$\Delta$-システム、あるいは向日葵とは、互いに異なる元が同じ共通部分を持つ集合族である。
また$\Delta$-システム補題 ($\Delta$-system lemma) あるいは向日葵補題 (sunflower lemma)、とは、組合せ論的集合論、あるいは極値組合せ論に於ける基本的な命題であり、大雑把に言えば与えられた集合族に対してその部分族で任意の互いに異なる元の共通部分を同じとするものが存在するという形をした命題である。組合せ論的集合論の文脈では主に強制概念$\mathbb{P}$に対するKnasterの性質や$\kappa$-反鎖条件などを証明するために用いられる。
集合族$\mathcal{D}$が$\Delta$-システム ($\Delta$-system) 、あるいは向日葵 (sunflower) であるとは、ある集合$r$が存在し、任意の$\mathcal{D}$の元$x,y$に対して$x\neq y$ならば$x\cap y=r$となることである。ここで$r$を$\Delta$-システム$\mathcal{D}$の根 (root) 、あるいは向日葵$\mathcal{D}$の芯 (core, kernel) であるという。また$x\in\mathcal{D}$に対して$x\setminus r$を花びら (petal) という。
向日葵、筒状花の部分が向日葵の核に相当する
集合論では$\mathcal{D}$が無限の場合が良く考えられ、$\Delta$-システムや、その根という言葉も主に集合論で用いられる。一方$\mathcal{D}$が有限な場合が極値組合せ論で良く考えられ、向日葵とその核という言葉も主に極値組合せ論で良く考えられる。
非可算な有限集合族$\mathcal{A}$に対して、$\Delta$-システム$\mathcal{D}\subseteq\mathcal{A}$が存在する。
特に$\mathcal{A}$の濃度が非可算であり、かつ正則であるとき$\card{\mathcal{A}}=\card{\mathcal{D}}$となるように取れる。
(選択公理により)一般性を失わず、非可算正則基数$\kappa$に対して$\mathcal{A}\subseteq\restrictedpower{\kappa}{<\omega}$として良い。$\cof{\kappa}>\omega$により、$n\in\omega$と$\mathcal{A}'\subseteq\mathcal{A}$で$\card{\mathcal{A}'}=\kappa$であり、かつ$\mathcal{A}'\subseteq\restrictedpower{\kappa}{n}$となるようなものが存在する。よって以下の主張を示せば十分である。
主張 任意の正整数$n\in\omega$、非可算正則基数$\kappa$、$\mathcal{A}\subseteq\restrictedpower{\kappa}{n}$で$\card{\mathcal{A}}=\kappa$となるようなものに対して、$\mathcal{D}\subseteq\mathcal{A}$と順序数$\delta<\kappa$で$\card{\mathcal{D}}=\kappa$であり、任意の$a,b\in\mathcal{D}$に対して$a\neq b$ならば$a\cap \delta=a\cap b=b\cap\delta$となるようなものが存在する。
主張の証明 正整数$n\in\omega$に対する数学的帰納法で示す。
$n=1$の場合:$\mathcal{A}\subseteq\restrictedpower{\kappa}{1}$より任意の$a,b\in\mathcal{A}$に対して$a\neq b$ならば$a\cap b=\emptyset$である。よって$\mathcal{D}:=\mathcal{A}$、$\delta:=0$とすれば良い。
$n+1$の場合:$n$の場合を仮定し、以下の通り場合分けをして構成する。
- ある$\tau<\kappa$が存在し、$\mathcal{A}_\tau:=\{a\in\mathcal{A}\mid\tau=\min{a}\}$の濃度が$\kappa$であるとする。この場合、帰納法の仮定を用いれば、$\mathcal{D}_\tau\subseteq\{a\setminus\{\tau\}\mid a\in\mathcal{A}_\tau\}$と順序数$\delta_\tau<\kappa$で$\card{\mathcal{D}_\tau}=\kappa$であり、かつ任意の$a,b\in\mathcal{D}_\tau$に対して$a\cap \delta_\tau=a\cap b=b\cap\delta_\tau$となるようなものが存在する。
\begin{align*} \mathcal{D}:&=\{a\cup\{\tau\}\mid a\in\mathcal{D}_\tau\}\\ \delta:&=\delta_\tau\cup(\tau+1) \end{align*}
