Pitotの定理(Pitot's theorem)とは、凸四角形 $ABCD$ の 4 辺すべてに接する円(内接円)があるための必要十分条件は、向かい合う辺の和が等しいこと $AB+CD=BC+DA$ である、という定理である。必要性は、頂点から内接円に引いた 2 本の接線の長さが等しいことから出る。十分性は、辺の長さの差を使って二等辺三角形を 3 つ作り、3 つの角の二等分線が四角形の内部の 1 点で交わって、その点が 4 辺の直線から等距離にあることを示して導く。系として、ひし形と凧形は円に外接し、平行四辺形が円に外接するのはひし形のときに限る。凸でない四角形では辺の和が等しくても内接円があるとは限らず、五角形・六角形では辺の長さの条件だけでは内接円の有無は決まらない。
前提知識: 方べきの定理(高校数学), 三角形の内心と傍心, 円に内接する四角形
三角形にはいつも内接円がある。3 つの角の二等分線が 1 点で交わり、その点が 3 辺から等しい距離にあるからである(三角形の内心と傍心)。四角形ではどうだろうか。正方形やひし形には 4 辺すべてに接する円があるが、正方形でない長方形には、そのような円はない。4 辺に接する円があるかどうかを、四角形の何で見分ければよいだろうか。
まず、4 辺に接する円がある四角形で、辺の長さを調べてみる。
4 点 $A(0,0)$、$B(4,0)$、$C(4,3)$、$D(0,6)$ を頂点とする四角形 $ABCD$ と、中心 $I(2,2)$、半径 $2$ の円を考える。
(1) 円と 4 辺の直線の距離。$I$ から直線 $AB$($x$ 軸)までの距離は $2$、直線 $BC$($x=4$)までは $2$、直線 $DA$($y$ 軸)までは $2$ である。直線 $CD$ は $2$ 点 $(4,3)$、$(0,6)$ を通るので $3x+4y-24=0$ で、$I$ までの距離は
$$
\frac{\lvert 3\cdot2+4\cdot2-24\rvert}{\sqrt{3^2+4^2}}=\frac{10}5=2
$$
である。4 本の直線までの距離がどれも半径 $2$ に等しいので、円は 4 本の直線に接する。
(2) 接点。$I$ から 4 本の直線に下ろした垂線の足が接点で、$AB$ 上は $T_1(2,0)$、$BC$ 上は $T_2(4,2)$、$CD$ 上は $T_3\left(\dfrac{16}5,\dfrac{18}5\right)$、$DA$ 上は $T_4(0,2)$ である。$T_3$ は $\overrightarrow{CT_3}=\left(-\dfrac45,\dfrac35\right)=\dfrac15\overrightarrow{CD}$ なので線分 $CD$ の上にある。4 つの接点はどれも辺(線分)の上にある。
(3) 頂点から接点までの長さ。
$$
AT_1=AT_4=2,\quad BT_1=BT_2=2,\quad CT_2=CT_3=1,\quad DT_3=DT_4=4
$$
である。$CT_3=\dfrac15CD=1$、$DT_3=\dfrac45CD=4$ を使った。
(4) 辺の長さは $AB=4$、$BC=3$、$CD=5$、$DA=6$ で、
$$
AB+CD=4+5=9,\qquad BC+DA=3+6=9
$$
と、向かい合う辺の和が等しい。
円に外接する直角台形で、頂点から接点までの長さを色分けした。同じ頂点から出る 2 本は同じ色で、長さも等しい
この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 円の外の点から引いた 2 本の接線の長さは等しい | 頂点から接点までの長さ | 接線の長さを変数にとる |
| 向かい合う辺の和 $AB+CD$、$BC+DA$ | Pitot の定理 | 交互和 $a-b+c-d=0$ |
| 角の二等分線の交点 | 内接円の中心 | 4 本の直線から等距離の点 |
| 四角形の面積 $=$ 内接円の半径 $\times$ 周の長さの半分 | 面積の分け方 | — |
この記事では、四角形 $ABCD$ はいつも頂点をこの順に結んだものとし、辺の長さを $a=AB$、$b=BC$、$c=CD$、$d=DA$ と書く。頂点の角の大きさを $A$、$B$、$C$、$D$ で表す。
