Julia集合(Julia set)とは、Riemann 球面上の有理関数 $f$ の反復 $f^n$ が、どの近傍に制限しても球面距離について正規族にならない点の集合である。補集合の Fatou 集合では近くの点の軌道がそろって振る舞い、Julia 集合の点のどの近くにも振る舞いの食い違う点がある。Julia 集合は閉集合で $f$ による像と逆像について閉じ、吸引的な不動点は含まず反発的な不動点を含む。次数 $2$ 以上の多項式 $p$ では、軌道が有界な点の集合 $K(p)$ の境界に一致し、$z^2$ では単位円、$z^2-2$ では線分 $[-2,2]$ になる。
Julia集合は、Riemann球面 $\hat{\mathbb{C}}=\mathbb{C}\cup\{\infty\}$ からそれ自身への有理関数 $f$ を繰り返し合成したときに、初期値のわずかな違いが大きく増幅される点の集合である。その補集合を Fatou 集合という。Fatou 集合の点の近くでは、反復 $f^n=f\circ\cdots\circ f$ の振る舞いが近くの点どうしでそろっている。一方 Julia 集合の点のどの近くにも、振る舞いが大きく食い違う点がある。複素力学系は、この二分法から始まる。
たとえば $f(z)=z^2$ では、$|z|<1$ の点の軌道は $0$ に、$|z|>1$ の点の軌道は $\infty$ に向かい、単位円 $|z|=1$ がその境目、すなわち Julia 集合である。$z^2-2$ の Julia 集合は線分 $[-2,2]$ であり(ex-js-chebyshev)、$z^2-1=0$ を解く Newton法 の反復では虚軸と $\infty$ が Julia 集合になる(ex-js-newton)。このように滑らかな Julia 集合はむしろ例外で、2 次多項式でも、係数によって Julia 集合は複雑に入り組んだ曲線、Cantor 集合のように細かく分かれた集合、樹枝状の集合などになる(Mil91 §3, pp. 3-1–3-3 の図)。
「振る舞いがそろっている」ことは、反復の列が正規族をなすことで定式化する。$\infty$ に向かう軌道も「そろった振る舞い」に含めたいので、距離は Riemann 球面の上で測る。
Riemann球面 の命題「立体射影の式」の立体射影 $\varphi\colon S^2\to\hat{\mathbb{C}}$ の逆写像を $\psi:=\varphi^{-1}$ とし、$z,w\in\hat{\mathbb{C}}$ に対し $\sigma(z,w):=|\psi(z)-\psi(w)|$($\mathbb{R}^3$ の Euclid 距離)とおく。$\sigma$ を $\hat{\mathbb{C}}$ の球面距離(弦距離)という。
$\psi$ は全単射で同相写像なので、$\sigma$ は $\hat{\mathbb{C}}$ の距離であり、それが定める位相は Riemann 球面の位相と一致する。とくに $(\hat{\mathbb{C}},\sigma)$ はコンパクトな完備距離空間である。
$z,w\in\mathbb{C}$ に対し
$$
\sigma(z,w)=\frac{2|z-w|}{\sqrt{(1+|z|^2)(1+|w|^2)}},\qquad\sigma(z,\infty)=\frac2{\sqrt{1+|z|^2}}
$$
である。とくに $\sigma(z,w)\le2|z-w|$ であり、$|z|,|w|\le L$ なら $|z-w|\le\frac{1+L^2}2\sigma(z,w)$ である。
$|\psi(z)|=|\psi(w)|=1$ なので $\sigma(z,w)^2=2-2\langle\psi(z),\psi(w)\rangle$ である。
$s:=|z|^2$、$t:=|w|^2$ とおく。Riemann球面 の命題「立体射影の式」の $\psi$ の式から$$\langle\psi(z),\psi(w)\rangle=\frac{4\operatorname{Re}(z\overline w)+(s-1)(t-1)}{(s+1)(t+1)}$$であり、$(s+1)(t+1)-(s-1)(t-1)=2s+2t$ を使うと$$2-2\langle\psi(z),\psi(w)\rangle=\frac{2(2s+2t-4\operatorname{Re}(z\overline w))}{(s+1)(t+1)}=\frac{4|z-w|^2}{(s+1)(t+1)}$$である。$\psi(\infty)=(0,0,1)$ との距離は、$\psi(z)$ の第 3 成分が $\frac{s-1}{s+1}$ なので $\sigma(z,\infty)^2=2-2\frac{s-1}{s+1}=\frac4{s+1}$ である。2 つの不等式は、分母 $\sqrt{(1+s)(1+t)}$ が $1$ 以上で、$|z|,|w|\le L$ なら $1+L^2$ 以下であることから従う。