と定めると、$\card{\mathcal{D}}=\card{\mathcal{D}_\tau}=\kappa$であり、また$\delta_\tau<\kappa$と$\tau<\kappa$より$\delta<\kappa$となる。また任意の$a,b\in\mathcal{D}$に対して、$\mathcal{D}$の定義から$a_\tau,b_\tau\in\mathcal{D}_\tau$が存在して$a=a_\tau\cup\{\tau\}$、$b=b_\tau\cup\{\tau\}$と表せる。よって$\mathcal{D}_\tau$の定義から$(a_\tau\cap(\tau+1))=\{\tau\}$であることを用いれば
\begin{align*} a\cap\delta&=(a_\tau\cup\{\tau\})\cap(\delta_\tau\cup(\tau+1))\\ &=(a_\tau\cap(\delta_\tau\cup(\tau+1)))\cup(\{\tau\}\cap(\tau+1))\\ &=(a_\tau\cap\delta_\tau)\cup (a_\tau\cap(\tau+1))\cup\{\tau\}\\ &=(a_\tau\cap\delta_\tau)\cup \{\tau\} \end{align*}
となり、同様に
\begin{align*} b\cap\delta&=(b_\tau\cap\delta_\tau)\cup \{\tau\} \end{align*}
となる。また
\begin{align*} a\cap b &=(a_\tau\cup\{\tau\})\cap(b_\tau\cup\{\tau\})\\ &=(a_\tau\cap b_\tau) \cup\{\tau\} \end{align*}
となる。今$a_\tau\cap \delta_\tau=a_\tau\cap b_\tau=b_\tau\cap\delta_\tau$を思い出すと$a\cap\delta=a\cap b=b\cap\delta$を得る。- 任意の$\tau<\kappa$に対して、$\mathcal{A}_\tau:=\{a\in\mathcal{A}\mid\tau=\min{a}\}$の濃度が$\kappa$未満であるとする。$\kappa$の正則性を用いて超限帰納法により$f\colon\kappa\to\mathcal{A}$を任意の順序数$\xi<\kappa$に対して
$$\bigcup f[\xi]\subseteq\min{f(\xi)}$$
が成り立つように構成する。
後続順序数の場合:$\xi+1$未満に対して$f$が定義されているとすると、任意の$\zeta<\xi+1$に対して$\bigcup f[\zeta]\subseteq\min{f(\zeta)}$である。$\bigcup f[\xi]=f(\xi)\cup \bigcup f[\zeta]$であり、$\kappa$の正則性から仮定を用いれば$\sup{\bigcup f[\xi]}$は$\kappa$未満である。$\kappa$の正則性から$\mathcal{A}\setminus\bigcup_{\eta\leq\sup{\bigcup f[\xi]}}\mathcal{A}_\eta$は非空となるため、$f(\xi+1)\in\mathcal{A}\setminus\bigcup_{\eta\leq\sup{\bigcup f[\xi]}}\mathcal{A}_\eta$となるように選択すれば良い。
極限順序数の場合:$\lambda$未満に対して$f$が定義されているとすると、任意の$\xi<\lambda$に対して$\bigcup f[\xi]\subseteq\min{f(\xi)}$である。$\bigcup f[\lambda]=\bigcup_{\xi<\lambda}\bigcup f[\xi]$であり、$\kappa$の正則性から仮定を用いれば$\sup{\bigcup f[\lambda]}$は$\kappa$未満である。以下は後続順序数の場合を同じ議論を行えば良い。
今、
\begin{align*} \mathcal{D}&:=f[\kappa]\\ \delta&:=0 \end{align*}
と定めれば、$f$が明らかに単射なので$f[\kappa]$の濃度は$\kappa$であり、また任意の$a,b\in\mathcal{D}$に対して順序数$\xi,\zeta$で$a=f(\xi)$、$b=f(\zeta)$が成り立つものが存在し、単射性から$a\neq b$とすれば$\xi\neq\zeta$となる。$\xi<\zeta$としても一般性を失わず、$f$の満たす性質から$f(\xi)\subseteq\min{f(\zeta)}$である。よって$a\cap b=\emptyset$となるため$a\cap 0=a\cap b=b\cap 0$となる。
