Hjelmslevの定理(Hjelmslev's theorem)とは、平面の合同変換 $f$ と直線 $\ell$ について、点 $P$ が $\ell$ の上を動くとき、$P$ と $P'=f(P)$ を結ぶ線分の中点は、互いに異なってすべて 1 本の直線の上にあるか、すべて同じ 1 点に重なる、という定理である。複素数で $f(z)=az+b$ または $f(z)=a\overline z+b$($\lvert a\rvert=1$)と書くと、中点が媒介変数の 1 次式になることから従う。1 点に重なるのは、$f$ が点対称移動のときと、$f$ が鏡映またはすべり鏡映でその軸が $\ell$ と垂直なときである。回転では中点の直線は $\ell$ を回転相似で移したもの、鏡映・すべり鏡映では軸そのものになる。
前提知識: 平面の合同変換の分類, 複素数の掛け算は回転と拡大, 中点連結定理, ベクトル方程式(直線と円)
図形を回転させると、もとの図形と動かした図形が重なり合わずに並ぶ。もとの図形の点 $P$ と、それが移った先の点 $P'$ を線分で結び、その中点をとってみる。$P$ が 1 本の直線の上を動くとき、中点はどんな図形をえがくだろうか。
原点を中心とする $90^\circ$ の回転は、点 $(x,y)$ を点 $(-y,x)$ に移す(複素数の掛け算は回転と拡大:$z=x+yi$ に $i$ を掛けると $iz=-y+xi$)。直線 $\ell\colon y=1$ の上の点 $P(t,1)$($t$ は実数)は、点 $P'(-1,t)$ に移る。$P'$ は直線 $m\colon x=-1$ の上を動く。
いくつかの $t$ で、線分 $PP'$ の中点 $M$ を計算する。
中点の $x$ 座標と $y$ 座標が、どちらも $t$ の 1 次式になった。これが一直線に並んだ理由である。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 回転・鏡映を複素数の式で書く | 合同変換の式 $az+b$、$a\overline z+b$ | 直交変換と平行移動 |
| 直線を $z_0+tw$ と書く | 直線の媒介変数表示 | 1 次元のアフィン部分空間 |
| 中点 $\dfrac{z+f(z)}2$ が $t$ の 1 次式 | Hjelmslev の定理 | アフィン写像は直線を直線か 1 点に移す |
| 中点の直線の場所 | 回転相似・すべり鏡映の軸 | アフィン写像の像 |
平面の点を複素数で表す(点 $(x,y)$ を $z=x+yi$ で表す)。2 点の距離を変えない平面の写像を 合同変換 という。合同変換は平行移動・回転・鏡映・すべり鏡映のどれか(または恒等写像)で、複素数を使うと次の 2 つの形のどちらかに書ける(平面の合同変換の分類 の定理「合同変換の式」)。$a$ は絶対値 $1$ の複素数、$b$ は複素数である。
$$
\text{(I)}\ \ f(z)=az+b\qquad\text{または}\qquad\text{(II)}\ \ f(z)=a\overline z+b
$$
(I) は向きを保つ合同変換(平行移動・回転・恒等写像)、(II) は向きを逆にする合同変換(鏡映・すべり鏡映)である。
直線は、1 点 $z_0$ と $0$ でない複素数 $w$(直線の向き)を使って、$z=z_0+tw$($t$ は実数)と書ける。これは直線のベクトル方程式 $\vec p=\vec p_0+t\vec d$ を複素数で書いたものである(ベクトル方程式(直線と円))。ex-hj-start の直線 $y=1$ は $z_0=i$、$w=1$ で、$z=i+t$ である。
平面の合同変換 $f$ に対して、点 $z$ を、$z$ と $f(z)$ を結ぶ線分の中点に移す写像
$$
h_f(z)=\frac{z+f(z)}2
$$
を、$f$ の 中点の写像 と呼ぶことにする。$f(z)=z$ となる点($f$ で動かない点)では、$h_f(z)=z$ とする(線分が 1 点につぶれた場合の中点)。
2 点 $z_1$、$z_2$ を結ぶ線分の中点が $\dfrac{z_1+z_2}2$ であることは、位置ベクトルの中点の公式を複素数で書いたものである(位置ベクトルと内分点)。
$x$ 軸の上の点 $P(t,0)$ を考える。
