Heronの公式とCayley–Menger行列式

同義語:Heron's formula and the Cayley–Menger determinantCayley–Menger行列式

概要

Heronの公式とCayley–Menger行列式(Heron's formula and the Cayley–Menger determinant)とは、三角形の面積 $S$ と四面体の体積 $V$ を、辺の長さの 2 乗を並べた行列式で表す見方である。辺 $a,b,c$ の三角形では $16S^2=4b^2c^2-(b^2+c^2-a^2)^2$ で、これは Heron の公式を 2 次の行列式で書いたものであり、縁取った 4 次の行列式(Cayley–Menger 行列式)では $-16S^2$ となり 3 頂点を平等に扱える。四面体では、1 つの頂点から出る 3 辺の内積を辺の長さで表した 3 次の行列式が $36V^2$、5 次の Cayley–Menger 行列式が $288V^2$ に等しい。4 面がどれも三角形になる 6 本の長さでも、この行列式が負なら四面体はできない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 三角形の面積の公式, 余弦定理(高校数学), ベクトルの内積(高校数学), 空間図形の計量

高校での出発点:3 辺から面積へ

三角形 $\mathrm{ABC}$ で、頂点 $\mathrm A,\mathrm B,\mathrm C$ の向かいの辺の長さを $a=\mathrm{BC}$、$b=\mathrm{CA}$、$c=\mathrm{AB}$、面積を $S$、$s=\dfrac{a+b+c}2$ と書く。3 辺から面積を求める Heron の公式
$$ S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)},\qquad\text{同じことだが}\qquad 16S^2=(a+b+c)(-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c) $$
は、三角形の面積の公式 で座標を使って証明した(余弦定理(高校数学) にも、余弦定理で $\sin A$ を消す証明がある)。この記事ではこの公式を証明済みとして使い、その「形」を調べる。

Heron の公式で面積を求める
  1. 3 辺 $13,14,15$:$s=21$ で $S=\sqrt{21\cdot8\cdot7\cdot6}=\sqrt{7056}=84$ である。
  2. 3 辺 $5,5,6$:$s=8$ で $S=\sqrt{8\cdot3\cdot3\cdot2}=\sqrt{144}=12$ である。
  3. 3 辺 $3,4,5$:$s=6$ で $S=\sqrt{6\cdot3\cdot2\cdot1}=6$ である。直角をはさむ 2 辺から $\dfrac12\cdot3\cdot4=6$ と求めた値と一致する。
$16S^2$ を展開する

$16S^2$ の 4 つの因数を 2 つずつ組にして掛ける。$(a+b+c)(-a+b+c)=(b+c)^2-a^2$、$(a-b+c)(a+b-c)=a^2-(b-c)^2$ なので
$$ 16S^2=\bigl((b+c)^2-a^2\bigr)\bigl(a^2-(b-c)^2\bigr)=2(a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2)-(a^4+b^4+c^4) $$
である(最後の等号は展開して確かめる)。3 辺 $13,14,15$ では、$a^2=196$、$b^2=225$、$c^2=169$ で
$$ 2(196\cdot225+225\cdot169+169\cdot196)-(196^2+225^2+169^2)=2\cdot115249-117602=112896 $$
となり、$16\cdot84^2=16\cdot7056=112896$ と一致する。

ex-hcm-expand から 2 つのことが分かる。1 つは、$16S^2$ が辺の長さそのものではなく、辺の長さの 2 乗 $a^2,b^2,c^2$ の多項式だということである。もう 1 つは、その多項式が $a,b,c$ をどう入れ替えても変わらない(対称式である)ことである。この 2 つの性質を、行列式を使ってはっきり見えるようにするのがこの記事の目標である。問いは次の 4 つである。

  1. $16S^2$ を、辺の長さの 2 乗を並べた行列式で書けるか。→ thm-hcm-gram2
  2. 3 つの頂点を平等に扱う形に書けるか。→ thm-hcm-cm3
  3. 同じ考え方で、四面体の体積を 6 本の辺の長さで表せるか。→ thm-hcm-tetra
  4. どんな 6 本の長さでも四面体ができるか。→ ex-hcm-cx-faces
    高校の計算この記事での見方ボックス
    $S=\dfrac12bc\sin A$、$\sin^2A=1-\cos^2A$2 次の行列式 $\det\begin{pmatrix}2c^2&b^2+c^2-a^2\\ b^2+c^2-a^2&2b^2\end{pmatrix}=16S^2$thm-hcm-gram2
    Heron の公式(3 辺の対称式)4 次の行列式(Cayley–Menger 行列式)$=-16S^2$thm-hcm-cm3
    四面体の体積 $=\dfrac13\times$ 底面積 $\times$ 高さ3 次の行列式 $=288V^2$thm-hcm-tetra
    三角不等式で三角形ができるか判定行列式の符号で四面体ができるか判定ex-hcm-cx-faces
    座標を使って四面体の体積を行列式で表す話($V=\dfrac16\lvert\det(\vec a,\vec b,\vec c)\rvert$)は 四面体の体積と行列式 で扱う。この記事が扱うのは、座標を使わず 辺の長さだけ から面積・体積を表す式である。

2 次の行列式で書く

2 次の行列式

2 行 2 列の行列 $\begin{pmatrix}p&q\\ r&s\end{pmatrix}$ に対し、数 $ps-qr$ をその 行列式 といい、$\det\begin{pmatrix}p&q\\ r&s\end{pmatrix}$ と書く。

