偏微分方程式(partial differential equation)とは、多変数の未知関数とその偏導関数の間の関係を表す方程式であり、熱の拡散、波の伝播、電位などを記述する。2 階線形方程式は主要部の係数行列の固有値の符号で楕円型・放物型・双曲型に分かれ、この型は座標変換で変わらない。代表例は Laplace 方程式・熱方程式・波動方程式で、熱方程式は放物境界での最大値原理を、1 次元の波動方程式は d'Alembert の公式と有限伝播速度を、多次元の波動方程式はエネルギー保存による一意性をもつ。Laplace 方程式に初期条件を課す例(Hadamard の例)のように、型に合わない条件では解がデータに連続に依存しなくなることがあり、古典解を直接作りにくい問題は Sobolev 空間の弱解として解かれる。
前提知識: 偏微分, 常微分方程式, Gaussの発散定理
偏微分方程式(partial differential equation)とは、複数の変数をもつ未知関数とその偏導関数の間の関係を表す方程式のことである。たとえば、平面の領域の温度分布 $u(x,y,t)$ は熱方程式 $u_t=u_{xx}+u_{yy}$ を満たし、張った膜の振動は波動方程式 $u_{tt}=u_{xx}+u_{yy}$ を、静止した電位は Laplace 方程式 $u_{xx}+u_{yy}=0$ を満たす。常微分方程式が 1 変数の関数の変化を記述するのに対し、偏微分方程式は空間に広がった量の変化を記述するので、物理学・幾何学・確率論の多くの問題がこの形で現れる。
偏微分方程式には、常微分方程式の存在と一意性の定理のような一つの一般論はない。代わりに、方程式を 楕円型・放物型・双曲型 の型に分け、それぞれの型の代表である Laplace 方程式・熱方程式・波動方程式について、解の公式、最大値原理、エネルギーの保存などの道具を発展させてきた。この記事では、型の分類とそれが座標変換で変わらないことを示し、輸送方程式と 1 次元の波動方程式を解の公式で解き、熱方程式の最大値原理と波動方程式のエネルギー法による一意性を証明する。最後に、解がデータに連続に依存しない例と、弱解による現代的な扱いへの入口を述べる。
以下、$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ を開集合とし、多重指数 $\alpha=(\alpha_1,\dots,\alpha_n)$ について $\partial^\alpha=\partial_1^{\alpha_1}\cdots\partial_n^{\alpha_n}$、$|\alpha|=\alpha_1+\dots+\alpha_n$ と書く。時間変数 $t$ を含む方程式では、$(x,t)$ を合わせて $n+1$ 個の変数とみる。
$k\ge1$ とする。$\Omega$ の上の $k$ 階の偏微分方程式 とは、関数 $F$ を使って
$$
F\bigl(x,\,u(x),\,(\partial^\alpha u(x))_{1\le|\alpha|\le k}\bigr)=0\qquad(x\in\Omega)
$$
と書かれる未知関数 $u$ についての方程式で、$F$ が $|\alpha|=k$ のある $\partial^\alpha u$ に実際に依存するものをいう。$C^k$ 級の関数 $u\colon\Omega\to\mathbb{R}$ でこれを各点で満たすものを 古典解 という。未知関数がベクトル値で方程式が複数あるものを 偏微分方程式系 という。
方程式が $\sum_{|\alpha|\le k}a_\alpha(x)\,\partial^\alpha u=f(x)$ の形のとき 線形 といい、$f=0$ のとき 斉次 という。斉次線形方程式の解の 1 次結合はまた解である(重ね合わせの原理)。方程式が最高階の導関数 $\partial^\alpha u$($|\alpha|=k$)について 1 次式で、その係数が $x$ だけに依存するものを 半線形、係数が $x$ と $k-1$ 階以下の導関数に依存してよいものを 準線形 といい、どれでもないものを 完全非線形 という。
方程式だけでは解は決まらず、時間 $t=0$ での値(初期条件)や領域の境界での値(境界条件)を合わせて問題を立てる。Dirichlet問題 は、境界の値を指定して Laplace 方程式を解く境界値問題である。
| 名前 | 方程式 | 階数 | 型 |
|---|---|---|---|
| Laplace 方程式 | $\Delta u=0$ | 2 | 楕円型 |
| Poisson 方程式 | $\Delta u=f$ | 2 | 楕円型 |
| 熱方程式 | $u_t=\Delta u$ | 2 | 放物型 |