(1) 原点を中心とする $90^\circ$ の回転 $f_1(z)=iz$ で、$P$ は $(0,t)$ に移る。
(2) 直線 $y=x$ に関する鏡映 $f_2(z)=i\overline z$ でも、$P$ は $(0,t)$ に移る($t$ は実数なので $\overline t=t$)。
どちらでも、$x$ 軸の点 $P(t,0)$ と $y$ 軸の点 $P'(0,t)$ が対応し、中点は $\left(\dfrac t2,\dfrac t2\right)$ で、直線 $y=x$ の上を動く。
1 本の直線の上の点の行き先だけでは、合同変換は 1 つに決まらない。平面全体では $f_1$ と $f_2$ は違う写像で、たとえば点 $i$ は $f_1$ で $-1$ に、$f_2$ で $i\cdot(-i)=1$ に移る。合同変換が決まるには、一直線上にない 3 点の行き先が要る(平面の合同変換の分類 の系「合同変換は 3 点の行き先で決まる」)。
平面の合同変換 $f$ と直線 $\ell$ をとる。点 $P$ が $\ell$ の上を動くとき、$P$ と $P'=f(P)$ を結ぶ線分の中点について、次のどちらか一方が成り立つ。
(R1) 中点は互いに異なり、すべて 1 本の直線の上にある。
(R2) 中点はすべて同じ 1 点である。
$\ell$ を $z=z_0+tw$($w\ne0$)と書くとき、条件 (ii) が起こるのは、$f$ が (I) の形 $f(z)=az+b$ で $a=-1$(点対称移動)のときと、$f$ が (II) の形 $f(z)=a\overline z+b$ で $w+a\overline w=0$ のときに限る。
この形の主張は Wei26 にある。証明は、ex-hj-start で見た「中点の座標が $t$ の 1 次式になる」ことを、合同変換の式で一般に確かめるだけである。
方針:$\ell$ の点を $z=z_0+tw$ と書き、中点 $h_f(z)=\dfrac{z+f(z)}2$ を計算する。どちらの形の $f$ でも、中点は $c+td$($c$、$d$ は $t$ によらない複素数)の形になる。
段 1((I) の形)。$f(z)=az+b$ のとき、$z=z_0+tw$ を代入すると $f(z)=az_0+b+t\,aw$ なので
$$
h_f(z)=\frac{(z_0+tw)+(az_0+b+t\,aw)}2=\underbrace{\frac{(1+a)z_0+b}2}_{c}+t\cdot\underbrace{\frac{(1+a)w}2}_{d}
$$
である。
段 2((II) の形)。$f(z)=a\overline z+b$ のとき、$t$ は実数なので $\overline{z}=\overline{z_0}+t\,\overline w$ である(実数 $t$ の共役は $t$ 自身)。よって $f(z)=a\overline{z_0}+b+t\,a\overline w$ で
$$
h_f(z)=\frac{(z_0+tw)+(a\overline{z_0}+b+t\,a\overline w)}2=\underbrace{\frac{z_0+a\overline{z_0}+b}2}_{c}+t\cdot\underbrace{\frac{w+a\overline w}2}_{d}
$$
である。
段 3($d\ne0$ の場合)。中点は $c+td$ で、$t$ が実数全体を動くと、これは点 $c$ を通り向き $d$ の直線をえがく(ベクトル方程式(直線と円))。$t_1\ne t_2$ なら $(c+t_1d)-(c+t_2d)=(t_1-t_2)d\ne0$ なので、中点は互いに異なる。これが (i) である。
段 4($d=0$ の場合)。中点は $t$ によらず $c$ で、すべて同じ 1 点である。これが (ii) である。
段 5($d=0$ になる条件)。(I) の形では $d=\dfrac{(1+a)w}2$ で、$w\ne0$ なので、$d=0$ は $1+a=0$、つまり $a=-1$ と同じである。$a=-1$ のとき $f(z)=-z+b$ は点 $\dfrac b2$ に関する点対称移動である(ex-hj-formulas の (2) で $c=\dfrac b2$)。(II) の形では $d=\dfrac{w+a\overline w}2$ なので、$d=0$ は $w+a\overline w=0$ と同じである。$\square$