四角形 $ABCD$ が 凸 であるとは、4 辺のどの直線についても、残りの 2 つの頂点がその直線の同じ側にあることをいう。
円がある辺(線分)に 接する とは、円がその辺を含む直線に接し、接点がその辺の上にあることをいう。凸四角形 $ABCD$ の 4 辺すべてに接する円があるとき、$ABCD$ は 円に外接する といい、その円を $ABCD$ の 内接円 という。
凸四角形は、4 本の辺の直線のそれぞれについて「残りの頂点がある側」(辺の直線を含む)をとった 4 つの半平面の共通部分である。この見方を lem-pit-inside で使う。
最初の道具は、円の外の点から引いた接線の長さである。
円の外の点 $P$ から円に 2 本の接線を引き、接点を $S$、$T$ とすると $PS=PT$ である。
円の中心を $I$、半径を $r$ とする。接線は接点で半径に垂直なので、三角形 $PSI$ と $PTI$ は、それぞれ $S$、$T$ を直角とする直角三角形である。斜辺 $PI$ は共通で、$IS=IT=r$ なので、直角三角形の斜辺と他の 1 辺がそれぞれ等しく、2 つは合同である。よって $PS=PT$ である。$\square$
方べきの定理を使うと、$PS^2=PT^2$ はどちらも $P$ の方べきに等しい(方べきの定理(高校数学) の系「接線の長さ」)。以下、四角形の頂点 $V$ から内接円の 2 つの接点までの長さを、頂点 $V$ の 接線の長さ といい、$t_V$ と書く。ex-pit-start では $t_A=2$、$t_B=2$、$t_C=1$、$t_D=4$ である。
2 つ目の道具は、4 本の直線から等しい距離にある点から内接円を作る補題である。
凸四角形 $ABCD$ の内部の点 $I$ から 4 辺の直線までの距離がすべて等しく、その値が $r$ であるとする。このとき、$I$ を中心とする半径 $r$ の円は 4 辺すべてに接する。つまり $ABCD$ は円に外接する。
要点:各辺の直線について、中心 $I$ は四角形の側にあって直線から距離 $r$ だけ離れているので、円は直線の反対側に出ない。よって円は 4 つの半平面の共通部分である四角形に含まれ、接点も四角形の点になる。四角形の点で辺の直線の上にあるものは、その辺の点だけなので、接点は辺の上にある。
段 1(円は 4 本の直線に接する)。中心から直線までの距離が半径に等しいので、円は 4 本の直線に接する。直線 $AB$ との接点を $H$ とする($I$ から直線 $AB$ に下ろした垂線の足)。
段 2(円は四角形に含まれる)。辺 $AB$ の直線について、$I$ は四角形の側にあり、直線までの距離は $r$ である。円の点は $I$ から距離 $r$ 以内にあるので、直線の反対側に出ることはない。4 本の直線のどれについても同じなので、円(の周と内部)は 4 つの半平面の共通部分、つまり四角形(の周と内部)に含まれる。
段 3(接点は辺の上)。$H$ は円の上の点なので、段 2 より四角形に含まれる。四角形の点で直線 $AB$ の上にあるものは、辺 $AB$ の点に限る。実際、直線 $AB$ の点 $X$ が直線 $DA$ について $B$ と同じ側(直線 $DA$ の上も含む)にあるのは、$X$ が半直線 $AB$ の上にあるときである(直線 $DA$ と直線 $AB$ は $A$ だけで交わるから)。同じく、直線 $BC$ について $A$ と同じ側にあるのは、$X$ が半直線 $BA$ の上にあるときである。両方を満たすのは線分 $AB$ の点である。よって $H$ は辺 $AB$ の上にあり、円は辺 $AB$ に接する。ほかの 3 辺でも同じである。$\square$
ex-pit-start は、この補題の例になっている。$I(2,2)$ は台形の内部にあり、4 本の直線までの距離がどれも $2$ だった。
凸四角形 $ABCD$ について、次の 2 つは同値である。
(1) $ABCD$ は円に外接する(4 辺すべてに接する円がある)。
(2) 向かい合う辺の和が等しい:$AB+CD=BC+DA$。