| 波動方程式 | $u_{tt}=\Delta u$ | 2 | 双曲型 |
| 輸送方程式 | $u_t+b\cdot\nabla u=0$ | 1 | (1 階) |
| Tricomi 方程式 | $yu_{xx}+u_{yy}=0$ | 2 | $y>0$ で楕円型、$y<0$ で双曲型 |
ここで $\Delta u=\sum_{i=1}^n\partial_i^2u$ は Laplace 作用素(ラプラシアン)で、時間を含む方程式では空間変数 $x$ だけに作用する。勾配の発散(ベクトル場)として $\Delta u=\operatorname{div}(\nabla u)$ と書ける(発散(ベクトル場) の記事の注意「発散定理と Laplace 作用素」)。
$N$ 変数(時間を含むときは $N=n+1$)の 2 階の線形方程式
$$
Lu=\sum_{i,j=1}^Na_{ij}(x)\,\partial_i\partial_ju+\sum_{i=1}^Nb_i(x)\,\partial_iu+c(x)\,u=f(x)\qquad(a_{ij}=a_{ji})
$$
の性質は、主要部の係数のなす実対称行列 $A(x)=(a_{ij}(x))$ でほぼ決まる。$u$ が $C^2$ 級なら $\partial_i\partial_ju=\partial_j\partial_iu$ なので(偏微分 の系「$C^2$ 級関数の偏微分の可換性」)、$a_{ij}$ は対称にとってよい。
点 $x$ での $L$ の型を次のように定める。
2 変数の $au_{xx}+2bu_{xy}+cu_{yy}+\dots$ では、$\det A=ac-b^2$ の符号で決まり、$b^2-ac<0$ なら楕円型、$b^2-ac>0$ なら双曲型、$b^2-ac=0$ で $A\ne0$ なら放物型である。表の方程式では、Laplace 作用素は $A=I$、熱方程式 $u_t-\Delta u=0$ は変数 $(x,t)$ について $A=\operatorname{diag}(-1,\dots,-1,0)$、波動方程式 $u_{tt}-\Delta u=0$ は $A=\operatorname{diag}(-1,\dots,-1,1)$ である。Tricomi 方程式の $A=\operatorname{diag}(y,1)$ は $y$ の符号で型が変わる。高階や系の方程式の楕円性は主表象で定義される(楕円型作用素)。なお放物型については、退化した方向に 1 階の項があること(熱方程式の $u_t$)を定義に含める流儀もある。型が意味をもつのは、次の定理のとおり座標の取り方によらないからである。
$\Phi\colon\Omega\to\Omega'$ を $C^2$ 級の微分同相写像とし、$u(x)=v(\Phi(x))$ とおく。$u$ についての 2 階線形方程式 $Lu=f$ は $v$ についての 2 階線形方程式に書き換えられ、その主要部の係数行列は $y=\Phi(x)$ で
$$
B(y)=J(x)\,A(x)\,J(x)^{\mathsf T},\qquad J(x)=D\Phi(x)
$$
である。とくに $A(x)$ と $B(y)$ の正・負・$0$ の固有値の個数は等しく、$x$ での型と $y$ での型は一致する。
$J$ の成分を $J_{ki}=\partial_i\Phi_k$ とする。連鎖律により $\partial_iu=\sum_k(\partial_kv)\,\partial_i\Phi_k$ であり、もう一度微分すると
$$
\partial_i\partial_ju=\sum_{k,l}(\partial_k\partial_lv)\,\partial_i\Phi_k\,\partial_j\Phi_l+\sum_k(\partial_kv)\,\partial_i\partial_j\Phi_k
$$
となる。第 2 項は $v$ の 1 階の項なので、2 階の項の係数は
$$
B_{kl}=\sum_{i,j}\partial_i\Phi_k\,a_{ij}\,\partial_j\Phi_l=(JAJ^{\mathsf T})_{kl}
$$
である。$J$ は正則なので、$B=JAJ^{\mathsf T}$ は 2 次形式 $\xi\mapsto\xi^{\mathsf T}A\xi$ を変数変換 $\xi=J^{\mathsf T}\eta$ で書き換えたものの行列である。二次形式 の定理「実2次形式の係数の符号の不変性」(Sylvester の慣性法則)により、対角化したときの正・負・$0$ の係数の個数は変わらない。実対称行列は直交行列で対角化でき(同じ記事の定理「実対称行列の主軸定理」)、そのときの係数は固有値なので、固有値の符号の個数が一致する。$\square$
