pro-簡約群(pro-reductive group)とは、体 $k$ 上のアフィン群スキームで、推移写像が忠実平坦な代数群の有向な射影系の極限として書け、各代数群の単位元成分が簡約群であるものである。標数 $0$ では、pro-簡約群であることは、有限次元表現がすべて半単純であることや、すべての代数的な商の単位元成分が簡約群であることと同値であり、忠実平坦な商で閉じている。したがって標数 $0$ の中立淡中圏が半単純であることは、その群が pro-簡約群であることと同値で、絶対 Hodge サイクルによるモチーフ的 Galois 群や群の pro-簡約完備化がその例である。
簡約群 は、標数 $0$ ではすべての有限次元表現が半単純になる線型代数群である。この性質を、有限型でないアフィン群スキームに広げたものが pro-簡約群 で、簡約群(とその有限個の成分をもつ拡張)の射影極限として定義される。淡中双対性(淡中圏)のもとで、標数 $0$ の中立淡中圏が半単純であることは、その群が pro-簡約群であることと同値になる。そのため、半単純になるように作られたモチーフの圏の群(モチーフ的Galois群)や、群の半単純な表現だけを見る完備化は、pro-簡約群として現れる。
この記事では pro-簡約群を定義し、標数 $0$ で「表現の圏が半単純であること」「すべての代数的な商の単位元成分が簡約であること」と同値であることを、代数群の場合の定理を引用して証明する。忠実平坦な商で閉じていることを示し、対角化可能群・有限群・加法群の例と、仮定を外した反例を調べる。
$k$ を体とする。アフィン群スキームと代数群の言葉は 群スキーム と pro-代数的完備化 の記事に従う。代数群 $Q$ の単位元を含む連結成分は代数部分群をなし、これを $Q^\circ$ と書く(MilAG Proposition 1.14、p. 21)。$Q^\circ$ が簡約群であるとは、簡約群 の定義のとおり、$Q^\circ$ が滑らかで $(Q^\circ)_{\bar k}$ の冪単根基が自明なことをいう(標数 $0$ ではアフィン代数群はつねに滑らかである。MilAG Theorem 3.38、p. 62)。
アフィン群スキームの準同型 $f\colon G\to Q$ が忠実平坦であるとは、$f^\sharp\colon\mathcal O(Q)\to\mathcal O(G)$ が忠実平坦であることをいう。$Q$ が代数群で $f^\sharp$ が単射なら $f$ は忠実平坦である($\mathcal O(G)$ は $f^\sharp(\mathcal O(Q))$ を含む有限生成な Hopf 部分代数 $A_j$ の有向和であり(DM22 Proposition 2.6、p. 19)、各 $A_j$ は $\mathcal O(Q)$ 上忠実平坦である(MilAG Theorem 3.47、p. 65)。平坦性は有向和で保たれ、$\mathcal O(Q)$ の極大イデアル $\mathfrak m$ について $\mathfrak m\mathcal O(G)\neq\mathcal O(G)$ も各 $A_j$ から従う)。$G$ から代数群 $Q$ への忠実平坦な準同型を $G$ の代数的な商という。
$k$ 上のアフィン群スキーム $G$ が pro-簡約群(pro-reductive group)であるとは、代数群の有向な射影系 $(G_i)_{i\in I}$ で、推移写像 $G_j\to G_i$($i\le j$)がすべて忠実平坦であり、各 $G_i$ の単位元成分 $G_i^\circ$ が簡約群であるものがあって、$G\cong\varprojlim_iG_i$ となることをいう。各 $G_i$ を連結にとれるとき、連結な pro-簡約群という。
DM22 Proposition 2.23(p. 26)は連結な $G$ について「簡約群の射影極限」として pro-簡約群を定め、同 Proposition 6.22(p. 66)は連結とは限らない場合にもこの語を使っている。標数 $0$ では、推移写像を限らない射影極限 $G\cong\varprojlim_iG_i$(各 $G_i^\circ$ が簡約群)で書けるときも、各 $G_i$ を $G$ の像 $\bar G_i$ に取り替えるとこの定義の形になるので、二つの定め方は一致する($\mathcal O(G_i)\to\mathcal O(G)$ の核は $\mathcal O(G_i)\to\mathcal O(G_j)$($j\ge i$)の核の増大する族の和で、Noether 性から止まるので、$\bar G_i$ はある $G_j$ の像に等しい。$\mathcal O(\bar G_i)\to\mathcal O(G_j)$ は単射なので、$G_j^\circ$ は簡約群なので thm-prg-algebraic により $\bar G_i$ の表現は $G_j$ の表現として半単純であり、$G_j$ で保たれる補空間は lem-prg-subobjects により $\bar G_i$ でも保たれるので、$\operatorname{Rep}_k(\bar G_i)$ は半単純である。$\bar G_i$ は代数群なので、thm-prg-algebraic により $\bar G_i^\circ$ は簡約群である。また、$\mathcal O(G)=\bigcup_i\mathcal O(\bar G_i)$ である)。射影系の推移写像が忠実平坦なら、$\mathcal O(G)=\bigcup_i\mathcal O(G_i)$(増大する Hopf 部分代数の和)であり、各 $G\to G_i$ も忠実平坦である。
