Jacobson根基(Jacobson radical)とは、可換環 $A$ のすべての極大イデアルの共通部分 $\operatorname{Jac}(A)$ である。$x\in\operatorname{Jac}(A)$ は、任意の $y\in A$ について $1-xy$ が単元であることと同値であり、$\operatorname{Jac}(A)$ は $1+I$ が単元ばかりからなるイデアル $I$ のうち最大のものである。局所環では唯一の極大イデアルに一致する。冪零根基を含むが、$\mathbb{Z}_{(p)}$ や $k[\![t]\!]$ のように冪零根基より真に大きいこともある。$\operatorname{Jac}(A)$ に含まれるイデアル $I$ と有限生成加群 $M$ について $IM=M$ なら $M=0$ という Nakayama の補題が成り立つ。
前提知識: 可換環, イデアル, 極大イデアル, 単元
Jacobson根基は、可換環のすべての極大イデアルの共通部分である。元 $x$ が Jacobson根基に属することは「任意の $y$ について $1-xy$ が単元である」という単元の言葉で言い換えられ、この性質のおかげで、Jacobson根基に含まれるイデアルで割っても単元かどうかの判定や、有限生成加群が $0$ かどうかの判定(Nakayamaの補題)が変わらない。局所環では Jacobson根基は唯一の極大イデアルそのものであり、一般の可換環では冪零根基を含むが、それより真に大きいことがある。
本記事の環はすべて単位元 $1$ をもつ可換環とする。可換環 $A$ の元 $a$ が単元であるとは $ab=1$ となる $b\in A$ が存在することで、単元の全体を $A^\times$ と書く。イデアル $I$ が真のイデアルであるとは $I\neq A$ のことで、これは $I$ が単元を含まないことと同値である。極大イデアルとは、真のイデアル $\mathfrak{m}$ で、$\mathfrak{m}\subsetneq I$ となるイデアル $I$ が $A$ 以外にないものをいう。以下で何度も使う事実として、真のイデアルは必ずある極大イデアルに含まれ、したがって単元でない元はある極大イデアルに属する(極大イデアル の記事の定理「真イデアルを含む極大イデアルの存在」と系「単元と極大イデアル」。証明に Zornの補題 を使う)。
可換環 $A$ のすべての極大イデアルの共通部分
$$
\operatorname{Jac}(A):=\bigcap_{\mathfrak{m}\text{ は }A\text{ の極大イデアル}}\mathfrak{m}
$$
を $A$ の Jacobson根基(Jacobson radical)という。$J(A)$、$\operatorname{rad}(A)$ とも書く。
イデアルの共通部分はイデアルなので、$\operatorname{Jac}(A)$ は $A$ のイデアルである。$A\neq0$ なら極大イデアルが少なくとも 1 つ存在し、$\operatorname{Jac}(A)$ はそれに含まれるので真のイデアルであり、$1\notin\operatorname{Jac}(A)$ である。零環 $A=\{0\}$ は極大イデアルをもたないので、上の共通部分は空な族の共通部分となり、$A$ の部分集合の共通部分としての慣習に従って $\operatorname{Jac}(\{0\})=\{0\}=A$ と約束する。以下の主張はこの約束のもとで零環についても成り立つ(零環では $0=1$ が単元である)。
非可換環に対しては、極大左イデアルすべての共通部分として Jacobson根基を定める。これは極大右イデアルすべての共通部分とも一致する両側イデアルであり、可換環では上の定義に戻る(Lam01 Chapter 2, §4)。本記事では可換環だけを扱う。
極大イデアル $\mathfrak{m}$ は、剰余体 $A/\mathfrak{m}$ への準同型 $A\to A/\mathfrak{m}$ の核であり、幾何学的には Zariski位相 の閉点、すなわち「点」に当たる。$A$ の元を各点での「値」$a\bmod\mathfrak{m}$ をもつ関数とみなすと、$\operatorname{Jac}(A)$ は「すべての点で値が $0$ になる関数」の全体である。すべての点で値が $0$ なら、$1-xy$ はすべての点で値 $1$ をもち、どの点でも消えないので可逆になる。これが prop-jacobson-radical-units の内容である。値がすべて $0$ であっても元自身が $0$ や冪零とは限らない点が、冪零根基との違いである(ex-jacobson-radical-local-z-p)。
$A$ を可換環、$x\in A$ とする。次の 3 条件は同値である。
$A=\{0\}$ のときは、$\operatorname{Jac}(A)=A$ であり、$A$ のただ 1 つの元 $0=1$ は単元なので、すべての主張は自明に成り立つ。以下 $A\neq0$ とする。