定数係数の 2 変数の方程式なら、主軸定理による回転と座標の拡大縮小で、全体の符号を除いて主要部を楕円型なら $u_{\xi\xi}+u_{\eta\eta}$、双曲型なら $u_{\xi\xi}-u_{\eta\eta}$、放物型なら $u_{\xi\xi}$ にできる。双曲型ではさらに $\xi\pm\eta$ を新しい変数にとると、定数倍を除いて $u_{\xi\eta}$ の形になる。この形が次の節以降の d'Alembert の公式の背景にある。
もっとも簡単な偏微分方程式は、一定の速度 $b\in\mathbb{R}^n$ で形を変えずに流れる量を表す輸送方程式である。解は、方程式を直線に沿った常微分方程式に帰着させて求まる。
$b\in\mathbb{R}^n$、$g\in C^1(\mathbb{R}^n)$ とする。$\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}$ の上で
$$
u_t+b\cdot\nabla u=0,\qquad u(x,0)=g(x)
$$
を満たす $C^1$ 級の関数 $u$ は、ただ一つ存在して $u(x,t)=g(x-tb)$ である。
一意性:$u$ を解とし、$(x,t)$ を固定して $z(s):=u(x+sb,\,t+s)$ とおく。連鎖律により $z'(s)=u_t(x+sb,t+s)+b\cdot\nabla u(x+sb,t+s)=0$ なので $z$ は定数であり、$u(x,t)=z(0)=z(-t)=u(x-tb,0)=g(x-tb)$ である。存在:$u(x,t)=g(x-tb)$ は $C^1$ 級で、$u_t=-b\cdot\nabla g(x-tb)$、$\nabla u=\nabla g(x-tb)$ なので方程式を満たし、$u(x,0)=g(x)$ である。$\square$
直線 $s\mapsto(x+sb,t+s)$ を 特性線 という。解は特性線に沿って一定で、初期値が特性線に沿って運ばれる。$g$ が $C^1$ 級でないとき、$g(x-tb)$ は古典解でないが、なお自然な「解」とみなせる。これが弱解の考え方の出発点の一つである。
1 次元の波動方程式 $u_{tt}=u_{xx}$ は、$C^2$ 級の $u$ について
$$
u_{tt}-u_{xx}=(\partial_t+\partial_x)(\partial_t-\partial_x)u
$$
と因数分解できる。これを 2 つの輸送方程式に分けて解く。
$g\in C^2(\mathbb{R})$、$h\in C^1(\mathbb{R})$ とする。$\mathbb{R}\times\mathbb{R}$ の上で
$$
u_{tt}=u_{xx},\qquad u(x,0)=g(x),\qquad u_t(x,0)=h(x)
$$
を満たす $C^2$ 級の関数 $u$ は、ただ一つ存在して
$$
u(x,t)=\frac{g(x+t)+g(x-t)}{2}+\frac12\int_{x-t}^{x+t}h(s)\,ds
$$
である。
一意性:$u$ を解とし、$w:=u_t-u_x$ とおく。$w$ は $C^1$ 級で、$w_t+w_x=u_{tt}-u_{xx}=0$(混合偏導関数は等しい)を満たし、$w(x,0)=h(x)-g'(x)=:a(x)$ である。thm-pde-transport($n=1$、$b=1$)により $w(x,t)=a(x-t)$ である。次に $(x,t)$ を固定し、$\varphi(s):=u(x+t-s,\,s)$ とおくと
$$
\varphi'(s)=-u_x+u_t=w(x+t-s,s)=a(x+t-2s)
$$
である。$\varphi(0)=g(x+t)$、$\varphi(t)=u(x,t)$ なので、$y=x+t-2s$ と置換して
$$
u(x,t)=g(x+t)+\int_0^ta(x+t-2s)\,ds=g(x+t)+\frac12\int_{x-t}^{x+t}\bigl(h(y)-g'(y)\bigr)\,dy
$$
となる。$\frac12\int_{x-t}^{x+t}g'=\frac12(g(x+t)-g(x-t))$ を代入すると公式を得る($t<0$ でも同じ計算が成り立つ)。
存在:公式の $u$ は $C^2$ 級で、$u_{tt}=u_{xx}=\frac12\bigl(g''(x+t)+g''(x-t)\bigr)+\frac12\bigl(h'(x+t)-h'(x-t)\bigr)$ である。また $u(x,0)=g(x)$、$u_t(x,0)=\frac12(g'(x)-g'(x))+\frac12(h(x)+h(x))=h(x)$ である。$\square$