$\kappa=\omega$の場合や$\kappa$が特異基数の場合には同じ大きさの$\Delta$-システムは必ずしも存在し得ない。
$\mathcal{A}=\omega$としたとき、$\mathcal{A}$の$\Delta$-システムは$\emptyset$に限る。
$n,m\in\mathcal{A}$に対して$n\cap m=\min\{n,m\}$となるため明らか。
$\kappa$を無限特異基数とする。このとき、$\mathcal{A}\subseteq\restrictedpower{\kappa}{2}$で$\card{\mathcal{A}}=\kappa$で、$\Delta$-システム$\mathcal{D}\subseteq\mathcal{A}$で$\card{\mathcal{D}}=\kappa$となるものが存在しないようなものが存在する。
$\kappa$が特異基数であるため$\cof{\kappa}<\kappa$となる。いま、$f\colon\cof{\kappa}\to\kappa$を狭義単調増加かつ共終な関数とする。すなわち、$f[\cof{\kappa}]$は$\kappa$にて非有界であるとする。すると$\kappa=\bigcup_{\xi<\cof{\kappa}}[f(\xi),f(\xi+1))$であり、また$\card{[f(\xi),f(\xi+1))}<\kappa$であり。
$$\mathcal{A}:=\bigcup_{\xi<\cof{\kappa}}\restrictedpower{[f(\xi),f(\xi+1))}{2}$$
とすると、$\card{\mathcal{A}}=\kappa$であり、$\mathcal{D}\subseteq\mathcal{A}$を$\Delta$-システムとすると、ある$r$が存在し、$a,b\in\mathcal{D}$に対して、$a\neq b$に対して$a\cap b=r$となる。今$\mathcal{D}\subseteq\mathcal{A}$なので、$\eta\in\kappa$に対して$r=\{\eta\}$とすると、ある$\xi<\cof{\kappa}$が存在して、$\eta\in [f(\xi),f(\xi+1))$となる。今、$\zeta\in\kappa$で$\zeta\neq\xi$に対して$\eta\notin[f(\zeta),f(\zeta+1))$であるから、$\mathcal{D}\subseteq \restrictedpower{[f(\xi),f(\xi+1))}{2}$となる。よって
$$\card{\mathcal{D}}\leq\card{\restrictedpower{[f(\xi),f(\xi+1))}{2}}<\kappa$$
となる。
$\Delta$-システム補題は、以下のような一般化を持つ。一般化の証明は複数の手法で証明でき、高尚な概念は用いない愚直だが、見通しが良くない証明が Kunen の古い公理的集合論の本、あるいは、その藤田博司による和訳に載っている。以下では定常集合の理論を用いた証明と初等部分モデルを用いた証明を紹介する。
$\kappa,\lambda$ を正則基数、$\mathcal{A}$を集合族として以下を仮定する。
このとき$\Delta$-システム$\mathcal{D}\subseteq\mathcal{A}$で$\card{\mathcal{D}}=\kappa$となるものが存在する。
(選択公理により)一般性を失わず、$\mathcal{A}\subseteq\restrictedpower{\kappa}{<\lambda}$として仮定して良い。また整列可能定理により$\mathcal{A}$を整列させて$\mathcal{A}=\{a_\xi\mid\xi\in\kappa\}$と置く。今、$\lambda<\kappa$が正則基数なので
$$ \mathbf{E}^\kappa_\lambda:=\{\xi\in\kappa\mid\cof{\xi}=\lambda\}$$
は$\kappa$の定常集合である。$f\colon\mathbf{E}^\kappa_\lambda\to\kappa$を以下のように定義する。
$$ f(\xi):=\sup{(\xi\cap a_\xi)}$$
今、任意の$\xi\in\mathbf{E}^\kappa_\lambda$に対して$\card{a_\xi}<\lambda=\cof{\xi}$となることから任意の$\xi\in\mathbf{E}^\kappa_\lambda$に対して
$$ f(\xi):=\sup{(\xi\cap a_\xi)}<\xi$$
が成り立つ。よって$f$は退行的であり、Fodorの押し下げ補題により、定常集合$S\subseteq\mathbf{E}^\kappa_\lambda$と$\nu<\kappa$で、任意の$\xi\in S$に対して$\sup{(\xi\cap a_\xi)}<\nu$となるものが存在する。また$C\subseteq\kappa$を