$U\subset\hat{\mathbb{C}}$ を開集合とし、$\mathcal{F}$ を $U$ から $\hat{\mathbb{C}}$ への連続写像の族とする。$\mathcal{F}$ の任意の列が、$U$ の各コンパクト集合上で $\sigma$ について一様収束する部分列をもつとき、$\mathcal{F}$ を $U$ 上の正規族(normal family)という。極限は $\hat{\mathbb{C}}$ に値をとる連続写像で、$\mathcal{F}$ に属さなくてもよい。
正則関数の族については、これは「各コンパクト集合上で一様収束する部分列か、各コンパクト集合上で一様に $\infty$ に向かう部分列をもつ」という古典的な定義と同じであり、極限は正則関数か定数 $\infty$ である(Ahl66 Chapter 5 §4.5, Definition 3 と Lemma, pp. 217–218)。$U$ 上で一様に有界な正則関数の族は、各コンパクト集合上で一様収束する部分列をもつ(Montel の定理。Leb26 Theorem 6.2.2, p. 154)。prop-js-chordal-formula の $\sigma\le2|z-w|$ により、そのような族は def-js-normal の意味でも正規族である。
有理関数 $f=P/Q$($P,Q$ は共通根のない多項式)は、Riemann球面 の定理「Riemann 球面の正則写像と有理関数」により $\hat{\mathbb{C}}$ からそれ自身への正則写像とみなせる。$f$ の次数は $\max(\deg P,\deg Q)$ である。
$f$ を定数でない有理関数とし、$f^n$ を $f$ の $n$ 回の合成とする。点 $z\in\hat{\mathbb{C}}$ が Fatou 集合 $F(f)$ に属するとは、$z$ の開近傍 $U$ で、族 $\{f^n|_U\}_{n\ge1}$ が $U$ 上の正規族となるものがあることをいう。$F(f)$ の補集合 $J(f):=\hat{\mathbb{C}}\setminus F(f)$ を $f$ の Julia 集合(Julia set)という。
定義から $F(f)$ は開集合、$J(f)$ は閉集合である。主に扱うのは次数 $2$ 以上の場合である。次数 $1$ の写像(Möbius 変換)では、Julia 集合が空集合や 1 点になる例がある(ex-js-counterexamples の 1・2 行目)。
$f$ を定数でない有理関数とする。
要点:Fatou 集合の性質として示す。正規性は、連続写像で引き戻しても、開写像で押し出しても保たれる。
1:$f(z)\in F(f)$ とし、$f(z)$ の開近傍 $V$ で $\{f^n|_V\}$ が正規族となるものをとる。$U:=f^{-1}(V)$ は $z$ の開近傍で、$f^{n+1}|_U=f^n\circ f|_U$ である。$U$ のコンパクト集合 $K$ の像 $f(K)$ は $V$ のコンパクト集合なので、$f^{n_k}$ が $f(K)$ 上で一様収束すれば $f^{n_k+1}$ は $K$ 上で一様収束する。対角線論法により、$\{f^n|_U\}$ の任意の列は $U$ のすべてのコンパクト集合上で一様収束する部分列をもつ($U$ は可算個のコンパクト集合の増大列で取り尽くせる)。よって $z\in F(f)$ である。
逆に $z\in F(f)$ とし、$\{f^n|_U\}$ が正規族となる開近傍 $U$ をとる。$z$ の開近傍 $U_1$ でその閉包 $\overline{U_1}$ がコンパクトで $U$ に含まれるものをとると、$f(U_1)$ は $f(z)$ の開近傍である(開写像定理(複素解析) の定理「正則写像の開写像定理」)。列 $f^{m_k}$ に対し、$f^{m_k+1}$ の部分列で $\overline{U_1}$ 上 $\sigma$ について一様収束するものをとる(同じ記号で書く)。$w\in f(U_1)$ を $w=f(u)$($u\in U_1$)と書くと $\sigma(f^{m_k}(w),f^{m_j}(w))=\sigma(f^{m_k+1}(u),f^{m_j+1}(u))$ なので、$f^{m_k}$ は $f(U_1)$ 上で一様に Cauchy 列であり、$\hat{\mathbb{C}}$ は完備なので一様収束する。よって $f(z)\in F(f)$ である。