たとえば $\det\begin{pmatrix}3&1\\ 2&4\end{pmatrix}=3\cdot4-1\cdot2=10$、$\det\begin{pmatrix}2&-4\\ -4&8\end{pmatrix}=16-16=0$ である。行列式が平行四辺形の(符号付き)面積を表すことは 1次変換と行列式:面積の拡大率 で扱う。ここでは、それとは別の使い方をする。
まず、2 つのベクトルの内積が、ベクトルの長さだけで書けることを確かめる。

内積を 3 辺の長さで表す

三角形 $\mathrm{ABC}$ で $\vec u=\overrightarrow{\mathrm{AB}}$、$\vec v=\overrightarrow{\mathrm{AC}}$ とすると
$$ 2\,\vec u\cdot\vec v=b^2+c^2-a^2 $$
である。

$\mathrm{BC}$ を差のベクトルで書いて展開する

方針:$\overrightarrow{\mathrm{BC}}=\vec v-\vec u$ の長さの 2 乗を内積で展開する。
$\overrightarrow{\mathrm{BC}}=\overrightarrow{\mathrm{AC}}-\overrightarrow{\mathrm{AB}}=\vec v-\vec u$ である。内積の分配法則(ベクトルの内積(高校数学))により
$$ a^2=\lvert\vec v-\vec u\rvert^2=\lvert\vec v\rvert^2-2\,\vec u\cdot\vec v+\lvert\vec u\rvert^2=b^2-2\,\vec u\cdot\vec v+c^2 $$
である。$2\,\vec u\cdot\vec v$ について解けば主張を得る。$\square$

lem-hcm-inner は、$\vec u\cdot\vec v=bc\cos A$ とあわせると余弦定理そのものである(余弦定理(高校数学) の注意「長さから内積が決まる」)。
三角形 ABC と、A から出る 2 つのベクトル u = AB、v = AC。u, v の長さは c, b、差 v − u の長さは a である 三角形 ABC と、A から出る 2 つのベクトル u = AB、v = AC。u, v の長さは c, b、差 v − u の長さは a である

面積の 2 乗の 2 次の行列式による表示

三角形 $\mathrm{ABC}$ について
$$ 16S^2=\det\begin{pmatrix}2c^2&b^2+c^2-a^2\\ b^2+c^2-a^2&2b^2\end{pmatrix}=4b^2c^2-(b^2+c^2-a^2)^2 $$
が成り立つ。

正弦の 2 乗を余弦の 2 乗で書き換える

方針:$S=\dfrac12bc\sin A$ を 2 乗し、$\sin^2A=1-\cos^2A$ で余弦に直す。$bc\cos A=\vec u\cdot\vec v$ を lem-hcm-inner で辺の長さに直す(図 1)。
段 1(面積を 2 乗する)。三角形の面積の公式 の定理「2 辺と間の角の正弦」により $S=\dfrac12bc\sin A$ なので、$4S^2=b^2c^2\sin^2A$ である。
段 2(余弦に直す)。$\sin^2A=1-\cos^2A$ なので
$$ 4S^2=b^2c^2-(bc\cos A)^2 $$
である。
段 3(内積に直す)。$\vec u\cdot\vec v=\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert\cos A=cb\cos A$ である(内積の定義)。lem-hcm-inner により $bc\cos A=\dfrac{b^2+c^2-a^2}2$ なので
$$ 4S^2=b^2c^2-\frac{(b^2+c^2-a^2)^2}4 $$
である。
段 4(4 倍する)。両辺を $4$ 倍すると $16S^2=4b^2c^2-(b^2+c^2-a^2)^2$ である。def-hcm-det2 により、これは主張の行列式 $2c^2\cdot2b^2-(b^2+c^2-a^2)^2$ に等しい。$\square$

段 2 の $b^2c^2-(bc\cos A)^2$ は、$\lvert\vec u\rvert^2\lvert\vec v\rvert^2-(\vec u\cdot\vec v)^2=\det\begin{pmatrix}\vec u\cdot\vec u&\vec u\cdot\vec v\\ \vec v\cdot\vec u&\vec v\cdot\vec v\end{pmatrix}$ である。内積を並べたこの行列を Gram 行列 という(余弦定理(高校数学) の注意「Gram 行列式と面積」)。thm-hcm-gram2 の行列は、Gram 行列の成分を 2 倍して、lem-hcm-inner で辺の長さに書き直したものである。2 倍するのは、成分に分数が出ないようにするためである。

2 次の行列式で面積を求める
  1. 3 辺 $13,14,15$($a=14$、$b=15$、$c=13$):$2c^2=338$、$2b^2=450$、$b^2+c^2-a^2=225+169-196=198$ なので
    $$ 16S^2=\det\begin{pmatrix}338&198\\ 198&450\end{pmatrix}=338\cdot450-198^2=152100-39204=112896 $$
    で、$S^2=7056$、$S=84$ である。
  2. 3 辺 $3,4,5$($a=5$、$b=4$、$c=3$):$b^2+c^2-a^2=16+9-25=0$ なので、行列は $\begin{pmatrix}18&0\\ 0&32\end{pmatrix}$ で、$16S^2=18\cdot32=576$、$S=6$ である。$\vec u\cdot\vec v=0$、つまり角 $A$ が直角なので、非対角成分が $0$ になっている。
  3. 3 辺 $4,5,6$($a=6$、$b=5$、$c=4$):$2c^2=32$、$2b^2=50$、$b^2+c^2-a^2=25+16-36=5$ で、$16S^2=32\cdot50-25=1575$、$S=\dfrac{\sqrt{1575}}4=\dfrac{15\sqrt7}4$ である($1575=15^2\cdot7$)。三角形の面積の公式 の例と一致する。

thm-hcm-gram2 は、頂点 $\mathrm A$ を特別扱いしている($\mathrm A$ から出る 2 本の辺 $b,c$ が対角成分に来る)。$\mathrm B$ や $\mathrm C$ を基準にしても同じ $16S^2$ が出るはずだが、行列の形からは見えにくい。次の節では、3 つの頂点を平等に扱う形に書き直す。