$P'$ の動く範囲も同じ計算で分かる。(I) では $f(z)=(az_0+b)+t\,aw$、(II) では $f(z)=(a\overline{z_0}+b)+t\,a\overline w$ で、向き $aw$ または $a\overline w$(どちらも絶対値が $\lvert w\rvert\ne0$)の直線である。つまり $P'$ は、$\ell$ を $f$ で移した直線 $m$ の上を動く。
ex-hj-start を prf-hj-main の式で見直すと、$f(z)=iz$($a=i$、$b=0$)、$z_0=i$、$w=1$ なので
$$
c=\frac{(1+i)i}2=\frac{-1+i}2,\qquad d=\frac{1+i}2
$$
である。中点は $\left(-\dfrac12,\dfrac12\right)$ を通り、向き $(1,1)$ の直線、つまり $y=x+1$ の上に並ぶ。
ex-hj-formulas の (4) のすべり鏡映 $f(z)=\overline z+2$ で、直線 $\ell\colon y=x$ の上の点 $P(t,t)$ を動かす。$z=t+ti$ なので $f(z)=t-ti+2$、つまり $P'(t+2,-t)$ である。$P'$ は直線 $m\colon y=-x+2$ の上を動く。
原点のまわりの 90° の回転で、直線 y = 1 の点 P を直線 x = −1 の点 P′ に移す。線分 PP′ の中点は直線 y = x + 1 の上に並ぶ
x 軸を軸とするすべり鏡映で、直線 y = x の点 P を直線 y = −x + 2 の点 P′ に移す。線分 PP′ の中点は軸である x 軸の上に並ぶ
図 1 は ex-hj-start の回転、図 2 は ex-hj-glide のすべり鏡映である。どちらでも、対応する点を結ぶ線分(細い線)の中点が、1 本の直線(太い線)の上に並ぶ。
thm-hj-main は中点が並ぶことを示したが、どの直線に並ぶかは述べていない。中点の写像 $h_f$ を、$\ell$ の上だけでなく平面全体で調べると、場所が分かる。合同変換の種類ごとに見る。
平面の合同変換 $f$ の中点の写像 $h_f(z)=\dfrac{z+f(z)}2$ は、次のとおりである。
(1) $f$ が平行移動 $f(z)=z+b$ なら、$h_f(z)=z+\dfrac b2$ で、$h_f$ は $\dfrac b2$ の平行移動である。
(2) $f$ が点 $c$ を中心とする角 $\theta$ の回転($-180^\circ<\theta<180^\circ$、$\theta\ne0^\circ$)なら
$$
h_f(z)-c=\cos\frac\theta2\cdot e^{i\theta/2}\,(z-c)
$$
である。つまり $h_f$ は、$c$ を中心に角 $\dfrac\theta2$ だけ回転し、$c$ からの距離を $\cos\dfrac\theta2$ 倍に縮める写像(回転相似)である。
(3) $f$ が点 $c$ に関する点対称移動(角 $180^\circ$ の回転)なら、$h_f(z)=c$ で、どの点も $c$ に移る。
(4) $f$ が (II) の形 $f(z)=a\overline z+b$ なら、$a=u^2$($\lvert u\rvert=1$)となる $u$ をとると
$$
h_f(z)=\frac b2+\mathrm{Re}(\overline u z)\,u
$$
である。平面のすべての点の中点が、点 $\dfrac b2$ を通り向き $u$ の直線 $L$ の上にある。$L$ は $f$ の軸($f$ が鏡映なら鏡映の軸、すべり鏡映ならすべり鏡映の軸)である。
段 2($f$ は $L$ を $L$ に沿ってずらす)。$L$ の点 $z=\dfrac b2+su$ について、$\overline z=\dfrac{\overline b}2+s\overline u$ と $u^2\overline u=u$ から
$$f(z)=u^2\left(\frac{\overline b}2+s\overline u\right)+b=\frac b2+su+\frac{a\overline b+b}2=z+\frac{\tau}2$$