(1 $\Rightarrow$ 2)$x\in\operatorname{Jac}(A)$、$y\in A$ とし、$1-xy$ が単元でないと仮定する。単元でない元はある極大イデアル $\mathfrak{m}$ に属するので $1-xy\in\mathfrak{m}$ である。一方 $x\in\operatorname{Jac}(A)\subset\mathfrak{m}$ より $xy\in\mathfrak{m}$ であり、$1=(1-xy)+xy\in\mathfrak{m}$ となって $\mathfrak{m}$ が真のイデアルであることに反する。よって $1-xy$ は単元である。
(2 $\Rightarrow$ 1)2 を仮定し、$x\notin\operatorname{Jac}(A)$ と仮定して矛盾を導く。$x\notin\mathfrak{m}$ となる極大イデアル $\mathfrak{m}$ がある。イデアル $\mathfrak{m}+xA$ は $\mathfrak{m}$ を真に含むので、$\mathfrak{m}$ の極大性から $\mathfrak{m}+xA=A$ である。よって $1=u+xy$ となる $u\in\mathfrak{m}$、$y\in A$ がとれる。すると $1-xy=u\in\mathfrak{m}$ であり、真のイデアルの元 $u$ は単元でないので、2 に反する。
(2 $\Leftrightarrow$ 3)$y$ が $A$ 全体を動くとき $-y$ も $A$ 全体を動き、$1+xy=1-x(-y)$ である。
後半を示す。$I\subset\operatorname{Jac}(A)$ なら、$a\in I$ に対して 3 を $x=a$、$y=1$ に適用して $1+a$ は単元であり、$1+I\subset A^\times$ である。逆に $1+I\subset A^\times$ とし、$x\in I$ をとる。任意の $y\in A$ について $xy\in I$ ($I$ はイデアル)なので $1+xy\in1+I\subset A^\times$ であり、3 により $x\in\operatorname{Jac}(A)$ である。よって $I\subset\operatorname{Jac}(A)$ である。$\operatorname{Jac}(A)$ 自身はイデアルであり、いま示したことから $1+\operatorname{Jac}(A)\subset A^\times$ を満たすので、それが最大である。
条件 2 で $y=1$ だけを要求したもの、すなわち「$1-x$ が単元」は $x\in\operatorname{Jac}(A)$ より弱い。たとえば $\mathbb{Z}$ で $x=2$ とすると $1-2=-1$ は単元だが、$1-2\cdot2=-3$ は単元でなく、$2\notin\operatorname{Jac}(\mathbb{Z})=\{0\}$ である(ex-jacobson-radical-integers)。条件 2 が「すべての $y$」について要求されているのは、$x$ の倍元 $xy$ 全体、すなわち単項イデアル $xA$ 全体について $1+xA\subset A^\times$ を求めるためである。
この特徴づけから、Jacobson根基に含まれるイデアルで割っても単元かどうかは変わらないことが分かる。
$A$ を可換環、$I\subset\operatorname{Jac}(A)$ をイデアルとし、$\pi\colon A\to A/I$ を標準的な全射とする。$a\in A$ が単元であることと、$\pi(a)$ が $A/I$ の単元であることは同値である。
環準同型は単元を単元に送るので、$a$ が単元なら $\pi(a)$ も単元である。逆に $\pi(a)\pi(b)=1$ となる $b\in A$ があるとすると、$ab-1\in I$ であり、$ab=1+c$($c\in I$)と書ける。prop-jacobson-radical-units の後半により $1+c$ は単元なので、$a\cdot\bigl(b(1+c)^{-1}\bigr)=1$ となり、$a$ は単元である。
$I\not\subset\operatorname{Jac}(A)$ のときはこの判定が破れる。$A=\mathbb{Z}$、$I=3\mathbb{Z}$ とすると $\pi(2)$ は $\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ の単元($2\cdot2=4\equiv1$)だが、$2$ は $\mathbb{Z}$ の単元でない。