同値性から $f^{-1}(J(f))=J(f)$ である。$f$ は $\hat{\mathbb{C}}$ からの全射(Riemann球面 の系「零点と極の釣り合い・全射性」)なので $f(f^{-1}(J))=J$ である。
2:$g^n=M\circ f^n\circ M^{-1}$ である。$M$ と $M^{-1}$ はコンパクト距離空間 $(\hat{\mathbb{C}},\sigma)$ の同相写像なので一様連続である。$f^{n_k}$ が $K$ 上で一様収束すれば、$M\circ f^{n_k}\circ M^{-1}$ は $M(K)$ 上で一様収束する。$M$ はコンパクト集合・開集合をそれぞれ同じ種類の集合に移すので、$F(g)=M(F(f))$、したがって $J(g)=M(J(f))$ である。
1 は、Julia 集合が $f$ の作用で閉じていて、逆像をとっても閉じていること(完全不変性)を述べる。2 により、Möbius 変換で写りあう写像の Julia 集合は同じ形をしている。
多項式 $p$ では、$\infty$ の近くの点はすぐに $\infty$ へ逃げていく。逃げない点の集合の境界が Julia 集合になる。
多項式 $p$ に対し、軌道 $\{p^n(z)\}_{n\ge0}$ が有界な点 $z\in\mathbb{C}$ 全体の集合 $K(p)$ を、$p$ の充填 Julia 集合(filled Julia set)という。
$p(z)=a_dz^d+\cdots+a_0$($d\ge2$、$a_d\ne0$)とする。$R\ge1$ を十分大きくとると、$|z|\ge R$ なら $|p(z)|\ge2|z|$ となる。このとき次が成り立つ。
$S:=\sum_{j< d}|a_j|$ とし、$R:=\max\bigl(1,\ 2S/|a_d|,\ (4/|a_d|)^{1/(d-1)}\bigr)$ とおく。$|z|\ge R$ なら $|z|\ge1$ なので $\sum_{j< d}|a_j||z|^j\le S|z|^{d-1}$ であり、
$$
|p(z)|\ge|z|^{d-1}\bigl(|a_d||z|-S\bigr)\ge|z|^{d-1}\cdot\frac{|a_d||z|}2=\frac{|a_d||z|^{d-1}}2\,|z|\ge2|z|
$$
である($|a_d||z|\ge2S$ と $|z|^{d-1}\ge4/|a_d|$ を使った)。
1:$|w|\ge R$ なら $|p(w)|\ge2|w|\ge R$ なので、帰納法により $n\ge k$ で $|p^n(z)|\ge2^{n-k}|p^k(z)|$ である。
2:軌道が有界なら 1 によりどの $n$ でも $|p^n(z)|\le R$ であり、逆は明らかである。したがって $K(p)=\bigcap_{n\ge0}(p^n)^{-1}\bigl(\{|w|\le R\}\bigr)$ は閉集合の共通部分で、$\{|z|\le R\}$ に含まれるのでコンパクトである。$p(z)-z$ は $d$ 次の多項式なので根 $z_*$ をもち(代数学の基本定理)、$z_*$ の軌道は定数なので $z_*\in K(p)$ である。$\square$
$p$ を次数 $2$ 以上の多項式とする。このとき $\infty$、$\mathbb{C}\setminus K(p)$、$K(p)$ の内部はどれも $F(p)$ に含まれ、$K(p)$ の境界 $\partial K(p)$ は $J(p)$ に含まれる。したがって
$$
J(p)=\partial K(p)
$$
であり、$J(p)$ は $\mathbb{C}$ の空でないコンパクト集合である。
lem-js-escape の $R$ を使う。
$\infty$ と $\mathbb{C}\setminus K(p)$. $V:=\{|z|>R\}\cup\{\infty\}$ は $\infty$ の開近傍で、lem-js-escape の 1 により $z\in V\cap\mathbb{C}$ で $|p^n(z)|\ge2^nR$、また $p^n(\infty)=\infty$ である。prop-js-chordal-formula により $V$ 上で $\sigma(p^n(z),\infty)\le2/\sqrt{1+4^nR^2}\to0$ が一様に成り立つ。$p^n$ 自身が $V$ 上で一様に定数 $\infty$ へ収束するので、どの部分列も一様収束し、$V\subset F(p)$ である。$z\notin K(p)$ なら、lem-js-escape の 2 によりある $k$ で $|p^k(z)|>R$ であり、連続性により $z$ の開近傍 $W$ 上で $|p^k|>R$ である。$W$ 上で $|p^n|\ge2^{n-k}R$($n\ge k$)なので、同じ理由で $W\subset F(p)$ である。
