NBG集合論(von Neumann–Bernays–Gödel set theory)とは、集合のほかにクラスを対象として認め、あるクラスの元になるクラスを集合とよぶ集合論の公理系で、集合については ZFC の公理を課し、クラスを作る内包の公理では論理式の量化を集合に限るものである。ZFC のモデルに定義可能な部分集合をクラスとして加えると NBG のモデルになるので、完全性定理により、集合についての文に関して NBG は ZFC の保存拡大であり、両者は等無矛盾である。内包の公理図式は有限個のその例から導けるので、ZF と違って NBG は有限個の公理で書ける。
前提知識: ZFC公理系, クラス(集合論), Gödelの完全性定理
NBG 集合論(von Neumann–Bernays–Gödel set theory)は、集合のほかに「クラス」を対象として認める集合論の公理系である。ZFC公理系 ではクラスは論理式の言い換えにすぎないが、NBG ではクラスを変数で動かし、「すべてのクラス $X$ について」を一つの文で書ける。その代わり、新しいクラスを作る内包の公理では、論理式の中の量化を集合に限る。この制限のおかげで、NBG は集合についての文に関しては ZFC とちょうど同じことを証明し、しかも有限個の公理で書ける。
この記事では、NBG を定義し、二つの主定理を証明する。一つは、ZFC のモデルに定義可能な部分集合をクラスとして付け加えると NBG のモデルになることで、ここから NBG が ZFC の保存拡大であることが従う。もう一つは、内包の公理図式が有限個のその例から導けること(有限公理化)である。
NBG の言語は、等号と二項関係記号 $\in$ だけをもつ一階の言語で、変数はすべてクラスを動く。クラス $X$ が集合であるとは、$X\in Y$ となるクラス $Y$ があることをいい、集合でないクラスを真のクラスという(Kun80 Ch. I §12, p. 35)。小文字の変数 $x,y,\dots$ は集合を動くものとし、$\exists x\,\varphi$ は「集合であるクラス $x$ で $\varphi$ を満たすものがある」の略記とする。量化がすべて集合の変数についてのものである論理式を述語的な論理式という。述語的な論理式はクラスの変数を自由変数(パラメータ)として含んでよい。
次の公理からなる理論を NBG という。
(a) クラスの外延性:同じ元をもつクラスは等しい。
(b) 集合について、ZFC公理系 の公理 (i) 外延性、(ii) 基礎、(iv) 対、(v) 合併、(vi) 冪集合、(vii) 無限、(ix) 選択(変数を集合の変数として読む)。
(c) 分出:クラス $X$ と集合 $a$ に対し、$X\cap a=\{y\mid y\in X\land y\in a\}$ は集合である。
(d) 置換:クラス $F$ が関数(順序対のクラスで、各 $x$ に対し $\langle x,y\rangle\in F$ となる $y$ が高々一つ)なら、各集合 $a$ に対し $F[a]=\{y\mid\exists x\in a\ \langle x,y\rangle\in F\}$ は集合である。
(e) クラスの内包図式:述語的な論理式 $\varphi(y,\vec p,\vec Y)$ に対し、$\forall\vec p\,\forall\vec Y\,\exists X\,\forall y\,\bigl(y\in X\leftrightarrow\varphi(y,\vec p,\vec Y)\bigr)$。
この形は ZFC公理系 の定義「NBG と MK」と同じである。(e) で作るクラスは (a) により一意なので $\{y\mid\varphi(y)\}$ と書く。$X$ の元はすべて集合なので、$y$ を集合の変数にしても失うものはない。(e) の $\varphi$ にクラスの量化を許した体系が Morse–Kelley集合論 である。Kun80 Ch. I §12(p. 35)は (b) に選択公理を含めずに NBG を述べている。
ZFC の文は、変数を集合の変数として読めば NBG の文である。このような、集合の変数だけを含む文を集合についての文という。ZFC の文 $\sigma$ を NBG の中で読んだものは、$\sigma$ の量化を「集合である」に制限した相対化(ZFC公理系 の定義「相対化と公理の充足」)にほかならない。
(e) により、すべての集合のクラス $V=\{y\mid y=y\}$、すべての順序数のクラス $\mathrm{Ord}$、所属関係のクラス $E=\{z\mid\exists x\,\exists y\,(z=\langle x,y\rangle\land x\in y)\}$ がある。「$y$ は順序数である」は集合の量化だけで書けるからである。
