大野の関係式

同義語:Ohno's relationOhnoの関係式

概要

大野の関係式(Ohno's relation)とは、空でない許容インデックス $\boldsymbol{k}$ と非負整数 $h$ に対し、成分を合計 $h$ だけ増やした多重ゼータ値の和 $\sum_{\mathrm{wt}(\boldsymbol{e})=h}\zeta(\boldsymbol{k}\oplus\boldsymbol{e})$ が、双対インデックス $\boldsymbol{k}^{\dagger}$ についての同じ形の和に等しいという等式のことである。$h=0$ で双対性、$\boldsymbol{k}=(1,\ldots,1,2)$ で和公式になり、$h=1$ は双対性のもとで Hoffman の関係式と同値である。大野泰生が示し、母関数を連結和で運ぶ方法で証明できる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 多重ゼータ値, 多重ゼータ値の連結和法

多重ゼータ値の双対性 $\zeta(\boldsymbol{k})=\zeta(\boldsymbol{k}^{\dagger})$ は、インデックスとその双対インデックスの値が等しいことを述べる。大野の関係式は、両辺のインデックスの成分を合計 $h$ だけあらゆる仕方で増やして足し合わせても等式が保たれる、という双対性の一般化である。$h=0$ が双対性、$\boldsymbol{k}=(1,\ldots,1,2)$ の場合が和公式、$h=1$ の場合が双対性のもとで Hoffman の関係式にあたり、別々に知られていた三つの関係式の族が一つの等式にまとまる。大野泰生(Yasuo Ohno)が学位論文(1998 年)で示した Ohn98。本記事では、母関数を連結和で輸送する Seki–Yamamoto の方法 SY19 で完全な証明を与える。

定義

インデックス $\boldsymbol{k}=(k_1,\ldots,k_r)$ の重さ・深さ・許容性、多重ゼータ値 $\zeta(\boldsymbol{k})=\sum_{0< n_1<\cdots< n_r}n_1^{-k_1}\cdots n_r^{-k_r}$($k_r\ge2$)、双対インデックス $\boldsymbol{k}^{\dagger}$ は 多重ゼータ値 の定義に従う。深さ $r$ の非負整数の列 $\boldsymbol{e}=(e_1,\ldots,e_r)$ に対し $\boldsymbol{k}\oplus\boldsymbol{e}=(k_1+e_1,\ldots,k_r+e_r)$、$\mathrm{wt}(\boldsymbol{e})=e_1+\cdots+e_r$ と書く。
双対インデックスは語で見ると分かりやすい。インデックス $\boldsymbol{k}$ に $x,y$ の語 $z_{\boldsymbol{k}}=yx^{k_1-1}yx^{k_2-1}\cdots yx^{k_r-1}$ を対応させると、$z_{\boldsymbol{k}^{\dagger}}$ は $z_{\boldsymbol{k}}$ を逆順に読んで $x$ と $y$ を入れ替えた語である(多重ゼータ値 の定理「双対性」の証明)。$\mathrm{dep}(\boldsymbol{k}^{\dagger})=\mathrm{wt}(\boldsymbol{k})-\mathrm{dep}(\boldsymbol{k})$ である。

大野和

空でない許容インデックス $\boldsymbol{k}$(深さ $r$)と非負整数 $h$ に対し
$$O_h(\boldsymbol{k}):=\sum_{\substack{\boldsymbol{e}\in\mathbb{Z}_{\ge0}^{r}\\ \mathrm{wt}(\boldsymbol{e})=h}}\zeta(\boldsymbol{k}\oplus\boldsymbol{e})$$
とおき、$\boldsymbol{k}$ の重さ $h$ の大野和と呼ぶ。和は $\binom{h+r-1}{r-1}$ 個の項からなる有限和で、$\boldsymbol{k}\oplus\boldsymbol{e}$ はすべて許容的である。

主定理

大野の関係式

任意の空でない許容インデックス $\boldsymbol{k}$ と非負整数 $h$ に対し
$$\sum_{\substack{\boldsymbol{e}\in\mathbb{Z}_{\ge0}^{\mathrm{dep}(\boldsymbol{k})}\\ \mathrm{wt}(\boldsymbol{e})=h}}\zeta(\boldsymbol{k}\oplus\boldsymbol{e})=\sum_{\substack{\boldsymbol{f}\in\mathbb{Z}_{\ge0}^{\mathrm{dep}(\boldsymbol{k}^{\dagger})}\\ \mathrm{wt}(\boldsymbol{f})=h}}\zeta(\boldsymbol{k}^{\dagger}\oplus\boldsymbol{f})$$
すなわち $O_h(\boldsymbol{k})=O_h(\boldsymbol{k}^{\dagger})$ が成り立つ。

