判別式で示す不等式とCauchy–Schwarzの不等式

概要

判別式で示す不等式とCauchy–Schwarzの不等式は、つねに $0$ 以上の 2 次式の判別式で、Cauchy–Schwarz の不等式 $(\sum a_ib_i)^2\le\sum a_i^2\sum b_i^2$ を示す 3 本の記事への案内である。① 判別式で示す不等式では $at^2+2bt+c\ge0$(すべての $t$)⇔ $a,c\ge0$ かつ $b^2\le ac$ を、② Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学)では半内積の $\langle u,v\rangle^2\le\langle u,u\rangle\langle v,v\rangle$ と内積での等号条件を、③ Engel形の不等式では $y_i>0$ のとき $\sum\frac{x_i^2}{y_i}\ge\frac{(\sum x_i)^2}{\sum y_i}$ を証明する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 2次関数, 判別式, ベクトルの内積
高校では、「2 次式がすべての実数で $0$ 以上なら判別式は $0$ 以下」という事実を、2 次関数の問題で使う。この事実を逆向きに使うと、不等式を証明する強い道具になる。とくに、2 乗の和を 2 次式として展開して判別式を見ると、Cauchy–Schwarz の不等式 $(a_1b_1+\cdots+a_nb_n)^2\le(a_1^2+\cdots+a_n^2)(b_1^2+\cdots+b_n^2)$ が、角を一度も使わずに証明できる。この記事は、判別式で示す不等式と Cauchy–Schwarz の不等式を扱う 3 本の記事への案内である。主な不等式と考え方を短く述べたあと、高校の計算と大学の概念の対応を表にし、どの順番で何を読めばよいかを示す。

判別式で Cauchy–Schwarz の不等式を示す

成分の Cauchy–Schwarz の不等式

実数 $a_1,\dots,a_n$、$b_1,\dots,b_n$ について
$$ (a_1b_1+a_2b_2+\cdots+a_nb_n)^2\le(a_1^2+a_2^2+\cdots+a_n^2)(b_1^2+b_2^2+\cdots+b_n^2) $$
が成り立つ。等号が成り立つのは、$(a_1,\dots,a_n)$ と $(b_1,\dots,b_n)$ の一方が他方の実数倍のときに限る。$n=2,3$ では、ベクトルの内積についての $|\vec a\cdot\vec b|\le|\vec a||\vec b|$ の 2 乗である。

証明の考え方は、すべての実数 $t$ で $0$ 以上になる 2 乗の和
$$ \sum_{i=1}^n(a_it-b_i)^2=\Bigl(\sum a_i^2\Bigr)t^2-2\Bigl(\sum a_ib_i\Bigr)t+\sum b_i^2 $$
を $t$ の 2 次式とみて、判別式が $0$ 以下であることを使う、というものである。$t^2$ の係数が $0$ の場合や等号の場合も含めた正確な証明は 判別式で示す不等式 と Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学) にある。

数で確かめる

$a=(1,2,2)$、$b=(2,-1,3)$ とする。

  1. 左辺は $(2-2+6)^2=36$、右辺は $(1+4+4)(4+1+9)=9\cdot14=126$ で、$36\le126$ である。
  2. 2 乗の和を展開すると $\sum(a_it-b_i)^2=9t^2-12t+14$ である。平方完成すると $9\bigl(t-\frac23\bigr)^2+10$ で、最小値は $10>0$ なので、グラフは $t$ 軸と交わらない(図 1)。$\frac14$ 判別式は $6^2-9\cdot14=-90\le0$ であり、これが $36\le126$ と同じことである。
  3. 等号の例:$a=(1,2)$、$b=(2,4)$ では $b=2a$ で、左辺 $(2+8)^2=100$、右辺 $5\cdot20=100$ と等しい。

図1:a = (1,2,2)、b = (2,−1,3) の 2 乗の和 9t² − 12t + 14 のグラフ。最小値 10 > 0 で t 軸と交わらない 図1:a = (1,2,2)、b = (2,−1,3) の 2 乗の和 9t² − 12t + 14 のグラフ。最小値 10 > 0 で t 軸と交わらない