$$ C:=\{\xi\in\kappa\mid(\forall\zeta<\xi)[\sup{a_\zeta}<\xi]\}$$
と定める。
主張 $C$は$\kappa$上の閉非有界集合である。
主張の証明 $\zeta\in\kappa$に対して
$$ C_\zeta:=\{\xi\in\kappa\mid \sup{a_\zeta}<\xi\}$$は明らかに閉非有界であり、また$C=\bigtriangleup_{\xi\in\kappa}C_\xi$となるため閉非有界性が対角共通部分に閉じていることから分かる。
定常集合$S$と閉非有界集合$C$の共通部分$S\cap C$は定常集合である。よって$\alpha,\beta\in S\cap C$を任意に取り、$\alpha<\beta$と仮定すると、$\sup{(\beta\cap a_\beta)}<\nu$と$\sup{a_\alpha}<\beta$であることから$a_\alpha\cap a_\beta\subseteq\nu$となる。
今、$S$は定常であり、非定常イデアル$\mathrm{NS}_\kappa$の加法数$\mathrm{add}(\mathrm{NS}_\kappa)$が$\kappa$である、言い換えれば閉非有界フィルターが$\kappa$-完備であることを用いれば、仮定$\card{\restrictedpower{\nu}{<\lambda}}<\kappa$により、定常集合$T\subseteq S$で任意の$\alpha,\beta\in T$に対して$a_\alpha\cap\nu=a_\beta\cap\nu$となるようなものが存在する。$T$は定常集合なので$\card{T}=\kappa$であり、$\{a_\xi\mid\xi\in T\}$が$\Delta$-システムとなる。
(選択公理により)一般性を失わず、$\mathcal{A}\subseteq\restrictedpower{\kappa}{<\lambda}$として仮定して良い。$N\in\omega$を以下の議論が通るくらい十分に大きく取り、任意の基数$\theta<\kappa$に対して$\theta^{<\lambda}<\kappa$であることと、反映原理とLöwenheim–Skolem– Tarskiの定理を用いて$M$を$V$の部分集合で
を満たすように取る。$\card{M}<\kappa$により$\mathcal{A}\setminus\mathcal{M}\neq\emptyset$なので$a\in\mathcal{A}\setminus\mathcal{M}$を取り、$r:=a\cap M$とする。$\card{r}<\lambda$であり、また$\restrictedpower{M}{<\lambda}\subseteq M$なので、$r\in M$となる。$\mathbb{P}:=\struc{P;\leq}$を以下のように定義する。
主張 $\mathbb{P}$は帰納的半順序である。
主張の証明 半順序であることは明らかである。よって帰納的であることを確かめる。鎖$C\subseteq P$に対して$\bigcup C$も$r$を根とする$\Delta$-システムであることを確認すれば良い。$a,b\in\bigcup C$を任意に取る。今、ある$\mathcal{D}\in C$に対して$a,b\in\mathcal{D}$であり、$\mathcal{D}$は$r$を根とする$\Delta$-システムなので$a\cap b=r$となる。
Zornの補題により$\mathbb{P}$は極大元を持つ。また$\mathcal{A},r\in M$により$\mathbb{P}$は$\struc{M;{\in}{\restriction}M}$上で定義可能なので$\mathbb{P}\in M$となる。$\Sigma_N$-初等性により、
$$ \struc{M;{\in}{\restriction}M}\models \text{`` $\mathbb{P}$ は極大元を持つ"}$$
が成り立つ。よって$\mathcal{D}\in M$を
$$ \struc{M;{\in}{\restriction}M}\models \text{`` $\mathcal{D}$ は $\mathbb{P}$ の極大元である"}$$
が成り立つように取る。
主張 $\card{\mathcal{D}}=\kappa$である。
