Mostowskiの崩壊定理

同義語:Mostowski collapsing theoremMostowskiの崩壊補題Mostowski collapse lemmaモストフスキの崩壊定理

概要

Mostowskiの崩壊定理(Mostowski collapsing theorem)とは、集合 $A$ 上の整礎的で外延的な二項関係 $R$ に対し、推移的集合 $M$ と同型 $(A,R)\cong(M,\in)$ がただ一つずつ存在する、という集合論の定理である。同型は整礎再帰で定まる崩壊写像 $\pi(x)=\{\pi(y)\mid yRx\}$ で与えられ、外延的でない場合も像は推移的になるが、$\pi$ は単射とは限らない。正則性公理は使わず、各元の前者が集合であれば $A$ がクラスでも成り立つ。整列集合が順序数と同型であることはその特別な場合であり、可算推移的モデルの構成や超冪による初等埋め込みで、構造を推移的なものに取り替える基本の道具になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 推移的集合, 整礎関係, ZFC公理系

集合 $A$ の上に二項関係 $R$ が与えられたとき、$R$ を所属関係 $\in$ とみなして $A$ の元を「集合」として読み直すことができるだろうか。つまり、$A$ の各元 $x$ を、$x$ より $R$ で下にある元たちを読み直したものの集合として実体化し、$yRx$ がちょうど $y$ の像が $x$ の像の元であることに対応するようにできるか、という問いである。Mostowski の崩壊定理(Mostowski collapsing theorem)は、$R$ が整礎的で外延的であれば、これがちょうど 1 通りにでき、像は 推移的集合 になることを述べる。
整礎性は「空でない部分集合には、それより下に何もない元がある」こと、外延性は「下にあるものが同じなら等しい」ことで、どちらも推移的集合の上の $\in$ がもつ性質である(整礎性は 正則性公理 のもとで)。崩壊定理はその逆を述べており、二つの性質をもつ関係は、本質的に推移的集合の上の所属関係にほかならない。整列集合が順序数と同型であることはその特別な場合であり、集合論では、推移的でないモデルや超冪を推移的なものに取り替えるときの基本の道具になる。
この記事では、崩壊写像を整礎再帰で定義し、崩壊定理を集合の場合に証明して、整列集合・所属関係で外延的な集合への応用、クラスの場合、計算の例を述べる。

記法と前提

集合論 $\mathsf{ZF}$ から 正則性公理 を除いた体系で議論する(選択公理は使わない)。正則性公理を使う箇所はそのことを書く。
集合 $A$ 上の二項関係 $R$ について、$\operatorname{pred}_R(x):=\{y\in A\mid yRx\}$ とおく。$R$ が 整礎的 であるとは、$A$ の空でない任意の部分集合 $S$ が $R$-極小元($m\in S$ で、$yRm$ となる $y\in S$ がないもの)をもつことをいう(整礎関係 の定義「整礎関係」)。整礎的な関係の上では次の 2 つが使える。

  • 整礎帰納法.$A$ の元についての性質が、「$yRx$ となるすべての $y$ で成り立てば $x$ でも成り立つ」を満たすなら、$A$ のすべての元で成り立つ(整礎関係 の定理「整礎帰納法」)。
  • 整礎再帰.各 $x\in A$ と各関数 $h$ に集合 $\mathbf{G}(x,h)$ を対応させる規則(論理式で定まる対応)に対し、定義域 $A$ の関数 $F$ で、すべての $x\in A$ について $F(x)=\mathbf{G}(x,F|_{\operatorname{pred}_R(x)})$ を満たすものがただ一つ存在する(整礎関係 の定理「整礎再帰定理」)。
    集合 $N$ が 推移的 であるとは、$y\in x\in N$ ならば $y\in N$ となることをいう(推移的集合 の定義「推移的集合」)。

定義

外延的な関係

集合 $A$ 上の二項関係 $R$ が 外延的(extensional)であるとは、$x,y\in A$ について
$$ \operatorname{pred}_R(x)=\operatorname{pred}_R(y)\ \Longrightarrow\ x=y $$
が成り立つことをいう。

$R$ を所属関係と読めば、外延性は「同じ元をもつ集合は等しい」という外延性公理が $(A,R)$ の中で成り立つことにあたる。推移的集合 $N$ の上の $\in$ は外延的である。$x\in N$ について $\operatorname{pred}_\in(x)=\{y\in N\mid y\in x\}=x$($N$ の推移性から $x\subset N$)なので、$\operatorname{pred}_\in(x)=\operatorname{pred}_\in(y)$ なら $x=y$ となるからである。狭義の全順序も外延的である。$x\neq y$ なら、たとえば $x< y$ として $x\in\operatorname{pred}(y)\setminus\operatorname{pred}(x)$ となる。