3 つの頂点を平等に扱う:Cayley–Menger 行列式

そのために、4 行 4 列の行列式を使う。行列式は、次のように行列の大きさを 1 つずつ下げて定める。

$n$ 次の行列式

$n\ge3$ とし、$n$ 行 $n$ 列の行列 $M$ の $i$ 行 $j$ 列の成分を $m_{ij}$ と書く。$M$ から第 $1$ 行と第 $j$ 列を取り除いた $n-1$ 行 $n-1$ 列の行列を $M(1\,|\,j)$ と書く。$M$ の 行列式 を
$$ \det M=m_{11}\det M(1\,|\,1)-m_{12}\det M(1\,|\,2)+m_{13}\det M(1\,|\,3)-\cdots+(-1)^{1+n}m_{1n}\det M(1\,|\,n) $$
で定める(右辺の $n-1$ 次の行列式は、同じ規則でさらに次数を下げ、最後は def-hcm-det2 で計算する)。3 次の場合に書き下すと
$$ \det\begin{pmatrix}p_1&p_2&p_3\\ q_1&q_2&q_3\\ r_1&r_2&r_3\end{pmatrix}=p_1(q_2r_3-q_3r_2)-p_2(q_1r_3-q_3r_1)+p_3(q_1r_2-q_2r_1) $$
である。

3 次の行列式を計算する
  1. $\det\begin{pmatrix}2&1&1\\ 1&2&1\\ 1&1&2\end{pmatrix}=2(2\cdot2-1\cdot1)-1(1\cdot2-1\cdot1)+1(1\cdot1-2\cdot1)=6-1-1=4$ である。
  2. $\det\begin{pmatrix}2&0&0\\ 0&8&0\\ 0&0&18\end{pmatrix}=2(8\cdot18-0)-0+0=288$ である。対角成分以外が $0$ の行列の行列式は、対角成分の積になる。

行列式を計算するときには、次の 3 つの事実を使う。いずれも行列式の基本的な性質で、この記事では証明しない(Bee15 Section DM の Theorem DER・Theorem DEC、Section PDM の Theorem DRCS・Theorem DRCM・Theorem DRCMA)。

行列式について使う事実

$M$ を $n$ 行 $n$ 列の行列とする。

  1. (どの行・列でも展開できる)def-hcm-detn の第 $1$ 行の代わりに、第 $i$ 行を使って $\det M=\sum_{j=1}^n(-1)^{i+j}m_{ij}\det M(i\,|\,j)$ としてもよい。列についても同じで、第 $j$ 列を使って $\det M=\sum_{i=1}^n(-1)^{i+j}m_{ij}\det M(i\,|\,j)$ としてもよい。ここで $M(i\,|\,j)$ は第 $i$ 行と第 $j$ 列を取り除いた行列である。
  2. (行・列の足し引き)ある行に、別の行の定数倍を足しても、行列式は変わらない。列についても同じである。
  3. (定数倍と入れ替え)1 つの行(または列)を $k$ 倍すると、行列式は $k$ 倍になる。2 つの行(または 2 つの列)を入れ替えると、行列式は $-1$ 倍になる。

1 の展開では、$0$ の多い行や列を選ぶと計算が短くなる。2 を使って、わざと $0$ を増やしてから展開するのが、次の証明の方針である。

Cayley–Menger 行列式による面積の表示

三角形 $\mathrm{ABC}$ について
$$ \det\begin{pmatrix}0&1&1&1\\ 1&0&c^2&b^2\\ 1&c^2&0&a^2\\ 1&b^2&a^2&0\end{pmatrix}=-16S^2 $$
が成り立つ。左辺の行列の第 $2,3,4$ 行(第 $2,3,4$ 列)は頂点 $\mathrm A,\mathrm B,\mathrm C$ に対応し、たとえば第 $2$ 行第 $3$ 列の成分 $c^2$ は $\mathrm{AB}^2$ である。この行列式を Cayley–Menger 行列式 という。