主張の証明 $\card{\mathcal{D}}<\kappa$と仮定すると$\mathcal{D}\in M$により$\card{\mathcal{D}}\in\kappa\cap M\in\mathrm{On}\cap M$であり、$\card{\mathcal{D}}\subseteq M$と仮定して良い。特に$\struc{M;{\in}{\restriction}M}\preceq_{\Sigma_1}\struc{V;\in}$により$\mathcal{D}\subseteq M$として良い。今$\mathcal{D}':=\mathcal{D}\cup\{a\}$とする。$b\in\mathcal{D}$を任意に取ると、$b\in M$となり、$\card{b}<\lambda\subseteq\kappa\cap M$により$b\subseteq M$となる。また$\Sigma_N$-初等性により$\struc{V;\in}$にて$r\subseteq b$となる。よって$a\cap b=a\cap M=r$となり、$\mathcal{D}'$は$\Delta$-システムとなるため、$\mathcal{D}$の極大性に矛盾する。
非可算基数$\kappa$に対して擬順序$\mathbb{P}:=\struc{P;\leq}$が$\kappa$-Knasterであるとは、任意の$A\subseteq P$に対して$\card{A}=\kappa$ならば、$B\subseteq A$で$\card{B}=\kappa$であり、かつ任意の$p,q\in B$に対して、ある$r\in P$が存在し$r\leq p$かつ$r\leq q$となるものが存在することである。特に$\aleph_1$-Knaster 性を**性質 K ** (property K) と呼ぶこともある。
また位相空間$\struc{X,\mathcal{O}_X}$が$\kappa$-Knaster であるとは半順序$\struc{\mathcal{O}_X\setminus\{\emptyset\};\subseteq}$が$\kappa$-Knaster であることとする。
非可算基数$\kappa$に対して擬順序$\mathbb{P}:=\struc{P;\leq}$が$\kappa$-鎖条件 ($\kappa$-chain condition, $\kappa$-c.c.) を持つとは、任意の狭義反鎖$A\subseteq P$に対して$\card{A}<\kappa$となることである。特に$\aleph_1$-鎖条件を可算鎖条件 (countable chain condition, c.c.c.) と呼ぶ。
また位相空間$\struc{X,\mathcal{O}_X}$が$\kappa$-鎖条件を持つとは半順序$\struc{\mathcal{O}_X\setminus\{\emptyset\};\subseteq}$が$\kappa$-鎖条件を持つこととする。
$\kappa$を無限基数とする。$\kappa$-Knaster 性は$\kappa$-鎖条件を導く。
明らか。
$\Delta$-システム補題は強制概念 (最大元を持つ擬順序) が$\kappa$-鎖条件や$\kappa$-Knaster性を持つことを示すために用いられる。以下では連続体仮説の独立性証明に用いられる Cohen 強制が $\aleph_1$-Knaster を持つことを示す。これらの性質は強制法によるジェネリック拡大を考えたとき基数が保存されることを証明するのに利用される。
$I$を添字集合、$i\in I$に対して$\mathbb{P}_i:=\struc{P_i;\leq_{{\mathbb{P}_i}},\mathbb{1}_{\mathbb{P}_i}}$を強制概念とする。$<\kappa$-台直積 ($<\kappa$-support product) $\prod_{i\in I}^{<\kappa}\mathbb{P}_i=\struc{P;\leq}$を以下のように定義する、
特に$\kappa=\aleph_0$のとき有限台直積 (finite support product) 、$\kappa=\aleph_1$のとき可算台直積 (countable support product) という。
位相空間の族$\{\struc{X_i;\mathcal{O}_{X_i}}\}_{i\in I}$のTychonoff直積$\struc{X;\mathcal{O}_X}:=\prod_{i\in I}\struc{X_i;\mathcal{O}_{X_i}}$を考える。$\struc{\mathcal{O}_X\setminus\{\emptyset\};\subseteq}$は$\struc{\mathcal{O}_{X_i}\setminus\{\emptyset\};\subseteq}$の有限台直積と同型である。同様に箱位相は$<\card{I}^+$-台直積と対応する。一般の$<\kappa$-台直積に対する位相空間の積はShelahなどの一部などでは用いられている。
正則基数$\kappa$、基数$\lambda$に対して強制概念$\mathrm{Add}(\kappa),\mathrm{Add}(\kappa,\lambda)$を
と定める。