公式から、$u(x,t)$ は初期値の区間 $[x-|t|,x+|t|]$ での値だけで決まる。この区間を点 $(x,t)$ の 依存領域 という。初期値を少し変えても、その影響は速さ $1$ でしか伝わらない(有限伝播速度)。両端を固定した弦の振動では、初期値を奇関数として周期的に延ばすと同じ公式が使える(波動方程式と弦の振動 の定理「滑らかな初期変位の固定端解」)。
熱方程式の解は、熱が高い所から低い所へ流れるという直観どおり、領域の内部で新しい最大値をとらない。有界な開集合 $\Omega\subset\mathbb{R}^n$ と $T>0$ について、
$$
\Gamma_T:=\bigl(\overline\Omega\times\{0\}\bigr)\cup\bigl(\partial\Omega\times[0,T]\bigr)
$$
を柱 $\overline\Omega\times[0,T]$ の 放物境界 という。底面と側面からなり、上面 $\Omega\times\{T\}$ を含まない。
$u$ を $\overline\Omega\times[0,T]$ で連続な実数値関数とし、$\Omega\times(0,T]$ で $u_t$ と $\partial_i\partial_ju$ が存在して連続で($t=T$ での $u_t$ は左からの微分係数)、そこで $u_t-\Delta u\le0$ を満たすとする。このとき
$$
\max_{\overline\Omega\times[0,T]}u=\max_{\Gamma_T}u
$$
である。
$\varepsilon>0$ とし、$v(x,t):=u(x,t)+\varepsilon|x|^2$ とおくと、$\Omega\times(0,T]$ で
$$
v_t-\Delta v=u_t-\Delta u-2n\varepsilon\le-2n\varepsilon<0
$$
である。$v$ はコンパクト集合 $\overline\Omega\times[0,T]$ の上で最大値をとる。最大点 $(x_0,t_0)$ が $\Gamma_T$ に属さないとすると、$x_0\in\Omega$、$0< t_0\le T$ である。$t< t_0$ で $v(x_0,t)\le v(x_0,t_0)$ なので、左からの差分商は $0$ 以上で、$v_t(x_0,t_0)\ge0$ である。また $x\mapsto v(x,t_0)$ は内点 $x_0$ で最大になるので、各 $i$ について 1 変数関数 $s\mapsto v(x_0+se_i,t_0)$ は $s=0$ で最大で、その 2 階微分係数 $\partial_i^2v(x_0,t_0)$ は $0$ 以下である。よって $v_t-\Delta v\ge0$ が $(x_0,t_0)$ で成り立ち、矛盾する。したがって $v$ の最大値は $\Gamma_T$ でとられる。$R:=\sup_{x\in\Omega}|x|$ とおくと
$$
\max_{\overline\Omega\times[0,T]}u\le\max_{\overline\Omega\times[0,T]}v=\max_{\Gamma_T}v\le\max_{\Gamma_T}u+\varepsilon R^2
$$
であり、$\varepsilon\to0$ として $\le$ が得られる。逆向きの不等式は $\Gamma_T\subset\overline\Omega\times[0,T]$ から明らかである。$\square$
$u_1,u_2$ が thm-pde-heat-maximum の正則性をもち、$\Omega\times(0,T]$ で熱方程式 $u_t=\Delta u$ を満たすとする。このとき
$$
\max_{\overline\Omega\times[0,T]}|u_1-u_2|=\max_{\Gamma_T}|u_1-u_2|
$$
である。とくに放物境界での値(初期値と境界値)が一致すれば $u_1=u_2$ であり、$\Gamma_T$ で $u_1\le u_2$ なら全体で $u_1\le u_2$ である。
$w=u_1-u_2$ と $-w$ はどちらも $w_t-\Delta w=0\le0$ を満たすので、thm-pde-heat-maximum を両方に当てればよい。比較の主張は $w$ に当てて $\max w=\max_{\Gamma_T}w\le0$ から従う。$\square$