順向き (1) $\Rightarrow$ (2) は、ex-pit-start の (3)・(4) の計算をそのまま一般にしたものである。逆向き (2) $\Rightarrow$ (1) では、角の二等分線の交点を作り、それが 4 本の直線から等距離にあることを示す。そのために、辺の長さの差を使って二等辺三角形を 3 つ作る。
順向き (1) $\Rightarrow$ (2) から示す。
段 1(接線の長さ)。内接円が辺 $AB$、$BC$、$CD$、$DA$ に接する点を $T_1$、$T_2$、$T_3$、$T_4$ とする。頂点 $A$ は円の外にある。実際、円が $A$ を通るとすると、直線 $AB$、$AD$ はどちらも円と点 $A$ を共有する接線になり、接点がどちらも $A$ になるが、円の 1 点での接線は 1 本だけなので矛盾する。$A$ は接線 $AB$ の上の接点でない点なので、円の外にある。$A$ から円に引いた 2 本の接線は直線 $AB$、$AD$ で、接点は $T_1$、$T_4$ である。lem-pit-tangent により $AT_1=AT_4$ で、これを $t_A$ とおく。同じく $t_B=BT_1=BT_2$、$t_C=CT_2=CT_3$、$t_D=DT_3=DT_4$ とおく。
段 2(足す)。接点は辺の上にあるので、たとえば $AB=AT_1+T_1B=t_A+t_B$ である。4 辺とも同じように書けて
$$
AB+CD=(t_A+t_B)+(t_C+t_D),\qquad BC+DA=(t_B+t_C)+(t_D+t_A)
$$
である。右辺はどちらも $t_A+t_B+t_C+t_D$ なので、$AB+CD=BC+DA$ である。
次に逆向き (2) $\Rightarrow$ (1) を示す。$AB+CD=BC+DA$ を仮定する。この式は $A$ と $C$ の名前を入れかえても同じ式($CB+AD=BA+DC$)なので、必要なら入れかえて $AB\ge BC$ としてよい。このとき仮定から $DA-CD=AB-BC\ge0$ である。
段 3(交点 $I$ をとる)。頂点 $A$、$B$ から、それぞれの角の二等分線を四角形の内側へ半直線として引く。2 本は辺 $AB$ と角 $\dfrac A2$、$\dfrac B2$ をなし、$\dfrac A2+\dfrac B2<180^\circ$ なので、辺 $AB$ の四角形の側で 1 点で交わる(辺 $AB$ と 2 本の半直線で三角形ができる)。この点を $I$ とする。$I$ は $\angle A$ の二等分線の上にあるので、直線 $AB$、$DA$ から等しい距離にあり、$\angle B$ の二等分線の上にあるので、直線 $AB$、$BC$ から等しい距離にある(三角形の内心と傍心 の「2 直線から等距離の点の集まり」)。この距離を $r$ とすると、$I$ は直線 $AB$ の上にないので $r>0$ である。
段 4($I$ は $\angle D$ の二等分線の上にもある)。ここで場合を分ける。
(ア) $AB=BC$ のとき。仮定から $CD=DA$ である。三角形 $BAC$ は $BA=BC$ の二等辺三角形なので、$\angle B$ の二等分線は線分 $AC$ の垂直二等分線である。三角形 $DAC$ も $DA=DC$ の二等辺三角形なので、$\angle D$ の二等分線も線分 $AC$ の垂直二等分線である。よって $\angle B$ の二等分線と $\angle D$ の二等分線は同じ直線で、$I$ はその上にある。
(イ) $AB>BC$ のとき。仮定から $DA>CD$ である。辺 $BA$ の上に $BE=BC$ となる点 $E$ を、辺 $DA$ の上に $DF=DC$ となる点 $F$ をとる。$BC< BA$、$DC< DA$ なので、$E$、$F$ は $A$ と異なり、
$$
AE=AB-BC=DA-CD=AF>0
$$
である。3 つの二等辺三角形を見る。
逆向きの証明の作図。辺 BA の上に BE=BC、辺 DA の上に DF=DC となる点をとると、角 A、B、D の二等分線(灰色の破線)は C、E、F を通る緑の円の中心 I で交わり、I を中心とする青い円が 4 辺に接する
ex-pit-start の台形では $AB=4$、$BC=3$、$CD=5$、$DA=6$ で、$AB+CD=9=BC+DA$、$AB>BC$ である。辺の長さだけから、prf-pit-main の段 4 の点を作る。