証明の筋

すべての $h$ をまとめた母関数 $F_\lambda(\boldsymbol{k})=\sum_{h\ge0}O_h(\boldsymbol{k})\lambda^{h}$ は、各 $n_i$ ごとに等比級数を足すと $\prod_i 1/\bigl(n_i^{k_i-1}(n_i-\lambda)\bigr)$ の和になる(lem-ohno-generating)。この級数を、多重ゼータ値の連結和法 の階乗コネクターを $\lambda$ でずらしたコネクターで結び、語の文字を一つずつ反対側へ移すと、$\boldsymbol{k}$ の母関数が $\boldsymbol{k}^{\dagger}$ の母関数に運ばれる。証明は節「証明」で与える。

例

双対性と重さを一つ上げた関係式

$\boldsymbol{k}=(2,3)$ の語は $yxyxx$ で、逆順にして $x,y$ を入れ替えると $yyxyx$ なので $\boldsymbol{k}^{\dagger}=(1,2,2)$ である。$h=0$ は双対性 $\zeta(2,3)=\zeta(1,2,2)$ で、$h=1$ は
$$\zeta(3,3)+\zeta(2,4)=\zeta(2,2,2)+\zeta(1,3,2)+\zeta(1,2,3)$$
である(数値ではともに $0.3022822506\ldots$)。左辺の項は $2$ 個、右辺の項は $3$ 個で、深さも項数も違う。

和公式

正整数 $r< k$ に対し、重さ $k$、深さ $r$ の許容インデックス全体にわたる和は $\zeta(k)$ に等しい。

$\boldsymbol{k}=(\{1\}^{r-1},2)$ とすると、語は $y^{r}x$ なので $\boldsymbol{k}^{\dagger}=(r+1)$ である。$\boldsymbol{e}$ が $\mathrm{wt}(\boldsymbol{e})=h$ の非負整数列を動くとき、$\boldsymbol{k}\oplus\boldsymbol{e}=(1+e_1,\ldots,1+e_{r-1},2+e_r)$ は重さ $r+1+h$、深さ $r$ の許容インデックスをちょうど一度ずつ動く。右辺は深さ $1$ なので $\zeta(r+1+h)$ の一項である。$h=k-r-1$ として thm-ohno-main を使えばよい。$\square$

この系は 和公式(多重ゼータ値) の主定理である。$\boldsymbol{k}=(1,2)$、$h=1$ では $\zeta(2,2)+\zeta(1,3)=\zeta(4)$ になる。

Hoffmanの関係式との関係

$h=1$ の thm-ohno-main の右辺の各項に双対性を施すと、正規化複シャッフル関係式 の系「Hoffmanの関係式」が得られる。すなわち、空でない許容インデックス $\boldsymbol{k}=(k_1,\ldots,k_r)$ に対し、$(\boldsymbol{k}^{\dagger}\oplus\boldsymbol{\delta}_j)^{\dagger}$($\boldsymbol{\delta}_j$ は第 $j$ 成分だけが $1$ の列、$1\le j\le\mathrm{dep}(\boldsymbol{k}^{\dagger})$)の全体は、重複を込めて $(k_1,\ldots,k_{i-1},a,k_i+1-a,k_{i+1},\ldots,k_r)$($1\le i\le r$、$1\le a\le k_i-1$)の全体に一致する。

要点:$\boldsymbol{k}^{\dagger}$ の第 $j$ 成分に $1$ を足すことは、語 $z_{\boldsymbol{k}^{\dagger}}$ の第 $j$ ブロックの末尾に $x$ を挿入することであり、逆順と文字の入れ替えで $z_{\boldsymbol{k}}$ に戻すと、$z_{\boldsymbol{k}}$ の先頭か、最後の文字以外の $x$ の直後に $y$ を挿入することになる。