崩壊写像と Mostowski 崩壊

$R$ を集合 $A$ 上の整礎的な関係とする。整礎再帰で定まる、定義域 $A$ のただ一つの関数 $\pi$ で、すべての $x\in A$ について
$$ \pi(x)=\{\pi(y)\mid y\in A,\ yRx\} $$
を満たすものを $(A,R)$ の 崩壊写像(collapsing map)といい、その像 $M:=\pi[A]$ を $(A,R)$ の Mostowski 崩壊(Mostowski collapse)という。

形式的には、整礎再帰の規則を $\mathbf{G}(x,h):=\{h(y)\mid y\in\operatorname{dom}h\}$($h$ の値域)とすればよい(整礎関係 の定理「整礎再帰定理」の後の注意)。$\pi(x)$ は「$x$ より下にある元の像をすべて集めた集合」で、最も下の元($\operatorname{pred}_R(x)=\emptyset$)は $\emptyset$ に、その上の元は順に $\emptyset$ から組み上がる集合に移る。

主定理

Mostowski の崩壊定理

$R$ を集合 $A$ 上の整礎的な関係とし、$\pi$ を崩壊写像、$M=\pi[A]$ とする。

  1. $M$ は推移的集合であり、$xRy$ なら $\pi(x)\in\pi(y)$ である。さらに $M$ 上の $\in$ は整礎的である。
  2. $R$ が外延的なら、$\pi$ は $A$ から $M$ への全単射で、すべての $x,y\in A$ について $xRy\iff\pi(x)\in\pi(y)$ が成り立つ。すなわち $\pi$ は $(A,R)$ から $(M,\in)$ への同型である。
  3. $R$ が外延的なとき、推移的集合 $N$ と同型 $\rho\colon(A,R)\to(N,\in)$ があれば、$N=M$ かつ $\rho=\pi$ である。
    この定理は正則性公理を使わない。

1. $u\in\pi(x)$ なら、ある $yRx$ で $u=\pi(y)\in M$ なので、$M$ は推移的である。$xRy$ なら定義から $\pi(x)\in\pi(y)$ である。$M$ 上の $\in$ が整礎的であることを示す。空でない $S\subset M$ をとり、空でない $\pi^{-1}[S]\subset A$ の $R$-極小元 $x$ をとる。$u\in\pi(x)$ かつ $u\in S$ となる $u$ があれば、$u=\pi(y)$($yRx$)で $y\in\pi^{-1}[S]$ となり、$x$ の極小性に反する。よって $\pi(x)$ は $S$ の $\in$-極小元である。
2. $\pi$ が単射でないとし、
$$ E:=\{x\in A\mid x\neq y\text{ かつ }\pi(x)=\pi(y)\text{ となる }y\in A\text{ がある}\} $$
の $R$-極小元 $x$ と、$x\neq y$、$\pi(x)=\pi(y)$ となる $y$ をとる。外延性から $\operatorname{pred}_R(x)\neq\operatorname{pred}_R(y)$ なので、次のどちらかが成り立つ。

  • $zRx$ だが $zRy$ でない $z$ がある。$\pi(z)\in\pi(x)=\pi(y)$ なので、ある $wRy$ で $\pi(z)=\pi(w)$ である。$zRy$ でないので $w\neq z$ であり、$z\in E$ かつ $zRx$ となって $x$ の極小性に反する。
  • $wRy$ だが $wRx$ でない $w$ がある。$\pi(w)\in\pi(y)=\pi(x)$ なので、ある $zRx$ で $\pi(z)=\pi(w)$ である。$wRx$ でないので $z\neq w$ であり、$z\in E$ かつ $zRx$ となって同じく矛盾する。
    よって $\pi$ は単射であり、$M$ の定義から全射でもある。$\pi(x)\in\pi(y)$ なら、ある $zRy$ で $\pi(x)=\pi(z)$ となり、単射性から $x=z$、すなわち $xRy$ である。逆向きは 1 で示した。

3. $x\in A$ について $\rho(x)=\{\rho(y)\mid yRx\}$ を示す。$yRx$ なら $\rho(y)\in\rho(x)$ である。逆に $u\in\rho(x)$ なら、$N$ の推移性から $u\in N$ なので $u=\rho(y)$ と書け、$\rho(y)\in\rho(x)$ から $yRx$ である。よって $\rho$ は崩壊写像の等式を満たし、整礎再帰の一意性から $\rho=\pi$、$N=\rho[A]=M$ である。$\square$