行と列の引き算で 2 次の行列式に落とす

方針:rem-hcm-det-facts の 2 を使って第 $1$ 行に $0$ を 3 つ作り、1 で展開して次数を 2 つ下げる。残る 2 次の行列式が thm-hcm-gram2 の行列式の形になることを確かめる。
段 1(行を引く)。第 $3$ 行から第 $2$ 行を引き、第 $4$ 行から第 $2$ 行を引く。行列式は変わらず(事実 2)、行列は
$$ \begin{pmatrix}0&1&1&1\\ 1&0&c^2&b^2\\ 0&c^2&-c^2&a^2-b^2\\ 0&b^2&a^2-c^2&-b^2\end{pmatrix} $$
になる。
段 2(列を引く)。第 $3$ 列から第 $2$ 列を引き、第 $4$ 列から第 $2$ 列を引く。行列式は変わらず(事実 2)、行列は
$$ \begin{pmatrix}0&1&0&0\\ 1&0&c^2&b^2\\ 0&c^2&-2c^2&a^2-b^2-c^2\\ 0&b^2&a^2-b^2-c^2&-2b^2\end{pmatrix} $$
になる。たとえば第 $3$ 行第 $3$ 列は $-c^2-c^2=-2c^2$、第 $3$ 行第 $4$ 列は $(a^2-b^2)-c^2$ である。
段 3(第 1 行で展開する)。第 $1$ 行で $0$ でない成分は第 $2$ 列の $1$ だけである。事実 1 により、行列式は $(-1)^{1+2}\cdot1\cdot\det N=-\det N$ である。ここで $N$ は第 $1$ 行と第 $2$ 列を取り除いた
$$ N=\begin{pmatrix}1&c^2&b^2\\ 0&-2c^2&a^2-b^2-c^2\\ 0&a^2-b^2-c^2&-2b^2\end{pmatrix} $$
である。
段 4(第 1 列で展開する)。$N$ の第 $1$ 列で $0$ でない成分は第 $1$ 行の $1$ だけなので、事実 1 により
$$ \det N=\det\begin{pmatrix}-2c^2&a^2-b^2-c^2\\ a^2-b^2-c^2&-2b^2\end{pmatrix}=4b^2c^2-(a^2-b^2-c^2)^2 $$
である。
段 5(面積に戻す)。$(a^2-b^2-c^2)^2=(b^2+c^2-a^2)^2$ なので、thm-hcm-gram2 により $\det N=16S^2$ である。段 3 とあわせて、もとの行列式は $-16S^2$ である。$\square$

段 4 の 2 次の行列は、thm-hcm-gram2 の行列の成分をすべて $-1$ 倍したものである。つまり Cayley–Menger 行列式は、Gram 行列を「縁取り」して、頂点 $\mathrm A$ を特別扱いしない形にしたものである。

Cayley–Menger 行列式を計算する
  1. 3 辺 $3,4,5$($a=5$、$b=4$、$c=3$)では、行列は $\begin{pmatrix}0&1&1&1\\ 1&0&9&16\\ 1&9&0&25\\ 1&16&25&0\end{pmatrix}$ である。証明の段 1〜4 をたどると、段 4 の 2 次の行列は $\begin{pmatrix}-18&0\\ 0&-32\end{pmatrix}$($a^2-b^2-c^2=25-16-9=0$)で、$\det N=576$ である。よって行列式は $-576=-16\cdot6^2$ で、$S=6$ と一致する。
  2. 3 辺 $13,14,15$ では、ex-hcm-gram2 の 1 と同じく $\det N=112896$ で、行列式は $-112896=-16\cdot84^2$ である。
頂点の名前を付け替えても変わらない

頂点 $\mathrm A$ と $\mathrm B$ の名前を入れ替えると、thm-hcm-cm3 の行列では第 $2$ 行と第 $3$ 行が入れ替わり、同時に第 $2$ 列と第 $3$ 列が入れ替わる。rem-hcm-det-facts の 3 により、行列式は $(-1)\cdot(-1)=1$ 倍、つまり変わらない。どの 2 つの頂点を入れ替えても同じなので、Cayley–Menger 行列式は頂点の名前の付け方によらない。ex-hcm-expand で見た「$16S^2$ は $a,b,c$ の対称式」という性質が、行列の形から読みとれる。

四面体の体積を 6 本の辺で表す

三角形の面積の 2 乗が、2 本の辺のベクトル $\vec u,\vec v$ の内積を並べた 2 次の行列式で書けた。四面体では、1 つの頂点から出る 3 本の辺のベクトルの内積を並べた 3 次の行列式を使う。四面体 $\mathrm{ABCD}$ の体積を $V$ とし、$\vec u=\overrightarrow{\mathrm{AB}}$、$\vec v=\overrightarrow{\mathrm{AC}}$、$\vec w=\overrightarrow{\mathrm{AD}}$ とおく。$\mathrm D$ から平面 $\mathrm{ABC}$ に下ろした垂線の足を $\mathrm H$、高さを $h=\mathrm{DH}$ とすると、三角形 $\mathrm{ABC}$ の面積 $S$ を使って $V=\dfrac13Sh$ である(錐体の体積の公式。錐体の体積とHilbertの第3問題)。
四面体 ABCD と、D から平面 ABC に下ろした垂線 DH。高さ h = DH を、辺の長さだけで表したい 四面体 ABCD と、D から平面 ABC に下ろした垂線 DH。高さ h = DH を、辺の長さだけで表したい

3 次の Gram 行列式と高さ

4 点 $\mathrm A,\mathrm B,\mathrm C,\mathrm D$ が同じ平面の上にないとき、上の記号で
$$ \det\begin{pmatrix}\vec u\cdot\vec u&\vec u\cdot\vec v&\vec u\cdot\vec w\\ \vec v\cdot\vec u&\vec v\cdot\vec v&\vec v\cdot\vec w\\ \vec w\cdot\vec u&\vec w\cdot\vec v&\vec w\cdot\vec w\end{pmatrix}=\bigl(\lvert\vec u\rvert^2\lvert\vec v\rvert^2-(\vec u\cdot\vec v)^2\bigr)\,h^2 $$
が成り立つ。