Russell のクラス $R=\{y\mid y\notin y\}$ も (e) によりクラスとして存在するが、真のクラスである。実際、$R$ が集合なら $R$ は $y$ に代入でき、$R\in R\leftrightarrow R\notin R$ となって矛盾する。NBG では、Russell の逆理は「$R$ は集合ではない」という定理になる。同様に $V$ も真のクラスである($V$ が集合なら (c) により $R=R\cap V$ が集合になる)。
ZFC が証明する集合についての文は NBG でも証明できる(ZFC公理系 の定理「ZFC の定理は NBG の定理である」)。逆向きを示すために、ZFC のモデルから NBG のモデルを作る。
構造 $\mathfrak A=(A,E)$($E$ が $\in$ の解釈)について、$A$ の部分集合 $D$ が定義可能であるとは、集合論の言語の論理式 $\psi(x,\vec q)$ と $\vec b\in A$ があって $D=\{a\in A\mid\mathfrak A\models\psi[a,\vec b]\}$ となることをいう(パラメータ $\vec b$ を許す点を除けば 一階述語論理 の定義「定義可能な関係」と同じ)。定義可能な部分集合の全体を $\mathrm{Def}(\mathfrak A)$ と書き、$a\in A$ について $\operatorname{ext}(a)=\{b\in A\mid b\mathrel{E}a\}$ とおく。$\operatorname{ext}(a)$ は論理式 $x\in q$ で定義される。$\mathfrak A$ が外延性を満たせば $a\mapsto\operatorname{ext}(a)$ は単射である。
構成。 $\mathfrak A$ が外延性と対の公理を満たすとする。$P=\{D\in\mathrm{Def}(\mathfrak A)\mid D\text{ はどの }\operatorname{ext}(a)\text{ とも等しくない}\}$ とし、$A$ と $P$ の非交和を台集合とする構造 $\mathcal N(\mathfrak A)$ を、所属関係を次で定めて作る:$a,b\in A$ については $a\in b\iff a\mathrel{E}b$、$a\in A$ と $D\in P$ については $a\in D\iff a\in D$($A$ の部分集合としての所属)、$P$ の元はどの元にも属さない。$X\in\mathcal N(\mathfrak A)$ の元全体は、$X=a\in A$ なら $\operatorname{ext}(a)$、$X=D\in P$ なら $D$ である。これを $\operatorname{ext}(X)$ と書く。
$\mathfrak A=(A,E)$ を外延性と対の公理を満たす構造とする。
集合についての文 $\sigma$ について、$\mathsf{NBG}\vdash\sigma$ と $\mathsf{ZFC}\vdash\sigma$ は同値である。特に、NBG と ZFC は等無矛盾である。
$\mathsf{ZFC}\vdash\sigma$ なら $\mathsf{NBG}\vdash\sigma$ であることは上に引いた。逆に $\mathsf{NBG}\vdash\sigma$ とし、$\mathfrak A$ を ZFC の任意のモデルとする。thm-nbg-model により $\mathcal N(\mathfrak A)$ は NBG のモデルなので、健全性により $\mathcal N(\mathfrak A)$ は $\sigma$ の相対化を満たし、同定理の 1 により $\mathfrak A\models\sigma$ である。$\mathfrak A$ は任意なので $\sigma$ は ZFC の論理的帰結であり、Gödelの完全性定理 の定理「Gödelの完全性定理」により $\mathsf{ZFC}\vdash\sigma$ である。
等無矛盾性:$\sigma$ を $\lnot\,\forall x\,(x=x)$ とすると、どちらかが矛盾すれば $\sigma$ を証明し、上の同値によりもう一方も $\sigma$ を証明する。$\square$
Kun80 Ch. I §12(p. 35)は、選択公理を含めない形で NBG が ZF の保存拡大であることを述べ、Wang(1949)と Shoenfield(1954)を挙げている。上の証明は完全性定理を使うモデルの議論である。同じ形の議論で、二階算術の体系 $\mathsf{ACA}_0$ が Peano 算術の保存拡大であることも示される(保存拡大 の例「算術と集合論の保存拡大」)。
thm-nbg-model の (e) の確かめでは、$\varphi$ の量化が $A$ を動くので $\varphi^*$ が $\mathfrak A$ の論理式になることを使った。内包の論理式にクラスの量化を許すと、量化は $\mathrm{Def}(\mathfrak A)$ を動くので、同じ書き直しは使えない。実際、クラスの量化を許した Morse–Kelley 集合論は、ZFC が無矛盾なら ZFC の保存拡大ではなく(Morse–Kelley集合論)、したがって「ZFC のすべてのモデル $\mathfrak A$ について $\mathcal N(\mathfrak A)$ が Morse–Kelley 集合論のモデルになる」ということはない。