2 の単射性の証明は、外延性で「下にあるもの」の違いを見つけ、その違いが像の上でも残ることを極小元で確かめている。外延的でないと、下にあるものが同じ 2 元は同じ集合に潰れる。

例

自然数の二つの作り方

$\mathbb{N}=\{0,1,2,\dots\}$ の上の 2 つの関係を崩壊させる。

  1. 通常の順序 $<$ は整列順序なので整礎的で、全順序なので外延的である。$\pi(n)=\{\pi(0),\dots,\pi(n-1)\}$ なので $\pi(0)=\emptyset$、$\pi(1)=\{\emptyset\}$、$\pi(2)=\{\emptyset,\{\emptyset\}\}$、… であり、$\pi(n)$ は順序数 $n$(順序数)、崩壊は $\omega$ である。
  2. 直前の関係 $S$($ySx\iff x=y+1$)は、$\operatorname{pred}_S(0)=\emptyset$、$\operatorname{pred}_S(n+1)=\{n\}$ がどれも異なるので外延的であり、空でない部分集合の最小元は $S$-極小元なので整礎的である。$\pi(0)=\emptyset$、$\pi(n+1)=\{\pi(n)\}$ なので $\pi(2)=\{\{\emptyset\}\}$、$\pi(3)=\{\{\{\emptyset\}\}\}$、… となる。崩壊 $\{\emptyset,\{\emptyset\},\{\{\emptyset\}\},\dots\}$ は推移的だが、$\emptyset\in\pi(1)\in\pi(2)$ かつ $\emptyset\notin\pi(2)$ なので、各元は推移的とは限らない。

同じ集合 $\mathbb{N}$ でも、関係が違えば崩壊は違う集合になる。崩壊は集合 $A$ ではなく、構造 $(A,R)$ を所属関係で実現したものである。

外延的でない関係の崩壊

2 以上の整数の集合 $A$ の上で、$yRx$ を「$y$ は $x$ の約数で $y\neq x$」と定めると、$R$ は整礎的である($yRx$ なら $y< x$)。素数 $p$ は $\operatorname{pred}_R(p)=\emptyset$ なので $\pi(p)=\emptyset$ であり、素数はすべて同じ集合に潰れる。$\pi(4)=\{\pi(2)\}=\{\emptyset\}$、$\pi(6)=\{\pi(2),\pi(3)\}=\{\emptyset\}$ なので $\pi(4)=\pi(6)$ でもある。一般に $\pi(x)$ は「素因数の重複を込めた個数」で決まる。

詳細

素因数の重複を込めた個数を $\Omega(x)$ とし、$\pi(x)=\{0,1,\dots,\Omega(x)-2\}$(順序数 $\Omega(x)-1$)を $x$ についての帰納法で示す。$\Omega(x)=1$(素数)なら $\pi(x)=\emptyset=0$ である。$\Omega(x)\ge2$ なら、$x$ の真の約数 $y\ge2$ は $1\le\Omega(y)\le\Omega(x)-1$ を満たし、この範囲のどの値も素因数をいくつか除くことで実現される。帰納法の仮定から $\pi(x)=\{\Omega(y)-1\mid yRx\}=\{0,1,\dots,\Omega(x)-2\}$ である。

この崩壊 $M=\omega$ は推移的であり、thm-mc-main の 1 は外延性なしでも成り立つが、$\pi$ は単射でない。

自然数の 2 進展開と有限集合

$\mathbb{N}$ の上で、$yEx$ を「$x$ の 2 進展開の $2^y$ の位が $1$」と定める。$E$ の崩壊写像は $\mathbb{N}$ から、累積階層の段階 $V_\omega=\bigcup_{n\in\omega}V_n$($V_0=\emptyset$、$V_{n+1}=\mathcal{P}(V_n)$)への全単射で、$(\mathbb{N},E)\cong(V_\omega,\in)$ を与える。たとえば $\pi(1)=\{\pi(0)\}=\{\emptyset\}$、$\pi(2)=\{\pi(1)\}$、$\pi(3)=\{\pi(0),\pi(1)\}=\{\emptyset,\{\emptyset\}\}$ である。