$K(p)$ の内部. $U$ を $K(p)$ の内部とすると、lem-js-escape の 2 により $U$ 上ですべての $n$ について $|p^n|\le R$ である。一様に有界な正則関数の族なので、Montel の定理により正規族であり(def-js-normal の後の注意)、$U\subset F(p)$ である。
$\partial K(p)$. $z_0\in\partial K(p)$ が $F(p)$ に属するとして矛盾を導く。$\{p^n\}$ が正規族となる $z_0$ の開近傍に含まれる閉円板 $\overline B:=\{|z-z_0|\le\delta\}$ をとると、ある部分列 $p^{n_k}$ が $\overline B$ 上で $\sigma$ について連続写像 $g$ に一様収束する。$K(p)$ は閉集合なので $z_0\in K(p)$ であり、$|p^{n_k}(z_0)|\le R$ から $\sigma(g(z_0),\infty)\ge c_0:=2/\sqrt{1+R^2}$ である。$c_1:=2/\sqrt{1+(R+1)^2}< c_0$ とおく。$g$ の連続性により、$|z-z_0|<\delta'$($0<\delta'\le\delta$)で $\sigma(g(z),\infty)>\frac{c_0+c_1}2$ となる $\delta'$ があり、一様収束により十分大きい $k$ では $\overline B$ 上で $\sigma(p^{n_k},g)<\frac{c_0-c_1}2$ である。このとき $|z-z_0|<\delta'$ で $\sigma(p^{n_k}(z),\infty)>c_1$、すなわち $|p^{n_k}(z)|< R+1$ となる。ところが $z_0$ は $K(p)$ の境界の点なので、$|w-z_0|<\delta'$ を満たす $w\notin K(p)$ があり、lem-js-escape により $p^{n}(w)\to\infty$ である。これは矛盾である。
まとめ. $\hat{\mathbb{C}}$ は $\{\infty\}$、$\mathbb{C}\setminus K(p)$、$K(p)$ の内部、$\partial K(p)$ の 4 つに互いに交わらずに分かれる。はじめの 3 つは $F(p)$ に、最後は $J(p)$ に含まれるので、$J(p)=\partial K(p)$ である。$K(p)$ は空でなく有界なので $\mathbb{C}$ と一致せず、$\mathbb{C}$ は連結なので $\partial K(p)\ne\emptyset$ である。$\partial K(p)$ は閉集合で $K(p)$ に含まれるのでコンパクトである。$\square$
$J(p)=\partial K(p)$ は Mil91 §17, Lemma 17.1(p. 17-1)の主張の一部である。そこでは $K(p)$ の内部の各連結成分が単連結であることも示されている。
$p(z)=z^2$ では $p^n(z)=z^{2^n}$ である。$|z|\le1$ なら軌道は有界、$|z|>1$ なら $|z|^{2^n}\to\infty$ なので $K(p)$ は閉円板 $|z|\le1$ であり、thm-js-polynomial により $J(p)$ は単位円 $|z|=1$ である。単位円上の点 $e^{2\pi it}$ に $p$ を施すことは、角 $t$ を 2 倍すること($t\mapsto2t\bmod1$)にあたる。
$p(z)=z^2-2$ では $J(p)=K(p)=[-2,2]$ である。
$p$ は Chebyshev多項式 の定義「正規化した Chebyshev 多項式」の $C_2(x)=x^2-2$ であり、同じ記事の命題「$x=z+\frac{1}{z}$ での値」により、$0$ でない $u$ について $p(u+u^{-1})=u^2+u^{-2}$ である。
$[-2,2]$ の外. $z\in\mathbb{C}\setminus[-2,2]$ とする。2 次方程式 $u^2-zu+1=0$ の 2 つの根 $u,u^{-1}$ は積が $1$ である。根の絶対値が $1$ なら $u^{-1}=\overline u$ で $z=u+\overline u=2\operatorname{Re}u\in[-2,2]$ となるので、$|u|\ne1$ であり、$|u|>1$ となる根 $u$ がとれる。$z=u+u^{-1}$ なので、$p^n(z)=u^{2^n}+u^{-2^n}$ であり、$|p^n(z)|\ge|u|^{2^n}-1\to\infty$ である。よって $z\notin K(p)$ である。