体 $K$ の極大イデアルは $\{0\}$ だけなので $\operatorname{Jac}(K)=\{0\}$ である。局所環 $(A,\mathfrak{m})$ では極大イデアルが $\mathfrak{m}$ ただ 1 つなので $\operatorname{Jac}(A)=\mathfrak{m}$ である。逆に、零環でない可換環 $A$ の Jacobson根基が極大イデアルであれば $A$ は局所環である。実際、任意の極大イデアル $\mathfrak{m}$ は $\operatorname{Jac}(A)\subset\mathfrak{m}\subsetneq A$ を満たし、$\operatorname{Jac}(A)$ の極大性から $\mathfrak{m}=\operatorname{Jac}(A)$ となる。この場合 prop-jacobson-radical-units は、局所環 の記事の命題「局所環の特徴づけ」の条件 3($1+\mathfrak{m}$ の元はすべて単元)にあたる。
整数環 $\mathbb{Z}$ の極大イデアルは、素数 $p$ の生成する $p\mathbb{Z}$ である($\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ が体であるから極大であり、$\mathbb{Z}$ の $0$ でない素イデアルがこれらに限ることは 素イデアル の記事の定理「整数環と体上の多項式環の素イデアル」による。ここでは $p\mathbb{Z}$ が極大であることだけを使う)。$0$ でない整数 $n$ の素因数は有限個であり、素数は無限個あるので、$p\nmid n$ となる素数 $p$ があり、$n\notin p\mathbb{Z}$ である。よって
$$
\operatorname{Jac}(\mathbb{Z})=\bigcap_{p}p\mathbb{Z}=\{0\}
$$
である。
$k$ を体とし、多項式環 $k[x]$ を考える。既約多項式 $f$ の生成する $(f)$ は極大イデアルである(極大イデアル の記事の例「一変数多項式環の極大イデアル」)。モニックな既約多項式は無限個ある。実際、有限個 $f_1,\dots,f_r$ しかなければ、$g:=f_1f_2\cdots f_r+1$ は次数 $1$ 以上なのである既約多項式で割り切れるが、どの $f_i$ で割っても余りは $1$ なので矛盾する。$0$ でない多項式の既約因子は有限個なので、$\mathbb{Z}$ と同じ議論で $\operatorname{Jac}(k[x])=\{0\}$ である。
$n\geq2$ を整数とし、$n=p_1^{e_1}\cdots p_r^{e_r}$($p_i$ は相異なる素数、$e_i\geq1$)と素因数分解する。$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ のイデアルは $n\mathbb{Z}$ を含む $\mathbb{Z}$ のイデアル $d\mathbb{Z}$($d\mid n$)に対応し(剰余環 の記事の定理「イデアルの対応定理」)、$(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})/(d\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}/d\mathbb{Z}$ が体になるのは $d$ が素数のときである。よって $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の極大イデアルは $p_i\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$($i=1,\dots,r$)であり、整数 $a$ の類 $\bar a$ について
$$
\bar a\in\operatorname{Jac}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})\iff\text{すべての }i\text{ で }p_i\mid a\iff p_1p_2\cdots p_r\mid a
$$
である。すなわち $\operatorname{Jac}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$ は $\rho:=p_1\cdots p_r$ の類が生成するイデアル $(\bar\rho)$ である。たとえば $n=12$ なら $\rho=6$ で、$\operatorname{Jac}(\mathbb{Z}/12\mathbb{Z})=\{\bar0,\bar6\}$ である。
この場合 $\operatorname{Jac}$ は冪零元(冪零元)の全体に一致する。実際、$\bar a$ が冪零、すなわちある $k\geq1$ で $n\mid a^k$ なら、各 $p_i$ は $a^k$ を割り切るので $a$ を割り切る。逆に $\rho\mid a$ なら、$e:=\max_ie_i$ として $n\mid\rho^e\mid a^e$ なので $\bar a^e=0$ である。$n=p^e$(素数冪)なら極大イデアルは 1 つで、$\mathbb{Z}/p^e\mathbb{Z}$ は Jacobson根基 $(\bar p)$ をもつ局所環である。