である。$\overline u\tau=u\overline b+\overline ub=2\,\mathrm{Re}(\overline ub)$ は実数なので、$\tau$ は $u$ の実数倍で、$\dfrac\tau2$ は $L$ に平行である。
段 3($L$ は軸)。$g(z)=f(z)-\dfrac\tau2$ とおくと、$g$ は (II) の形の合同変換で、段 2 により $L$ の点を 1 つも動かさない。平面の合同変換の分類 の定理「平面の合同変換の分類」により、(II) の形は鏡映かすべり鏡映である。すべり鏡映は 2 回続けると $\vec 0$ でないベクトルの平行移動になるので、動かない点をもたない。よって $g$ は鏡映で、鏡映の動かない点の集まりは軸なので、$g$ は $L$ に関する鏡映である。$f(z)=g(z)+\dfrac\tau2$ なので、$f$ は $L$ に関する鏡映の後に $L$ に平行な $\dfrac\tau2$ の平行移動をする写像である。
prop-hj-where の (4) の $\tau$ は、平面の合同変換の分類 の定理「平面の合同変換の分類」の $t=a\overline b+b$ と同じ数で、すべり鏡映の移動のベクトルは $\dfrac\tau2$ である。
thm-hj-main の条件 $w+a\overline w=0$ を、prop-hj-where の (4) で読む。$\ell$ の点 $z=z_0+tw$ の中点は
$$
h_f(z)=\frac b2+\mathrm{Re}(\overline uz_0)\,u+t\,\mathrm{Re}(\overline uw)\,u
$$
である。$\mathrm{Re}(\overline uw)$ は、ベクトル $w$ と、軸 $L$ の向きのベクトル $u$ の内積である($u=p+qi$、$w=r+si$ なら $\overline uw=(pr+qs)+(ps-qr)i$ で、実部は内積 $pr+qs$)。したがって
| 合同変換 $f$ | 式 | 中点の写像 $h_f$ | 中点 |
|---|---|---|---|
| 恒等写像 | $z$ | 恒等写像 | $\ell$ 自身 |
| 平行移動 | $z+b$ | $\dfrac b2$ の平行移動 | $\ell$ を $\dfrac b2$ ずらした直線 |
| 回転($0^\circ<\lvert\theta\rvert<180^\circ$) | $c+e^{i\theta}(z-c)$ | 回転相似(角 $\dfrac\theta2$、$\cos\dfrac\theta2$ 倍) | $\ell$ をその回転相似で移した直線 |
| 点対称移動 | $-z+2c$ | どの点も $c$ に移す | 1 点 $c$ |
| 鏡映・すべり鏡映 | $a\overline z+b$ | 軸 $L$ の上に移す | $\ell\not\perp L$ なら $L$、$\ell\perp L$ なら 1 点 |
点 $c=1+2i$ を中心とする $150^\circ$ の回転 $f$ で、直線 $\ell\colon z=3+t(1+i)$(点 $(3,0)$ を通り傾き $1$)を動かす。prop-hj-where の (2) により、中点の写像は $c$ を中心に $75^\circ$ 回転して $\cos75^\circ$ 倍にする回転相似である。$\cos75^\circ=\dfrac{\sqrt6-\sqrt2}4\fallingdotseq0.259$ である。
中点の直線は、$\ell$ の向き $45^\circ$ を $75^\circ$ 回した向き $120^\circ$ をもつ。実際に $t=0$、$t=1$ で中点を計算すると(数値は小数第 3 位まで)
$$
t=0:\ (1.634,\ 2.366),\qquad t=1:\ (1.451,\ 2.683)
$$
で、2 点を結ぶ向きは $(-0.183,\ 0.317)$、その傾きは $-1.732\fallingdotseq-\sqrt3=\tan120^\circ$ である。