(1) $E$ は辺 $BA$ の上で $BE=BC=3$ なので $E(1,0)$、$F$ は辺 $DA$ の上で $DF=DC=5$ なので $F(0,1)$ である。$AE=AF=1$ で、$AB-BC=DA-CD=1$ と合っている。
(2) $\angle A=90^\circ$ の二等分線は $y=x$、$\angle B=90^\circ$ の二等分線は $y=-x+4$ で、交点は $I(2,2)$ である。
(3) $IC^2=(4-2)^2+(3-2)^2=5$、$IE^2=(1-2)^2+(0-2)^2=5$、$IF^2=(0-2)^2+(1-2)^2=5$ で、$C$、$E$、$F$ は $I$ を中心とする半径 $\sqrt5$ の円の上にある(図 2 の緑の円)。
(4) $I$ から 4 本の直線までの距離は ex-pit-start の (1) で求めたとおりすべて $2$ で、$I$ は台形の内部にある。
prf-pit-main の段 1・段 2 の順向きの議論は、Newton–Gauss線 で、円に外接する四角形の 2 本の対角線の中点と内接円の中心が一直線に並ぶこと(Newton の定理)を示すのにも使われる。
thm-pit-main を使うと、辺の長さだけで円に外接するかどうかが分かる。
対称軸 $y$ 軸の上の点 $(0,y)$ で、直線 $AB$($4x-3y+12=0$)と直線 $BC$($2x+3y+6=0$)までの距離が等しくなる点を探すと、$0< y<4$ の範囲で$$\frac{3(4-y)}5=\frac{3(y+2)}{\sqrt{13}}$$となり、$y=\dfrac{5\sqrt{13}-17}2\approx0.514$ である。このとき半径は $\dfrac{3(4-y)}5=\dfrac{15-3\sqrt{13}}2\approx2.092$ で、4 つの接点はどれも辺の上にある。
円に外接する四角形の面積は、内接円の半径で書ける。
円に外接する四角形 $ABCD$ の内接円の中心を $I$、半径を $r$ とする。四角形は $I$ を頂点とする 4 つの三角形 $IAB$、$IBC$、$ICD$、$IDA$ に分かれ、それぞれの高さは $r$ である。よって面積 $S$ は
$$
S=\frac r2(AB+BC+CD+DA)=r\cdot\frac{AB+BC+CD+DA}2
$$
である。ex-pit-start の台形では、面積は $\dfrac{(3+6)\cdot4}2=18$、$r\cdot\dfrac{4+3+5+6}2=2\cdot9=18$ で一致する。thm-pit-main と合わせると、周の長さの半分は $AB+CD=BC+DA$ に等しい。三角形の面積の公式 $S=rs$(三角形の内心と傍心)と同じ形である。向かい合う辺の和が等しいことと、この面積の式は Wei26 にもある。
円に外接する四角形と、円に内接する四角形 を比べておく。どちらも「ある円との関係」を、四角形の量だけで見分ける判定をもつ。
| 円に内接する四角形 | 円に外接する四角形 | |
|---|---|---|
| 円 | 4 つの頂点を通る円(外接円) | 4 辺に接する円(内接円) |
| 判定 | 向かい合う角の和が $180^\circ$ | 向かい合う辺の和が等しい |
| 円の中心 | 4 辺の垂直二等分線の交点 | 4 つの角の二等分線の交点 |
| 長方形・ひし形 | 長方形はいつも内接する。ひし形は正方形のときだけ | ひし形はいつも外接する。長方形は正方形のときだけ |
| 判定の証明の道具 | 円周角の定理 | 接線の長さ、二等辺三角形 |
両方をもつ四角形は 双心四角形 で扱う。正方形はその例で、円に内接する四角形 の判定と thm-pit-main の判定を同時に満たす。
thm-pit-main の仮定「凸」「四角形」を外すと何が崩れるかを並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 凸 | へこんだ四角形 $A(0,3)$、$B(-2,0)$、$C(0,1)$、$D(2,0)$ | (2) $\Rightarrow$ (1):辺の和が等しいのに 4 辺に接する円がない |