$p$ を素数とし、分母が $p$ で割り切れない有理数の全体 $\mathbb{Z}_{(p)}=\{a/b\mid a,b\in\mathbb{Z},\ p\nmid b\}$ を考える。これは $p\mathbb{Z}_{(p)}$ を唯一の極大イデアルとする局所環である(局所環 の記事の例「素数での局所化 $\mathbb{Z}_{(p)}$」)。したがって ex-jacobson-radical-local-ring により
$$
\operatorname{Jac}(\mathbb{Z}_{(p)})=p\mathbb{Z}_{(p)}\neq\{0\}
$$
である。一方 $\mathbb{Z}_{(p)}$ は体 $\mathbb{Q}$ の部分環なので整域であり、$0$ でない冪零元をもたない。よって冪零根基 $\operatorname{nil}(\mathbb{Z}_{(p)})$(冪零元の全体)は $\{0\}$ である。たとえば $p\in\operatorname{Jac}(\mathbb{Z}_{(p)})$ であり、実際どの $y=c/d\in\mathbb{Z}_{(p)}$ についても $1-py=(d-pc)/d$ の分子 $d-pc$ は $p$ で割り切れないので $1-py$ は単元であるが、$p$ は冪零でない。
この反例が満たす性質は「$x\in\operatorname{Jac}(A)$」、満たさない性質は「$x$ は冪零」であり、破る含意は「Jacobson根基の元は冪零である」、すなわち「$\operatorname{Jac}(A)=\operatorname{nil}(A)$」である。同じ理由で、体 $k$ 上の形式的冪級数環 $k[\![t]\!]$ も $\operatorname{Jac}=(t)$、$\operatorname{nil}=\{0\}$ である(可換環 の記事の注意「Jacobson根基との比較」)。
$X$ を位相空間とし、$X$ 上の実数値連続関数の全体 $C(X)$ を各点ごとの和と積で可換環とみなす。各点 $x\in X$ について、値をとる写像 $C(X)\to\mathbb{R}$、$f\mapsto f(x)$ は全射の環準同型(定数関数が値 $c\in\mathbb{R}$ をとる)なので、その核 $\mathfrak{m}_x:=\{f\mid f(x)=0\}$ は剰余環が体 $\mathbb{R}$ になり、極大イデアルである。$f\in\operatorname{Jac}(C(X))$ なら、すべての $x$ で $f\in\mathfrak{m}_x$、すなわち $f(x)=0$ なので $f=0$ である。よって $\operatorname{Jac}(C(X))=\{0\}$ である。$X$ がコンパクト(コンパクト空間)な Hausdorff空間 なら極大イデアルは $\mathfrak{m}_x$ に限る(極大イデアル の記事の命題「閉区間上の連続関数環の極大イデアル」とその後の注意)が、上の計算にはこの事実は要らない。直感の節で述べた「すべての点で値が $0$ の関数」という見方が、ここでは文字どおりに成り立っている。
可換環 $A$ の冪零元の全体を $A$ の冪零根基といい、$\operatorname{nil}(A)$ と書く。これはイデアルであり、すべての素イデアルの共通部分に等しい(可換環 の記事の命題「冪零根基はイデアル」と定理「冪零根基は素イデアルの共通部分」)。極大イデアルは素イデアルなので、そこから $\operatorname{nil}(A)\subset\operatorname{Jac}(A)$ が従うが、この包含は Zorn の補題を使わずに直接示せる。
可換環 $A$ について $\operatorname{nil}(A)\subset\operatorname{Jac}(A)$ である。
$x$ を冪零元とし、$x^m=0$($m\geq1$)とする。任意の $y\in A$ について、可換性から $(xy)^m=x^my^m=0$ なので $xy$ も冪零であり、
$$
(1-xy)\bigl(1+xy+(xy)^2+\cdots+(xy)^{m-1}\bigr)=1-(xy)^m=1
$$
により $1-xy$ は単元である(単元 の記事の命題「冪零元と単元」)。prop-jacobson-radical-units の条件 2 により $x\in\operatorname{Jac}(A)$ である。