$[-2,2]$ の上. $z=2\cos\theta$ なら $p(z)=4\cos^2\theta-2=2\cos2\theta$ なので、軌道は $[-2,2]$ に留まる。
よって $K(p)=[-2,2]$ で、その内部は空なので、thm-js-polynomial により $J(p)=\partial K(p)=[-2,2]$ である。$\square$
$p$ を $[-2,2]$ に制限すると、$z=2\cos\theta$ を通して角の倍化 $\theta\mapsto2\theta$ になる。これを $x=z/2$ に書き直したものが Chebyshev多項式 の定理「角の倍化写像の周期点」で、$p$ の周期点が $[-2,2]$ で稠密であることを示している。
$z^2-1=0$ に Newton法 を当てると、反復写像は $N(z)=z-\dfrac{z^2-1}{2z}=\dfrac{z^2+1}{2z}$ で、次数 $2$ の有理関数である。$J(N)=i\mathbb{R}\cup\{\infty\}$ であり、$\operatorname{Re}z>0$ の点は根 $1$ に、$\operatorname{Re}z<0$ の点は根 $-1$ に収束する。
$M(z):=\dfrac{z-1}{z+1}$ とおくと
$$
M(N(z))=\frac{z^2+1-2z}{z^2+1+2z}=\Bigl(\frac{z-1}{z+1}\Bigr)^2=M(z)^2
$$
であり、有理関数として等しいので $\hat{\mathbb{C}}$ 上の写像として $N=M^{-1}\circ s\circ M$($s(w)=w^2$)である。prop-js-invariance の 2 と ex-js-square により、$J(N)=M^{-1}(\{|w|=1\})$ である。$z\in\mathbb{C}\setminus\{-1\}$ について $|M(z)|=1$ は $|z-1|=|z+1|$、すなわち $\operatorname{Re}z=0$ と同値であり、$M(\infty)=1$、$M(-1)=\infty$ なので、$J(N)=i\mathbb{R}\cup\{\infty\}$ である。$\operatorname{Re}z>0$ なら $|M(z)|<1$ なので $M(N^n(z))=M(z)^{2^n}\to0$、すなわち $N^n(z)\to M^{-1}(0)=1$ である。$\operatorname{Re}z<0$ なら $|M(z)|>1$ で、同様に $N^n(z)\to M^{-1}(\infty)=-1$ である。$\square$
Newton法 の記事が述べるとおり、根ごとに収束先で色分けしたときの境界が Julia 集合である。この例では境界は虚軸という直線になる。
有理関数 $f$ の不動点 $z_0\in\mathbb{C}$($f(z_0)=z_0$)について、$\lambda:=f'(z_0)$ を乗数という。$|\lambda|<1$ のとき $z_0$ は吸引的、$|\lambda|>1$ のとき反発的であるという。
$f$ を定数でない有理関数、$z_0\in\mathbb{C}$ をその不動点とする。$z_0$ が吸引的なら $z_0\in F(f)$、反発的なら $z_0\in J(f)$ である。
吸引的な場合. $|\lambda|< c< 1$ となる $c$ をとる。$(f(z)-z_0)/(z-z_0)\to\lambda$($z\to z_0$)なので、ある $\delta>0$ について $|z-z_0|\le\delta$ なら $|f(z)-z_0|\le c|z-z_0|$ である。この円板は $f$ で自分自身に移り、$|f^n(z)-z_0|\le c^n\delta$ である。$f^n$ は円板 $|z-z_0|<\delta$ 上で定数 $z_0$ に一様収束し($\sigma\le2|z-w|$ による)、どの部分列も一様収束するので、$z_0\in F(f)$ である。