詳細

$z_{\boldsymbol{k}^{\dagger}}$ の第 $j$ ブロックの末尾は、$j<\mathrm{dep}(\boldsymbol{k}^{\dagger})$ なら第 $j+1$ 番目の $y$ の直前、$j=\mathrm{dep}(\boldsymbol{k}^{\dagger})$ なら語の末尾である。逆順と入れ替えで、「$y$ の直前」は「$x$ の直後」に、語の末尾は語の先頭に移る。$z_{\boldsymbol{k}^{\dagger}}$ の最初の $y$ は $z_{\boldsymbol{k}}$ の最後の文字($x$)に対応するので、その直後は除かれる。$z_{\boldsymbol{k}}$ の第 $i$ ブロック $yx^{k_i-1}$ の $b$ 番目の $x$ の直後($1\le b\le k_i-1$)に $y$ を挿入すると $z_{k_i}$ が $z_{b+1}z_{k_i-b}$ に替わり、$b=k_i-1$ はブロックの後ろに $z_1$ を置くことにあたる。先頭への挿入は $(1,\boldsymbol{k})$ である。一方 Hoffman の関係式の右辺の項は、$z_{k_i}$ を $z_az_{k_i+1-a}$($1\le a\le k_i-1$)に替えたもので、$a=1$ は第 $i$ ブロックの前に $z_1$ を置くことにあたる。$2\le a\le k_i-1$ の項は $b=a-1$ の挿入と一対一に対応する。残りはどれも $z_1$ をブロックの境目に置いた語で、間に成分 $1$ のブロックしかない二つの境目は同じ語を与える。$k_q\ge2$ となる各 $q$ について、それより前で最も近い $k_p\ge2$ となる $p$(なければ $p=0$)をとると、Hoffman の側の「第 $q$ ブロックの前に $z_1$」($a=1$)と挿入の側の「第 $p$ ブロックの後ろに $z_1$」($p=0$ なら先頭への挿入)が同じ語として一対一に対応する(成分 $1$ のブロックには $a$ も $b$ もない)。最後のブロックで $b=k_r-1$ に当たる語の末尾への挿入は除かれているので、両者は過不足なく一致する。$\square$

左辺は Hoffman の関係式の左辺 $\sum_i\zeta(\ldots,k_i+1,\ldots)$ そのものなので、大野の関係式の $h=1$ の場合は、双対性のもとで Hoffman の関係式と同値である。

証明

以下 $0\le\lambda<1$ とする。すべての級数は非負の項からなるので、値を $[0,\infty]$ で考え、和の順序は自由に交換してよい(Tonelli の定理)。

大野和の母関数

空でない許容インデックス $\boldsymbol{k}=(k_1,\ldots,k_r)$ に対し
$$F_\lambda(\boldsymbol{k}):=\sum_{0< n_1<\cdots< n_r}\prod_{i=1}^{r}\frac{1}{n_i^{k_i-1}(n_i-\lambda)}$$
とおくと、$F_\lambda(\boldsymbol{k})\le(1-\lambda)^{-r}\zeta(\boldsymbol{k})<\infty$ であり、$F_\lambda(\boldsymbol{k})=\sum_{h\ge0}O_h(\boldsymbol{k})\lambda^{h}$ が成り立つ。

$n\ge1$ では $n-\lambda\ge n(1-\lambda)$ なので各項は $(1-\lambda)^{-r}n_1^{-k_1}\cdots n_r^{-k_r}$ 以下であり、上からの評価を得る。また $\frac{1}{n-\lambda}=\sum_{e\ge0}\frac{\lambda^{e}}{n^{e+1}}$ であるから
$$\prod_{i=1}^{r}\frac{1}{n_i^{k_i-1}(n_i-\lambda)}=\sum_{\boldsymbol{e}\in\mathbb{Z}_{\ge0}^{r}}\frac{\lambda^{\mathrm{wt}(\boldsymbol{e})}}{n_1^{k_1+e_1}\cdots n_r^{k_r+e_r}}$$
であり、$n_1<\cdots< n_r$ について足して $\mathrm{wt}(\boldsymbol{e})=h$ ごとにまとめると主張を得る。$\square$

ずらした階乗コネクター

非負整数 $m,n$ に対し
$$C_\lambda(m,n):=\prod_{j=1}^{m}\frac{j-\lambda}{j+n-\lambda}=\frac{(1-\lambda)_m(1-\lambda)_n}{(1-\lambda)_{m+n}}$$
とおく。ここで $(c)_m=c(c+1)\cdots(c+m-1)$ である。$C_\lambda(m,n)=C_\lambda(n,m)$、$C_\lambda(m,0)=1$、$0< C_\lambda(m,n)\le1$ であり、$\lambda=0$ では 多重ゼータ値の連結和法 の階乗コネクター $m!\,n!/(m+n)!$ に一致する。

コネクターの望遠鏡和

$m\ge0$、$n\ge1$ に対し
$$\sum_{a=m+1}^{\infty}\frac{C_\lambda(a,n)}{a-\lambda}=\frac{C_\lambda(m,n)}{n}$$
が成り立つ。対称性から、$m\ge1$、$n\ge0$ に対し $\sum_{b=n+1}^{\infty}C_\lambda(m,b)/(b-\lambda)=C_\lambda(m,n)/m$ でもある。