$\vec{w}$ を平面の中の部分と垂直な部分に分ける

方針:$\vec w=\overrightarrow{\mathrm{AD}}$ を、平面 $\mathrm{ABC}$ の中のベクトル $\alpha\vec u+\beta\vec v$ と、平面に垂直なベクトル $\vec n=\overrightarrow{\mathrm{HD}}$ の和に分ける。すると行列の第 $3$ 列が「第 $1$ 列の $\alpha$ 倍 + 第 $2$ 列の $\beta$ 倍 + $(0,0,h^2)$」になるので、列の引き算で $0$ を 2 つ作って展開する。
段 1(係数を決める)。$\alpha,\beta$ についての連立 1 次方程式
$$ (\vec u\cdot\vec u)\,\alpha+(\vec u\cdot\vec v)\,\beta=\vec u\cdot\vec w,\qquad(\vec u\cdot\vec v)\,\alpha+(\vec v\cdot\vec v)\,\beta=\vec v\cdot\vec w $$
を考える。係数の行列式は $\Delta=\lvert\vec u\rvert^2\lvert\vec v\rvert^2-(\vec u\cdot\vec v)^2$ で、prf-hcm-gram2 の段 2・段 3 により $\Delta=4S^2$ である。$\mathrm A,\mathrm B,\mathrm C$ は一直線上にないので $S>0$、$\Delta>0$ であり、この連立方程式はただ 1 組の解 $\alpha,\beta$ をもつ(連立1次方程式)。
段 2(垂直な部分)。$\vec n=\vec w-\alpha\vec u-\beta\vec v$ とおく。段 1 の 1 つ目の式から $\vec u\cdot\vec n=\vec u\cdot\vec w-\alpha\,\vec u\cdot\vec u-\beta\,\vec u\cdot\vec v=0$、2 つ目の式から $\vec v\cdot\vec n=0$ である。位置ベクトルが $\overrightarrow{\mathrm{AH'}}=\alpha\vec u+\beta\vec v$ となる点 $\mathrm H'$ は平面 $\mathrm{ABC}$ の上にあり、$\overrightarrow{\mathrm{H'D}}=\vec w-(\alpha\vec u+\beta\vec v)=\vec n$ は平面の平行でない 2 方向 $\vec u,\vec v$ の両方に垂直である。空間図形の計量 の補題「平面の 2 方向に垂直なら平面に垂直」により、直線 $\mathrm{H'D}$ は平面 $\mathrm{ABC}$ に垂直なので、$\mathrm H'$ は垂線の足 $\mathrm H$ であり、$\lvert\vec n\rvert=\mathrm{HD}=h$ である。
段 3(第 3 列を書き直す)。$\vec w=\alpha\vec u+\beta\vec v+\vec n$ と、$\vec u\cdot\vec n=\vec v\cdot\vec n=0$ を使う。
$$ \vec u\cdot\vec w=\alpha\,\vec u\cdot\vec u+\beta\,\vec u\cdot\vec v,\qquad \vec v\cdot\vec w=\alpha\,\vec v\cdot\vec u+\beta\,\vec v\cdot\vec v $$
である。また $\vec w\cdot\vec n=(\alpha\vec u+\beta\vec v+\vec n)\cdot\vec n=\lvert\vec n\rvert^2=h^2$ なので
$$ \vec w\cdot\vec w=\vec w\cdot(\alpha\vec u+\beta\vec v+\vec n)=\alpha\,\vec w\cdot\vec u+\beta\,\vec w\cdot\vec v+h^2 $$
である。つまり第 $3$ 列の各成分は、第 $1$ 列の $\alpha$ 倍と第 $2$ 列の $\beta$ 倍の和に、第 $3$ 行だけ $h^2$ を足したものである。
段 4(列を引いて展開する)。第 $3$ 列から第 $1$ 列の $\alpha$ 倍と第 $2$ 列の $\beta$ 倍を引く。rem-hcm-det-facts の 2 により行列式は変わらず、段 3 により第 $3$ 列は上から $0,0,h^2$ になる。第 $3$ 列で展開すると(事実 1)、$0$ でない成分は第 $3$ 行の $h^2$ だけで、符号は $(-1)^{3+3}=1$ なので
$$ \det(\text{もとの行列})=h^2\det\begin{pmatrix}\vec u\cdot\vec u&\vec u\cdot\vec v\\ \vec v\cdot\vec u&\vec v\cdot\vec v\end{pmatrix}=h^2\bigl(\lvert\vec u\rvert^2\lvert\vec v\rvert^2-(\vec u\cdot\vec v)^2\bigr) $$
である。$\square$

内積はすべて辺の長さで書けるので(lem-hcm-inner)、この補題から体積の式が出る。

6 本の辺の長さによる四面体の体積の表示

四面体 $\mathrm{ABCD}$ の体積を $V$ とし、
$$ T=\begin{pmatrix}2\,\mathrm{AB}^2&\mathrm{AB}^2+\mathrm{AC}^2-\mathrm{BC}^2&\mathrm{AB}^2+\mathrm{AD}^2-\mathrm{BD}^2\\ \mathrm{AB}^2+\mathrm{AC}^2-\mathrm{BC}^2&2\,\mathrm{AC}^2&\mathrm{AC}^2+\mathrm{AD}^2-\mathrm{CD}^2\\ \mathrm{AB}^2+\mathrm{AD}^2-\mathrm{BD}^2&\mathrm{AC}^2+\mathrm{AD}^2-\mathrm{CD}^2&2\,\mathrm{AD}^2\end{pmatrix} $$
とおくと
$$ \det T=288\,V^2 $$
が成り立つ。