反発的な場合. $z_0\in F(f)$ と仮定すると、閉円板 $\overline B:=\{|z-z_0|\le\delta\}$ と部分列 $f^{n_k}$ で、$\overline B$ 上 $\sigma$ について連続写像 $g$ に一様収束するものがとれる。$g(z_0)=z_0$ は有限なので、prf-js-polynomial の段「$\partial K(p)$」と同じ議論により、小さい円板 $B':=\{|z-z_0|<\delta'\}$ と $L>0$ があって、十分大きい $k$ で $B'$ 上 $|f^{n_k}|\le L$、$|g|\le L$ となる。prop-js-chordal-formula により $|f^{n_k}-g|\le\frac{1+L^2}2\sigma(f^{n_k},g)$ なので、$f^{n_k}$ は $B'$ 上で通常の意味で $g$ に一様収束する。Cauchyの積分公式 の系「Weierstrass の定理」により $g$ は $B'$ で正則で、$(f^{n_k})'(z_0)\to g'(z_0)$ である。ところが連鎖律と $f(z_0)=z_0$ により $(f^{n})'(z_0)=\lambda^n$ で、$|\lambda|^{n_k}\to\infty$ となり矛盾する。$\square$
ex-js-square の $z^2$ では、不動点 $0$ は乗数 $0$ で吸引的、$1$ は乗数 $2$ で反発的であり、それぞれ $F$ と $J$ に属する。ex-js-chebyshev の $z^2-2$ の不動点 $2$、$-1$ は乗数がそれぞれ $4$、$-2$ で反発的であり、$[-2,2]$ に属する。周期点($f^n(z_0)=z_0$)についても、乗数 $(f^n)'(z_0)$ により同様に判定できる(この記事では証明しない。Mil91 §3, Theorem 3.3, p. 3-4)。
次数 $2$ 以上の有理関数の Julia 集合について、次が知られている(この記事では証明しない)。多くは、$\hat{\mathbb{C}}$ の 3 点を値にとらない正則写像の族は正規族であるという Montel の定理(Mil91 §2, 2.5, pp. 2-3–2-4)から導かれる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 次数が $2$ 以上 | $f(z)=e^{i\theta}z$($\theta$ は実数) | $J(f)=\emptyset$ となり、性質 1(空でない)が成り立たない |
| 次数が $2$ 以上 | $f(z)=2z$ | $J(f)=\{0\}$ となり、性質 2(孤立点をもたない)が成り立たない |
| 正規族を球面距離で測り、$\infty$ への一様収束を許すこと | $p(z)=z^2$ | 有限の極限だけを許すと $\lvert z\rvert>1$ の点がすべて「Julia 集合」に入り、$J(p)=\partial K(p)$ が成り立たない |
表の 3 行を順に確かめる。
1 行目:$f^n(z)=e^{in\theta}z$ である。任意の列 $n_k$ に対し、単位円のコンパクト性から $e^{in_k\theta}\to e^{i\alpha}$ となる部分列がとれる。prop-js-chordal-formula により有限の $z$ について $\sigma(e^{i\beta}z,e^{i\alpha}z)=\frac{2|e^{i\beta}-e^{i\alpha}||z|}{1+|z|^2}\le|e^{i\beta}-e^{i\alpha}|$ であり、$z=\infty$ では両方とも $\infty$ なので、この部分列は $\hat{\mathbb{C}}$ 全体で一様に $e^{i\alpha}z$ に収束する。よって $F(f)=\hat{\mathbb{C}}$ である。
2 行目:$0$ は乗数 $2$ の反発的な不動点なので、prop-js-fixed-points により $0\in J(f)$ である。$0$ でない有限の $z_1$ については、$0$ を含まない閉円板 $|z-z_1|\le|z_1|/2$ の上で $|2^nz|\ge2^{n-1}|z_1|$ なので、$f^n$ は一様に $\infty$ へ収束する。$\infty$ の近傍 $\{|z|>1\}\cup\{\infty\}$ でも $|2^nz|\ge2^n$ なので同様である。よって $J(f)=\{0\}$ である。
3 行目:$|z_1|>1$ の点のどの近傍でも $|p^n|\to\infty$ なので、有限の値をとる関数に一様収束する部分列はない。有限の極限だけを許す定義では $|z|>1$ の点がすべて Julia 集合に入り、$\partial K(p)=\{|z|=1\}$ と一致しない。
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