| 辺の数が 4 | 正五角形でない、辺がすべて $1$ の五角形 | 辺の長さだけでは内接円の有無が決まらない |
| 辺の数が 4 | 正方形の 2 辺に正三角形をつけた、辺がすべて $1$ の六角形 | 交互の和が等しいのに内接円がない |
へこんだ四角形。向かい合う辺の和は等しいが、4 辺すべてに接する円はない
辺がすべて 1 の五角形。角が 90°、90°、150°、60°、150° とそろわないので内接円がない
4 点 $A(0,3)$、$B(-2,0)$、$C(0,1)$、$D(2,0)$ を順に結んだ四角形は、$C$ で内側にへこんでいて凸でない(直線 $BC$ について $A$ と $D$ は反対側にある)。辺の長さは $AB=DA=\sqrt{13}$、$BC=CD=\sqrt5$ で、$AB+CD=BC+DA$ である。
この四角形の 4 辺すべてに接する円はない。辺 $BC$ と辺 $CD$ の両方に接する円の中心は、2 直線 $BC$、$CD$ から等距離なので、2 直線のなす角の二等分線の上、つまり $y$ 軸か直線 $y=1$ の上にある(三角形の内心と傍心 の「2 直線から等距離の点の集まり」)。
直線 $y=1$ の上に中心をとると、辺 $BC$、$CD$ への垂線の足が両方とも辺の上にくるのは中心が $C$(半径 $0$)のときだけである。$y$ 軸の上に中心をとると、辺 $AB$、$BC$ の直線から等距離で $BC$ への足が辺の上にくる点はただ 1 つで、そこでは辺 $AB$ への足が辺の外にくる。
(1) 中心が直線 $y=1$ の上の点 $(x,1)$ のとき。辺 $BC$ の上の点は $B+s\,\overrightarrow{BC}=(-2+2s,\ s)$($0\le s\le1$)と書け、$(x,1)$ から直線 $BC$ に下ろした垂線の足は $s=\dfrac{2x+5}5$ の点である。これが辺の上にあるのは $-\dfrac52\le x\le0$ のときである。同じく辺 $CD$ では $C+s\,\overrightarrow{CD}=(2s,\ 1-s)$ で、足は $s=\dfrac{2x}5$ の点なので、辺の上にあるのは $0\le x\le\dfrac52$ のときである。両方を満たすのは $x=0$ だけで、そのとき中心は $C$ で半径は $0$ となり、円にならない。
(2) 中心が $y$ 軸の上の点 $(0,y)$ のとき。辺 $BC$ の足は $s=\dfrac{y+4}5$ の点で、辺の上にあるのは $-4\le y\le1$ のときである。辺 $AB$ の上の点は $(-2+2s,\ 3s)$ で、足は $s=\dfrac{3y+4}{13}$ の点なので、辺の上にあるのは $-\dfrac43\le y\le3$ のときである。直線 $AB$($3x-2y+6=0$)までの距離 $\dfrac{6-2y}{\sqrt{13}}$ と直線 $BC$($x-2y+2=0$)までの距離 $\dfrac{2-2y}{\sqrt5}$ が等しくなる $-4\le y\le1$ の $y$ は$$y=\frac{\sqrt{13}-3\sqrt5}{\sqrt{13}-\sqrt5}=-\frac{1+\sqrt{65}}4\approx-2.27$$だけで、これは $-\dfrac43$ より小さく、辺 $AB$ の足が辺の外にくる。
$y$ の値の求め方:$y\le1$ では $6-2y>0$、$2-2y\ge0$ なので、$\dfrac{6-2y}{\sqrt{13}}=\dfrac{2-2y}{\sqrt5}$ を解けばよい。両辺に $\sqrt5\sqrt{13}$ を掛けて $\sqrt5(6-2y)=\sqrt{13}(2-2y)$、整理して $2y(\sqrt{13}-\sqrt5)=2\sqrt{13}-6\sqrt5$ より $y=\dfrac{\sqrt{13}-3\sqrt5}{\sqrt{13}-\sqrt5}$ である。分母と分子に $\sqrt{13}+\sqrt5$ を掛けると $\dfrac{13+\sqrt{65}-3\sqrt{65}-15}{8}=\dfrac{-2-2\sqrt{65}}8=-\dfrac{1+\sqrt{65}}4$ となる。