ZF の公理を有限個の文で置き換えることはできない。より詳しく、ZF を含む理論 $S$ のすべての公理が $S$ の有限個の公理から証明できるなら、$S$ は矛盾する(Kun80 Ch. IV, Corollary 7.7, p. 138。証明は反映原理による)。これに対し NBG は有限個の公理で書ける(Kun80 Ch. I §12, p. 35)。以下でその証明を与える。
NBG の中で、集合の順序対 $\langle x,y\rangle=\{\{x\},\{x,y\}\}$、自然数、関数などは、集合についての通常の定義(集合の量化だけを使う論理式)で扱う。定義域が自然数 $k$ の関数を長さ $k$ の列といい、$s(i)$ と書く。クラス $A$ と集合 $a$ に対し $A\langle a\rangle=\{x\mid\langle x,a\rangle\in A\}$ とおく。
次のクラスの存在を主張する文 (G0)〜(G9) は、いずれも (e) の例である(条件は述語的である)。$X,Y$ は任意のクラスとする。
(G0) $V=\{y\mid y=y\}$。(G1) $X\setminus Y=\{y\mid y\in X\land y\notin Y\}$。(G2) $X\times Y=\{\langle x,y\rangle\mid x\in X,\ y\in Y\}$。(G3) $\operatorname{dom}X=\{x\mid\exists y\ \langle x,y\rangle\in X\}$。(G4) $X^{-1}=\{\langle y,x\rangle\mid\langle x,y\rangle\in X\}$。
(G5) $\mathrm{Sq}=\{\langle s,k\rangle\mid k\text{ は自然数},\ s\text{ は長さ }k\text{ の列}\}$。
(G6) $\mathrm{Ap}=\{\langle\langle s,i\rangle,y\rangle\mid s\text{ は関数},\ i\in\operatorname{dom}s,\ y=s(i)\}$。(G7) $\mathrm{In}=\{\langle\langle s,i\rangle,y\rangle\mid s\text{ は関数},\ i\in\operatorname{dom}s,\ y\in s(i)\}$。
(G8) $\mathrm R_\in=\{\langle s,\langle i,j\rangle\rangle\mid s\text{ は関数},\ i,j\in\operatorname{dom}s,\ s(i)\in s(j)\}$ と、$s(i)=s(j)$ で同様に定める $\mathrm R_=$。
(G9) $\mathrm{Ag}=\{\langle s,\langle t,i\rangle\rangle\mid s,t\text{ は関数},\ \operatorname{dom}s\subseteq\operatorname{dom}t,\ \forall j\in\operatorname{dom}s\ (j\neq i\to s(j)=t(j))\}$。
(a)〜(d) と (G0)〜(G9) からなる理論を $\mathsf{NBG}_0$ と書く。
$\mathsf{NBG}_0$ では、$X\cap Y=X\setminus(X\setminus Y)$、$\emptyset=V\setminus V$、$A\langle a\rangle=\operatorname{dom}\bigl(A\cap(V\times\{a\})\bigr)$ がクラスとして存在する(集合 $\{a\}$ は対の公理で得られ、集合はクラスである)。長さ $k$ の列のクラスは $\mathrm{Sq}_k=\mathrm{Sq}\langle k\rangle$ である。変数を $v_0,v_1,\dots$ と番号づけ、自由な集合の変数が $v_0,\dots,v_{k-1}$ の中にある論理式 $\varphi$ と $s\in\mathrm{Sq}_k$ について、各 $v_j$ に $s(j)$ を代入したものを $\varphi[s]$ と書く。
$\varphi$ を述語的な論理式とし、自由な集合の変数は $v_0,\dots,v_{k-1}$ の中に、自由なクラスの変数は $Y_1,\dots,Y_m$ の中にあるとする。このとき
$$
\mathsf{NBG}_0\vdash\forall\vec Y\,\exists C\,\forall s\,\bigl(s\in C\leftrightarrow s\in\mathrm{Sq}_k\land\varphi[s]\bigr).