熱が逆向きに流れない、という物理的な事実が、この比較の原理にあたる。時間によらない解 $u(x,t)=u(x)$ は調和関数である。放物境界は底面を含むので、この定理をそのまま当てても何も得られないが、証明の議論は使える。$v=u+\varepsilon\lvert x\rvert^2$ の最大点が $(x_0,0)$($x_0\in\Omega$)なら $(x_0,T)$ も最大点で $\Omega\times(0,T]$ に属し、証明と同じく矛盾するので、最大値は側面 $\partial\Omega\times[0,T]$ でとられる。これは調和関数の弱最大値原理である(調和関数 の定理「弱最大値原理」)。有界区間で境界の温度を $0$ に保つ問題の一意性は、エネルギーを使っても示せる(変数分離法(偏微分方程式) の定理「有界区間の熱の古典解の一意性」)。最大値原理は Bre11 Theorem 10.6(p. 334)にもある。
多次元の波動方程式では、最大値原理は成り立たない。代わりに、運動エネルギーと位置エネルギーの和が保存されることを使う。ここでの積分の変形は Gaussの発散定理 から得られる Green の恒等式による。
$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ を滑らかな境界をもつコンパクトな領域(Gaussの発散定理 の定義「滑らかな境界をもつコンパクトな領域」)、$T>0$ とし、$u$ は $\Omega\times[0,T]$ を含む $\mathbb{R}^{n+1}$ の開集合で $C^2$ 級の実数値関数で、$\Omega\times[0,T]$ で $u_{tt}=\Delta u$、$\partial\Omega\times[0,T]$ で $u=0$ を満たすとする。このとき
$$
E(t):=\frac12\int_\Omega\bigl(u_t(x,t)^2+|\nabla u(x,t)|^2\bigr)\,dx
$$
は $[0,T]$ で一定である。とくに、この境界条件の下で初期値 $u(\cdot,0)$、$u_t(\cdot,0)$ が等しい 2 つの解は一致する。
被積分関数は $t$ について $C^1$ 級で、その $t$ 微分はコンパクト集合 $\Omega\times[0,T]$ の上で有界なので、優収束定理 の定理「積分記号の下での微分」により
$$
E'(t)=\int_\Omega\bigl(u_tu_{tt}+\nabla u\cdot\nabla u_t\bigr)\,dx
$$
である。各 $t$ で $u(\cdot,t)$ は $\partial\Omega$ の上で $0$ なので、$\partial\Omega$ の上で $u_t=\lim_{h\to0}(u(\cdot,t+h)-u(\cdot,t))/h=0$ である。Gaussの発散定理 の系「部分積分と Green の恒等式」の 2 を $u_t$ と $u(\cdot,t)$ に当てると
$$
\int_\Omega\nabla u_t\cdot\nabla u\,dx=\int_{\partial\Omega}u_t\,\partial_\nu u\,dS-\int_\Omega u_t\,\Delta u\,dx=-\int_\Omega u_t\,\Delta u\,dx
$$
となる。よって $E'(t)=\int_\Omega u_t(u_{tt}-\Delta u)\,dx=0$ で、$E$ は一定である。
一意性:2 つの解の差 $w$ も同じ方程式と境界条件を満たし、$w(\cdot,0)=w_t(\cdot,0)=0$ である。$w$ のエネルギーは $t=0$ で $0$ なので恒等的に $0$ で、被積分関数は連続かつ $0$ 以上なので $w_t=0$、$\nabla w=0$ が $\Omega$ の内部で、連続性から $\Omega\times[0,T]$ で成り立つ。よって $w(x,t)=w(x,0)=0$ である。$\square$
同じ論法は、境界で $\partial_\nu u=0$ を課す問題(Neumann 条件)にも使える。有界で境界が滑らかな $\Omega$ では、初期値 $u(\cdot,0)$ が $H^2(\Omega)\cap H^1_0(\Omega)$、$u_t(\cdot,0)$ が $H^1_0(\Omega)$ に属するという Sobolev 空間の条件の下でも、解が存在して一意であり、エネルギーが保存される(Bre11 Theorem 10.7、p. 336。この記事では証明しない)。弦の場合のエネルギーの計算は 波動方程式と弦の振動 の定理「古典的な固定端解のエネルギー」にある。
熱方程式を $\mathbb{R}^n$ 全体で解くには、熱核
$$
\Phi(x,t):=(4\pi t)^{-n/2}\,e^{-|x|^2/(4t)}\qquad(x\in\mathbb{R}^n,\ t>0)
$$