四角形以外でも、prf-pit-main の段 1・段 2 と同じく、円に外接する多角形では各頂点の接線の長さが定まり、辺はとなり合う 2 つの接線の長さの和になる。さらに、中心 $I$ は各頂点の角の二等分線の上にあるので、頂点 $V$ の角の大きさを $V$ とすると、直角三角形から
$$
t_V=\frac r{\tan\frac V2}
$$
である($r$ は内接円の半径)。
正方形 $(0,0)$、$(1,0)$、$(1,1)$、$(0,1)$ の上に正三角形をのせた五角形 $(0,0)$、$(1,0)$、$(1,1)$、$\left(\dfrac12,1+\dfrac{\sqrt3}2\right)$、$(0,1)$ は、5 辺がすべて $1$ の凸五角形で、角は順に $90^\circ$、$90^\circ$、$150^\circ$、$60^\circ$、$150^\circ$ である。
この五角形には内接円がない。あったとして、5 つの頂点の接線の長さを順に $t_1,\dots,t_5$ とすると、辺の長さから
$$
t_1+t_2=t_2+t_3=t_3+t_4=t_4+t_5=t_5+t_1=1
$$
である。1 つ目と 2 つ目の式から $t_1=t_3$、同じく $t_3=t_5$、$t_5=t_2$、$t_2=t_4$ となり、5 つとも等しい(どれも $\dfrac12$)。すると $t_V=\dfrac r{\tan\frac V2}$ から 5 つの角の $\tan\dfrac V2$ がすべて等しく、5 つの角が等しくなる。これは角が $90^\circ$ と $60^\circ$ を含むことに反する。
一方、1 辺が $1$ の正五角形には内接円がある(中心から 5 辺までの距離が等しい)。辺の長さがすべて同じ 2 つの五角形の一方にだけ内接円があるので、五角形では辺の長さだけで内接円の有無は決まらない。
正方形 $(0,0)$、$(1,0)$、$(1,1)$、$(0,1)$ の左右に正三角形をつけた六角形 $(0,0)$、$(1,0)$、$\left(1+\dfrac{\sqrt3}2,\dfrac12\right)$、$(1,1)$、$(0,1)$、$\left(-\dfrac{\sqrt3}2,\dfrac12\right)$ は、6 辺がすべて $1$ の凸六角形で、角は順に $150^\circ$、$150^\circ$、$60^\circ$、$150^\circ$、$150^\circ$、$60^\circ$ である。辺を 1 つおきに足した和は $1+1+1=3$ と $1+1+1=3$ で等しい。
五角形と同じ議論で、内接円はない。
内接円があったとすると、ex-pit-cx-pentagon と同じく $t_1+t_2=t_2+t_3=\dots=t_6+t_1=1$ から $t_1=t_3=t_5$ となり、1 つ目と 3 つ目の頂点の角が等しくなければならない。しかし角は $150^\circ$ と $60^\circ$ で異なるので、内接円はない。四角形の「向かい合う辺の和が等しい」にあたる条件を満たしても、六角形では内接円があるとは限らない。
prf-pit-main の順向きは、「接線の長さを決めれば辺の長さが決まる」という対応を使っていた。$n$ 角形で、接線の長さの組 $(t_1,\dots,t_n)$ に辺の長さの組を対応させると
$$
(t_1,t_2,\dots,t_n)\longmapsto(t_1+t_2,\ t_2+t_3,\ \dots,\ t_n+t_1)
$$
で、これは 1 次式で書ける写像(1 次写像)である。
$n=4$ で、辺の長さを $a=t_1+t_2$、$b=t_2+t_3$、$c=t_3+t_4$、$d=t_4+t_1$ とすると、どんな $t_1,\dots,t_4$ でも
$$
a-b+c-d=(t_1+t_2)-(t_2+t_3)+(t_3+t_4)-(t_4+t_1)=0
$$
である。逆に $a-b+c-d=0$ を満たす $(a,b,c,d)$ には、$t_1$ を自由に選んで $t_2=a-t_1$、$t_3=b-a+t_1$、$t_4=d-t_1$ とおけば、4 つの式がすべて成り立つ(4 つ目 $t_3+t_4=b-a+d=c$ に仮定を使う)。つまり、この写像の像は 4 次元の空間の中の「超平面」$a-b+c-d=0$ で、同じ辺の長さを与える接線の長さの組は、$(x,-x,x,-x)$ の分だけずれた 1 つの直線にそってある。
