1=\mathbb{R}(1,0)$、$E_2=\mathbb{R}(1,1)$展開 $x=P_1x+P_2x$ と Parseval の等式
代数的な和の稠密性$\ell^2$ の偶数番目の座標軸 $E_n=Fe_{2n}$展開 $x=\sum_nP_nx$
空間の完備性有限個を除いて $0$ である数列の空間 $c_{00}$ と $E_n=Fe_n$族の Hilbert 直和との同一視($U$ の全射性)
部分空間どうしの直交性$\ell^2\times\ell^2$ の $M=\ell^2\times\{0\}$ と、$T(x_n)=(x_n/n)$ のグラフ $N$二つの閉部分空間の和が閉であること
表の反例の確かめ
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1 行目:$E_1+E_2=\mathbb{R}^2$ なので和は稠密である。$x=(1,0)$ について $P_1x=(1,0)$、$P_2x=(\frac12,\frac12)$ であり、$P_1x+P_2x=(\frac32,\frac12)\ne x$、$\|P_1x\|^2+\|P_2x\|^2=\frac32\ne1=\|x\|^2$ である。

2 行目:$E_n$ は閉で互いに直交するが、$e_1$ はすべての $E_n$ と直交するので $\sum_nP_ne_1=0\ne e_1$ である。

3 行目:$c_{00}$ は $\ell^2$ の内積をもつ内積空間で、完備でない(Hilbert空間 の例「反例:完備でない内積空間 $c_{00}$」)。$E_n=Fe_n$ は $c_{00}$ の閉部分空間で、互いに直交し、代数的な和は $c_{00}$ 全体である。$x\in c_{00}$ について $P_nx=x_ne_n$ であり、$U\colon c_{00}\to\ell^2(\{1,2,\dots\})=\ell^2$ は $x$ をその成分の列に送る。$(1/n)_n\in\ell^2$ は有限個を除いて $0$ ではないので、$U$ の像に入らない。

4 行目:$T$ は $\|T\|\le1$ の有界作用素なので、グラフ $N=\{(x,Tx)\}$ は閉である。$M$ も閉で、$\langle(x,0),(x,Tx)\rangle=\|x\|^2$ なので $M$ と $N$ は直交しない。$M+N=\{(u+x,Tx)\}=\ell^2\times T(\ell^2)$ である。$T(\ell^2)$ は有限個を除いて $0$ である数列をすべて含むので $\ell^2$ で稠密だが、$(1/n)_n=T(1,1,\dots)$ の形にしか書けず $(1,1,\dots)\notin\ell^2$ なので、$(1/n)_n\notin T(\ell^2)$ である。よって $M+N$ は稠密で $\ell^2\times\ell^2$ と異なり、閉でない。

関連項目

参考文献

[1]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Springer, 2011, §5.4:Hilbert 和の定義(p. 141)、Theorem 5.9・Lemma 5.1(pp. 141–143)、Corollary 5.10・Remark 9(p. 143)、Exercise 5.17(p. 151)、Exercise 5.27(p. 154)、Theorem 6.11 の証明(p. 167)

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