$\ell$ の点 $z=3+t(1+i)$ について $z-c=(2+t)+(t-2)i$ である。$h_f(z)=c+\cos75^\circ\,e^{i\,75^\circ}(z-c)$ で、$\cos75^\circ e^{i\,75^\circ}=\dfrac{1+e^{i\,150^\circ}}2=\dfrac{1}2+\dfrac12\left(-\dfrac{\sqrt3}2+\dfrac12i\right)=\dfrac{2-\sqrt3}4+\dfrac14i$ である。$t=0$ では $z-c=2-2i$ で、$\left(\dfrac{2-\sqrt3}4+\dfrac14i\right)(2-2i)=\dfrac{2-\sqrt3}2+\dfrac12+\left(\dfrac12-\dfrac{2-\sqrt3}2\right)i=\dfrac{3-\sqrt3}2+\dfrac{\sqrt3-1}2i$ なので、中点は $\left(1+\dfrac{3-\sqrt3}2,\ 2+\dfrac{\sqrt3-1}2\right)=\left(\dfrac{5-\sqrt3}2,\ \dfrac{3+\sqrt3}2\right)$ である。$t$ が $1$ 増えると $z-c$ は $1+i$ 増え、中点は $\left(\dfrac{2-\sqrt3}4+\dfrac14i\right)(1+i)=\dfrac{1-\sqrt3}4+\dfrac{3-\sqrt3}4i$ だけ動く。この向きの傾きは $\dfrac{3-\sqrt3}{1-\sqrt3}=\dfrac{(3-\sqrt3)(1+\sqrt3)}{(1-\sqrt3)(1+\sqrt3)}=\dfrac{2\sqrt3}{-2}=-\sqrt3$ である。
prop-hj-where の (4) は、$\ell$ の上の点だけでなく平面のすべての点について述べている。そこで、三角形の頂点のように直線の上にない点にも使える。
三角形 $ABC$ と三角形 $A'B'C'$ が、向きを逆にする合同変換 $f$((II) の形)で $f(A)=A'$、$f(B)=B'$、$f(C)=C'$ と移り合うとする。このとき、線分 $AA'$、$BB'$、$CC'$ の中点は、$f$ の軸の上にあり、とくに一直線上にある。
prop-hj-where の (4) により、どの点 $z$ についても、$z$ と $f(z)$ を結ぶ線分の中点 $h_f(z)$ は $f$ の軸 $L$ の上にある。$z=A,B,C$ とおくと、3 つの中点 $h_f(A)$、$h_f(B)$、$h_f(C)$ はどれも $L$ の上にある。$\square$
3 辺の長さが等しい 2 つの三角形は、必ず合同変換で移り合う(平面の合同変換の分類 の 3 鏡映定理の証明は、$AB=A'B'$、$BC=B'C'$、$CA=C'A'$ だけを使って、$A,B,C$ を $A',B',C'$ に移す鏡映の合成を作っている)。その合同変換が (II) の形になるのは、頂点を $A\to B\to C$ の順に回る向きと $A'\to B'\to C'$ の順に回る向きが逆のとき(片方が時計回りで、もう片方が反時計回り)である(平面の合同変換の分類 の定義「向きを保つ・逆にする」の後の説明)。
$A(0,0)$、$B(5,0)$、$C(-2,3)$ の三角形は、$\overrightarrow{AB}\cdot\overrightarrow{AC}=5\cdot(-2)+0\cdot3=-10<0$ なので、$\angle A$ が鈍角の三角形である。すべり鏡映 $f(z)=i\overline z+1+3i$ で動かすと
$$
A'=f(0)=1+3i,\qquad B'=f(5)=5i+1+3i=1+8i,\qquad C'=f(-2+3i)=i(-2-3i)+1+3i=4+i
$$
で、$A'(1,3)$、$B'(1,8)$、$C'(4,1)$ である。辺の長さは $AB=A'B'=5$、$AC=A'C'=\sqrt{13}$、$BC=B'C'=\sqrt{58}$ である。
線分 $AA'$、$BB'$、$CC'$ の中点は
$$
\left(\frac12,\frac32\right),\qquad (3,4),\qquad (1,2)
$$
で、どれも $y-x=1$ を満たし、直線 $y=x+1$ の上にある。