内積の行列の 2 倍とみて補題を使う

方針:$T$ は lem-hcm-height の行列の成分をすべて $2$ 倍したものである。補題の右辺を面積と高さで書き、錐体の体積の公式を使う。
段 1($T$ は内積の行列の 2 倍)。lem-hcm-inner を三角形 $\mathrm{ABC}$ に使うと $2\,\vec u\cdot\vec v=\mathrm{AB}^2+\mathrm{AC}^2-\mathrm{BC}^2$ である。三角形 $\mathrm{ABD}$、$\mathrm{ACD}$ に使うと、同じく $2\,\vec u\cdot\vec w=\mathrm{AB}^2+\mathrm{AD}^2-\mathrm{BD}^2$、$2\,\vec v\cdot\vec w=\mathrm{AC}^2+\mathrm{AD}^2-\mathrm{CD}^2$ である。また $2\,\vec u\cdot\vec u=2\,\mathrm{AB}^2$ などである。よって $T$ の各成分は、lem-hcm-height の行列の対応する成分の $2$ 倍である。
段 2(定数倍を外に出す)。rem-hcm-det-facts の 3 を 3 つの行に 1 回ずつ使うと、$\det T=2^3\det(\text{補題の行列})=8\det(\text{補題の行列})$ である。
段 3(補題を使う)。4 点は同じ平面の上にない(四面体である)ので、lem-hcm-height と、prf-hcm-height の段 1 で見た $\lvert\vec u\rvert^2\lvert\vec v\rvert^2-(\vec u\cdot\vec v)^2=4S^2$ により、補題の行列の行列式は $4S^2h^2$ である。
段 4(体積に直す)。$V=\dfrac13Sh$ なので $Sh=3V$ で、$4S^2h^2=4(Sh)^2=4\cdot9V^2=36V^2$ である。段 2 とあわせて $\det T=8\cdot36V^2=288V^2$ である。$\square$

辺の長さから四面体の体積を求める
  1. 1 辺 $1$ の正四面体:辺はすべて $1$ なので、対角成分は $2$、それ以外は $1+1-1=1$ で、$T=\begin{pmatrix}2&1&1\\ 1&2&1\\ 1&1&2\end{pmatrix}$ である。ex-hcm-det3 の 1 により $\det T=4$ なので $V^2=\dfrac4{288}=\dfrac1{72}$、$V=\dfrac1{6\sqrt2}=\dfrac{\sqrt2}{12}$ である。空間図形の計量 の定理「正四面体の高さ・体積・二面角」の値と一致する。
  2. $\mathrm A$ で 3 本の辺が互いに直交し、$\mathrm{AB}=1$、$\mathrm{AC}=2$、$\mathrm{AD}=3$ の四面体:三平方の定理で $\mathrm{BC}^2=5$、$\mathrm{BD}^2=10$、$\mathrm{CD}^2=13$ である。非対角成分は $1+4-5=0$、$1+9-10=0$、$4+9-13=0$ で、$T$ は対角成分が $2,8,18$ の行列になる。ex-hcm-det3 の 2 により $\det T=288$ で、$V^2=1$、$V=1$ である。底面の直角三角形の面積 $\dfrac12\cdot1\cdot2=1$ と高さ $3$ から $V=\dfrac13\cdot1\cdot3=1$ と求めた値と一致する。
  3. 縦・横・高さが $2,3,6$ の直方体の 4 つの頂点 $\mathrm A(0,0,0)$、$\mathrm B(2,3,0)$、$\mathrm C(2,0,6)$、$\mathrm D(0,3,6)$ を結んだ四面体:6 本の辺はどれも直方体の面の対角線で、$\mathrm{AB}^2=\mathrm{CD}^2=13$、$\mathrm{AC}^2=\mathrm{BD}^2=40$、$\mathrm{AD}^2=\mathrm{BC}^2=45$ である(向かい合う辺の長さが等しい)。
    $$ T=\begin{pmatrix}26&13+40-45&13+45-40\\ 8&80&40+45-13\\ 18&72&90\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}26&8&18\\ 8&80&72\\ 18&72&90\end{pmatrix} $$
    で、$\det T=26(80\cdot90-72^2)-8(8\cdot90-72\cdot18)+18(8\cdot72-80\cdot18)=26\cdot2016-8\cdot(-576)+18\cdot(-864)=52416+4608-15552=41472$ である。$41472=288\cdot144$ なので $V=12$ である。直方体の体積 $36$ から、角を切り落とす 4 つの四面体(どれも直角をはさむ辺が $2,3,6$ で体積 $\dfrac16\cdot2\cdot3\cdot6=6$)を引いた $36-24=12$ と一致する。

thm-hcm-tetra も thm-hcm-gram2 と同じく頂点 $\mathrm A$ を特別扱いしている。三角形のときと同じように縁取ると、4 つの頂点を平等に扱う 5 次の行列式になる。

5 次の Cayley–Menger 行列式による体積の表示

四面体 $\mathrm{ABCD}$ について、$d_{\mathrm{XY}}=\mathrm{XY}^2$ と書くと
$$ \det\begin{pmatrix}0&1&1&1&1\\ 1&0&d_{\mathrm{AB}}&d_{\mathrm{AC}}&d_{\mathrm{AD}}\\ 1&d_{\mathrm{AB}}&0&d_{\mathrm{BC}}&d_{\mathrm{BD}}\\ 1&d_{\mathrm{AC}}&d_{\mathrm{BC}}&0&d_{\mathrm{CD}}\\ 1&d_{\mathrm{AD}}&d_{\mathrm{BD}}&d_{\mathrm{CD}}&0\end{pmatrix}=288\,V^2 $$
が成り立つ。