(i) 辺の数 $n$ が奇数のとき。$t_1+t_2=a_1,\ \dots,\ t_n+t_1=a_n$ の式を 1 つおきに符号を変えて足すと $2t_1=a_1-a_2+a_3-\dots+a_n$ となり、$t_1$ が辺の長さだけで決まる。ほかの $t_k$ も同じなので、写像は 1 対 1 で、どんな辺の長さにもちょうど 1 組の接線の長さが対応する。ex-pit-cx-pentagon で $t_1=\dots=t_5=\dfrac12$ と決まったのはこのためである。
(ii) $n$ が偶数のとき。像は交互の和 $a_1-a_2+\dots-a_n=0$ の超平面で、接線の長さには $(x,-x,x,-x,\dots)$ の分の自由度が残る。ex-pit-cx-hexagon の六角形は、この条件を満たすのに内接円がない。
(iii) 四角形で正の解があること。$a+c=b+d$ で、$a,b,c,d>0$ とする。$t_1,t_2,t_3,t_4>0$ となる $t_1$ の範囲は $\max(0,\ a-b)< t_1<\min(a,\ d)$ で、$a-b< d$ は $a< b+d=a+c$ と同じなので、この範囲は空でない。ex-pit-start の台形($a=4$、$b=3$、$c=5$、$d=6$)では $1< t_1<4$ で、実際の値は $t_A=2$ である。
接線の長さの組が 1 つの直線にそって動けるのに、実際の四角形で接線の長さが 1 つに決まるのは、角の大きさ $V$ と $t_V=\dfrac r{\tan\frac V2}$ の関係があるからである。写像の計算だけでは (2) $\Rightarrow$ (1) は出ず、prf-pit-main の段 3〜段 6 の図形の議論が要る。
円に外接する四角形では、4 辺が同じ円に接していた。次の問題では、円の中心が 1 辺の上にあり、残りの 3 辺だけに接する。この場合も、接線の長さを使うと辺の長さの関係が出る。
A circle has center on the side AB of the cyclic quadrilateral ABCD. The other three sides are tangent to the circle. Prove that AD + BC = AB.
和訳:円に内接する四角形 $ABCD$ の辺 $AB$ の上に中心をもつ円があり、残りの 3 辺に接している。$AD+BC=AB$ を示せ。
出典:第 26 回国際数学オリンピック(1985 年)第 1 問(Oly85)。
辺 AB の上の点 O を中心とする青い円が、辺 BC、CD、DA に接する。四角形 ABCD は灰色の破線の円に内接する
方針:円の中心を $O$、半径を $r$ とする。$AD$、$BC$ を接線の長さに分け、半角の正接で書く。四角形が円に内接することは、最後に $\tan$ と $\dfrac1{\tan}$ を入れかえるところだけで使う。
段 1($\angle A$、$\angle B$)。円が辺 $DA$ に接する点を $X$、辺 $CD$ に接する点を $Y$、辺 $BC$ に接する点を $Z$ とする。$OX\perp DA$、$OX=r$ である。$O$ は辺 $AB$ の上にあるので、半直線 $AO$ は半直線 $AB$ と同じで、$\angle OAX=A$ である。$X$ は辺 $DA$ の上にあるので、直角三角形 $OXA$($X$ が直角)で $\angle A$ は鋭角であり($X=A$ のときは $A=90^\circ$)、
$$
OA=\frac r{\sin A},\qquad AX=OA\cos A=\frac{r\cos A}{\sin A}
$$
である。したがって
$$
OA-AX=\frac{r(1-\cos A)}{\sin A}=r\tan\frac A2
$$
である。最後の等号は、2 倍角の公式 $1-\cos A=2\sin^2\dfrac A2$、$\sin A=2\sin\dfrac A2\cos\dfrac A2$ による。同じく $OB-BZ=r\tan\dfrac B2$ である。
