終対象(terminal object)とは、圏のどの対象からもただ一つの射を受け取る対象である。集合の圏では一点集合がその例で、積の単位や空の図式の極限として現れる。
記号 $1$ は対象の名前であり、一点集合そのものを指すとは限らない。射の向きを逆転した反対圏 $\mathcal C^{\mathrm{op}}$ では終対象は始対象になる。標準的な定義と例は Rie16 §1.6による。
終対象は、任意の対象から情報を受け取る方法が一つだけの対象である。集合の一点集合へ送ると、どの元も同じ一点へ送るほかない。この「すべてを忘れる写像」が必ず定まるという普遍性が、圏によらない内容である。
すべての $X$ から少なくとも一本射があるだけなら弱終対象という。一意性を落とすと別概念になる。
$\mathbf{Set}$ では任意の一点集合が終対象である。$X$ の各元の像をその一点とする関数が唯一の候補となる。$X=\emptyset$ でも空関数が一つ存在する。同様に、位相空間の圏 $\mathbf{Top}$ では一点空間が終対象である(一意な連続写像は定値写像である)。
$\mathbf{Set}$ では二点集合への関数は任意の $X$ について少なくとも一つ存在するが、一点集合から二点集合への関数は二つある。従って二点集合は弱終対象ではあっても終対象ではない。また空集合には一点集合からの射がないので、弱終対象ですらない。
二つの終対象の間にはただ一つの同型射がある。
$1,1'$ を終対象とする。射 $u:1\to1'$、$v:1'\to1$ がただ一つずつ存在し、自己射の一意性から $vu=\operatorname{id}_1$、$uv=\operatorname{id}_{1'}$。従って両者は逆同型である。唯一性も終対象の定義から従う。
$1$ が終対象なら、任意の $X$ に対する積 $X\times1$ は $X$ で表せる。二対象の積とは、二対象への射を持ち、任意の対象からその二対象への射の組を一意に受け取る対象である。
候補を $X$、射影を $\operatorname{id}_X:X\to X$ と唯一の射 $X\to1$ とする。任意の $a:Y\to X$ と $b:Y\to1$ に対し、候補への射は $a$。終対象への合成は必ず $b$ と一致し、第1射影との条件が候補への射を一意に決める。
空図式の極限(圏論)も終対象である。脚のない錐は頂点だけのデータなので、錐の圏はもとの圏となる。
豊穣圏では射集合をHom対象へ替え、豊穣的な終対象には各 $\mathcal A(X,1)$ が基礎圏 $\mathcal V$ の終対象であることを要求する。基礎圏のモノイダル単位と終対象は一般には同じでない。単位からの要素だけを数えることと、Hom対象全体の普遍性を混同しない(Kel82 §3.1)。
∞-圏の終対象は、全 $X$ について $\operatorname{Map}(X,1)$ が可縮となる対象である。離散的な写像空間では通常の一意性へ戻るが、一般には射の選択だけでなく高次の比較も必要になる。専用稿は「終対象(∞圏)」(HTT09 §1.2.12)。
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