包含が等号になるかどうかは環による。ex-jacobson-radical-z-mod-n の $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ やex-jacobson-radical-integers の $\mathbb{Z}$、$k[x]$ では等号が成り立ち、ex-jacobson-radical-local-z-p の $\mathbb{Z}_{(p)}$ や $k[\![t]\!]$ では成り立たない。一般に、どの素イデアルも極大イデアルの共通部分として書ける環を Jacobson環 といい、Jacobson環では $\operatorname{Jac}(A)=\operatorname{nil}(A)$ である($\operatorname{nil}(A)$ はすべての素イデアルの共通部分であり、各素イデアルが極大イデアルの共通部分なので)。体上有限生成の可換環は Jacobson環であり、これは Hilbertの零点定理 と同等の内容である(Mat86 §5)。多項式環についてはつねに $\operatorname{Jac}(A[x])=\operatorname{nil}(A[x])$ が成り立つ。実際 $f\in\operatorname{Jac}(A[x])$ なら $1+xf$ は単元であり、$A[x]$ の単元は定数項が単元で他の係数が冪零な多項式に限る(単元 の記事の注意「一般の可換環上の多項式の単元」)ので、$f$ の係数はすべて冪零になり、$f$ は冪零である(AM69 Chapter 1 の演習)。体でない局所整域($\mathbb{Z}_{(p)}$、$k[\![t]\!]$ など)は $\operatorname{Jac}=\mathfrak{m}\neq\{0\}=\operatorname{nil}$ となる典型であり、Jacobson環でない($\mathbb{Z}_{(p)}$ では素イデアル $(0)$ を含む極大イデアルは $p\mathbb{Z}_{(p)}$ だけで、その共通部分は $(0)$ に等しくない)。一方、局所環でも $\mathbb{Z}/p^e\mathbb{Z}$ のように極大イデアルが冪零元ばかりからなれば等号が成り立つ(ex-jacobson-radical-z-mod-n)。
幾何学的には、Zariski位相 を入れた $\operatorname{Spec}A$ において、$V(\operatorname{Jac}(A))$ は閉点(極大イデアル)全体の集合の閉包であり(Zariski位相 の記事の命題「イデアルと閉集合の対応」の閉包の公式)、$V(\operatorname{nil}(A))=\operatorname{Spec}A$ である。両者の違いは「閉点が $\operatorname{Spec}A$ の中で稠密かどうか」の違いとして現れる。$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(p)}$ は 2 点 $\{(0),(p)\}$ からなり、閉点 $(p)$ の閉包は $\{(p)\}$ で全体に一致しない。
$A$、$B$ を可換環とする。
1 で $I\subset\operatorname{Jac}(A)$ の仮定は外せない。$A=\mathbb{Z}$、$I=4\mathbb{Z}$ とすると、$\operatorname{Jac}(\mathbb{Z})=\{0\}$ の $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ での像は $\{\bar0\}$ だが、$\operatorname{Jac}(\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})=(\bar2)\neq\{\bar0\}$ である(ex-jacobson-radical-z-mod-n)。$I$ を含まない極大イデアル(ここでは $p\neq2$ の $p\mathbb{Z}$)が剰余環では消えるので、剰余環の Jacobson根基は $\operatorname{Jac}(A)$ の像より大きくなりうる。2 と ex-jacobson-radical-local-ring から、たとえば $\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$(中国剰余定理)の Jacobson根基は $(\bar2)\times\{0\}$ であり、これは ex-jacobson-radical-z-mod-n の $\{\bar0,\bar6\}$ に対応する。極大イデアルが有限個 $\mathfrak{m}_1,\dots,\mathfrak{m}_r$ しかない半局所環 $A$ では、中国剰余定理により $A/\operatorname{Jac}(A)\cong A/\mathfrak{m}_1\times\cdots\times A/\mathfrak{m}_r$ は体の直積になる(AM69 Chapter 1。相異なる極大イデアルは互いに素であり、イデアル の記事の命題「互いに素なイデアルの積と共通部分」が使える)。