すべてのアフィン群スキームは、推移写像が忠実平坦な代数群の有向な射影極限であり、代数群への準同型はすべてある代数的な商を経由する(DM22 Corollary 2.7、pp. 19–20)。pro-簡約群は、この射影系の各段の単位元成分を簡約群にとれるものである。
$G$ の有限次元表現 $V$ が半単純であるとは、$G$ で保たれる任意の部分空間 $W\subset V$ に、$G$ で保たれる補空間 $W'$($V=W\oplus W'$)があることをいう(群の表現 の完全可約)。すべての有限次元表現が半単純なとき、$\operatorname{Rep}_k(G)$ は半単純であるという。代数群については次が知られている。
$k$ を標数 $0$ の体、$Q$ を $k$ 上の代数群とする。$\operatorname{Rep}_k(Q)$ が半単純であるための必要十分条件は、$Q^\circ$ が簡約群であることである。
次の補題が、代数群の場合から一般の場合へ移る鍵である。
$f\colon G\to Q$ をアフィン群スキームの準同型で、$f^\sharp\colon\mathcal O(Q)\to\mathcal O(G)$ が単射なもの(たとえば忠実平坦なもの)とし、$V$ を $Q$ の有限次元表現とする。$V$ の部分空間 $W$ について、$W$ が $Q$ で保たれることと、$f$ を通して $G$ で保たれることは同値である。
表現は余作用と同じもので、部分空間 $W$ が保たれることは、余作用が $W$ を $W\otimes\mathcal O$ に写すことと同値である(DM22 Proposition 2.2、p. 19)。$Q$ の余作用を $c_Q\colon V\to V\otimes\mathcal O(Q)$ とすると、$G$ の余作用は $c_G=(\operatorname{id}_V\otimes f^\sharp)\circ c_Q$ である。$W$ の基底 $e_1,\dots,e_r$ を $V$ の基底 $e_1,\dots,e_n$ に延ばし、$c_Q(w)=\sum_je_j\otimes a_j$ と書くと、$c_G(w)=\sum_je_j\otimes f^\sharp(a_j)$ である。$c_G(w)\in W\otimes\mathcal O(G)$ は $j>r$ で $f^\sharp(a_j)=0$ となることで、$f^\sharp$ は単射なので、これは $j>r$ で $a_j=0$、すなわち $c_Q(w)\in W\otimes\mathcal O(Q)$ と同値である。$\square$
$k$ を標数 $0$ の体、$G$ を $k$ 上のアフィン群スキームとする。次は同値である。
3 ⇒ 2。 $f\colon G\to Q$ を代数的な商、$V$ を $Q$ の有限次元表現、$W\subset V$ を $Q$ で保たれる部分空間とする。$f^*V$ は半単純なので、$G$ で保たれる補空間 $W'$ がある。lem-prg-subobjects により $W'$ は $Q$ で保たれる。よって $\operatorname{Rep}_k(Q)$ は半単純で、thm-prg-algebraic により $Q^\circ$ は簡約群である。
2 ⇒ 1。 rem-prg-structure により $G\cong\varprojlim_iG_i$(推移写像は忠実平坦)と書け、各 $G\to G_i$ は代数的な商である。2 により各 $G_i^\circ$ は簡約群である。
1 ⇒ 3。 $G\cong\varprojlim_iG_i$ を定義のとおりにとる。$\mathcal O(G)=\bigcup_i\mathcal O(G_i)$ である。$V$ を $G$ の有限次元表現とし、余作用を $c\colon V\to V\otimes\mathcal O(G)$ とする(DM22 Proposition 2.2、p. 19)。$V$ の基底の像に現れる $\mathcal O(G)$ の元は有限個なので、ある $i$ で $c(V)\subset V\otimes\mathcal O(G_i)$ となり、$V$ は $G_i$ の表現 $V_i$ を $f_i\colon G\to G_i$ で引き戻したものである。$W\subset V$ を $G$ で保たれる部分空間とすると、$f_i$ は忠実平坦なので、lem-prg-subobjects により $W$ は $G_i$ で保たれる。$G_i^\circ$ は簡約群なので thm-prg-algebraic により $V_i$ は半単純で、$G_i$ で保たれる補空間 $W'$ がある。$W'$ は $G$ でも保たれる。$\square$
$k$ を標数 $0$ の体とし、$\mathcal C$ を $k$ 上の中立淡中圏、$\omega$ をそのファイバー関手、$G:=\operatorname{Aut}^\otimes(\omega)$ とする。$\mathcal C$ が半単純であることと、$G$ が pro-簡約群であることは同値である。
淡中双対性により $\mathcal C\simeq\operatorname{Rep}_k(G)$ である(DM22 Theorem 2.11、p. 21、淡中圏 の再構成定理)。半単純性は圏同値で保たれるので、thm-prg-characterization の 1 と 3 の同値に帰着する。$\square$
$k$ を標数 $0$ の体とし、$f\colon G\to H$ をアフィン群スキームの忠実平坦な準同型とする。$G$ が pro-簡約群なら $H$ も pro-簡約群である。