定義から $C_\lambda(a-1,n)=C_\lambda(a,n)\cdot\frac{a+n-\lambda}{a-\lambda}$ なので
$$C_\lambda(a-1,n)-C_\lambda(a,n)=C_\lambda(a,n)\Bigl(\frac{a+n-\lambda}{a-\lambda}-1\Bigr)=n\,\frac{C_\lambda(a,n)}{a-\lambda}$$
である。$a=m+1,\ldots,M$ について足すと $\sum_{a=m+1}^{M}\frac{C_\lambda(a,n)}{a-\lambda}=\frac{C_\lambda(m,n)-C_\lambda(M,n)}{n}$ となる。対称性から $C_\lambda(M,n)=\prod_{j=1}^{n}\frac{j-\lambda}{j+M-\lambda}\le\frac{1}{M+1-\lambda}\to0$($M\to\infty$)なので主張を得る。$\square$

連結和

インデックス $\boldsymbol{k}=(k_1,\ldots,k_r)$、$\boldsymbol{l}=(l_1,\ldots,l_s)$(空でもよい)に対し
$$Z_\lambda(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l}):=\sum_{\substack{0=m_0< m_1<\cdots< m_r\\ 0=n_0< n_1<\cdots< n_s}}\prod_{i=1}^{r}\frac{1}{m_i^{k_i-1}(m_i-\lambda)}\prod_{j=1}^{s}\frac{1}{n_j^{l_j-1}(n_j-\lambda)}\;C_\lambda(m_r,n_s)\in[0,\infty]$$
とおく。$C_\lambda(m,0)=C_\lambda(0,n)=1$ なので、許容インデックス $\boldsymbol{k}$ に対し $Z_\lambda(\boldsymbol{k};\emptyset)=Z_\lambda(\emptyset;\boldsymbol{k})=F_\lambda(\boldsymbol{k})$ であり、定義の対称性から $Z_\lambda(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l})=Z_\lambda(\boldsymbol{l};\boldsymbol{k})$ である。

インデックス $\boldsymbol{k}=(k_1,\ldots,k_r)$ に対し $(\boldsymbol{k},1)=(k_1,\ldots,k_r,1)$、$\boldsymbol{k}_{\uparrow}=(k_1,\ldots,k_{r-1},k_r+1)$($r\ge1$)と書く。

輸送関係

インデックス $\boldsymbol{k}$(深さ $r$)、$\boldsymbol{l}$(深さ $s$)に対し、次が $[0,\infty]$ の等式として成り立つ。

  1. $s\ge1$ なら $Z_\lambda((\boldsymbol{k},1);\boldsymbol{l})=Z_\lambda(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l}_{\uparrow})$($\boldsymbol{k}$ は空でもよい)。
  2. $r\ge1$ なら $Z_\lambda(\boldsymbol{k}_{\uparrow};\boldsymbol{l})=Z_\lambda(\boldsymbol{k};(\boldsymbol{l},1))$($\boldsymbol{l}$ は空でもよい)。
  1. 左辺で最後の成分 $1$ に対応する変数を $a$ とすると、$a$ に依存する因子は $\frac{1}{a-\lambda}C_\lambda(a,n_s)$ で、$a$ は $a>m_r$($\boldsymbol{k}$ が空なら $m_r=m_0=0$)を動く。lem-ohno-telescoping によりこの和は $C_\lambda(m_r,n_s)/n_s$ に等しい。因子 $1/n_s$ は $\boldsymbol{l}$ の最後の因子と合わさって $\frac{1}{n_s^{l_s-1}(n_s-\lambda)}\cdot\frac{1}{n_s}=\frac{1}{n_s^{(l_s+1)-1}(n_s-\lambda)}$ となり、右辺を得る。
  2. 対称性と (1) から $Z_\lambda(\boldsymbol{k}_{\uparrow};\boldsymbol{l})=Z_\lambda(\boldsymbol{l};\boldsymbol{k}_{\uparrow})=Z_\lambda((\boldsymbol{l},1);\boldsymbol{k})=Z_\lambda(\boldsymbol{k};(\boldsymbol{l},1))$ である((1) を左右を入れ替えて使うので、$\boldsymbol{k}$ が空でないことが要る)。$\square$

語で言えば、(1) は左の語の末尾の $y$ を消して右の語の末尾に $x$ を付け、(2) は左の語の末尾の $x$ を消して右の語の末尾に $y$ を付ける操作である。

母関数の等式

空でない許容インデックス $\boldsymbol{k}$ と $0\le\lambda<1$ に対し $F_\lambda(\boldsymbol{k})=F_\lambda(\boldsymbol{k}^{\dagger})$ が成り立つ。