Jacobson根基が最もよく使われるのは、有限生成加群についての次の補題である。$A$-加群 $M$ とイデアル $I$ に対し、$IM$ は有限和 $\sum_ia_im_i$($a_i\in I$、$m_i\in M$)の全体がなす $M$ の部分加群を表す。$M$ が有限生成であるとは、有限個の元 $u_1,\dots,u_n$ で $M=Au_1+\cdots+Au_n$ となるものがあることをいう。
$A$ を可換環、$I\subset\operatorname{Jac}(A)$ をイデアル、$M$ を有限生成 $A$-加群とする。$IM=M$ ならば $M=0$ である。
$M\neq0$ と仮定して矛盾を導く。$M$ は有限生成なので、$M$ を生成する元の個数には最小値 $n$ があり、$M\neq0$ から $n\geq1$ である。$M=Au_1+\cdots+Au_n$ とする。$u_n\in M=IM$ なので、$u_n=\sum_kb_km_k$($b_k\in I$、$m_k\in M$)と書け、各 $m_k$ を $u_1,\dots,u_n$ の $A$ 係数の一次結合で書いて整理すれば
$$
u_n=a_1u_1+\cdots+a_nu_n\qquad(a_1,\dots,a_n\in I)
$$
となる。よって $(1-a_n)u_n=a_1u_1+\cdots+a_{n-1}u_{n-1}$ である。$a_n\in I\subset\operatorname{Jac}(A)$ なので、prop-jacobson-radical-units により $1-a_n$ は単元である。両辺に $(1-a_n)^{-1}$ を掛けると $u_n\in Au_1+\cdots+Au_{n-1}$ となり($n=1$ なら右辺は $0$ で $u_1=0$)、$M$ は $n-1$ 個の元 $u_1,\dots,u_{n-1}$ で生成される。これは $n$ の最小性に反する。
局所環 の記事の命題「局所環上の Nakayama の補題」は、$A$ が局所環で $I=\mathfrak{m}=\operatorname{Jac}(A)$ の場合であり、そこでは行列式を使う別の証明が与えられている。同じ記事の系「生成元の判定」も、上の補題から同じ論法で一般化される:$N\subset M$ を部分加群とし $M=N+IM$ ならば、商加群 $M/N$ は有限生成で $I(M/N)=M/N$ を満たすので $M/N=0$、すなわち $N=M$ である。
$A=\mathbb{Z}$、$I=2\mathbb{Z}$、$M=\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ とする。$M$ は 1 つの元 $\bar1$ で生成される有限生成 $\mathbb{Z}$-加群であり、$2\cdot\bar2=\bar4=\bar1$ なので $\bar1\in IM$、よって $IM=M$ である。しかし $M\neq0$ である。この反例が満たす性質は「$M$ は有限生成で $IM=M$」、満たさない仮定は「$I\subset\operatorname{Jac}(A)$」($\operatorname{Jac}(\mathbb{Z})=\{0\}$、ex-jacobson-radical-integers)であり、この仮定を外すと結論「$M=0$」が破れる。
有限生成の仮定も外せない。$A=\mathbb{Z}_{(p)}$、$I=p\mathbb{Z}_{(p)}=\operatorname{Jac}(A)$(ex-jacobson-radical-local-z-p)、$M=\mathbb{Q}$ とすると、任意の $q\in\mathbb{Q}$ は $q=p\cdot(q/p)$ なので $IM=M$ であるが、$M\neq0$ である。$\mathbb{Q}$ は $\mathbb{Z}_{(p)}$-加群として有限生成でない。
非可換環 $R$ の Jacobson根基 $J(R)$ についても、$x\in J(R)$ であることは「任意の $y\in R$ について $1-yx$ が左逆元をもつ」ことと同値であり、Nakayama の補題も同じ形で成り立つ(Lam01 Chapter 2, §4)。$R$ が左 Artin環 なら $J(R)$ は冪零イデアル(ある $n$ で $J(R)^n=0$)であり、$R/J(R)$ は半単純環である。可換な Artin環では、これは「極大イデアルが有限個で、$\operatorname{Jac}(A)=\operatorname{nil}(A)$ が冪零」という形になる(AM69 Chapter 8)。Jacobson根基は、完備化(完備化)や Hensel の補題(Hensel局所環)の理論でも「そのイデアルに属する元は小さい」という役割を担い、$I\subset\operatorname{Jac}(A)$ という仮定が多くの定理に現れる。
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