任意の無限基数$\kappa$に対して$\mathrm{Add}(\kappa)$は${\mathopen{}\left(2^{<\kappa}\right)\mathclose{}}^+$-Knaster 性を持つ。
$\card{{}^{<\kappa}2}<{\mathopen{}\left(2^{<\kappa}\right)\mathclose{}}^+$となるため明らかである。
$\kappa$を無限基数とする。$\mathbb{P}_0,\mathbb{P}_1$を$\kappa$-Knaster 性を持つ強制概念とする。このとき$\mathbb{P}_0\times\mathbb{P}_1$も$\kappa$-Knaster 性を持つ。また任意の有限直積に対しても Knaster 性は保存される。
$A\subseteq\mathbb{P}_0\times\mathbb{P}_1$を$\card{A}=\kappa$となる集合とする。以下の通り場合分けを行う。
ある$i\in 2$、$p_i\in\mathbb{P}_i$に対して$p_i$による射影$A_{1-i}:=\{p_{1-i}\in\mathbb{P}_{1-i}\mid \seq{p_0,p_1}\in A\}$の濃度が$\kappa$となる場合:$\mathbb{P}_{1-i}$が$\kappa$-Knaster なので$B_{1-i}\subseteq A_{1-i}$で$B_{1-i}$の任意の二元は互いに(広義)比較可能となるようなものが存在する。よって$B:=\{p_i\}\times B_{1-i}\subseteq A$とすれば、$\card{B}=\kappa$であり、また任意の二元は互いに(広義)比較可能である。
そうでない場合:$F\subseteq A$で$\card{F}=\kappa$であり、$F$は全単射な関数のグラフとなるようなものが存在する。
\begin{align*}
\pi_0[F]&:=\{p_0\in\mathbb{P}_0\mid (\exists p_1\in\mathbb{P}_1)[\seq{p_0,p_1}\in F]\}\\
\pi_1[F]&:=\{p_1\in\mathbb{P}_1\mid (\exists p_0\in\mathbb{P}_0)[\seq{p_0,p_1}\in F]\}
\end{align*}
の濃度は互いに$\kappa$であり、$\mathbb{P}_0,\mathbb{P}_1$の$\kappa$-Knaster 性から$B_0\subseteq\pi_0[F]$と$B_1\subseteq\pi_1[F]$で濃度が$\kappa$であり、各二元が互いに(広義)比較可能となるようなものを取ってこれる。$B=B_0\times B_1\subseteq A$とし、$\seq{p_0,p_1},\seq{q_0,q_1}\in B$を任意に取る。今、$r_0\leq_{\mathbb{P}_0}p_0,q_0$と$r_1\leq_{\mathbb{P}_1}p_1,q_1$が存在する。よって$\seq{r_0,r_1}\leq_{\mathbb{P}_0\times\mathbb{P}_1}\seq{p_0,p_1},\seq{q_0,q_1}$となるため(広義)比較可能である。任意の有限集合に対して保存されることは二項直積の場合を用いて添字集合に対する数学的帰納法に従う。
任意の有限集合に対して保存されることは二項直積の場合を用いて添字集合に対する数学的帰納法に従う。
$\kappa,\lambda$を正則基数、$I$を添字集合、$\{\mathbb{P}_i\}_{i\in I}$を強制概念の族とし、以下を仮定する。
このとき$\kappa$-台直積$\prod_{i\in I}^{<\lambda}\mathbb{P}_i$も$\kappa$-Knaster 性を持つ。
$A\subseteq\prod_{i\in I}^{<\lambda}\mathbb{P}_i$を$\card{A}=\kappa$となる集合とし、$S:=\{\supp{p}\mid p\in A\}$とする。
同じような証明が$\kappa$-鎖条件に関しても成り立つため、以下の定理を得る。
$\kappa,\lambda$を正則基数、$I$を添字集合、$\{\mathbb{P}_i\}_{i\in I}$を強制概念の族とし、以下を仮定する。
このとき$\kappa$-台直積$\prod_{i\in I}^{<\lambda}\mathbb{P}_i$も$\kappa$-鎖条件を持つ。
また Knaster 性の場合有限直積で保存されるため、$\lambda=\aleph_0$ の場合として以下を得る。
$\kappa$を正則基数、$I$を添字集合、$\{\mathbb{P}_i\}_{i\in I}$を強制概念の族とし、各$i\in I$に対して$\mathbb{P}_i$は$\kappa$-Knaster であるとする。このとき$\prod^{<\aleph_0}_{i\in I}\mathbb{P}_i$も$\kappa$-Knaster である。