三角形のときと同じ段取りで次数を下げる

方針:prf-hcm-cm3 と同じく、頂点 $\mathrm A$ の行と列を引いて $0$ を作り、2 回展開する。残る 3 次の行列が $-T$ になることを確かめる。
段 1(行と列を引く)。第 $3,4,5$ 行から第 $2$ 行を引き、次に第 $3,4,5$ 列から第 $2$ 列を引く(行列式は変わらない)。第 $1$ 行は $(0,1,0,0,0)$ になる。$\mathrm B,\mathrm C$ に対応する成分を例にとると、第 $3$ 行第 $4$ 列は $d_{\mathrm{BC}}-d_{\mathrm{AC}}-d_{\mathrm{AB}}$、第 $3$ 行第 $3$ 列は $0-d_{\mathrm{AB}}-d_{\mathrm{AB}}=-2d_{\mathrm{AB}}$ になる。ほかの成分も同じで、右下の 3 行 3 列の部分は、$T$ の成分をすべて $-1$ 倍した行列 $-T$ になる。第 $1$ 列は上から $0,1,0,0,0$ である。
段 2(2 回展開する)。prf-hcm-cm3 の段 3・段 4 と同じく、第 $1$ 行で展開すると符号 $(-1)^{1+2}=-1$ が付き、次に第 $1$ 列で展開すると $\det(-T)$ が残る。よってもとの行列式は $-\det(-T)$ である。
段 3(符号)。$-T$ は $T$ の 3 つの行をそれぞれ $-1$ 倍したものなので、rem-hcm-det-facts の 3 により $\det(-T)=(-1)^3\det T=-\det T$ である。よってもとの行列式は $\det T=288V^2$ である(thm-hcm-tetra)。$\square$

三角形の場合(thm-hcm-cm3)は、残る 2 次の行列が thm-hcm-gram2 の行列の $-1$ 倍で、2 つの行を $-1$ 倍しても行列式は $(-1)^2=1$ 倍にしかならないので、展開で付いた符号 $-1$ がそのまま残った。四面体では残る行列が 3 次で、$(-1)^3=-1$ が展開の符号と打ち消し合う。三角形では $-16S^2$、四面体では $+288V^2$ と符号が違うのはこのためである。

例と反例

外した仮定崩れる主張ボックス
3 つの長さが三角不等式を満たす$16S^2$(thm-hcm-gram2 の行列式)が正で、面積が求まるex-hcm-cx-triangle
6 本の長さが四面体の辺である(4 つの面が三角形になるだけにする)$\det T=288V^2\ge0$ex-hcm-cx-faces
4 点が同じ平面の上にない$\det T>0$ex-hcm-cx-flat
反例:三角形にならない 3 つの長さ
  1. 長さ $1,2,4$($a=4$、$b=2$、$c=1$):$b^2+c^2-a^2=4+1-16=-11$ で、thm-hcm-gram2 の行列式は $\det\begin{pmatrix}2&-11\\ -11&8\end{pmatrix}=16-121=-105<0$ である。$16S^2$ が負になる実数 $S$ はない。$1+2<4$ で三角不等式が崩れていて、三角形はできない。
  2. 長さ $1,2,3$($a=3$、$b=2$、$c=1$):行列式は $\det\begin{pmatrix}2&-4\\ -4&8\end{pmatrix}=16-16=0$ である。$1+2=3$ で 3 点は一直線上に並び、面積 $0$ の「つぶれた三角形」になる。
    どちらも 三角形の面積の公式 の反例「三角形にならない 3 つの長さ」と同じ値($-105$ と $0$)である。
反例:どの面も三角形なのに四面体ができない

$\mathrm{AB}=\mathrm{AC}=\mathrm{BD}=\mathrm{CD}=2$、$\mathrm{AD}=\mathrm{BC}=3$ とする。4 つの面 $\mathrm{ABC}$、$\mathrm{ABD}$、$\mathrm{ACD}$、$\mathrm{BCD}$ の辺はどれも $2,2,3$ で、$3<2+2$ なので、どの面も三角形としては存在する。thm-hcm-tetra の行列を作ると、非対角成分は $4+4-9=-1$、$4+9-4=9$、$4+9-4=9$ で
$$ T=\begin{pmatrix}8&-1&9\\ -1&8&9\\ 9&9&18\end{pmatrix},\qquad \det T=8(144-81)+1\cdot(-18-81)+9(-9-72)=504-99-729=-324 $$
である。もしこの 6 本の長さの四面体があれば、thm-hcm-tetra により $\det T=288V^2\ge0$ となるはずなので、そのような四面体はない。
図 3 の右は、辺 $2,2,3$ の三角形 4 枚を並べた展開図(辺 $4,4,6$ の三角形を中点で 4 つに分けたもの)である。紙で作って折ろうとしても、頂点が集まらない。頂点 $\mathrm A$ に集まる 3 つの角を余弦定理で求めると、$\cos\angle\mathrm{BAC}=\dfrac{4+4-9}{8}=-\dfrac18$、$\cos\angle\mathrm{BAD}=\cos\angle\mathrm{CAD}=\dfrac{4+9-4}{12}=\dfrac34$ で、$\angle\mathrm{BAC}$ は約 $97.2^\circ$、残りの 2 つは約 $41.4^\circ$ ずつである。直観的には、$\angle\mathrm{BAD}+\angle\mathrm{CAD}$(約 $82.8^\circ$)が $\angle\mathrm{BAC}$ より小さいので、2 枚の面を折り上げても辺 $\mathrm{AB}$ と $\mathrm{AC}$ の間をふさげない。行列式の符号は、この様子を計算で判定している。
満たす性質:4 つの面それぞれの三角不等式。満たさない性質:6 本の長さがすべて同時に空間の 4 点の間の距離になること。崩れる主張:$\det T=288V^2\ge0$。