詳細

$yEx$ なら $2^y\le x$ なので $y< x$ であり、$E$ は整礎的である。$\operatorname{pred}_E(x)$ は $x$ の 2 進展開で $1$ が立つ位の集合で、2 進展開の一意性から $x$ を決めるので、$E$ は外延的である。thm-mc-main の 2 により $\pi$ は $(\mathbb{N},E)$ から崩壊 $M$ への同型なので、$M=V_\omega$ を示せばよい。

各 $V_n$ は有限集合で、$V_n\subset V_{n+1}$ である($n$ についての帰納法。$V_n\subset V_{n+1}$ なら $\mathcal{P}(V_n)\subset\mathcal{P}(V_{n+1})$)。$M\subset V_\omega$:$x$ についての帰納法で $\pi(x)\in V_\omega$ を示す。$\pi(x)$ は有限個の $\pi(y)$($y< x$)からなり、帰納法の仮定からそれぞれある $V_{n_y}$ に属するので、$n$ をそれらの最大値とすれば $\pi(x)\subset V_n$、すなわち $\pi(x)\in V_{n+1}$ である。

$V_\omega\subset M$:$n$ についての帰納法で $V_n\subset M$ を示す。$s\in V_{n+1}$ なら $s\subset V_n\subset M$ で、$s$ は有限なので、相異なる $y_1,\dots,y_k$ で $s=\{\pi(y_1),\dots,\pi(y_k)\}$ と書ける。$x:=2^{y_1}+\dots+2^{y_k}$ とおくと $\operatorname{pred}_E(x)=\{y_1,\dots,y_k\}$ なので $\pi(x)=s$ であり、$s\in M$ である。

$V_\omega$ の元は、元の元の…とたどっても有限集合しか現れない集合(遺伝的に有限な集合)である。この例は、各自然数を有限集合の符号として読む方法を与えている。

系

整列集合の崩壊

$(W,<)$ を整列集合とすると、$(W,<)$ と順序同型な順序数がただ一つあり、崩壊写像がその順序同型である。

整列順序は整礎的で、全順序なので外延的である(def-mc-extensional の後の注意)。thm-mc-main の 2 により $\pi$ は $(W,<)$ から崩壊 $M$ への同型であり、$M$ は推移的で、$M$ 上の $\in$ は $<$ の像なので整列順序である。推移的で $\in$ によって整列された集合は順序数である(順序数 の定義)。順序数 $\alpha$ への順序同型 $\rho$ があれば、$\alpha$ は推移的で $\alpha$ 上の順序は $\in$ なので、thm-mc-main の 3 により $\alpha=M$、$\rho=\pi$ である。$\square$

これは 順序数 の定理「整列集合の順序数による表現」を、崩壊定理の特別な場合として捉え直したものである。
正則性公理を仮定すると、所属関係 $\in$ はどの集合の上でも整礎的になる(空でない集合は $\in$-極小元をもつ)。このとき崩壊定理は、所属関係そのものについて次の形になる。

所属関係で外延的な集合

正則性公理を仮定する。集合 $A$ の上の $\in$ が外延的なら、崩壊写像 $\pi$ は $(A,\in)$ から推移的集合 $M$ への同型であり、$\pi(x)=\{\pi(y)\mid y\in x\cap A\}$ である。さらに、$A$ の部分集合 $T$ が推移的なら、すべての $t\in T$ で $\pi(t)=t$ である。

正則性公理から $A$ 上の $\in$ は整礎的なので、thm-mc-main の 2 が使える。$\operatorname{pred}_\in(x)=x\cap A$ なので式が成り立つ。後半は $T$ の上の $\in$ についての整礎帰納法で示す。$t\in T$ とすると、$T$ の推移性から $t\subset T\subset A$ なので $t\cap A=t$ であり、帰納法の仮定($y\in t$ なら $\pi(y)=y$)から $\pi(t)=\{\pi(y)\mid y\in t\}=\{y\mid y\in t\}=t$ である。$\square$

この系の仮定のもとで、崩壊は推移的な部分をそのまま残し、その外にある元だけを動かす。たとえば $\omega\subset A$ なら、自然数はすべて動かない。

クラスの場合

崩壊定理は、$A$ が集合でなくクラス(論理式で定まる集まり)の場合にも成り立つ。そのためには、各元の前者 $\operatorname{pred}_R(x)$ が集合であること($R$ が set-like であること)を仮定する。