段 2($\angle D$、$\angle C$)。$O$ は四角形の辺の上にあって直線 $DA$、$DC$ の上にはないので、$\angle ADC$ の内側にあり、2 直線 $DA$、$DC$ から距離 $r$ にある。よって $O$ は $\angle D$ の二等分線の上にあり、$\angle ODX=\dfrac D2$ である。直角三角形 $OXD$ で
$$
XD=\frac r{\tan\frac D2}
$$
である。同じく $ZC=\dfrac r{\tan\frac C2}$ である。
段 3(まとめる)。$X$ は辺 $DA$、$Z$ は辺 $BC$、$O$ は辺 $AB$ の上にあるので、$AD=AX+XD$、$BC=BZ+ZC$、$AB=OA+OB$ である。段 1・段 2 から
$$
AD+BC-AB=XD+ZC-(OA-AX)-(OB-BZ)=r\left(\frac1{\tan\frac D2}+\frac1{\tan\frac C2}-\tan\frac A2-\tan\frac B2\right)
$$
である。向かい合う頂点どうしを組にして並べかえると
$$
AD+BC-AB=r\left(\frac1{\tan\frac D2}-\tan\frac B2\right)+r\left(\frac1{\tan\frac C2}-\tan\frac A2\right)
$$
である。
段 4(円に内接することを使う)。円に内接する四角形の向かい合う角の和は $180^\circ$ なので(円に内接する四角形)、$\dfrac C2=90^\circ-\dfrac A2$、$\dfrac D2=90^\circ-\dfrac B2$ である。$\tan(90^\circ-\theta)=\dfrac1{\tan\theta}$ から $\dfrac1{\tan\frac C2}=\tan\dfrac A2$、$\dfrac1{\tan\frac D2}=\tan\dfrac B2$ で、段 3 の 2 つのかっこはどちらも $0$ になる。よって $AD+BC=AB$ である。$\square$
段 3 の式は、四角形が円に内接するかどうかによらず成り立つ。つまり $AD+BC-AB$ は、向かい合う頂点 $B$、$D$ の組と $A$、$C$ の組のそれぞれについて「一方の半角の正接の逆数と、他方の半角の正接の差」の和になっている。円に内接するという条件は、向かい合う角の半分が $90^\circ$ で補い合うことで、各かっこを $0$ にする。
thm-pit-main と比べると、どちらも「辺を接線の長さの和に分けて、足し引きする」という同じ計算である。Pitot の定理では 4 頂点の接線の長さがちょうど打ち消し合い、この問題では $A$、$B$ の側の「接線の長さの不足分」$r\tan\dfrac A2$、$r\tan\dfrac B2$ を、円に内接する条件が $D$、$C$ の側の接線の長さ $r\cdot\dfrac1{\tan\frac D2}$、$r\cdot\dfrac1{\tan\frac C2}$ で埋め合わせる。
$r=1$、$\angle A=60^\circ$、$\angle B=70^\circ$($\angle C=120^\circ$、$\angle D=110^\circ$)で図 5 を描いた。$AB=\dfrac1{\sin60^\circ}+\dfrac1{\sin70^\circ}\approx1.15470+1.06418=2.21888$、$AD=\dfrac{\cos60^\circ}{\sin60^\circ}+\dfrac1{\tan55^\circ}\approx0.57735+0.70021=1.27756$、$BC=\dfrac{\cos70^\circ}{\sin70^\circ}+\dfrac1{\tan60^\circ}\approx0.36397+0.57735=0.94132$ で、$AD+BC\approx2.21888=AB$ である。4 つの頂点が 1 つの円の上にあり、$O$ から直線 $CD$ までの距離が $1$ になることも数値で確かめた。
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