$Z_\lambda(\boldsymbol{k};\emptyset)=F_\lambda(\boldsymbol{k})$ から出発し、左の語の末尾の文字を prop-ohno-transport で一つずつ右へ移す。末尾が $x$ なら (2) を、末尾が $y$ なら (1) を使う。$z_{\boldsymbol{k}}$ は $x$ で終わるので最初の一手は (2) で、右の語が空でも使える。それ以後は右の語が空でないので (1) の条件 $s\ge1$ が満たされ、(2) の条件 $r\ge1$ は左の語の末尾が $x$ であることから満たされる。$\mathrm{wt}(\boldsymbol{k})$ 回の操作の後、左の語は空になり、右の語は $z_{\boldsymbol{k}}$ を逆順に読んで $x,y$ を入れ替えた語 $z_{\boldsymbol{k}^{\dagger}}$ になる。よって
$$F_\lambda(\boldsymbol{k})=Z_\lambda(\boldsymbol{k};\emptyset)=\cdots=Z_\lambda(\emptyset;\boldsymbol{k}^{\dagger})=F_\lambda(\boldsymbol{k}^{\dagger})$$
であり、途中の連結和はすべて左端の有限値 $F_\lambda(\boldsymbol{k})$ に等しい。$\square$

thm-ohno-main の証明:lem-ohno-generating により、両辺の母関数 $\sum_hO_h(\boldsymbol{k})\lambda^{h}$ と $\sum_hO_h(\boldsymbol{k}^{\dagger})\lambda^{h}$ は $0\le\lambda<1$ で収束する冪級数で、thm-ohno-generating-form によりこの区間で値が一致する。$[0,1)$ で一致する二つの冪級数は係数も一致するので(差の冪級数が $0$ でなければ、最低次の項が $\lambda\to0$ で支配的になり矛盾する)、$O_h(\boldsymbol{k})=O_h(\boldsymbol{k}^{\dagger})$ がすべての $h$ について成り立つ。$\square$
$\lambda=0$ では $F_0(\boldsymbol{k})=\zeta(\boldsymbol{k})$ で、thm-ohno-generating-form は 多重ゼータ値の連結和法 の定理「多重ゼータ値の双対性」の証明そのものに戻る。コネクターを $\lambda$ でずらしても望遠鏡和の形が保たれることが、双対性から大野の関係式への一般化の要点である。この証明は SY19 の Theorem 2.2・Corollary 2.3 と Theorem 1.2 の証明($q$ 類似で書かれている)で $q\to1$ とした場合にあたる。

反例の表

外す条件反例成り立たなくなること
$\mathrm{wt}(\boldsymbol{e})=h$ の全体で和をとる$\boldsymbol{k}=(1,2)$、$h=1$ で項ごとに比べる$\zeta(2,2)=\tfrac34\zeta(4)$ も $\zeta(1,3)=\tfrac14\zeta(4)$ も右辺の $\zeta(4)$ と等しくない
狭義の不等号の多重ゼータ値を使う多重ゼータスター値、$\boldsymbol{k}=(1,2)$、$h=0$$\zeta^{\star}(1,2)=\zeta(1,2)+\zeta(3)=2\zeta(3)$、$\zeta^{\star}(3)=\zeta(3)$
双対インデックス $\boldsymbol{k}^{\dagger}$ と比べる逆転インデックス:$\boldsymbol{k}=(2,3)$、$h=0$$\zeta(2,3)=0.2288\ldots$ だが $\zeta(3,2)=0.7116\ldots$

1 行目の値は 正規化複シャッフル関係式 の例「重さ4の値がすべて求まること」による。2 行目のスター値は $\zeta^{\star}(\boldsymbol{k})=\sum_{0< n_1\le\cdots\le n_r}n_1^{-k_1}\cdots n_r^{-k_r}$(多重ゼータスター値)で、$(1,2)$ の和を $n_1< n_2$ と $n_1=n_2$ に分けると上の値になる。スター値には別の形の双対性(Hoffman 双対性)がある。3 行目のように、逆転インデックスは一般に双対インデックス(ここでは $(2,3)^{\dagger}=(1,2,2)$)と異なり、値も異なる。

補足

重さと深さを固定した和公式の和を、高さ($2$ 以上の成分の個数)でも分けた和の母関数は、大野と Zagier によって Γ 関数で明示的に書かれている(多重ゼータ値 の定理「大野–Zagierの定理」)。また IKZ06 p. 324 は、大野の関係式が正規化複シャッフル関係式と双対性から従うことを述べており、正規化複シャッフル関係式 の全関係式予想とも整合する。

関連項目

参考文献

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