クラスの上の崩壊定理

$A$ をクラス、$R$ を $A$ 上の関係とし、$R$ は整礎的($A$ の空でない部分集合が $R$-極小元をもつ)、set-like、外延的であるとする。このとき推移的なクラス $M$ と、$(A,R)$ から $(M,\in)$ への同型 $\pi$ がただ一つずつ存在し、$\pi(x)=\{\pi(y)\mid yRx\}$ を満たす(Kun80 Chapter III, Theorem 5.14, p. 106)。

証明は集合の場合と同じ形で、クラスについての 2 つの事実を補えばよい。

証明の筋道

$x\in A$ に対し、前者の前者の…をすべて集めた $\operatorname{cl}(x):=\bigcup_n\operatorname{pred}^n(x)$($\operatorname{pred}^0(x):=\operatorname{pred}_R(x)$、$\operatorname{pred}^{n+1}(x):=\bigcup\{\operatorname{pred}_R(y)\mid y\in\operatorname{pred}^n(x)\}$)は、set-like と置換公理により集合で、$R$ について下に閉じている(Kun80 Ch. III, Definition 5.3・Lemma 5.4, p. 103)。これを使うと、$A$ の空でない部分クラス $X$ も $R$-極小元をもつ。$x\in X$ が極小でなければ、空でない集合 $X\cap\operatorname{cl}(x)$ の極小元が $X$ の極小元になるからである(同 Theorem 5.5, p. 103)。各 $x$ について集合 $\{x\}\cup\operatorname{cl}(x)$ の上の崩壊写像 $\pi_x$ を def-mc-collapse で作ると、整礎再帰の一意性から $\pi_x$ たちは共通部分で一致するので、$\pi(x):=\pi_x(x)$ が求める写像になる(同 Theorem 5.6, pp. 103–104)。単射性と一意性は、prf-mc-main の 2・3 の議論で「部分集合の極小元」を「部分クラスの極小元」に置き換えればよい。

順序数のクラス

順序数全体のクラス $\mathrm{Ord}$ の上の $<$(すなわち $\in$)は整礎的・set-like・外延的で、崩壊写像は恒等写像、崩壊は $\mathrm{Ord}$ 自身である(各 $\alpha$ について $\{\beta\mid\beta<\alpha\}=\alpha$ なので、恒等写像が崩壊写像の等式を満たす)。一方、$\{0,1\}\times\mathrm{Ord}$ に辞書式順序($(0,\alpha)$ をすべて $(1,\beta)$ より前に置く)を入れたものは整礎的・外延的だが set-like でなく、推移的なクラスの上の $\in$ と同型にならない(Kun80 Ch. III, p. 106 の注意)。

詳細

同型 $G$ があれば、$G((1,0))$ は集合で、その元は $G((0,\alpha))$($\alpha\in\mathrm{Ord}$)全体である。$G$ は単射なので、置換公理により $G^{-1}$ で集合 $G((1,0))$ を写した $\{0\}\times\mathrm{Ord}$ も集合になるが、これは真のクラスである。

集合論での使い方

推移的なモデルへの取り替え

集合論のモデル $(A,E)$ を調べるとき、$E$ が本当の所属関係でなかったり、$A$ が推移的でなかったりすると、「$x$ は順序数である」「$x$ は $\omega$ である」といった概念がモデルの中と外で食い違うことがある。崩壊定理は、$E$ が整礎的なら、外延性公理が成り立つモデル($E$ が外延的)を、同型な推移的モデル $(M,\in)$ に取り替えられることを保証する。同型は論理式の真偽を保つので(Kun80 Chapter IV, Lemma 7.9, p. 140)、取り替えてもモデルで成り立つ文は変わらない。推移的なモデルでは、有界な量化だけで書ける概念がモデルの中でも外でも同じ意味をもつ(推移的集合 の節「推移的集合の中で見る論理式」、絶対性(集合論))。
典型的な使い方は次のとおりである(Kun80 Chapter IV, Theorem 7.8・Corollary 7.10・Corollary 7.11, pp. 139–141。この記事では証明しない)。選択公理のもとで、Löwenheim–Skolemの定理 と同じ考え方により、$\mathsf{ZFC}$ の有限個の公理(外延性公理を含める)が絶対的になる可算な集合 $A$ を、与えられた可算な推移的集合 $X$ を含むようにとる。$A$ 上の $\in$ は外延的なので、cor-mc-membership により $A$ は可算な推移的集合 $M$ に同型に崩壊し、$X$ の元は動かない。こうして、$\mathsf{ZFC}$ の任意の有限個の公理を満たす可算な推移的モデルが得られる。$X=\omega$ とすれば $\omega\subset M$ である。公理を十分に多く選んでおけば、この $M$ は可算だが、$M$ の中では「非可算な集合」がある。$M$ の中に全単射がないだけで、外から見れば可算である(Skolem のパラドックス。Kun80 p. 141)。強制法 は、このような可算推移的モデルから出発して新しいモデルを作る。