prop-hj-where の (4) で確かめる。$a=i=u^2$ から $u=e^{i\,45^\circ}=\dfrac{1+i}{\sqrt2}$ で、軸 $L$ は点 $\dfrac b2=\dfrac12+\dfrac32i$ を通り向き $(1,1)$ の直線、つまり $y=x+1$ である。移動のベクトルは $\dfrac\tau2=\dfrac{i(1-3i)+1+3i}2=\dfrac{4+4i}2=2+2i$ で、軸に平行である。
鈍角三角形 ABC を、直線 y = x + 1 を軸とするすべり鏡映で三角形 A′B′C′ に移す。対応する頂点を結ぶ 3 本の線分の中点は軸の上に並ぶ
向きが同じ合同な三角形では、$f$ は平行移動か回転である。prop-hj-where の (1)・(2) により、中点の写像は平行移動か回転相似なので、3 つの中点は、三角形 $ABC$ と相似な三角形の頂点になる($f$ が点対称移動なら 1 点に重なる)。一直線には並ばない。
thm-hj-main の仮定を 1 つ外すと、中点は一直線に並ばなくなる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $P$ と $P'$ の対応が合同変換から来る | $P(t,0)$ と $P'(0,t^3)$ | 中点が一直線上にある |
| $P$ が直線の上を動く | 単位円の上の $P$ と、$(4,0)$ の平行移動 | 中点が一直線上にある |
$x$ 軸の上の点 $P(t,0)$ に、$y$ 軸の上の点 $P'(0,t^3)$ を対応させる。$P$ も $P'$ も直線の上を動き、異なる $P$ には異なる $P'$ が対応する。しかし距離は保たれない。$P(1,0)$ と $P(2,0)$ の距離は $1$ だが、対応する $P'(0,1)$ と $P'(0,8)$ の距離は $7$ である。
中点は $\left(\dfrac t2,\dfrac{t^3}2\right)$ で、$t=0,1,2$ では
$$
(0,0),\qquad \left(\frac12,\frac12\right),\qquad (1,4)
$$
である。$(0,0)$ から残りの 2 点へのベクトル $\left(\dfrac12,\dfrac12\right)$、$(1,4)$ について $\dfrac12\cdot4-\dfrac12\cdot1=\dfrac32\ne0$ なので、2 つのベクトルは平行でなく、3 点は一直線上にない。中点は曲線 $y=4x^3$ の上を動く。
崩れた理由は、中点の座標が $t$ の 1 次式でなくなったことである。prf-hj-main では、合同変換が (I)・(II) の式で書けることから、$f(z_0+tw)$ が $t$ の 1 次式になった。
単位円 $x^2+y^2=1$ の上の点 $P$ を、$(4,0)$ の平行移動 $f(z)=z+4$ で動かす。$f$ は合同変換だが、$P$ は直線の上を動かない。prop-hj-where の (1) により、中点は $P$ を $(2,0)$ だけずらした点で、中心 $(2,0)$、半径 $1$ の円の上を動く。たとえば $P(1,0)$、$(0,1)$、$(-1,0)$ の中点は $(3,0)$、$(2,1)$、$(1,0)$ で、$(3,0)$ から残りの 2 点へのベクトル $(-1,1)$、$(-2,0)$ について $(-1)\cdot0-1\cdot(-2)=2\ne0$ なので、一直線上にない。
中点の写像 $h_f$ は、直線を直線に移す写像である。直線でない図形の上の点の中点が並ぶとは限らない。ただし、$f$ が鏡映やすべり鏡映なら、prop-hj-where の (4) により、どんな図形の上の点でも中点は軸の上に並ぶ(cor-hj-triangle)。
x 軸の点 P(t, 0) に y 軸の点 P′(0, t³) を対応させると、中点は曲線 y = 4x³ の上を動き、一直線に並ばない
単位円の点 P を 4 だけ右に平行移動すると、中点は中心 (2, 0)、半径 1 の円の上を動く
prf-hj-main で使ったのは、「$f(z_0+tw)$ が $t$ の 1 次式である」ことだけだった。この性質をもつ写像は合同変換に限らない。平面の点 $\vec x$ を $A\vec x+\vec q$($A$ は $2\times2$ 行列、$\vec q$ はベクトル)に移す写像を アフィン写像 という($A$ の行列式が $0$ でないものがアフィン変換で、中点連結定理 でも扱う)。$f(\vec x)=A\vec x+\vec q$ がアフィン写像なら、中点の写像