また位相空間のTychonoff直積と有限台直積の関係から以下を得る。
$\kappa$を正則基数とする。位相空間の族$\{X_i\}_{i\in I}$に対して任意の有限部分集合$J\subseteq I$に対して$\prod_{j\in J}X_j$が$\kappa$-鎖条件を持つなら$\prod_{i\in I}X_i$も$\kappa$-鎖条件を持つ。
また目的であった Cohen 強制の Knaster 性も分かる。
任意の無限基数$\kappa$、基数$\lambda$に対して$\mathrm{Add}(\kappa,\lambda)$は${\mathopen{}\left(2^{<\kappa}\right)\mathclose{}}^+$-Knaster 性を持つ。
$s,k$を正整数とする。$\mathcal{F}$を集合族で任意の元が濃度$s$となるようなものとするとき、$\card{\mathcal{F}}>s!(k-1)^s$ならば向日葵$\mathcal{S}\subseteq\mathcal{F}$で$\card{\mathcal{S}}=k$となるものが存在する。
$s$に関する数学的帰納法で示す。
$s=1$の場合:$\card{F}$の元は対ごとに素な一元集合であり、$\card{\mathcal{F}}>k-1$となるため任意の$\mathcal{F}$の部分集合$\mathcal{S}$で$\card{\mathcal{S}}=k$となるものが求めるものとなる。
$s+1$の場合:$\mathcal{A}:=\{A_0,\ldots,A_{t-1}\}\subseteq\mathcal{F}$を$\mathcal{F}$の元からなる対ごとに素な集合族の中で包含関係に関して極大なものとする。
$t-1\geq k$の場合:$\mathcal{A}$が芯が$\emptyset$となる求める向日葵である。
$t-1< k$の場合:$B:=\bigcup\mathcal{A}$とする。$\card{B}=st\leq s(k-1)$であり、$\mathcal{A}$の極大性から任意の$\mathcal{F}$の元と$B$は交わる。よって鳩の巣原理により$x\in B$で少なくとも$s!(k-1)^s$個の$\mathcal{F}$の元に含まれるようなものが存在することが以下の式により分かる。
$$ s!(k-1)^s=\frac{(s+1)!(k-1)^{s+1}}{(s+1)(k-1)}<\frac{\card{\mathcal{F}}}{\card{B}}$$
よって、そのような$x$に対して
$$ \mathcal{F}_x:=\{S\setminus\{x\}\mid S\in\mathcal{F}\land x\in S\}$$
とすれば、帰納法の仮定から向日葵$\mathcal{S}_x\subseteq\mathcal{F}_x$で$\card{\mathcal{S}_x}=k$となるようなものが存在する。今
$$\mathcal{S}:=\{S\cup\{x\}\mid S\in\mathcal{S}_x\}$$
が求める向日葵である。
$s,k$を正整数とする。$\mathrm{Sun}(s,k)$を正整数$n$で濃度がたかだか$s$の元$n$個からなる任意集合族が濃度が$k$となる向日葵を部分集合として持つような最小の自然数とする。
任意の正整数$s,k$に対して$(k-1)^s\leq\mathrm{Sun}(s,k)\leq s!(k-1)^s+1$が成り立つ。
Erdős–Radoはこの結果をもとに、上限が改善できるのではないかと予想した。
任意の$k$に対して定数$C_k$が存在し、$\mathrm{Sun}(s,k)< C_k^s$が成り立つ。
この予想は$k=3$のケースですら2023年現在恐らく未解決であり、上限の改善は比較的最近に活発的に行われているようである。
証明には Rao は Shannon の符号化定理を用いており、Tao は Shannon のエントロピーを用いることで単純化した。現在のところのこの戦略によって改善されている。
向日葵補題は主に計算機科学の様々な分野に応用されているようである。特に計算複雑性の下限の証明に用いられる。例えば Junkna などを参照。
[^1]: 反鎖に関する条件なので$\kappa$-反鎖条件 ($\kappa$-antichain condition, $\kappa$-a.c.) とも呼ばれる。ただし$\kappa$-鎖条件という名称は、強制概念$\mathbb{P}$が$\kappa$-鎖条件を満たすことと Boole 完備化$\mathbb{B}(\mathbb{P})$が満たすことが同値であり、また完備Boole代数$\mathbb{B}$に対しては$\kappa$-鎖条件が鎖$C\subseteq\mathbb{B}$で$\card{C}=\kappa$となるものが存在しないことが同値であることによって正当化できる。