との畳み込みを使う。$\partial_i\Phi=-\frac{x_i}{2t}\Phi$、$\partial_i^2\Phi=\bigl(-\frac1{2t}+\frac{x_i^2}{4t^2}\bigr)\Phi$ から
$$
\Delta\Phi=\Bigl(-\frac n{2t}+\frac{|x|^2}{4t^2}\Bigr)\Phi=\Phi_t
$$
であり、Gauss 積分から $\int_{\mathbb{R}^n}\Phi(x,t)\,dx=1$ である。
$g\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}$ を有界な連続関数とし、$u(x,t):=\int_{\mathbb{R}^n}\Phi(x-y,t)\,g(y)\,dy$($t>0$)とおく。このとき $u$ は $\mathbb{R}^n\times(0,\infty)$ で $C^\infty$ 級で $u_t=\Delta u$ を満たし、$|u|\le\sup|g|$ であり、各 $x_0$ について $(x,t)\to(x_0,0)$($t>0$)のとき $u(x,t)\to g(x_0)$ である。
$\Phi\ge0$、$\int\Phi=1$ から $|u|\le\sup|g|$ である。滑らかさと方程式は、積分の中で微分してよいことから従う。初期値への収束は、$\Phi(\cdot,t)$ が $t\to0$ で原点に集中することによる。
微分:$\partial_x^\alpha\partial_t^k\Phi(x-y,t)$ は $x-y$ と $1/t$ の多項式と $\Phi(x-y,t)$ の積である。$|x|\le R$、$a\le t\le b$($0< a< b$)の範囲では、$|y|\ge2R$ のとき $|x-y|\ge|y|/2$ なので、これは $C(1+|y|)^me^{-|y|^2/(16b)}$ で押さえられ、$y$ について可積分である。$g$ は有界なので、優収束定理 の系「何回でも微分できる場合」により $u$ は $C^\infty$ 級で、微分は積分の中で行える。よって $u_t-\Delta u=\int(\Phi_t-\Delta\Phi)(x-y,t)\,g(y)\,dy=0$ である。
収束:$M=\sup|g|$ とし、$\varepsilon>0$ に対して $\delta>0$ を $|y-x_0|< \delta$ なら $|g(y)-g(x_0)|< \varepsilon$ となるようにとる。$|x-x_0|< \delta/2$ のとき、$\int\Phi=1$ と $z=x-y$ の置換から
$$|u(x,t)-g(x_0)|\le\int_{|z|< \delta/2}\Phi(z,t)\,|g(x-z)-g(x_0)|\,dz+2M\int_{|z|\ge\delta/2}\Phi(z,t)\,dz$$
であり、第 1 項では $|x-z-x_0|< \delta$ なので $\varepsilon$ 以下である。第 2 項は $z=2\sqrt t\,w$ と置換すると $2M\pi^{-n/2}\int_{|w|\ge\delta/(4\sqrt t)}e^{-|w|^2}\,dw$ で、$t\to0$ のとき $0$ に近づく。$\square$
熱核は $t>0$ では至るところ正なので、初期値 $g\ge0$ が小さな領域だけで正でも、$t>0$ ではすべての点で $u>0$ になる。熱は無限の速さで伝わり、thm-pde-dalembert の有限伝播速度と対照的である。
Hadamard は、問題が 適切(well-posed)であるとは、解が存在し、一意であり、データに連続に依存することだと考えた。cor-pde-heat-uniqueness や thm-pde-wave-energy は、それぞれの問題の一意性と安定性を与えている。次の Laplace 方程式に初期条件を課す例(Hadamard の例)のように、型に合わない条件では解がデータに連続に依存しなくなることがある。
$k\ge1$ について $u_k(x,y):=k^{-2}\sin(kx)\sinh(ky)$ とおく。$\partial_x^2u_k=-\sin(kx)\sinh(ky)$、$\partial_y^2u_k=\sin(kx)\sinh(ky)$ なので $u_k$ は Laplace 方程式 $u_{xx}+u_{yy}=0$ を満たし、
$$
u_k(x,0)=0,\qquad\partial_yu_k(x,0)=\frac{\sin(kx)}k
$$