$$
h_f(\vec x)=\frac{\vec x+A\vec x+\vec q}2=\frac{E+A}2\,\vec x+\frac{\vec q}2
$$
($E$ は単位行列)もアフィン写像である。直線 $\vec x=\vec p_0+t\vec d$ の像は $h_f(\vec p_0)+t\cdot\dfrac{E+A}2\vec d$ なので、$\dfrac{E+A}2\vec d\ne\vec 0$ なら直線、$=\vec 0$ なら 1 点である。
同じ計算は空間でもそのまま成り立つ。空間の合同変換は $\vec x\mapsto A\vec x+\vec q$($A$ は $3\times3$ の直交行列)の形に書けることが知られている(この記事では証明しない)。これを認めると、空間の直線 $\ell$ の上の点 $P$ と $P'=f(P)$ の中点は、1 本の直線の上にあるか、1 点に重なる。$\ell$ と $f(\ell)$ が同じ平面の上になくてもよい。
相似変換でも中点は並ぶ。たとえば原点を中心とする $2$ 倍の拡大 $f(z)=2z$ では、中点の写像は $h_f(z)=\dfrac32z$ で、直線 $\ell$ の点の中点は、$\ell$ を $\dfrac32$ 倍した直線の上に並ぶ。このとき $\dfrac{E+A}2=\dfrac32E$ は逆行列をもつので、中点が 1 点に重なることはない。
合同変換に特有なのは、prop-hj-where の (4) のように、行列 $\dfrac{E+A}2$ が逆行列をもたない場合があることである。(II) の形の合同変換では、$A$ は直線 $L$ に関する折り返しの行列で、$\dfrac{E+A}2$ は $L$ の向きへの正射影の行列になる(正射影と射影行列)。平面全体が 1 本の直線 $L$ につぶれるので、どんな図形の上の点でも中点は $L$ の上に並ぶ。
直線 $\ell\colon x=2$ の上の点 $P$ を考える。
(1) 原点を中心とする $60^\circ$ の回転で $P$ を $P'$ に移すとき、線分 $PP'$ の中点の並ぶ直線の方程式を求めよ。
(2) 中点がすべて 1 点に重なるような鏡映の軸を 1 つ挙げ、その 1 点を求めよ。
(1) prop-hj-where の (2) により、中点の写像は $h(z)=\cos30^\circ\,e^{i\,30^\circ}z=\dfrac{\sqrt3}2\left(\dfrac{\sqrt3}2+\dfrac12i\right)z=\left(\dfrac34+\dfrac{\sqrt3}4i\right)z$ である。$\ell$ の点 $z=2+ti$ を代入すると
$$h(z)=\left(\frac34+\frac{\sqrt3}4i\right)(2+ti)=\left(\frac32-\frac{\sqrt3}4t\right)+\left(\frac{\sqrt3}2+\frac34t\right)i$$
である。$t=0$ のとき点 $\left(\dfrac32,\dfrac{\sqrt3}2\right)$ で、$t$ が $1$ 増えるごとに $\left(-\dfrac{\sqrt3}4,\dfrac34\right)$ だけ動くので、傾きは $\dfrac{3/4}{-\sqrt3/4}=-\sqrt3$ である。直線は $y-\dfrac{\sqrt3}2=-\sqrt3\left(x-\dfrac32\right)$、つまり $y=-\sqrt3x+2\sqrt3$ である。原点からの距離は $\dfrac{2\sqrt3}{\sqrt{3+1}}=\sqrt3=2\cos30^\circ$ で、$\ell$ の原点からの距離 $2$ の $\cos30^\circ$ 倍になっている。
(2) 軸が $\ell$ に垂直な鏡映を選べばよい。たとえば $x$ 軸に関する鏡映では $P(2,t)$ が $P'(2,-t)$ に移り、中点はいつも $(2,0)$ である。
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