左は 3 × 4 の長方形の 4 頂点(6 つの距離は 3, 4, 5 が 2 本ずつ)で、det T = 0。右は辺 2, 2, 3 の三角形 4 枚の展開図で、det T < 0 となり四面体に組み立てられない 左は 3 × 4 の長方形の 4 頂点(6 つの距離は 3, 4, 5 が 2 本ずつ)で、det T = 0。右は辺 2, 2, 3 の三角形 4 枚の展開図で、det T < 0 となり四面体に組み立てられない

反例:4 点が同じ平面の上にある

長方形 $\mathrm{ABCD}$ の頂点 $\mathrm A(0,0)$、$\mathrm B(3,0)$、$\mathrm C(3,4)$、$\mathrm D(0,4)$ をとる(図 3 の左)。$\mathrm{AB}=\mathrm{CD}=3$、$\mathrm{AD}=\mathrm{BC}=4$、$\mathrm{AC}=\mathrm{BD}=5$ で、4 つの「面」$\mathrm{ABC}$、$\mathrm{ABD}$、$\mathrm{ACD}$、$\mathrm{BCD}$ はどれも辺 $3,4,5$ の直角三角形である。
$$ T=\begin{pmatrix}18&9+25-16&9+16-25\\ 18&50&25+16-9\\ 0&32&32\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}18&18&0\\ 18&50&32\\ 0&32&32\end{pmatrix} $$
で、$\det T=18(50\cdot32-32\cdot32)-18(18\cdot32-0)+0=18\cdot576-18\cdot576=0$ である。4 点が同じ平面の上にあるので lem-hcm-height の仮定が崩れ、行列式は正にならず、高さ $0$、体積 $0$ にあたる値 $0$ になっている。辺の長さの組は ex-hcm-cx-faces と同じく向かい合う辺が等しい形で、4 つの面が合同である。面が辺 $2,2,3$ の鈍角三角形だと ex-hcm-cx-faces のように行列式は負、辺 $\sqrt{13},\sqrt{40},\sqrt{45}$ の鋭角三角形だと ex-hcm-tetra の 3 のように正で、直角三角形のこの例はちょうど境目にあたる。

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高い次元の単体

$n$ 次元の空間の $n+1$ 個の点がつくる図形($n=1$ なら線分、$n=2$ なら三角形、$n=3$ なら四面体)を 単体 という。prf-hcm-cm3・prf-hcm-cm4 と同じ行と列の引き算で、$n+2$ 次の Cayley–Menger 行列式は $(-1)^{n+1}\cdot2^n\cdot$($n$ 次の Gram 行列式)に等しい。Gram 行列式は、lem-hcm-height と同じ考え方で「底の単体の Gram 行列式 × 高さの 2 乗」と次元を 1 つずつ下げていくと $(n!\,V_n)^2$ になる($V_n$ は単体の $n$ 次元の体積)。まとめると
$$ V_n^{\,2}=\frac{(-1)^{n+1}}{2^n\,(n!)^2}\det(\text{Cayley–Menger 行列}) $$
である(MWCM。この記事で証明したのは $n=2,3$ の場合だけである)。$n=2$ では係数が $-\dfrac1{16}$、$n=3$ では $\dfrac1{288}$ で、thm-hcm-cm3・cor-hcm-cm4 と一致する。$n=1$ では、2 点の距離を $\ell$ とすると $\det\begin{pmatrix}0&1&1\\ 1&0&\ell^2\\ 1&\ell^2&0\end{pmatrix}=0-1\cdot(0-\ell^2)+1\cdot(\ell^2-0)=2\ell^2$ で、係数 $\dfrac12$ を掛けて $V_1^{\,2}=\ell^2$ となる。

座標の行列式から出す方法

四面体の体積と行列式 では、$\vec u,\vec v,\vec w$ の成分を並べた 3 次の行列 $M$ を使って $V=\dfrac16\lvert\det M\rvert$ を示す。lem-hcm-height の行列(内積を並べた行列)は、$M$ の転置行列と $M$ の積である。行列の積の行列式は行列式の積で、転置しても行列式は変わらないので(Bee15 Section PDM の Theorem DRMM、Section DM の Theorem DT)、内積の行列の行列式は $(\det M)^2=36V^2$ となる。これが thm-hcm-tetra のもう 1 つの証明である。この記事の証明は、座標も行列の積も使わず、高さと内積だけで同じ結論に達している。

距離の表から点の配置へ

Cayley–Menger 行列式は、「与えられた距離の表が、実際の点の配置から来るか」を調べる道具になる。点どうしの距離だけを使って図形を調べる分野を 距離幾何 という。

  • 3 つの長さが三角形をつくるかは、thm-hcm-cm3 の行列式の符号で分かる(ex-hcm-cx-triangle)。
  • 6 本の長さが四面体をつくるかには、4 つの面の条件だけでは足りない(ex-hcm-cx-faces)。どんな条件なら十分かは 四面体の成立条件 の主題である。
  • 平面の上の 4 点では四面体の体積が $0$ なので、5 次の Cayley–Menger 行列式が $0$ になる。3 点が一直線上にある場合、この関係は Stewartの定理 の等式になる。

さらに先へ

  • 円に内接する四角形の面積を 4 辺で表す Brahmaguptaの公式 は、Heron の公式を四角形に広げたものである。1 辺の長さを $0$ にすると Heron の公式に戻る。
  • 四面体の体積を頂点の座標で表す式と、符号つき体積は 四面体の体積と行列式 で扱う。四面体の高さ・二面角などの計量は 空間図形の計量 にある。
  • 行列式の一般的な性質(どの行でも展開できること、行の足し引きで変わらないこと、積の行列式)の証明は、用語解説 行列式 や線形代数の教科書(Bee15)にある。

関連項目

参考文献

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