である。データは $\sup_x|\partial_yu_k(x,0)|=1/k\to0$ と一様に $0$ に近づき、$0$ のデータには解 $u=0$ がある。ところが $y>0$ を固定すると $u_k(\pi/(2k),y)=k^{-2}\sinh(ky)\to\infty$ である。直線 $y=0$ の上で値と法線微分を与える問題(Cauchy 問題)は、Laplace 方程式では解がデータに連続に依存しない。
楕円型の方程式には境界値問題(Dirichlet問題)が、放物型・双曲型の方程式には初期値問題や初期境界値問題が自然に対応する。
古典解だけでは、存在を示す道具が足りないことが多い。そこで方程式を積分の形に弱めて解を探し、あとで滑らかさを示す。たとえば有界な開集合 $\Omega$ で $-\Delta u+u=f$、$\partial\Omega$ で $u=0$ を解く問題では、$C^2$ 級の古典解 $u$ は Green の恒等式により、台がコンパクトな滑らかな関数 $v$ のすべてについて
$$
\int_\Omega\bigl(\nabla u\cdot\nabla v+uv\bigr)\,dx=\int_\Omega fv\,dx
$$
を満たす。この等式を Sobolev空間 $H^1_0(\Omega)$ の元 $u$ と $v$ について要求したものを 弱解 という。左辺は $H^1_0(\Omega)$ の内積そのものなので、$f\in L^2(\Omega)$ に対する弱解の存在と一意性は Riesz の表現定理、より一般には Lax-Milgramの定理 から従い(Bre11 Theorem 9.21、p. 292)、弱解は汎関数 $\frac12\int(|\nabla v|^2+v^2)-\int fv$ の最小点として得られる(Dirichlet の原理)。1 次元の場合の議論は Lax-Milgramの定理 の定理「区間上の Dirichlet 問題の弱解」と 変分法 の命題「1 次元の Dirichlet の原理」にある。1 変数の汎関数の停留点が満たす Euler–Lagrange 方程式(変分法 の定理「Euler–Lagrange 方程式」)は、多変数の汎関数では偏微分方程式になる。たとえば $D(u)=\frac12\int_\Omega|\nabla u|^2\,dx$ と台がコンパクトな滑らかな $\varphi$ について、Green の恒等式から $\frac{d}{d\varepsilon}D(u+\varepsilon\varphi)\big|_{\varepsilon=0}=\int_\Omega\nabla u\cdot\nabla\varphi\,dx=-\int_\Omega\varphi\,\Delta u\,dx$ なので、$C^2$ 級の停留点は Laplace 方程式を満たす。偏導関数そのものを超関数の意味で考えると、滑らかでない関数も方程式の解として扱える。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 熱方程式の不等式 $u_t-\Delta u\le0$(thm-pde-heat-maximum) | $\Omega=(0,\pi)$、$u(x,t)=t\sin x$($u_t-u_{xx}=(1+t)\sin x>0$) | 最大値は放物境界でとられる |
| 放物境界の側面(底面だけで比べる) | $\Omega=(0,\pi)$、$u(x,t)=t$(底面で $0$、側面で正) | $\max u=\max_{\overline\Omega\times\{0\}}u$ |
| 境界条件 $u=0$(thm-pde-wave-energy) | $\Omega=[0,1]$、$u(x,t)=xt$($u_{tt}=u_{xx}=0$、$u(1,t)=t$) | エネルギーは一定 |
| 初期値の $C^1$ 級(thm-pde-transport) | $g(x)=\lvert x\rvert$、$n=1$、$b=1$ | $C^1$ 級の解が存在する |
1 行目:放物境界では $t=0$ か $x\in\{0,\pi\}$ なので $u=0$ だが、$u(\pi/2,T)=T>0$ である。2 行目:$u=t$ は熱方程式を満たし、底面では $0$ だが、$\max u=T>0$ は側面 $x=0$、$t=T$ でとられる。3 行目:$E(t)=\frac12\int_0^1(x^2+t^2)\,dx=\frac16+\frac{t^2}2$ は一定でない。4 行目:$C^1$ 級の解があれば thm-pde-transport の一意性の議論から $u(x,t)=|x-t|$ となるが、これは直線 $x=t$ の上で $x$ について微分できない。
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