$$
結合子は $\lnot,\land$、量化は $\exists$ を基本とし、ほかは略記とみる。$\varphi$ の組み立てについての帰納法で、各場合に $C$ を (G0)〜(G9) と上の操作で作る。各自然数 $k,i,j$ は空集合から対と合併で作れる集合である。
原子論理式:$v_i\in v_j$ なら $C=\mathrm{Sq}_k\cap\mathrm R_\in\langle\langle i,j\rangle\rangle$、$v_i=v_j$ なら $\mathrm R_=$ で同様にする。$v_i\in Y$ なら、$B=\operatorname{dom}\bigl(\mathrm{Ap}\cap(V\times Y)\bigr)=\{\langle s,i'\rangle\mid s(i')\in Y\}$ として $C=\mathrm{Sq}_k\cap B\langle i\rangle$ とする。$Y\in v_i$ は、$Y$ が集合なら $B=\operatorname{dom}\bigl(\mathrm{In}\cap(V\times\{Y\})\bigr)$ として $C=\mathrm{Sq}_k\cap B\langle i\rangle$、$Y$ が集合でなければ $C=\emptyset$ とする。$v_i=Y$ も同様に $\mathrm{Ap}$ を使う($Y$ が集合でなければ $C=\emptyset$)。クラスの変数だけの原子論理式は、成り立つなら $C=\mathrm{Sq}_k$、成り立たないなら $C=\emptyset$ とする。
結合子:$\lnot\varphi$ には $\mathrm{Sq}_k\setminus C_\varphi$、$\varphi\land\psi$ には $C_\varphi\cap C_\psi$ をとる。
量化:$\varphi=\exists v_i\,\chi$ とする(量化は集合の変数についてのもの)。$k'=\max(k,i+1)$ とおくと、$\chi$ の自由な集合の変数は $v_0,\dots,v_{k'-1}$ の中にあるので、帰納法の仮定から $C'=\{t\in\mathrm{Sq}_{k'}\mid\chi[t]\}$ がある。
$$
C=\mathrm{Sq}_k\cap\operatorname{dom}\bigl(\mathrm{Ag}\cap(V\times(C'\times\{i\}))\bigr)
$$
とおく。$s\in C$ なら、$\chi[t]$ を満たす $t\in\mathrm{Sq}_{k'}$ で $j\neq i$ の位置が $s$ と一致するものがあり、$\chi$ の自由変数は $v_i$ と $\varphi$ の自由変数なので、$v_i$ に $t(i)$ を代入すれば $\chi$ が成り立つ。すなわち $\varphi[s]$ である。逆に $\varphi[s]$ なら、$\chi$ を満たす $v_i$ の値 $y$ をとり、$t$ を「$j< k$、$j\neq i$ では $s(j)$、$i$ では $y$、そのほかは $\emptyset$」とすれば、$t$ は対と合併で作れる長さ $k'$ の列で $t\in C'$、$\langle s,\langle t,i\rangle\rangle\in\mathrm{Ag}$ なので $s\in C$ である。$\square$
クラスの内包図式 (e) の各例は $\mathsf{NBG}_0$ から証明できる。したがって NBG と、有限個の公理からなる $\mathsf{NBG}_0$ は同じ定理をもつ。
(G0)〜(G9) は (e) の例なので NBG の定理であり、$\mathsf{NBG}_0$ の定理は NBG の定理である。逆を示す。(e) の例 $\forall\vec p\,\forall\vec Y\,\exists X\,\forall y\,(y\in X\leftrightarrow\varphi(y,p_1,\dots,p_n,\vec Y))$ をとる。束縛変数を付け替えて、$y=v_0$、$p_j=v_j$($1\le j\le n$)とし、$k=n+1$ とする。lem-nbg-sequences で $C=\{s\in\mathrm{Sq}_k\mid\varphi[s]\}$ をとる。集合 $p_1,\dots,p_n$ を固定し、$B_j=\operatorname{dom}\bigl(\mathrm{Ap}\cap(V\times\{p_j\})\bigr)\langle j\rangle=\{s\mid s(j)=p_j\}$、$C^\circ=C\cap B_1\cap\dots\cap B_n$ とおき、
$$
X=\operatorname{dom}\Bigl(\bigl(\mathrm{Ap}\cap((C^\circ\times\{0\})\times V)\bigr)^{-1}\Bigr)=\{y\mid\exists s\in C^\circ\ y=s(0)\}
$$
とする。$y\in X$ なら $\varphi(y,\vec p,\vec Y)$ である。逆に $\varphi(y,\vec p,\vec Y)$ なら、列 $s=\{\langle0,y\rangle,\langle1,p_1\rangle,\dots,\langle n,p_n\rangle\}$ が $C^\circ$ に属し、$y=s(0)\in X$ である。$\square$
$\mathsf{NBG}_0$ は ZFC の公理をすべて(集合についての文として)証明する(ZFC公理系 の定理「ZFC の定理は NBG の定理である」)。これは ZFC の有限部分についての上の事実と矛盾しない。$\mathsf{NBG}_0$ の公理はクラスを量化する文であり、ZFC の文ではないからである。有限個のクラスの存在から、述語的な論理式が定めるすべてのクラスが組み立てられる、というのがこの定理の内容である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| (e) の論理式が述語的であること | Morse–Kelley 集合論 | ZFC の保存拡大であること(ZFC が無矛盾なら) |
| 公理 (d)(置換) | $\mathcal N(V_{\omega+\omega})$ | 集合 $\{\omega+n\mid n\in\omega\}$ の存在 |
| thm-nbg-finite の公理がクラスを量化してよいこと | ZFC の有限個の公理 | ZFC のすべての公理を証明すること(ZFC が無矛盾なら) |
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