超冪と初等埋め込み

可測基数 の上の超冪では、所属関係を「ほとんどすべての成分で所属する」と定めた構造が、整礎的で外延的になる。初等埋め込み の記事では、これをクラスの上の崩壊(thm-mc-class の形)で推移的なクラス $M$ に移し、宇宙から $M$ への初等埋め込みを作っている。崩壊定理は、抽象的に作った構造を「本物の集合からなる宇宙」として扱うための橋渡しになっている。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
$R$ は整礎的(def-mc-collapse)整数全体 $(\mathbb{Z},<)$崩壊写像 $\pi$ の存在(正則性公理のもと)
$R$ は外延的(thm-mc-main の 2)$A=\{a,b\}$($a\neq b$)、$R=\emptyset$$\pi$ の単射性、推移的集合の上の $\in$ との同型
$N$ は推移的(thm-mc-main の 3)$A=\{a\}$、$R=\emptyset$、$N=\{\{\emptyset\}\}$$N=M$(同型な集合の一意性)
$R$ は set-like(thm-mc-class)$\{0,1\}\times\mathrm{Ord}$ の辞書式順序推移的なクラスの上の $\in$ との同型(ex-mc-ordinals)
反例の確かめ

1 行目は崩壊写像の等式から無限下降列を作り、2・3 行目は崩壊を直接計算する。

詳細

1 行目:$<$ は全順序なので外延的である。$\pi(n)=\{\pi(m)\mid m< n\}$ を満たす $\pi$ があれば、$\pi(n-1)\in\pi(n)$ がすべての $n$ で成り立つ。正則性公理により空でない集合 $\pi[\mathbb{Z}]$ は $\in$-極小元 $\pi(n)$ をもつが、$\pi(n-1)\in\pi(n)\cap\pi[\mathbb{Z}]$ となり矛盾する。

2 行目:$\operatorname{pred}_R(a)=\operatorname{pred}_R(b)=\emptyset$ なので $R$ は外延的でなく、$\pi(a)=\pi(b)=\emptyset$ である。推移的集合の上の $\in$ は外延的で(def-mc-extensional の後の注意)、同型は外延性を保つので、$(A,R)$ はどの推移的集合の上の $\in$ とも同型でない。

3 行目:$R=\emptyset$ は 1 元集合の上で外延的で、崩壊は $M=\{\emptyset\}$ である。$a\mapsto\{\emptyset\}$ は $(A,R)$ から $(N,\in)$ への同型である($\{\emptyset\}\notin\{\emptyset\}$)が、$N\neq M$ である。$N$ は推移的でない($\emptyset\in\{\emptyset\}\in N$ だが $\emptyset\notin N$)。

参照箇所

  • Kun80 Chapter III, §5:Definition 5.2(p. 102、set-like)、Definition 5.3・Lemma 5.4・Theorem 5.5(p. 103)、Theorem 5.6(pp. 103–104、整礎再帰)、Definition 5.9・Lemma 5.10(p. 105、崩壊写像と崩壊)、Definition 5.11・Lemma 5.12(p. 105、外延性)、Lemma 5.13・Theorem 5.14・Corollary 5.15(p. 106、崩壊定理とその注意)。Chapter IV, §7:Theorem 7.8(p. 139)、Lemma 7.9・Corollary 7.10・Corollary 7.11(p. 140)、その後の説明(p. 141、可算推移的モデルと Skolem のパラドックス)。
  • ex-mc-divisors・ex-mc-ackermann の計算は、この記事の証明による。

関連項目

参考文献

[1]
Kenneth Kunen, Set Theory: An Introduction to Independence Proofs, North-Holland (Studies in Logic and the Foundations of Mathematics 102), 1980, Chapter III §5:Definition 5.2(p. 102)、Definition 5.3・Lemma 5.4・Theorem 5.5(p. 103)、Theorem 5.6(pp. 103–104)、Definition 5.9・Lemma 5.10・Definition 5.11・Lemma 5.12(p. 105)、Lemma 5.13・Theorem 5.14・Corollary 5.15(p. 106)。Chapter IV §7:Theorem 7.8(p. 139)、Lemma 7.9・Corollary 7.10・Corollary 7.11(p. 140)、p. 141

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する