同じ考え方で出る不等式

同じ判別式の考え方から、次のような不等式も出る。

  1. 球面上の最大値:$x^2+y^2+z^2=1$ のとき $(2x+3y+6z)^2\le(4+9+36)\cdot1=49$ なので、$2x+3y+6z$ の最大値は $7$ である($(x,y,z)=\frac17(2,3,6)$ でとる)。
  2. 分数の和:正の数 $x,y,z$ が $x+y+z=1$ を満たすとき、$\frac1x+\frac4y+\frac9z\ge\frac{(1+2+3)^2}{x+y+z}=36$ であり、$(x,y,z)=\bigl(\frac16,\frac13,\frac12\bigr)$ で $6+12+18=36$ となる。
  3. 積分:すべての実数 $t$ で $\int_0^1(tx-x^2)^2dx=\frac13t^2-\frac12t+\frac15\ge0$ なので、判別式 $\frac14-\frac4{15}=-\frac1{60}$ は負であり、$\bigl(\int_0^1x^3dx\bigr)^2=\frac1{16}\le\int_0^1x^2dx\int_0^1x^4dx=\frac1{15}$ が出る。和の代わりに積分があっても、2 乗の和(2 乗の積分)が $0$ 以上であることだけで同じ議論が通る。

高校の計算と大学の概念

判別式を使う高校の計算は、大学では「内積」の言葉で整理される。右の列は、その内容を扱う記事である。

高校の計算大学の概念記事
すべての $t$ で $0$ 以上 ⇔ 判別式 $\le0$2 次式の半正定値性判別式で示す不等式
$ax^2+2bxy+cy^2\ge0$ の判定2次形式の半正定値性判別式で示す不等式
差を 2 乗の和で書くLagrange の恒等式判別式で示す不等式
内積は長さの積を超えない半内積の Cauchy–Schwarz の不等式Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学)
平行なら等号1 次従属なら等号Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学)
なす角 $\theta$ から内積を決める内積から角を決めるCauchy–Schwarzの不等式(高校数学)
相関係数は $-1$ 以上 $1$ 以下偏差ベクトルの角の余弦Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学)
分数の和を 1 つの分数で下から押さえる重み付き内積の Cauchy–SchwarzEngel形の不等式

3 つの記事と読む順番

3 本は、前の記事の結果を後の記事で使うように並んでいる。はじめて学ぶときは ① から順に読むとよい。

  1. 判別式で示す不等式:「$at^2+2bt+c$ がすべての実数 $t$ で $0$ 以上 ⇔ $a\ge0$、$c\ge0$、$b^2\le ac$」を、$t^2$ の係数が $0$ の場合と等号の場合も含めて証明する。2 乗の和から 2 次式を作って不等式を示す方法、2 変数の 2 次式の判定、判別式を使わない Lagrange の恒等式、$t$ の範囲が限られると判別式が使えない例が分かる。
  2. Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学):内積の条件を取り出して半内積を定め、$\langle u,v\rangle^2\le\langle u,u\rangle\langle v,v\rangle$ を判別式で証明する。内積($\langle u,u\rangle=0$ なら $u=0$ となるもの)では等号が 1 次従属のときに限ること、半内積では等号から 1 次従属が出ない例、三角不等式、内積で角を定める方法、関数や相関係数への応用、条件を外すと崩れる例が分かる。
  3. Engel形の不等式:$y_i>0$ のとき $\sum\frac{x_i^2}{y_i}\ge\frac{(\sum x_i)^2}{\sum y_i}$ を判別式で証明し、条件つきの最小値の問題に使う。国際数学オリンピック(1995 年)第 2 問を高校数学で解き、その解の係数が Cauchy–Schwarz の不等式の「最良の $t$」であることを見る。
どの疑問にどの記事が答えるか
疑問答える記事
判別式の条件は $t^2$ の係数が $0$ のときも使えるか① 判別式で示す不等式
$t>0$ でだけ $0$ 以上のときも判別式を使ってよいか(答:いけない)①
角を使わずに内積の不等式を示せるのはなぜか② Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学)
等号が成り立つのはいつか②
関数の積分 $\int fg\,dx$ でも同じ不等式が成り立つか① と ②
分数の和の最小値をどう求めるか③ Engel形の不等式
数学オリンピックの問題でどう使うか③

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関連項目

参考文献

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