$V$ を $H$ の有限次元表現、$W\subset V$ を $H$ で保たれる部分空間とする。$f^*V$ は半単純(thm-prg-characterization)なので、$G$ で保たれる補空間 $W'$ があり、lem-prg-subobjects により $W'$ は $H$ で保たれる。よって $\operatorname{Rep}_k(H)$ は半単純で、thm-prg-characterization により $H$ は pro-簡約群である。$\square$
$k$ を標数 $0$ の体、$M$ を可換群とし、$D:=\operatorname{Spec}k[M]$($M$ の群環を Hopf 代数とみたもの)とする。$D$ の表現は $M$ による次数付け $V=\bigoplus_mV_m$ と同じものである(pro-代数的完備化 の補題「$D$ と $\mathbb G_a$ の表現」の 1)。$D$ で保たれる部分空間は次数付きの部分空間 $W=\bigoplus_m(W\cap V_m)$ で(余作用 $\sum_mp_m\otimes m$ で保たれることは各射影 $p_m$ で保たれることと同じ)、各 $V_m$ で $W\cap V_m$ の補空間を選べば次数付きの補空間が得られる。よって $\operatorname{Rep}_k(D)$ は半単純で、thm-prg-characterization により $D$ は pro-簡約群である。$M=k^\times$($k$ は代数閉体)のとき、これは $\mathbb Z$ の pro-代数的完備化の「半単純な部分」である(pro-代数的完備化 の定理「$\mathbb Z$ の pro-代数的完備化」)。
$k$ を標数 $0$ の体とする。
モチーフ的 Galois 群。 $k$ を $\mathbb C$ に埋め込める体とし、絶対 Hodge サイクルによるモチーフの圏を考える。Betti 実現をファイバー関手とする淡中圏の群 $G(\sigma)$ は $\mathbb Q$ 上の pro-簡約群(連結とは限らない)であり、$k$ が代数閉体ですべての Hodge サイクルが絶対 Hodge なら連結である(DM22 Proposition 6.22 の (a)、p. 66。この記事では証明しない)。証明の骨格は cor-prg-tannakian と同じで、有限個の対象が生成する部分圏が半単純なので、その群が簡約であることから極限をとる。詳しくは モチーフ的Galois群 の節「絶対Hodge cycleのモチーフ」を参照。偏極可能な Hodge 構造の Mumford–Tate群 が簡約であることも、同じ「半単純性から簡約性へ」の型の主張である。
pro-簡約完備化。 標数 $0$ の体 $k$ と群 $\Gamma$ について、簡約群への Zariski 稠密な像をもつ準同型について普遍的な pro-簡約群 $\Gamma^{\mathrm{red}}$ を、$\Gamma$ の pro-簡約完備化という(KPT09 §3「The case of characteristic zero」、p. 35)。pro-代数的完備化 $\Gamma^{\mathrm{alg}}$ がすべての有限次元表現を受け止めるのに対し、$\Gamma^{\mathrm{red}}$ は pro-簡約群なので、その表現は thm-prg-characterization によりすべて半単純である。位相空間の基本群に当てると、半単純な局所系を調べる道具になる。
thm-prg-characterization と cor-prg-quotient の仮定を一つずつ外す。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 標数 $0$(thm-prg-characterization) | $k=\mathbb F_p$、定数群スキーム $(\mathbb Z/p)_k$ | 1 ⇒ 3(pro-簡約群だが表現が半単純でない) |
| $f$ が忠実平坦(cor-prg-quotient) | 自明な群からの準同型 $f\colon1\to\mathbb G_a$ | $H=\mathbb G_a$ は pro-簡約群でない |
1 行目:$(\mathbb Z/p)_k$ は単位元成分が自明なので、定義により pro-簡約群である。一方、生成元を $\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ に送る表現は、標数 $p$ では $\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}^p=\begin{pmatrix}1&p\\0&1\end{pmatrix}=1$ なので $\mathbb Z/p$ の表現になり、保たれる直線 $ke_1$ に補空間がない。正標数では、滑らかな代数群 $Q$ が線型簡約(表現がすべて半単純)であるのは $Q^\circ$ がトーラスで、指数 $(Q:Q^\circ)$ が $p$ で割れないときに限られる(永田雅宜(Masayoshi Nagata)の定理。MilAG ASIDE 14.52、p. 241。この記事では証明しない)。2 行目:自明な群 $1$ は pro-簡約群で、$f^\sharp\colon k[s]\to k$ は単射でないので $f$ は忠実平坦でなく、$H=\mathbb G_a$ は ex-prg-non-examples の 1 により pro-簡約群でない。閉部分群にも遺伝しない:$SL_2$ は簡約群(標数 $0$)だが、上三角冪単行列の閉部分群 $\mathbb G_a$ は pro-簡約群でない。
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